Four worlds with each season Ver.Woman 作:@1319
次回から新章として夏の世界編が始まりますのでお楽しみに!!
ってこれは後書きに書くことでしたね。
それでは本編をお楽しみください。
時雨ちゃんの教えを受けて何とかどういう風に体を動かせばいいのかを理解したんだけど、私は1つの重要なことを忘れていた。なぜ忘れていたのかはわかっている。さっきの模擬戦闘が心のどこかでは楽しんでいたんだと思う。そして私が忘れていたこと、それは……。
「……お腹すいた」
朝ご飯を食べてからもう数時間は経っている。それなのに模擬戦闘で結構動いたから私の空腹を後押しする結果になっていた。蛍ちゃんたちにつられて今この場所にいるんだけど、ここに来る前に私はご飯にしようとは言っていたのだ。けどやる気に満ち溢れていた3人には勝てなかったよ。こういう時の多数決って不利なんだね。
「そろそろおやつ時ですからね。いい時間ですし、休憩にしましょうか。皆さんも呼んで少し遅めの昼食にしましょう」
時雨ちゃんが腕時計を見ながら言ってきた。……って! もうそんなに時間が経ってたの!? 日常的に時計を身に着ける習慣がないし、ここって時計ないんだよね……。携帯も持ってきてないから私は時間が分からない。夏休みだったから体内時計も狂っていたみたい。ということを考えていると虫の鳴く音が2つ聞こえた。……ん? 2つ? 1つの音の発生源は恥ずかしながら私のお腹だった。で、聞こえた音はほぼほぼ同じ。
ふと時雨ちゃんのことを見てみると下を向いて小刻みに震えていた。しかもどこか顔が赤くなっている気がする。
つまり、ここから導き出せる答えはただ1つ。
「時雨ちゃんもお腹すいていたんだね!」
「そんなにはっきり言わないでください!! そういうさくらさんだって……」
「私は認めたよ、"も"って言ったでしょ?」
「あ……」
「そうと決まれば、みんなを集めてごはんにしよう!」
私がお腹がすいていること認めたことを知った時雨ちゃんの顔はますます赤くなっていた。そんな時雨ちゃんの手を取って私は走り出す。
蛍ちゃんたちのもとへ、ご飯を食べるために!!
私たちがみんなのもとに着くと、疲れ果てていた蛍ちゃんとゆきちゃん、紅葉ちゃんがいた。汗だくで息の上がっている蛍ちゃんはきっと動き続けたのかもしれない。蛍ちゃんは大剣を使うからきっと私の何倍もつかれるんだろう。次に雪ちゃんと紅葉ちゃん。2人は基本運動が苦手みたいだから蛍ちゃんほど動いてはいないんだろうけど同じくらい疲れていた。2人とも慣れないことに挑戦していたからしょうがないと言えばしょうがないのだけど、特に紅葉ちゃんは魔法という全く経験のないことを試しているのだから精神的疲労も多いだろう。
「ねぇ、みんな。そろそろご飯にしない? 疲れとれるし」
「あぁ……。ちょっと疲れちまったし……、飯にするか……」
「そうね……。もう限界だわ。何とか使えるレベルまでにはなったのだし……」
「…………」
息の上がっている蛍ちゃん、脱力きっている紅葉ちゃん、話せないくらいにつかれているけどご飯に行くのに賛成の雪ちゃん。よし! これでやっとご飯にたどり着ける!
別段大食いってわけじゃないけど運動したし、朝方時間もたってるしお腹がすくのは不思議ではないはず。時雨ちゃんも同じだったし!
みんなを集めてこの施設の食堂にやってきた。時雨ちゃんの説明だと食券を発券してそれをカウンターに持って行くらしい。ここまでは一般的な食堂と同じだけどここは無料で、しかも料理はロボットが作ってくれるらしい。
とそんな説明を受けていると1人の男性の声が聞こえていた。模擬戦闘の時から別行動をしていたシズン博士だ。
「お、君たちも来たんだ。早く料理を持っておいで。一緒に食べよう」
「博士……。いつもマイペースなんですから……」
「いいから早く行こうぜ、おれ腹減ったよ……」
博士がいたことに驚くのではなく呆れている時雨ちゃんと、とにかく早くご飯を食べたい。私たちは博士に会釈をして券売機へと向かった。
券売機にやってくるとそこには豊富な料理の名前が広がっていた。私は朝がパンだったことを思い出し、今食べる料理を決め、ボタンを押した。本当にお金はいらないみたいですぐに選んだ料理の食券が出てくる。
その食券をもって私はカウンターのほうに行く。と、そこにはもうすでに選んでいた紅葉ちゃんがいた。
「あ、紅葉ちゃん。決めるの早いね~」
「えぇ……。ちょっと頭を使ったから甘いものが欲しかったのだけど、ちょうどいいものがあったから選んでみたわ」
「へぇ~。何を選んだの?」
と私が聴くタイミングできっと紅葉ちゃんが選んだのであろう料理がベルトコンベアに乗って流れてくる。その料理は私も好きなデザート系の料理だった。パンケーキ。普通に食事にしても十分な量を確保できるほか、味付けでデザートにも主食にもなる優れもの。……なんだけどデザートにした場合カロリーが高いからあまり食べることはないんだけど。でも頭を使ったときは糖分が欲しくなるし、満腹感も得られるからきっとこれ以上にベストな食べ物はなかったんだと思う。
「へぇー! いいな~。おいしそう……」
「さて、どうかしらね。ロボットが作ったのであればまずくはないとは思うけど、美味しいかどうかは食べてみないとわからないわよ」
「それもそうだね……。あ、お願いしまーす」
紅葉ちゃんの言うとおりだ。初めてこの場所でご飯を食べるんだから美味しいかどうかはわからない。……けどおいしそうなことには変わらない。きっとおいしそうなパンケーキを見たからか私は期待を載せて食券を出した。
「あ、さくら……。と、紅葉……」
「あ、雪ちゃん! 雪ちゃんも決まったんだ」
「うん……」
「じゃあ私は先に席に行ってるわ」
そう言って紅葉ちゃんは博士の座っている席に向かって行った。
たとえロボットが料理を作っているとはいえ、時間はかかるみたい。その間、雪ちゃんとちょっと話してみよう。ここまであまり誰かと2人で話す機会はなかなかなかったし。
「ねぇ、雪ちゃん。雪ちゃんは何を食べるの?」
「ラーメン……。いつも、食べてたから……」
「おぉ!! 私もラーメン好きなんだ~。醤油? 味噌? それとも塩?」
「……塩。今はなかなかがっつり行こうとは思えないから」
雪ちゃんはまだ疲れが残っているみたいで、話す速さも普通の時と比べて遅めだった。それに合わせるようにして料理も選んだみたい。さっぱり系の塩ラーメンは確かに気力がないけど、食欲がある時にはいいのかもしれない。油が気になるなら薄めればいいし。そう考えると、みんな考えて料理を選んでいるんだな~って思うわけで。
「そういう、さくらは何を、選んだの?」
「私? 私はね~。じゃっじゃーん!! 焼き魚定食でーす!!」
「さ、魚……?」
「うん! 朝がパンだったから、和風のものが食べたかったんだ。それで元祖和食みたいなこれを選んだんだ」
そう。私は朝は軽めに昼をがっつり食べて、夜はほとんど食べないようにしている。だから運動した後であろうが何だろうが私は量が多めの料理を選んだのだ。焼きたての魚の香ばしいにおい、ふっくらたけているお米にご飯に絶対合うお味噌汁。うん! 紅葉ちゃんのパンケーキ同様おいしそう!
「魚、か……。嫌いじゃないんだけど骨があるからあまり食べない……」
「雪ちゃん、好き嫌いはダメとは言わないよ。けど食べれるならしっかり食べないと。……もしかしたらもう食べられなくなっちゃうかもしれないし」
「……そう、だね。あたしたちが何も出来なかったらこの料理たちも食べられなくなっちゃうんだよね……」
私たちの経っている立場はいわばそういうことなのだ。失敗したら、生態系は崩れてしまうし、これから命を落としてしまうかもしれない。例え、命を落とす可能性が低くてもゼロではない。1日1日がもう二度となくて、明日を迎えることができなくなってしまうかも、なんてことをこれが私たちのやることが決まった時から考えていた。
私だって魚はあまり得意ではない。けど、食べれるものは食べられる。雪ちゃんの言うように骨が付いているとどうしても食べる気にはならなくなっちゃう。
けどここの料理はそう思うことなく受け入れることができた。だって本当においしそうなんだもん!
「さくらはすごいね……。さっき決まったことなのに、そんなに考えて……。あたし、銃のことしか考えてなかった。少し、考え方を変えるよ」
「……って!! 私すっごくまじめに語っちゃった!? はぅ……」
「大丈夫、あたしはさくらの考え好きだよ」
「あ、ありがとう……。じゃあ私も行くね? 紅葉ちゃんたち待ってるし」
「うん、あたしもすぐに行く」
ちょっと恥ずかしいと思いながらも私は紅葉ちゃんたちのいる場所に向かった。うぅ……絶対今の私の顔って……
「どうしたんだい、さくら君。顔が真っ赤だよ?」
「な、何でもありません!!」
ほら! 赤くなってた! こういうの恥ずかしんだよ……。恥ずかしいんだよ!! 私はテーブルに持ってきた定食を置いてひたすら下を向いていた。
(落ち着け……落ち着け……。大丈夫、大丈夫……。恥ずかしくない……恥ずかしくない……)
ひたすら心の中で自分にそう言い聞かせていた。……じゃないと雪ちゃんが戻ってきたときにまともに顔合わせられないもん……。
なんとか平静を取り戻しつつある私は大丈夫だと思い、再び顔をあげた。ちょうどそのタイミングで私の前は茶色い何かの壁がそびえ立っていた。
「え!? 何この壁!? どうしちゃったの!?」
「落ち着きなさいさくらさん。それは壁ではないわ」
「そうだよさくら……。それは蛍の持ってきた料理……」
「腹減った腹減った~。めちゃくちゃ腹減ったからいっぱい頼んじまった」
よく見ると茶色い壁だと思っていたものはお肉の塊だった。
「ハン、バーグ……?」
「おう! おれの選んだのはこのハンバーグだ!! 旨そうだろ!?」
「確かにおいしそうなのだけれど……その量は何なの? 食べられるの?」
「同意、蛍……これから苦戦する未来しか見えない」
そうだよね……流石に動き回っていたといっても今はただの女の子。そんな蛍ちゃんが上半身を完全に隠すまで積み上げられたハンバーグを食べることなんて……できないよね?
「本当に、すごい量だね……蛍くん……」
「なんだよ。食えるに決まってるだろ? これくらいの量」
「……まさか日常的にその量を食べてるわけではないですよね?」
私たちと同じく驚く博士に、気になることを聞いて時雨ちゃん。……まさか時雨ちゃんの言っていることがあってるなんてそんなこと……
「え? 普通だろ?」
あった~!?
蛍ちゃんの答えに私はもちろん、質問した時雨ちゃんまで驚いていた。ううん、時雨ちゃんだけじゃない、ここにいる蛍ちゃん以外の全員が驚いた。
「…………?」
なんで私たちが驚いているのかわかっていない様子の蛍ちゃんだけど、私たちからすればなんでそんな量が食べられるのかが不思議だ。
なんて騒動がありながらも私たちは食事を進めていった。あ、料理はすごくおいしかったです。
みんなの食事が終わり、次はまじめな話が始まる。それはこれからどうやって分かれてしまった季節を取り戻していくのかということ。私たちはまだ、季節がばらばらになってしまったということしか知らない。どういう風に取り戻していくのかも、どんなことをすればいいのかも今はわからない。
「博士。私たちって、具体的にこれから何をしていけばいいのでしょうか?」
「そうだね……。基本的にやることは1つだけさ。季節を取り戻す。けど……そのやり方とか全く説明していなかったね……」
「そうね。どうやるかだけは聞きたいところかしら」
「分かった。少し長くなるけど……。まず、僕たちの世界には季節が4つあったんだ。けど1つだけの季節が好きだという4人……いや5人がそれぞれ好きな季節だけを持って行ってしまったってことは話したよね。それで、春の季節をスプリンが、夏の季節をシーザが。そして秋の季節をフォーラとオータムが、冬の季節をニコラウスがそれぞれ持って行ってしまったんだ」
「……随分詳しくわかっているようだけれど、なんで名前まで分かっているのかしら?」
「あ……。そうだね、紅葉君の疑問はもっともだと思うよ。じゃあまずそこを説明しようか。この5人は私の研究仲間だったんだ。季節について調べ、どうすれば季節をコントロールできるかを研究していた。その間できっと5人……いやその時は4人だったね、がそれぞれ好きな季節を持ってしまった。それがいけなかったとは言わない。ただ、1つの季節だけを好きになってしまった彼らは終了間際の研究の内容を使って季節を分けてしまったということ。……僕がもう少し彼らを見ていれば起こらなかったことなのかもしれないね」
そういうことだったんだ……。今まで明るくしていた博士は言葉の最後で落ち込んでいる。でもそれは仕方のないことで後悔が残っているということ。けど、博士の話に私は気になるところが1つだけあった。
「季節が別々になった理由はわかったんですけど、なんでさっきから4人とか5人とか人数がバラバラなんですか?」
「あ、あぁ……。そのことか。秋の季節を持って行ったフォーラとオータムはね、二重人格だったんだ。きっとこのラボにある物質生成に技術を使って2人に分かれたみたいなんだ」
「そうなんですか……」
私はこの答えで再び実感することになった。どれだけ日常から離れたところに自分がいるのかということを。二重人格を2つの人間にするとか、そもそも世界を季節ごとに分けるということが何とも日常離れしている。
「っと、で本題に入ろう。この季節を取り戻す方法なんだけど、季節を分ける段階で使った宝玉があるんだ。それを壊してほしい」
「おれたちのやることはそれだけなのか? 宝玉を壊すだけならだれでもできると思うんだけど」
「確かに、蛍の言う通り……。あたしたちでなければならないというのはなぜ……?」
私もそう思った。私たちが呼ばれたのは私たちじゃないとできないことがあるからのはず。じゃあそれはいったい何なんだろう?
「君たちではいけない理由か……。それは、その宝玉を壊せるのが君たちだけだからだよ」
「私たち、だけ? それはいったいどういうことなのかしら?」
「簡単に言えば君たちの持っている適正値がないと破壊できないんだよ。君たちと会った時……最初の時に行ったけど科学の力と魔法の力が合わさってるんだ。だから暴発しないように強度を高くしていたんだ。そうした結果一定以上の適正値以上でないと破壊できないようにしたんだ」
「つまり、私たちしか適正値を超えている人がいないというわけですね」
私がそう言うと他の3人も納得したようにうなずく。
「そういうことなんだ。だから君たちを呼んだってわけさ」
「なら普通に攻撃すればいいのね? それでも戦闘になるとは思えないのだけど……」
こそこそ目的地まで行って、戦わずに宝玉を破壊することはできると思うんだけど……やっぱ難しいのかな?
「きっと君たちの考えてるようなことはできないと思うよ。警備が厳重だと思うからね。だから倒してどんどん進むしかないんだよ」
「そうか……。まぁ、おれとしてはそっちの方が滅茶苦茶やる気が出るんだけどな!!」
「うん。あたしも……!」
「こそこそ隠れちゃダメとは言わないけどそれだと面白みもないものね」
「……皆さん、本当にやる気なんですね」
時雨ちゃんがやる気になっている雪ちゃんたちのことを見てそう言うけど……。
「ねぇ!? なんでみんなすんなりとこの状況楽しんじゃってるの!?」
普通の学生なんだよね!? 私とそう変わらない生活を送っていたはずだよね!? 柔軟性がすごいんだけど……。
「まぁ……私もやることはしっかりやるんだけどね!!」
「なんだ、さくらもおれたちと変わらないじゃないか」
「そうだけど……そうなんだけどね!! なんか緊張感とかそういうのがあるじゃん、普通」
「本当だよ。少し考えさせてしまうかなと思ったけど、こんなにすんなりとはね」
「博士、そろそろ最後に決めることを決めましょう。準備にそれなりの時間もかかりますし」
「おっと……もうそんなに時間が経っていたか。じゃあこれからみんながどういうことをするのか大まかだけどわかってくれたよね?」
博士の言葉にみんながうなずく。
「じゃあ、今から決めることなんだけど最初にどの季節に行くかなんだ。そこで僕なりに考えてみたんだけど、やっぱ最初は動きやすい方がいいと思うんだ。少し暑いとは思うけど夏の世界に行ってほしい」
「おぉ!! おれの世界か!! 賛成! 行こうぜ」
「時間的にも今は夏のはずだしね。私も異論はないです」
「……あたしも」
「私も問題ないわ。ただ、運動といえば秋なのではないかしら?」
あ、確かに。運動の秋って言われてるくらいだもんね。紅葉ちゃんの言ってる事にも一理ある。
「確かにね……。けど秋の季節にいるのは2人。まだ経験が浅い今はあまり手を出さないほうがいい。そう判断したんだ」
「そう。確かにそう考えてみると今は相手にするのは早いわね。わかったわ」
紅葉ちゃんは博士の言葉を聞いて考えを理解した。今の私たちには適正値が多くあったとしても経験が圧倒的に不足している。よく創作物で目にする戦っている最中の勘なんてもの私たちにはない。だから少しでも強敵との激突は避けたほうがいい。理にかなってるし、実際その通りだ。だから今は経験を……実戦経験を積まないといけない。模擬戦闘とは違う4人で力を合わせた本当の闘いの経験を。
「じゃあ、まず最初に取り戻すのは夏の季節ということで、これから頑張っていこう!!」
博士がみんなのやる気を出すように立ち上がって大声でそう言う。
「おぉー!!」
「よっしゃー!!」
元気いっぱいにこぶしを突き上げる私と蛍ちゃん。
「…………」
無言で腕だけを肘を直角にしてあげる紅葉ちゃん。
「ぉぉ……」
声は出すけど控えめに腕もそんなに上げない雪ちゃん。
四者四様の反応にこれからコンビネーションができるのか不安になるけど、私たちはまだスタートラインに立ったままの状況。
これからどうなるのかは私たちの努力で決まっていく。だから私は士気をあげられるようにいようと、そう心に誓った。
前書きにも書きました通り、おそらく次回から新しい章の始まりです。皆さんは夏と聞いて何が思いつきますか?
海、山、夏休み、アニサマ、コミケ、夏の大三角や、夏野菜。結構考えてみるといろいろあるみたいですよ?
一体夏の世界はどんな景色を見せてくれるのでしょうか?
それでは次回もお楽しみに!