怨霊の話   作:林屋まつり

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二十五話

 

 甘いものを我慢させられたエイラは寝室で一人ごろごろと転がる。と、

 襖が叩かれる。「あい?」と、のっそりと体を起こす。

「エイラ君、お夕飯だよー」

「うー、……豊浦か。

 美味いものじゃなかったら承知しないからなー」

 何せ、期待していた甘いものを我慢させられての夕食だ。作ってもらっておいて文句を言うのも筋違いだとわかっていても、文句は出てくる。

「そうだね。……いろいろあるから美味しいのもあると思うよ」

「おうー」

 のっそりと立ち上がる。意気揚々と他のウィッチたちに声をかけに行く豊浦を横目に囲炉裏のある部屋へ。

「あ、大丈夫ですか? エイラさん」

「大丈夫じゃないよー、お腹すいたー

 魔法力ってカロリーに直結すんのかな?」

「さあ」

 芳佳は曖昧に首をかしげる。そんな事、聞いたことない。

「っていうか、それなんだ?」

「お餅です」

「もち?」

「お餅、です」

「ふーん?」

 よくわからん、と。エイラは囲炉裏を覗き込む。

 囲炉裏には熱された木炭。足の低い五徳の上には金網が敷かれ、その上に白い何か。「これがもち、か」

「はいっ」

「ゆうごはんっ、ゆうごはんっ、…………なにこれ?」

 足取り軽く顔を出したルッキーニはお餅を見て首を傾げた。他、顔を出したウィッチたちも五徳の上に並べられた餅を見て首をかしげる。

「これ、食べられるのか?」

「あ、まだだめですよー」

 手を伸ばすシャーリーを止める。エイラは頬を膨らませて「なんだよ。まだ出来てないのかよ」

「まあまあ、とりあえずお団子でも食べてようか。

 はい、エイラ君。餡子のお団子だよ」

「お、あんこか、甘いものはいいなっ」

 串に刺さった団子。たっぷりと餡子が乗っている。

「緑色のお団子?」

 サーニャが串に三つ刺さった緑の団子を手に取り呟く。豊浦は頷いて、

「うん、草団子だよ。蓬っていう、そこら辺の雑草を混ぜたお団子なんだ」

「雑草」

「…………ねえ、宮藤さん。

 扶桑皇国は草に思い入れがあるのはわかりましたけど、食べ物にまで雑草を混ぜるんですの?」

 かわいそうな目で見るペリーヌ。芳佳は適当な事を言う豊浦を叩く。

「薬草っ! ええと、……ペリーヌさん。扶桑皇国でよく使われるハーブみたいなものです。

 確かに、育ちやすいからいろいろなところで取れるけど、…………サーニャちゃん。食べても大丈夫だからね。豊浦さんのいう事を真に受けないでいいからねっ」

「う、うん」

 恐る恐る草団子を食べるサーニャ。「あ、美味しい」

 一つ食べる。口の中でふわりと広がる爽やかな香り。思わず頬が緩む。

「はむ、……サーニャ、美味いか?」

 餡子の団子を食べて頬を緩ませていたエイラの問い、サーニャは頷いて、

「ふふ、エイラも一つ食べてみる?」

「え?」

 つい、と突き出される団子。サーニャの食べた。……「い、いただき、ます」

 口を開く。サーニャは微笑んで口の中へ。一つ、食べる。

「ん、……美味しい」

「うん、……あ、あんこのお団子も、美味しそう。エイラ、一つ分けてくれる?」

「あ、ああ、……え、えーと、あ、あーん」

 サーニャにお団子を食べさせる。「美味しい」と、微笑。

「気に入ってくれたかい? エイラ君が甘いものを食べたいって言ったから、作ってみたんだけど」

「うむ、いい選択だな」

 味三割、サーニャと分け合えて食べた事七割で嬉しそうなエイラ。

「わっ、わっ、芳佳っ、芳佳っ、なんか膨らんだーっ!

 きゃははっ、面白ーいっ、なにこれーっ?」

 楽しそうに笑うルッキーニ。エイラは囲炉裏に視線を戻し「…………何が起きた?」

 膨らむ餅。

「は、破裂しないよな? 爆発しないよな」

「どんな食べ物だよ」

 一応、シャーリーは言ってみる。

「あ、もう大丈夫だよ。食べてごらん。手で取って大丈夫だからね」

「おっし、……って、あつっ? あちっ!」

「さっきまで焼いてたんだから当然でしょ」

 お手玉を始めたシャーリーの横。ひょい、とエーリカは餅を取る。

「これ、そのまま食べるの?」

「お醤油につけてですよー…………ルッキーニちゃん、そのまま食べるんだね」

「へー」

 取り皿に醤油を垂らすエーリカ。そして、餅を食べて引っ張り伸ばすルッキーニ。

「ふみょー」

「ルッキーニ君、よく噛んで食べてね。

 じゃないと、……………………死ぬよ」

「ぷあっ?」

 不吉なことを言われたルッキーニは慌てて餅から口を離した。

「え? 死ぬのか?」

 シャーリーは皿の上の餅をまじまじと見つめ、豊浦は重々しく頷く。

「お餅は伸びるから、喉に詰まらせて呼吸困難に陥る。そのまま、息が出来なくなって窒息死するんだ」

「こわっ? 何だこの怖い食べ物っ? 扶桑皇国は食事も命がけだなっ」

「さ、さすが魔境ですわ」

「扶桑皇国は魔境じゃないですっ!

 それに、よく噛んで食べれば大丈夫です」

「むにー」「うにー」

 ルッキーニとエーリカは餅を加えて引っ張る。どちらが長く伸ばせられるか張り合っているらしい。……となれば当然。

「エーリカ、ルッキーニさん、食べ物で遊んではいけません」

「「はい」」

「ふむう」

「トゥルーデ?」

 焼けた餅と焼く前の餅を見比べて真面目な表情のトゥルーデ。

「いや、携帯性も高いし、軍の携行食に出来ないか?

 焼くだけでいいなら調理も簡単だし」

「む、……それもそうね」

「飯時まで仕事のこと考えんなよー」

 むにー、と餅を伸ばして食べているエイラが呆れたように呟く。二人は無視。

「そうだよ。お餅は陣中食としても食べられたからね」

「陣中食? ……レーションの事? ……ええと、行軍中の食糧?」

 ミーナの問いに豊浦は「そうだよ」と応じる。

「そうね。考えてみるわ。

 ええと、宮藤さんは作れる?」

「お餅ですね。はい、大丈夫です。

 ええと、もち米と、杵と臼があれば」

「…………まずは道具が必要なのね」

 残念ながら杵と臼が何なのか分からない。

「それ、機械かっ?」

 扶桑皇国の機械。それには興味がある。……けど、芳佳は非常に曖昧な笑み。

「全然違います」

「台所用品?」

「……ちょ、ちょっと違うかな」

 リーネの問いにも曖昧な笑み。リーネは首をかしげる。何なのか分からない。

「まあ、あとで実物を見せてあげるよ。倉庫にあったはずだしね」

「サンプルあるなら持って帰ろうよ。

 改良とか量産とかは、……ほら、ウルスラがいればどうにでもしてくれるしさー」

 気楽に笑うエーリカ。「大丈夫かな?」と、芳佳。

「大丈夫?」

「結構、大きくて重たいんです。特に臼は」

「ふーん?」

「さて、それじゃあお餅も出来たことだし、お汁粉とお雑煮を持ってこようか」

 

「はい、お汁粉とお雑煮だよー」

 トゥルーデに手伝ってもらい、持って来たのは鍋二つ。鍋敷きに乗せる。

「どういう料理なんだ?」

「雑煮は雑な煮物って書いて、お汁粉は汁の粉って書くんだ」

「…………なんだそれ?」

 あいにくと、シャーリーはその料理が美味しそうとは思わない。というか、汁の粉の意味が分からない。

「つま、あたっ?」

「お雑煮は、ええと、お吸い物にお餅を入れて食べることです。で、お汁粉は薄くした餡子にお餅をつけて食べるの」

 相も変わらず変なことを言い出す豊浦を一発叩いて芳佳。

「よ、芳佳君は最近容赦ないね」

「変な事ばっかり言うからだよっ、もうっ」

「たはは、まあ、好きな方をどうぞ。お汁粉の方が甘いけど、お雑煮はいろいろ具があるから食べごたえはあると思うよ」

「あたし、両方食べるーっ」

「扶桑皇国の甘味は上品ですわね。……ん、美味しい」

 お汁粉を食べて感嘆の吐息を漏らすペリーヌ。

「これ、雑な煮物じゃなくて雑多な煮物?」

「何でもいいから食え」

 お雑煮をつつきながらシャーリー、その傍らでトゥルーデは餅を食べる。

「あ、お汁粉はお餅じゃなくてお団子を入れても美味しいよ」

「あうう、……お腹いっぱい」

 リーネは残念そうにお腹を撫でる。サーニャも残念そうにお汁粉を見ている。

「お腹いっぱい?」

「はい。……ううん、最初にお団子食べ過ぎちゃいました」

「今度また作ってあげるね」

 お汁粉もお雑煮も作れる。芳佳は請け負うとサーニャは微笑。「うん、ありがとう。芳佳ちゃん」

「扶桑皇国の甘味、私も作ってみたいな」

 ぽつり、リーネが呟く。けど、自信がない。

 繊細で上品な甘さ。どうすれば再現できるか、食べてみてもわからない。

「甘味かあ。……お汁粉は私も作れるけど、練り切りとかは自信ないなあ」

 芳佳の調理技術は家事の中で培ってきた。当然、そこにお菓子はない。

 なら、

「あの、豊浦さん。……時間があったら、お菓子作り、教えてくれますか?」

 リーネの期待するような視線を受け、豊浦は困ったように首を傾げる。

「それは構わないけど、忙しいんじゃないの? 軍務とか」

「あう」

 確かに、調理技術は体調管理をするうえで役に立つ。軍務としても必要な技術かもしれない。

 けど、さすがにお菓子作りと軍務を結びつけることはできない。言葉に詰まるリーネ。対してエイラは重々しく頷く。

「リーネ、大丈夫だ。それは戦意高揚に必要な技術だ」

「そうね。甘いものを食べれば集中力が増して疲れも和らぐわ。

 リーネさん、お菓子作りは、軍事活動に必要な技術よ」

「いや、それはさ、むぐっ」

「そうそう、炬燵もお菓子も戦意高揚に必要なものだよ。ねっ」

 胡散臭そうな表情で口を開いたトゥルーデの口を塞ぎエーリカ。風吹けば桶屋が儲かる、ということわざをなんとなく芳佳は思い出した。

 

「木のお風呂も、素敵ね」

「うんっ、いい香りがするんだよねー」

「うん、落ち着く香り。……あ、けど、もうちょっと広い方がいいよね」

「あはは、ここのお風呂は二人しか入れないよね。三人だと狭くなっちゃう」

「ぎゅうぎゅう」

 夕食を食べて、サーニャと芳佳は入浴を終えて自室へ向かう。今回はあまり魔法力を消耗しているウィッチはいなかった。だから、おそらくは明日も鉄蛇との交戦になる。

 だから、早めに休もうと真っ直ぐに自室へ、すぐに寝ちゃおうと…………途中。

「ん、…………あっ、ふ、ん」

 聞きなれた声の、聞いたこともない声音。

「あ、……ん、い、…………いい、気持ち、い」

「は、ハルトマン、さん」「だ、よね」

 仲間の声を聞き間違えるわけがない。間違いなく、エーリカの声。

 けど、その声は、…………その先の事を想像し、芳佳はじわじわと顔を赤くして、

「ん、……豊浦、上手」

 駆け出した。襖を開く。うつぶせに寝転がるエーリカと、その上に覆いかぶさるようにいる青年。彼のことを認識し、

「豊浦さんのばかーっ!」

 蹴飛ばした。

 

 一撃受けて転がる豊浦。そのまま悶絶。

「ハルトマンさんに何やってるのっ! 豊浦さんのばかっ! えっちっ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴る芳佳。サーニャも頬を膨らませている。

「あのー、な、芳佳」

「はっ」「エイラ?」

 声のした方を見ると、慄くミーナとエイラ。

「なに勘違いしたのか知らないが、別に変な事じゃないぞ。

 えーと、…………あ、ま? ……まあ、マッサージだ」

「まっさーじ?」

 少しずつ呼吸を落ち着けながら芳佳。「マッサージ?」と、サーニャも豊浦に疑問を投げかけるが、悶絶している彼に答える余裕はない。

「あー、うえー? おわりー? ……って、あれ? なんで豊浦が悶絶してんの? ……ま、いっかー」

 半身を上げたエーリカはそのまま倒れた。ミーナはそんな彼女を見て、

「エーリカが疲れた疲れた駄々をこねるから、豊浦さんが、…………ええと、あ、ま? ……まあ、マッサージをしてくれたのよ」

「あ、そうだったんですか。……なんだあ」

 安心した表情の芳佳。彼女の傍らで豊浦は悶絶している。

「あ、……うう、痛い。寝違えたみたいに痛い。

 エイラ君、ミーナ君、按摩だよ。あ、ん、ま。今はマッサージみたいに扱われているけど、昔は立派な医療行為だったんだ。僕が学んでいた典薬寮では医師や薬園の管理と並んで按摩の部門があるほどね。

 芳佳君は聞いたことないかな?」

「え、……えーと、ある、ような」

「少し前は盲人がやっててね。生きるために必死に学んでいたからすごく教え甲斐があったな」

「そうなんですか?」

 盲人、……目の見えない人。

 なんでそんな人がやっていたのか、サーニャは不思議そうに首をかしげる。

「ほら、目が見えないとその分触覚とかが鋭敏になるからね。

 手で触れた感触から、ほぐさないといけない場所の発見とか、力加減の調整とか、普通に目が見えている人よりも細かく出来たんだよ。

 けど、逆にそういう事しかできないからね。他に生きる術を持たない人たちばかりだったから、本当に命がけで技術を習得していたんだよ。その熱意は凄くてね。彼らにいったら怒られるかもしれないけど、教えていてすごく楽しかったよ」

「そうなんですか、……凄いなあ」

 目が見えない。サーニャはそんな世界、想像もできない。

 けど、それでも出来ることを必死に習得する。……それは、とても凄いことだと思う。

「うー、……け、けど、豊浦さんは男の人で、ハルトマンさんは女の子で、……そ、そうやって女の子の体に触っちゃだめっ!」

「いや、按摩は医療「なんでもだめっ!」はい」

 なぜか必死な芳佳に豊浦は両手を上げる。

「そういうえっちなことをしちゃだめなんですっ! ですよねっ! ミーナさんっ」

「ふぇっ? え、ええ、と、……そ、そうね?」

 エーリカが終わったら次は私、と思っていたミーナは芳佳の迫力に押されるように応じる。芳佳は頷く。

「はあ? ……まあ、だめならだめでしかたない、ごめんね。エイラ君」

「あー、うん、まあ、なんかよくわからんがしょーがないな」

 なぜ芳佳があそこまで怒るのかは分からないが、ともかく今の彼女に説得は無理、そう判断してエイラは溜息。

「そういえば、エイラは何をしていたの?」

「んー、あー、いや、えーと、だな」

 首をかしげるサーニャにやや挙動不審なエイラ。豊浦は微笑。サーニャを撫でて「エイラ君はサーニャ君のために勉強をしたいって言ってね」

「私のため?」「こらっ、豊浦っ、余計なこと言うなっ」

 エイラが慌てて声を上げる。豊浦は不思議そうに「隠す事でもないと思うけど、」と、応じ、

「サーニャ君は、……ええと、ナイトウィッチ、だっけ?

 あまりよく眠れなくて、疲れがたまっているんじゃないかって、それで、少しでも疲れを取ってあげられる方法を勉強するために見学してたんだ」

「そう、……なの」

 サーニャは嬉しくてエイラの手を取る。

 嬉しい。……確かにサーニャの睡眠時間は不規則だ。けど、

 けど、大変なのはエイラも同じ。それなのに自分の事を気遣ってくれる。

「ありがとう、エイラ。嬉しいわ」

「う。……うん、まあ、な」

 きらきらとした眼差しを受け、ほんの一割だけあった下心が良心に突き刺さる。

「ま、といってもだめっぽいからね」

「うーっ」

 威嚇する芳佳を見て豊浦は困ったように告げ。サーニャもこくこくと応じる。

 なんとなく、面白くないから。

「まあ、仕方ないな」

 ちぇー、とエイラ。豊浦はそんな彼女を撫でて「あとで要点を書いた本をあげるよ」

「ん、ありがとな」

「ただ、最初は力加減が難しいから、誰かに協力をしてもらって頑張って練習するんだよ」

「それなら大丈夫だ。ツンツン眼鏡とか宮藤とか実験台はいくらでもいるからな」

「エイラ、ペリーヌさんとか巻き込んではだめよ。私でよければいくらでも付き合ってあげるから、ね」

「へっ? い、いい、いいのかっ?」

「うんっ、私のためにお勉強してくれるのなら、いくらでも協力するわ」

 ぎゅっと拳を握っていつになく積極的に協力を申し出るサーニャ。下心が突き刺さり痛む良心。

「最初のうちはあんまりやりすぎると痛くなることもあるから、ほどほどにね」

 そんな二人を微笑ましそうに見ていた豊浦は応じ、さて、と。

「それじゃあ、そろそろ眠ろうか。……ハルトマン君は、もう寝ちゃったみたいだけどね」

 すやすやと幸せそうに眠るエーリカ。もとよりここは彼女の部屋。掛け布団をかけて皆で部屋を出る。…………つい、と。手を引かれた。

「ミーナ君?」

「え、……えーと、」芳佳が部屋に入ったのを確認し、小声で「その、レポートの作成で肩とか凝ってるし、マッサージ、お願いしていい?」

「……………………芳佳君には秘密にしてね。また蹴飛ばされるから」

 

 日課の演奏を終え、豊浦は笛を口から離す。くるくる、と手の中でもてあそぶのは長野県にいる鬼からもらった笛。青葉の笛。

「なかなか、……難しいよね」

 思い出すのはこの笛の本来の持ち主。業平の所からかっぱらって返した時。それはいいから酒を飲もうと、一緒に酒を飲み、笛を教えてくれた鬼。

 優しくて、どこか抜けていた鬼。鬼、……里で暮らすことが出来ず、追われた者たち。

 豊浦は彼らの事を覚えている。忘れるつもりは、ない。……それこそが、自分の在り方なのだから。

 けど、

「難しい、な」

 在り方。と、それを意識して怨霊は困ったように微笑み、寝床へ。…………「なに、しているのかな? シャーリー君、ルッキーニ君」

 そこには眠るルッキーニと彼女にしがみ付かれて横になるシャーリー。

「ここで寝る」

 何をしているのか? 問われて頑として言い張るシャーリー。豊浦は額に指をあてて頭痛をこらえるような表情。

「なぜ?」

 もともと山の中で寝ている豊浦にとって寝床の寝心地はあまり気にしない。だからこの小屋も簀子と茣蓙だけの最低限のもの。広さは言うまでもなく、当然家の中の部屋の方が寝心地はいい。

 けど、

「私は、ここで、寝る。なぜなら、面白いからだっ」

「…………君は寝床に何を求めているのかな?」

 謎の主張を繰り広げるシャーリー。とはいえ説得は無理と判断し、豊浦は肩を落として彼女の部屋に向かった。

 


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