ティリスオンライン   作:junq

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更新は約束できない。

ついやってしまった。
別に反省していない。


イルヴァでは良くあることです

 

つい先日、また一つのVRMMOが公開された。

その名も『ティリスオンライン』

聞いたところによると、一昔前のフリーゲームの世界が舞台だそうだが……

 

 

「……評判スゲエな」

 

 

ネットを見たところ、意見は見事に真っ二つとなっていた。

素晴らしいという意見と、こんなゲームやってられるかという意見。

前者はどうやら元のゲームから遊んでいる者達が中心の意見。

後者はこのゲームから入った者達の意見が多いようだ。

後者の言い分はこうだ。

 

・街中でMPKが日常茶飯事

・塊の怪物ってなんなんだよ!

・演奏しようとしたら頭が潰れて死にました

・カオスシェイプキモイ

・ゴーレムOSEEEEEE!

 

目に付いたものだけでもコレである。

一体どんなゲームなんだ……wikiでも見に行くか。

『ティリスオンライン』っと。

 

 

「18禁パッチ……だと……」

 

 

wikiの下の方にひっそりと置いてあったパッチ。

即座にダウンロードしようとしたが、年齢認証がちゃんと待っていた。チッ。

思わずキーボードを殴りたくなる衝動に駆られたが、クラッシャーになる気は無い。

自重しよう。うん。

 

wikiにはちょっとだけ気になることが書いてあった。

『街の中でPCもしくはPCのペットに殺害された場合は、ペナルティはありません』

この文章。ちょっとおかしい。

そもそも、街の中で攻撃行為が出来るのがまずおかしい。

そして、NPCに殺される可能性をも、言外に肯定しているのがおかしいっ!

そんなMMOが、未だ嘗てあっただろうか……?

 

未だプレイしていないながらも、俺は嫌な予感を振り切れなかった。

だが、リアルの友達からは逃げられない。

一緒にプレイしよう! と言われて、その場でOKしてしまったのは、間違いだったかもしれない。

甲高い音を立てて、携帯が鳴り始めた。

相手には見当が付いている。十中八苦、カラスだ。

俺は溜め息を吐きながら、携帯のボタンを押した。

 

 

「もしもし」

 

『よっす。もうダウンロードした?』

 

「ダウンロードはした。けどさ、wiki見た限り嫌な予感しかしねえんだけど」

 

『ああ、“今なら”大丈夫だよ。最初の街に危険が無いのは確認してもらった』

 

「中にダチでもいんの?」

 

『リアルでもダチだっつーの。とにかく。どうせキャラメイクに時間かかるだろうから早くしろよ』

 

 

じゃあな、とだけ言って通話は打ち切られた。

全く昔から勝手な奴だ。交友関係も良く分からないし。

まぁ、それでも付き合ってる分には楽しい。

さて、とマシンに向き直る。椅子に座って、ヘルメットを被って、準備は完了。

 

 

「スイッチ、オン」

 

 

バチン、と視界が暗転した。

 

 

 

 

 

『ティリスオンラインにようこそ! まずはキャラクターの設定をして下さい』

 

「えーと、キャラクタークリエイトか? ……お、種族を選ぶのか。色々あるな」

 

 

現れたのは数多の種族の名前と、イェルスなる種族の特徴だった。

下に下にと、別の種族にカーソルを合わせていく。

 

 

「妖精なんて種族も……と、明らかに上級者用じゃねえか」

 

 

1.0s以上の重さの装備不可……どの程度の制約なのかは良く分からないが、説明文にも書かれているこの部分。

『防御力を上げるのは困難です』『まともな物理攻撃を一度でも食らうと危機に陥るでしょう』

どう見ても上級者用である。ただ、特別小さい容姿を選択出来るようで、男であっても非常に可憐な外見をしていた。

 

 

「ふむ。エウダーナとやらが良さそうだな」

 

 

キャスターなどに向いた種族。それ以外に特徴は無い。つまり初心者向けということだろう。

キャスター。つまり魔法使い……大抵のMMOでは高火力紙装甲キャラである。

このティリスオンラインでも多分に漏れず、そうなのだろう。

戦士も少しやってみたいが、カラスによれば後から前衛になることも可能とのことだし、良いだろう。

 

種族:エウダーナ

職業:魔法使い

 

そして、筋力、耐久、器用といった言葉と、その右に数値が現れた。

十中八苦キャラクターの能力を決めるのだろう。上にも能力値のロールと書かれている。

リロールを数度押すと、何個も一度にサイコロを振った時のような音と共に、数値に変化が現れた。

何度も押してみるが、一部の能力が高ければ他が低い、といった繰り返しだ。

はぁ、と溜め息を吐きながら体を後ろに倒すと、上の方に書いてあった『残りロック』という言葉が目に入る。

そして、その上には『ロックされた能力は変化しません』と書かれている。

なるほど。そういうことか。なら、まず魔力は要るだろう。

ということでガチャガチャ繰り返し、22でロックしておく。

次に、何度かリロールした中で一番高い数値を出していた意思を18でロック。

この二つで残りロックは0となった。

あとはひたすら、妥協との戦いだった。

『この程度で良いだろう?』『もう良いじゃないか』

そう囁く妥協という大敵を無視して、ひたすらのリロール。

 

最終的には、能力はこうなっていた。

 

筋力:3

耐久:6

器用:5

感覚:14

習得:11

意思:18

魔力:22

魅力:8

 

うむ。魔法使いとしてなら、優秀そうなステータスに見える。

実際はどうかなんて知らないけどっ!

次に現れたのは『特徴と体質』というページだった。

所得出来るフィート、と書かれたその下には、様々な特徴が記されている。

……というか、吸血鬼って種族じゃないのか、この世界は。

唸りながらも考えた末、僕は俊足と魔力の遺伝子、それに短距離走者を選んだ。

走者、ということは走ることでもスタミナを消費するのだろうと睨んだからだ。

そして、次は……異名の選択? なんだか良く分からないが、奇妙な名前が幾つも並んでいる。

追い剥ぎの呪いってなんだ……? 黒い善人って、どう聞いても善人じゃないよっ!

という訳で、何度もリロールしてまともな名前を探してみる。

ムーンライト・オブ・サンって、月なのか太陽なのかどっちだよ!

などなど、奇妙な異名に対して突っ込みながらも、リロールは続き……これしかないと言えるものを見つけた。

『ザ・メイジ』

魔法使いを目指す俺にはぴったりだろう。

 

次に、容姿を変更することになった。

目の前に古き良き画家達に描かれたような……それでいて、非常にスマートな肉体が現れた。

だがしかし、俺は魔法使いは貧弱なぐらいで無ければならないという信念に従って、筋肉を削り取っていく。

現実の俺より多少筋肉が付いている程度まで減らし、次に顔の変更だ。

VRMMOの慣習というか、諦めるべき点というか、やはり現実の顔から余り大きな変更は出来ないようだ。

といっても、多少鼻を高くしたり、そばかすを消したり程度は可能である。

そういったことをしていくと、最終的にはやはり『誰だお前』状態になるようである。

 

まぁ、俺も変更する点などそう多くはない。

ちょっと厚すぎる唇を薄くして、髪をボサボサに伸ばす程度だ。

……あれ、誰だお前。

某漫画の如くイッケメーンと擬音が付きそうなイケメンでありながら、髪はボッサボサ。

これが残念なイケメンという奴か……

あまり見すぎるとナルシストになりそうな予感がよぎり、さっさと次に進むことにする。

お、もう終わりのようだ。今までに設定した事柄が全て表示されている。

真ん中には『これで良いだろうか?』との問い。

さっさとはいを選ぶと、名前を入力する画面が現れた。

あぁ、そういえば名前まだだったな。いつも通り本名のアナグラムで、『サラム』っと。

 

 

 

 

 

 

気付けば、俺は街の中に立っていた。

周りには同じように立ちすくむものが数人。

つまり、ここは最初の街と言われる街、ヴェルニースのスタート地点か。

 

ふと俺は空を見上げた。この世界の空はどうなっているのだろう――

と、のん気に考えていた俺の頭は一気に戦闘態勢に入った。

空から、幾百もの岩石が落ちてくる。

 

 

 

 

 

「ハッ!?」

 

 

気付けば、また同じ場所に俺は立っていた。

違うのは周りの建物がみんな崩壊している点である。

加えて少数のNPCと、NPCの死体らしきものが周りに見える。

 

うむ。この街は危険だ。

 

そう察した俺は、一目散に建物が存在しない方に走った。

後ろからなにやら世紀末な掛け声がしてくるのは聞こえない。

 

 

「初心者はまず消毒だぁー!」

「フハハハァー! 逃げない奴は初心者だ! 逃げる奴は訓練された初心者だ!

今日もティリスは地獄だぜぇ! フハハハァー!」

 

 

断末魔も聞こえた気がしたが、気のせいだ。

あれはああいうイベントなんだ。危ない時は囮を使ってでも逃げろというチュートリアルなんだ。

そうに違いない。そうに違いないとも。

 

*あなたは良心の呵責を感じた カルマ-1*

 

アナウンスうるせぇ!

 

 

 

 

 

「開始十秒で這い上がり体験かぁ。まぁ、このゲームがどんなものかは分かったろ?」

 

 

目の前の男の言い分はもっともだが、やはりコイツの説明不足は大きい。

俺はコイツの名前を呼ぼうとして――つい、と目線を上に上げた。

キャラクターネームは『ヤタガラス』か。問題無いな。

 

 

「その前に、ちょっと謝るべきだろ、カラス」

 

「あー、説明不足は謝る。でも、その方が実感として分かるだろうという判断だったんだぜ?

まぁ、そう機嫌悪そうにしてないで、許してくれよ」

 

 

そう言いながら、カラスはウェイトレスにビアを一つ注文した。

不慣れな様子は見られないから、良くゲーム内で飲んでいるのだろう。

 

 

「おい、カラス」

 

「そう睨むなよ。法的には問題無いんだからさ」

 

 

問題無いとは言っても、ただ単に法整備が追いついていないだけだ。

それに、脳とコンピュータ両方の知識が相応にある人が少ないのもあるが

自称専門家達の間でも意見は分かれている。

やれ体に悪影響がとか、そういう気分になるだけで体に影響は無いだとか。

一昔前にVRについて取り扱った番組は大紛糾といった様相だったなぁ。

 

一昔とは言っても、何年前だったか……と在りし日を思い返していると

テーブルにビアが置かれた。ジョッキで。

それをカラスは勢い良く呷る。

 

 

「ぷはー! やっぱりビールは美味い!」

 

「一応、アイテム名はビアだろ」

 

「まぁ、そういうなって!」

 

 

カラスの顔は既に真っ赤だ。……ビアってアルコールどのくらい入ってるんだっけ?

まぁ、良いかと思い直し、僕はワインを注文することを決めた。

しかしまた、色っぽいウェイトレスだ。

なんかNPCらしき人物にパンツを要求されてるけど、アレどうなの?

セーフなの? マジで??

 

 

「一応、忠告しておくけど……演奏は生半可な気持ちで取るなよ」

 

「なんでだ?」

 

「ローグライクだった原作だと、楽器をショートカットに登録して休憩と演奏を繰り返すだけでスキルが上がったんだが……

このゲームでは、実際に自分の酷い演奏を何度も聞かないとスキルが上がらない」

 

「……なんだそれ。リアルの演奏経験とかは?」

 

「ある程度、スキルの上昇速度が速まるらしい……とは言われている。明確に検証はされてないけどな」

 

 

俺は多分、うへえって感じの顔をしていたと思う。

そこにちょうどウェイトレスが戻ってきて、ワイングラスを机に置いた。

ウェイトレスの手のトレイにはボトルが乗っていたので、すぐ机に置くものと思い、俺はグラスを手にとった。

すると、ウェイトレスはボトルを小脇に抱え、栓を空けた。

まさか、酌までしてくれるとは。素晴らしい。

 

 

「シーナさんに酌してもらえるだと……!? ちょ、俺もワインお願いします!」

 

「え、お前知らなかったの」

 

「ビールしか飲まないし」

 

 

ほどなくして、運ばれてきたグラスにもワインが注がれ、俺達はグラスを打ち鳴らした。

つい、と軽くグラスを傾けると、芳醇な香りが感じられた。

思わず、溜息を吐く。酒に関してはこの世界最高ではないか? 日本酒や焼酎は無いようだが。

 

 

「ワインってのも中々イけるな。今度からはワイン飲むか」

 

「お前、酌目当てだろ」

 

「るせえ」

 

 

お互いに笑い合う。

下らない、バカ騒ぎだ。だけれどそれは、漫才か何かのようで。

つい、外の様子を把握するのが遅れてしまった。

 

 

「……おい。なんだこれ。外をドラゴンが歩いてたぞ」

 

「あーあーバカが出たかーこれだけは予測できねえや」

 

「だから、何が起きたんだよ!」

 

 

帰ってきた言葉はたった一言。

 

 

「『終末』だよ」

 

 

俺の明日は、どっちだ。

 

 

 

 

 


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