怨霊の話   作:林屋まつり

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四十話

 

 翌日、ウィッチたちは遅めの朝食を取り《大和》に向かう。

 そこで改めて報告と会食という事になったらしい。

 それはいい、豊浦も彼女たちは頑張ったと思っている。けど、

「どーして僕まで」

 呼ばれる気などさらさらなかった豊浦はため息交じりにぼやく。

「上から直々の指名だ。そう機嫌を損ねるな」

「杉田大佐?」

 美緒の言葉にミーナが首を傾げる。対し、

「違う。もっと上だ」

 美緒は、多少の困惑を交えて応じる。

「上っ? 将校ってこと?」

 それはつまり、軍部でも最上位に位置する人という事になる。……ミーナは意外な階級の出現に驚き、けど、

 傍らの豊浦を見る。過去はともかく現代で彼は山家。非定住民。軍部の将校が面識を持つ相手ではない。

「芳佳は聞いたことがあるか? 門平陸軍大将だ」

「陸軍? 大将っ?」

「うわ、凄いじゃん宮藤っ」

 ぱんっ、とエーリカは宮藤の背を叩く。

「ええと、……偉い人、ですよね?」

 門平陸軍大将という人は知らないが、それでも大将の意味は分かる。……なんとなく。

「陸軍のトップだ」

「へー、そうなんですか」

 とは言われてもあまり実感がわかない。トゥルーデは溜息。大丈夫か? と。

「報告だが、ミーナ、宮藤、豊浦の三人で行ってくれ。門平陸軍大将殿が直接聞きたいそうだ」

「……ええ、わかったわ」

 ミーナは緊張を感じて頷く。面識のある淳三郎はともかく、他国とはいえ一国の大将と会う。どうしても緊張する。

 おっとりと「私もですかー」と呟く芳佳を少し羨ましく思い、ミーナは深く息を吐いた。

 

 他のウィッチたちと別れ、ミーナと芳佳、豊浦は淳三郎に案内されて《大和》の会議室へ。

「今回の鉄蛇撃破、ありがとうございました」

 その途中、淳三郎は三人に丁寧に一礼。

「いえ、誰も犠牲が出ずに終わってよかったです」

 それが何よりも大切な事、芳佳の言葉に淳三郎は「そうですね」と応じる。

「正直、最初に見たときは横須賀市の壊滅も覚悟していましたが。基地の破壊だけにとどまってよかったです」

「ところで、淳三郎さん」

 不意に、豊浦が口を開く。

「何ですか?」

「その、陸軍大将殿の名前は?」

 問いに淳三郎は首を傾げて、

「門平陸軍大将です。門平将」

「その字は、門に、平均の平、将軍の将?」

「そうです」

 それが何か? と、首を傾げる淳三郎。

「豊浦さんの知り合いですか?」

「…………まあ、一応ね」

 豊浦は嫌そうに溜息をついた。そして、会議室に到着、淳三郎は「失礼します」と戸を開ける。

「う、……わ」

 一礼するミーナ、続く芳佳は思わず、そこにいる人物に声を漏らす。

 禿頭の巨漢。体重は芳佳の倍はありそう、けど、贅肉は一切感じられないがっしりとした体格。

 剃刀のような鋭い視線を向けられ、芳佳は身を竦ませ「宮藤さん」と、淳三郎。

「あ、……あ、」

 そして、改めて大将を前にして何も言わずに立っていることを自覚。慌てて「はじめましてっ」と声を上げる。

「それは大将を前にした少尉の態度ではないな」

「申し訳ございません。門平閣下」

 淳三郎は深く頭を下げる。苦笑。

「構わん。民間人の出なら仕方のない事だ。階級だけで敬意を要求するつもりはない。

 だが、気を付けろ宮藤少尉。無礼は直属の上司や関係する上官への不利益として返ってくる。慣れておくことだ」

「はいっ」

 芳佳は返事をし、淳三郎は一礼して退室。それを見送り、溜息。

「で、そんなところで何やってるの? 将門君」

「それはこっちの問いだ。ひょうすべ。

 まだ貴様が動くほどこの国は壊れていない。ましてやウィッチたちの助力だと、なにを考えている?」

 頭を抱える豊浦と、忌々しそうに表情を歪める陸軍大将。「将門?」

「門平将なんてただの偽名だよ。彼の本名は平将門」

「すでに埋没した名だ。知らなくても仕方ない」

 その名を聞いて困ったように首をかしげる芳佳に将門は苦笑。

「ええと、……大将、閣下」

「ああ、先にそっちか。報告を頼む」

「はい。扶桑皇国に現れた蛇型ネウロイ、呼称、鉄蛇は先日、八体すべて撃破しました。

 戦場となった横須賀海軍基地は壊滅、出現後の人的被害はありません。出現時点の被害は」

「ああ、それについては報告を受けている。そうか、すべて撃破したか。

 ご苦労だった。これで扶桑皇国の脅威は取り除かれた。報告書は目を通したが、少し突っ込んだ調査も必要なようだな。……ああ、資料の持ち出しなどに制限をかけるつもりはない。欧州での対ネウロイに役立てて欲しい」

「制限?」

 芳佳は首を傾げる。将門は溜息。

「たまにあるのだ。ネウロイの発生に対し、協力の名目で政治的な干渉まで始めることが。

 それを嫌ってネウロイの発生情報そのものを握りつぶす例もある。いい事とは思えないがな」

「そんな、……事が、」

 信じられない、と芳佳が呟く。今回のように特殊なケースではなおの事、情報の有無が生死にまで直結する。

 政治的な理由で情報が届かず、結果として戦死した。……そんなの、報われない。

 憤る芳佳に、強いて将門は素っ気なく「ネウロイに関してだけではない。情報の隠蔽、握り潰しなど政治ではよくある事だ。歴史など勝利者の日記と大差ない。そうだな? ひょうすべ」

「…………ああ、そうだろうね。新皇陛下」

 心底いやそうな表情の豊浦に将門はくつくつと笑って、

「まあ、それはいい。今回はそんな事をやるつもりはない。叶うならこれを機に欧州のネウロイに対する情報共有を密にしたいが、まあ、それはここでいう事ではないか」

 ミーナは申し訳なさそうに小さく頭を下げる。前線指揮を行うミーナには独断で直接指揮に関わる情報以上の情報交換に関する交渉を行う権限はない。

「ともかく、ご苦労だった。欧州には《STRIKE WITCHES》派遣の報酬と、十分な戦果を挙げたことを私から直接報告をしておこう。

 それと、宮藤少尉。働きは十分に昇進の対象となるが、今回のネウロイは特殊で規定の適用が難しい。

 残念だが大型ネウロイ八体撃破という評価となる。報奨金は出すが、昇進は見送りとなる。こればかりは欧州との評価基準を共有しているのでな。我々だけで、とはいかないのだ」

「あ、……い、いえ、大丈夫ですっ!

 その、扶桑皇国を守れただけで十分ですっ」

 慌てて立ち上がる芳佳に将門は微笑。「そういってもらえれば助かる」

 そして、ミーナは息をつく。いい機会だ、と。傍らに視線を向ける。

「大将閣下。お聞かせいただきたいことがあります」

「何か?」

「はい、豊浦さんの使う魔法。陰陽や風水についてです」

「すでに失われた魔法だ。扶桑皇国のウィッチに使える者はいない。資料も存在しない。

 名前だけなら七十と、数年前まではあったが、そこのひょうすべが使うような陰陽となれば数百年前には消えている。その技術や知識を受け継ぐ者はいないだろう。

 ああ、どうしても知りたいならひょうすべを連れていけばいい。そこの怨霊に戸籍は存在しない。誘拐しても構わんぞ」

「え、……えーと」

 あるいは彼を欧州に呼んでもいいか、それも聞こうと思っていたが。いいらしい。

「…………誘拐したら僕なりに抵抗するよ」

 じと、とした視線を受け、将門は愉快そうに笑う。

「くく、そうだろうな。……ミーナ中佐。陰陽や風水は扶桑皇国固有の魔法体系だろうがことさら機密扱いしているわけではない。そこのひょうすべから好きなだけ情報を引き出せばいい」

「はい。ありがとうございます」

「ああ、誘拐したければ飛行船を用意しよう。縛りあげて放り込んで構わん。返さなくていいぞ?」

「い、……いえ、そういうわけには」

 どこまで本気かわからない彼の言葉にミーナは困惑して応じる。

「あ、あの、将門、さん」

「ん?」

「豊浦さんの事を、ご存じなんですね」

 山家、と彼は名乗った。山に暮らす非定住民、と。

 そんな彼が軍の将校と接点を持つとは思えない。……けど、

「ああ、そうだ。そいつは扶桑皇国でも最悪の魔だ。私から見ればネウロイなどよりよほど危険だな。

 歴史という大河の川底。死骸と泥土と汚濁の堆積物のような《もの》だ。宮藤少尉が個人的な知り合いでなければ、この場で抹殺した方が扶桑皇国のためにだろう」

「酷い言い様だね」

 将門の言葉に、思わず口を開こうとする芳佳を豊浦は手で制する。

「言いたくもなる。歴史の、…………いや、いいか。

 他に何か聞いておきたいことはあるか? ないのなら会食に向かおう」

「あの、将門さんっ」

「ん?」

「将門さんも、……その、豊浦さんとおな「宮藤少尉、不用意な問いを投げかけるな。貴官は民間の出であるがゆえに多少の無礼は許容しよう。だが、軍人であることを忘れてもらっては困る」」

 彼は男性だ。ほぼ間違いなくウィッチではない。普通に考えれば芳佳よりはるかに弱い。けど、

「は、はいっ」

 彼がその気になれば自分は何もできずに殺される。怖気とともにそんな確信を抱き、芳佳は頷いた。

 

「ええと、……豊浦、さん」

「うん? ああ、将門君の事かな? 悪いけど彼について語るつもりはないよ」

「あ、ううん、そうじゃなくて、……その、」

 軍部の大将。そんな人と会って話をして、……だから、こんなことを思った。

 遠い、と。けど、そんな事思いたくなくて、言えなくて、……だから。こんな言葉が口から出た。

「ええ、と。豊浦さんって、凄い人、です、ね」

「うん?」

 おずおずと口を開く芳佳。ミーナは首を傾げる。

 些細な事だけど、芳佳の態度に違和感。豊浦もそれを感じ、ふと、

「あ、……えーと、そ、ひゃっ?」

 不意に、豊浦は芳佳の手を掴み、抱き寄せる。

「と、とと、豊浦さんっ!」

 いきなりな行動にミーナは顔を真っ赤にし、芳佳は、

 

 遠い人。親しくしてくれた人に一時でもそう感じてしまった。だから、触れられて、いつも通り、頭を撫でられて、感じたのは安堵。

 

「凄くないよ。僕は誰が何と言っても僕だ。だから、他の誰がどういおうと、芳佳君。君の持つ僕への印象を変える必要はない。

 遠い、なんて思わないで、それは僕にとっても寂しい事だから、ね?」

「う、……お、お見通し?」

「昔からあったんだ。

 友だちになってもね、僕の事を知るたびに少しずつ離れていく。っていう事がね。特に僕は元々、人とは違う《もの》だから、なおさらね。……だから、そんな寂しい事思って欲しくないんだ」

「そう、なんだ。……豊浦さんは何でもお見通しだね」

「人生経験が長いからね。ま、芳佳君の口調と表情を見ればすぐにわかるけどね。

 だから、」

 見上げる芳佳に、豊浦は意地悪く笑って、

「そういう娘は無理矢理引き寄せるようにしてるんだ。

 意地悪な娘にはそのくらいしないとね」

「……うん、そうだね」

 芳佳はそっと微笑み、豊浦にか「こほんっ」頭突きした。

「あだっ?」

「二人とも、こんなところで何やっているのかしら?」

 頬が引き攣る笑顔を浮かべるミーナ。顔面を頭突きされて通路の隅で動かなくなる豊浦。

 と、

「あ、……え、ええと、あ、あの、あのお」

「宮藤さんっ! 貴女はウィッチであり軍人なのよっ! そ、そういう、い、異性との付き合いは後にしなさいっ!」

「そ、そういうわけじゃあ、…………ごめんなさいっ」

 ミーナの見た事もないような剣幕と怖い視線に芳佳は謝る。

「あ、いたた、……いきなり頭突きはやめて欲しいんだけど」

 のっそりと復活する豊浦。

「豊浦さんも、あまり宮藤さんに変な事をしないでね?」

「ううむ、……ううん、やっぱりだめかあ。

 効果はあるんだけど、大抵怒られるんだよね。前も知り合った女性にやったらその旦那さんに全力で殴られたし」

 何やってるのかこの人は、と。ミーナは頭を抱えて、…………寒気を感じた。

「豊浦さん。……いろんな女性に、やってた、の?」

 寒気の源、とてもとても怖い目で豊浦を見据える芳佳。

「あ、……え、えーと、」

 失言の自覚はあるらしい。豊浦は曖昧な表情で近寄る芳佳を制するように手を挙げて、後退し、

「豊浦さんの、ばかーっ!」

 

「…………で、何がどうしたの?」

 会食の場で、大皿にマッシュポテトを乗せたエーリカが首を傾げる。

 お腹を抑える豊浦と、むすっ、とした表情の芳佳。苦笑するミーナ。

「何でもありません。豊浦さんのばか、えっち」

「いやー、……えーと」

「また何かやったの?」

 呆れたような表情のエーリカ。

「またって」

 と、肩を落とす豊浦。

「あっ、宮藤さんっ」

「芳佳ちゃーんっ」

 一緒に会食の場を回っていた静夏とリーネが来た。それを見て会場のウィッチたちが集まってくる。

 あっという間に少女たちの輪に巻き込まれる芳佳。と、

「さて、僕は席を外すよ」

「豊浦さん?」

 そんな様子に微笑するミーナに、豊浦は小さく声をかける。

「明日の事でね。ちょっと用事があるから」

「そう? まあ、無理にとは言わないわ。

 夜にはいるのね?」

「うん、夕ご飯は皆と一緒いいからね」

「…………そう、それじゃあ、またね」

「またね」

 軽く手を振り返して、豊浦はそっと会食の場を後にした。

 

 ……………………そして、夜。

 エイラは寝室でころん、と布団に寝転がりお腹を撫でる。

 会食ではたくさん食べて、夕食でも結構食べた。お腹いっぱい。それに、

 明日、遊びに行く。豊浦の言っていた素晴らしい景観、それに、可愛らしい服。…………そんなサーニャとのシチュエーションを想像すれば頬が緩む。いい夢見れそうだな、とエイラはさっさと睡眠を選択。目を閉じる。

 と、

「エイラ」

 小さな、声。エイラは跳ね起きた。

「さ、サーニャか、どうした?」

「入っていい?」

「うん」

 頷く、と。サーニャが入ってきた。

「もしかして、起こしちゃった?」

「い、いや、そんな事はないぞ。大丈夫だ」

 申し訳なさそうな表情のサーニャに慌てて否定。

「それで、どうしたんだ?」

「あ、……うん。…………その、ね」

 もじもじと、サーニャは困ったように言いよどむ微かに顔を赤くして言葉を選ぶ。

 そんな顔も可愛いな、と。思うだけで口に出さずゆっくりと堪能。

「あの、エイラ。……わ、私と一緒に寝るの、…………す、好き?」

「うぇっ?」

 予想外の言葉にエイラは素っ頓狂な声。サーニャは顔を赤くして、じ、とエイラの答えを待つ。

「そ、……それは、…………その、あの」

 言うまでもない。大好きな少女がそばにいてくれるだけで嬉しいのだから。

 けど、それを率直に言うのは不安。どう思われるかわからない。変な娘と思われるのは、ちょっと困る。

「ど、どうしたんだよ急に?」

 というわけでサーニャの真意確認。問われてサーニャは枕で顔を隠した。隠したまま。

「あ、あの、……も、もし好きなら、……あ、じゃ、じゃなくてっ、い、いやじゃないなら。一緒がいい、な」

「い、嫌じゃないぞっ、全然大丈夫だっ。サーニャがいてくれるとすっごく嬉しいからなっ」

 一緒がいい、そう言ってくれてエイラは嬉しくて舞い上がりそうになるのを必死に抑えて応じる。サーニャが枕から顔を出す。安心したような笑顔。

「それじゃあ、はいるね」

「う、うん」

 ここに来て二回目。疲れて寝た前回とは違って今回はまだそれなりに目も冴えている。すぐ近くに大好きな少女がいる。そう思うとさらに眼が冴える。

「エイラ、ありがと」

「ん、……ええと、何かしたか?」

 私こそありがとう。と。そんな言葉を飲み込んで問いかける。……ふと、手が柔らかい感触に包まれる。

「嬉しかったの。

 あの、最後の鉄蛇と戦った時」

「ああ、ええと、あの雷ばんばん出してたやつか」

 エイラとしてはあまりいい戦いとは思っていない。固有魔法と技巧を尽くして回避、そして、的確に撃ち砕く。そんな自分の戦い方が何一つ出来ない、思い出したくもないほど防戦一方の戦いだった。

 正直、二度とやりたくない。

 確かに、その時サーニャと組んで豊浦の防衛に勤めていたが。

「あの時、一緒に戦ったよね」

「あ、…………う、うん」

 頷く。あの時、サーニャと手を取り合って一緒に戦った。

 あの時はあれでいいと思ったけど。

「その、サーニャも、たくさん危ない目に遭っちゃったな」

 防御可能、とはいえ、それでも莫大量の雷撃は油断すれば即、死に繋がる危険な戦場だった。もっと自分がしっかりできれば、そう思うと、自然、サーニャから視線を逸らしてしまい。

 

「けど、私は、一緒に頑張るのもいいって、言ってくれて、嬉しかった」

 抱きしめられた。

 

 いつかみたいに、胸に抱え込まれるように、柔らかい鼓動を感じる、優しく頭を撫でられる。

「さ、……サーニャ」

「エイラは、ずっと私を守ろうって頑張ってくれたよね。

 そのために苦手なシールドも克服してくれた。ずっと私を見守ってくれたよね」

「う、……うん」

 大切な少女だから。……けど、

「私を後ろにおいて守るんじゃなくて、隣で、一緒に頑張るのもいいって笑いかけてくれた。

 私ね、凄く嬉しかったの」

「そ、……そうか」

 姫を守る騎士のように守護するのではなく、ともに戦う仲間として並び立ち頑張る。

 エイラにそういわれたことが嬉しい、と。サーニャは微笑む。……そして、そうだな、と改めてあの時の言葉を思う。

 必死で戦い続けた極限状態。だから、自然に漏れた言葉。

 大切な少女と一緒に頑張りたい。そんな風に思っていたんだな、と。改めて自分の思いを受け入れる。

「うん。だから、ありがとうって伝えたくて、…………その、私、こんな事しかできないけど。

 シャーリーさんに比べて、…………その、ちっちゃいけど、いい?」

 包み込むように触れる柔らかい感触。それが何なのか。それを自覚してエイラは頷く。

「その、……あ、ありがと。サーニャ。うん、す、すごく、嬉しい」

「そっか、よかった。

 じゃあ、このまま、」

 抱きかかえられたまま、エイラは視線を上に向ける。

 少しだけ悪戯っぽくて、どこか優しくて、とても可愛らしくて、…………エイラは目を離せなくなる。

 

「今夜は、ずっと一緒にいましょう。エイラ」

 


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