トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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明けましておめでとうございます。

不馴れな文才で何かとご迷惑をお掛けしますが、何とか完結に向けて邁進して参りたいと思いますので
どうぞよろしくお願い申し上げます。

今年一発目どうぞお付き合い頂ければ幸いです。


それではどうぞ



三世界合同軍事演習②~天空の人魚と海の悪鬼  …Unidentified ship

   + + +

 

 

 

演習2日目  硫黄島沖

 

 

2日目を迎えた演習は、昨日とは、艦種を変えての実施となった。

 

 

はれかぜ一隻に対し

 

ウィルキア艦隊

 

 

双胴戦艦 出雲

航空戦艦 ペガサス

 

 

蒼き艦隊

 

イ401

 

重巡洋艦タカオ

 

計4隻からなる艦隊だ。

 

 

油断すれば一瞬でやられかねない布陣であるが、超兵器戦を見越してのシュルツに手加減しようという気は更々ない。

 

 

明乃は、先日の失敗や夕方から行った作戦会議を思い出していた。

 

 

(きっと大丈夫、皆が私を信じてくれてる。私も皆を信じて進む!!)

 

 

深く艦長帽を被り目を見開き、深呼吸をして心を鎮めた。

 

その様子を見て、筑波が合図を出すと同時に汽笛がなり、演習が開始された。

 

 

「面舵一杯、機関全速急速加速!」

 

 

 

明乃が叫びはれかぜは急速に加速した。

 

 

次の瞬間、いままではれかぜが居た海面が割れる。

タカオが放った超重力砲のロックビームであった。

 

開始早々に仕留める為の策を、明乃は読んでいたのである。

 

にはれかぜは逆に取り舵を切り、明乃達の行動を読んでいた出雲からの砲撃を避ける。

 

 

(見事だ…昨日までの失敗の余波をまるで感じさせない。)

 

 

 

筑波は、明乃達の雰囲気の違いを感じ取っていた。

 

 

明乃は、油断せずクルーに指示を飛ばす。

 

クルーも艦長がこれからする指示を既に理解しているかのように行動していた。

 

既にペガサスからは、多数の航空機が発艦、はれかぜに迫る。

 

明乃は対空戦の指示を志摩に叫び、はれかぜは次々と模擬弾を命中させていく。

 

 

 

 

 

「艦長!航空戦艦は背後への武装が薄いです。背後へ回り込みましょう!」

 

「ダメ!相手もそれを読んでると思う。現に出雲が後ろからペガサス艦尾に誘導してる」

 

「と言うことは、ペガサスの影には…」

 

「うん。タカオがいると思う。しかも一隻足りない」

 

「ええ…401の姿が何処にも見えない。先日のタカオとは違い、見つけ出すのは更に困難かと」

 

「確かに…万里小路さん!ソナーにタカオ以外の重力子エンジンの痕跡はある?」

 

「ございませんわ…一応、先日の演習や硫黄島寄航の際に少しだけ聞いた、タカオと401の重力子エンジンの音紋パターンは記憶済みですが。昨日のタカオの音が微弱だったのに対して、401は全く聞こえませんの。恐らくはエンジンを切っているのではないかと」

 

 

「それにしたって、あれだけデカイ潜水艦ならソナーになにがしかの反応があってもいいんじゃないか?」

 

 

「それが、ソナー以外にも各種センサーにも全く反応を示していませんの…。考えられるのは、変温層より深く潜って、更に海底の岩礁付近に這われている可能性ですわ。そうなると発見は難しいですわね」

 

 

「更に、401は自分の姿を擬態させたデコイを使用しますからね…それらを使った攪乱も頭に入れておかなければなりません」

 

 

明乃と真白は思案をつづける。

 

すると楓から鋭い声が飛んできた。

 

 

「重力子エンジンの可動音を確認!位置は後方。出雲のいる辺りからいらっしゃいます…え?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「あの…どうやら¨2隻¨いるようなのですが…」

 

 

 

「2隻だって?片方はデコイか?それとも2隻とも偽物…。大体今までどこに居たんだ?。まるで急に現れたみたいに…それで?2隻の可動音に違いはあるのか?」

 

 

「い、いえ。両方とも同じですし。音紋パターンも一致しております。動きに不自然さもありませんし、信じられませんが、ホンモノが2隻居るとしか…あっ!2隻から注水音!魚雷、いらっしゃいます!」

 

 

「なんだと?片方はデコイじゃないのか?」

 

 

これには流石に狼狽える。

ただ一人明乃を除いては、

 

 

「落ち着いて!」

 

「艦長?」

 

 

「今、混乱したら昨日と同じだよ。昨日皆でやった会議を思いだそう。その中議題と今回のこの状況を照らし合わせるの!私も考える。だから皆も些細な事でもいいから教えて欲しい!」

 

 

明乃の真剣な眼差しに、皆が頷く。

 

 

だが真白は内心焦っていた。

 

航空機はあらまし撃退したものの、徐々に正確さを増す出雲とペガサスの苛烈な砲撃と、突如として2隻現れた401からの雷撃

 

 

このまま誘導されれば、恐らくはペガサスの影にいるであろうタカオの超重力砲の射角に入ってしまう。

 

仮に超重力砲が来なかったとしても、先日のキリシマのようにロックビームで捉えられ、何もさせて貰えずにやられるのは目に見えていた。

 

 

 

(何か糸口は…)

 

 

 

真白は額に汗を滲ませ回りを見渡す。

 

そこでふと疑問が湧いた。

 

 

(この布陣、少しおかしくないか?昨日の演習では、全ての艦を囮にして隠れていたタカオが奇襲をかけてきた。だとすれば、今日の演習でその任を負うべきは探知されにくい401が担当するのが自然だ。しかしタカオは隠れるでもなく、自慢の機動力を発揮するでもなく、艦の後ろから悠々自適に私達を狙うばかりで近づいて来る気配がない。)

 

 

真白は顎に手を当てて疑問の終着点を探る。

 

 

(それに401も妙だ…最初はいきなり2隻現れることで私達の動揺を誘い、タカオの射角に誘導する狙いが有るのかとも思ったが、そもそも401は潜水艦だぞ。隠れておいた方が後に有利になるのに、何故わざわざ存在をバラす真似を?ナメられているのかそれとも…はっ!もしかして!)

 

 

真白は昨日の会議の内容を思い出した。

 

 

「艦長!よろしいですか?」

 

 

「何か解ったの?シロちゃん」

 

 

「確定ではありませんが……」

 

 

「!? 確かに…分かった!」

 

真白からの言葉に明乃は何かを閃く。

 

 

「メイちゃん魚雷発射準備!目標ペガサス。弾頭は音響魚雷を通常深度で雷数1。次に新型超音速酸素魚雷を同一方向に3。ただペガサスの艦底より深くを通過できるように調整して。」

 

 

「了解!90秒頂戴!」

 

「つぐちゃん。音響魚雷が炸裂したら、通信妨害をよろしく。向こうの連携を断つ。タマちゃんも同じタイミングで全砲門をペガサスに集中。マロンちゃん、合図したら急速加速いくよ!万里小路さんはソナーの音を絶対に危機逃さないで!」

 

 

「うぃ!」

「了解!」

「がってんでぃ!」

「承知致しましたわ!」

 

 

明乃の指示で皆が一斉に動き出した。

 

背後の出雲と2隻の401は更に増速しはれかぜに接近してくる。

 

 

   + + +

 

 

「そうよ、そのまま…そのまま…。おいで、はれかぜ!」

 

 

 

 

 

タカオはペガサスの影から出て来るであろう、はれかぜを待ち構えて居た。

 

状況はもえかの作戦通りに動いている様にも思えたが、タカオは疑問を持っていた。

 

 

 

作戦自体に問題は無いが、それではまた自分達が勝ってしまう。

 

元々もえかは、はれかぜ側の人間だし、ここまで徹底的に追い詰める意味はあるのだろうかと。

 

 

 

 

 

「しかしアンタも何気にえげつないわよね。私には解らないわ…。味方同士で潰し合うなんて…」

 

 

「違うよ」

 

「え?」

 

「私は信じてる。ミケちゃんなら必ず自分達の力で私達の考えに気付いてくれる。そしてそれを打ち破るって!」

 

 

「どうしてそんなことが解るわけ?」

 

 

「家族だから…ミケちゃんも、皆も。海の仲間は家族だから」

 

 

「家族?あぁ…血縁関係者を中心に構成され、共同生活の最小の単位となる集団の事ね。私が察するに、あなた達の遺伝子情報に血縁が認められる類似点は見えない気がするけど?」

 

 

「そう言う事じゃない。心が繋がってるって事なの。世界中が海で繋がっている限り、私達の心も繋がっている。それはもうあなたの言う最小の単位じゃない、最大なんだよ」

 

 

「フン!理解出来ないわね。私達の様にネットワークで情報の共有化もろくに出来ない人間が、ただ物理的に海が繋がっていると言うだけで解り合えるとは思えないわ。」

 

 

「あなたにもいずれ解るときが来るよ」

 

 

 

「別に解りたくもないし。まぁハルナなら少しは興味を示すと思うけどね。私は兵器。ただ目の前にある目標の破壊だけを思考してればいいんだもの。それに今回は401と群像艦長もいるわ。あんな小舟に負けやしな…ぐ!?」

 

 

 

 

 

キィーン!

 

海中から急に発生した騒音に、センサーの精度をあげていたタカオは耳を抑え苦悶の表情を浮かべる。

 

彼女は出雲とペガサスに通信を入れてはれかぜの情報を得ようとしたが、量子通信を持たない人類艦との通信は通常通信で行われており、音響魚雷炸裂と同時に仕掛けたであろう通信妨害によって、ウィルキア艦隊との連絡は途絶していた。

 

 

「くっ!今更こんな小細工したってアンタ達の負けに変わりないわよ!準備はいい?401!」

 

 

『いける…!』

 

 

 

 

 

イオナからの返答を聞き、タカオは未だに痺れる耳を抑え、ふらつきながら照準を定めた。

 

 

 

 

ペガサスの影から相手の艦首が見えてくる。

 

 

「今よ!」

 

 

 

 

次の瞬間に、タカオの¨真下¨から超重力砲が放たれた。

 

 

 

本物の401は、アームでタカオの艦底に張り付いてエンジンを停止して存在を消していたのだ。

 

 

更にアクティブデコイを2つ使用し、デコイに通常魚雷を一発づつ搭載し、ハルナとキリシマに操作させることで、まるで401が2隻いるように見せかける。

 

 

 

 

はれかぜは、きっとどちらかが本物だろうと思い込み焦るだろう。

 

 

 

 

その隙を突いて、超重力砲の射角に誘き寄せ、狙撃を果たす。

 

 

 

もえかと群像考案による作戦であった。

 

 

タカオが照準を担当し、401が超重力砲を放つ。

 

 

超重力砲はペガサスの艦尾から姿を表し始めているはれかぜに見事直撃…

 

 

する筈だった。

 

 

「何!?」

 

タカオは愕然とする。

 

 

無理もない、ペガサスの影から現れたのは、はれかぜではなく、はれかぜを追撃していたはずの¨出雲¨だったのだ。

 

 

 

超重力砲はそのまま出雲に向かって行き左舷のど真ん中に命中、防御重力場が凄まじい勢いで飽和し、一定のダメージを受けた出雲は白旗を掲げる。

 

 

「何が起こって……え?」

 

 

 

 

タカオは、真横を見る。

 

凄まじい数の魚雷とミサイルが自分と401に向かって殺到していた。

 

 

 

(今はマズ……!)

 

 

 

 

タカオは狼狽えた。

 

超重力砲発射中の401は、発射を終えるまでろくに反撃できない上に、タカオも401と連結して機動力が落ちている以上、自分に飛んでくるミサイル等の迎撃に追われて401を補佐出来ない状態であった。

 

 

「ちょっ、401!まだなの?早く接続を切らないと纏めて……あぐっ!」

 

 

止まらない雷撃。

 

クラインフィールドのダメージの蓄積量があがってきていた。

このままだと撃沈扱いになってしまう。

 

 

 

(な、なめていた!まさかこれ程だなんて!)

 

 

 

ペガサスはこのやり取りの間に既に被弾、白旗を掲げている。

 

 

タカオが背後に回り込んでくる明乃達を睨む。

 

 

 

はれかぜは、光学兵器やミサイルを中心にタカオと401のクラインフィールドを着実に飽和させつつあった。

 

 

 

(このままじゃ共倒れだわ!しょうがない…あの手でいくしかないっ!)

 

 

 

タカオは量子通信で、イオナに連絡する。

 

 

『残念だけど、私はここで抜けさせて貰うわ…。後は頼んだわよ艦長…。401、やって頂戴!』

 

 

タカオがそう言った瞬間、もえかの目の前にあるモニターに写し出されていた。タカオのクラインフィールドの飽和率が急に上昇し撃沈扱いになる目安を越えた。

 

 

401と接続していたタカオは、401が受けていたクラインフィールドへのダメージを全て引き受けたのだ。

 

 

 

これで、はれかぜと401の一騎討ちとなり、勝負の行方は明白になる。

 

 

 

もえかは、白旗を掲げるようタカオに指示する。彼女は悔しそうな顔をしながら指示に従った。

 

 

 

もえかはは、はれかぜに視線を向ける。

 

 

(ミケちゃん!信じてる!)

 

 

超重力砲発射形態から戻った401は、タカオとの接続を解除。回頭しはれかぜに向かう。

 

演習はいよいよ佳境に入って行く。

 

 

 

   + + +

 

 

「上手くいきましたね!」

 

真白は、明乃に駆け寄る。先程の奇襲は成功だった。

 

 

 

真白は、タカオが先日のような機動力を発揮せずに後方に控えていることに疑問を持っていた。

 

 

更に昨日の作戦会議で芽依が持ってきたという博士からの資料により、霧の艦艇はハルナとキリシマのように合体しての戦闘が可能であると事は解っている。

 

 

タカオは401の存在を隠匿する為に後方に待機し、アクティブデコイで揺さぶりをかけつつ、探知能力が比較的高い401ではれかぜの動きを読み、各艦に指示を出して超重力砲の射角にはれかぜを誘導していると予測したのだ。

 

 

その推理を聞いた明乃は、相手の作戦を逆手にとり、音響魚雷と電波妨害で各艦の目と耳を潰して連携を崩し、出雲をギリギリまで引き付けた後に急旋回した。

直進では速いが小回りの効かない出雲は、旋回が間に合わず超重力が直撃。

 

 

電波妨害で狼狽えるペガサスに模擬弾の雨を降らせつつ、動きが鈍い401とタカオにミサイルと魚雷を発射した。

 

魚雷はあらかじめ、ペガサスの艦底を通過しタカオの真下に居るであろう401当たるよう魚雷の深度を調整し、更にタカオ後方へと急速加速で回り込みながら光学やミサイルで畳み掛けた。

 

 

明乃はタカオが白旗をあげたのを確認する。

 

しかし、その直後タカオから分離した401が動き出したのを楓は見逃さない。

 

 

3隻は行動不能にしたものの、人類を乗せた401の戦闘能力は人知を越えている。

 

 

明乃はまだ油断していなかった。

 

 

 

 

「まだ、千早艦長達がいる。みんな油断しないで!」

 

「「「了解!!!」」」

 

 

明乃は一同の返事に頷き、次の指示を飛ばす。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「予想以上に追い込まれたな…。いおり、機関の方はどうだ?」

 

 

「超重力砲発射の反動で暫くダメって感じ……」

 

 

「艦長!海面に着水音多数!高速推進音、魚雷です!」

 

 

「パッシブデコイ発射!」

 

 

(攻撃が単調だな…。さっきまでの大胆さは無いが、まだ何か有るのか?)

 

 

群像は眉間にシワを寄せる。

 

 

「艦長よ。早めにケリをつけた方がいいんじゃねぇの?」

 

 

「私もそう思います。はれかぜ艦長は、何やら企んでいるような気がするんです。長期戦は我々に不利でしょう」

 

 

 

群像はしばらく思案し、指示を飛ばす。

 

 

「イオナ、急速潜航。杏平、一番・二番に音響魚雷。発射パターン任せる!」

 

 

「え?やらねぇのかよ。」

 

「これでいい!いおり、フルバーストの準備を頼む!」

 

 

「この状態で!?解ったけど、もうちょい時間ちょうだい?」

 

「了解した。ハルナ、キリシマ。引き続きアクティブデコイを操作してはれかぜを撹乱してくれ!」

 

 

「だがデコイに魚雷は搭載されてないが?」

 

「フルバーストまで時間を稼げればいい。頼む!」

 

 

「「了解」」

 

 

 

 

群像は、一度潜航してはれかぜの様子を伺う決断をする。

 

音響魚雷が炸裂し、401は海底を這った。

 

 

 

 

彼等の頭上をはれかぜが通過して行く。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 

杏平の溜め息をが大きく聞こえる程にブリッジは静まり返っていた。

 

 

 

群像はイオナが、不思議そうな表情ではれかぜが通過してった方向を見ている事に気が付く。

 

 

 

 

「どうした?イオナ。はれかぜが気になるのか?」

 

「うん……」

 

「珍しいな、お前が何かに興味を持つなんて」

 

 

「はれかぜ…あの艦からは、理解不能な複雑な感情を感じる。なんと言うか…心がポカポカするような―そんな感覚」

 

 

「それは、はれかぜがこの船とは違い。多くの人員を乗せているからさ。色々な思考を持った人が一つの艦と一つの目的の為に集まる事で、複雑な感情が産み出されるんだ」

 

 

「そう言う意味じゃない…」

 

「どう言うことだ?」

 

 

 

「乗組員じゃなくて、はれかぜ―艦そのものから感じるの…。『信じてる…皆を守る…』って」

 

 

 

 

 

イオナは悪い気持ちはしなかった。

 

先日のシステムチェック間際に感じた感覚とは真逆の温かく、安心するような感覚。

 

 

イオナの表情は自然と笑みになっていた事に群像は目を丸くした。

 

 

 

今まで、感情を表情にあまり出さず、人形の様だった彼女が、まるで年相応の少女のような表情を見せたのだから。

 

 

「イオナ、お前…」

 

 

 

 

「高速推進音感知!魚雷です!」

 

 

 

 

静から飛んできた言葉に群像は前を向く。

 

 

 

(仕掛けてきたか…。思ったより、時間を稼げなかった。どうやら優秀なソナー手が居るようだな)

 

 

 

 

「魚雷の迎撃を確認。ソナー感度低下!」

 

 

 

 

群像は少し表情を険しくする。

 

 

 

 

 

「いおり、フルバーストの準備は?」

 

 

「何とかって感じ…低出力とはいえ、超重力砲を使ったばっかだから、あんま長くは持たないよ」

 

 

「解った。それじゃかかるぞ!フルバーストスタンバイ!杏平、行けるか?」

 

 

「はいさー!いつでも!」

 

 

「よし!ケリを付けるぞ。フルバーストで、はれかぜの真下を通る!すれ違い様にぶつけられるものは、全部ばらまけ!イオナ大丈夫か?」

 

「うん。行ける!」

 

 

 

 

 

イオナの反応に頷き。そして、指示を出す。

 

 

 

 

「フルバーストォ!」

 

 

 

 

 

直後、401の艦尾付近が展開してスラスターから凄まじい轟音を立て火を吐き、超加速によって401の速度は100ktに達してはれかぜとの距離が詰めていく。

 

 

 

 

 

対するはれかぜも急速加速で離脱にかかり、二隻は高速てすれ違う。

 

 

 

その瞬間を狙って群像は叫んだ。

 

 

 

「今だ!フルファイヤ!!」

 

 

 

 

401のあらゆる火器からミサイルや魚雷がはれかぜに向かう。

 

 

 

 

直後……

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォン!

 

 

 

 

 

401の周囲で連鎖的爆発音が轟いて衝撃で艦が揺さぶられ、ブリッジでは様々な警告アラームが鳴り響いていた。

 

 

 

 

「うぐっ?一体何が…」

 

 

「はれかぜが予め、デコイを海中に散布していたみたい。それに発射直後の弾頭が反応して炸裂。他の弾頭も連鎖的に爆発した」

 

 

 

 

 

群像は目を見開く。

 

 

 

 

「それじゃ、さっきの魚雷は……」

 

「うん、恐らくわざと迎撃させてソナーの感度を落とし、その間にデコイを散布したんだと思う。それに弾頭を発射する際は、局所的にクラインフィールドに穴を開けなければならない。爆発の衝撃がその穴を通って此方に直接ダメージを与えた。もしこれが侵食弾頭兵器であったら。今頃私達は沈んでいる」

 

 

 

 

イオナの言葉にブリッジのメンバーの表情が凍り付いた。

 

そして群像は、意を決してイオナに言う。

 

 

 

 

 

「イオナ、急速浮上。投降する。」

 

「うん…。」

 

 

401は海上に浮上し白旗を掲げた。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

「デコイの起動を確認!」

 

「油断しないで!魚雷とアスロックの準備をお願い!」

 

 

 

 

 

明乃は次の攻撃の指示を出す。

 

 

 

 

 

(凄い加速だった…。もし最初から攻められていたら危なかったかもしれない…。)

 

 

 

 

真白は額には汗が滲む。

 

 

 

すると401が浮上して、一同は油断せず砲雷撃戦の準備に移行した。

 

 

 

だが、401は白旗を掲げ、それと同時に演習終了の汽笛が鳴り響く。

 

 

 

 

「艦長!何か通信が入ってきてますが通信妨害止めますか?」

 

 

「あっうん、お願い!」

 

 

 

 

鶫が通信妨害を止めると、出雲にいるシュルツから通信が入ってきた。

 

 

 

 

『お疲れ様でした。午前の演習を終了します。岬艦長、見事な判断でした』

 

 

 

「そんな…。私だけじゃ有りません。皆が、力を貸してくてたから成し遂げられたんです!」

 

 

『そうですか…取り敢えず今まは休息をとってください。午後からの事は追って連絡します』

 

 

「解りました。ありがとうございます」

 

 

 

明乃は通信を終え、皆に顔を向けた。

 

 

 

 

「皆、やった…やったよ!私達自分達の力でやりとげたよ…」

 

 

 

 

笑顔を見せる明乃の目が涙で潤んでいた。

 

 

 

それを見たはれかぜメンバーは一同に歓声を上げ彼女に駆け寄っていた。

 

 

筑波は大きく頷く。

 

 

 

 

「岬艦長、見事でした。もちろん他のクルーの方も心の方も一皮剥けたよですな」

 

 

「はい!皆のお陰です!」

 

 

 

「うむ、ただ超兵器は一筋縄ではいきませんぞ」

 

「解っています。でも必ず乗り越えて見せます!」

 

 

 

「その心意気です!これからの活躍に期待しております。それと…」

 

 

 

「なんですか?筑波大尉。」

 

 

「いやぁ…昨日は殴ってしまい本当に申し訳ありませんでした…。処分はいかようにもお受け致します」

 

 

「そんな…いいんです。お陰で思い出す事が出来ました。私達海の仲間は¨家族¨。その本当の意味に…」

 

 

「寛大なご処置感謝致します。そうですか…それがあなたの心の芯と言うわけですな?解りました。いかなる荒れた海でもあなたの芯が折れぬよう我々も全力で力を貸してく所存です。改めましてよろしくお願い申し上げます」

 

 

 

 

明乃と筑波は、握手を交わす。

 

 

 

 

「艦長!」

 

 

 

 

真白の指を指した先に、401とタカオが近づい来るのが見えた。

 

 

明乃は甲板に立つ群像に敬礼を送り、群像は口元を少し緩めてお辞儀を返えした。

 

 

 

タカオは頬を膨らませてそっぽを向いているが、隣にいるもえかは満面の笑みで、明乃に手を振っている。

 

 

 

明乃は彼女達に手を振りながら、はれかぜの絆が一つになり、それが結晶になった瞬間を実感するのだった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

午後

 

空母メアリースチュアートの甲板に、明乃達ブルーマーメイドのメンバーを集めたシュルツは、事の経緯を口にする。

 

 

 

 

「午前の演習、本当にお疲れ様でした。宗谷室長のお話で、この世界の航空事情は把握しています。それで今回は戦術の幅を広げて頂くために、実際にこれに乗って頂きたいのです」

 

 

「え、それじゃ私達が空を飛ぶんですか?」

 

 

心配そうに訪ねる芽依に、シュルツは優しく笑顔を向けた。

 

 

 

 

「ええ、でも操縦は我々のパイロットが行いますのでご心配には及びませんよ」

 

 

「よ、良かった……」

 

 

 

 

 

 

前回ヘリに乗って空を経験している真霜や福内とは対照的に、はれかぜメンバーはまだ緊張が解けていないようだった。

 

 

 

 

「まぁ、善は急げです。早速搭乗してください」

 

 

 

 

彼女達はシュルツに促されて搭乗する。

 

 

 

因みに練習用ジェット機に抵抗のある芽依は速度の遅いレシプロ機に搭乗し、真霜は水上偵察機に搭乗する事となった。

 

 

「よし、搭乗したな。それでは行ってくれ!」

 

 

 

シュルツがパイロットに合図を送ると同時に轟音が轟き、最初に発艦するジェット機が明乃を乗せ加速する。

 

車輪が機体が地面離れると同時に、下からフワッとした感触が明乃に伝わる。

 

 

明乃が瞑っていた目を開くと、すぐ近くに雲があり、はれかぜがマッチ箱のように小さく見えた。

 

 

 

 

「わぁ、凄い!はれかぜがあんなに小さく遠くに見える!」

 

 

 

 

 

空からの風景にしばし見惚れて目を輝かせる明乃とは対照的に、芽依は次々に発艦するメンバーを見ながら震えていた。

 

 

 

 

「怖いですか?」

 

「あなたは?」

 

 

 

「ああ、失礼しました。私は【江田建一】一等飛曹です。あなたを空にお連れします。必ず帰ってきますから安心してください」

 

「いえ、そう言う訳じゃないんですが…。私、最初に横須賀を襲ってきた飛行機に殺されかけて―それで、ちょっと……」

 

 

「そうでしたか…では、降りられますか?誰か数人経験すれば良い訳ですし、こちらとしては無理強いは出来ませんから……」

 

 

「い、いえ!お願いします!私だって、はれかぜの役に立ちたいですから!凄く怖いけど…でも、いつまでもこのままじゃ皆の足を引っ張っちゃうし……」

 

 

「解りました。」

 

 

 

江田は頷くと発艦準備を始め、プロペラの音が徐々に上がっていくと共に、芽依は拳をぎゅっと握りしめて発進に備えた。

 

 

 

 

「西崎砲雷長、行きますよ!」

 

 

「うっ、……くっ!」

 

 

 

 

江田が叫んだ途端、芽依の身体は発進時の急加速で後ろに引っ張られる。

 

 

 

「間も無く飛びます!舌を噛まないようにしっかり口を閉じてて下さい!」

 

 

「ん、んっ~!」

 

 

芽依の緊張はピークに達し、今にも絶叫しそうな衝動を足を踏ん張ることでなんとか抑えるのがやっとだった。

 

しかし、フワッという無重力感にとうとう耐えきれなくなり、叫びだしてしまう。

 

 

「あっ!あっ、うわぁぁぁぁぁ!」

 

 

「西崎砲雷長!?落ち着いて!深呼吸してください!」

 

 

 

江田の声になんとか正気を取り戻し、彼女は深呼吸をする。

 

 

 

 

「落ち着きましたか?じゃぁゆっくり周りを見てみてください」

 

 

「は、はい……」

 

 

江田の声に促され、恐る恐る目を開けた彼女の目の前には、今まで見たことのない風景が広がっていた。

 

 

 

 

雲が近く、遥か彼方に見える水平線。

芽依は高いと言うよりも、むしろ広いという感覚を得ていた。

 

 

 

 

「これが、空の世界……」

 

 

「なかなか綺麗でしょう?ですがこんなもんじゃありません。もう少しだけ上がります―掴まって下さい」

 

 

「上がるって?あッちょっ…わぁっ!」

 

 

 

どんどん高度を上げていく機体は雲の中に入り、周りが何も見えなくなる。

 

 

 

何も見えない不安が彼女を襲う中、急に目に刺さるような強い光が入ってきて彼女は思わず目を閉じた。

 

 

 

だが、次の瞬間には目の刺激が緩み、上昇の時の強い重力も無くなっている。

 

 

恐る恐る目を開けた彼女は、その光景を目にして思わず目を輝かせていた。

 

 

 

 

「うわぁ……!」

 

 

 

そこには純白の雲の海があり、空の蒼は一層濃く美しかった。

 

 

 

 

 

「綺麗……」

 

「空の世界へようこそ」

 

 

 

 

芽依はしばらく言葉を失い、天空の景色に見とれている。

 

 

沈黙を破るように、江田が口を開いた。

 

 

「どうです?空もなかなか良いものでしょう?」

 

「はい!凄く綺麗でした―まるで絵本の世界に来たみたい!」

 

 

「ははっ!それは良かった。まさか私も人魚姫を空に連れてくることになるとは思いませんでしたね」

 

 

「人魚姫だなんて〃〃〃」

 

 

「でもこれで飛行機は悪いもんじゃないって解って貰いましたか?」

 

 

「………」

 

 

 

「西崎砲雷長?」

 

 

 

「どうして…どうしてこんな素敵な物を戦争に使うんですか?あんな風に人を殺す兵器として使うなんて可哀想ですよ……」

 

 

 

「優しいのですね……」

 

 

「はぐらかさないで下さい!」

 

 

「本気で言っているのですよ。少し、自分の話をさせてください」

 

 

 

 

彼は自分の世界について話始める。

 

 

 

 

 

「私の世界では、第二次世界対戦がありました。戦闘の主役は海から空に移り、美しい空は血みどろの戦場だった。わが大日本帝国は米国と戦争になり、劣勢に陥った。その時に考案されたのが特別攻撃隊、通称【特攻隊】です。」

 

 

「特攻隊?」

 

 

 

「はい、飛行機に爆弾と片道分の燃料を積み、敵の戦艦や基地に飛行機ごと突っ込んで自爆する戦法です。特攻隊に選ばれるのは主に十代から二十代の奴等でした」

 

 

「そんな……」

 

 

「私もその一人だったんです。何人もの仲間を毎日見送った。中には13才くらいの奴もいましたよ…実際ほとんどの仲間が、標的につく前に撃墜か失敗して海に落ちるかだったらしいですが…。そしていよいよ私の番と言うときに、広島と長崎に原子爆弾が投下された。」

 

 

 

「原子爆弾?」

 

 

 

「たった2発で20万人を吹き飛ばした米国の新兵器です」

 

「嘘…20万人だなんて…!」

 

 

 

「それであっさり降伏した日本は、米国に統治される筈だった。だが超兵器を持ったウィルキア帝国が日本を抱き込み、再起を図っていた好戦派が勢い付いたんです。逝き遅れた俺も、ようやく仲間のもとへ行けると喜びました。何せ戦争で故郷は焼け野原、家族も皆死んでしまった俺にとって、最早死ぬ以外に楽になる方法が無かったんですから…。だが筑波大尉はそれを許さなかった。殴られましたよ。死に急ぐ俺に、【本当に家族や戦友の為を思うなら、生き延びてこれ以上お前の仲間や家族のような犠牲を出さぬように努めろ!】…と」

 

 

「………」

 

 

「それから約1年間、シュルツ艦長の下で超兵器と戦闘を繰り広げ、そして今ここにいる。私は、この平和な世界で起ころうとしている悲劇を止めたい。家族や仲間の犠牲などという悲劇を起こさない為にも…。そのため、飛行機を兵器として使っても、この空を戦場にすることも厭いません。ははっ…でも私のような死に損ないに出来ることは少ないのかも知れませんが…」

 

 

「そんなことない!」

 

 

「!?」

 

 

「そんな事ないよ…だって江田さんは良い人だし、私をこんな綺麗な所に連れてきてくれたし…そんな、自分の事死に損ないだなんてどうして言うの!?」

 

 

「フフッ、本当に優しいですね」

 

 

「だからはぐらかさないでってば!」

 

 

「…失礼しました。いえ、からかっているわけでは無いのです。正直この世界に来たときは、いよいよ自分の死ぬときが来たと思いました…でも今は違う」

 

 

「違う?」

 

 

「はい、この世界にはシュルツ艦長だけじゃない。犠牲を何より嫌う岬艦長や、兵器とすら対話し和解してしまう千早艦長もいる。あの方々はシュルツ艦長と良く似ています。あの方々の下にいれば、出来るだけ犠牲を出さずに世界を平和に戻し、そしていつかはこいつが、戦闘機ではなくただの鳥として自由に空を羽ばたける世の中を作れるんじゃないかって」

 

 

 

「江田さん……」

 

 

「あなたもそうです。あなたは、空を飛ぶ乗り物を兵器にすることを当たり前の様に否定し、自分の死も私の死すらも恐れている。このような世界があるなんて思いもよりませんでした。だから決めたんです。出来るだけ生き延びて、この世界を守り続けたいって」

 

 

「………」

 

 

「少ししゃべり過ぎたみたいですね。あんまり遅いと筑波大尉に怒られてしまいます」

 

 

 

 

江田は旋回して空母へと引き返す。

 

帰りはお互いに言葉を交わす事はなく、芽依は美しい空の風景を複雑な表情で見つめていた。

 

 

空母に着艦後、去っていく江田に芽依は声をかけた。

 

 

 

 

「江田さん!」

 

 

「どうかされましたか?」

 

 

「あ、あの、私絶対に世界を平和に戻します。そして兵器なんて要らなくなったら、私をまた空に連れていってくれますか?今度は戦闘機じゃなくて飛行機で〃〃〃」

 

 

少し頬を染めながら、真剣な顔で見詰めてくる彼女に、江田は一瞬驚いた表情を見せたが、やがて穏やかな笑顔でお辞儀をして去っていった。

 

 

 

芽依は明乃の言った【皆失わせない】、という言葉の意味の重さを噛み締める事になった。

 

   + + +

 

夕方

 

硫黄島に戻ってきた明乃達は異世界艦隊の面々との交流を図っており、美甘が披露した自慢の料理の腕に異世界艦隊の面々は舌鼓をうっていた。

 

 

 

筑波・杏平・志摩・芽依は砲雷術について語り合っており、ソナー担当の楓と静や機関長のいおりと麻侖もお互いウマが合うようだった。

 

 

美波・ヒュウガ・ブラウン博士は先日の横須賀沖にサルベージした、超兵器空母の解析の結果をナギに報告しており、そこに交ざって通信員の鶫がヒュウガに量子通信について興味深そうに質問していた。

 

 

 

(大部砕けてきたな)

 

 

 

その様子を遠巻きに見ていたシュルツは、盛り上がる一同に背を向け、海辺の方へ一人歩いて行く。

 

 

   

 

 

穏やかな海と水平線に沈む太陽がとても幻想的な風景に彼は一時の安らぎを感じる。

 

 

 

 

 

 

海から視線を外したシュルツの先には、遠くでハルナと蒔絵そしてクマのキリシマが仲良く遊んでおり、近くにはもえかとタカオもいた。

 

 

 

 

(彼女達が本当に兵器とはな。未だに信じがたいが…)

 

 

 

「人間と兵器との融和、さぞ不思議に見えるでしょう?シュルツ艦長」

 

 

「千早艦長…いらっしゃったのですか?」

 

 

 

彼の背後には群像が着いてきていた。

 

 

シュルツは自身の正直な気持ちを彼へと伝える。

 

 

「ええ…確かに、昼間超重力砲を実際に受けましたが、そんな彼女達がこうして人間と混じって過ごすなどにわかには信じられません」

 

 

「対話の力ですよ。意思の疎通が出来れば必ずわかり合える。そこに戦争を終らせ、人類が生き残るヒントが必ずあります」

 

 

「そう言うものでしょうか…」

 

 

「少なくとも俺はそう確信しています。シュルツ艦長、改めてお礼申し上げます」

 

 

「何です?改まって」

 

 

 

「今回の演習です。色んな人との交流で、彼女達の心は着実に成長している。この世界に来てから人形の様だった彼女達の表情に明確な感情が見てとれるようになりましたから」

 

 

「いえ、私は何も。今回の演習で最も周りに影響を与えたのは間違いなくはれかぜと岬艦長でしょう」

 

 

 

 

シュルツと群像は砂浜に一人で座って海を見ている明乃に視線を向けた。

 

 

 

 

「あの身に一体どれ程の重荷を背負っているのでしょうね……」

 

 

 

「千早艦長はどう思われますか?岬艦長の事……」

 

 

「正直、怖いほどの意思の強さを感じました。現在、この世界において最高戦力であるあなた方と我々を翻弄したのですから」

 

 

「同感です。あなたは今回の演習を感謝していると仰いましたが、実を言うと私は少し後悔しているのです」

 

 

「後悔ですか?」

 

 

 

「ええ。彼女を鍛えたことで、むしろ彼女をとんでもない化け物に変えてしまったたのではないかと…。彼女の心を犠牲にしてしまったのではないかと思う時があるのです」

 

 

「………」

 

 

 

シュルツと群像は、明乃が戦闘時に時折見せるあの目を思い出していた。

 

 

 

あの顔になった明乃がいるはれかぜは、まるで別物のような動きを見せる。

 

 

 

二人は明乃に再び視線を向けた。

 

 

 

すると、それに気付いた明乃がこちらを向き、笑顔で手を振ってくる。

 

 

 

二人も手を上げてそれに答え、明乃は嬉しそうに笑って顔を再び海へ向けた。

 

 

「きっと大丈夫です」

 

 

「え?」

 

 

 

「岬艦長は、心の闇に飲まれたりしない。どんなに強大な力を内に秘めていても、それを他者を傷付ける為には決して使わない。彼女はそういう優しさを最後まで貫く方だと俺は思います」

 

 

「千早艦長…そうですね。しかし強大な力はそれだけで何かを傷付ける。彼女の場合は他人ではなく、自分を傷付けるのでしょう…だから我々は彼女の心がこれ以上失われる事がないよう、努めなければならないのやもしれません」

 

 

シュルツの言葉に群像も頷く。

 

二人は再び海を眺める。

 

 

すっかり太陽も沈み、紫色になる空と海

 

 

三人の艦長は、それぞれの思いを胸に、辺りが暗くなるまで海を見続けていた。

 

  

 + + +

 

 

太平洋

 

ブルーマーメイドアメリカ太平洋艦隊10隻は、周辺海域の巡回を済ませ、ハワイに帰港しようとしていた。

 

 

艦隊旗艦であるインディペンデンス級沿海域戦闘艦 ジャスティス 艦長のマリーナ・ワンバック艦長は眉間に深いシワを寄せている。

 

 

先日、世界同時多発襲撃の翌日に日本から提供されたデータはにわかには信じがたい内容だったからだ。

 

 

 

正直マリーナは、今回の一件が超兵器にかこつけて被害者を装い、アメリカを中心とした列強各国に対抗すべく、日本を中心とした新興国が合法的に軍備の増強をするための自作自演なのではないかと勘ぐっていた。

 

 

 

 

(まぁ、資源に乏しい日本は、そもそも話の他ではあるがな…気にする程でもあるまい)

 

 

 

 

マリーナが、溜め息をつく。

次の瞬間、通信員が艦橋に息を切らせて入ってきた。

 

 

 

 

「どうした?」

 

「今、ハワイの基地から通信が入りました。ハワイの残存艦艇が大型の船舶に襲撃され壊滅したと…」

 

「何?いつの話だ!」

 

「一時間ほど前だそうです!」

 

「なぜ報告が遅れた!」

 

「通信に謎のノイズが走り。通信に障害をきたしていたとの事です」

 

 

「艦長!」

 

「今度はなんだ!」

 

「前方に艦影あり。電探に謎のノイズが発生!」

 

 

(ついに来たか…。正体を暴いてやる!)

 

マリーナは、眉間のシワを更に深くする。

 

「全艦、砲雷撃戦用意!迎え撃つぞ!」

 

マリーナの指示で艦隊が一斉に動き出す。

 

「所属不明艦、増速!敵速は……え?」

 

「どうした!さっさと報告しろ!」

 

 

マリーナは副長を怒鳴り付けるが、次の言葉に驚愕した。

 

 

「はっ!敵速は…180ktです!」

 

「何だと!?計測の間違いではないのか?」

 

 

「い、いえ間違いないかと…。」

 

 

「バカな…。」

 

「不明艦高速で接近!」

 

次の瞬間、

 

ズドォォォォン!

 

高速艦艇から、夥しい砲雷撃と光線が一瞬で味方艦艇を葬った。

 

爆煙を上げ轟沈するアメリカのブルマー艦艇。

今の攻撃で一気に3隻が海の藻屑となった。

 

 

 

 

迎撃に転じる艦艇も、あまりの速さに砲雷撃が悉くかわされている。

 

 

 

「艦長、あれを!」

 

 

 

副長の視線先へと目を向けた彼女の視界には、空から航空機の大群が押し寄せているのが見えた。

 

 

更に艦隊前方に異形の艦艇がこちらに突撃して来くる。

 

 

彼女は叫んでいた。

 

 

「あれは、航空機だ落ち着いて対応しろ!巨大艦からの攻撃には回避を優先!」

 

 

「敵巨大艦増速!速い…他の艦は回避が間に合いません!」

 

 

 

 

ジャスティスは何とか巨大艦の突撃の回避に成功するが…

 

 

 

ガリガリ!

 

 

 

 

逃げ遅れた艦艇は不愉快な音を上げて削られたように真ん中から真っ二つに折れる。

 

そして巨大艦の側面へと回避した艦は…

 

 

 

 

「な、何だ?」

 

 

 

 

横から真っ二つに¨スライス¨されていた。

 

 

残りの艦も航空機からの攻撃で、轟沈。

残るは旗艦のジャスティスのみになってしまう。

 

 

航空機からの攻撃で被弾したジャスティスの艦橋では、警告音が鳴り響く。

 

 

 

 

「艦長!機関部に浸水です。総員退艦の判断を!」

 

 

 

「……」

 

「艦長?」

 

 

 

 

マリーナは前方を睨んでいた。

 

 

 

 

そこには、双胴で艦尾の甲板が平らになっている巨大艦と、側面のみ艦影を見せる謎の巨大艦が鎮座している。

 

その片方の艦影には見覚えがあった。

 

 

 

 

 

「ヤマトか…。やっぱり日本だったんだ!」

 

 

 

 

その艦影は日本のブルーマーメイド旗艦、大和のものに酷似していた。

 

だが、その巨体が正面を向いた時、マリーナは目を見開く。

 

 

 

 

大和に酷似したその艦も双胴であり、甲板には大口径の砲がずらりと並んでいた。

 

 

 

そして、敵の大口径砲からピカッと光が走る。

 

 

 

 

 

「艦長、ご決断を!早くご指示を!」

 

 

 

 

 

副長が泣き叫ぶが、マリーナの耳には入っていない。

 

ただ一言だけ、

 

 

 

「神よ……」

 

 

 

 

 

 

副長は周り見渡すと、周辺の海は燃え盛る艦艇と仲間の血で、真っ赤に染まっていた。

 

 

(もうダメだ…!)

 

 

 

彼女は、遂に耐え兼ね退避命令を出す。

 

 

 

 

 

「総員退艦、船を捨てろ!」

 

 

 

 

 

副長がそう叫ぶなか、マリーナは、巨大双胴艦を睨みつけながら、吠えた。

 

 

 

 

 

「神よ!答えてくれ!何故だ!これは一体何の試練なんだ!答えてくれ!神よ!」

 

 

 

次の瞬間、巨大双胴艦の主砲がジャスティスを直撃した。

 

 

「答えで、くりぇぁああ!?」

 

 

 

 

砲弾が直撃したジャスティスは、くの字に折れ曲がり、砲弾が炸裂たと同時に多くの人員の肉体を凄まじい熱で蒸発させた。

 

血と肉と脂が漂う紅蓮の海を巨大艦群は、何事も無かったかのように、直進していく。

 

まるで、自分の沈めるべき本当の相手を理解しているように…

 




お付き合い頂きありがとうございます。

いよいよな感じになって参りました


ちょっとここから先は執筆速度が落ちるかもですが、どうか気長にお待ちください。


次回はメンバー集合回です。

それではまたいつか。


とらふり!

芽衣
「この戦いが終わったら私江田さんに…」


志摩
「メイ…それ…フラグだから…」

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