トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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超兵器の出番の前に回想が続くのは申し訳無いのですが、 もう少しだけお付き合い下さい。


それではどうぞ


贖罪式断罪

   + + +

 

 

シュルツは思うのだった。

 

 

今回の作戦で多くの人の心を傷付けた自身を彼女は決して許しはしないのだと。

 

 

 

しかし――

 

 

 

「!」

 

 

 

シュルツを含めた一同は驚愕した。

 

 

 

明乃は笑みを浮かべていたからである。

 

 

 

今にも泣きそうで感情が溢れだしそうなのにも関わらず、彼女は気丈に笑って見せた。

 

 

 

「岬艦ちょ――」

 

 

「私、感じたんです。シュルツ艦長が私を支えてくれたあの時に――」

 

 

 

「……」

 

 

「混乱してて、朧気なんですけど、何故かとても¨暖かかった¨。だから今の話を聞いて確信したんです。シュルツ艦長も千早艦長も――ううん、協力してくれた皆は¨家族¨だったんだって……」

 

 

 

「違う、私は――!」

 

 

 

――そんな高尚な人間じゃない!

 

 

そう彼は叫びたかった。

 

自分は罵られるべき人間なのだと、この場は自分を罵倒するべき処刑の場なのだと覚悟したと言うのに、明乃の言葉や表情がそれを許さない。

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 

「――!」

 

 

悲しみや怒りは当然あったであろう。

 

 

しかし、それ以上に失う恐怖を知っている明乃にとって死者が出なかった事の意味がいかに大きいかが見てとれた。

 

 

 

今にも泣きじゃくりそうなオーシャンブルーの瞳から滴が溢れて頬を伝いながらも、気丈に笑う彼女にシュルツは愕然とする。

 

 

 

「ココちゃんを助けてくれて……平賀さんを殺さないでいてくれて、そして――」

 

 

 

(止めてくれ!お願いだ岬艦長!私を、私をどうか――っ!)

 

 

 

「私を助けてくれて、本当に……本当に、ありがとうございました」

 

 

 

¨赦さない¨でくれ!

 

 

シュルツは心の中で絶叫していた。

 

 

甘えだったのかもしれない。

 

 

一同の面前で罵倒され、彼女達の怒りや憎しみを受け入れて行く事こそ、罪を償うと事なのだと考えていたからだ。

 

 

だが今、彼は赦されたのだ。

 

 

 

【家族だから】互いに傷付ける事もあろうとも赦し合える。

 

 

【家族だから】理想とは掛け離れた喧嘩をしても赦し合える。

 

 

【家族だから】―――

 

 

 

 

《行かないで!兄さん……》

 

 

 

「!」

 

 

 

シュルツの脳裏に、自身を呼ぶ蒼い瞳の少女の姿が過った。

 

 

全てを捨て去っても護りたかったものだ。

 

 

 

「………」

 

 

辺りは静寂に包まれる。

 

 

最も怒りを抱いている筈の彼女が彼らを赦しているのに、自身が叫ぶわけにはいかないからだ。

 

 

 

数時間にも渡る会議はこれを持って解散となるのであった。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

スキズブラズニルの外縁にて、シュルツは海を見つめる。

 

 

 

「………」

 

 

彼は水戸から貰った一本の煙草を取り出して火を付けて深く吸い込み、ゆっくりと吐き出された煙は潮風に流されて消えて行く。

 

 

 

「タバコ、お吸いになるんですね」

 

 

「千早艦長……」

 

 

 

背後から現れた群像を見たシュルツは慌てて煙草を消そうとするのを、彼は制する。

 

 

 

「消さなくても大丈夫ですよ。俺の世界でも最高の嗜好品でしたし、何より――」

 

 

 

今はシュルツがそうしたい時なのだろうと群像は考えていた。

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「いいえ」

 

 

 

二人の間に沈黙が流れ、波と潮風の音だけが奏でられていたが、先に口を開いたのは群像であった。

 

 

 

「シュルツ艦長お伺いしたい事があります」

 

 

「なんでしょうか?」

 

 

「何故、そこまで岬艦長にこだわるのですか?」

 

 

「………」

 

 

 

「理由は解りませんが、あの場面であなたが前出たのは、彼女がはれかぜ艦長だからでも、況して女性だからでもない。命を賭ける場面でもなかった」

 

 

「よく、見られていますね……」

 

 

「いえ……気分を害されたのなら謝ります」

 

 

 

「構いません。そうですね……私には妹がいまして」

 

 

 

「その方は岬艦長に?」

 

 

 

「いや、元々の人種も違いますが……でもそうですね。私と同じ栗色の髪に母と同じ蒼い瞳……」

 

 

「………」

 

 

「少し長くなります」

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

ウィルキア王国は、歴史的に見ても非常に歴史が新しい部類に入る。

 

 

 

第一次大戦初期にドイツ第三帝国の思想に反対した貴族や北欧の民達が東へと落ち延び、日露戦争で疲弊した当時のソビエトの隙を突いてシベリア付近を領土とした経緯があったのだった。

 

 

 

民兵だったシュルツの父は、領土奪還に躍起になったソビエトとの交戦で若くして戦死。

 

 

彼の母は、女で一つで幼かったシュルツと生まれたばかりの妹を育てた。

 

 

 

 

しかし、度重なるソビエトの襲撃に国力は疲弊し、慢性的な食糧難に陥っていた当時のウィルキアに於いて生き抜く事は容易ではない。

 

 

病床に臥せった母を養う為に、シュルツはスラム街で盗みを繰り返して、何とか生計を立てる荒れた生活を送っていた訳だが、看病の甲斐もなく母は亡くなり二人は否応なしに世間の荒波に放り出される事となる。

 

 

彼が13歳の時、偶然にぶつかった数人の強面の海軍人から財布を盗もうとしたのが露見し、彼は銃殺を覚悟したものの――

 

 

 

「貴様、良い目をしているな。名は?」

 

 

「お、お前になんか言うわけないだろ!殺すならさっさと殺せっ!」

 

 

「はっはっはっ!威勢の良い小僧だわい!儂も気に入ったぞ!なぁ天城よ」

 

 

「ふむ、これは良い海軍軍人になりそうですな。流石はガルトナー殿、これはウィルキア海軍の未来も明るいと言うもの」

 

 

 

 

「な、さっきから何言ってんだ!」

 

 

 

狼狽するシュルツにガルトナーと呼ばれた男が歩を進める。

 

 

 

「貴様、何故金を欲する。言ってみろ」

 

 

 

「い、妹が病気なんだ……」

 

 

「ほぅ……」

 

 

 

シュルツの妹は過度の栄養失調と不衛生な環境から感染症を患っていた。

 

 

 

「両親は?」

 

 

 

「いない両方死んじまった……だからっ!俺が何とかするしか無いんだっ!何だってする!たった一人の…うっ、グスッ……【家族】なんだからっ!」

 

 

 

こんな筈じゃなかった。

自分の不甲斐なさや情けなさにシュルツの涙は止まる事なはい。

 

 

だが、ガルトナーは普通なら汚いと邪険にされているスラム街出身の自身の肩に手を置き、真っ直ぐ瞳を見つめる。

 

 

 

「良し解った。では私が何とかしよう」

 

 

「……え?」

 

 

「この財布はくれてやる訳にはいかん。貴様の為にならんからな。だが、貴様が妹と思う気持ちが本心なら、海軍に入って働いてみんか?」

 

 

 

「俺が、海軍に!?む、無理だ!だって俺が、文字も読めないし、妹だっているし……」

 

 

 

「ほぅ、では貴様の妹への愛とやらも眉唾と言う事かの?」

 

 

「な、んだと……」

 

 

「おいおい止めんか筑波……」

 

 

「ぬしは黙っておれ天城」

 

 

「………」

 

 

 

「いいか小僧!なにも、盗みで稼いだ事を儂は咎めようとは思わん。美しく清廉潔白に生きるなどこのご時世では片腹痛い話だからのぅ。だが――」

 

 

筑波の鋭い視線にシュルツは思わず萎縮する。

 

 

 

「貴様は他に何が出来たのかを考えたか?もっと稼いで妹を救う道があると考えた事があるかっ!小僧の考える事など手に取る様に解る。どうせそれが一番手っ取り早かったからだろう?」

 

 

 

「う、うるさいっ!お前に何が解るってんだ!」

 

 

 

「解るとも。祖国でも貴様の様な小僧が同じ事をやらかして殺される様を山ほど見てきたのでな」

 

 

 

「――!」

 

 

 

「気付きおったか。そうだ、妹を護るために一番必要なのは貴様自身が生き続ける事だ。でなければ誰が面倒を見てくれる?泥を啜っても地面を這ってでも己を危険に晒す者に未来など無い!」

 

 

「……」

 

 

そうなのだ。こんな事を続けていたらいつかはなぶり殺しにされる。

 

残された妹は誰が護るのだ……

 

 

今更ながらに彼は気付いたのだった。

 

 

 

「表情が変わったな。筑波、もしやこれを狙っていたな?貴様がこれほど目を掛けるなど珍しいではないか」

 

 

 

「からかうな天城……」

 

 

「で?どうするのだ?私に付いてくるか、それとも今までの道を選ぶか、強制はしない。自分で決めろ」

 

 

 

ガルトナーからの最後の問い。

 

 

 

答えはもはや決まっていた。

 

 

 

「俺、やるよ。海軍に入る。入って働いて働いて妹に薬を買うんだ!」

 

 

 

彼の決意に満ちた瞳に3人の表情が穏やかになる。

 

 

「うむ、決まったな。妹さんの件だが、しばらく私の権限で軍の病院に入院させる。金も私が出そう。だから貴様は勉学に集中しろ」

 

 

 

「え?でもそんな……」

 

 

「なに、ウィルキアの未来を背負う若者の為だ。投資だと思えば高くはあるまい」

 

 

 

「はっはっ!街を歩いていてとんだ宝を拾ったものですなガルトナー殿」

 

 

「うむ、だが果たしてこんな若造に軍が勤まりますかな?」

 

 

 

「杞憂だぞ天城、儂には解る。この小僧は間違いなく世界に名を残す軍人になる!保証するわい!」

 

 

「フッ、貴様が言うのであれば、あながち間違いでは無いのかもしれんな」

 

 

 

「あ、あのっ!」

 

 

「ん?どうした小僧。まだ何か用か?」

 

 

 

「俺、ライナルト・シュルツ……です」

 

 

 

「そうか、そう言えば正式に名乗っていなかったな。私は新設されて間もないウィルキア王国海軍大佐アルベルト・ガルトナー」

 

 

「私は定期的にウィルキア海軍を指導している大日本帝国海軍大佐の天城だ」

 

 

 

「同じく大日本帝国海軍大尉の筑波だ。小僧!早く下から這い上がって来い!貴様を鍛える日が来ることを楽しみにしているぞ!」

 

 

それがシュルツと彼等の出会いであった。

 

 

 

 

それから数年、彼は血の滲む努力によって周囲を震撼させるほど驚異的な速度で成長を遂げて異例の昇進を遂げて行く事となる。

 

 

人手不足によって軍に入る事自体は簡単ではあるものの、当時の世界では高学歴や家柄、更には血統など選ばれた者以外は士官になる事が事実上困難な時代に、彼の様なスラム街出身の人間が士官候補生として頭角を現す事が出来たのは、ガルトナーの尽力だけでなく、シュルツ自身が極めて優秀な能力を有していた事も大きいだろう。

 

 

 

すっかり成長を遂げたシュルツは、あの頃とは違う綺麗な白い軍服に身を包んだシュルツは、自身の借りた小さな借家の扉を開いた。

 

 

 

「ただいまフリーダ。今日は君の好きなお菓子を買ってきたんだ」

 

 

彼の視線の先には、ベッドで横になる妹【フリーダ】の姿があった。

 

 

透き通る白い肌にウェーブかがった栗色の長髪、そして海を思わせるオーシャンブルーの瞳を持つ美しく可憐な女性であった。

 

 

「お帰り兄さっ……ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

「フリーダ……調子が悪いのか?また痩せたようだが……」

 

 

「兄さんは心配しないで、私は大丈夫だから。それよりも、今回はもう少し家に居られるの?」

 

 

「済まない。今度は日本に合同演習に行く事になったんだ。また暫く家を開けるよ」

 

 

 

「そう……」

 

 

頬がこけているせいか、俯いた彼女の様子は酷く疲れた様に見えた。

 

 

彼女に心配をかけまいと、シュルツは穏やかに笑って見せる。

 

 

「大丈夫だ。今日は久しぶりにゆっくりできる。話したい事も聞きたい事も沢山あるんだ」

 

 

 

「うん……」

 

 

力は無くとも漸く微笑んだ妹の顔に彼の気持ちも穏やかになる。

 

そう、これこそが本来の彼の顔なのであった。

 

 

軍内部ではエリート等と言われて畏敬の目で見られており、滅多に感情を表に出さなくとも、本来は屈託の無い笑顔を見せる年相応の青年なのである。

 

 

 

その夜は本当に沢山の話をお互いにした。

 

 

 

フリーダが近所のおばさんとする他愛もない話や、シュルツを指導する鬼教官の話など。

 

 

幸せだった。

 

 

どちらが欠けても成立しない当たり前の幸せ。

 

 

あの時、ガルトナー達に出会っていなければ得られなかった幸せだ。

 

 

夜も更けて行き。

 

 

疲れたであろうフリーダの身体をゆっくりとベッドに横にしたシュルツは、彼女の額に優しくキスをして「おやすみ」と穏やかに笑みを向け自室へと行こうとした時だった。

 

 

 

「待ってっ!」

 

 

 

不意に自身の袖を捕まれたシュルツは目を丸くする。

 

 

「どうした?身体に障るから早く寝――」

 

 

「いかないで!兄さん……」

 

 

「フリーダ?」

 

 

彼女は泣いていた。

 

 

病弱ながらもしっかりと袖を握る手にシュルツは自身の手を重ねる。

 

 

 

「心配するな。俺は――」

 

 

 

「違うのっ!ずっと……ずっと言いたかった。私の為に危険な軍の仕事に兄さんを就かせちゃったって、ずっと後悔してて……ずっと謝りたくて」

 

 

「だがフリーダ――」

 

 

「聞いて!ガルトナーの伯父様には感謝してる。沢山よくして貰ったし、お薬の工面もして下さった。でも、いま欧州では戦火が広がってるって、じきに日本も戦争するんじゃないかって、ロッテおばさんいつも言ってた」

 

 

「……」

 

 

「私嫌だよ。兄さんが父さんみたいに帰って来なくなっちゃうのは嫌!ねぇっ、危険な事はしないで!軍を辞めたって良い!昔みたいに貧しくたって良いからっ――」

 

 

 

「フリーダ……良く聞いてくれ。俺は絶対に君を一人にしないよ。必ず帰ってくる。君がここで待っていてくれる限り」

 

 

 

「兄さん……」

 

 

「嘘じゃない。今まで俺がフリーダとの約束を破った事があるかい?」

 

 

「ない……」

 

 

「今回も……いや、例えウィルキアが戦争になっても、俺が戦場に行っても絶対にフリーダの元に帰るよ。命令を無視してでもね。約束するよ」

 

 

 

「本当?」

 

 

「本当さ」

 

 

彼女はゆっくりと頷く。

 

 

「さぁもう遅い。寝なさい」

 

 

「今日だけ手、握ってもらっていい?」

 

 

「ああ良いとも。君が寝るまでここにいるよ」

 

 

 

シュルツは椅子に腰を下ろし、堅く自身の手を握るフリーダの手を優しく擦ってあげる。

 

 

「約束……だよ」

 

 

 

彼女は漸く穏やか表情で眠りに落ち、シュルツもこの一瞬に幸せを感じながら目を閉じるのであった。

 

 

翌日

 

 

明るい表情を取り戻した彼女と細やかな朝食を共にしたシュルツは軍服を着込んで支度を調える。

 

 

どうやらフリーダが皺を伸ばしてくれていたようだ。

 

 

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

 

「行ってらっしゃい」

 

 

 

互いに笑顔で別れを告げ、シュルツは近所のロッテおばさんにフリーダを頼むよう言付けると日本での演習に出発するのだった。

 

 

 

 

その後、日本での厳しい訓練を終えてウィルキアに帰国したシュルツの元にガルトナーが現れる。

 

 

「演習ご苦労だったな。その様子では筑波殿に大部鍛えられたようだ」

 

 

 

「はっ!有意義な演習でありました」

 

 

「うむ、まさかあの時の子供がここまで成長するとは私も嬉しい限りだ。ところで、今日はこれを持ってきたのだが」

 

 

 

ガルトナーは封書を手渡す。

 

 

「これは?」

 

 

「開けてみたまえ」

 

 

「!」

 

 

シュルツは目を丸くした。

 

 

中身は自身が少佐への昇進と国王を守護する近衛艦隊への異動を任ずる内容が書いてあったからだ。

 

 

 

「何故です!私の様な者が佐官に、況して近衛艦隊など……」

 

 

「いや、陛下は貴君らの様な若者にウィルキアの未来を託したいとのお考えだ。私もそう思う。元々領土防衛戦において海軍など不要との声もあったが、今や世界の主戦場は海や空に広がりつつある。ここで乗り遅れたのであればウィルキアは滅亡の一途を辿るだろう」

 

 

「………」

 

 

「貴君らは日本から技術を体得した言わば国土防衛の要となりうる人材だ。これからも宜しく頼みたいが不満か?」

 

 

「いえ、私には勿体ないお言葉です」

 

 

「では……」

 

 

「はっ!その命、慎んでお受けいたします」

 

 

「良かった。早く妹に報告してやれ」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

シュルツは走った。

 

 

 

近衛艦隊の就任は待遇が破格であるだけでなく、演習等を除いては基本的に国内勤務となるからだ。

 

 

これで妹の側にずっと居られる。

 

彼はそう信じて疑わなかった。

 

 

 

 

「あっ!ロッテおばさん」

 

 

「あぁ、あんたかい?今まで何処に言ってたんだい?」

 

 

「ええ、軍の演習で日本に……どうかしたのですか?」

 

 

 

「あんた¨遅かった¨よ。フリーダちゃんね……」

 

 

「フリーダがどうかしたんですか!!?」

 

 

彼女はシュルツの自宅の扉に視線を写す。

 

 

 

 

「早く会っておやり……」

 

 

「――っ!」

 

 

ドアを乱暴に開け放ったシュルツが目にしたものは――

 

 

 

「フリーダ?」

 

 

 

そこには手向けられた花に囲まれたフリーダが眠っていた。

 

 

 

「フリーダ!俺だっ!帰ったんだフリ――」

 

 

冷たい……?

 

 

彼女がシュルツの手を握り返す事は無かった。

 

 

 

「何で……どうしてっ!」

 

 

「医者には連れていっていた。でも、病気が¨不治で進行性¨である事をこの子はアタシにも隠してたんだ。きっとアンタに言っちまうと思ったんだろうねぇ……」

 

 

 

「そんな……」

 

 

 

「アタシはアンタらここに来たときから知ってる。【何でもっと側に】なんて言うつもりはないさ。アンタはこの子の為に歯を喰い縛って頑張って来たんだからねぇ。でもねぇ……何でアンタ達がこんな目に逢わなくちゃならないんだろうねぇ……」

 

 

彼女はフリーダの手を握り締めながら悲痛な涙を流す中、シュルツは状況が飲み込めずにいるのであった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

「アンタ大丈夫かい?」

 

 

「はい……」

 

 

「ハァ……大丈夫じゃないじゃないか。酷い顔だよ。食事は作っといたからしっかり食べてフリーダちゃんとお別れするだよ」

 

 

「………」

 

 

何度もシュルツの顔を心配そうに見つめながら、ロッテは去っていった。

 

 

一人残されたシュルツには、もはや食事の香りを感じる感覚すら皆無であった。

 

 

 

 

「どうしてだ。どこで間違えた……」

 

 

《日本に行くんだ》

 

《いかないで、兄さん……》

 

 

 

「何故だ、何故こんな事になったっ!」

 

 

 

《俺は絶対に君を一人にしないよ。必ず帰ってくる。嘘じゃない。今まで俺がフリーダとの約束を破った事があるかい?》

 

 

《本当?》

 

 

《本当さ》

 

 

《約束……だよ》

 

 

 

「ぁあぁあああっ!」

 

 

 

シュルツは心底自身が憎くて堪らなくなった。

 

 

今まで血の滲む思いで勉強し、教練を積んで地位も安定した収入も勝ち取ってきが、それら全ての価値観が纏めて破壊された瞬間でもあったのだ。

 

 

「何が地位だっ!何が金だっ!何が約束だっ!何もっ……何も残らないじゃないかっ!」

 

 

 

溢れる涙と共に彼の感情も爆発していた。

 

 

何度考えようとも妹を生き返らせる方法などある筈も無く、2度と向けられる事は無いであろうフリーダの無垢な笑顔が何度も頭で再生される。

 

 

 

「フリーダ……」

 

 

 

シュルツは、まるで眠っているかのように横たわる彼女の白く冷たい手にすがり付く。

 

 

「教えてくれ!俺はどうすれば良かった!?どうすれば君を救えた!?どうすれば君の側にずっと……」

 

 

彼女はシュルツに答えを告げない。

 

 

 

ただそこに……永遠に眠るのだ。

 

 

 

葬儀の日、大雨にも関わらず近所でも評判が良かったフリーダの死を悼んで多くの人が集まり涙を流した。

 

 

だが、その場に彼女死を最も悲しんでいる筈のシュルツは姿を¨現さなかった¨。

 

 

彼女の死を、ロッテから聞いたガルトナーは喪に伏す為の黒い軍服を着込んで現れる。

 

 

「あっ、ガルトナーさんかい?」

 

 

「ロッテさんか、シュルツ少佐はどうした?」

 

 

「あぁ……近衛艦隊の訓練が有るからと言って来なかったよ」

 

 

「なにっ!?最愛の家族の葬儀なのにか!」

 

 

「アタシは何度も言ったんだ。ちゃんとお別れをって……でもあの子ったら、《約束を果たせなかった¨私¨に別れを言う資格などありません》ってきかないだよ。これじゃあフリーダちゃんが余りにも不憫じゃないかい?」

 

 

「なんと……」

 

 

「それだけじゃないんだ。あの子ったらまるでヒトが変わっちまったみたいに冷たい目をして、フリーダちゃんとの思い出の品を全部燃やしちまってさ、家も引き払っちまったんだよ!ねぇガルトナーさん!何とかならないのかい!?このままじゃいつかあの子は……」

 

 

「あの馬鹿者が……!」

 

 

 

ガルトナーが拳を握り締める中、彼女の遺体の入った棺に土がかけられ行く。

 

 

 

 

その悲しい出来事から半年後、ウィルキアはヴァイセンヴェルガーのクーデターと帝国の設立が起きる事態となり、世界は超兵器の存在に震撼する事となるのだった。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

海を見つめるシュルツの煙草はとっくに消え失せて灰になっていた。

 

 

 

 

「あの時の私は、力を得る事に没頭する余り自分を見失いました。私は妹に全てを与えたつもりでしたが、時間も愛も何も与えられなかった」

 

 

「………」

 

 

 

群像は今こそシュルツと言う人物を漸く理解できた気がした。

 

 

超兵器討伐に尽力した彼の経歴は目を通している。

 

最初こそ、突撃に近い無謀な作戦が多かった解放軍艦隊だが、超兵器と何度か戦闘を繰り返す内に慎重な行動が目立ち、住民の救出は元より、敵の投降兵の救出にも力を入れる様になったと言う。

 

 

 

その理由はハワイでの出来事が切っ掛けではないかと群像は見ていた。

 

 

超兵器デュアルクレイターによるハワイ強襲と虐殺、そしてそれを見ている事しか出来なかった自分。

 

彼の心は死んでいなかったのだ。

 

妹に対する贖罪の意識が、大切な者を超兵器に食い散らかされる民衆を見て再燃したのだと彼は考えた。

 

 

故に群像は思うのだ。

 

 

 

会議の最後に明乃が言った《皆は家族》《ありがとう》の言葉が彼にとっての真の断罪であると。

 

 

 

それはまるで呪いだった。

 

 

一言でも赦さないと断じられれば、彼は迷わず死を望んで妹の元へと逝くのだろう。

 

 

だが彼の行動が称賛される度、感謝される度に彼は赦され、妹一人幸せに出来ない英雄として人々を救い続けねばならない地獄を味わい続けるのだ。

 

 

そして今回も、彼は赦された。

 

 

妹と同じ瞳を持つ者によって――

 

 

 

【運命】

 

 

そんな非科学的な単語が群像の脳裏をよぎる。

 

 

 

明乃自身の容姿がどれ程フリーダと重なるのかは解らない。

 

だが、彼女からの言葉はまるでシュルツに《生きていて欲しい》と願った彼女の想いが形になったものの様に思えた。

 

 

シュルツがその想いに気付く事は今は無いであろう。

 

 

それは彼が過去を背負い続ける者だからだ。

 

 

その視点が超兵器の完全なる打倒を持って未来へと向いた時、彼女の想いがシュルツの心を解きほぐしてくれるのかもしれないと群像は思うのだった。

 

 

 

   + + +

 

一方のスキズブラズニルの尋問室では、平賀に対する取り調べが行われていた。

 

 

 

飽くまでも主権世界である為か、聴取はブルーマーメイドで行う事となった訳だが、同級生と言う関係からか真冬と福内は尋問から外され部屋の外での待機となる。

 

 

「さて……何から聞いたら良いものかしら」

 

 

真霜は正直なところ途方にくれていた。

 

 

 

幸子同様に、平賀には明確な罪状と言うものがない。

 

 

強いて挙げるなら明乃等への暴行監禁等を理由に拘束をかけてはいるが、肝心の超兵器への内通となると話は別になる。

 

 

 

何者かの意思によって、人の想像が及ばない所へテレパシーで情報を漏洩したなどと言っても、馬鹿げた絵空事にしかならないからだ。

 

 

 

 

「助言宜しいですか?」

 

 

「ブラウン博士……ええ頼むわ」

 

 

この尋問室には真霜の他に博士と水戸の姿もあった。

 

 

飽くまで真霜に助言をすると言う立場だが、超兵器の意思が人に及ぼす影響を調査する狙いがあるのだろう。

 

 

 

「彼女が過去の遊覧船撃沈事件の時に超兵器との絆が結ばれたのは明白でしょう。それは岬艦長の例から見ても明らかです。唯一の違いは、その¨同調率¨にあります」

 

 

「同調率?」

 

 

「はい、彼女の脳波から検出された超兵器波長は、岬艦長の数十倍に達します」

 

 

「す、数十倍!?」

 

 

「普通ならとっくに廃人になってもおかしくない数値ですが、彼女の脳には取り分け問題がない。これはそもそも、彼女の中には人間で言う処のマイナス感情が占める割合が非常に多かった事を示しています。」

 

 

(やはりここは、彼女のこれまでを今1度聞く必要がありそうね……)

 

 

 

真霜は平賀へと顔を近付けると、彼女は血走った荒んだ目で真霜を睨み返す。

 

 

 

 

「そんな目で見ても無駄よ。あなたのこれまでの経緯を詳しく説明し頂戴」

 

 

 

「言ってもあなた達には理解できない」

 

 

「それはこちらで決める事よ」

 

 

 

「ええ……そうね」

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

あの日――

 

 

そうあの日だ。

 

 

明乃の運命が変わった遊覧船に、平賀は乗っていた。

 

 

平賀はごく普通の家庭に生まれ、普通の学生生活を送っていた。

 

 

強いて言うのなら、元より運動神経が良く中学二年生まではクラスの男子生徒と互角である位には体力がある快活な少女といえた。

 

 

 

それは高校時代も変わらず、運動部に所属していた彼女は遠征を行う為に乗っていたフェリーであの事件に巻き込まれたのである。

 

 

 

部屋で友人達と談笑中に起こった突然の衝撃と意識の暗転。

 

 

そして目が覚めた彼女が見たものは――

 

 

 

「う、冷た…い。ひっ――!」

 

 

 

半分水に浸かった部屋と、浮かんでいる友人達の死体。

 

 

彼女がパニックに陥るのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

「あぁああ!た、助けてっ!誰かっ!」

 

 

その声に答える者は無く、ギリギリと鳴る不気味な音と嵐の音、そして冷たい海水が彼女を絶望の縁へと落としていった。

 

 

 

だが――

 

「嵐の音?そうだ窓は――」

 

 

吹き込む風の音に、脱出する事を考えた平賀は窓を探す。

 

 

「あった――!」

 

 

 

どうしてこうなったのかは解らないが、窓があった場所は今は天井になっており、何か強い衝撃でも加わったのか、分厚い窓ガラスは砕け散っていた。

 

 

 

「くっ、届かな―――あ゛っ」

 

 

 

ドスン!と言う衝撃音と共に船が傾き、浸水がいっそう進む。

 

 

「やった!これで外に――!」

 

 

 

彼女は水位が上昇した事により何とか船外へと脱出したのだが――

 

 

「……え?」

 

 

嵐の中、彼女が立っていたのは本来は船の側面に位置している場所だった。

 

 

風も波も荒く立つのがやっとの状態であり、船の側面には巨大な孔が穿たれている。

 

 

 

 

「あそこに何かが当たって……ううん、考えちゃダメ!とにかく少しでも高い所へ――」

 

 

「ブルーマーメイドです!今救助に向かいます!」

 

 

「!」

 

 

 

不意に声のした先に顔をやった平賀の目に、救助用ボートに乗った人が見えた。

 

 

 

「た、助けてください!」

 

 

「今いきます!じっとしていて!」

 

 

 

救助隊とおぼしき人物に助けられた平賀は、一先ずの安堵を覚えるも――

 

 

 

「あ、あの!」

 

 

「どうかされましたか?

 

 

「救助されたのはこれだけですか!?友人が一杯いた筈なんです!」

 

 

「ご免なさい、残念だけど……」

 

 

「そ、そんなっ!」

 

 

 

現実は非情と言うより他はない。

 

 

しかしながら――

 

 

 

「うわぁあっ!お父さん!お母さん!」

 

 

 

 

嵐の轟音の中でも平賀の耳に届いた悲痛な叫びと共に、別の救命ボートに乗っていた少女が顔を皺くちゃにして泣き叫ぶ様子が目に入ってきた。

 

 

 

「あの娘の両親も……助けられなかった」

 

 

「……」

 

 

隊員は悔しさを滲ませる。

 

 

 

多くの命を乗せたまま海底へ沈んで行く船を一同は呆然と見ているしかなかった。

 

 

そんな中、平賀は何かに惹き付けられる様に後ろを振り向く。

 

 

 

(――!?)

 

 

 

紫の閃光と雷鳴が轟く黒雲の中に、一瞬だけ巨大なナニカが顔を覗かせた気がしたのだ。

 

 

 

しかし突風で思わず目を閉じ、再び瞼を開いた時にはそのナニカは消え去り、今までの嵐が嘘の様に過ぎ去ったのだった。

 

 

 

 

 

その後――

 

 

 

乗客達に待ち受けたのは安堵ではなく、更なる混乱であった。

 

 

 

「俺の自宅が海の底だと!?おいっフザケルのも大概にしろよっ!」

 

 

 

突然の罵声に周囲がどよめく。

 

 

 

無理もない。

 

 

 

メタンハイドレートの噴出で国土が沈下した現在の日本は彼等の想像する地理とかけ離れている全く別の世界に居るのだから。

 

 

 

勿論、混乱はそれだけではない。

 

 

 

「ここ本当に横須賀!?そんなのどうでもいいわ。私は家が九州なの、飛行機に乗って早く家に帰りたいのだけど空港まで送って頂戴!」

 

 

 

「ヒコウキ?クウコウ?すみません。内陸中央新幹線と此方で用意した船以外には移動手段は有りませんよ。事故のあとですから船は嫌だと言う方はそちらから帰宅して頂いて――」

 

 

 

「ちょっとあなたっ!この期に及んでまだ私達を侮辱する気!?飛行機で飛べばあっと言う間に――」

 

 

 

「ですからっ!その飛行機と言うのは何ですか!?混乱しているのは解ります。ですが、ご帰宅頂くには陸の鉄道か海路しか有りません!」

 

 

互いの主張は平行線を辿るばかりであった。

 

 

 

埒があかないと判断したブルーマーメイドは、国の直轄機関である海上安全委員会に事故報告を行い、事故の全容解明に協力するよう要請し、一先ず被害者達をブルーマーメイド宿舎に泊め置く事を決める。

 

 

 

「おい……ここ本当に日本なのかよ。幾らなんでも話が噛み合わなさ過ぎるだろ」

 

 

一人の男がぼそりと放った言葉がまさか現実だとは、この時は誰も信じられなかった。

 

 

 

その夜――

 

彼等が不安な夜を過ごしている時、沈没現場に戻って残る遭難者の発見や船の引き揚げ作業の指揮を取っていたもえかの母である萌は、海に浮かんだ漂流物を回収したのだが、その内容に頭を悩ませる事になっていた。

 

 

 

「この日本地図、随分古いわね。少なくとも80年以上前の地形だけど、何でこんなもの持ってるのかしら……」

 

 

 

メタンハイドレートが原因で国土が沈下した現在の日本とはまるで異なる過去の日本地図に、違和感を覚えた。

 

 

だがそれだけではない。

 

 

発見した運転免許証の更新日時は最近のものであったし、にも関わらず記載されている住所は海の底。

 

 

偽造にしては出来が悪いが、免許証自体は良くできている。

 

 

そして、被害者達と自分達の齟齬。

 

 

 

(今は船の引き揚げに専念しないと……)

 

 

 

萌は雑念を振り払うかの様に首を横にふる。

 

 

 

「知名艦長!沈没船が揚がります」

 

 

 

「ええ……」

 

 

 

現場に到着した萌は眉を潜める。

 

 

 

沈没の原因となった船舶に空いた巨大な孔は、まるで何かが船を真横から貫いた様に見えたからだ。

 

更に――

 

 

(この孔……溶けている?まるで高温のナニカに焼き切られたみたいに)

 

 

 

これは座礁ポイントが多いとはいえ有り得ない事態だ。

 

 

故に結論は1つに絞られる。

 

 

 

(何者かによる攻撃?でもこんな兵器は聞いた事がない。軍事大国である米 露 中でさえこんな技術をもっていないわ)

 

 

 

これは、ブルーマーメイドでてに負えない可能性があると判断した萌は、海上安全委員会に事を報告する事を決める。

 

 

 

結果、事件は当時の防衛大臣であった大湊によって機密扱いとなり、事故そのものが¨無かった事¨として処理されるのだが、不満に思うブルーマーメイドの圧力を何とか押さえ込んだ國枝の手腕は間違っていなかったと見るべきだろう。

 

 

 

実際、超兵器と言う世界に存在しない武器によってもたらされた悲劇なのだ。

 

 

迂闊に我が国の船舶がドコかの国から未知の兵器で攻撃された等と公表すれば、軍事的緊張が一気に高まる。

 

 

経済を他国に依存せざるを得ない日本にとって、望まざる結果を生んでしまうからだ。

 

 

 

後日――

 

 

ブルーマーメイドから防衛省に身柄を引き継がれた被害者達は、東北の地へと移送される事となる。

 

 

「うっ……うっ…ふぇええ!」

 

 

 

「うるせぇガキだな!少しは静かに出来ねぇのか!あ!?泣きたいのはコッチだってぇの!」

 

 

「ひっ……」

 

 

両親を失い泣いていた明乃に苛立った男が罵声を浴びせ、恐怖のあまり彼女小さい身体を更に丸めて畏縮してしまう。

 

 

ただの八つ当たりだ。

 

 

だが、誰も彼を咎める者はいなかった。

 

 

皆、自身の事で手一杯で苛立っていたのだ。

 

 

 

平賀自身も、男に怒りは湧くものの何も言い出せない一人であった。

 

 

 

長い時間バスに揺られ、到着した彼らが目にしたのは、何も無い山あいの村。

 

 

 

「降りてください。申し訳有りませんが、あなた方にはしばらくここに滞在して頂きます」

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

どよめきが広がった

 

 

 

「どうして?どうして帰っちゃダメなの!?」

 

 

「お前ら、俺達の税金で食ってる分際でフザケルのも大概にっ――」

 

 

 

カチャ……

 

 

「ひっ!」

 

 

 

向けられたのは多数の銃口だった。

 

 

動揺する彼らに担当の男は冷たく言い放つ。

 

 

 

「誠に遺憾ではございますが、いくら政府のデータベースに照合をかけてもあなた方の情報が得られませんでした。原因は調査中ではありますが、現状あなた方には日本人としての人権が存在しません。故に……お分かり頂けますね?」

 

 

 

「なんだよ……それ」

 

 

 

被害者達は、ただただ唖然とするしか無かった。

 

 

その後―

 

 

彼等に特殊な力があることが判明し、その事に目をつけた安芸によって差し向けられた狂った科学者達に虐待に等しい実験を受けさせられる事になるのだが、少なくとも現状において彼等を絶望させるには充分すぎる状況であった。

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


3人の主人公の内、唯一過去がはっきり書かれていないシュルツの過去を独自解釈で描きました。


なぜシュルツが武力や過剰な権力を憎む様になったのか、バミューダで超兵器と刺し違えようとしたのか、なぜ慕われるのか。



自分を赦される事が、妹を失わせた自分への最大の断罪と言う価値観がそうさせるのだろうと解釈したからです。


元々、アニメや漫画の主人公である群像やミケちゃんとは異なり、ゲームのプレーヤー艦の艦長であるシュルツには際立った個性を与えられていないのは当然なのですが、この回でシュルツの人間味を実感していただけたら幸いです。



お分かりの方もいらっしゃるかと思いますが、この話は当初、ミケちゃん達が異世界の登場人物達から戦争と言うものに対する価値観を受けて成長して行く物語りになる筈でした。

作品の紹介文にもそう書いてますし……


ただ、登場人物が私の脳内で作られたものであったとしても、やっぱり人間関係って相互に影響を受けしまうんだなと感じました。


その証拠に、2章前編の中頃辺りからこの話にかけて、異世界側がミケちゃん達の影響を強く受けちゃってるんですね。



ミケちゃんの言った、皆は家族の言葉が更に重さを帯びてくる回となりました。

次回も平賀の回想です。

ただそろそろ超兵器も登場させたく思います。

焦って適当にならないよう戒めて進んで行きますので、次回まで今しばらくお待ちください。


それではまたいつか






















とらふり!



フリーダ
「伯父様!」


ガルトナー&筑波&天城
「はぁ~い!」

シュルツ
「なにやってんだあのオヤジ共は……」


フリーダ
「いつも良くして下さってありがとうございます!」



ガルトナー
「当たり前だ。愛しのフリーダちゃんの為なら私は火の中水の中っ!」


筑波
「むっ狡いですぞ!儂だってフリーダちゃんに一杯お菓子をあげちゃうもんね!」



天城
「いやっ!菓子などぬるいわっ!フリーダちゃ~ん!この洋服などフリーダちゃんに似合うよねぇ!」



筑波
「天城、貴様っ!メイド服などっ……素晴らしい!」


ガルトナー
「う~む!けしからん!けしからんが素晴らしい!」



フリーダ
「は、恥ずかしいですけど伯父様達の為に着ちゃいます!肩たたきもしてあげますっ!」



3人のオヤジ
「ほぉーーー!」



シュルツ
「お三方、ちょっと営倉までご同行下さい……」

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