怨霊の話   作:林屋まつり

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四十四話

 

「……君は、いいのかな?」

 尊治に連れ出された者、少し、考える時間を欲した者、豊浦の勧めに従い話を聞きに部屋を出た者。

 みんなを見送り、一人残ったペリーヌに問いかける。ペリーヌは頷く。

「ええ、もう少しお話を聞きたいですわ」

 話、……彼は言っていた。自分にとっても勉強になる、と。

 つまり、

「和を以て貴しとなす。でしたわね。執政者としての豊浦さんの政治理念は」

「そうだよ」

「そのやり方について、詳しく教えていただけませんの?」

 貴族であるペリーヌにとって、執政は決して無縁ではない。

「熱心だねえ」

 感心したように呟く豊浦に、ペリーヌは困ったように微笑んで、

「だって、わたくしの故郷までこんな魔境みたくはしたくありませんわ」

 一つの権力機構による独裁と暴走。そして、それにより討伐される者、堆積していく怨念。

 貴族として、そんな事を許すわけにはいかない。故の言葉に豊浦は微笑。手を伸ばして彼女を撫でて、

「失敗者の体験談にしかならないと思うけど。……まあ、いいよ。

 それより、ペリーヌ君は国を害するなんて言う僕を怒らないんだね」

 ペリーヌが故郷を大切にしているのは豊浦も知っている。

 意外そうな彼の言葉にペリーヌは溜息。

「故郷の人を大切に思っているのでしたら、それでよろしいのではなくて?」

 自分が殺されたことより、独裁による暴走と、それにより追放され、討伐された誰かの怨みを抱えて自分のやるべきことを定めた。それなら、誰を大切に思っているかは明白で、その在り方を否定するなんて、出来ない。

「そっか、よかったよ。…………それともう一つ意外な事があるのだけど」

「何ですの?」

 いろいろ教えてもらおうと思ってたし、逆に聞かれたことは何でも答えよう、そう思って問い返すペリーヌ。豊浦は頷いて、

「いや、撫でても怒らなくなったなー、……って」

 言葉に詰まる。そう、ずっと丁寧に撫でられている。…………溜息。撫でられたまま視線を逸らして、

「別に、いやでは、……………………ええ、御年寄には寛大に接しないといけませんわね」

 いやではない。そう答えるのはなんとなく嫌で、だから、そっぽを向いてそんな事を言った。

 

 サーニャは、豊浦の怨み言を聞いて、他の誰かの話を聞きたくなった。

 だから、一緒に歩くエイラと誰かを探す。……途中。

「エイラは、豊浦さんのお話を聞いて、どう思った?」

 傍らにいる少女は何を思ったのか? 問いに、エイラは首を傾げて、

「いや、別に何も」

「エイラ」

 どうでもよさそうな彼女の返事にサーニャは咎めるような視線を向ける。けど、

「んー、……いや、豊浦がなんか重たいの抱え込んでるなー、ってのはわかる。

 千年だっけ? 私じゃ想像も出来ないし、そんなもの背負い続けて律儀っていうか、あほっていうか、」

 放り出せばいい、はっきり言ってエイラはそう思ってる。豊浦はその怨念を抱えるといっても、抱えて欲しいと思っている者がいるとは思えない。辛いものを一人で勝手に背負い込んでいるだけで、エイラにしてみれば誰も望んでいなさそうな贖罪を延々と続けているだけに見える。

 放り出したところで誰も咎めないだろう。……もっとも、彼が怨霊としての在り方を肯定するなら、それでもいいのだろうけど。

 だから、

「ま、もともと世話好きの変なやつだって思ってたし、それは変わんないよ。

 ちょーっと面倒なやつだなー、とか、やっぱり律儀なやつだなー、とは話聞いてて思ったけど」

「…………うん、そうだね」

 たとえ、どれだけ重たいものを背負っているとしても、それでも、変わらない。

 扶桑皇国に来て、一緒にいてくれて、たくさん面倒を見てくれた優しい青年。……サーニャは小さく笑みをこぼす。そう、それでいいかな、と。

 けど、

「私はもうちょっと、知りたいかな」

「そうだな。豊浦もいろいろ話聞いてみろ、みたいなこと言ってたし。

 せっかくだから話聞いてみるか」

 茨木に案内された時、ここにいた《もの》たちは自分たちに好意的に接してくれた。だから、話を聞くこともできるだろう。

「うん、そうだね」

 

「豊浦の事?」

「はい、……あの、お話していただけないですか?」

 さっそく、見かけた酒呑に二人は聞いてみた。

「んー、……そうだな。

 僕にとっては恩人かな、延暦寺を追放された時にいろいろ面倒見てくれたし、産鉄で財を成したけどその知識とかも彼からもらったものだからね」

「豊浦って凄いな」

 いろいろ器用なのは知っていたけど、鉄鉱についての知識もあるらしい。感心するエイラに酒呑は笑って、

「そうだね。僕みたいに山に払われた《もの》達の面倒を見てたみたいだよ。

 なんか、贖罪みたいなことを言ってたな。あほみたいなこと言ってるなー、って思ってたけど、便利だからそれは言わなかったよ」

「だよなー」

 あほみたいなやつ、と。自分と同じ感想を得たエイラは酒呑と握手。

「そういう言い方、ひどいと思います」

 で、不満のあるサーニャは膨れる。酒呑は「ごめんごめん」と笑って、

「といっても別に僕は彼に怨みはないし、背負って欲しい罪なんて何もないからね。それなのに贖罪だー、とか言って面倒見てくれるんだから。……うん、物好きっていうか、なんていうか。

 あ、山は暮らすの大変だから利用できるものは何でも利用することにしてるんだよ。ほら、代わりにこうやって君たちを迎え入れたり、頼まれたことはするようにしてるけどね」

「師弟?」

 ふと、思いついたことをエイラは呟く。世話をしてもらって、独立したら助け合う関係。なんとなくそう思えたから。

 問いに、酒呑は軽く目を見開いて、

「はっ、あはははっ、うんっ、あははっ、そうだね。エイラっ、それはいいっ!

 うん、贖罪なんて正直あほかって思ってるけど世話になりっぱなしってのもなんだし、師弟って関係で借りを返していくのはなかなか、面白いなっ! あははっ、ありがとうエイラっ、今度言ってみるっ」

「おう、言ってやれー」

 やたらと上機嫌に笑う酒呑。そんな面白い事を言ったかな? と、エイラは首を傾げながら煽ってみた。

「…………先生」

「うん?」

 ぽつり、サーニャは呟く。小さな呟きだったので巧く聞き取れなかった酒呑は首を傾げる。

「あ、いえ、ええと、……な、なんでもない、です」

「そう? まあ、僕にとっての豊浦はそんな感じだね。お節介な恩人、あるいは、……物好きな師匠、っていうところかな。

 確かに回り回って僕がこんな山奥で暮らしている責任の一端は豊浦にあるかもしれない。けど、僕はここの生活を不便とは思ってないし、ここはここでいいところだからね」

 酒呑の返事に満足そうな表情のサーニャ。そしてエイラもいい機会だと思いながら挙手。

「あ、私からも質問いいか?」

「もちろんっ」

 望むところ、と。酒呑は嬉しそうに応じる。

「ええとな、私は鬼ってのよく知らないんだ。扶桑皇国の人間じゃないからな」

「そうらしいね。言仁様がそんなこと言ってた。

 ええと、芳佳って娘以外は国外の人らしいね」

「うん、それで、豊浦が鬼の事を英雄に退治される魔物、とか言ってた。

 でさ、酒呑は私たちの事を英雄って言ってたろ? なんでそれなのに歓迎してくれるんだ? 豊浦の客だからか?」

 豊浦の客だから、それが理由、だと思う。

 けど、英雄だから、と歓待していた。彼の口調に嘘があるようには感じなかった。その意味の食い違いが気になる。

 問いに「それもあるけどね」と酒呑は応じて、

「僕にとっての英雄っていうのは、政治的な善悪に対して個人の義をもって相対することを厭わない存在の事だよ。

 言葉では確かに僕たち鬼は英雄に淘汰される存在だ。けど、権力に真っ向から相対する意志を持つ存在は敬意を表し、歓迎するに値するよ。…………それは僕たちも同じで、けど果たせなかった事だからね」

 どこか寂しそうに呟く。言葉を続けられなくなったエイラに酒呑は慌てて手を振って、

「ええと、まあ、そういうわけ。

 まあ、それで頼光に負けたんだからあんまり偉そうなことは言えないんだけど」

「そ、……か。

 ま、それもそうだな。上官から魔物退治を命令されても、お前と戦う事なんてしないからな」

 サーニャもこくこくと頷く。……仮に、そう命じられたとしても、彼が豊浦と同じ魔性の存在だとしても。

 それでも、戦おうとは思わない。彼が悪者とは思えないのだから。

「それは、……よかった。かな?」

「何だよそれ」

 なぜか疑問形の酒呑。エイラは不思議そうに問い。酒呑は困ったように頬を掻いて、

「いやあ、実は最新の英雄がどんな者か、興味はあったんだ。頼光より強いのかなー、とか」

「その、頼光さんが、当時の英雄、ですか?」

 魔物と相対した英雄。それを思いサーニャが問う。酒呑は頷いて、

「あと、お供が四人いたけどね。

 最初は僕たちと同じ、山の民みたいな恰好で来てね。酒飲んで酔わせて酔った隙に倒そうとしたらしいんだけど、僕たち鬼が酒に酔うわけないしね。普通に戦って普通に殺された。

 いやー、強かったなー」

 懐かしそうに酒呑は語る。けど、

「あの、酒呑さん」

「ん?」

 サーニャは、恐る恐る手を上げる。エイラもサーニャの気持ちはわかる。懐かしそうに語る酒呑は、聞き捨てならない事を言ったのだから。

「殺された、って?」

「うん、そうだよ。首を刎ねられてね。そのあと首が封印されてねえ。

 困ったものだよ。ほんと」

「…………生き返るのか?」

「鬼だからねっ。大嶽丸に出来て僕に出来ない事はないよっ」

 頭痛をこらえるような表情で呟くエイラに酒呑はどや顔で応じた。

「宮藤の故郷は凄いな」

「うん、芳佳ちゃん。こんな国で育ったんだ」

 慄く二人に酒呑は首を傾げ、ふと、「封印?」

「うん、平等院。……って言っても異国の人は知らないか。

 まあ、封印されてたんだ。けど封印していた場所が焼亡してね。それで逃げ出した。誰があそこに火を放ってくれたのか。……まあ、見当はつくけどね」

「あいつか」「うん、私もそうだと思う」

 三人の予想は見事に一致。それを察してそろって笑みを交わす。

「僕にとっての、豊浦の話はこんなところかな。

 他にもいろいろ集まっているみたいだし、興味があるなら話を聞いてみるといいよ。君たちはまだ若いんだから、いい経験になると思う」

「……あの、酒呑さん」

 若いんだから、と彼は言う。が、外見年齢はミーナと大差なく見える。自分たちとも二つ三つ年上、という程度か。

 とはいえ、千三百という年月を在り続けた豊浦や、ルッキーニより幼い外見で七百年、という言仁もいる。扶桑皇国では外見年齢と存在年数が一致するとは限らない。

 ゆえに、

「酒呑さんは、おいくつですか?」

「そうだね。……封印された年数も含めると、…………えーと、千と百年、くらい、だったかな」

「……もう、驚けなくなってきたな」

「うん、私も」

 二人は深刻な表情で頷き合い、酒呑は首を傾げた。

 

 ミーナにあてがわれた部屋。そこでトゥルーデ、エーリカは集まる。口を開いたのはトゥルーデで、

「思っていた以上に、深刻な話だったな」

「そうだね。…………そんな事、抱えてたなんて」

 エーリカも重い口調で呟く。けど、

「それは豊浦さんが抱えていく事よ。私たちがとやかくいう事ではないわ」

 強いて、感情を表に出さずミーナは告げる。突き放すような言葉にトゥルーデとエーリカから非難交じりの視線を向けられ、ミーナは二人を見返して、

「肝心な事は、豊浦さんが原因とか言っていた怨念を、また、繰り返さない事よ」

「独裁政権による、略奪か。……いや、それはそうだが、」

「確かに、私たちは軍人で、そっちには疎いわ。……けど、だからって他人事にするわけにはいかないのよ。

 だって、真っ先にその怨念が降りかかるのは、私たち、前線で戦っている軍人たちよ」

「そう、……だね。

 命令されたからやった。だから私たちは悪くありません。…………なんて、言えないよね」

 エーリカの言葉に二人は頷く。思い出すのは、手の中の感触。いつも使っている銃。

 たとえ、それが命令されたことであっても、それでも、引き金を引くのは自分なのだから。

「そういう事よ。だから、これからは自分でもちゃんと考えていかないといけないわ。

 何と、なぜ、相対するのか。……尊治さんも言っていたでしょう? 全力で相対するならそれでいいと思うの。私だって、故郷を、恋人を奪ったネウロイは、許せないもの」

 決して許せない事もある。譲れない思いもある。

 けど、それは自分だけではない。相手にもそれはあるのだと。これからはその事を理解しなけれいけない。

 上層部の操り人形になるつもりは、ない。

「トゥルーデ、エーリカ。

 欧州に戻ったら何とかスケジュールを調整して、早めに休みを入れるようにするわ。その時に、」

 仮にネウロイが存在しないとしても、軍力の中心を担うのはウィッチたちだ。それはどこの国も同じだろう。

 ゆえに、最悪の不安がある。…………………………………………だから、

「この事を他のウィッチたちにも話していきなさい。

 たとえ命令されたとしても、引き金を引くのは私たちよ。だから、怨霊からの怨念を受けるのも私たち、それでもなお戦うのなら、相応の覚悟を持つように、ね」

「ん、了解」「ああ、わかった」

 カールスラントは文字通りの最前線。激戦地だ。当然そこには多くのウィッチが集っている。彼女たちと仲のいいウィッチも多くいる。

 だから早く言葉を交わすべきだろう。ここにきて知ったこと、扶桑皇国に堆積していた怨念の事を、

 何も知らずに戦い、その身に怨念を受けるなどごめんだ。どうせそうなるのならせめて、胸を張って戦い、その報いだと納得して受けなければならない。

「胸張って戦うか、……あんまり考えてなかったなー」

 もともと、エーリカにそんな余裕はなかった。すでに故郷はネウロイに荒らされ、ただ、戦うという選択肢しかなかった。

 そして、ネウロイとの戦いはそれでいいと思っている。どんな事情があったとしても、故郷をぼろぼろにされたことを許すつもりはない。大切な故郷を取り戻すため、徹底的に狩りつくす。

 けど、そのあとは? ……国が、国の事情で戦争を始めたら? ……その時は、

 たとえ、上からなんて言われても自分が納得する理由を得て戦う。三人は軍人としてその事を確認し合い、頷き合った。

 

「あ、リーネ」

「ハルトマンさん」

 部屋を出たらあたりをきょろきょろしているリーネがいた。「どうしたの?」と問いかけ、

「ええと、本があったら読ませてもらおうかなって思ってるんです。

 豊浦さんとか、酒呑さんがどういう風に語り継がれているのか、それを知りたくて」

「……結構、悪く書かれてると思うよ」

 時の権力者に逆らった、と。歴史は権力者が綴るものだとすれば、逆賊をよく書くとは思えない。

 けど、リーネは頷いて、

「ブリタニアも、たぶん、同じだと思うんです。

 豊浦さんとか、酒呑さんみたいに、敗北者は悪く書かれると思います。……だから、扶桑皇国ではどういう風に書かれているか、それを見て、改めてブリタニアのお話を読んでみようって。

 そうすれば、違った事が見えてくると思ったの」

 英雄の活躍に憧れるだけではなく。

 どうして、討伐が行われたのか。そこにどんな背景があったのか。……あるいは、討伐された魔性の存在は、実は、彼らなりに守りたいもの、譲れない正義があるのかもしれない。

 それを知りたい。そのためにも、ここで勉強できればいいな、と。

「そ、……か、うん、そうだね」

 エーリカは頷く。ミーナとトゥルーデと話したこと、ちゃんと、敵を見定めるために、そのための勉強にはいい教材だと思うから。

「よしっ、じゃあリーネ、私も付き合うっ!

 ええと、茨木に聞けばいいかな」

 確か、近くにいたはずだ。エーリカの言葉にリーネは「ありがとうございますっ」

「いいって、それに、これから私たちに必要な事だからね」

「必要?」

「そ、トゥルーデと、ミーナと話したんだ」

 リーネは首を傾げる。エーリカは、にっ、と笑って、

「戦うなら覚悟を決めろ、って事。

 それじゃあ行こうか」

 

「うりゃ、……って、ひゃっ?」

 突貫したルッキーニ。が、ひょい、と尊治は軽く立ち位置をずらし、回避。そして、

「うひゃはははははははっ」

「ふはははははははははっ」

 回避し、ルッキーニの後ろに回り込む。彼女の脇腹をくすぐる。……という事を延々と繰り返していた。

「飽きないなー」

「ルッキーニちゃん、諦めないね」

 で、そんな様子をシャーリーと芳佳はのんびりと見ている。

「いいおっぱいらしいからな」

「……みたいだね」

 ルッキーニ曰く、大きくないがいいおっぱいらしい、シャーリーにはその基準がまったくわからないが。それより、

「なあ、尊治って実は凄いんじゃないか?」

「そうですね」

 ウィッチであることを除いても、ルッキーニの身体能力は高い。シャーリーも眼前で動き回るルッキーニを回避し続ける自信はない、が。

「にゃーっ」「よいさっ」

 突進するルッキーニの頭に手を置いて跳躍。彼女を飛び越えて着地。そして、

「次はここだーっ」

「にゃははっ、……やっ、く、くびしゅじやめりょーっ」

「…………あの、人って垂直飛びで飛び越えられるものなんですか?」

「いや、普通無理だろ」

 ともかく、

「なー、宮藤。お前、豊浦の話聞いててどんなこと思った?」

 傍らの少女に問いかける。たぶん、皆、それぞれの思いがあるだろうから。

「んー、ルッキーニちゃんと、あまり変わらない、と思います」

 それぞれの思いがある。ルッキーニはそれに対して笑って答えた。

 どんなことがあっても、お兄ちゃんはお兄ちゃん、と。

 どんな事情があっても構わないし、彼が何者であるか、それもいい。

 ただ、一緒に遊んでくれた優しいお兄ちゃん。それで十分だ、と。笑顔で応じた。

 だから、

「優しくて責任感がある人。……って思いました」

 彼の事を思い、柔らかく微笑みながら芳佳は告げ、シャーリーは非常に胡散臭い笑顔。

「なんでここでのろけるんだ?」

「ふあっ?」

 意外な反応に芳佳は素っ頓狂な声を上げ、……言葉の意味に思い至り、じわじわと、

「そ、そういうわけじゃあ、ないですっ!

 そういうシャーリーさんはどうなんですかっ?」

「物好きなやつー、ってところだな。

 ま、けど、」

 たとえ、それが世間一般的に悪であったとしても、それでも、

「やるって決めたことを貫き通すなら、それでいいんじゃないか。

 それが例え私たちと敵対することになってもさ、その時は、お互い大切な事を抱えて全力で相対すればいいってだけだろ」

 彼の抱える怨念を乗り越えるだけの信念をもって相対する。それだけでいい。

 自分の夢を追いかけるシャーリーは、だからこそ、彼の怨念もそれで良しと笑って肯定する。成すべきことに向けて歩いていくのなら、そんなあり方を否定する事はしない。

「そうですね」

 芳佳は頷く。やっぱり、彼と敵対はしたくない。……けど、

 けど、自分は大切な故郷を、そして、そこにいる大切な人を守りたい。誰かが害されていいなんて思わない。

 だから、もし豊浦がこの扶桑皇国を祟るというのなら、自分は絶対に、全力で相対する。千年を超える怨念に真っ向から挑む。

 それが、彼に対する「なになにっ? 何の話ーっ?」

 不意に聞こえるルッキーニの声。

「あ、ルッキーニち「ルッキーニっ、お前、豊浦の事好きか?」へっ?」

「うんっ、お兄ちゃんの事大好きっ!」

 にぱっ、と笑顔のルッキーニ。が、

「早まるなーっ!」

 なぜか後ろから突撃した尊治。二人はそのまま一緒に転がっていく。

「だってよ、宮藤」

「だ、……だってって、何ですか?」

「別にー、……まあ、ただ、」

 頬を膨らませて睨む芳佳を、シャーリーは優しく撫でて、

「ま、宮藤は宮藤の好きなように、やりたいことをやればいいさ」

 神がそれを許さずとも魔はそれを許してくれるっ! ……ふと、尊治の語った言葉を思い出した。

 魔、なんて名乗るつもりはないけど。どっちかっていえば自分はそっち寄り。…………ここに集う変な連中の同類。それも悪くないかな、と。そんな事を思ってシャーリーは微笑んだ。

 だから、

「ルッキーニなんて気にせず、告白してしまえっ」

「こ、こ、ここ、こここここっ?」

 満面の笑顔で親指を立てるシャーリー。そして案の定、奇声をあげておろおろし始める芳佳。そんな彼女を見てシャーリーは楽しそうに笑った。

 


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