トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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大変長らくお待たせいたしました。


ヴィルヘルムスハーフェン解放戦の続編に成ります。


それではどうぞ。


灼熱の救済  VS 超兵器

   + + +

 

 

 

「ムスペルヘイム……」

 

 

 

シュルツは、この惨状の元凶たる超兵器を睨んだ。

 

 

 

彼の艦によって幾多の艦船が沈み、目の前で命が散って行くのを彼は幾度となく見てきたからだ。

 

 

 

 

そしてこの世界に於いても、彼の艦は数多の命を喰っている。

 

 

 

《下賤ナ存在ヨ。幾度トナク我ガ主ノ崇高ナル御意志ヲ無下ニスルソノ蛮行…誠ニ以テ万死ニ値ス。シカシナガラ、主ハ煉獄ヲ以テ汝ラノ罪ヲ清メラレント常ニ心ヲオ砕キニナラレテイル。ソシテ下賤ナ汝ラニモ救済ヲ与エヨト私ニ仰ッテオラレルノダ》

 

 

 

 

「………」

 

 

《慈悲ヲ受ケ入レヨ。サスレバ煉獄ノ焔デスラモ、汝ラニハ心地良キ日ノ光ノ如ク感ジラレヨウ……》

 

 

 

 

 

「――っ!!!」

 

 

 

 

 

シュルツは煮えたぎる様な怒りが沸き上がるのを抑えきれなかった。

 

 

 

 

「貴様らの偽善に、一体幾つの命を巻き込めば気が済むんだ!ムスペルヘイム!!!」

 

 

 

 

 

シュルツは乗員に指示を飛ばし、シュペーアが速度を上げる。

 

 

 

それは彼の艦からの提案……いや、¨偽善に満ちた死¨に対する明確な否定に他ならなかった。

 

 

 

《ナント……愚カナ》

 

 

 

 

 

「なんとでも言うがいい!私達は、喩え人でも悪魔でも、そして神であったとしても、そこに無惨な死が蔓延る限り抗い続ける!ナギ少尉、¨ラムアタック¨を掛ける。艦首ドリルの起動準備を急げ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

艦内が慌ただしくなり、シュペーアは宿敵の下へと突き進む。

 

 

 

彼の艦との戦いの火蓋は切って落とされたのだ。

 

 

《汝ラノ答、シカト聞キ届ケタリ。アァ主ヨ……御身カラ賜リシ力ヲ、下卑タル存在二使用スル我ガ愚行ヲ赦タマエ》

 

 

 

 

 

ヴォン――!

 

 

 

「か、艦長!401より報告。敵艦内部に強力なエネルギー反応を検知したとの事!」

 

 

 

 

「重力砲か…させん!進路そのまま、機関全速!ナギ少尉、ドリルラムの準備はどうか!」

 

 

 

 

「はっ!完了致しました!」

 

 

 

 

「よし!まずは奴の右側空母の艦首部分を削る!総員、対衝撃防御!いくぞ、ラムアタック!」

 

 

 

 

ゴォオオ!

 

 

 

艦首に取り付けられたドリルが轟音を唸らせながら回転を始め、シュペーアは更に増速して超兵器を目指す。

 

 

 

対するムスペルヘイムは、レーザーやレールガンにて応戦を開始、シュルツは防壁を最大展開して突っ込んで行く。

 

 

 

事実上、超兵器3隻分の攻撃は凄まじいの一言に尽きるが、その実動きの鈍さは同型艦であるニブルヘイムやヨトゥンヘイムと差ほど変わらない。

 

 

 

故にシュペーアの勢いを殺すには至らなかったのだ。

 

 

 

「間も無く敵と衝突します!」

 

 

 

「衝撃に備えろ!」

 

 

 

 

超兵器の懐に潜り込んだシュペーアは、勢いをそのままにムスペルヘイムの側面から思いきり衝突した。

 

 

 

 

ガゴンッ…!ギリギリギリギリィ!

 

 

 

 

 

「うっ……くっ!」

 

 

 

ドリルラムが敵に衝突した際の凄まじい衝撃が彼等を襲い、艦内に悲鳴が響き渡る。

 

 

 

しかし、そんな悲鳴すらも掻き消してしまう程のドリルの接触部から聞こえる不愉快な金属音と、接触部から発する凄まじい火花が2隻の間に展開されていた。

 

 

 

「艦首部分の自動消化装置を起動!ドリルの冷却及び火花による火災を抑止する!」

 

 

 

シャアアア!

 

 

 

散水設備が起動し、ドリルラムの冷却を開始、シュペーアはムスペルヘイムに猛追を仕掛ける。

 

 

 

しかし――

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

ムスペルヘイムは駒の様に旋回し、シュペーアはその場に置き去りなる。

 

 

 

ゾクッ……

 

 

 

超兵器を知り尽くしたシュルツには、ムスペルヘイムの次なる行動が理解できていた。

 

 

 

彼の艦がやったことは言わば、野球のバッターがバットを振りかぶった状態なのだ。

 

 

 

つまり、次にムスペルヘイムは船体を思い切りシュペーアに衝突させようとしているのだった。

 

 

 

これは全長500mを超える超大型超兵器、特に播磨や近江のような速度に特化しておらず、旋回能力の高い超兵器に良く見られる行動でもあるが、それがムスペルヘイムともなれば威力の桁が跳ね上がる。

 

 

 

 

元々600mを超える大型超兵器3隻分の質量による体当たりだけでも十分過ぎると言うのに、ムスペルヘイムはニブルヘイムやヨトゥンヘイムとは異なり、空母部が戦艦部の半分から前へ飛び出した形状になっている。

 

 

 

 

つまり、ムスペルヘイムの全長は事実上¨900m¨付近にまで達しているのだ。

 

 

 

もし大質量に加え、長大な船体が旋回する事によって繰り出される遠心力が加われば――

 

 

 

シュペーアの運命は決してしまうも同然なのであった。

 

 

 

「急速離脱!¨凪ぎ払い¨が来るぞ!砲撃班は次なる行動の準備を急げ!」

 

 

 

 

キュイイン!

 

 

 

 

シュペーアは猛烈な急加速をかけ、その場から離れる。

 

 

その直後に――

 

 

 

グゥオオオ!

 

 

 

ムスペルヘイムの苛烈な横凪ぎの体当たりがシュペーアのすぐ真横を通過した。

 

 

 

直撃こそしないまでも、超兵器は引き起こした大波がシュペーアを激しく揺さぶり、艦内に悲鳴が轟く。

 

 

そんな中でも、シュルツは敵から一瞬足りとも視線を外さない。

 

 

 

旋回するムスペルヘイムが通過する瞬間に見えた、空母と空母の間に挟まれた本体がこちらを嘲笑っている様に感じた。

 

 

 

 

「貴様……」

 

 

 

シュルツは沸き上がる怒りをどうにか沈め、次なる指示を飛ばして行く。

 

 

 

 

「まだまだ油断するな!砲塔型レールガン ミサイル 誘導荷電粒子砲で牽制掛けろ!次に新型圧縮プラズマ砲の準備に掛かれ!尚、周囲の海面を荒らして救助の妨害にならぬ様、光子兵器は絶対に使用しないよう徹底しろ!」

 

 

 

シュペーアはムスペルヘイムに一斉砲撃を仕掛け、間髪を入れずに次なる行動を開始していった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉお!何で¨またドリル¨なのよぉ!」

 

 

 

 

タカオは悲鳴を上げていた。

 

 

 

小笠原に続いてドリル戦艦に執拗に追われていたタカオは心底辟易していたのだ。

 

 

 

「一体何なの!?私ドリルに恨まれる覚えなんて無いわ!」

 

 

 

 

『フフッ……恨まれてるんじゃなくて¨好かれている¨じゃないの?あんたがめでたく船体を失った暁には、再構成の時にドリルを付けてあげるわ』

 

 

 

 

「ヒュウガ!ふざけてないでこいつを牽制する方法を考えなさいよ!後、愛は決して沈まないの!仮に沈んだとしても、絶対私のカラダにそんなもの着けないでよね!」

 

 

 

 

『¨善処¨するわ。でもアイツ、ハルナやキリシマの牽制にも食い付かないのよねぇ……』

 

 

 

《我ハ超兵器極東方面統括旗艦【天照】。試作品ニ過ギヌトハ言エ、我ガ姉妹艦ヲ屠リシ貴艦ヲ撃沈シ、荒覇吐ヘノ手向ケトセン……》

 

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

「どうしたの?もえか……」

 

 

 

「どうやら相手は荒覇吐の仇討ちが目的で私達を狙ってるみたい」

 

 

 

「はぁ!?何よそれ!大体トドメを刺したのはキリシマでしょう!?何で私達が逆恨みされなくちゃいけないのよ!」

 

 

 

『やっぱり好かれているんじゃないのか?』

 

 

 

 

「キリシマァ!」

 

 

 

 

「ちょっとタカオ落ち着いて!確かめてみたい事があるの」

 

 

 

 

「もえか?一体何なのよ」

 

 

 

 

「天照のヘイトがこちらを向いているのなら、逆にそれを利用してミケちゃん達から超兵器を遠ざける事が可能かもしれない」

 

 

 

 

「確かにそうだけど、401からの報告は聞いてたでしょう?」

 

 

 

「……うん。だからこそ確かめないといけないと思う」

 

 

 

 

もえかは、思考をフル回転させていた。

 

 

 

重力砲を発射したした際の敵の行動は、401から発艦した¨無人セイラン¨からの情報提供によって把握している。

 

 

 

 

天照はムスペルヘイムにとって両刃の剣である重力砲の使用に際して、牽引によって旗艦を守護する役割があると考えられた。

 

 

 

つまり、彼の艦の行動範囲は限られている事になるのだ。

 

 

 

 

 

だが、先程もえかが聞いた天照の意思と思われる言動と執拗な追い回しから、行動範囲の制限を超えた領域まで追撃してくる事も考えうる。

 

 

 

 

(戦況が傾く前に確めておかないと……)

 

 

 

 

もえかは不機嫌そうなタカオに顔を向ける。

 

 

 

 

「タカオ、このまま天照を引き付けよう。向こうの出方を見たいの!」

 

 

 

 

 

「はぁ……了解」

 

 

 

 

二人が次なる行動を開始しようとした時――

 

 

 

ゴォオオ!

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

タカオは不愉快な音波を海中から探知した。

 

 

 

 

「まさか¨こっちも¨来るなんてね……」

 

 

 

「ドレッドノート?」

 

 

 

「ええ。天照に気を取られている間に距離を詰められたみたい」

 

 

 

「位置情報をモニターに出して!」

 

 

 

ピッ!

 

 

 

 

モニターに表示された超兵器の位置情報に彼女は眉を潜めた。

 

 

 

 

(私達の真正面から突っ込んでくる?)

 

 

 

 

絶対的に有利である水上艦に対して、比較的浅い深度からの直線的な動きは潜水艦らしからぬ不自然な行動だった。

 

 

 

もえかはそれにゾクリとするような悪寒を感じる。

 

 

 

「タカオ、一旦ドレッドノートから距離を取ろう」

 

 

 

「どうしてよ!潜水艦が正面からなんて絶好の機会じゃない!叩くなら今しかないわ!」

 

 

 

 

「本当にそう思う?良く考えて。あれは本来の潜水艦の戦術じゃない。人間があなた達霧の艦隊に通常の戦術が通じないのと似て、私達の戦術の常識は超兵器には通じない。向こうが不自然な行動を取ったなら引くべきだと思う」

 

 

 

「………」

 

 

 

タカオは不満そうな表情を浮かべる。

 

 

 

元々人類に対して無敵を誇っていた彼女達は、戦術などお構い無しに力でねじ伏せてきた。

 

 

 

故に殲滅に特化していたとしても、敵の意図を感知する能力には決して秀でているわけではないのだ。

 

 

 

 

しかし、それを¨補う為のもえか(ニンゲン)¨であろう。

 

 

 

彼女はタカオを刺激しないよう努めて穏やかに、だが有無を言わせぬ表情で続ける。

 

 

 

 

「タカオ、あなたには解る筈。メンタルモデルを持つあなたなら……千早艦長と戦った時、401は超兵器のような行動はしてなかったんじゃないかな?」

 

 

 

「確かに……」

 

 

 

「コアを研ぎ澄ませて。相手の細かな行動の一つ一つが、相手の次なる行動の予備動作になる」

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

タカオはゆっくりと目を閉じ、余計な視覚情報をカットし、センサーに意識を集中させていった。

 

 

 

 

チ…チ…チ……

 

 

 

 

 

(超兵器の深度が上昇している……あれ?)

 

 

 

ガゴンッ……ゴォオオ!

 

 

 

敵を討ち果たすのみを思考していた彼女が、思惑を切り替えた瞬間に、今まで取るに足らないと思いカットしてきた情報が顕在化してくるのを感じた。

 

 

 

 

(推進装置のギアをこちらに感づかれない程度にあげている?)

 

 

 

 

ゾクリ……

 

 

 

 

彼女のコアが¨予兆¨を感じていた。

 

 

 

 

¨何をするのか¨は解らない。

 

しかし、¨何かをする¨事だけは解る。

 

 

 

 

 

タカオはその何かをもえかが見つけ出すのだろうと確信し、情報を伝えようとした。

 

 

 

だが、事態は既に進行していたのだ。

 

 

 

ドドドドッ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

タカオを追っていた天照が、大口径のガトリング砲を乱射、そして二人がそれに気を取られている隙にドレッドノートが魚雷を発射した。

 

 

 

魚雷は先端部が切り離され、中から複数の小型魚雷がタカオに向かってひた走る。

 

 

 

だが、タカオにとってこれは取るに足らない攻撃である事は言うまでも無いだろうが、事態の¨本命¨はそこではなかった。

 

 

 

バシュウ!

 

 

 

タイミングをずらして発射された一本の魚雷がタカオへと向かっていた。

 

 

 

だがそれは量子魚雷ではない。

 

 

 

 

量子魚雷はその特殊な構造や弾頭が放つ波長が、メンタルモデル達のネットワークによって共有されており、発射されれば即座に侵食弾頭によって消滅させられてしまう。

 

 

 

 

この魚雷は、通常弾頭魚雷に織り混ぜるからこそ真価を発揮する魚雷と言えた。

 

 

 

天照とドレッドノートによる同時攻撃によって雑音が発生し、タカオはソレに気付かない。

 

 

 

カチッ……キィイイン!

 

 

 

 

「うっ……これは、音響魚雷!?」

 

 

 

彼女のセンサーが不快な音波に埋め尽くされ、その間ドレッドノートは一気に加速してゆく。

 

 

 

 

「え?何!?」

 

 

 

もえかは、眼前の海面が盛り上がって来るのが見えた。

 

 

 

そこで彼女は超兵器の真意を理解したのである。

 

 

 

 

「タカオ!急いで艦底にクラインフィールドを張って!」

 

 

 

「ど、どういう事!?」

 

 

 

 

「急いで!¨真下¨から来――!」

 

 

 

 

バゴンッ!

 

 

 

 

「あぁあああ!」

 

 

 

タカオの船体が激震に襲われ――

 

 

 

 

 

 

 

 

ガガッ…ガがガガッ!

 

 

 

「せ、船体が浮き上がる!?」

 

 

 

「ドレッドノートは¨私達ごと¨浮上するつもりだったんだ!このままじゃ身動きが取れなくなっちゃう!」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

例え彼女達が如何に兵器として優秀であったとしても、【艦】である以上海面があってこそ当たり前の行動が出来るのだ。

 

 

 

だが今、彼女達は浮上したドレッドノートの甲板上に乗り上げてしまっている。

 

 

 

「ぐっ!くっ!横倒しになってて、砲身が動かない!」

 

 

 

 

タカオは必死に足掻くが、身動きが全くとれず、その間にドレッドノートは方向変えた。

 

 

 

 

猛進する天照の真正面へと……

 

 

 

 

「ドリルに私達をぶつけるつもり?」

 

 

 

「そんな事したら超兵器自身も巻き込まれるわよ!?」

 

 

 

「自分は寸前で潜るんだと思う」

 

 

 

「無意味だわ!仮に吹き飛ばされても、私には傷ひとつ付かない!」

 

 

 

「¨タカオには¨……ね」

 

 

 

「何を言って――」

 

 

 

「あのドリルに接触しても船体は無事だと思う。でも、その衝撃に耐えられる程私の身体は頑丈じゃない。超兵器の狙いは端から¨私¨一人だったんだ」

 

 

 

「どういう事よ!」

 

 

 

「小笠原の時も地中海の時も、あなた達を指示を出していたのは私達ニンゲンだった。彼等は学んだんだよ。戦術を持たないあなた達と戦術を持つニンゲン。でも物理的に弱い私達さえ殺してしまえば――」

 

 

 

「全ては取るに足らない存在って事!?馬鹿にして……!」

 

 

 

しかし、彼女のコアは自分達が戦術を有する同等以上の敵に如何に無力かを反復するのだ。

 

 

 

もしここで彼女を失えば、タカオ自身は超兵器の術中に嵌まってしまうだろう。

 

 

 

 

焦りを感じたタカオはもえかの表情を見つめる。

 

 

 

しかし――

 

 

 

「………」

 

 

 

彼女はこの状況にあっても敵を観察し、次なる行動をを思考していた。

 

 

 

タカオのコアが、もえかの脳から分泌される過度なストレス物質や脈拍の上昇を検知しているのにも関わらずだ。

 

 

 

 

彼女は極限の恐怖の中でも勝利を諦めていなかったのである。

 

 

 

自分より圧倒的に強者に、潜水艦1隻で挑んだ千早群像の様に……

 

 

 

 

「もえか、私……」

 

 

 

「タカオ!ナノマテリアルで船体からアームを出せる?」

 

 

 

「え、ええ出せるけど、どうして――」

 

 

「急いで!そのアームをドレッドノートの船体に接続して!」

 

 

 

 

「どうして?」とは言わなかった。

 

 

 

その暇すらも惜しまれる程、状況は切迫していたからだ。

 

天照は更に増速し、2隻の超兵器は急接近を始めた。

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

 

タカオは船体を構成するナノマテリアルの一部を4本のアームに変更して、ドレッドノートの飛行甲板に突き刺す。

 

 

 

その時――

 

 

 

ガゴンッ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

ドレッドノートが潜航開始したのだ。

 

 

 

超兵器は、乗り上げたタカオを衝突寸前で海面に置き去りにし、ドリルの餌食にするつもりだったのだ。

 

 

 

ソレを見越したもえかは、アームを接続することで¨ドレッドノートごと¨海中に沈んで攻撃を回避する案を思い付いたのだったが――

 

 

 

 

 

 

 

「相手が速すぎる!これじゃ完全に沈む前にドリルと接触するわ!」

 

 

 

「くっ――!」

 

 

 

もえかの表情が流石に険しくなったのを見たタカオは罪悪感に襲われていた。

 

 

 

「ゴメンもえか。私があの時速く回避していれば……」

 

 

 

俯く彼女にもえかはそっと歩み寄り、穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「大丈夫だよタカオ」

 

 

 

「どうしてよ……どうしてそんなに落ち着いていられるのよ!だってもえかが――!」

 

 

 

「タカオ、良く聞いて。失敗は誰にでもある。でもね、私達は¨一人じゃないよ¨」

 

 

 

 

眼前に天照が迫っていた。

 

ドレッドノートは完全に海面から姿を消し、タカオの船体のみが、半分だけ露出し、最早衝突は避けられないと思われた時――

 

 

 

シュゴオオ!

 

 

 

一発の魚雷が天照とタカオの間に割って入り、炸裂した。

 

 

 

それと同時に、辺りのか海がが泡に包まれる。

 

 

 

 

 

 

「超音波振動魚雷!?もしかして!」

 

 

 

 

タカオは魚雷が発射されたであろう方角に視線を向ける。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「イオナ、タカオの様子は?」

 

 

 

「衝突は……回避されたみたい」

 

 

 

「っしゃあ!」

 

 

 

タカオの無事を聞いた杏平が拳を握り締める。

 

 

 

 

超重力砲の発射による反動から回復した401は、超兵器2隻に追われているタカオの救援に向かっていたのだ。

 

 

 

 

しかし予想よりも早く、しかも奇想天外が策に打って出た超兵器に対して後手にまわる事になってしまったのは否めない。

 

 

 

 

そこで群像は、地中海で使用された超音波振動魚雷をイオナに生成させ、超兵器とタカオの間に発射したのだ。

 

 

 

 

発生した大量の気泡によって浮力を失ったドレッドノートは、まるで落下するかのように海中に潜り込み、アームを接続していたタカオも共に海中に逃げお失せる事に成功。同時に、機動力に優れた天照の足止めにも一役買う事となった。

 

 

 

 

「ふぅ……何とか間に合いましたね艦長」

 

 

 

「だが問題はこれからだな」

 

 

 

「問題?」

 

 

 

「ああ。イオナ説明してくれ」

 

 

 

「うん。事実上、水中戦に特化していないタカオが潜航型超兵器と一緒になってしまった事、その逆に潜水艦である俺達が水上艦を相手にすることになった事。この2つの問題は看過できない」

 

 

 

「でもよぉ。天照は今身動きが取れないんだぜ?超重力砲が使えなかったとしても、侵食魚雷や補給の時に支給された光子弾頭魚雷でガンガン攻めちまえば良いんじゃねぇか?」

 

 

 

「杏平忘れたのか?俺達は¨今は¨大規模な攻撃が出来ない」

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

杏平は思い出したかの様に口を開ける。

 

 

 

 

シュルツ達は実際、もっと強力な兵装を使うことも出来たが、彼等にはそう出来ない理由があった。

 

 

 

 

救助がまだ済んでいないのだ。

 

 

 

 

 

光子弾頭兵器は威力こそ優れているが、一度使用すれば爆圧で海を引っ掻き回してしまい、漂流している救助者を巻き込みかねず、はれかぜやスキズブラズニルと同行している弁天が海での救助を完了するまでは、大規模な攻撃に打って出る事が出来ない。

 

 

 

更に――

 

 

 

合流を果たしたとは言え、異世界艦隊は救助とその護衛に半数以上の戦力が割かれており、超兵器の相手は事実上3隻のみなのが現状だ。

 

 

 

この苦しい状況を打破する鍵は、ブルーマーメイドの救助手腕にかかっていると言っても過言では無かった。

 

 

 

 

(岬艦長……頼みます!)

 

 

 

群像は表情を険しくすると、タカオや超兵器のいる海域へと急いだ。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「スキッパー隊は発進準備を急げ!大戦艦ヒュウガの情報だけじゃなく目視で救助者いないか確認も怠るな!」

 

 

 

 

弁天はスキズブラズニルと共にヴィルヘルムスハーフェンへと近付く。

 

 

辺りには爆撃や砲撃痕の他に、重力砲によって引き寄せられた瓦礫に埋め尽くされている様子を目の当たりにした真冬は一層険しい表情となっていた。

 

 

 

スキズブラズニルはこのまま港へと接岸してウィルキアの上陸部隊が救出へと乗り出し、弁天はウィルキアの救助艇を指揮してヴィルヘルムスハーフェンから重力砲の発生させた特異点との間にある海域に救助者が居ないかをメンタルモデル達からの情報を頼りに捜索する手筈となっており、メアリースチュアートが彼女達の護衛に着く。

 

 

 

 

当然ながら、命を救うのは時間との戦いになる事は言うまでも無いだろう。

 

 

 

だが人手は圧倒的に足りず、救助経験があるとは言え¨救助のプロ¨ではないウィルキアの軍属に一から手解きをする余裕などある筈もない。

 

 

 

故に使えるものは全て使う。

 

 

小さなプライドに固執している場合ではないのだ。

 

 

 

「ウィルキアの救助艇は弁天を中心にして横一列に並べ!大戦艦ヒュウガの情報とテメェらの目で救助者を発見。見付け次第弁天に報告しろ!手近にいるスキッパーの連中が収容して救助艇へ運ぶ!」

 

 

 

『はっ!』

 

 

 

 

「ヴェルナー!」

 

 

 

『解っています。疎かになるであろう敵航空機からの攻撃並びに超兵器からの攻撃の迎撃は此方で対処します。宗谷艦長は救助の指揮に全力を注いでください!』

 

 

 

「言われる迄もねぇ。だがスキズブラズニルの防御はどうすんだよ。あんな馬鹿デカイのは敵の良い的だぜ?」

 

 

 

『心配は要らないわ』

 

 

 

 

「大戦艦ヒュウガか?」

 

 

 

『ええ。スキズブラズニルの回りに私の船体を自動で展開させているわ』

 

 

 

 

「それでカバーしきれるのかよ」

 

 

 

『フフッ――任せておいて。それよりあなたは自分の任務に集中した方が良いんじゃない?』

 

 

 

 

「ああ……そうだな」

 

 

 

 

真冬はギラリとした肉食獣の瞳を眼前へと向けた。

 

 

 

 

「よしテメェら!一人として死なすんじゃねぇぞ!そしてテメェら自身も一人も死ぬんじゃねぇ!」

 

 

 

『『はいっ!』』

 

 

 

スキッパー隊が次々と弁天から発進して行く。

 

 

 

航空機がいつ攻撃を仕掛けてきてもおかしくない危険な海域へと……

 

 

 

   + + +

 

 

 

「艦長!速力¨200kt¨に達しました!」

 

 

 

 

「うん。でも船体は安定してるね。ココちゃん、超兵器の様子は?」

 

 

 

「今の所此方への直接的な動きは有りませんが……」

 

 

 

『敵航空機、多数飛来!』

 

 

「かよちゃん多目的ミサイル発射!タマちゃん誘導荷電粒子砲攻撃始め!」

 

 

 

「うぃ!」

 

 

 

ミサイルと荷電粒子の光が次々と航空機を粉々にして行く。

 

 

 

はれかぜは重力砲の特異点が発生していた地点の中心へと向かっていた。

 

 

それも200ktと言う艦船では到達し得ない速度で……

 

 

そしてその船体形状は、以前のはれかぜとは一線を画していた。

 

 

 

最も目立つのが¨展開されたバルジ¨であろう。

 

 

 

そう、はれかぜは蒼き鋼の艦艇の様に船体の一部を展開することが可能になっていたのだ。

 

 

 

その理由は超兵器推進装置にある。

 

 

 

 

バミューダでの戦闘の際、はれかぜは不完全な出力ながら、超兵器推進装置の超絶な加速により、バランスの悪化や旋回性能の低下を引き起こしていた。

 

 

 

そこで珊瑚とヒュウガの話し合いによって、バルジの一部を横に展開し、艦のバランスと舵性能を補う為の補助フロートとして取り付けたのだ。

 

 

 

更に、ウィルキアから提供されたはれかぜは、本来なら現クルーの人数より大幅な人手が必要であった。

 

 

 

だが、ブルーマーメイドが運用している半自動化システムを組み込む改装を行っていた事により、30人程度での艦艇運用が可能になったはれかぜには、人数を収容するあらゆる施設に無駄な空きが存在し、場所を喰ってしまっていたのだ。

 

 

 

そこで珊瑚は、はれかぜ内部の構造を一から見直し、よりブルーマーメイドとして活動しやすいように改装を施した。

 

 

 

甲板にある兵装の種類や位置も細かく変更を施した新生はれかぜは、弾薬を多く搭載出来るだけでなく、救助の為のスキッパーによる発進も効率的になり、尚且つ機動力が増した事によりあらゆる場面に的確に対応しうる艦艇に進化したのだ。

 

 

 

とは言え――

 

 

 

所詮は駆逐艦程度の大きさしか無いはれかぜが長期戦闘に耐えうるとは到底言い難かった。

 

 

 

だが、それで良いのだ。

 

 

 

何故なら彼女達はブルーマーメイドであって軍属では無いのだから。

 

 

 

 

しかしながら、彼女達の異世界艦隊内での役割は極めてファジーであることは言うまでも無いだろう。

 

 

 

何故なら、彼女達はウィルキアや蒼き鋼の技術を借りているとは言え、国家戦力を相手にしうる超兵器を撃沈した経歴があるからだ。

 

 

 

だが、はれかぜの面々は自分達の達位置を良く理解していた様だ。

 

 

 

脳裏に浮かぶのは敵の殲滅ではなく、飽くまでも救助だった。

 

 

 

 

『航空機やっぱり多すぎるよぉ!』

 

 

 

「解った。シロちゃん、アレを使おう!」

 

 

 

「良いのですか?アレは超兵器の為に――」

 

 

 

「今は時間が惜しいの。ひとりでも早く救出する為には相手航空機の存在が邪魔になる」

 

 

 

「解りました。砲術長、【共振波照射装置】用意!」

 

 

 

「うぃ!」

 

 

 

 

志摩が表情を引き締めて動き出し、起動スイッチが押され、艦首部分のハッチが開き、内部から大掛かりなスピーカーの様な形状の物が浮上してくる。

 

 

 

 

「タマちゃん、照射範囲並びに仰角調整!とにかく上空の航空機が密集している地点を狙って!」

 

 

 

 

「うぃ!……任せて!」

 

 

 

「各艦艇並びに、航空隊各位に通達。これよりはれかぜは、共振波照射装置の発射体勢に入る。この通信から発射終了宣言まで、本艦前方への侵入は厳禁。射線上の艦艇並びに航空機に退避勧告!」

 

 

 

 

 

明乃は、万が一にでも周囲を巻き込まない様、警告を発し、まゆみ 秀子 マチコの見張り員から前方に味方が居ない事を確認させ、退避の遅れが生じていない事を十分に確認させた。

 

 

 

『前方に味方艦艇並びに航空機の機影無し!』

 

 

「左舷確認完了!」

 

 

「右舷も確認完了です!」

 

 

 

「うぃ!共振波照射装置、エネルギー充填完了!いつでも………撃てる!」

 

 

 

 

彼女達の報告を受けた明乃は大きく頷き、そして手を前にかざした。

 

 

 

 

「共振波照射装置、攻撃始め!」

 

 

 

 

「共振波照射装置、照射始め!」

 

 

 

 

上空に向けられた装置の先端にエネルギーが集束し――

 

 

 

 

 

キェィィイイイイ!

 

 

 

 

 

「うっ――!」

 

 

 

「あっ……ぐ!」

 

 

 

 

黒板を引っ掻いた時に生じる音と甲高い女性の悲鳴を足した様な不快な音波が艦を包み、彼女達は思わず顔をしかめた。

 

 

 

一方、照射された共振波は端から見れば無色透明であり、上空の航空機達は熱源や磁力すら感じないソレに全く気付く様子を見せていなかった。

 

 

 

そして、何の躊躇いもなくその中へと飛び込んで来たのである。

 

 

 

 

「共振波照射装置、照射止め!」

 

 

 

 

装置を止めた彼女達は、ソレを受けた航空機達の動向を見守る。

 

 

 

ゴォオオ!

 

 

 

「え!?これだけですか?」

 

 

 

「ウソ……全然効いて無いじゃん!」

 

 

 

 

先程と変わらずジェットの轟音を撒き散らす航空機の姿に、幸子や芽衣がが愕然とする中、明乃だけは確信に満ちた表情を浮かべていた。

 

 

 

そう、極限の緊張を強いられた彼女だけは少し先の結果が見えていたからである。

 

 

『12時方向から敵機!』

 

 

 

「不味いぞ!すぐ迎撃を――!」

 

 

 

「大丈夫」

 

 

 

「艦長、今何と……?」

 

 

 

不安に駆られた真白が明乃に詰め寄ろうとした時、もうその時には装置の効果が始まっていたのだった。

 

 

 

バキッ!

 

 

 

はれかぜに向かっていた航空機が機体を翻した瞬間、主翼が付け根から脱落したのだ。

 

 

 

いや、主翼だけではない。

 

 

 

翼が無くなった航空機はクルクルと回転し、その度に機体の一部が脱落、はれかぜのすぐ上を通過する時には、完全に空中分解してしまったのだ。

 

 

 

更に――

 

 

 

それらの現象は、共振波を受けた全ての航空機に現れ始めていた。

 

 

 

ミサイルやパルスレーザーから逃げる為に急上昇しようとする者、機体を翻して急旋回する者、そして急加速をする者。

 

 

 

とにかく、敵と言う敵が空中でバラバラに四散し、残骸となった機体が雨の様に海面にボチャボチャと降り注いだのである。

 

 

 

 

「す……凄い!」

 

 

 

真白を始めとした事を目撃した全員が驚愕したのであった。

 

 

 

 

【共振波照射装置】

 

 

 

 

デザインチャイルドである刑部蒔絵が開発した、はれかぜの新たな武器である。

 

 

 

彼女が開発した対象物の固有振動数を割り出して共鳴させ、分子結合を崩壊させる【振動弾頭】は、万能物質であるナノマテリアルすらも崩壊させうる力を持った強力な弾頭だ。

 

 

しかし、一発の弾頭に要する資材や緻密過ぎる機構は、現在の異世界艦隊をもってしても実現は不可能であり、故に蒔絵は振動弾頭と類似する兵器の開発に打って出る。

 

 

 

そこで着目したのが、超兵器や敵航空機を構成する物体の大多数を占める鉄等の金属だった。

 

 

 

これなら固有振動数を割り出す装置を組み込む必要が無かったからである。

 

 

更に音波を利用した機構は比較的容易に制作が可能であり、ヒュウガの協力を得ながらその音波の増幅装置を取り入れた。

 

 

 

 

勿論、振動弾頭の様に物質を完全崩壊させるには至らない。

 

 

しかし、振動を与えると波の振幅が増大して部品の接合部に掛かる負荷の増大やさせたり、耐久力が劇的に低下する。

 

 

 

 

もっと簡単に言ってしまえば、¨相手を脆くする音波¨を照射する装置と言えるだろう。

 

 

 

超音波振動魚雷はこの装置を造る上での試作品であり、効果は抜群であった。

 

 

 

元々耐久力が低い航空機は、少しの負荷で空中分解を引き起こしてしまったのである。

 

 

 

 

 

「艦長、航空機の編隊に穴が開きました!」

 

 

 

「ココちゃん、目標海域迄は?」

 

 

 

「残り数分です!」

 

 

 

「超兵器推進装置停止!目標海域にと到達し次第機関を停止して救助に入る!準備を急いで!」

 

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

 

はれかぜ艦内が慌ただしくなる。

 

 

 

角度が改変可能なカタパルトが起動し、大型スキッパー2台がクレーンで乗せられる。

 

 

 

 

「艦長…行ってください!」

 

 

「シロちゃん…!?」

 

 

 

「現場で指揮が執れる人間が必要です。私はスキッパーの運転は未熟なので……」

 

 

 

 

「で、でも……」

 

 

 

「今回はとても危険な任務です。本来なら出動した人間が無事に帰ってくる保証は無い」

 

 

 

「………」

 

 

 

「でも¨艦長¨なら!救助者だけでなく皆も一緒に連れて帰って来てくれる……違いますか?」

 

 

 

「シロちゃん……」

 

 

 

明乃には真白が言っている意味が解っていた。

 

 

 

敵の行動の先を見ることが出来る明乃であるなら、或いは救出に当たっている他のクルーの危険を事前に察知出来る可能性が高い。

 

 

 

しかし、当然ながらはれかぜの内部に居るよりも危険度合いは格段に上昇する事は言うまでもない。

 

 

 

ここで精神的主柱である艦長を失う事は、はれかぜその物を失うに等しいからである。

 

 

 

だが何れにせよ、他の者を行かせて犠牲者が出てしまえば、明乃の自身の心は間違いなく死を迎える。

 

 

 

 

真白としても苦肉の策だったのだろうが、彼女は明乃の可能性に賭けたのだ。

 

 

 

6年前もそうだった様に、晴風のクルーもウィルスに侵された比叡や武蔵のクルーも誰一人見捨てずに救い出した明乃の心に全てを賭けた。

 

 

 

そして明乃は心の中で全員の帰還を固く誓い、真白と正面から向き合って艦長帽を目の前に差し出した。

 

 

 

 

 

「宗谷真白副長、貴女に指揮を任せます。お願い……皆を護って!」

 

 

 

「はいっ!指揮を預かります!必ず護り通しますよ。貴女の帰る場所だから」

 

 

 

真白は踵を合わせて姿勢を正し、敬礼を明乃へと送った。

 

 

そしてそれに習う様に、艦橋に居る者が彼女に敬礼をする。

 

 

 

…いや、彼女達だけではない。

 

 

 

 

艦内のどの部所でも、同様に敬礼が行われていた。

 

 

 

【お願い…どうか死なないで欲しい】と

 

 

 

明乃は心の中に、はれかぜ全員の思いが入ってくるのを感じる。

 

 

 

(温かい……皆、ありがとう)

 

 

 

彼女はオーシャンブルーの瞳で一度艦橋を見渡し、ゆっくりと返礼を返した明乃は艦橋を走って後にする。

 

 

 

 

(岬さん……)

 

 

 

真白は想いを心の奥にしまい込み表情を引き締め声を張る。

 

 

 

「スキッパーの発進準備を急げ!手の空いた者は救助者の収容準備も進めるんだ!」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

真白の指揮の下、命懸けの救助が始まる。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「サトちゃん!役割を決めよう!サトちゃんは救命ボートの牽引をお願い!救助者を引き上げるのは……」

 

 

 

「私が行くよ!」

 

 

 

「レオちゃん!?」

 

 

 

麗央が息を切れさせながら走って来た。

 

 

 

「艦長、話は聞いてる。りっちゃん達がミサイル発射で出られないって。私だって…この時の為にスキッパーの免許取ったんだ!これなら二人で交替しながら臨機応変に救助出来る!」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「艦長!お願いだよ!私だって…こんな私だって役に立ちたいんだ!だから――」

 

 

 

 

「解ってるよレオちゃん」

 

 

「艦長……」

 

 

 

明乃はこれから死地へと向かうとは思えない程の穏やかな笑みを麗央へと向けていた。

 

 

 

 

「私はいつだって見えない所で努力して、どんなに挫けても立ち上がるそんな人一倍努力家なレオちゃんを――」

 

 

 

(あぁ…解った気がする。機関長が艦長を認めてる理由が……)

 

 

 

口調は違うかもしれない。

 

 

しかし、明乃の言葉には麻侖同様に嘘も飾りも存在しない、¨強い芯¨が存在していた。

 

 

 

 

《ハハハッ!腐るんじゃねぇよ!私はなレオ!人一倍努力してるレオを――》

 

 

 

 

 

「信じてる!」

 

《信じてるってんでぃ!》

 

 

 

そんな言葉を掛けられたら、答えずにはいられなくなってしまうのだ。

 

 

 

 

 

「ありがとう……艦長」

 

 

 

「うん」

 

 

 

「話は纏まったぞな?」

 

 

 

「うん。じゃあサトちゃんとレオちゃんは救助者をはれかぜとハルナさんの船体に運んで!私は――」

 

 

 

「来たよ」

 

 

 

「ハルナさん!」

 

 

 

ハルナがいつの間にか彼女達の後ろへと立っていた。

 

 

 

「行こう皆!」

 

 

 

聡子と明乃はスキッパーへと跨がる。

 

 

カタパルトが海へと伸ばされ、2台のスキッパーが海面へと着水した。

 

 

聡子は麗央と共に素早くスキッパーに救助用ボートを接続し、明乃にサインを送る。

 

 

 

頷きを返した明乃は、ハルナに視線で合図を送ると、スロットルを全開にして海へと飛び出ていった。

 

 

 

 

 

海上には、様々な残骸が散乱し通常ならスキッパーの運用すら困難に思われる状況の中、明乃は猛スピードでひた走る。

 

 

 

 

「次、六時方向に構造物の瓦礫」

 

 

 

「解った!」

 

 

 

ハルナのナビゲーションを受け、明乃は適格に障害物を回避して行く。

 

 

 

「ハルナさん、後ろの二人は?」

 

 

 

「心配ない、瓦礫を回避しつつ確実にこちらを追ってきている。敵の事も問題ない。私の船体とキリシマがはれかぜとお前達を最優先に護るよう迎撃している。お前は現場への到着に集中しろ」

 

 

 

「うん、ありがとう!」

 

 

 

「次、再び構造物。デカイぞ!回避を――」

 

 

 

「必要ない!捕まってて!」

 

 

 

キィイイイン!

 

 

 

 

明乃はスロットルを最大まで上げ、体勢を低くした。

 

 

 

そして構造物に近づいた瞬間、波に乗ると同時に体重を一気に横に掛けた。

 

 

 

バシュッ!

 

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

二人を乗せたスキッパーは¨空中¨を1回転しながら数十メートルも飛翔し、構造物を飛び越えて再び着水し、明乃は何事も無かったかの様に再び海を直進した。

 

 

 

「ハルナさん大丈夫?」

 

 

 

「あぁ……問題ない」

 

 

 

「一番近い救助者はどこにいるの?」

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

「2時の方角、672m先だ」

 

 

 

「解った!」

 

 

 

明乃はスキッパーの方向を替えて更に速度を上げた。

 

 

 

 

「あっ居た!誰が海に浮いてる!」

 

 

 

「間違いない。アレだ」

 

 

 

「待ってて!」

 

 

 

彼女のハンドルを握る手に力が入る。

 

 

 

徐々に救助者の姿が大きくなるにつれ、彼女の瞳が大きく見開かれた。

 

 

 

「あれは……もしかして!」

 

 

 

 

明乃ははやる気持ちを押さえ込んでスキッパーを前へと進めた。

 

 

   + + +

 

 

 

「何て戦いなんだ……」

 

 

ミーナ目の前の出来事がまるで夢の中で起きている様な錯覚に陥っていた。

 

 

無理もない。

 

 

異世界艦隊の戦いは彼女が知りうるどの技術をも根底から覆すものばかりだったからだ。

 

 

 

【これなら超兵器に勝てるかもしれない】

 

 

【助かるかもしれない】

 

 

 

そんな安堵感が彼女の脳裏を過った。

 

 

ソレがいけなかったのだ……

 

 

 

「うっ…い、意識が急に……」

 

 

 

ミーナの限界は当に超えていたのだ。

 

 

 

そこへ強力な力を持つ増援が現れ、緊張の糸が切れてしまっていた。

 

 

 

勿論、こんな所で意識を失えば彼女達の運命は決してしまう。

 

 

 

「テ…ア」

 

 

 

彼女は朦朧とする意識の中、無二の親友であるテアを抱き締めていた腕に力を込める。

 

 

 

何としてでも、救助が来るまで気絶するわけには行かない。

 

 

 

しかし――

 

 

 

「うっ…視界が…ボヤけて!」

 

 

 

気持ちこそ堪えられても、肉体がソレを許さない。

 

 

体力的に限界を迎えた彼女達には、北欧の海水は冷た過ぎるのだ。

 

 

 

容赦なく奪われる体温は、ミーナやテアの命を確実に削って行く。

 

 

 

「もう…ダメなの……か?」

 

 

 

彼女が諦めかけた時だった。

 

 

 

キィイイイン!

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

聞き覚えのあるエンジン音が聞こえた。

 

 

 

 

「スキッパーか?」

 

 

 

彼女は音のする方角を虚ろな瞳で見つめる。

 

 

視界がボヤけてハッキリと姿を捉える事は出来ないまでも、ソレは間違いなくこちらに向かって来ている事は理解できた。

 

 

 

 

「たす……けて」

 

 

 

彼女は残りの力を全て出しきって声を上げる。

 

 

 

 

諦めるなと友に言ったのだ、自分がここで諦めてなるものかと、ミーナはテアを片腕にしっかり抱き、もう片方の手を一心不乱に振った。

 

 

 

 

「お願いします、助けて!」

 

 

 

 

スキッパーの音がどんどん大きくなる。

 

 

 

そして――

 

 

 

 

「助け…て………」

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

限界を向かえたミーナ意識が途絶える瞬間、彼女は人影を見た。

 

 

人影は手を延ばし、彼女の腕をつかんで引っ張り上げる。

 

 

 

その手の温もりを感じたミーナは遂に意識を手放したのだった。

 

 

 

視界が暗転する中、声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

《大丈夫、生きてるよ!》

 

 

 

 

「あ…けの……」

 

 

 

 

そして彼女は完全に意識を失ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。

今回、実はもう1つキャラを登場させる予定が、文字数オーバーで出せませんでした。


次回は何とか出せるようにはしたいです。



それでは次回まで今しばらくお待ちください。


























とらふり!



真白
「はぅ~。か、艦長の残り香が…は、はぁ~!」


芽衣
「堪能してるね~♪」


真白
「はっ!西崎さん!?ち、違うんだ!こ、これは艦長から託された思いを再確認する上でだな…。」


芽衣
「往生際が悪いよ副長…。」



優衣
「そんな宗谷さんには、私の特別メニューをご賞味頂こうかしら。」



真白
「うわっ!藤田さん!?や、止めろ!もう私は騙されないし、屈しないぞ!」



芽衣
「二人に何があったか知らないけど、それフラグだよ副長…。」



珊瑚
「おっ!また楽しませてくれるのかい?」



真白
「す、杉本さんまで…。」



優衣
「では今回のメニューは…ジャジャァーン!バケツプリンですっ!」


幸子
「大きい…でも頂上のイルカさんマークが可愛いですぅ♪」



真白
「ふ、ふん!艦長の好みであるプリンを巨大化したくらいで、艦長を忠実に再現したなど…藤田さんともあろう人が、随分浅はかではないか?」



芽衣
「あっ、でも何となく解る。これミケ艦長だ!」



真白
「え?」


幸子
「艦長ですね…。」



「岬さんだね…。」



志摩
「うぃ!」



真白
「そんな…何でだ!?」



芽衣
「あれ?副長知らないの?艦長ってプライベートにカラメルとバニラエッセンスっぽい匂いの香水使うんだよ。」



真白
「そ、そんな…お洒落に興味無さそうな艦長が香水など…嘘だ!」



幸子
「う~ん。副長は学生の時も今も¨制服の時の艦長¨としか過ごした事無いからじゃないですかねぇ。」


芽衣
「うんうん。結構プライベートで艦長に色々相談する人多いよ。口も固いしね。それに本人はお洒落のつもりって言うか、長期任務で中々食べられないプリンの匂いに包まれてると幸せな気持ちになるって言ってたから…。」



真白
「ぐっ…未だ知らぬ艦長の秘密。私だけ知らないなんて…。」



優衣
「と言うわけで!さぁ宗谷さん!このプリンを味わって下さい!」



真白
「な、だってコレ只のプリンじゃないか!」




優衣
「ふふっ。今回は伊良子さん達の力を借りてね、岬さん御用達の特別仕様にしたプリンなのよ。」



真白
「何!?」



優衣
「全体的に香りを重視、甘さを少し控えめにしてカラメルに少量のカカオ豆を入れてビター味を表現したの。優しさの裏に少し影のある岬さんのイメージにピッタリでしょ?」



真白
「続けて…。」



優衣
「さ・ら・にっ!岬さんの出身地である長野の黄色いリンゴをプリンを食べる前段階に一口食べた貰うと…。」



サクッ!



真白
「いや、確かに旨いが只のリンゴだぞ?艦長の出身地の特産だからと言って、艦長自身を表現した訳じゃ…。」



優衣
「前段階って言ったでしょ?そしてここで第2段!シナモンパウダーをプリンにホンの一振りっと…。」



真白
「!!!?」


芽衣
「わぁ!何かアップルパイみたいな香りが部屋中に広がったよ!」



「あっ!何かフルーティーな香りが艦長の使うシャンプーの香りに似てる…。」



優衣
「そうなの!先ずは場の空気を岬さんその物にしていくのが重要なのよ!そして…6年経って大人になった岬さんを表現したこのプリンをすくって…っと。」



真白
「ゴクリ…。」


優衣
「はいっ西崎さん!」


芽衣
「パクッ!」


真白
「あっ…。」



芽衣
「うわぁ凄い!これ艦長だよ!」


優衣
「ささっ!皆も一口どうぞ!宗谷さんは食べないみたいだから。」


一同
「は~い!」


真白
「あっ、ぁああっ!」


優衣
「どう?宗谷さん。他の女の舌に岬さんが絡め取られる気分は…。」



真白
「い、いやぁ!」



優衣
「だったら自分の口でハッキリ言わなきゃ。でないとまた皆で岬さんを味わい尽くしちゃうわよ?」



真白
「わ、解った…。………します。」


優衣
「え?聞こえない!もっとハッキリ大きな声で言わないと聞こえないわ!」



真白
「岬さ…そのプリンは全て私が味わいます!だ、だからソレを私のはしたない口の中に…ブチ込んで下さい!」



優衣
「フフッ…良い子ね。じゃあご褒美に全部あげるわ。ホラ、そのはしたない口を開けて。盛大にブチ込んであげる。」



真白
「は、早く…焦らさないで!」


優衣
「はいはい…あ~ん!」


パクッ!



真白
「んっ!ん~~!ひゃああ!あっ……ぁっ……。」


ビクンッビクンッ!



優衣
「堕ちたみたいね…リンゴの酸味がプリンの甘さを引き立てたのよ。留めに来るビターな苦味も今の宗谷さんには劇薬でしょうし…。」


志摩
「うぃ…凄い反応。」


芽衣
「ただプリンを食べている副長を見ているだけなのに、なんか興奮するね…。」



珊瑚
「やぁ今回も面白かったよ。次回は何で落とすんだい?」



優衣
「そうねぇ~。」


幸子
「あっ、あの!」


優衣
「ん?どうしたの納沙さん。」


幸子
「わ、私も落としたい人が居るんです!幾らでも実験台になりますから!」



優衣
「覚悟は出来てる?下手すると戻って来れないかもよ?」


幸子
「はいっ!覚悟の上です!」



優衣
「じゃあ後で私の調理場に来て。フフッ…今日の夜は長くなりそうね…。」



珊瑚
「また面白そうなら呼んでくれよ?」



優衣
「解ったわ…必ずね。」

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