怨霊の話   作:林屋まつり

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三十二話

 

「ペリーヌ君は、…………あまり器用じゃない、ね」

「う、うるさいですわねっ」

 ビニル手袋をして手際よく寿司を握っていく豊浦の隣、悪戦苦闘するペリーヌ。

「ツンツン眼鏡は料理なんてしないもんなー」

 そしてけらけら笑うエイラ。ペリーヌは難しい表情。

「うう、なんで、……エイラさんも料理しているイメージがまったくないのに」

「んー、確かにやらないけど。ああ、リーネの教え方がうまいからかな」

「僕は下手かな?」

 豊浦は苦笑。エイラは彼の手元を覗き込んで「口で伝えるのも限界あるだろ、それ」

 エイラの持って来たネタを手に取り器用に握っていく豊浦。ペリーヌも彼の手つきを見よう見まねで再現しようとしているが、なかなか難儀しているらしい。

「はあ、こんなの一体どこで習うんですの? 専門の学校とか?」

「家船っていう漁業民」

「…………さすがお年寄り、広範な交友関係をお持ちで」

 ペリーヌは肩を落とす。……つまり、経験の差だろう。

「ペリーヌも貴族なんだから、そこの胡散臭い怨霊より交友関係広げないとな」

「そーですわねー」

 けらけら笑うエイラに溜息を返す。と。

「エイラさん、固有魔法を使って、これ切ったらどうなるか見てくれないかしら?」

「料理に固有魔法使いたくないんだけどな」

 難しい表情で巻き寿司に具材をのせていたミーナの要望を一蹴。エイラはサーニャとネタを切り始め、リーネがミーナの所へ。

「まあ、ペリーヌ君はいろいろ忙しいのだろうし、仕方ないと思うよ」

「…………むう、けど、殿方に料理で負けるのは、悔しいですわ」

 豊浦のいう事は正しい。今はウィッチとして活躍しているが、そうでない場合は孤児たちの世話や貴族として領地の統治、そして、ガリアを治める他の貴族やガリアの執政者との交流もある。

 特に、ペリーヌはガリア解放の立役者であり、故郷の英雄として会合を望む者は多い。ペリーヌの意思を極力尊重してもらっているが、貴族として他の貴族との付き合いは蔑ろに出来ない。

 ゆえに、豊浦のいう通り非常に多忙だ。料理が出来なくても責める者はいない。……ただ一人を除いて、

「貴族だからできない、なんて立場に甘んじるような考えは許せませんわ。……それに、いつか、子供たちにも作ってあげたいですし」

 ペリーヌが自宅にいたときはリーネも一緒にいた。彼女の料理は好評で子供たちはとても楽しみにしていた。…………正直に言えば、羨ましかった。

「そう、……ペリーヌ君は優しいんだね」

 微笑ましそうにそういわれると照れる。ついでに、……「撫でないんですの?」

 警戒していたが故の意外な声。豊浦はビニル手袋をつけた手を広げて「撫でて欲しい?」

「結構です」

 苦笑してそっぽを向く。子供扱いは不満だが撫でられるのは嫌いではない。が、酢飯を握ったビニル手袋で女性の髪に触れたら間違いなく殴る。

 ともかく、悪戦苦闘の甲斐もあってか少しずつ慣れていく。ゆっくりでも形は整ってきて、

「じゃあ、そっちはお願いね」

「別のでも作るんですの?」

「ん、軍艦巻きをね。あんまり作ったことないけど、ペリーヌ君もいるし挑戦してみようかなって思って。

 巻き寿司は、……ミーナ君が頑張ってるみたいだから」

「…………盛大に首を傾げていますわね」

 どうも、切った後の絵柄が予想と違っているらしい。エイラに再度固有魔法で教えてもらうように頼み一蹴されている。

「ミーナ君は、……凝り性なのかな?」

「けど、美味しそうですわね。……ううん、妥協が許せないのかしら?」

 ペリーヌは肩をすくめて苦笑。ともかく巻き寿司が出来たらしい。満足の表情を浮かべたミーナは次に取り掛かる。

 意気揚々とミーナが作り出したのは、

「って、ちょっ、ミーナさんっ! なんでわさびだけっ?」

「わさび巻き、いいと思わない?」

「わさびは辛いんですっ、涙が出るくらい辛いですっ!」

「一人で食えよ」

「…………あの、ミーナさんは、別のお皿に」

「なん、……ですって? え? ……え、じゃ、じゃあ、…………あの、バナナとか」

「こんなところで創作寿司を作らないでくださいっ!」

「一人で食えーっ!」

「…………梅干しとか美味しいと思うわっ! おにぎりにもよく入ってるしっ」

「酢飯に梅干しってなに期待してるんだっ?」

「あの、ミーナさん。

 酢飯、置いておきますから、あっちでやってくれますか?」

 割と珍しい、サーニャの少し怒ったような声。ミーナは項垂れた。

「…………ごめんなさい」

 そんな様子を遠巻きに見ていた豊浦がぽつりと呟く。

「……ミーナ君は、創作料理が好きなのかな?」

「味覚が独特なんですわ」

 適当に応じてちょいちょいと寿司を作っていく。

「うん、随分慣れてきたね」

「え、……ええ、そうですわね」

 豊浦ほどではないにせよ、少しずつスムーズに作れるようになってきた。……ふと、

「ペリーヌ君のところにお米はあるのかな?」

「米? ええと、輸入した分ならありますわよ」

「それは、君たちの基地に?」

「ええ、そうですわ。それがどうかしまして?」

 不思議そうに首を傾げるペリーヌ。

「いやね。今度孤児とみんなでお寿司を作るのも楽しいかなって思ってね。

 ほら、さっきのミーナ君じゃないけど、意外と美味しい具材を見つけられるかもしれないよ」

「そうですわね。

 それに、ふふ、みんなで楽しめそうですわ。……まあ、そんなにお米はありませんけど」

 引き取っている子供たちやアメリー、屋敷の使用人や復興に力を貸してくれる人たち。そんなみんなを招いて好きな具材を乗せてお寿司を作ってみんなで食べて、……そんな光景を想像してペリーヌの頬が緩む。

「輸入経路を作ってみれば? 執政者としての仕事、扶桑皇国と米販路確立、とかね」

「……気楽に、…………まあ、考えてみますわ」

 気楽に言う豊浦にペリーヌは軽く笑って応じる。ネウロイとの戦争中、そんな余裕はない。

 けど、

「子供たちのために交易樹立。頑張ってね」

 豊浦は無責任に無茶苦茶な事を言う。けど、……それも楽しそうで、子供たちも喜んでくれるだろうな、と。

 そんな事を思ってしまった。だから、

「…………まったく、それ言われたら拒否できないじゃないですの」

 

「というわけで、今日のお夕飯はお寿司だよー」

「やったーっ!」

 居間で、炬燵の中央に散らし寿司。その周りに手巻き寿司や握り寿司。

 色とりどり、彩鮮やかな料理が炬燵に広げられる。少女たちは目を輝かせ、

「……せっかく、作ったのに」

「ミーナ?」

 一人しょげるミーナ。エーリカは首を傾げるがエイラは笑う。

「梅干し寿司なんてひたすら酸っぱいだけのものを食卓に出すか」

「お、美味しいわよっ! きっと美味しいわっ」

「酢飯に梅干し、……あ、あんまり食べたくないですね」

「宮藤さんっ?」

 芳佳にまで否定されて愕然とするミーナ。

「それじゃあ、いただきます」

 ミーナを横に置いて豊浦が手を合わせて、

「「「いただきます」」」

 皆が続いた。ミーナもしゅんとしながら「いただきます」

「はい、ルッキーニ君」

 豊浦はしゃもじで散らし寿司を隣にいるルッキーニの皿によそる。

「ありがとっ、豊浦っ」

「どういたしまして」

 笑顔のルッキーニに豊浦は笑みを返して撫でる。ルッキーニは嬉しそうに目を細めて、

「豊浦みたいなお兄ちゃんがいたらいいなー」

 ぴく、と誰かが反応した。

「そうですわね。豊浦さんいろいろ出来ますし、いてくれると助かりますわ」

 箸で寿司をつまみ食べながらペリーヌ。

「えへへー、お兄ちゃんっ」

「そうだねえ。ルッキーニ君みたいな妹がいると楽しいだろうね」

 嬉しそうに呼びかけるルッキーニを豊浦は笑みを返して撫でて、

「ふむ、…………ルッキーニが妹、か。…………末の妹。……クリスより年下なら」

「…………あのー、バルクホルンさん、何を言っているんですの?」

 難しい表情で何か呟くトゥルーデ。ペリーヌの声は届かない。

 そんな微笑ましい光景を見て、ミーナは本気で魔法とかとは関係なしに彼を基地に呼べないか考え始める。

「でねっ、ミーナがお姉ちゃんっ」

「私? ……ああ、まあ、そうかもしれないわね」

 考え事をしていたミーナはルッキーニの言葉に特に何も考えずに応じる。隊長としてみんなの取りまとめをしていることも多い。皆の事を家族と思えば長姉という立場が一番あっている。

 母親といわれなくてよかった、と秘かに安堵。まだそんな年齢ではない。それはともかく、従兵、という立場を思い出し始め、

「それだと、ルッキーニ君のお姉さんのミーナ君のお婿さんになるのかな。僕は」

「ふはっ?」

 あんまりな言葉に思わず変な声が出た。

「な、なにを言い出すのよっ!」

「いや、……そういう事なのかなって思って」

「ち、違うわよっ! ねえっ、ルッキーニさんっ! …………ええっ?」

 じ、……と。いくつかの怖い視線。ミーナ慄く。

「えー、だってミーナみんな家族って言ったじゃん。

 それに、ミーナがお姉ちゃんだって」

 違う、と否定されてしゅんとするルッキーニ。ミーナは厳しいけど優しい、尊敬するお姉ちゃん。豊浦は面倒を見てくれて遊んでくれるお兄ちゃん。

 そんな幸いな関係を否定されて落ち込む。

「え、ええと、……ま、まあ、確かにそれはそれでいいのだけど。

 と、いうか、お婿さん発言は取り消しなさいっ!」

 ルッキーニのいう事はミーナとしても嬉しい。面倒見のいい兄としてウィッチたちの相手をしてくれると助かる。

 けど、お婿さんは困る。いろいろ困る。……とりあえずいくつか向けられる怖い視線が困る。

「そう? まあいいか。

 それに、ルッキーニ君。お兄さんなんて立場なんてなくても僕でよければ遊んであげるよ。それじゃあ不満かな?」

「不満、……じゃないけどー

 お兄ちゃんがいいっ」

 一緒に遊んでくれるのは嬉しい。不満はない。……けど、

 けど、叶うなら、他人じゃなくて特別な何かが欲しい。……その何か、はわからないけど。

「んん? ……まあ、好きに呼んでいいよ」

「やったっ、お兄ちゃんっ」

 嬉しそうに呼びかけるルッキーニに豊浦は微笑み「それでいいよ」と、応じる。

「お兄さん、……そういうのも、いい、かも」

 で、ぽつりとつぶやく芳佳。「芳佳君も、それでもいいよ」

「う、…………え、ええと、……い、いいですっ。私は豊浦さんのままでいいですっ」

「そう?」

 しばらく悩んで出た結論。豊浦としては大したことでもないので頷く。

 …………芳佳からすれば悩むに値する大したことだが、彼が気づくことはない。なんとなく気づいたウィッチは内心で頭を抱える。

「なーなー、豊浦ー」

 で、にやー、と笑うシャーリー。

「ん?」

「豊浦ってどんな女性が好みなんだ?」

「僕の好みの女性?」

「気になるやつもいると思うよー?」

 ふむ、と。首を傾げる豊浦。

「しゃ、シャーリーさんっ、あ、あんまりそういう事聞くの、迷惑、ですよ」

 リーネがおずおずと声をかける。けど、

「そう? リーネも気になるんじゃないの?」

「そ、……それは、…………その、あの、……あのお」

 もごもごと小さくなるリーネ。気になるけど、…………もし、……

「そうだねえ。好みか。…………うーん? あんまり考えたこともなかったな。僕に奥さんがいればその女性を挙げたんだけど。いないしね。

 うーん」

「あの、無理に答えなくても」

 本気で首を傾げ始めた豊浦にサーニャも声をかける。気になるけど、無理にひねり出した答えは聞いても仕方ないと思う。

「そうだね。……うん、考えた事もなかったからね。シャーリー君。答えられな…………ああ、……そうだ」

 不意に、豊浦は笑う。シャーリーはその笑みに不吉なものを感じて一歩引こうとして、

「シャーリー君の事は好きだよ」

「んなっ?」

「ええっ?」

 正面から言われて、シャーリーから声がこぼれ。豊浦を見て、……じわじわと、

「わー、シャーリー、真っ赤」

「う、……うるさいっ、だ、あ、あ、…………え? あ、あの、その、」

 好き、と。男性に言われたのなんて初めてで、言葉が出なくなって、真正面から見つめる彼の顔を見て、顔が熱くなって、…………撫でられた。

「君の元気で明るいところはね。リーネ君の優しいところも、ルッキーニ君の無邪気なところも好きだよ。

 ああ、そうそう、大人をからかうところは感心しないな」

「ぬ、……ぐっ?」

 言われたこと。……つまり、

「お前、な」

「なにかな? シャーリー君?」

 くつくつと笑う豊浦を睨みつける。けど、そんなところも想定内らしい。…………深く、溜息。

「意地悪なやつ」

 不貞腐れたように呟いてそっぽを向いた。

 

 もやもやします。

 と、そんな事を思ってサーニャは布団から起き上がる。困ったな、とも思う。

 明日は、また鉄蛇との交戦。万全の状態であっても確実に勝利できる相手ではない。だからこそちゃんと眠って、万全の状態で相対しなければいけない。

 ……それは、わかってる。…………けど、

「うー」

 起き上がる。サーニャはふらふらと縁側に向かった。

 

 笛の音。

 

「……豊浦さん」

 小さな呟き。そして、笛の音が止まる。

「こんばんわ、サーニャ君」

「はい、えと、こんばんわ」

 庭で笛を奏でていた豊浦はサーニャの座る縁側へ。彼女の隣に腰を下ろして、

「どうしたのかな?」

「あ、ええと、…………その、眠れなくて」

「そう? 明日もまた鉄蛇と戦うのだし、緊張しているのかな。

 ちょっと待ってて、飲み物を持ってくるから」

「いえ、だい「落ち着くよ」…………はい、お願いします」

 

「ありがとうございます」

「ううん、……まあ、女の子が好きな飲み物じゃないと思うけどね。

 いや、さすがに白湯はどうかと思ったけど」

 湯呑を両手に持って肩を落とすサーニャと、苦笑する豊浦。「いえ」とサーニャは軽く首を横に振って一口。

 温かいお湯を飲んで、ほう、と一息。…………そして、沈黙。

 豊浦は静かに夜景を眺めている。彼の隣でぼんやりとするのもいいかな、と思ったけど。

「それが、楽器ですか?」

「ん、……ああ、そうだよ。欧州だと珍しいかな」

「笛はあります。あの、触っていいですか?」

「いいよ」

 渡されて、サーニャは慎重に触れる。

 サーニャの知る笛は複雑なキーを備えてあってとてもデリケートな金管楽器。金属製ではない笛もあるらしいけど見たことはない。

 けど、「これが、笛?」

 豊浦から渡されたのは、……悪く言えば筒に穴をあけただけのように見える。

「そ、これが笛。青葉の笛、っていうんだ」

「これも、豊浦さんが作ったんですか?」

 いろいろ器用なのは知ってる。故の問いに豊浦は首を横に振る。

「違うよ。これは貰い物。僕じゃあここまでいいものは作れないよ」

「そうですか」

 サーニャには筒に穴をあけただけに見えるが、おそらく想像も出来ないような技術や知識をもとに作られているのだろう。

 あんな奇麗な音が出せたのだからなおさら。

「貰い物、……豊浦さんは音楽家のお知り合いもいるのですか?」

 扶桑皇国の音楽。楽譜は買ったからどんなものか想像は出来る。欧州で聞くものとは違う楽曲。もし、よければもっと聞きたい。

 紹介してもらえないか、その期待に豊浦は困ったように首を横に振る。

「音楽家じゃないんだ。僕と同じ、山に生きていた《もの》でね。笛も、彼に教えてもらったんだよ」

「そんな人も、いるんですか」

 目を丸くするサーニャ。

「意外。……だよね。山にいる人が音楽っていうのも」

「はい。あ、勝手なイメージ、ですけど」

「ううん、それもそうだよね。僕も最初は驚いたよ。

 お人好しで優しくてね。よく騙されたりしてたみたいなんだ。その笛も、一度盗まれてたんだよ」

「え? そう、なのですか?」

「そ、で、僕が盗んだ先からかっぱらって彼に返したんだ。

 そしたら、喜んでくれてよ。笛はあげるから一緒にお酒を飲もうってなってね。その時ついでに笛を教えてもらったんだ」

「お酒。…………あ、じゃあ、豊浦さんはその人にとって恩人ですね」

「はは、そうかもね。

 ただ、盗んだ人、業平君っていうんだけど、彼も命令されて仕方なくやったみたいでね。お咎めなしどころかこっそり感謝されたよ。命令とはいえ悪いことをしたって気にしてたし、……いや、困ったものだね」

「ふふ、そうですね」

 楽しそうに語る豊浦にサーニャも自然と笑みをこぼす。

「落ち着いた?」

 だから、不意に問われた言葉にサーニャは小さく頷く。……落ち着いた。だから、

「それじゃあ、「あの、豊浦さんっ」ん?」

 だから、もやもやの理由。なんとなくわかった。

「豊浦さんは、……シャーリーさんみたいな、明るい女性が好み、ですか?」

「うん?」

「…………さっき、の、お夕食の時の、お話です」

 俯いて、湯呑に視線を落として、けど、ちゃんと問いかける。……だって、自分は、

「ああ、誤解を与える言い方をしたみたいだね。サーニャ君」

 ぽん、と撫でられる。視線を向けると少し困ったような表情。

「確かに明るい女性は魅力的だと思うよ。シャーリー君のそういう面もね。

 けど、それだけじゃないよね。明るいだけじゃない。優しいところもあるし、しっかりしたところもある。そういうところを全部含めて、シャーリー君は一人の女性として魅力的だと思うよ。……ああ、うん、だから、」

 豊浦は微笑み。

「もし、サーニャ君が明るくない、暗い娘だとしてもね。それでも、僕は君の事を魅力的だと思ってるよ。

 明るいとか暗いとか、それだけじゃない、一人の女性として、ね。サーニャ君」

「あ、…………あ、あの、あの、」

 魅力的、……なんて言われたのは初めてで、顔が真っ赤になる。なんて言ったらいいのかわからなくなる。……ただ、

「あ、……ありが、とう。ござい、ます。

 豊浦さんに、そういってくれると、すごく嬉しい、……です」

「そっか、……それじゃあ、そろそろ寝なさい。

 明日、また頑張らないといけないのだからね? ……それとも、子守唄が必要かな?」

「え?」

 子供扱いしないで、……という言葉は飲み込む。彼に見守られて眠るのも、いいかな、と思ってしまったから。

 けど、それはつまり、彼に寝顔を見せる事。無防備なところを見られるのは、恥ずかしい。…………けど、

「お、……お願い、します」

 この人なら、いいかな、……そんな風に思ってしまって、サーニャは小さく応じた。

 


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