怨霊の話   作:林屋まつり

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一話

 

//.扶桑皇国・横須賀市

 

「学生さん、ちょっといいかな?」

「はい?」

 学校からの帰り道。美千子はそんな声をかけられた。

 振り返る。黒い外套の青年。彼は安心させるように穏やかに微笑む。

「この近くに海軍基地があると思うのだけど、もし場所を知っていたら教えてくれないかな? 案内してくれれば嬉しいんだけど」

「あ、……ええと、」

 美千子は言葉に詰まった。場所は知っている。たまたま町で会えば雑談に興じるくらいには親しい軍人もいる。

 とはいえ、美千子は一人の女学生。当然横須賀海軍基地には入れない。顔見知りだから居丈高に追い返されることはないだろうが、入れてくれることはないだろう。

 困ったような彼女に彼は苦笑。

「場所が分かればいいよ。中に入ったりはしないから」

「あ、はい。それでしたらこっちです」

 近くに案内するなら構わない。軍関係者の人かな? と、そんなことを思いながら歩き出す。

 ふと、

「あ、……あの、私、山川美千子って言います」

 横須賀海軍基地まで距離がある。道中の会話もあるだろう。だから、先に名乗っておく。

 彼は微笑。「よろしく」と、応じて、

「僕の名は蘇我豊浦だよ」

 

 ――――そして翌日。横須賀海軍基地は壊滅した。

 

//.扶桑皇国・横須賀市

 

 連合軍第501統合戦闘航空団。《STRIKE WITCHES》。その拠点の会議室。そこにウィッチたちが集まる。

 大規模な作戦の発令時にも匹敵する厳し表情を浮かべるミーナに、ウィッチたちはそれぞれ緊張を感じて沈黙。

 全員が集合したことを確認し、ミーナは口を開く。

「みんな、緊急の任務よ」

「緊急?」

 トゥルーデの問いに彼女は頷き、

「え?」

 芳佳は、不意に向けられた視線に首をかしげる。続けて、問いを投げかけようとしたところで、声。

「扶桑皇国、横須賀海軍基地が、壊滅したわ」

「…………え?」

 その、あんまりな内容に動きを止めた。

「扶桑、皇国。……芳佳ちゃんの、故郷、の」

 リーネは目を見開く。親友の故郷。けど、それだけではない。

 扶桑皇国の海軍にはいろいろなところでサポートしてもらっている。そこが、

「ミーナさんっ、あ、あの、みんなは無事ですかっ!」

 芳佳は立ち上がる。けど、ミーナは首を横に振る。

「わからないわ。ついさっき美緒が横須賀市に到着したみたいだけど、……これが送られてきた映像よ」

「ひどい」

 ルッキーニも、思わず呟く。航空写真でノイズだらけの不鮮明な映像だが、それでもはっきりとわかる。蹂躙、文字通り破壊しつくされた横須賀海軍基地が。

 けど、

「村、は? ミーナさん、あの、私の、村は」

 その破壊痕を見て、芳佳は呟く。芳佳の故郷、生まれ育った村。そして、大切な家族や友達のいる場所。

 それは、横須賀海軍基地と同じ、横須賀市にある。もし、ネウロイがそこで暴れたら、

 絶望的、その文字を思い芳佳は蒼白になる。ふらつく彼女をリーネは慌てて彼女を支える。

 芳佳の問いにミーナは溜息。

「周囲の町に被害は確認されていないわ。基地が破壊された、だけよ」

「そう、……ですか」

「よかったね。芳佳ちゃん」

「…………うん」

 よかった、……もちろん、横須賀海軍基地が破壊されたことはよくないけど、それでも、故郷は無事。

 それを聞いてひとまずの安堵。けど、

「妙な話だな。ご丁寧に基地だけを破壊するとは、……何を考えている?」

 トゥルーデは首をかしげる。そんな話、聞いたことがない。

「なんか基地に恨みでもあるのかなー?」

 エーリカも首をかしげる。自分で言っておいてなんだがその可能性は低い。……というか、考えようがない。

 何せ相手は未知の敵。接触を試みたことがあっても成功したことはない。恨みという概念があるかさえ、不明。

「相手が人間ならなあ。敵の拠点を襲撃。……ってんでいいんだけど」

 シャーリーも難しい表情。けど、

「何にしてもさ、ここで話しててもしょうがないだろ。

 世話になってるんだし、助けに行くんなら、さっさと行くぞ」

 エイラが軽く手を振り、サーニャも頷く。

「どちらにしても、ネウロイが近くにいるなら芳佳ちゃんの故郷も危ないし、いつ襲われるかわからない。

 急がないと」

「あ、……そ、そうだよっ」

「ええ、そうね。

 事は一刻を争うわ。総員、扶桑皇国に向けて出発しますっ」

 ミーナの声に、了解、と声が重なり、ウィッチたちは飛び出した。

 

「…………けど、扶桑皇国まで遠いよねー」

 ルッキーニの言葉にウィッチたちは肩を落とす。例外は一人。

「あの、ペリーヌさん。

 これ、ほどいてくれないですか?」

 縄で繋がれた芳佳。彼女の言葉にペリーヌは淡々と応じる。

「扶桑皇国までストライカーユニットで飛行しだすような鉄砲玉を自由にさせるわけないでしょう?」

 当たり前だが、欧州から極東と呼ばれる扶桑皇国まで途方もない距離がある。ストライカーユニットで飛んだとしても途中で魔法力が尽きて墜落するのは目に見えている。

 それでも飛び出そうとする芳佳。任務に伴う最初の作業が仲間の捕縛という現実にペリーヌは溜息。

「だ、だってえ」

「美緒から、追加連絡で周辺の町や村にも被害が出ていないことを確認したわ。

 横須賀海軍基地の軍人も、怪我人は多数いたけど幸いにも死者は出ていないそうよ。ネウロイの脅威はみな実感していたから、速やかに避難していたようね」

 何せ《オペレーション・マルス》では主力としてネウロイと真っ向から戦った軍人たちだ。その脅威は骨身にしみているだろう。

 慢心して無謀な戦いに挑まず、速やかな避難により人的損害を最小限にとどめられた。その判断の正しさにミーナは内心で感心する。

「そうですか、……よかったあ」

「とりあえずは、だ。

 海軍基地が使えないのなら、到着したら拠点の確保、それに、襲撃したネウロイの情報を収集、索敵して撃破だな。やる事はたくさんある」

「ま、拠点の確保ならすぐ終わるでしょ?

 宮藤の実家とかちょっと興味あるなー」

 エーリカの問いに、拠点をどうするか考えていたミーナは軽く手を叩いて「そうね、宮藤さん、お願いできる?」

「あ、はい。大丈夫だと思います」

 軍からの要請なら学校そのものを拠点として使うこともできるだろう。それに、山間の田舎だ。空き家もある。なんにしても寝床に困ることはない。

「芳佳ちゃんの部屋かあ」

「芳佳の部屋っ、どんなところだろうねっ」

 リーネは興味深そうに呟き、ルッキーニは楽しそうに笑う。芳佳は苦笑。「別に何もない、普通なところだよ」

「あんまりはしゃがないで、遊びに行くわけじゃないのよ。

 トゥルーデもちゃんと監視しておきなさい」

「…………そうだな。宮藤の部屋に変なものがないか、確認する必要がある」

「……貴女は何を言っているの?」

 妙なことを言い出したトゥルーデにミーナは半目で呟く。

「へ、変なものなんて何もないですっ!」

「ま、確かに宮藤、娯楽少なさそうだしねー」

 訓練しているか家事をしているか、芳佳にはその印象しかない。エーリカの言葉に皆が頷く。

「宮藤も、もっと娯楽とかみつけろよっ!

 あ、バイク貸してやろうか? バイク、楽しいぞっ、思いっきり吹っ飛ばすのっ」

「ええ?」

 ずい、とシャーリーに抱き寄せられる芳佳。そして、唇を尖らせるトゥルーデ。

「カールスラント軍人たるもの、遊びに現を抜かす暇などないっ!」

「いや、芳佳はカールスラント軍人じゃないって」

「うっ?」

 説教を始めたトゥルーデはけらけら笑うエーリカに轟沈。

「音楽、楽しいよ。……芳佳ちゃんとセッション、……できたら、楽しいと思う」

 おっとりと微笑むサーニャに頷きかけて、膨れて睨みつけるエイラを見て反射的に玉虫色の返答を選択。

「え、えーと。……そのお料理とか、楽しいし」

「あっ、扶桑皇国のお料理。たくさんあるんだよね。

 楽しみ」

「うんっ、お母さんの作ってくれた料理、すっごく美味しいよ」

「おおっ、美味しいごはん、楽しみーっ」

 ルッキーニは嬉しそうに笑い、ペリーヌは慄く。

「…………腐った豆を食卓に出す国の料理」

「な、納豆だよっ! 納豆は美味しいよっ」

 抗議の声を上げる芳佳。ペリーヌは何か言い返そうとして、ぱんっ、と音。

「はいはい、雑談はここまで。

 いくつか報告することがあるわ」

 通信機に張り付いていたミーナの渋い声。

「まず、欧州からの追加派遣は期待できなさそうね。

 激戦区である欧州からは距離があるし、離れるわけにもいかないから」

「…………はい」

 残念そうに芳佳は呟く。期待ができないことはわかっているし、聞いていた。

 元々《STRIKE WITCHES》の派遣も《オペレーション・マルス》により扶桑海軍の有用性が認められたからという理由が大きい。そうでなければ激戦区に集うウィッチたちの中でも指折りの部隊である彼女たちの派遣は認められなかった。

 とはいえ、それが限界でもある。エースが抜け、さらに追加でウィッチたちが極東に向かったら、その隙に欧州はさらにネウロイに蹂躙されるだろう。

「それと、横須賀市に出現したネウロイだけど、……どうも、拘束されているようね。

 特殊な、……魔法? のようなものでね」

「固有魔法か?」

 一部のウィッチには固有の魔法がある。それかな、と思ってシャーリーの問い。

 拘束をする魔法、自分は知らないが、使い手がいたとしても不思議ではない。

 けど、ミーナは難しい表情。

「だと、思うわ」

「曖昧だねえ?」

 首をかしげるミーナにシャーリーは苦笑。

「仕方ないじゃない。魔法なんて大まかにくくられていても、地域ごとに独自発展した魔法なんていくらでもあるのだから」

 今の主流が自分たちウィッチというだけで、世界中にはその地域、その時代に合わせた魔法があるといわれている。そうした独自魔法体系の研究も成されているが、ネウロイとの戦闘が第一義であり、研究は遅々として進んでいない。さらにはそれぞれの使い手の数が少なく、隠れているものがほとんどだ。

 ゆえに、そういう事が出来る者がいる、という形で納得するしかない。

 ただ、

「まあ、……ともかく、そういう理由で、とりあえずの安全は保たれているようね。

 けど、その魔法もいまいちよくわからないところもあるし、どちらにせよ早期の合流と対応が必要よ」

 ミーナの言葉に異存はない。皆が頷いた。

 

「…………なんだ、これ」

 横須賀市に到着。横須賀海軍基地。その状況を確認するために来たウィッチたちはきょとんとする。思わず、シャーリーが呟く。

 なんだこれ、と。……けど、その問いに誰も答えられない。それだけ異様な光景がそこにあった。

 硝子の箱に黒雲を圧縮して押し込めばこうなるか、あるいは、黒い濃霧、高濃度の煤煙。あるいは、

「ネウロイの、巣? ……ですの?」

 ウィッチたちの感覚ではこれが一番近い。もっとも、そんなものが地上に、真四角で存在するとは到底思えないが。

 海軍基地の敷地をぐるり囲むように存在する縄。そして、そこを境界とするようにその向こうが黒い霧に閉ざされている。

「これ、……注連縄?」

 海軍基地を囲う縄。芳佳はなんとなく連想したそれを呟く。

「しめなわ?」

 リーネは首をかしげる。それが何なのか知らない。そして、それは皆も同様。

「芳佳ちゃん、しめなわ、って?」

「え? ……あ、そっか。知らないよね」

 注連縄は扶桑皇国の文化だ。主にあるのは神社で、他国、特に欧州には縁遠い。

 けど、何か、と聞かれるとなんて答えようか。……首をかしげる、と。

「それは境界を作るものだよ。大体使われるのは神社、そうだね。神域という方がわかりやすいかな。

 つまり世界を区切る縄。で、今回は鉄蛇の存在個所を区切っているんだ。それがある限り、鉄蛇は外に出られないよ」

 男性の、声。

「ん、誰だお前?」

 エイラはあまり聞きなれない男性の声を聞いていぶかしそうに振り返る。

 声の主、穏やかな印象の、三十歳くらいの青年。扶桑皇国の人とエイラは見当をつける。

「僕は蘇我豊浦。それを作って、そこにいる鉄蛇を閉じ込めた《もの》だよ」

「鉄蛇? ……ああ、ネウロイの事ね」

「そう呼ばれているらしいね」

 ミーナの言葉に彼、豊浦は頷く。

「閉じ込めた、……っていう事はお前も、ウィッチか?」

 男性のウィッチも、いないわけではない。現在は確認されていないが過去にいたらしい。

 珍しいな、と思っての言葉に彼は首を横に振る。

「違うよ。僕は魔縁、……まあ、ようするに怨霊だよ」

「うぇ?」

 思いがけない言葉に思わず変な声を上げるエイラ。

 魔縁、というものはわからないが、とりあえず怨霊はわかる。珍しい男性のウィッチ以上に珍しいかもしれない。……事実とは思えないが。

「そういうあなたたちは? 蕃こ、……異国の人に見えるけど?」

 豊浦の言葉にミーナは一息。彼と相対するように前へ。

「横須賀海軍基地を襲撃したネウロイを撃破するために、欧州より派遣された連合軍第501統合戦闘航空団《STRIKE WITCHES》です。

 私は隊長のミーナ。事情を知るのでしたら協力をお願いします」

「うん、了解」

「あ、あのっ、私の、村は、あの、「ああ、君が宮藤さんかな? 宮藤芳佳君」へ?」

 初対面の男性に名前を当てられて困惑する芳佳。彼は微笑。

「美千子君が君の事、嬉しそうに話していたよ」

「みっちゃん、……みっちゃんは、無事ですかっ?」

 友達の名前を聞いて詰め寄る芳佳。豊浦は頷いて「ああ、あの村は無事だよ。怪我人はいない。……けど、怪我した軍人を預かっているから、少し慌ただしくなってるくらいだね」

「そう、……ですか」

「それと芳佳君のお母さんとお祖母さんは近くの病院で怪我人の治療をしているよ。美千子君もそっちのお手伝いをしているみたいだね」

 家族、友達、大切な人の無事を確認でき、芳佳は安堵の吐息。

「よかったね、芳佳ちゃん」

 リーネに笑顔で「うんっ」と頷く。

「それで、事情だけど、……長くなるけどどこで話す? 君たちの寝泊まりする場所があるならそこでいいけど?」

 寝泊まりする場所。それはもちろん、

「芳佳の家っ!」

 ルッキーニは両手を上げて応じる。誰も異存はない。頷く。

「それじゃあ、先にそっちに行こうか。

 芳佳君、母親たち会いたいと思うけど、あっちはあっちで忙しいし、夜でいいかな?」

「あ、はい」

 横須賀基地がネウロイの襲撃で壊滅したとなれば負傷者もかなり出ているだろう。その治療が最優先だ。

 それは医者を志す芳佳も理解できる。我侭を言っていいところではないことも。

 だから頷く芳佳に豊浦は微笑。

「それじゃあ、行こうか」

 

「な、なな、なんですのここはっ? ひ、秘境っ? 秘境ですのここっ?」

 山に入ったらペリーヌが悲鳴を上げた。

「秘境って」

 で、故郷を秘境呼ばわりされた芳佳は微妙な表情。

「わおっ、すっごーいっ、緑がいっぱいっ!」

「うん、……涼しくて奇麗なところ、これが扶桑皇国の森なんだ」

 ルッキーニははしゃぎ、サーニャは感嘆の声。

「ふむ、……カールスラントの森とは趣が異なるな。

 ここも悪くないな」

 トゥルーデは興味深そうにあたりを見渡す。ふと、芳佳は振り返って、

「あ、蛇には気を付けてくださいね」

「へ、へへ、へ、蛇っ? 蛇、蛇がいますのっ? ここは魔境ですのっ?」

「魔境っ?」

「さすがに、魔境はないんじゃないかな」

 ペリーヌに抱き着かれたリーネは苦笑。

「なんだ? ツンツン眼鏡はこういうところだめか? 案外臆病だな」

「うぐっ? ぐ、……ぐぐ」

 あまり言い返せない。黙るペリーヌにエイラは意地悪く笑う。

 ともかく、

「あ、見えてきました」

「…………ん?」

 山間の小さな村。懐かしい故郷の無事な姿に芳佳は自然、笑みが浮かぶ。

 よかった、と。

「こ、……これが家か」

「え? 変ですか?」

 驚愕の表情を浮かべるトゥルーデ。

「い、いや、……もろそうだな」

「そうね。いえ、美緒から聞いていたけど、木でできた家、……驚きだわ」

「うわー、よく燃えそう」

「燃やさないでくださいっ!」

「欧州は石造りの家が多いみたいだね。

 そういう家に住んでいる人にとっては珍しいだろうね」

 豊浦は楽しそうに笑って応じる。そうかも、と芳佳は普段暮らしている基地を思い出す。

 石造りの頑強な建物。……近くに横須賀海軍基地があるせいか、そういう建物も見慣れているがそれしか見たことがない人にって扶桑皇国の家は珍しいのかもしれない。

「静かで、涼やかで、……外の山とも調和のとれた家。……こういうところで暮らすの、よさそう」

「借景といってね。建物も景色の一部としてなじめるように作られているんだよ。

 自然の中に溶け込むように作られた家。だから庭先から外を見てもあまり違和感を感じないんだ」

「借景、……人の住む場所も、自然の一部になるように、ですね。……そういうの、いいなあ」

 羨ましそうなサーニャ。エイラはカメラを持ってきていないことを後悔。絶対に見つけて風景の写真をサーニャにプレゼントしようと心に決める。

「欧州の石造りの家は対立が中心なんだろうね。

 森の中には魔がいる。ゆえに魔が入り込めないようにする。堅牢な家はそういう意味があるのかもしれないね」

「……かもしれないわね」

 ミーナは頷く。確か昔に御伽噺で森には悪い魔がいると聞いたことがあるのだから。

「うう、魔とかそういうのやだあ。

 ここにはいないよね? 扶桑皇国には怖い幽霊とかいないよね?」

 シャーリーの後ろに隠れてルッキーニ。シャーリーは笑って「ほら、そこに怨霊がいるぞ」

 自称していた豊浦を示す。ルッキーニは警戒の声。

「おや? これは嫌われたかな?」

「怨霊なんて自称するからよ」

「ちなみに、扶桑皇国の森には神がいる、と言われているよ。

 ……といっても、西欧の神とは全然違う。恵みをもたらす事もある。けど、祟り、……害をなすこともある。ある意味西欧の魔と大差ないかもしれないけどね」

「うむ? うー?」

 よくわからない、とルッキーニ。豊浦は微笑。

「まあ、大丈夫。それにそういう話をしに来たんじゃないよね?」

「そうね。興味はあるけど、まずはネウロイの事よ」

 興味を断ち切り応じる。時間があれば少し詳しく聞こうか、と思うけど。

「あの、……お時間がありましたら、聞かせてもらえませんか?」

「私も、あの、……御伽噺とか、聞いてみたいです」

 サーニャとリーネの言葉に「時間があったらね」と豊浦。

 と、不意に芳佳は駆け出す。彼女の目指す先。

「宮藤診療所、あそこが宮藤の家かあ」

「む、……もろそうだな。ミーナ、宮藤の家ならもう少し頑強にするべきではないか? 何かあっては困るだろう」

「……貴女は何をしに来たのよ?」

 難しい表情で検分するトゥルーデにミーナは胡散臭そうな視線を向ける。

「私は、このままでいいと思う」

「サーニャは木の家とか好きか?」

「うん、いいと思う」

「そっか、じゃあどういう作りなのかも見ておこうな」

 いつか、お金を貯めて木造りの別荘をプレゼントする。きっと喜んでくれるだろうな、とエイラ。

「だから、貴女たちは何しに来たのよ?」

 


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