怨霊の話   作:林屋まつり

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三十八話

 

「さて、……それじゃあ始めるよ。

 たぶん、今まで以上に厄介だと思うけど、皆、気を付けてね」

 陰陽に関する道具。豪奢な装飾が付いた棒に下げられた懐中時計を腰に吊るし、豊浦は両手に二本の鉄剣を持つ。二体分の、おそらく、非常に強力な鉄蛇の封印。

 それを、抜いた。

 

 サーニャとエイラは二人で豊浦を運び、出来るだけ離れた場所に着地。それを見送りミーナは眼下、鉄剣の抜かれた場所に視線を落とす。

 初撃は、ない。…………そして、鉄蛇が構築。

「…………あれは、また、」

 そこにあるのはとぐろ巻く大蛇。とぐろの中央に、赤い輝き。

「あれが、コアね」

 剥き出しの巨大なコア。《オペレーション・マルス》の最後、美緒を取り込んだあの巨大なコアを思い出す。

 コアは巨大な蛇の体に隠される。威嚇するように鉄蛇がウィッチたちを睨み。

「交戦開始っ! リーネさん、エーリカ、トゥルーデはコアを狙って、ペリーヌさん、シャーリーさん、ルッキーニさん、宮藤さんは頭部への攻撃を開始っ!」

 了解、と声を重ね。芳佳はペリーヌと、シャーリーはルッキーニと散会。エーリカとトゥルーデは真っ直ぐに鉄蛇に向かって飛翔し、リーネは対装甲ライフルを構える。

 

 咆哮。

 

「ぐ、……あっ」「うるさっ!」

 鉄蛇から放たれた咆哮が二人に叩き付けられる。音圧に弾き飛ばされる。

 けど、

「リーネさんっ」

「ふっ」

 弾き飛ばされた二人の間を縫うように、リーネが狙撃。巨大な体に隠されたコアを銃弾が穿つ。

「直撃っ、けど、まだっ!」

 弾き飛ばされたエーリカは機銃を構えて再度の突撃。蛇の頭はシャーリーたちを睨む。だから、

「トゥルーデっ」「わかってるっ」

 リーネの援護を受け、二人は鉄蛇の中央、とぐろに隠されたコアに銃撃を加えながら突撃。

 けど、

『でかいのくるっ、防御して退避っ!』

 エイラの声が響く。二人は反射的に前方にシールドを展開。同時に後ろに飛翔。

 でかいの、その言葉通り、鉄蛇の口から雷撃が放たれる。

 まるで、槍で穿たれたような衝撃。けど、防御は間に合った。

「うあっ、びりびりする」

「耐えろハルトマン。追撃行くぞっ」

「了解っ」

 雷撃を防ぎ急降下。さらに鉄蛇は雷撃を放つが。

「ふっ」

 呼気一つ。雷撃を回避する。ビームと比較すれば軌道は複雑だが、熟練のウィッチである二人に回避できないほどではない。

 さらに、鉄蛇は食らいつこうと迫る、が。

「逃がすかっ」

 シャーリーとルッキーニが目に銃撃。鉄蛇は煩わしそうに動きを止める。

 だから、

「いっけーっ」

 急降下しながらコアに銃撃。銃弾がコアに突き刺さり、鉄蛇が咆哮を上げる。

「むっ? ハルトマンっ、急上昇っ! 総員、鉄蛇から離れろっ! エイラたちも豊浦を連れて建物の上に退避っ!」

 トゥルーデが声を上げる。エーリカは眉根を寄せる。

 コアから黒い靄が漂う。もともとあった黒雲がさらに分厚く構築される。

「また毒っ?」

「コアが動き出したら、……また、面倒だなあ。サーニャ、無事?」

『私たちに問題はありません。ビルの残骸の上に退避しました』

「そっか」

 あっちの三人は無事らしい。エーリカは機銃を構えて下を睨む。……と。

『豊浦から、あれは毒性はないらしいぞ。

 黒雲、じゃなくて、雷雲だって。気を付けろ。雷雲だからそこからも雷撃飛んでくるぞ』

「自分のテリトリーを拡大するか」

「ミーナ、コアの場所わかる?」

「ええ、というか移動していないわ。総員、散会して攻撃を継続。

 リーネさん」

「はいっ」

 リーネは対装甲ライフルを構える。それを見て、エーリカとトゥルーデはほかの皆と一度視線を交わし、飛翔。

 

 雷光。

 

「うおわっ?」

 エーリカは下にシールドを展開。そこに突き刺さる雷撃。

「エイラの言っていたのはこれか、面倒だな」

 雷雲の範囲は広がっている。それに伴い鉄蛇の攻撃範囲も広がるだろう。

「逃げ場がなくなっていくか。上等」

「強がるのもいいがさっさと片付けるぞ」

「了解っ」

 下から上昇する雷撃を回避し、防御しながらコアに向かう。コアを守るように存在する蛇頭が二人を睨み。

「こっち、無視するなーっ」「行きますわよっ!」

 ルッキーニとペリーヌが銃撃。鉄蛇は咆哮。口を開き雷撃を放つ。

 まるで、槍のように鋭く迫る雷撃に、ルッキーニは回避。ペリーヌは芳佳が前に飛び出してシールドで防御。そのまま頭に銃撃を続ける。

 エーリカは大丈夫と判断して雷雲に隠されたコアを睨む。

「暗いけど、見えない事もない、か」

「あれは、どういう形になんだ? とぐろの中央にコアがあるのか? あるいは、独立したコアを守るためにとぐろを巻いているのか、解らないな」

「そうだねー」

 コアが機体から離れて動くネウロイも存在するらしい。《オペレーション・マルス》で最後に戦ったネウロイがそのたぐいだったか。

 あるいは、例えば尾の先端に巨大なコアが付随していてるのか。……なら、エーリカはインカムに声を飛ばす。

「ミーナ、鉄蛇を吹き飛ばせる? そうすればコアが狙いやすくなるし」

『解ったわ。艦砲の指示を出します。

 エイラさん、サーニャさん、気を付けて、シャーリーさんたちは鉄蛇の牽制をお願い』

『大丈夫です。射線からは離れています』

『『『『了解っ』』』』

 そして、艦砲の大音が響く。シャーリーとペリーヌを追い回していた蛇頭はその音に反応を遅らせ、莫大量の砲弾が直撃。吹き飛ばされる。

 けど、

『コアはその場に残ってるわね。艦砲は継続。

 シャーリーさんたちは鉄蛇への攻撃を続けて、私もそっちに行くわ。トゥルーデはそっちをお願い』

 了解、と声を飛ばし、エーリカはコアを睨む。

「突撃するっ!」

 

 ミーナは艦砲で弾き飛ばされた鉄蛇を睨む。固有魔法の知覚は豊浦達が安全圏にいることを伝える。

 そちらに近寄らせるわけにはいかない。だからミーナは鉄蛇の進路を阻む位置に構える。

「みんな、やる事は時間稼ぎよ。

 トゥルーデたちがコアを破壊するまで、なんとしてでも鉄蛇をここに縫い止めるわ」

「「「「了解」」」」

 もちろん、簡単な事ではない。

 サーニャとエイラは豊浦の所にいる。そこからさらにリーネ、エーリカ、トゥルーデが抜けたメンバーで、あの猛威を振るった鉄蛇と相対しなければならない。

 コアを撃破するトゥルーデたちは論外だし、サーニャたちの助力も期待できない。鉄蛇も、誰がカギを握るのかわかっているのだろう。豊浦のいる場所には凄まじい雷撃が集中している。固有魔法を駆使して何とかしのいでいるようだが、二人はそれで手一杯だ。

 だから、……やるしかない。

 

 咆哮。

 

「行きなさいっ!」

 ミーナの号令。それとともに散会。銃弾をばら撒きながら鉄蛇を睨む。

 銃弾は鉄蛇を穿ち、鉄蛇は煩わしそうに頭を振る。そして、

 

 雷撃。

 

「ふっ」

 己の知覚能力を最大限に駆使して、複雑な軌跡を描く雷撃を前進しながら回避。鉄蛇に肉薄する。

「いけっ」

 引き金に指をかける。銃撃。鉄蛇の頭部に銃弾を叩き込む。

 やる事は撃破ではない。時間稼ぎだ。トゥルーデたちがコアを撃破するまで鉄蛇を足止めする。

 それがどれだけ困難か、解る。けど、

「砲撃」

 振り上げられる鉄蛇の尾。回避軌道を取りながら告げる。直後に大音。爆発。

 莫大量の砲弾が鉄蛇を打撃。鉄蛇は弾き飛ばされ、砲弾の先、《大和》を睨む。口を開く。けど、

「させないっ!」

 口を開く蛇頭を芳佳が銃撃。鉄蛇は射線を逸らされ空に雷撃を放つ。

 やった、と。……けど、不意に感じる。寒気。

「宮藤さんっ!」

 蛇頭が芳佳を睨む。口を開く。吐き気がするほどの寒気を感じ、ミーナは芳佳との間に、二人でシールドを構築。

 

 雷撃。

 

「ぐ、……つっ?」

 鉄蛇は口から巨大な雷撃を続ける。強力な雷撃がシールドを削る。……大音。

「あっ」「ひゃっ?」

 蛇頭は砲撃される。巨大な砲弾に頭部を打撃され、逸らされた巨大な雷撃はミーナと芳佳の横を抜けて空を駆け抜ける。

 外れたことを自覚したらしい。鉄蛇は雷撃を終了。一息。

「え?」

 ばちばちと、辺りに紫電が弾ける。ミーナはそれを感じ取り、声。

「総員っ、後退っ!」

 ウィッチたちはその声に従い後ろに飛ぶ。そして、ミーナの眼前で巨大な球電が弾ける。構築に巻き込まれたらシールドの展開など関係ない。感電死する。

 一筋縄ではいかないわね、と。ミーナは溜息。

「ミーナさん、今のは?」

「任意の場所に巨大な球電を発生させられるようね。放出じゃなくて構築、防御は出来なさそう、けど。前兆は把握しやすいわね」

「はい」

 芳佳と言葉を交わし、ミーナは視線を向ける。あちらも、なかなかてこずっているらしい。コアだけでも雷撃できるのだからつくづく面倒な相手だ。

 

 咆哮。

 

「下っ!」

 叫び、ミーナは飛翔。自己の固有魔法が下、地面を覆う黒雲から上に放たれる雷撃を知覚する。

「は、あっ」

 固有魔法は大気中の電気を感知し、ミーナは飛翔。鉄蛇が口を開く。

 

 雷撃。

 

「舐めないでっ!」

 飛翔速度は緩めない。陰陽により知覚可能な程度には減速しているとはいえ、それでも高速で迫る雷撃をミーナは紙一重で回避し、銃撃。

 銃弾が鉄蛇を穿つ。鉄蛇は咆哮。その横をミーナは銃撃を加えながら通過する。

 そして、その行く手を阻むように巨大な尾が振り上げられる。

「ふっ」

 シールドを展開。尾が叩き付けられる。シールドごと上に弾きあげられる。

 けど、それでいい。

「シャーリーさんっ!」

「あんまり無理をするなよっ」

 振り上げられた尾をくぐるようにシャーリーが突撃して銃撃。それにルッキーニも続く。

 二人の銃撃を受け、鉄蛇は咆哮を叩き付ける。

 音圧の打撃。雷鳴のような轟音と衝撃。けど、

「あっ、まーいっ!」

 ルッキーニはシールドを展開。衝撃を防ぎその向こうからシャーリーは銃撃。鉄蛇の頭部に銃弾を撃ち込む。

「まったくっ、こらバルクホルンっ、さっさとコア潰せっ!」

『解ってるっ! だが、コアの無差別な雷撃でなかなか近寄れないっ』

「んじゃ、もうしばらく頑張るしかないなっ」

 それもそうね、と。聞こえてくる会話にミーナは笑みを浮かべて頷く。

「ええ、頑張って時間を稼げば、潰してくれる。

 信じてるわよ」

 

「これはなかなか、大変だなっ」

 雷雲に沈む瓦礫の上。エイラとサーニャは自分の固有魔法を最大限活用して高速で立ち回る。

 全方位から放たれる雷撃。視界を埋め尽くす雷光。二人はそれをすべてシールドで防御。

 固有魔法を全力起動しながら高速の挙動、そして、莫大量の雷撃をすべて防ぎきるシールド。そのどれもが凄まじい負担となって二人にのしかかる。

 だから、

「エイラ、大丈夫?」「サーニャ、苦しくないか?」

 二人の問いが重なる。二人とも、答えはわかってる。

 大丈夫じゃないし、苦しいに決まってる。集中を切らすことはできない。そんな事をすれば雷撃が豊浦を貫く。

 一瞬先の未来、右から放たれる雷撃を予知してエイラは疾駆。シールドを展開して防御。それと同時、雷撃の初動を固有魔法で感知したサーニャは全力で飛んで防御。

 サーニャがいた場所が空いた。そこに束ねられる雷撃。エイラはそちらに飛んで途中でサーニャの手を握る。サーニャはエイラに手を引かれて雷が束ねられる場所に飛翔。二人でシールドを展開。

 二重のシールドに叩き付けられる一撃。まるで、巨大な槍で穿たれるようで、けど、二人は耐えて散会。一秒、一瞬でも先を予知しようとエイラは固有魔法に集中し、微かな静電気、僅かな空気の振動さえ見逃さないとサーニャは固有魔法の感度を限界に引き上げる。

 じりじりと、脳が締め付けられるような感覚。集中の極を維持して二人は飛翔し防御し、彼を守る。

 守る、……と。サーニャは視界の中、豊浦の存在を意識する。

 彼は周りに視線を向けない。ただ、手の中の懐中時計に視線を落としている。

 時間制御、想像さえしたことのないような魔法。それが彼にとってどれだけ負担になるか、……ただ、

「守り、ます」

 自分たちを彼は信じてここにいる。だから、それには絶対に応える。

 飛翔、右から放たれる雷撃を防御。逆方向から放たれた雷撃をエイラが防いだのを横目で確認し、さらに飛んでシールドを展開、雷撃を防御。防御しながら飛翔を継続。エイラの手を取る。エイラは頷いて二人で飛んでシールドを展開。二重のシールドで巨大な雷撃を防御。

 手を離す。二人、散会して雷撃を防ぐ。視界を埋め尽くす雷光を一つ一つ、確実に防いでいく。

 踊っているみたいだ、エイラはそんな事をふと思った。

 鉄蛇に蹂躙された横須賀海軍基地、広い足場はほとんどなく、ここもどうにか見繕った場所。そこで豊浦を中心にサーニャと飛び回り、時に離れて時に手を取り、雷撃を叩き落す。そんな中、

 守ります、そんな声が聞こえた。……溜息。

「ああもうっ、せめて守るなら女の子がいーんだけどなっ」

 特に、豊浦に不満があるわけではない。彼の存在は戦闘の鍵で、彼がいなければ知覚不能な速度で叩き込まれる雷撃を防御する術はない。

 ゆえに、守る意義は十分。けど、叶うなら。

 ぱんっ、と手が叩かれる。エイラも理由はわかる。すでに雷撃は束ねられている。固有魔法は巨大な雷撃を知覚、サーニャと二人で防御する必要がある。

 だから、サーニャはエイラの手を取って飛翔。……ふと、声。

「私じゃなくて?」

 少し、意地悪な問い。対してエイラは、笑う。

「そーだな。……うん、けど、サーニャと一緒に頑張るの、これはこれでいいものだな」

 大切な彼女を守るのではなく、一緒に戦う。どんなつらい戦いでも、二人で手を取り合って乗り越える。

 それはそれで幸いだとエイラは微笑。サーニャは、…………刹那、その微笑に見惚れそうになり、慌てて意識を集中。

 そして、二人でシールドを展開。巨大な雷撃を凌ぐ。

「防御ばっかりだね」

 一撃を凌いで再度飛翔するサーニャはぽつりと呟く。ただのネウロイなら本体を撃破して、それで終わり。

 けど、今、相対しているのは雷雲。破壊のしようがない。ただ、ひたすら防御して耐えるだけ。いずれ、消耗して無防備に雷撃を受ける。……そんな未来さえあり得る。

 けど、それでも、…………そんな苦境に立ち、なお、サーニャの表情に悲壮はなく、エイラの口元に悲嘆はない。

 戦闘の要を守り、大切な人と戦う、二人は歯を食いしばって己の成すべきことを成す。

 これが、みんなと戦うという事だから。

 だから、悲嘆も悲壮も不要。あるのは、ただ、

「信じてるよ」「ちゃんとやれよ」

 信頼だけ。それだけを胸に、二人は死地を飛び回る。

 

「信じてる、……か」

 トゥルーデは苦笑して眼下を睨む。そこに、雷雲に沈んだ鉄蛇のコアがある。

 巨大な、深紅の宝石。ばちばちと、ほぼ常時帯電している。

「簡単ではないのだがな」

 雷撃は止まらない。特にトゥルーデたちを狙って攻撃している様子はないが、その分読みにくい。

 鉄蛇という、ある程度意志を持つネウロイではなく、自然災害としての雷雲を相手にしているような感覚だ。

「ま、なんだって変わらないさ。さっさと仕留めないと」

 あっちもね、と。エーリカは巨大な尾の薙ぎ払いを回避するミーナたちと、莫大量の雷撃にさらされるサーニャたちを見る。どちらが楽か。……それを論じても仕方ない。

「リーネ、来れるか?」

「はい」

 遠距離からの狙撃を行っていたリーネもトゥルーデとエーリカの側へ。対装甲ライフルを握る。

「あのコアに意思があるかは不明だ。今のところ、ランダムに雷撃をばら撒いているようにしか見えない。

 が、そうでない可能性もある。悪いが、付き合ってもらう」

 もし、まだわかっていないだけで敵を狙うだけの意思があるのなら。……その場合、標的を分散させた方が負担は抑えられる。

「はいっ、頑張りますっ」

 リーネもそれに納得し、トゥルーデは頷く。

「では、突撃するっ」

 目標である鉄蛇のコアは動かない。雷雲の中に鎮座している。

 そして、雷雲の中には無数の雷光。「シュトゥルムっ!」

 突撃しながら固有魔法起動。放たれた竜巻が雷雲を蹴散らす。けど、

「まだですっ!」

 すでに、雷雲は広大な範囲で展開している。直下の雷雲は散らせても周囲の雷雲は容赦なく雷撃。リーネはそれをシールドで受け止める。

 そして、

「一度散らしただけではだめか」

 竜巻で空いた雷雲の穴。その中央にあるコアから雷雲が零れる。それも、

「上がってますっ」

「ちっ、……このまま雷雲に閉ざす気か」

 そうなれば、雷撃の回避はさらに厳しくなる。眼下、雷雲の中には無数の雷光が見えるのだから。

 それに、……エーリカは視線を向ける。その先、鉄蛇も、豊浦の事は認識しているらしく周囲から凄まじい数の雷撃を叩き込まれている。エイラとサーニャ二人で必死にしのいでいるが、これ以上の攻撃頻度になればあちらがもたなくなる。だから、

「トゥルーデ、リーネ。雷雲を払う。……あと、任せた」

「ハルトマンさんっ?」

 ぽつり、呟いた言葉にリーネは反射的に声をかける。対し、「わっ」

「それ、使いなよ。対装甲ライフルよりはこれから、使えるだろうからさ」

 渡されたのはエーリカが使っていた機関銃。これで彼女は武器を持たなくなる。その意味は、……その意味、察しリーネは声をかけようとする、が。

「了解した。死力を尽くせ」

「バルクホルンさんっ?」

 淡々と、トゥルーデは告げて両手の機関銃を構える。振り返る。

「リーネ」

「…………はい、ご武運を」

「そっちもね」

 

 二人を見送り、エーリカは一息。……一度、豊浦を見て、

「さて、……柄じゃないんだけどなあ」

 手を振る。長期戦にならないことを祈り、エーリカは固有魔法を起動した。

 

「つっ」

 後ろから放たれる暴風。それは周囲一帯、……否、見渡す限りの雷雲を吹き飛ばす。

 それも、一度吹き散らしただけではない。風は渦巻き、コアからこぼれる雷雲を片っ端から吹き飛ばす。けど、

「ハルト「振り返るなっ」」

 それだけの固有魔法の行使、エーリカにとって大きな負担になる。心配そうに呟くリーネにトゥルーデは声を上げ、

「振り返る暇などない。一秒でも早く交戦を終了させるっ!」

「はい」

 頷き、リーネは風に乗って真っ直ぐに下へ。そして、機関銃を構える。

「こういうのは、初めて、だけど」

「リーネ?」

「行きますっ」

 引き金に指をかける。固有魔法を起動。

 弾道の安定、威力の強化。普段ならライフルでの一撃必殺で使う固有魔法。それを、機関銃で実行。

「…………頑張れ」

 トゥルーデの言葉にリーネは返す余裕がない。毎分五百発の銃弾すべてに固有魔法を上乗せしての掃射。極度の集中と魔法の行使による疲弊が体を蝕む、が。

「あ、……あ、」

 苦しそうな声が漏れる。トゥルーデはそちらに視線を向け、機関銃を二丁構える。

「出し惜しみはなしだな」

 引き金を引いた。

 

 暴風とともに莫大量の銃弾がコアに突き刺さる。防御を考えない掃射。いくら頑強な鉄蛇のコアとはいえ、確実に削られ、砕かれていく。

 ここが正念場、ミーナはそう判断して艦砲指示、ともに戦うウィッチたちに頭部への集中銃撃を指示して鉄蛇の動きを止める。自らの損傷さえ厭わず突撃する鉄蛇を手数と速度で補い攻撃を逸らし続ける。

 コアが銃撃されて崩壊していく。エーリカとリーネは消し飛びそうな意識を必死につなぎとめて固有魔法を維持。コアを削っていく。

 もう少し、…………そう判断した瞬間。

 

 雷撃。

 

 コアから直接放たれる巨大な雷撃。トゥルーデは前に飛び出してシールドを展開。

「バルクホルン、さ「構うなっ」」

 歯を食いしばってシールドを維持するトゥルーデ。リーネは頷き、銃撃を続ける。

 きっと、大丈夫。……そう信じて、…………「いいけど、あんまり無理すんな」

 声。トゥルーデのシールドにもう一枚、追加。

「エイラっ」

「雷雲吹き飛んだからもう大丈夫だってさ。

 一応、な」

 無理矢理、そんな表情でエイラは笑う。大丈夫か? 否、鉄蛇はまだ動きミーナたちと交戦している。豊浦は、一人立っている。

 爆発の音、フリーガーハマーを構えたサーニャはさらに引き金を引く。コアが銃撃に削られ爆発。そして、

「バルクホルンさんっ、お願いしますっ!」

 後ろから芳佳が飛び込む。シールドを展開してそのまま突撃。巨大な雷撃を真っ向から押し砕く。

「ああ」

 トゥルーデは頷き、シールドを解除。二丁の機関銃を向ける。

 そして、引き金を引く。雷撃を押し砕き、機関銃から放たれる銃弾がコアを貫き、

 

「お疲れ様。みんな、よく頑張ったね」

 

 破砕。

 


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