トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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お疲れ様です。

アームドウィング戦決着となります。

それではどうぞ


兵器の安息   VS 超兵器

   + + +

 

 

 

『待って!シュルツ艦長!』

 

そう叫ぶ明乃を突き放すように、シュルツは通信を切った。

博士が、心配そうな表情を見せる。

 

 

 

「宜しいのですか?今や彼女達の戦力は必要不可欠です。戻って来てくれるのであれば、とても心強いのですが…。」

 

 

 

「彼女達にはきちんと思考する時間が必要なのです。これから戦って行くであろう超兵器は特に…。」

 

 

「確かに…。嵐を起こして海を暴れさせ、焼き凍らせ、都市を消し去り、山を吹き飛ばして大陸を削る。そして今回この世界への侵攻で、彼等が時空にすら干渉しうる力を持っていることも解ってきた。最早これは、この世界だけの問題ではありません。あらゆる平衡世界に存在する者全ての問題です。」

 

 

 

「流石に彼女達にそこまで背負わせるつもりは有りませんが、しかしヴォルケンクラッツァー討伐には、世界全体の協力が不可欠です。我々が超兵器を倒し過ぎれば、きっと世界は私達に依存してしまうでしょう。それは最早、奴に単艦で挑むのと同義です。」

 

 

「そうですね…。あの時も六万隻の軍艦が集結しました。残ったのはおよそ数千でしたが…。」

 

 

「余りにも多くの犠牲が支払われた…。よもやそれが全くの無駄になるとは、あの時は考えもしませんでしたが…。」

 

 

「そう…ですね。」

 

 

「今は、目の前の敵を潰していくしかありません。ブルーマーメイドの本拠地が欧州キールにある以上、その解放なくして協力が得られないのですから。」

 

 

「ええ…。」

 

 

博士は険しい表情で頷く。

目の前のシュルツは、会話をしながらもニブルヘイムから一切目を離していなかった。

 

 

その鋭い眼光とは裏腹に、背中から漂うのは一人で支えるのには重すぎる重圧と後悔が感じ取れる。

 

博士は心配でならなかった。

彼がいつかその重圧に潰されてしまうのではないかと。

 

 

(こう思うのは無責任なのかもしれないけど、彼を救えるのは岬艦長や千早艦長なのかもしれない…。¨艦長¨と言うなの孤独を敢えて受け入れたあの人達しか…。)

 

 

博士は視線を外へと向けた。陽は傾き、空が茜色に変わる。

 

そんな美しい光景に似つかわしくない、激しい咆哮が辺りに響き渡った。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「ん…このスクリュー音は、量子魚雷。感6。」

 

 

 

「一番から六番、侵食魚雷装填!撃て!」

 

 

「一番から六番、はいさ~!」

 

 

バシュ!バシュ!

 

 

401から侵食魚雷が放たれ、量子魚雷へと向かう。

 

 

ボフ…ギュウォォ!

 

 

侵食魚雷が着弾し、量子魚雷を丸ごと消滅させる。

 

しかし、アームドウィングからの攻撃は止まない。

 

 

「敵艦から多数の射出音を確認!魚雷発射数160発以上、なお海面に対潜水艦ミサイル120発以上の着水を確認、更に魚雷の音紋より特殊弾頭魚雷が複数含まれている模様!」

 

「マジかよ!横須賀でハルナとキリシマぶっ放してきた奴よりすごい数だぜ!?」

 

 

「迎撃しろ!魚雷が核だった場合は、アクティブデコイのナノマテリアルを使用して吸着、現状そのまま密封して後処理をヒュウガに引き継ぐ!」

 

 

401から多数の魚雷やミサイルが飛び出す。

それらは、アームドウィングの放った数多の弾頭に着弾し、爆圧が海中を引っ掻きまわした。

 

 

「まだです!全てを迎撃しきれません!」

 

 

「杏平任せたぞ!」

 

 

「はいさー!」

 

 

ズガガガガガガ!

 

 

401に設置されている。水中機銃が撃ち漏らした弾頭を処理していく。

 

 

ボォン!

 

 

「ぐぁあ!」

 

 

至近で爆発した衝撃が直に伝わってくる。

 

現在401は、クラインフィールドを使用していなかった。

 

 

「やはりクラインフィールドを使えないのは辛いですね…。まさかこれ程の衝撃とは…。」

 

 

「確かに…。クラインフィールドを使えないことによって、本艦の発する騒音は、敵艦に150%増しで伝わっていると思われます!」

 

 

「それも厄介だが…イオナ、俺達の撃った攻撃が敵に命中した形跡はあるか?」

 

 

「無い…。超兵器ノイズが有るから大まかな方向は解るけど、何故か音波からは詳しい位置が特定しにくい…。」

 

 

「何故だ?」

 

 

「ん…。」

 

 

イオナは目の前のモニターに視線を向けた。

画面に写し出されたのは一隻の潜水艦の画像である。

それは扁平で白く細長い船体をしていた。

 

「これは…我々の世界で日本が所持している原子力潜水艦【白鯨】か?」

 

 

「ん…。横須賀に寄港した時に情報を奪取した。」

 

 

「やはり気付いていたのか…。」

 

 

「気付いてはいた…。でも実際興味は無かった。」

 

 

「人類の切り札と言われたアレに興味が無いとは…まぁ実際、霧の脅威にはならないか…で?白鯨がこの超兵器と何か関係が有るのか?」

 

 

 

「恐らく…。白鯨が装備している¨微細動タイル¨と類似する性能の装甲を有している可能性が高い。ステルス性能だけじゃなく、音波を吸収して更に隠密性を高めている。」

 

 

「巨体の割に発見されなかった理由はそれか…。イオナ、先程調べて欲しいと頼んだ件はどうなっている?」

 

 

「既に完了してる。超兵器は、量子魚雷を発射する際に私達との距離に一定の間隔を開けていることが解った。その理由は…。」

 

 

「俺の予感が当たっていれば、超兵器自身も重力の奔流から逃げられない…だろ?」

 

 

「そう…。量子魚雷による重力の有効範囲は、直径およそ7500。重力の発生時間はおよそ5分程度。その円の内側に両方の艦が存在している間は、超兵器は量子魚雷を放てない。飽くまで向こうに自爆の意思が無いならだけど…。」

 

 

 

「そうだ、故に俺達は敵の懐に敢えて接近していた。だが懸念事項もある。先程もそうだが、敵は俺達よりも速い80ktの速力を有している。」

 

 

 

「我々の速度が70ktだとすれば、いずれ距離が開いてしまいますね…。」

 

 

 

「そうだな。ヒュウガもミサイルを放って超兵器の進路を妨害してくれてはいるが、超重力砲発射による反動からまだ完全に復帰できていない。追い付くにはフルバーストを使うしかないわけだが…。」

 

 

「正直厳しいでしょうね…。本艦は未だ、クラインフィールドの蓄積エネルギー放出を完了していません。この状態でフルバーストを使用して敵を仕損じれば、反動で動けずフィールドも張れない我々の運命は決してしまう。」

 

 

 

「僧の言う事は尤もだけどよ。離れれば量子魚雷、近付けば大戦艦並みの弾幕、フィールドは使えねぇじゃ勝ち目はねぇぜ?」

 

 

「う~ん…。」

 

 

群像はしばし考え、イオナに視線を向けた。

 

 

「初心に立ち返った方が良いかもしれないな…。イオナ、アームドウィングの情報と、ウィルキアが過去に奴を打倒した際の情報を表示してくれ。」

 

 

「うん。」

 

 

イオナは画面に超兵器の情報を表示した。

 

 

  ▽ ▽ ▽

 

超巨大高速潜水艦アームドウィング

 

全長400m

 

全幅800m

 

全高85m

 

最大速度60kt

 

兵装

 

多連装魚雷発射管多数

 

ミサイル発射装置多数

 

弾頭

 

特殊弾頭魚雷

 

誘導魚雷

 

超音速酸素魚雷

 

対空ミサイルVLS

 

対艦ミサイルVLS

 

特殊弾頭ミサイルVLS

 

小型潜水艦50隻を発艦可能

 

 

海洋生物エイに類似した形状を持ち、超兵器の中で最大の幅を有する。

 

 

多数の魚雷発射管や、艦載艦からの囲い込み等による飽和雷撃を得意としている。

 

潜水艦として余りにも巨大過ぎる船体は隠密性には乏しい。

 

対応は超兵器【播磨】同様被弾面積が広い事から、同盟国協力の下に空母を中心とした10個艦隊規模の機動艦隊を編成し、空からのミサイルや爆雷、遠距離からの水上艦による対潜ミサイルによる攻撃によって撃沈に成功す。

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

「成る程な…。」

 

 

群像は表情を更に険しくした。

 

 

「イオナの情報とウィルキアの情報を照らし合わせると、超兵器は自らの敗北から得た経験から弱点を克服していることが解る。」

 

 

 

「ええ…艦載艦を大量の小型潜水艦から超兵器潜水艦に変更して我々の出方をみて、ステルス装甲の追加による遠距離からの誘導兵器への対処、そして量子魚雷の発生する重力によって上空の航空機を無力化、更には量子魚雷使用に伴う自損を避ける為に速度を強化。正直厳しいと言うのが本音なのですが…。」

 

 

 

「そうでもないさ。」

 

 

「はい?」

 

 

僧を始め、一同の頭には?が浮かぶ。

群像はそれに答えるように続けた。

 

 

「超兵器を倒す方法は現状ではこれしかない。それは、超兵器ノイズの中心を狙ってひたすら攻撃を繰り返す事だ。」

 

 

「何だって?そんなんなんで本当に奴を追い込めるのかよ?」

 

 

「奴は量子魚雷を至近距離で発射出来ない縛りがあると言う前提に話を進めるが、それは同時に奴が俺達から逃げるためには常に¨超兵器機関を稼働し続ける¨と言うことになる。そうなれば、超兵器ノイズは常時現れ続け、奴を見失うことはない。どの様な隠密性の高い装甲を装備していたとしてもな。」

 

 

「更に、あの巨体ですからね。ノイズの中心付近に着弾させれば、何処かには必ず当たる。これならいけますよ。」

 

 

「………。」

 

 

「艦長?」

 

 

群像は眉に皺を寄せたままだ。

 

 

「あからさま過ぎないか?」

 

 

「と、言いますと?」

 

 

「ああ、あれほど弱点を克服しておきながら、まるでその部分だけがあからさまに隙だぞと言っているようにも思える。超兵器ノイズが自らの脅威になりうる存在を誘引することは解っている筈なのに…だ。」

 

 

 

「水上の超兵器ならいざ知らず、隠密性を求められる潜水艦にとって、ノイズは確かに不要な物ですね…何らかの対策がこうじていると?」

 

 

「可能性は高いが、現状ではそれが何なのかは解らない。結局の所、先程出た方法で攻撃する他は無いんだがな…。」

 

 

 

「警戒に超したことはない…と。解りました。攻撃を再開しましょう。艦長、命令を!」

 

 

群像は静かに頷いた。

 

 

「此より我々は、アームドウィングへの攻撃に入る。ヒュウガ、聞こえるか?」

 

 

『聞こえてるわ。システムチェック完了。支援体制は万全よ。』

 

 

「ありがとう。済まないが、艦載機を使用して攻撃をしてくれ。俺達はミサイルや魚雷を使う。何か動きがあったら直ぐに報告して欲しい。」

 

 

『了解。解ったわ。でも気になることがあるの。』

 

 

「なんだ?」

 

 

『姉さまから送られてきたアームドウィングのサイズは、超兵器リストに載っていたサイズとほぼ同じだったけど、唯一高さが違う。約20m程低くなっているわ。水の抵抗を減らして速度を上げる為の措置だと思うのだけれど、何か引っ掛かるの。』

 

 

「解った。念のため頭には入れておく。それじゃ頼んだぞヒュウガ。」

 

 

『ええ。気を付けて…。』

 

 

通信を終えた群像は、表情を引き締める。

 

 

「イオナ、ヒュウガとタイミングを合わせて、一気にいくぞ!」

 

 

「了解。」

 

 

ゴォォォォ!

 

 

重力子エンジンが唸りを上げ、401が速度を上げる。

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長、401がアームドウィングに追撃を掛ける模様です!」

 

 

「うむ…。健闘を祈ると伝えてくれ。」

 

 

「はっ!」

 

 

ナギは敬礼を返して戻っていく。

入れ替わるように隣にいた博士がシュルツに顔を向けた。

 

 

「401と大戦艦ヒュウガの実力なら、心配は要らないでしょう。」

 

 

「そうかもしれませんね…。」

 

 

「艦長?どうされましたか?」

 

 

「ああ…いえ。私の考え過ぎでなければ良いなと。」

 

 

「何がです?以前アームドウィングは、ノーチラス程の苦戦もなく打倒した。量子魚雷の搭載は予定外でしたが、彼等ならば…。」

 

 

「確かにミサイルの開発や、航空機の発展によって苦もなく撃沈することが出来ましたが、帝国の機密文書に記載されていた奴の能力はノーチラスを遥かに凌駕してた。もしも我々の装備がノーチラスと対戦した当時の兵装であったならば、何千もの軍艦が居ても結果は全滅だったでしょう。」

 

 

「………。」

 

 

「奴は潜水艦型超兵器の事実上の切り札。抜け目の無い敵は、思わぬ奇策を弄して来るやもしれません。」

 

 

「そうならないことを祈るばかりですね…。」

 

 

「ええ…千早艦長達を信じるしかありません。」

 

 

超兵器の恐ろしさを理解するシュルツの心は、ざわつくばかりであった。

 

 

   + + +

 

 

クォォォン…クォォォン…。

 

海に響き渡る鯨の鳴き声。

 

しかし、その正体は鯨等ではない。

血の通っていない、冷たい鋼の身体。

 

翼を拡げたエイの様に三角形の巨大な船体。

その後方には、尻尾の様に長く延びた推進装置らしきものがあった。

 

 

超巨大高速潜水艦アームドウィング

 

 

 

名の通り、800mを超す翼を横に拡げ、80ktの高速で海中を進む鋼の化け物である。

 

 

超兵器の中で最大の幅を有する彼の翼には、多数の魚雷発射官と、海中から発射可能なミサイル発射装置が並ぶ。

 

 

 

クォォォン…。

 

 

アームドウィングは、401とヒュウガに動きが有ることを察知した。

 

 

蒼き鋼。

 

あらゆる世界を渡り歩いてきた超兵器達ですら、相対したことがない異質な存在であり、ある意味超兵器に最も近い存在である彼女達の相手は、アームドウィングですら、慎重を期さねばならない相手だった。

 

 

故にアームドウィングは、超兵器としてではなく潜水艦としての基本に立ち返る事を選択した。

 

 

 

ゴォウン!

 

 

機関の出力を暴走寸前まで上げ、速度を上げていく。

 

敵が襲撃してくる前に備えなければならなかった。

 

そして…。

 

 

ガゴン…カシュ…ゴボゴボ!

 

 

アームドウィング船体の至るところのハッチが全開になり、中から夥しい気泡が噴出し、超兵器自身の船体を覆っていく。

 

元々、平たく水の抵抗を受けにくい船体は、全身を覆う気泡によって更に抵抗を軽減し、あり得ない加速と速度を実現した。

 

 

ゴォォォォォオオオ!

 

 

アームドウィングは海中に轟音を撒き散らしながら、船体を海面へ傾け、艦尾のブースターを作動させて更に加速を行った。

 

 

   + + +

 

 

「超兵器ノイズ極大化!敵が動いた模様です!」

 

 

「ヒュウガ!何が起きているのか解るか?」

 

 

『………。』

 

 

「ヒュウガ!どうした!?」

 

 

『嘘でしょ…?』

 

 

彼女にしては珍しく狼狽えた様子に、群像の額にジト…と汗が滲む。

 

 

「何があったんだ!」

 

 

『ちょ、超兵器が…。』

 

 

   + + +

 

 

ヒュウガは、自分の艦載機を飛ばし、401からの合図を待っていた。

 

 

すると突如として、レーダーに写っていたノイズが巨大化したのだ。

 

だが、ヒュウガがそれだけで動じる訳もない。

 

 

(こちらの意図に気付いた?だとしても、超兵器にこの攻撃を防ぐ手だては無いと思…え?)

 

 

彼女が見つめる遥かその先の海面から多数の気泡が出現した。

 

 

しかしそれだけではない。

 

 

(敵の推定速力…290…325…385ktまだ上がる!)

 

敵は霧の艦艇ですら、成し得ない速度に達していた。

だが次の瞬間、霧の艦隊旗艦を勤めたヒュウガですら、度肝を抜かれる光景が目に入った。

 

 

『ヒュウガ!何が起きているのか解るか?』

 

 

「………。」

 

 

『ヒュウガ!どうした!?』

 

 

「嘘でしょ…?」

 

 

『何があったんだ!』

 

 

「ちょ、超兵器が…空を飛んでる…。」

 

 

『な、何だって!?』

 

 

 

   + + +

 

 

アームドウィングは、機関を全開にし、加速を続けた。

そして遂に、海面からその巨体を現す。

 

だが、それだけでは無かった。

 

船体を薄くし、極限まで抵抗減らして加速したそれは、そのまま宙を舞い亜音速で海面を¨飛行¨したのだ。

 

 

海面から出たアームドウィングは、圧縮空気を排出したハッチを閉じ、代わりに全兵装の発射管を開き、401とヒュウガに向けてばら蒔いた。

 

 

バシュ!バシュ!バシュ!

 

 

数百を超えるミサイルと魚雷が殺到した401とヒュウガは、対応に追われる。

その間にアームドウィングは、切り札である量子魚雷を投下した。

 

 

バシュ!

 

 

一際大きな魚雷が射出され、海へと落下していく。

 

 

アームドウィングはそれを見届けるように、船体を下へ向けた。

発射管のハッチを全開にしたことで、空気の抵抗が生まれ、飛行状態を維持できなかったのかもしれない。

 

 

ドゴォォォォ!

 

 

超兵器の中でも大型の部類に入るアームドウィングが海へと着水した。

 

その余りの質量に、海面からビルの高さに達する水柱と高波が発生する

その質量に身を任せるように、アームドウィングは海底へと一気に潜り込み、の存在を完全に隠すつもりなのだ。

 

 

一方の401とヒュウガは、自らに襲い掛かる敵の攻撃を凌いでいた。

 

通常の艦艇ならば、ものの数秒で海の藻屑になりかねない猛攻を、ニ隻のから放たれるミサイルやレーザーが、毎秒数十発

の攻撃を的確に射抜いていく。

 

 

だが、無情にも量子魚雷は撃墜されてはいなかった。

 

無理もない。

 

超兵器の放った量子魚雷は、¨蒼き鋼に対して撃たれたものでは無かった¨からだ。

 

 

量子魚雷の向かう先。

 

その海底には、この海域特有のものがある。

 

【メタンハイドレート】

 

ここ、バミューダ海域が魔の海域と言われる由縁である。

 

 

アームドウィングは、初めからこれを目的としていた。

 

 

量子魚雷で岩石を消滅させ、海底に蓄積されたメタンガスを大量に放出する。

 

 

 

彼女達の高度なセンサーを欺きつつ機動力を奪い、新たなる攻撃のチャンスを伺うにはそれが最善の方法だったからだ。

 

 

 

量子魚雷は、海底へと向かう。

 

超兵器の悪意を乗せて。

 

 

その時だった。

 

 

グゥウオオオオ!

 

 

突如として海が割れ、超重力砲発射モードの401が姿を表した。

 

 

   + + +

 

 

 

「捕まえたぞ!」

 

 

群像の身体が前のめりになり、瞳がギラリと輝きを増す。

 

 

彼は超兵器の動きを読んでいた。

 

 

だが、超兵器が海面を飛び跳ねる所までを読んでいた訳ではない。

 

しかしながら、超兵器のこの行動は、彼にとって¨嬉しい誤算¨となった。

 

 

超兵器の巨大さが弱点であることは揺るぎようが無いが、アームドウィングがそれに対する対応策を講じて何らかのアクションを取るであろうと言う事。

 

更に、人類の戦法をある程度踏襲している潜水艦型超兵器が取るアクションが、姿を眩ます事であることを予測していた群像は長期戦ではなく、敵の即時撃沈への策に方針を転換した。

 

 

 

初めに、ヒュウガから艦載機を発艦させ、攻め入る振りをしてヒュウガと401から大量のミサイルや魚雷を放つ。

 

 

この時点でアームドウィングは、蒼き鋼が超兵器ノイズの中心に攻撃をすると判断し、動きを見せた。

 

 

群像は敵が釣れた事を確信する。

 

 

その後、超兵器の跳躍の報がヒュウガからもたらされた時点で、群像は彼女に超兵器の動きを観測させていた。

 

ヒュウガから発艦した艦載機は、超兵器を監視する役割も兼ねていたのだ。

 

彼女から送られて来た超兵器の動きは、直線的なものだった。

 

 

つまり、超兵器アルケオプテリクスの様に空中を自由自在にではなく、飽くまで潜水艦として存在しているアームドウィングは、イルカ等の様に跳躍は出来ても、空中を旋回することが出来なかったのだ。

 

 

故に群像は、ヒュウガに超兵器の着水地点を観測させ、敵が弾薬を吐き出しきって隠れる最も無防備になる瞬間に狙いを定めていた。

 

 

そして更に、超兵器の行動は群像に¨二つ目の嬉しい誤算¨をもたらす。

 

 

それは…。

 

 

「やはり量子魚雷を¨海底¨に撃ってきたか。これなら途中で起動される事なくアレを¨再利用¨出来そうだな。ヒュウガ!」

 

 

『はいはい。今やってるわ。』

 

 

ヒュウガは艦載機の一機をナノマテリアルに分解する。

 

銀色に輝くそれは、ロックビームで割った海の底へと伸びていった。

 

 

その先には、イオナによって空中に停止させられていた量子魚雷が浮いている。

 

 

ナノマテリアルは、量子魚雷の後方へと付着し、形を変えたそれは、まるでミサイルの様であった。

 

そう、群像はは超重力砲ではなく、敵の放った量子魚雷によって超兵器を打ち倒そうと言うのだ。

 

 

401の超重力砲は、かつて群像達がヒュウガと対峙した際に鹵獲したものであり、本来彼女が装備していた物ではない。

 

従って、一発撃ってしまえばヒュウガによる調整無しに再発射出来ないのである。

 

更に、大戦艦であるヒュウガ自身や、それと同様の物を使用する彼女達の超重力砲は、撃った際の反動も大きい。

 

艦隊旗艦であるニブルヘイムが同海域に展開する中、迂闊に発射して敵に隙を突かれる訳にはいかなかったのだ。

 

 

ギギ…ギィギギ…。

 

 

超兵器は、足掻き続ける。

 

彼等の真の意図に気付いたのだ、発射官から大量のミサイルを発射し、量子魚雷の撃墜を計ろうする。

 

 

出来得る限り、距離を置いて起爆させなければ、自らもその強烈な重力の餌食になってしまうからであった。

 

 

しかし、それを群像が許す筈もない。

 

 

イオナが量子魚雷周辺にクラインフィールドを展開して、ヒュウガが量子魚雷をミサイルに改変する迄の時間を稼いでいる。

 

 

しかし、ロックビームと迎撃の両方をイオナ一人で請け負うのには限界がある。

 

 

「ヒュウ…ガ。ま…だ?」

 

 

『姉さま!もう少しお待ちを!…で、出来ましたわ!いつでも行けます!』

 

 

「群像…もう…。」

 

 

「良く頑張ってくれた。ヒュウガ!それを¨落とし主¨に返してやれ!」

 

 

『了解、行くわよ!姉さま、私は誘導に演算を割きます。お身体に負担を掛けてしまいますが、量子魚雷が着弾するまでの間もう少しだけ弾頭の防御をお願い出来ますか?』

 

 

「やって…みる。でも…急いで…長くは…持たない。」

 

 

『姉さましっかり!艦長!』

 

 

「解っている。ヒュウガ、撃ち返せ!」

 

 

『了…解!』

 

 

ブシュォォォオ!

 

 

 

ミサイルに改造された量子魚雷が、超兵器へと向かって行く。

 

 

クォォン…クォォン!

 

 

アームドウィングの舵がガチャガチャと激しく動き出し、先程よりも大量のミサイルを吐き出している。

 

 

(彼等も死にたくないと思うのだろうか…。いや、それはない。何となく解る、彼等は孤独なんだ。まるでメンタルモデルを持つ前の彼女達の様に…。だから何の疑問も持たずに生ける者を殺戮する。)

 

 

モニターで様子を見ていた群像はアームドウィングの放つ52hertzのクジラを模したアクティブソナーを聞きながら思った。

 

 

ミサイルは、イオナの展開したクラインフィールドの傘に守られながら超兵器へとみるみる距離を縮めて行く。

 

 

(もしも…もしもだ。死が迫るこの瞬間にも、恐怖や後悔でもいい。君が感情を得てくれたのなら、それを君への最初で最期の手向けにしたい。だってそうだろう?)

 

 

ミサイルは今にも超兵器へと到達する。

群像はそれを複雑な表情で見詰めていた。

 

 

(感情を得て、対話が出来ることは…兵器であったイオナとこうして共に歩んで行ける奇跡を産み出すのだから…。)

 

 

イオナがクラインフィールドを解き、ミサイルが超兵器へと着弾した。

 

次の瞬間。

 

 

ピカッ…グゥウオオオオ!

 

 

超兵器の中心で量子魚雷が起動し、どす黒い闇が現れる。

 

 

ギギ…グギィ…ガギギギ !

 

 

超兵器の巨大な船体が、超絶な重力によって、まるで紙を丸めるかの如く意図も簡単にひしゃげて行く。

 

 

「衝撃でメタンハイドレートが噴出するかもしれん!イオナ、ヒュウガ!全力でこの場を離脱するぞ!」

 

 

「了解。」

『了解。』

 

401は、超重力砲を閉じて方向を転換し、機関を最大にして重力の奔流から脱出を図る。

 

 

 

 

ガギギギ…グギィ!

 

 

闇に呑まれながらも超兵器は足掻く。

しかしながら、いくら暴れようとも身体を喰ってくるそれからは決して逃れる事は出来ない。

 

 

超兵器機関すらも呑み込む深い闇に、機能が薄れて行く中、超兵器は思案していた。

 

 

今まで幾多の生命を葬り、こに何ら疑問も抱かず進んできた。

 

 

しかし一度だけ、自らの思考にノイズが入ったような感覚を覚えた記憶がある。

それは、前の世界にて自らが撃沈された時に感じた。

そして現在、その感覚は確たるものへと変わっていく。

 

 

安らぎ

 

 

その言葉が一番しっくりくる。

 

何の大義もなく、ただ命を奪う為だけの存在となった今だからこそ、アームドウィングは思考する。

 

 

 

《何ノタメニ?誰ノタメニ?》

 

 

答えは帰っては来ない。

 

しかし、うっすらと嘗ての情景が一瞬思考の隅を過る。

それは、大半を失ってしまった遥か昔の記憶。

自分が初めて海に潜った日だった。

 

 

人々は自らに期待し、そしてそれに答えるべく大海原へと漕ぎ出したとき、言い知れぬ高揚が鋼の船体に血を通わせた。

 

しかし、直後に出会った¨ナニカ¨によって視界が暗転し、気づけば殺戮の日々を送っていた。

 

 

 

《理解シタ…私ハ…。》

 

 

 

アームドウィングは最早抵抗を止めている。

 

誰かの為に戦いたかった。

誰かの期待に応えたかった。

 

ただそれだけが、アームドウィングが兵器として得た矜持なのである。

 

 

他の者はどうだっただろうか。

 

破壊を楽しむ者

 

自らを従えたアレに忠義を尽くす者

 

殺戮を救済だと唱える者

 

 

考えれば色々者がいたが

、アームドウィングは思考する事を止め、自らを喰らう闇に身を委ねていく。

 

 

《モウ、無意味ナ戦イヲセズニ済ム…。》

 

 

今は眠ろうと思った。

 

願わくば、前の世界で撃沈された時の様に、自らを大義なき殺戮から解放して貰った時に感じた安らぎが永遠となることを祈って…。

 

 

巨大な船体が軋みを上げながら完全に闇に呑まれて行き、重力の奔流が消え去った後に、アームドウィングの船体は影も形も残さず消滅していた。

 

 

自らが消滅する事に、何の未練も抱いていないかの様に…。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長!やはりメタンハイドレートが!」

 

 

「やはりな…。全力でこの場から離脱するぞ!イオナ、機関最大!ヒュウガは潜航して移動しろ!」

 

 

「了解。」

『了解。』

 

彼女達は、この海域からの脱出を計っていた。

401と超兵器の壮絶な戦いによって刺激されたメタンハイドレートが噴出を始めたからだ。

 

 

ヒュウガは転覆を回避する為に敢えて潜航し、401は、量子魚雷の起動地点から出来るだけ距離を置いていく。

 

しかし、

 

 

ゴボゴボゴボォォォ!

 

 

広範囲に渡る気泡からは完全に逃れる事が出来なかった彼女達の船体は浮力を失ってぐらついた。

 

 

「う…くっ!イオナ、機関停止、スラスターを使って艦の位置を水平に固定しろ!」

 

 

「了解。」

 

 

401は、艦の横転を回避する。

 

その後暫くすると、気泡からの勢いが衰えてきた。

 

 

「イオナ動けそうか?」

 

 

「推奨はしない。メタンハイドレートの噴出が完全に収まらない限り、ソナーを使っての策敵は出来ないから…。」

 

 

「確かにな…。解った。今のうちに、艦の修繕箇所と弾薬の数をチェック。噴出が収まり次第、ヒュウガと合流して弾薬とナノマテリアルを補給して、超兵器ニブルヘイムの元へ向かう。」

 

 

「「了解。」」

 

 

群像はメンバーの返答に頷く。

 

 

(超兵器には勝利した。だが、一人での勝利ではない。ウィルキアやブルーマーメイドが各超兵器を引き付けていてくれたから、俺達はアームドウィングとの戦いに集中出来たに過ぎない。)

 

 

クォォン…。

 

 

「?」

 

群像は超兵器のソナーが聞こえたような気がした。

 

 

(違う…。俺達は孤独なんかじゃない。時空を隔てた海すらも越えて、俺達は繋り、そして必ず平和を勝ち取る。だって俺達は、既に¨家族¨。そうでしょ?岬艦長…。)

 

 

荒れ狂う魔の海で、群像は自分に言い聞かせるように明乃の言葉を繰り返し心に刻む。

 

 

海の仲間は家族

 

 

そして、その絆こそが混沌とした世界に光をもたらすと信じて…。




お付き合い頂きありがとうございます。


既に読まれた方もいるかとは思いますが、一応業務連絡です。

1.5章に、ウィルキアと蒼き鋼が異世界に飛ばされる場面から、本編2話と3話に書きました横須賀襲撃の話をシュルツと群像サイドからみた直前談、トライアングルフリートZERO を追加しましたので、宜しければご覧下さい。


次回まで今しばらくお待ちください。






とらふり!



群像
「良くやってくれた。ご苦労だったなイオナ。」


イオナ
「ん…。」


ヒュウガ
「キィ~!姉さまの頭を撫で撫でなんて羨まし過ぎます!姉さま!私にも姉さまの頭を…いや、全身をくまなく撫でさせ…。」


タカオ
「待ったぁ!ちょっと401!艦長に撫でて貰うなんて羨ま…霧としての誇りは無いの?」



ヒュウガ
「あんた地中海にいるんでしょ?何で此方に来るのよ!」



タカオ
「なによ!アンタもちゃんと401を艦長から引き離しておきなさいよ!」




ヒュウガ
「何よ!」


タカオ
「何なの!」




イオナ
「二人はとっても仲良し…。」



群像
「これだけの成長があれば、君達が将来一人で世界と関わる為に十分と言えるな。」




タカオ&ヒュウガ
(うぅ…。何かあの二人は私達のコアの深い所を抉って来るわね…。)


それではまたいつか。

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