怨霊の話   作:林屋まつり

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四十九話

 

 巫女さんの格好やら法被やら、

 十二単を着こんだペリーヌをお姫様みたいとみんなで賞賛し、法被を着たルッキーニとシャーリーはなぜかテンションをあげて辺りを駆け回る。

 巫女の格好をしたリーネは周りからいやらしいといわれてへこみ、袴をはいたミーナは女学生っすね、と言われて嬉しそうにする。

 なぜ嬉しそうなのかわからないと首を傾げるトゥルーデはエーリカに年齢を気にしてるんだよと言われて思わず納得。その後に青筋を浮かべたミーナに慌てて弁明。

 水干を着たトゥルーデは藻女から遊女の格好だと指摘されて顔を真っ赤にしながら慌てて着替え、これならえろくないと、巫女服を着こんだエーリカは胸を張る。

 それぞれ、思い思いの服を着て撮影。感想を言い合って楽しんで、……最後に、色とりどりの浴衣を着て部屋を出る。

 尊治と藻女にお礼を言って豊浦の部屋に戻った。

「やあ、楽しんでたみたいだね」

 部屋に戻ると酒呑と何か言葉を交わしていた豊浦。彼は「へえ」と、少し驚いたような声。

 ふと、芳佳は視線を落とす。白無垢ではなく、今は白を基調とした浴衣。いつもと違う格好。

「うん、みんなよく似合ってる。可愛いよ」

「そう、……ふふ、そういってくれると嬉しいわ」

 ミーナは上機嫌に笑う。トゥルーデも微笑んで「ちょっと、私には可愛らしすぎる気もするがな」

「バルクホルン君も女の子だからいいんじゃないのかな」

「そうか、そう言ってくれると嬉しいものだな」

 慣れていない。困ったように頬を掻くトゥルーデ。けど、悪い気はしない。自然、笑みが浮かぶ。

「ふふん、なんだ。そういうのは疎いと思ってたけど、ちゃんと見る目はあるんだな」

「……それはどうも、可愛いエイラ君」

 どや顔で胸を張るエイラに苦笑して応じる豊浦。

「さて、それじゃあ、四季の間も用意が出来たみたいだし、その格好のままでいいかな? 一緒に見に行こうか」

「四季の間? ……そういえばちょっと聞いた気もするけど、なんだそれ?」

 どこか、特に上等な部屋でも見せてくれるのだろうか? と、そんなシャーリーはそんな予想をしてみる。

 自分たちが借りている部屋もものすごくいい部屋。それ以上ともなれば、確かに一見の価値はある。

「んー、…………なんていうのかな。…………まあ、見てのお楽しみかな」

 酒呑は少し考え込み、そんな結論。シャーリーも「そうだな」と頷く。

「それじゃあ、僕は百鬼夜行の準備をしてるから。

 豊浦、場所はわかるでしょ? 案内してあげなよ」

「ん、了解」

「百鬼夜行?」

 これもまた聞きなれない単語、これも後のお楽しみにすればいいが、つい言葉が零れる。酒呑は笑う。

「異国にはないと思うよ。……そうそう、扶桑皇国特有の、楽しい楽しいお祭りだ。とても賑やかで、…………うん、すごく賑やかなお祭りだよ」

「お祭りか。それはちょうどよかったな」

 賑やかなお祭りはシャーリーも好きだ。それが見れる日程でここに泊まれたこと、幸運だと思う。

 けど、

「そういうわけじゃないよ。君たちが来たからね。……言わなかったっけ?」

 酒呑は、笑う。

「僕たち化外の魔物が、君たち英雄を歓迎しないわけがないじゃないか」

 

「さてと、四季の間はこっちだよ」

 豊浦の案内でウィッチたちは、その、四季の間、というところに向かう。見当もつかないし、あまり見当をつける気もないウィッチたちはそれぞれ勝手な予想を語り合う。

 貴人が使う超高級な部屋。あるいは、ものすごい工芸品が展示してあるのか。

 もしかしたら、襖や天井にいろいろな絵が描いてあるのかもしれない。美術とかよくわからん、と。零すシャーリーをペリーヌが鼻で笑って取っ組み合いになる。

 と、そんな賑やかな後ろは放っておいて、

「あの、豊浦さん」

「ん?」

 芳佳は隣を歩く豊浦に声をかける。けど、視線はそちらに向けず、逸らしたまま、

「私は、似合う?」

 白い浴衣を着た彼女は、そんな事を聞いてみた。

「ふむ、…………そうだね」

 じ、と視線を感じる。じ、と見られて恥ずかしいけど、聞いたのはこっち。期待と不安と少しの恥ずかしさをちょっとだけ我慢。

「そうだね。……うん、可愛いよ。

 芳佳君は生真面目な印象があるけど、今は清楚な感じだね。服装が違うから印象が少し変わったかな。芳佳君は童顔だからとても可愛いよ。もう数年したら可憐な女性になるだろうね」

「ふ、……あああ」

 思っていた以上に真面目に褒めてもらって、芳佳は頬を紅潮させてふるふる震える。微笑。ぽん、と頭を撫でられて、

「僕の評価なんて気にしなくても、芳佳君はとても魅力があるよ。一人の女の子としても、ね」

「…………そ、そういうんじゃ、ない、の」

「え?」

 他の人の評価はあまり気にしていない。自分のやる事、大切な事をやる。

 そのためなら、誰にどんな評価をつけられても構わない。階級なんて気にしない。…………けど、ほんのちょっとした、例外。

「気に、なるの。…………と、豊浦さんに、どう見られているか、……と、か」

「可愛い娘だよ。真面目なところも、一生懸命なところも、全部含めてね。

 だから、君は君のまま、そのまま、君の信念に誇れるように生きていきなさい。そうすればもっと魅力的な女性になるよ」

「そ、……そう、かな?」

「ん? 僕のいう事、信じてくれない?」

 意地悪く笑う豊浦に、芳佳はふるふると否定。

「そっか、よかった」

 彼の笑顔に芳佳は少し紅潮した笑みを返し、そのまま見つめ「あたっ?」

「なーにでれーってしてるの? とーよーうーらー」

 脇腹を打撃したエーリカがじとーとした目で豊浦を睨む。

「え、……えーと?」

「そ、そうですっ、よ、芳佳ちゃんをえっちな目で見たらだめですっ」

「なにっ? 豊浦、貴様っ! 宮藤に何をしたっ?」

「何もしてないよっ?」

 芳佳と豊浦の間に割り込むトゥルーデとリーネ。身に覚えのない嫌疑をかけられて豊浦は慌てて声を上げる。

「あ、あの、見、……見たいなら、……わ、私、を、」

 顔を赤くしてもじもじと提案するリーネ。応じるのはエーリカの冷めた視線。

「えろリーネは危ないからあっち行っててよ」

「なんか語呂いいなえろりーね」

 エイラはけらけら笑って応じ、「えろりーねっ!」とルッキーニが続く。

「それやめてくださーいっ!」

「えろりーねちゃん、危ないです。豊浦さん、離れてないと、だめ」

「サーニャさんっ?」

 すすす、と豊浦の手を取って引っ張り始めるサーニャ。リーネは意外なところからの攻撃におろおろする。

「え、えっちじゃないですっ、私、えっちじゃないですっ! 豊浦さんっ、私、えっちじゃないですからねっ」

「あ、うん」

 必死になって否定するリーネに豊浦はちょっと引きながら応じる。

「そうよっ! 豊浦さんっ! 宮藤さんはまだそういうのは早すぎるわっ!

 ウィッチとか、そういうの以前に、……そ、そういう事はまず清佳さんに相談をしてからよっ! それから、……え、ええ、私も話を聞かなければならないわねっ! ねっ! お姉ちゃんっ!」

「そう、…………お姉ちゃんではないっ! ああいや、話は聞かせてもらうが」

「え? 恋愛相談って、職場の上司にまでするんですの? ……ええ?」

 妙に力の籠ったミーナとトゥルーデにペリーヌは思わず引く。ミーナは重々しく頷く。

「いい、ペリーヌさん。私たちは、家族よ」

「そ、そうですわね? そうです。…………の? え? そういうものなんですの?」

 ミーナの、有無を言わせない力強い言葉にペリーヌは混乱。

 なぜか、いつの間にか大騒ぎになった。唖然とその様子を見ていると、ぽん、と肩を叩かれる。

「あ、シャーリーさん」

「楽な道じゃあないな。

 ま、私は誰の味方をするつもりはないけど、精々がんばれよ」

「あうっ、…………」

 告げられた言葉。その意味。それを察し、反射的に否定しようとして、…………「はい」

 頷いた。シャーリーは笑って「それじゃあ、ほら、あっち、行った方がいいんじゃないか?」

 いつの間にかサーニャとエーリカに両手を引っ張られる豊浦。行った方がいい、と。

「そう、だね」

 ぼんやりしてたら出遅れる。のんびりしてたら置いていかれる。……だから、

「私もっ」

 駆け出す。けど、「させるかーっ」と飛び出したエーリカが芳佳を撃墜。揃って転がりなぜかルッキーニが転がった二人に突撃。一緒に転がる。

「ああもうっ、せっかくの着物でそんなはしゃがないでくださいませっ」

 ペリーヌは慌てて三人を立ち上がらせようとして、「わ、私はこっち、です」と、エーリカが離した手をリーネがとる。

 そんな様子を見て、シャーリーは大笑い。……ほんと、

 それが、たとえ恋敵なんて言われる関係だったとしても、それでも、この仲間たちとならいつだって楽しく笑っていられる。

 それが嬉しくて、シャーリーは笑った。

 

「ええと、……ともかく、四季の間だよ」

 ここに来るまで、多くの事があった。シャーリーは移動だけで疲れていた。笑いすぎて疲れていた。

 他のウィッチたちもそれぞれの理由で軽い疲労。どうしてこうなったのか? 豊浦にはわからない。

 ともかく、四季の間、と書かれた部屋の襖を開ける。

「あれ? なにもないですわね?」

 意外そうにペリーヌが呟く。何の変哲もない、何もない、ただの、畳の部屋。

 強いて言えば、正面の壁に襖が四つ。

「四つ?」

「そうだよ。四季、四つの季節だね。春夏秋冬。この先が本当の四季の間なんだ。ここはまあ、……入口だね」

「ああ、そういう事ですの」

「扶桑皇国って、四季がはっきりしてるんだよね?」

 リーネが首を傾げて問いかける。確か、芳佳との話で聞いた事がある。

「うん、そうだね。……それじゃあ、どこから見てみる?」

「どこ、……って言われてもなあ」

 よくわからない。シャーリーは首を傾げて、

「夏っ! 夏がいいっ!」

 ルッキーニが両手をあげてアピール。みんなも特に異存はない。それでいいと頷く。

「そ、……じゃあ、行こうか」

 そういって、豊浦は襖を開けた。

 

「え?」

 サーニャは、不思議そうにあたりを見る。

 四季の間、そう呼ばれた部屋にいた。……いた、はずだった。

 

 天頂には満月、全天に輝く星。薄が揺れ、水辺には蛍が舞い、白く輝く花が儚く草原を飾る。

 夢のような、真夏の夜。

 

「…………す、……ごい」

 思わず、サーニャが呟く。夜、というのはナイトウィッチであるサーニャにとって慣れた時間。

 けど、……………………夜が美しい、そう感じたのはいつ以来だろう?

 夜景を見慣れているサーニャさえそうなのだ。他のウィッチたちは言葉さえ失ってその景色に見入る。

「気に入ってくれたかい?」

「はい、……え? けど、これは?」

 どういうこと? と、サーニャは首を傾げる。

「異界だよ。……んー、……欧州の人にとっては何て言えばいいのかな。

 ……………………そうだね。……魔物の領域、かな」

「魔物」

 改めてサーニャは辺りを見る。けど、そんなものはない。……ない、けど。

「そう、ですか」

 魔的な美しさ。……確かに、魔物の領域といわれれば納得できる。

「さて、エイラ君。

 どうかな? 写真」

「あ、……うんっ、そうだなっ」

 美しい風景、気に入った。

「じゃあ、サーニャっ、一緒に写真を撮ってもらおうなっ」

「うんっ」

 星空を背景に二人で写真。サーニャも嬉しそうに頷く。

「じゃあ、……そうだね。まずは二人きりの写真にしようか。

 もともとエイラ君のお願いだからね。そのくらいは融通してもいいよね」

 写真と聞いてさっそく突貫したルッキーニを抑えて豊浦。星空をバックに二人きりの写真。エイラは豊浦の手を取る。

「ありがとう、ありがとう豊浦っ」

「ああ、うん、どういたしまして。……はい、じゃあ、並んでー」

 浴衣姿のサーニャとエイラが並ぶ。横に並んで「ね、エイラ」

「え? あ、わっ?」

 サーニャはエイラの手を取る。肘を抱き締めて一歩横へ。ぴったりとエイラにくっつく。

「ふふ、……エイラ、こういうの、いや?」

「い、いい、いや、いやじゃあないぞっ、全然っ、大歓迎だっ」

「ん、よかった」

 腕を抱えて、一歩歩み寄ってくっついて、こてん、と。エイラの肩に頭を乗せる。

「は、はわわ、はわわわわ」

 いつになく積極的にくっついてくるサーニャにエイラはおろおろし始めた。シャーリーはひらひらと笑って、

「おーい、せっかくの記念撮影がかなり変な顔になるぞー」

「い、いえ、こ、これはこれでいいのではなくて? ええ、面白いですし?」

 くつくつと笑うペリーヌ。

「こらー、エイラーっ、せっかくサーニャがくっついてくれたんだ。

 抱きしめるくらいの甲斐性を見せろー」

「ふかっ?」

 エーリカのヤジに変な声を上げるエイラ。味方はいないか? と、視線を向けるとリーネと芳佳が顔を隠しながら中途半端に覗き見ている。こいつらはだめだ。

「エイラ、……いい、よ」

「そ、……そう、か。……じゃ、あ」

 そっと、少しずつエイラはサーニャを抱き寄せる。

「ふふ、……うん、ちょっと恥ずかしい。

 けど、エイラにだけ、……ね?」

「……うん」

 微かに頬を染めたサーニャに同じような表情のエイラ。……けど、

 それでも、大切な人と触れ合えるのは嬉しい。二人、微かな笑みを交わして、

 

 かしゃっ、と音。

 

「それじゃあ、次は冬にしようかな」

「冬? ……えー、寒いのやだー」

 寒いのは苦手、それに、今は浴衣という薄い一枚の服。余計寒そうでルッキーニは難しい表情。

「ん? じゃあ、ルッキーニ君はお留守番?」

 意地悪く問う豊浦、ルッキーニは頬を膨らませて「お兄ちゃんが行くなら行く」

「それじゃあ行こうか。それに大丈夫、寒くはないよ」

「そっかー、よかったー」

「ま、寒かったらくっついてれば問題ないなっ! 頼りにしてるぞ、豊浦っ」

 ぽんっ、と豊浦の肩を叩いてシャーリー。ルッキーニは「うんっ」と楽しそうに同意。

「こらこら、女の子がそういう事を言ってはいけないよ」

「豊浦は堅物だなー」「だなーっ」

 気楽に応じる二人に、豊浦は苦笑して襖を開けた。

 

 さらさらと、雪が降る。

 

「ここは、……広場、か?」

 雪に覆われた広場。先の間とは違い、木々もあり、橋もある。どちらかといえば、

「公園みたいだな」

 シャーリーがあたりを見渡して呟く。一定間隔に木が植えられた歩道がある。橋のかかる小川がある。少し離れたところには建物もある。広い、公園に見える。

「庭園って言った方が正確かな。

 それじゃあ、みんなでお散歩しようか」

 そういって豊浦は歩き出す。他のウィッチたちも興味津々と辺りを見渡しながら続く。

「さくさくーっ」

 で、雪景色を眺めるより足元の感覚が楽しいらしい。ルッキーニは楽しそうに雪を跳ね上げる。

「雪景色もいいね。……んー、空気が冷たくて気持ちいいや」

 エーリカは深呼吸して微笑む。寒さは感じない。けど、呼吸する大気の清涼な感覚は心地いい。

 さらさらと雪が降る。時折それを払いながら道を歩く。小川にかかる朱色の橋を渡り、中央の広場へ。

「散歩にはいいな、こういうところ」

 シャーリーは一つ伸びをして呟く。豊浦は「そうだね」と頷く。

「ただの散歩は好みじゃない?」

 いつも賑やかな彼女。退屈じゃないか? と、豊浦の問いにシャーリーは微笑み否定。

「いや、悪くないなこういうのも」

 雪景色。ほとんどが白に覆われた静かな庭園。

 そんなところを散歩するのも悪くない。気分的には浮き立ち心情的には落ち着く。矛盾した感覚も悪くはない。

「そっか、それならよかったよ」

 沈黙の景色。これも扶桑皇国の一面なのだろう。

 微笑む豊浦。……たとえ、彼がなんて思っていても、

「いいと、わぷっ?」

 言葉は、顔に叩き付けられた雪玉に消えた。「あー」と、苦笑する豊浦。

「にひひひー、シャーリー、お兄ちゃん独り占めしちゃだめだよー」

 咎めるというよりは明らかに楽しそうに笑うルッキーニ。彼女の足元には積み重ねた雪玉。

「ルッキーニー?」

 ずるずると顔面から雪が落ちる。その向こうには怒ったような表情のシャーリー。

 そして、

「…………まあ、こうなるよね」

 豊浦は苦笑。傍らにいるのはシャーリーではなくて、

「まあ、そうなるわよね」

 ミーナはくつくつと笑う。その先、盛大な雪合戦が始まっている。

「あーめが降っても気にしないー、やーりが降っても気にしないー

 のーろのろ雪玉なんてこわくなー、ぶわっ?」

 ひょいひょい回避していたエイラは想定外の高速弾をぶつけられて転ぶ。それを成した人。

「わっ、わっ、当たったっ!」

「リーネちゃん、凄いね。エイラに被弾させたなんて」

「うんっ」

「っていうか、こんなところで魔法を使うなーっ!」

 目を丸くするサーニャに褒められて嬉しそうなリーネ。その頭には猫の耳。

「射撃の魔法は、投擲にも有効でしたっ」

 固有魔法の有用性を確認したリーネは胸を張る。そして、

「シュトゥルムっ!」

 そんな彼女たちをまとめて雪まみれにする疾風の魔法。サーニャとリーネはその場で雪だるま。

「あはははっ、油断大敵だよっ!」

「サーニャっ、サーニャーっ!」

 呵々大笑するエーリカの横。エイラは必死にサーニャの発掘を始める。そして、そっちはそれでいいとして、

「さーて、次は、トゥルーデだっ!」

 再度の疾風、というよりは地吹雪。その向かう先、トゥルーデは不敵に笑う。

「舐めるなっ!」

 それなりに頑張って握り、固有魔法込みの全力投擲。疾風を突き破り雪玉はエーリカに直撃。

「ごふっ? ……そ、それは洒落にならない。……がく」

「ふ、固有魔法に慢心して回避を疎かにしたのは失敗だったな。ハルトマン」

 トゥルーデは格好良く笑い。「甘いな、リベリアンっ」

 回避。けど、「遅い遅いっ!」

 超加速。高速の挙動による連続投擲の雪玉。流石のトゥルーデも徐々にさばききれなくなって、

「あ、だっ? ぶはっ?」

 直撃。倒れた。「…………勝利とは、むなしいものだな」

 ふっ、と格好良く笑う。それから、にやー、と笑い。

「次は、そっちだーっ!」

 木に隠れてせっせと雪玉を作っていたペリーヌを発見。超加速、高速の挙動で投擲。ペリーヌはそっちに視線を向ける。

「トネールっ」

「なんとっ?」

 雷撃が雪玉を撃ち落とした。

「ふふん、甘いですわシャーリーさん。

 いくら雪玉を投げても当たらなければ意味がありませんわ」

「それは、回避していうべきじゃないか?」

 思わず真顔で告げるシャーリー。けど、ペリーヌは無視して「やっておしまいっ」

「ごめんなさいっ、シャーリーさんっ」

「って、宮藤っ?」

「おほほほっ、自分で手を下さずに仲間に任せる、これが頭のい「きゃー」ぎゃーっ?」

 どさっ、と。頭上の枝から落雪。ペリーヌは雪に埋もれた。

 木の枝から雪とともに落ちてきたルッキーニは埋没したペリーヌを見て、空を見上げる。

「シャーリー、……敵は取ったよ。安らかに眠って、ぼふっ?」

 雪の中から出てきた手に足首を取られ、倒れた。…………「賑やか、だね」

「雪合戦でなんであそこまで真剣になれるのよー」

 固有魔法を乱発しながら雪合戦に興じる仲間たち。ミーナは頭を抱えた。

「遊ぶことにも全力を尽くす。僕はそれでいいと思う」

「尽くしすぎよ」

「はは、けどいいんじゃないかな。子供は遊んだほうがいいよ」

 豊浦は優しく微笑む。楽しそうに遊ぶ孫娘を見るように優しく。

「…………そうね」

 あるいは、……ミーナははしゃぐ彼女たちを見て思う。これが、彼女たちのあるべき姿ではないか。

 銃をもって空を舞い戦うのではなく、地面を思い切り走り回り遊ぶ姿こそ、正しいのではないか。

「彼女たちには、戦場じゃなくてこういうところの方がいいのかもしれないわね」

 そんな悔恨が、ぽつり、言葉となって零れ落ちる。豊浦は俯くミーナを撫でて、

「それは彼女たちが決める事だから、僕が見てきたなりの意見だけどね。

 彼女たちの居場所は彼女たちが自分で決めればいいし、ちゃんと、それをしていると思うよ。……そ、ミーナ君と同じだね」

「……私、と?」

 問いに、豊浦は笑う。

「みんなと一緒にいるの、好きでしょ? それでいいんじゃないかな?

 どんなに楽しい遊び場だって大好きな友達がいないとつまらないし、どんなに過酷な戦場でも大切な仲間となら乗り越えられる。……それでいいんじゃないのかな?」

 それは、自分と同じ、……そして、

 そして、家族、と皆嬉しそうに肯定してくれた。だから、

「…………そうね」

 頷く。解っていたこと、……つい、不安になってしまった思い。

 それを払拭してくれた彼に笑みを向ける。……向けようとして「わぷっ?」

 雪玉を叩き付けられた。下手人を探すと、そこには楽しそうに笑う芳佳。

「ミーナさんも、豊浦さんも一緒に遊ぼうよっ」

「そーだそーだ、なに保護者面してのんびり眺めてるのっ! …………あ、ミーナはもうそんな歳か、なら仕方ない」

 芳佳の言葉は嬉しいが、エーリカの言葉、特に後半は看過できない。ミーナの口元が引き攣る。

「ふ、……ふふ、ええ、そうね。一緒に遊びましょう」

「ミーナさん、なんか怖いですよっ?」

 ゆらり、立ち上がるミーナに芳佳が慄く。ミーナは気にせず固有魔法を展開。一目散に逃げだした不届き者を捕捉。

「宮藤さん、まずは、エーリカよ。ついてらっしゃい」

「了解っ!」

 芳佳は敬礼し、エーリカを追撃するミーナと駆け出した。その後姿を見送って、ぽつり、声。

「…………まあ、ミーナ君も十分に子供だよね」

 


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