最初からクライマックスである。
一応言っておきますが、これはelonaを原作としたVRMMOを描いた小説であり
elonaの仕様はたまに変更されます。
ヘルメスの血? 超レアだよ。廃人でも滅多に手に入らないぐらいにはレアだよ。
そんなもの探すくらいなら、速度を願った方が早いと言われるぐらいにはレア。
『終末』
この世界に何本かある『終末』を引き起こす武器によって引き起こされる災害。
ドラゴンや巨人が大量に出現し、エーテルの風が吹き荒れる。
「……それで、何で始まりの街でそんなもんが起きてるんだ?」
「ああ。ちょっと信じられないとは思うが……
この街ヴェルニースには原作第一章のラスボスを凌ぐ強さのキャラクターがいるんだよ」
「その人に世界救って貰えよ……」
そこまで聞いて、俺も見当がついた。
恐らく、その人物が持つ武器が『終末』を起こす武器の内の一本なのだろう。
「……ちょっと待ってくれ。その人が持っているのは、固有アーティファクトって奴か?」
「その通り。サーバーに一本しか存在出来ないアイテムだ」
「確かこのゲームでは、稀にNPCが即死するイベントが起きるんだったよな?」
「ああ。VRMMOになってからは、大幅に頻度が下がってるけどな」
「そして……固有アーティファクトは確か、確定ドロップ……」
震える声で、俺はそう口に出した。
それに対して、カラスはニヤリと笑みを返した。
「さあて今回はどっちかなー? 街中で終末狩りをしようとした馬鹿かなーそれともー?」
「ドラゴンと巨人狩れるならそりゃ美味しいんだろうけどよ……!」
恐ろしい。何も知らない初心者が、街中に落ちていたスゴイ武器を拾ったという可能性があるのが恐ろしい……!
しかし、幸いにして『終末』の中心点は街の北の方で、こちらにはあまりモンスターは来ていない。
たまに道端に急にドラゴンが出現するものの、すぐ北へと向かってしまうので、周りのNPCにも被害は出ていないようだ。
「テレポートの杖か? わざわざ使ってるってことは、何も知らなかった初心者……にしても、結構持ち堪えてるな」
「そういえば、さっきドラゴンを見てからもう五分は経つな。初心者がそんなに生き延びられるものなのか?」
「いやいや。このゲームはそんなに甘くない。ドラゴンのブレスは範囲的に“かわす”どうこうの話じゃない。
耐性を付けて防ぐのが基本だ。それでもグリーンドラゴンのブレスは無属性。耐性では防げないんだが……」
「全ての属性に耐性を持っているとしても、そのドラゴンのブレスに耐え、なおかつドラゴンの攻撃を凌いでいる、ということだな」
「知識が無いとは思えない実力だな。取り合いになるだろうが、スカウトに行くか」
じゃりん、とカラスが腰の刀を引き抜いた。
美しい、刀だった。
透き通るような色をしていて、なおかつしっかりと存在感を放っている。
どこか妖しいその刀を、酒場の壁を正面にしながら、上段に構える。
「行ってくる」
「待て。出口から出――」
「フンッ!」
バカァン! という高い音と共に、酒場の壁が崩壊した。
崩れ落ちるのとどちらが早いか、その穴からカラスが飛び出す。
それを、俺は諦めの視線で以て見送った。
「なるほど。高レベルになると、入口から出るよりも穴掘って出た方が速いのね……」
はあ、と口から溜息が漏れる。
色々無茶苦茶なゲームであることを改めて実感し、俺はワインを追加注文した。
ウェイトレスが奥に引っ込んでいくのをぼうっと眺めていると、視界の端で何かが光った。
そう、光ったような気がして、そちらを向こうとした瞬間には、俺は全く違う場所にいた。
周りはひたすらドラゴンだらけの、修羅場真っ只中に。
「な、ん、で、だああああああ!?」
目の前のドラゴンが口を開いたのに反応して、懐に入り込む。
それと同時に、後ろから轟音と共に熱風がやってきた。
(赤いからって炎のドラゴンかよ! 安直だな、オイ!)
装備がほぼ無く、体が軽いのを活かしてドラゴンの後ろに周り込む……と、そこにもドラゴン。
左にもドラゴン、右にもドラゴン。上もドラゴンが飛んでいる、とまあどうしようもない。
まだブレスを吐き終わって隙だらけな後ろのドラゴンをどうこう出来ないか、と考えている内に、
「あ、これスタート地点か」
先程のファイアドラゴンの前に戻された俺は、ようやく気付いた。
気付いた後に、即ダッシュ。
街から離れれば大丈夫。そう、思ったのだが。
*あなたの目は増殖した*
*あなたの背中から羽が生えた*
「ちょ、なんだこれ」
走り出して五秒ほどで、視界が急に広がった。
なんだか良く分からないで、そのままドラゴンをかわして走っていると、今度は背中からなんか生えた。
アナウンスによると、羽らしいが……ばっさばっさ動かしてみても、飛べたりはしないようだ。
とはいっても、もし飛べたところで飛ぶ気などというものは全くない。
空中戦の心得も無しにドラゴンとドッグファイトなんて、とてもじゃない。
「確か、東に都市があるんだったか……」
wikiの情報を思い返す。
始まりの炭鉱街、ヴェルニースから東に向かうと、パルミアという都市がある。
街道に沿って南東へ行くと、農村ヨウィン。
西に進んでから、街道を外れて南へ向かえば犯罪都市ダルフィがある。
街道に沿って進む余裕などなく、ただ全速力でドラゴンから逃げている現状、まっすぐ東に向かうのが良い。
何も考えずに、まっすぐに東へ。実にそうしたいのだが。
「……東って、どっちだ」
広大過ぎるマップ。
まばらとはいえ、度々沸く敵MOBは、ドラゴンほどではないが、十分な脅威だ。
現実なら、スマホで地図を見るなり、地図が機能しなくてもコンパスのアプリを使うなり、色々手段がある。
だがしかし、今の俺はコンパスなんぞ持ってない上に、ドラゴンから逃げ惑う逃亡者でしかない。
「ああ、全く……とんでもねえゲームだぜ……!」
ちょっぴり楽しくなってきながらも、俺は溜息と共に呟いた。
あれ、そういえば俺は魔法使いじゃなかったか……?
魔法の魔の字も無いプレイなんだが。
まあ、いくら悩んでもしょうがない、と現状確認の為にちらりと後ろを振り返る。
分かりきっていたことだったが、ドラゴンがいっぱいついて来ている。
どうすれば解放されるのかなーと半ば諦めの境地に達しながらも、前を向く。
すると、少し前方に人がいるのが分かった。
その人は、黒い服の上から赤いコートを羽織っていて、鷹の如く鋭い瞳で恐らくはドラゴンを睨んでいる。
ドラゴンの大群が迫っているというのに、その人は全く慌てることなくゆったりと弓を取り出した。
そして、その弓を天に向け、放った――と同時に、俺は再びドラゴンに囲まれていた。
じろり、と周りのドラゴンが俺を認識する。
……ドラゴンごと殺されたー!?
「おっと、そういえば壁壊してきちまったから、あいつ危ないな……まあいっか」
八咫烏を名乗る彼はケラケラと笑う。
彼も立派なイルヴァの住人だけあって、知り合いがドラゴンに何回か殺される程度は“まあいっか”で済ませることが出来る。
笑いながら、走りながら、手に持つエーテル製の刀を振り回す。
一般的なエーテル製の武器とは違い、彼の武器はかなり重い。
鉄の大剣などと、そう大して重さが変わらない程に。
その重さと技量の相乗効果で、瞬く間にドラゴンの首を切り落としていく。
「ざんばらり、ってなあ」
相当な重さがある刀を、小枝のように振るって血を落とすと、再びカラスは走り出した。
終末の中心点へ。この終わらない終末の、原因の元へ。
何故、際限無くドラゴンが溢れているのか?
答えは簡単である。未だに終末が断続的に起こっているからだ。
恐らく、ドラゴンに対して今もあの武器――『ラグナロク』が振るわれているのだ。
「ヒャッ、ハァアア!」
ここまで見かけなかった巨人の首を、一撃で刈り取りながらもカラスは走る。
ただひたすらに走って、ようやく――中心に辿りついた。
まさに、そこは混沌の坩堝。
ラグナロクを持つ女が居た。恐らく、彼女が終末を起こした人物だ。
そして、その女に襲いかかる男達も。彼らはちょっと過激な方法で終末を止めに来ただけだろう。多分。
女を狙う銃や弓。その流れ弾で負傷したドラゴンや巨人を確実に仕留めていくヒットマンのような奴もいる。
男達の一人が、カラスを見てギョッとする。驚きと共に口を開こうとした彼は――一瞬で首を狩られていた。
彼の首が落ちる音で、男達もカラスの存在に気付いた。
「やっ『ヤタガラス』が出たあああああ!」
「さっさと仕留めて逃げるぞ!」
「逃がすか、ボケどもが」
男達がカラスと相対する者と、女を殺そうとする者に分かれる。
もちろん体勢が整うのをカラスが待つ義理など無い。
首が落ちたのを直視したのか、腰が引けている一人の男に狙いを定め、カラスは突貫した。
とはいえ、相手もイルヴァの住人である。すぐさまカラスに向き直ったが、それでもカラスには遅すぎた。
ジャンプ。着地。再度ジャンプ。
その一瞬でしたのはたったこれだけのこと。しかし、着地したのは男の顔面。
呻き声を上げる男を顧みること無く、女を殺そうと大剣を振り上げていた男の首を後ろから刈り取る。
その光景を見て、呆気に取られたように立っている女の腰を担ぎ上げ、カラスは跳んだ。
「あばよとっつぁーん!」
その場には、男達と大量のドラゴン。アクセント程度の巨人が残された。
先程顔面をカラスに蹴られた男が、靴跡が残った顔を精一杯引き締めて言った。
「まんまとやられてしまったな……」
「お前かっこつけようとしても、靴跡で台無しだわ」
ちなみに、カラス君が使ってる武器はエーテル刀に呪い羽巻を三枚使用したもの。
最終的には重くしまくればどこまでも強くなるってある人が言ってた。
そこまで行ったら、恐らく重量挙げが最重要スキルから必須スキルになるんじゃないかな。
強いけど重すぎて動けないとか、意味無いし。