怨霊の話   作:林屋まつり

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三十五話

 

 さらさらと、雨が降る。

 

「豊浦さんは?」

 エーリカと向かい合って炬燵に入っていたペリーヌはそんな声を聞いて顔を上げる。

 声の主は芳佳。朝食をとって自室に行っていたと思ったけど、こっちに来たらしい。

 問いにペリーヌは「さあ」と首を傾げる。

「朝食終わったらなんかふらふらどっか行っちゃった。

 雨なのに、あいつなにやってんだか」

 面白くなさそうにぼやくエーリカ。一緒に炬燵に入っていたトゥルーデは頷いて、

「豊浦にも規律というものを教えてやらねばならないな」

 むんっ、と拳を握る。エーリカは「えー」と不満そう。

「不満ですの?」

「あのくらい緩い方がいいってー、ねー、宮藤。

 宮藤も豊浦に1に規律2に規律、3も4も規律だー、……なんて言って欲しくないでしょ?」

「宮藤」

 トゥルーデとエーリカに視線を向けられ、後退する芳佳。

「え、ええと、……豊浦さんは軍人さんじゃないし、少しくらい緩くてもいい、と思うよ」

「だよねー」「宮藤ーっ」

 嬉しそうに応じるエーリカと、なぜか悔しそうに応じるトゥルーデ。ペリーヌはぼんやりと炬燵で温まりながら、確かに彼ががちがちの規律男になったら変ですわね、と思う。

 ともかくお茶を飲み、ほう、と一息。ついでに煎餅に手を伸ばす。「…………何ですの?」

 じ、とペリーヌを見ている芳佳。問いに芳佳は慌てて手を振って「いや、ペリーヌさんも馴染んできたなあ、……なんて」

「…………はっ?」

「ふっふー、お堅いペリーヌも炬燵の魅力には抗えなかったみたいだね。

 さあ。この怠惰空間でだらけ始めなよー」

「断固拒否しますわ」

 きっぱりと応じるペリーヌ。炬燵から出ないのであまり説得力がない。

 ともかく、このままお話ししようと芳佳はペリーヌの隣に腰を下ろして炬燵の中へ。ほうと一息ついたところで、戸を叩く音。

「あれ? お客さん?」

「坂本少佐っ?」

 ペリーヌは立ち上がる。ここに来るとしたら扶桑海軍の誰かか、あるいは芳佳の母か祖母か。……そして、扶桑海軍の誰かが来るとしたら美緒もいる可能性が高い。

 憧れの女性が来た。だからペリーヌは立ち上がり玄関へ。芳佳も彼女に続く。

 玄関を開く。と、「あ、あれ? 坂本少佐?」

「誰それ?」

 見たこともない少年。……おそらく、ルッキーニより年下かもしれない。

 彼はペリーヌを見て首を傾げ、次いで現れた少女に視線を投げる。「宮藤芳佳?」

「あ、うん」

「朱砂の裔から聞いてるよ。

 現代の英雄。ウィッチ、とか言ってたね」

「え、英雄っ?」

「違うの? 君は宮藤芳佳じゃないの?」

「そ、そう、だけど」

「…………まあ、そういう風に言われることもありますわ」

 どうも、芳佳にその経験はないらしい。ペリーヌは苦笑。慣れていないと、その評価はかなり困るだろうから。

「そうなんだあ」

「それで、朱砂の裔は?」

「え? ……すさの、すえ?」

「誰ですの? 名前、には聞こえませんわね」

 二人は首を傾げる。彼は眉根を寄せて、……溜息。

「蘇我豊浦」

「豊浦さんっ?」「豊浦さんの、知り合いですの?」

「残念ながらね。まあ、知り合いなんだし、それはそれで仕方ない。あれに用事があるんだけど、いるかな?」

「ううん、出かけてて、いないみたい」

 芳佳の問いに彼は肩を落とした。

「いきなり頼みごと押し付けて、終わったから連絡に来たら不在か。…………まあいいや。

 ここで待たせてもらうよ。いい機会だ。現代の英雄たちと話もしてみたかったんだ」

「あ、うん。どうぞ」

 微かに、気圧されるように芳佳は応じる。彼は靴を脱いで屋内へ。芳佳は居間に案内するために歩き出して、……ペリーヌは違和感を感じて外を見た。

「傘、は?」

 外はさらさらと雨が降っている。雨具の類はない。……けど、彼が濡れている様子もない。

「…………豊浦さんの知人、……ですわね」

 ペリーヌは雨天に向けて呟いた。

 

「言仁。それが僕の名だよ。君はペリーヌ、でいいね?」

「ええ、はい、それでいいですわ」

 自己紹介は終えているらしい。最後に少年、言仁はペリーヌに名乗り、ペリーヌも応じる。

「宮藤さんは?」

「他のみんなに声をかけてもらいに行った。興味あるんだ。現代の英雄、ウィッチたちにね。

 尊治が騒いでたし、……そうだね。土産話にはいい機会だ。あれの頼みも話しておくよ。君たちにも関わる事だからね」

「豊浦の頼み事ね」

 ペリーヌも興味がある。関わるといわれればなおさら、そしてウィッチたちも集まってきた。

 みんな興味があったらしい。そして、最後にシャーリーとルッキーニが顔を出して、

「あっ、言仁っ」

「言仁だっ、あたしのこと助けてくれてありがとねっ」

「え? この子がルッキーニを助けてくれた人?」

 驚くミーナ。言仁は「そうだよ」と応じ、

「けど、感謝する必要はないよ。助力に大して意味はない。感謝するならシャーリーにするんだね。

 だって、」

 言仁は、笑う。笑って、

「それが、僕たち魔縁、……怨霊の在り方だからね」

 怨霊と、名乗った。

 

「怨霊、……豊浦さんと、同じ?」

「そうだよ。朱砂の裔は僕たちの事について何も話していないの?」

「怨霊であることと、あとは、随分なご長寿であること、くらいですわね。貴方もそうなんですの?」

 ペリーヌの問いに言仁は頷く。

「まだ千年とたっていないけどね。……七百五十年、くらい、だったかな。…………そうだね。

 芳佳、源平合戦って知ってる?」

「あ、はい。扶桑皇国の、……ええと、平安時代? の時の源氏と平氏の戦争ですよね。源義経、とか」

 坂本さん好きそう、と思いながら芳佳。言仁は笑う。

「ああ、うん、いたね。源義経。

 あの田舎侍。まだどこかにいないかな、いそうなものだけど。……ああ、そうだね。見つけたら両足を縛りあげて海中に引きずり込んでやりたいね」

 にたり、陰惨に笑う言仁に思わずルッキーニが震える。「ええと、」と芳佳は、

「お、お知合い、ですか?」

「言仁、後世には安徳帝。なんて呼ばれているよ。その源平合戦で敗北した平氏の、……まあ、代表かな。当時は七歳くらいだったから、代表というよりは象徴だね」

「信じられませんわ。……それじゃあ、扶桑皇国には死者を蘇生させるような魔法が、」

 ぞっ、…………とした。

 目の前の自称怨霊ではなくて、死者を蘇生させる、という事に行きついた自分の考えに、……そして、何より。

 それが出来れば、喪った両親を取り戻せる。……そんな事を考えてしまった自分に、寒気がした。

「ないよ。なんだ、朱砂の裔は僕たちの事を何も話していなかったんだ。

 なんだろうな。話したくない理由でもあるのかな。……まあいいや、お茶をもらえる? 長話になるから」

「あ、はい」

 芳佳は立ち上がりお茶を取りに行く。

「あ、私も手伝うね。みんなの分」

「そうだね。ありがと。リーネちゃん」

「私もお手伝いするね」「人数分か、しょーがねーな」

 人数分の飲み物となると結構重い。サーニャとエイラも手伝うために立ち上がる。彼女たちを見送って、

「扶桑皇国出身は芳佳だけ?」

「ええ、そうよ」

 ここにいるのは芳佳だけだ。ミーナは頷く。ふぅん、と言仁は応じて、

「彼女はいい娘?」

「…………そうね。悪い娘じゃないわ。いい娘よ」

 頷く。規律違反も厭わないところはあるが、それは彼女がやるべきだと決めたから。

 誰かを助けたい、そんな思いにいつも全力な芳佳はとてもいい娘だと思ってる。

 だから、

「そう、彼女の事は好き?」

「ええ」

 その問いに、躊躇なく頷く。

「それはよかった。彼女の事をこれからも大切にしてあげてね」

「随分と気に掛けるのだな」

 トゥルーデが首を傾げる。対して言仁は微笑。

「名目だけ、とはいえ、僕は過去の帝でもあったからね。民の事は気にするよ。

 そうだね。価値観が違ってそうな異国の娘にもそう思ってもらえるなら間違いはないんだろうね。よかったよ」

「帝、……ですのね」

 貴族であるペリーヌにとって、その意味はよくわかる。

 扶桑皇国の長。王、よりさらに上位に位置にいる存在。他国とはいえ貴族であるペリーヌにとってその意味は重い。

 けど、

「ああ、そういえばペリーヌは貴族か。

 いいよ別に気にしなくて、過去はともかく、今は一つの怨霊だ。別に敬意を表せとは言わないよ」

「え、ええ、わかりましたわ」

 

 芳佳たちがお茶を持ってきて、一口。

「さて、……そうだね。

 僕たちだけど、別に死者が蘇生したわけじゃない。……そもそも今は人じゃない。信仰の形。……んん、と。欧州なら、マナ、あるいは、魔力だったかな?

 扶桑皇国で言うなら《ひ》、……大気を満たす霊力。自然霊、精霊の総称。人で言うなら魔法力、といったところかな。それが形作った存在だよ。だから、人であった言仁とは別の存在だね。人であった言仁は僕のオリジナル、といった方がいいかな」

「そんな事が、起こり得るん、ですの?」

 昔々の御伽噺で、ペリーヌもマナや自然霊について聞いたことがある。

「うー」

 ルッキーニにはよくわからないのか頭を抱え、ミーナは頷いて、

「そうね。私たちの魔法力はそのマナを源流としている、という説もあったわ。

 あまり、顧みられないみたいだけど」

「《むすひ》なんて言葉がある通り、扶桑皇国のは産みだすことに特化してるんだよ。それがね。……いや、他国の事は知らないけど。こんな字」

 産霊、と。彼は持参したメモ帳に字を買う。

「それが土壌というわけね。

 といっても、誰もが無差別に生まれるわけではないのでしょう?」

 もしそうなら、扶桑皇国は世界でも最も異質な国となるだろう。耳に入らないはずがない。

「そうだよ。……そう、怨霊しか構築されないんだよ。

 僕とか、あの、朱砂の裔のような、ね」

「強い怨みを抱えている、っていう事?」

 怨霊という字面から、どうしてもそのイメージが強くなる。エーリカが問い、シャーリーは、ふと、思い出す。

「国の滅びを望む者、って、そういう事か?」

 以前、彼が豊浦を表した言葉。

「ああ、そうだよ。……けど、話が一足飛びになるね。シャーリー、その言葉はまだ先の言葉だ。もう少し話を続けさせてよ」

「あ、ああ、…………悪い」

 口を挟んだ事にシャーリーは小さく謝る。

「いいよ。僕みたいな老人は喋るのが好きなんだ。話に割り込まれるのも嫌いじゃない。そこから話を続けていけるからね。

 そうそう、年を取ると話が長くなる。君たちにとっては先の話になるだろうけど、覚えておくといい」

 どう見てもルッキーニより年下に見える少年から言われると不思議な言葉だが、不思議と違和感はない。

「さて、強い怨みを抱えている。……っていうけど、さっき話した通り僕は七歳くらいで没した。怨みを抱えるほどの感情はないよ。

 眼前で家族が皆殺しにされた。それも、怖いという強い印象で刻まれただけだ。そもそも、怨む相手の素性さえろくに理解できていないんだからね」

「眼前で、……家族が、」

「ペリーヌさん」

 知らず、拳を握るペリーヌ。リーネは心配そうに声をかける。

 ペリーヌの事は、彼女も知っているのだから。……だから、リーネはペリーヌの手を握る。

「え、……ええ、ありがとう。リーネさん」

 そのぬくもりに安堵の吐息を漏らし、ペリーヌは一息。

「じゃあ、怨霊というのは?」

「怨んでいる霊。じゃあない。怨んでいるであろう霊、だよ。

 言葉遊びのようにも聞こえるけど真面目な話だ。怨霊を構築するのは、元となった人を殺した人なんだ。

 その人たちが怨まれているであろうという不安。そして、……まあ、災害や死、病。そうした災厄が怨んでいる人が起こした祟りと判断し、強い恐怖、畏れから祀る。……そうやって僕たちは形作られる。

 そう、言仁が死ぬ原因となった者が、言仁に怨まれていると思って鎮魂のために祀った神格。それがここにいる怨霊、言仁、つまり僕だ。扶桑皇国の特性と固有の信仰が構築した存在だね」

「そうなんだ。……じゃあ、言仁さんも、豊浦さんも、誰かを怨んでいるとかって、ないんだね」

 安心した口調で芳佳。彼が誰かを強く怨んでいる。……そうは、思いたくない。

 けど、言仁はあっさりと応じる。

「あるよ。僕は一端だとしてもあの忌々しい源氏の田舎者どもが構築したこの扶桑皇国が嫌いだ。

 僕だけじゃない、尊治も、道真もね。扶桑皇国も、滅びるなら滅びればいいと思ってる。

 けど、僕は滅ぼそうとは思っていない。そこまで積極的には考えていないよ。尊治は滅ぼしたいのか、遊びたいだけなのか、まあ、いろいろやってるみたいだけどね。……ただ、豊浦もこの国は嫌いなはずなんだ。僕とは違って、……いや、僕よりも強くこの国を怨んでいるはずだ」

「そう、…………なの?」

「朱砂の裔が抱える怨みについては後で聞くといい。それは僕が語る事じゃない。

 けど、芳佳」

「あ、……うん」

「君は、この扶桑皇国が好きかな?」

 問われて、芳佳は、小さく、頷く。言仁は微笑む。

「怨霊である僕は君と全力で戦いたい。この存在に刻まれた怨みをもって国を脅かす魔として、その怨みを、この扶桑皇国を守る英雄である君にぶつけたい。

 好きか嫌いかで言われれば君の事は好きな部類に入るけどね。だからこそ、魔として英雄と戦いたい。その結果敗北したなら、この怨みは晴らせなかったでいいし、勝利したなら、…………まあ、英雄を打倒した魔が次は何をするかは、ほら、想像できるよね?」

 想像したくない、と。芳佳は首を横に振る。言仁は微笑。

「といっても、僕は君と戦うつもりはないよ。今のところはね。

 ただ、朱砂の裔がどう思っているかは解らない。……けど、彼は僕以上の、強大で危険な、魔、だ。覚悟はした方がいいよ」

「……つじつまが合わないわ。

 国が嫌いなら、どうして鉄蛇を封じたり、私たちに協力してくれるの?」

 ミーナは、睨むように強く、言仁を見て問う。問いに言仁は楽しそうに笑う。

「簡単じゃないかな。君たちの事が好きだからだよ。

 だから協力したくなるし、一緒にいられる時間を長くしたくなる。その点だけはあいつが羨ましいかな。さて、こ「言仁」」

「あ」

「やあ、朱砂の裔。

 酒呑は歓迎するって言ってたよ。船はあるね? 秦河勝からうつろ舟くらいかっぱらってるでしょ? 移動はそっちでやってよ」

「わかってるよ」

「ああ、そうだ。芳佳、気が向いたら友達と一緒に龍宮においで、壇ノ浦で僕の名を呼んでくれれば返事はするよ。

 そしたら、龍宮に案内してあげる。僕も君たちの事は気に入ったから、いつか遊びに来てね」

「え、あ、う、うん」

 壇ノ浦、……名前は聞いてるけど、どこだっけ? と。そんな事を思っていると言仁はお茶を飲み干し。

「それじゃあ、僕は帰るよ。

 さようなら、話が出来て楽しかったよ。じゃあね。よき時間を、聖徳」

「さっさと帰りなよ。安徳」

 憮然とした表情で追い払うように手を振る豊浦。言仁はそんな仕草も面白いのか、笑いながら部屋を出た。

「…………まったく」

 豊浦は空いた席に座る。

「言仁が何を言ったかは知らないけど、怨霊の怨み言だ。気にしないでいいからね」

「…………は、」

「ん?」

「豊浦さんも、……この国が、嫌い、なの?」

 否定を願っての問い。芳佳の言葉に豊浦は困ったように彼女を撫でる。

「…………僕の姓は、蘇我。なんだ。乙巳の変。……いや、大化の改新の方が有名かな。芳佳君は知ってるかい?」

「あ、……蘇我。って」

 蘇我、そして、大化の改新。

「どういう事だ?」

 トゥルーデの問いに「歴史の話だよ」と、豊浦は微笑む。

「乙巳の変。蘇我臣凋落のきっかけ。僕が後に権力を握る家系に与するの者に首を刎ね飛ばされた政変だよ。

 それにしても、まったく、怨霊は皆余計な事ばかり言う。年寄ばっかりでさ、話好きで困るよ。……いや、年は取りたくないね。ほんと」

 豊浦は苦笑。……けど、

「…………その、そんなに気にしないで、欲しいな」

 しん、とした沈んだ雰囲気に豊浦が困ったように呟く。

「気にしないで、……って、だって、豊浦さん、それで、…………」

 殺された。リーネはその言葉を続けられずに俯く。

「もう終わったことだからね。僕は私闘をしない主義だし、……ああ、ええと、……………………まったく、ほんと、あの蛇は余計な事を言ってくれたなあ」

 かしかしと、豊浦は頭を掻いて、溜息。

「ええと、ミーナ君。

 その、急で悪いんだけど、二日か三日か、時間とれるかな?」

「え、……ええ、大丈夫よ。どうしたの?」

「うん、……まあ、ええと、頑張ってる皆にご褒美。

 驚かせようと思ってたんだけど、あの蛇が余計な事を言ってくれたせいで台無しになったよ」

「ご褒美?」

 エーリカの問いに豊浦は頷いて、

「うん。僕の友達の家にみんなでお泊りに行こうと思ってね。

 ああ、友達って言ってもさっきの性悪な怨霊とは違うから大丈夫だよ。結構いいところだし、期待していいからね。……と、いうわけで、いいかな、ミーナ君。我侭聞くって前言っちゃったし、その時、僕に出来る事ならいろいろ聞いてあげるから、ねっ」

「あ、いえ、……その、冗談だったのだけど」

 妙に乗り気な豊浦。少し申し訳なさを感じながらミーナは呟く。「え?」と、豊浦は目を見開く。

「そ、……うだった、の?」

「え、ええ、…………ええと、その、ごめんなさい」

 なぜか意気消沈する豊浦。ともかく、ミーナは一息ついて、

「ええ、大丈夫よ。一応、時間はあるのだし」

 それに、豊浦には世話になっている。彼からの頼み事なら無碍には出来ない。

「そっか、それならよかった。……ええと、だから、」

 豊浦は、困ったように、けど、柔らかく微笑む。

「君たちには、笑って欲しいな。

 怨みとして語られる過去を持つから、大切な人には笑顔でいて欲しいんだ。僕たちは、ね」

 


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