怨霊の話   作:林屋まつり

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十一話

 

 がっ、と音。

 がっ、がっ、と木を削る荒い音。

「今度は何をしているんですの?」

 太い木の枝を削る音。ペリーヌはひょい、と覗き込む。

「ん、ああ、円空君の真似事でね。鉈で仏像を作ってるんだ。山に入ったら一つは作ってそこらへんにおいておくようにしているんだよ」

「そこらへん」

「まあ、もともと木だからね。あって害になる物でもないし」

「お地蔵さま、ですか?」

 一緒にいるのはサーニャと芳佳、リーネ。

「ううん、ちょっと違うよ、と。

 ん、と。…………こんなものかな」

「これで完成?」

 芳佳は首をかしげる。仏像、というのは扶桑皇国出身の芳佳も何度か見たことがある。

 丁寧に彫られた木像。今にも動き出しそうな姿と優しい顔立ちにしばらく見入っていた記憶がある。けど、

 豊浦が完成と称したのは随分と出来が粗い。

「そ、円空君はこういうのをたくさん作ってたんだよ」

「こんな簡単な仏像があるんだ」

「芳佳ちゃんが知っているのとは違うの?」

 当然、仏像なんて見たこともないリーネに豊浦が作った仏像がどういうものかの判別はできない。

「うん、国宝とか、すっごい貴重な文化財。とかもあるんだよ」

「…………え?」

 そこら辺の木を鉈一本で乱雑に加工したものはさすがに国宝とは思えない。

「そういう仏像もあるけどね。

 円空君はそういうのを嫌って道端において拝んでくれればそれでいい、っていう程度だったみたいだよ。

 はい、ペリーヌ君、あげるよ」

「え? あ、はい、ありがとうございます」

 ぽいっ、と放り投げられる。反射的に受け取る。受け取って、サーニャと芳佳とリーネも含めてまじまじとそれを見る。

 そこら辺の木を適当に加工しただけ。価値があるとは思えない。

「はい、リーネ君」

 そうしている間にもできたらしい。ぽいっ、と豊浦は仏像をリーネに投げ渡す。

「あ、ありがとうございます。…………ええと?」

 リーネも仏像に視線を落とす。乱雑に彫られた目と口と鼻、それが、笑っているような気がしてなんとなく笑みが浮かぶ。

「机の隅っことか、庭の端っこにでも置いておいて、見かけたら今日一日いいことがありますように、って手を合わせて呟いてみるといいよ」

「そういうものなの?」

「そういうもの。なんでもいいんだ。

 ただ、一日の始まりに今日一日穏やかに暮らせますように、って祈って、一日が終わったら平穏な一日をありがとうございました、って。感謝する先があればね」

「…………穏やかに、か」

 いいな、とリーネは憧れるように呟く。

 自分はウィッチだ。そして、欧州はネウロイの脅威にさらされている。平穏なんて、どこにもない。

 けど、せめてそう祈ることが出来れば、

 機械のように敵を壊すために戦うのではなく、平穏を守るために、この、大切な世界を守るために戦っているんだと。その思いを忘れたくない。

 そのためにも、日々の祈り、理想の形を口に出すのは、いいのかもしれない。

「毎日毎日、生きるのも大変だった貧しい村の人たちはそれで十分だったんだ。

 それがなんだってかまわない。実際に効果があるかなんて気にしない。ただ、祈って縋る何かがあればね。……それを愚かと思えないほど、困窮していた人たちもいたんだ。はい、芳佳君」

「あ、ありがとう」

「円空君はそんな人たちのためにたくさん仏像を作ってたね」

「優しい人、だったんだね」

 生きるのも大変な人たち。そんな人たちが報酬を払えるとは思えない。おそらくは無償奉仕だろう。

 けど、それでも、それを続けたのなら、そこにあったのは貧しい人たちがせめて希望を忘れないでほしいと、そんな優しさからと思うから。

「そうだね。……………………守屋も、そんな人の弱さを理解できれば、……ね」

 不意にこぼれた寂しそうな声。

「守屋?」

「サーニャ君にはあとでお地蔵さまをあげる約束してたけど。こっちはどうする?」

「あ、欲しいです」

「はい、どうぞ」

 サーニャは受け取り微笑む、と。ひょい、と彼女の後ろから声。

「なになにっ、何かもらったのっ? わっ、あはははっ、変な顔ーっ! 変なのーっ、なにそれーっ?」

 顔が面白かったらしい、ルッキーニがけらけら笑う。サーニャは唇を尖らせて「可愛いよ」と応じる。

「ありがとうございます。大切にします」

「そうだね。……あ、そうだ。これは扶桑皇国に伝わる御伽噺だけどね」

「御伽噺?」

「昔にね。お地蔵さまを放り投げて遊んでいた子供がいたんだ」

「そうですの? まったく、悪童はどこにでもいるんですのね」

 呆れたようにペリーヌが呟く。「そうだね」と豊浦は頷いて、

「ペリーヌ君と同じことを思った大人の男性がその子供を叱ったんだよ。お地蔵さまで遊ぶな、ってね」

「当然ですわ」

「そしたら、その大人の男性はお地蔵さまに怒られたんだ。

 どうして子供と遊んでるのを邪魔をしたんだ。だって」

「…………ええ?」

 まさかの展開にきょとんとするペリーヌ。「それ、放り投げて遊ぶものなの?」

「それもいいかもね。ルッキーニ君にも何か作ってあげるね」

「うんっ」

「お地蔵さまは子供が好きなんだよ。だから、きっとみんなの祈りも聞いてくれるよ」

 楽しそうに笑う豊浦、鉈で器用に木像を彫る姿にルッキーニは歓声を上げる。そして、芳佳とリーネ、サーニャとペリーヌは、不意に思ったこと。

「「「「子供扱いしないでっ」」」」

 四人そろって声を上げた。

 

 下山からしばらく、黙々と山道を下りていると、不意に、

「ふ、……うっ」

「ペリーヌさんっ?」

 後ろの方をリーネと歩くペリーヌが不意に姿勢を崩し、木によりかかる。

「大丈夫か?」

 トゥルーデの問いにペリーヌは弱々しく微笑んで「大丈夫、少し、疲れただけですわ」

「少し、休憩にしますか?」

 芳佳は心配そうに空を見上げて呟く。

 少しずつ、暮れ始める空。長時間の休憩をしては暗くなってしまうかもしれない。

 暗い山道は危険だ。芳佳や美千子も親から強く戒められ近寄ったことがない。

 けど、

「いや、それじゃあ、暗くなるからね。

 ペリーヌ君は僕が抱えていくよ」

 へ? と、誰かが呟く前に、

「ひゃあっ?」

 ひょい、と豊浦はペリーヌを抱え上げた。

「な、ちょ、ななっ」

「こらこら、暴れないで、落とすよ」

 豊浦の腕の中でじたばた暴れるペリーヌ。けど、豊浦は苦笑するだけで揺るがない。

「あの、ペリーヌさん。

 出来れば、それでお願いしていいですか? ええと、やっぱり休憩すると暗くなっちゃうから」

 申し訳なさそうに芳佳は声をかける。暗くなる、ただでさえ慣れない山道でそうなればどれだけ大変か、……それを察し、ペリーヌは小さくなる。

「夜の山はとても危険だよ。僕たち山家でもめったに近寄らない。

 怨霊、……は信じていないみたいだけど、そうだね。山犬とか、危険な動物もいる。僕たち山家も夜の山では見通しのいい場所を確保してそこから動かないからね」

 危険である、と。その現実をペリーヌはしぶしぶ受け入れた。

「わかりましたわ。その、…………お願い、しますわ」

「ん、任せて、……ああ、これがいやなら肩に担ごうか?」

「結構ですっ!」

 荷物のように肩に担がれる自分の姿を想像し即座に却下。芳佳は安心してまた前に戻る。歩き出す。

 けど、こんな姿勢は恥ずかしい。顔を真っ赤にして小さくなるペリーヌ。豊浦は少し困ったようにそんな彼女を見て、ふむ、と。

「そうだ。ペリーヌ君」

「な、なんですの?」

「扶桑皇国には臀部の表現として安産「死になさいっ!」」

 全力で殴った。

 

 エーリカは居間にある炬燵に潜り込み、愛用の綿入れを着こむ。畳にごろん寝転がる。手を伸ばして座布団を引き寄せ枕代わりに、

「…………至福」

「お前なあ」

「ウルスラも、わけのわからん兵器作らないでこういうの発明すればいいのに」

「軍費で炬燵なんて作り出したら上層部が怒るわよ」

「せんいこーよー」

 苦笑するミーナにひらひらと手を振ってエーリカ。「高揚しているようには見えんな」と、トゥルーデ。

「これ、基地に導入したらどうなるかしらねえ」

 ミーナももそもそと炬燵に入り、表情から力が抜ける。というか、全身から力が抜ける。

「…………ああ、これで書類仕事したいわあ」

「ぐー」

「ミーナっ!」

「まあまあ、トゥルーデも入りなさい」

「む、……そういえば、宮藤たちは?」

「宮藤さんとリーネさんサーニャさんとエイラさんはお夕飯を作ってるわ」

「随分な大所帯だね」

「なんでも、台所がものすごく原始的らしいのよ。ポンプとか、火を熾して鍋を温めるとか」

「…………旧家か」

「豊浦さんも見ているみたいだけど、まあ、見てるだけでしょうね」

「かもしれないな」

 トゥルーデももそもそと炬燵に潜り込む。じんわりとした温もりに脱力しそうになるのをこらえる。

「ふっふっふ、トゥルーデも炬燵の魔力にかかった?」

「かかるかっ」

 はあ、と三人で一息。

「それで、資料は届いたのか?」

「ええ、宮藤診療所に届いていたみたいね」

 ミーナは分厚い封筒を掲げる。その中身を炬燵の天板に広げる。

「扶桑皇国からね。陸上型ネウロイについては欧州に任せるつもりだったみたいで、蛇ついての資料ね」

「そのようだな」

 それが妥当だろう。欧州と比較すると扶桑皇国のネウロイ出現数は少ない。大した資料を集められるとは思えない。

 トゥルーデが手に取った資料は蛇の活動についてで、

「やはり、地中に潜る蛇もいるのだな。……む」

「トゥルーデ?」

「川にも生息か。……これは厄介だな。

 扶桑皇国の軍船にも襲撃するかもしれない」

「…………ええ、これは警戒の必要があるわね」

 ネウロイは基本的に水を嫌う。だが、これから相対する鉄蛇もそうだとは限らない。水に近寄らないことを前提として海に追い込んだらそのまま軍船を蹴散らして海上を逃げるということになりかねない。

「海蛇、というのもいるみたいだし、海に追い込んで逃がさないようにする、として行動したら海中に逃げ込む可能性もあるわね」

「そうなると手が出せないな」

 眉根を寄せる。ストライカーユニットは海中の潜行など考えられていない。銃弾が届くとも思えない。

 海に潜られたら、地中同様、手出しができない。

「ただ、移動速度は、……まあ、時速十キロ半ば程度。

 海中と地中にでも行かない限り取り逃がすことはないわ」

「そうだな」

 つまり、開放したら集中攻撃による短期決戦。リーネを除く全員で全身を銃撃し、コアを露出させたら即座に狙撃で仕留める。

「それと、毒だけど。噴射することもあるみたいね」

「ビーム以外の攻撃方法を持つネウロイか」

 それがどんな毒かは分からないが。

「近くに神経毒の毒霧をまき散らされて、近寄ったらマヒして墜落。なんてことになりかねないわ。

 トゥルーデ、銃で殴るのは自重しなさい。ルッキーニさんにも言わなくてはならないわね」

「ハルトマンなら吹き飛ばせるのではないか?」

 固有魔法で風を操るエーリカなら、その暴風で毒霧を散らせる。ミーナは「そうね」と頷いて、

「といっても不意を突かれては元も子もないわ。

 それに、ビームみたいにわかりやすいのならともかく、口から毒霧を撒かれているだけだと遠目から判断できないわよ?」

「……それもそうか」

「他のみんなの意見も聞きたいけど、私たちの結論は高度を確保して移動しながらリーネさん以外で全身を銃撃。コアを露出させたら即座に狙撃で仕留める、ね」

「逃げ出そうとしたら動きを止めなければならないが、サーニャもリーネと同様に待機がいいだろう。

 地面を掘り始めたら頭部に集中砲撃してもらえば、さすがに鉄蛇も動きを止めるだろうからな」

「そうね」

 トゥルーデと一先ずの方針を確認し、ミーナは頷いた。

 

「今日のお夕飯はお饂飩ですよー」

 豊浦が土鍋を運び、芳佳は茶碗とお椀と箸を持ってくる。

 サーニャとエイラは一緒にお櫃を運び、リーネは小皿を持って来た。

 そしてまた、囲炉裏の周りに座る。自在鉤に鍋を吊るして五徳で下から支え、囲炉裏の火に当てる。

 土鍋に集まる期待の視線。ぱか、と豊浦は土鍋の蓋を開ける。「「「おおっ」」」と、感嘆の声。

「美味しそーっ」

「また、雑多にものが入ってるな」

 トゥルーデが興味深そうに覗き込む。「彩がいいわねー」とミーナ。

 ネギやシイタケ、牛肉か、それに卵や白菜、様々な色彩がある。

「これは何ですの?」

「天麩羅です。お饂飩に入れて食べるの、私も初めてです」

「そうですの?」

 芳佳の言葉にペリーヌは首をかしげる。

「よくお醤油をつけて食べていたんです」

「鍋は、とりあえず入れてみる。……それでいいと思うよ」

「よくないと思うよ」

 しんみりと呟く豊浦に呆れ交じりに応じる芳佳。

 ともかく、それぞれのお椀に饂飩を入れていく。それと、

「あ、ご飯よそるから、お茶碗貸して」

 お櫃を開ける。ふわりとした炊き立てのご飯のにおいにサーニャは目を細める。

 美味しそうなにおい、と。

「たまごっ、たまごっ! 芳佳っ、たまご頂戴っ」

「はい」

 黄身を崩さないようにルッキーニのお椀に卵を滑り込ませる。「やったあっ」と目を輝かせるルッキーニ。

「扶桑皇国の料理は、……なんていうか、ごった煮なものが多いのですわね」

 土鍋の中を覗き込んでペリーヌ。豊浦は頷く。

「いや、切って煮るだけで、楽なんだ」

「…………ま、まあ、美味しいからいいですけど」

「ちゃんと味付け整えています。

 豊浦さんっ、手抜きしてるみたいに言わないでっ」

 みんなで食べる料理だ。味付けに手を抜いているつもりはない。

 故の抗議に豊浦は笑って「ごめんごめん」と、撫でる。

「もうっ」

 撫でられながら芳佳は膨れてそっぽを向く。

「ちょっと味は濃いめだから、ルッキーニちゃん。ご飯と一緒に食べるようにしてね」

「はーいっ」

 うどんをよそって、小鉢を手前に、サーニャがよそったご飯をおいて、いただきます、と声。

「自分の分が確保されてると、ちょっと安心」

 うどんを啜りながらリーネ。昨日の鍋は周りの速さに圧倒されて手出しがなかなか出来なかった。挙句に豊浦に意地悪されておろおろした。

 けど、今は大丈夫。ゆっくりとうどんを食べる。

「はふはー」

 温かい料理にはふはふと食べるエーリカ。

「けど、お鍋というのは案外いい料理かもしれないわね。

 いろいろな具材をまとめて食べられる。栄養のバランスを調整しやすいわ」

 つるつるとうどんを食べながらミーナ。「そうだな」とトゥルーデも肉を食べながら応じる。

「栄養の管理にはよさそうだ。それにこのうどんは消化にもよいだろう」

「冷蔵庫にもいいよ。入れられそうな残り物は片っ端から放り込めるからね」

「…………ええと、それもそう、かもしれないわね」

「とーよーうーらーさーんっ!」

 芳佳が抗議の声。お鍋も立派な料理。そんな風に適当に作っていいものじゃない。

「はは、ごめんごめん」

 微笑での謝罪に芳佳は納得しないらしい。相変わらず頬を膨らませていた。

「仲いいねー」

 はふはふとうどんを食べていたエーリカがそんなやり取りを見て、ぽつり、呟く。

「え? そうですか?」

「そ、だって宮藤。……………………ま、いっか」

「は、ハルトマンさんっ、何ですかっ」

「べっつにー、ま、宮藤が気にしてないならいいけどさ」

「な、なに、何ですかっ?」

 にやにや笑うエーリカに芳佳は問いを重ねる。けど、彼女はにやにや笑って答えず、天麩羅を食べた。

「おー、おつゆの味が染みててこれ美味しー」

「じゃあ、僕の分もあげよう」

「わーい」

 エーリカは豊浦から天麩羅を受け取る。

「そういえば、豊浦さん」

「ん?」

 笑顔で天麩羅を食べるエーリカを撫でていた豊浦は、リーネの声に視線を向ける。

「豊浦さんって、好き嫌いはあるの?」

「んー、嫌いなものは、苦いもの、あと、辛いものとかも苦手かな。

 好きなものは甘いもの」

「結構、子供っぽい味付けが好きなんだね」

 意外そうに呟く。「そうかな?」と豊浦は首を傾げた。

 

 食事が終わり、あとは眠るだけ。そんなゆったりとした時間。不意に、

「そうだ。サーニャ君。約束していたお地蔵さまだよ。

 はい」

 どこぞから取り出した地蔵の木像。丸々とした容貌と静かな微笑。サーニャは目を輝かせて、

「可愛い。…………あ、ありがとうございます」

 さっそく受け取り、少し考え、膝にのせて撫でる。

「気に入ってくれたかい?」

「はいっ」

 サーニャは笑顔。「よかったな」と、エイラはそんな彼女の笑顔を見て微笑む。

「それはよかった。……それと、リーネ君」

「あ、え? わ、私もっ?」

 いいなあ、と。横目で見ていたリーネは呼ばれて振り返る。豊浦は微笑み頷く。

「はい」

 とん、と。置かれたそれを見て固まった。

「…………可愛く、ない」

 サーニャが思わずつぶやく。ルッキーニが「格好いいーっ!」と歓声。

「……なにそれ?」

 芳佳が首をかしげて、豊浦は真面目な表情で頷く。

「それはね。蔵王権現、っていうんだ。

 昔、役小角っていう人が乱れた世を正すために呼んだ有り難い仏? だよ」

「あ、そうですか」

 かけらの興味もない芳佳は淡白に応じる。で、

「わ、私はサーニャさんのお地蔵さまみたいに可愛いのがよかったですーっ!

 豊浦さんの意地悪ーっ」

 リーネ怒鳴る。期待していたのだからなおさら、隣に座って半ば寝ていたエーリカが跳ね起きた。

「むう、……リーネ君には不評みたいだね」

「当然よ。こんな怒った顔の木像をもらって喜ぶ女性なんていないわ」

 ミーナが呆れたように木像を手に取る。威圧感漂うその表情。よくよく見れば結構な迫力を感じる。作成者の腕前には感服するが、女性への贈り物としてこれを選択するとしたらセンスが悪いを超越している。

「ちなみに、着色するとしたら青なんだよね」

「こわっ」

 迫力ある怒った顔の木像が青く着色。……それを想像して思わず変な声が漏れた。

 とにかく、好評だったルッキーニに蔵王権現の木像を押し付ける。で、

「ごめんごめん。はい、リーネ君」

「あ、こっちは可愛いです」

 ふくふくと微笑むお地蔵様の木像。それを受け取りリーネは安心したように微笑。

「リーネちゃんのも、可愛いね」

「うんっ」

「まあ、このくらいのものならいくらでもね。……さて、それじゃあ僕はそろそろお暇するよ」

 立ち上がる。「なんだ、また山に戻るのか? ここで寝てもいいと思うけど?」

 シャーリーの問いに豊浦は苦笑。「この家にもっと鍵があればそれもいいかもね」

「ほんと、何もないな」

 トゥルーデが呆れたようにぼやく。ろくに鍵のないこの家、扶桑皇国のセキュリティはどうなっているのか。軍人であるトゥルーデには理解が出来ない。

「まあ、そういうわけ。

 シャーリー君、君が気にしなくてもペリーヌ君とかは気にすると思うよ?」

「え? ええ、そうですわね。

 こんなセキュリティのまったくないような家で大人の男性と過ごすなんて言語道断ですわ」

 慌てたように言葉を紡ぐ彼女に豊浦は笑みを向けて、家を出た。

 


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