ティリスオンライン   作:junq

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はじめての いらい

 

 

「わけがわからないよ」

 

 

ゲーム外で睡眠を取り、再びログインした俺の目の前に広がっていたのは廃墟だった。

壁がバラバラに粉砕され、ベッドの間にあった薄い壁も無くなっている。

ふと横のベッドを見れば、アカリちゃんがそこに横たわっている。

まだログインしてきていないようで、生気が無い。まるで死んでいるかのようだ。

アカリちゃんの顔をしげしげと眺めていると、突然その瞳が開いて、目が合った。

つい、気恥ずかしくなって、お互い頬を染めながら顔を逸らす。

……だから中学生か俺達は。

 

 

「えっと、どういう状況なのだろうか」

 

「分からない。起きたらこうなっていたんだ」

 

 

二人で首を傾げながら、周りを見渡してみる。

すると、アカリちゃんが手を上げて一点を指し示した。

 

 

「もしかして、あの人の仕業ではないだろうか」

 

 

そこを見てみると、道具袋が描かれた看板が掲げられた店を解体している男がいた。

店主は至って平然と、店内にいる女性と歓談している。

……あれって確か、雑貨屋だよな。

 

その男は、雑貨屋の壁をなんと手で掘り壊していく。

時折、壁から光る何かが出てくると、男は素早くそれを懐に収めていく。

 

 

「何をしているのだろうな」

 

「さあ……」

 

 

二人で首を傾げてみるが、それでその男が行動を中断する訳も無い。

男は素早く、確実に雑貨屋の壁を解体し、更には隣の建物の壁まで掘り始めた。

その動きには一切迷いは見られず、流れるような動きで壁を削り取っていく。

そして、人々はそんな男に対して殆ど注目していない。

精々が「ああ、やってるやってる」程度のものだ。

 

 

「詳しいことは分からないけど、アレは途中で出てくる何かが目的なんじゃないかな」

 

「ああ、そういえばきらきらと光るものが壁の中から出てきていたような……」

 

「それで、壁の中になんでそんな光り物が埋まってるんだろうな」

 

「験担ぎ……ではないだろうか」

 

 

アカリちゃんが自信無さそうにそう言うが、僕もそれ以外の理由は考えつかない。

強度を増す為……にしては、所々にしか入ってないし。

あ、また何か出たみたい。

 

 

「あ、あれは見たことがあるぞ。確か大地の結晶というものだ」

 

「大地の……? どういうアイテムなの?」

 

「神様に奉納するか、売るしか使い道が無いアイテムだったと思う」

 

 

確か、神様はそれぞれ受け取ってくれる奉納品が違うという話だったから……

受け取ってくれない神様を信仰してる場合、使い道無し?

 

 

「まあ、いつまでも見ていても仕方ない。依頼でも受けに行こう」

 

「そうだね」

 

 

アカリちゃんに続いて、掲示板へと向かう。

その途中、うっとうしいぐらいに白い少女がまとわりついてきた。

もう復活したのか……

 

 

「ふむ……この収穫の手伝いなどどうだろう?」

 

「良いんじゃないかな。パーティさえ組めば簡単に終わるだろうし」

 

 

パーティ申請を出し、それをアカリちゃんが受理するのを待つ。

その間に、白い少女がぱたぱたと周りを走り回る。

……うぜえ。

 

 

「では行こうか」

 

 

アカリちゃんが掲示板から紙を引っペがした瞬間、視界が一変した。

俺とアカリちゃんは、一瞬にして藁ぶきの小屋の中にいた。

目の前にいる老人が、どうやら依頼者らしい。

……本当にどういう理屈でワープしたんだろう。

 

 

「やあ君たちが依頼を受けてくれたのかい?」

 

 

NPCだと思われる彼は、軽い口調で俺達に話しかけてきた。

疑問形でありながらも、彼は俺達が依頼を受けたことを疑っていなかった。

彼は俺達が返答するより早く、依頼の詳細を話し始めたのだ。

その内容とは、近くの畑に行ってある程度の作物を収穫してきて欲しい、というものだ。

依頼書と全く差異が無いことを確認した俺達は、即座に頷いた。

 

 

「よろしく頼むよ」

 

 

彼がそう言うと、またもや視界が一変した。

今度は、大きく広がる草原と、その中に点々と畑がある光景。

……一応、なんとなく空間が区切られているのは分かる。

この空間を出ると、依頼は失敗だということなのだろう。

だが、その広さが問題である。

前方は約1キロ。左右及び後方もそんなところ。

つまり、単純計算でいわゆるクエストエリアが4平方キロあることになる。

 

 

「アホだろこの広さ……」

 

「うむ……畑がまばらとはいえ、広すぎるきらいがあるな……」

 

 

ともかく、考え込んでいても始まらないので、二手に分かれて畑へと向かう。

そう、向かう、のだが。なんだか縮尺がおかしい。

俺の目がおかしいのかどうか知らないが、瓜の横にりんごが生っている。

まあそれはゲームだからと考えれば納得出来ないでもない。

だが、りんごが瓜の四倍近くも大きいとなれば、自分の目を疑う他ない。

――まあ、たどり着いてみれば、自分の目が正常であることが分かったのだが。

 

 

「……なんだこれ」

 

 

三歳児くらいの背丈があるりんご……化け物である。

そして、その横にある瓜は少し小さい。

確か、収穫量は重さが基準だという話しだったから……

大きな方を持てば、一往復でかなりの重量を運ぶことが出来るな。

一抱えほどもあるが、まあこれぐらいなら持てないこともない。

よし、と気合を入れてりんごに手を回す。

やはり相当の重量がある。これは大変だぞ。

 

 

「よっこい、せいやぁ!」

 

 

一気に、りんごを持ち上げながら立ち上がる。

あまりの重量にふらつきながらも、俺は来た道を戻っていく。

向かうのは、さっき視界の端で確認した納品箱だ。

収穫したものは納品箱の中に入れて欲しい、と言われているが……

このりんごは、果たして納品箱に入るのだろうか。

 

りんごのせいで、前方の視界が悪い状況。

そんな状況で、考えことをしていた俺は、つい何かを踏んづけてしまった。

ばきゃ、という音と共に、何かを砕いたような感触が足に伝わる。

顔だけで振り返ってみれば、大きなかたつむりの殻が壊れていた。

……一口に大きな、と言ったが、500mlペットボトルくらいの高さがある。

まぁ、こんなところで出るのだから、害虫のような扱いのMOBだろう。

そう結論して、俺は先を急いだ。

 

納品箱まであと少し、といったところで、俺は先客の存在に気付いた。

ゆっくりと納品箱の上にりんごを下ろすと、ずるんっとりんごは箱へと吸い込まれた。

……明らかに納品箱の短い辺より、りんごの直径の方が大きかったんだけどな。

納品箱の下に表示されている数字を読むと「27.4/20.0」とある。

 

 

「どうやら、これで依頼は達成みたいだね、アカリちゃん」

 

「そのようだな」

 

 

先客として、納品箱の横で僕を待っていたアカリちゃんは、呆然とした声で答えた。

……そうだよな。あのりんごはデカいなんてものじゃなかったよな。

普通にダンジョンに置かれていたら、モンスターかと思うところだ。

再び視界が一変すると、目の前には喜ぶ依頼主がいた。

彼はレモンを一つと、ペットボトルの蓋ほどの丸いものを俺たちに手渡してきた。

 

 

「なんだ? この丸いの」

 

「そういえば、カラス殿が『種を確実にくれる』と言っていたような……」

 

 

……アカリちゃんが他人を呼ぶの、今始めて聞いたかも。

殿って。武士か。まあそれはともかく。

確かに、収穫依頼で種がどうとか言っていた気がする。

種……なあ? 直径が四センチ近くもある種が一般的なのか……

 

 

「この世界はなんていうか、たまにスケールがおかしいな」

 

「……そうだな」

 

 

僕とアカリちゃんは、妙に大きい種を見ながら溜め息を吐いた。

まだ二日目だというのに、精神的に疲れる。

カラス。早く帰って来てくれと。

滅多に思わないようなことを、僕は思わざるを得なかった。

そして、そういうことを思ってしまうと、奴は『フラグ』とばかりにやってくるのだ。

 

 

「たっだいまー!」

 

 

斜め四五度の角度で、轟音と共にナニカが地面に突き刺さる。

……と言っても、事前にかけられた声からして、誰なのかははっきりしているが。

よいしょ、と掛け声をかけながらソイツはさらっと顔を引き抜いた。

 

 

「早いお帰りだな、カラス」

 

「おうよー」

 

 

いかにも今歩いて来ました、といった軽い調子で、カラスは片手を挙げて答えた。

しかし、奴は五秒前には凄まじい速度で地面に突き刺さっていたのだ。

何故全く顔に土が付いていないのか、激しく疑問である。

 

 

「近くに低レベのダンジョン見つけたから行こうぜ!」

 

「唐突だなおい!」

 

 

アカリちゃんと一緒に当惑していると、カラスは俺たちの腕を掴んで、跳んだ。

一瞬で地面が彼方へと飛んで行く。

否、飛んでいるのは観測者たる自分。

俺とアカリちゃん合わせれば、設定上の重さは百キロを超えるはず。

なのに、カラスはそんなことを問題としない。

優に十メートルほどを跳んだカラスは、そのまま地面に着地した。

そして、即座にもう一度の跳躍。

 

 

「おま、少しは、こっちに配慮しろよぉおおお!」

 

「結構遠いんだよ、我慢しろ」

 

 

そのままピョンピョンと飛んでいき、ヨウィンが米粒ほどに見えるようになった頃。

俺たちの目の前に、洞穴が現れた。

察するに、これがダンジョンの入り口なのだろう。

 

 

「ついこの前出来たばかりっぽいからな。中は荒れてないはずだ」

 

「ああ……大体察した」

 

 

何はともあれ、覚悟を決める。

中で何が待っていようと、俺は大丈夫だ……!

そう、自己暗示をかけながら、俺は一歩を踏み出した。

 

 




はぢめて……いやなんでもない。

きのこと富樫が早く働かないかなぁ

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