トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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お待たせいたしました。

欧州玄関口編前編


それではどうぞ




十色の思い  …not encounter weapon

   + + +

 

時は遡り

 

異世界艦隊が超兵器レムレースを撃沈した頃――

 

 

フロイド・マッケンジー率いるアメリカ本国からの増援艦隊は、アメリカ西海岸のサンディエゴに引き返していた。

 

 

 

結果的にハワイを見捨てる結果となってしまったことに引け目を感じた副長が、マッケンジーに語りかける。

 

 

 

 

「後味の悪い後退ですね……」

 

 

 

 

「大統領の命は絶対だ。それに、今回の一件は我々軍にとって追い風になることは間違いない。ここで前線を経験し、兵器レベルや兵士の練度が他国より抜きん出ていれば、超兵器討伐後の我が国の発言力は増す筈だ」

 

 

「そう言うものでしょうか……」

 

 

「疑問は抱くな、結果のみを受け入れろ。それこそが我々の――」

 

 

「艦長!レーダーに超兵器と思われるノイズを確認!」

 

 

突如レーダーを監視していた兵士からの叫び声が艦橋に響き渡り、その声にマッケンジーを含めた全員が驚愕する。

 

 

「馬鹿な!敵はハワイに要る筈だぞ!我々を追ってきたとでも言うのか?仮に我が艦隊に追い付けたとしたら、敵は50kt近くの速度が出ている事になる。敵影は確認出来るか!?」

 

 

 

「いえ……以前確認できず」

 

 

「そんな筈はない!異世界艦隊から提供された、航空機を搭載できる能力のある艦であるなら、そろそろ視認できてもいい筈だ。もう一度確認しろ!」

 

 

マッケンジーの罵声が響き、見張り員は必死でレーダーに示された方向を何度も見渡す。しかし、いくら探しても敵の姿を確認することは出来なかった。

 

 

 

だが、敵は以外な形で正体を明かす事になる。

 

 

それは――

 

 

 

キーン……キーン!

 

 

「敵艦、アクティブソナーを使用しました。潜水艦です!」

 

 

「潜水艦だと!?至急リストを見せろ!」

 

「此方です!」

 

 

 

 

彼は副長から手渡された端末に目を通す。

 

 

「ノイズの大きさからして、レムレースはあり得ない。だとすればその他の潜行型は、400m級の超巨大艦と言うことになるな」

 

 

「艦長まさか……」

 

 

「戦うしかない!」

 

 

「危険過ぎます!ここは名誉よりも戦力を温存し、来るべき反攻に備えるべきです!」

 

 

 

 

副長は必死に彼に説得を試みるが――

 

 

 

 

「逃げられるのであるならば……な」

 

「……」

 

 

 

 

見れば、マッケンジーの額には焦りによる汗が滲み、表情は険しさを増していた。

 

 

「いいか?敵が潜水艦で有るにも関わらず、アクティブソナーを使用した事実を考えてみろ。我々は、敵にとって¨その程度の存在¨でしかないと言うことだ。速力が水中で50ktを超え、武装も我々よりも高度な技術を有している。逃げても追い付かれて消されるだけだ。我々が生き残るには今ここでヤツを沈めるしかない!」

 

 

「そんな……」

 

 

副長の表情に絶望の色が浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

「だが幸い敵との距離はまだ開いている。この間に、対潜噴進魚雷をありったけ叩き込む。あの図体なら外れはしないだろう。総員、発射準備だ!」

 

 

 

 

艦隊がマッケンジーの指示で動き出そうとする。

 

 

しかし――

 

 

「高速推進音感知!魚雷来ます!」

 

 

「何!?あの距離からか?」

 

マッケンジーは驚愕する。だが、直ぐに敵の真意を知ることになった。

 

 

キィィィン!

 

 

魚雷は暫く航行すると炸裂し、海中に騒音を撒き散らしたのだ。

 

 

 

 

「魚雷炸裂!何やら此方の音波探知を妨害する兵器の様です。ノイズ消滅、敵艦を見失いました!」

 

 

「くっ……何てことだ。ん?待てよと言うことはさっきのソナーは……もしや!総員、魚雷に警戒しろ!狙われているぞ!」

 

 

マッケンジーは叫ぶ、しかし既に何もかもが手遅れだった。

 

 

「雷跡を確認!う、うわぁぁ!間に合いません!」

 

 

一本の魚雷が、マッケンジーの艦へひた走る。

 

 

「総員、対衝撃防御!心配するな。魚雷の一本位何とか凌いで――」

 

 

次の瞬間、魚雷が艦に着弾した。

 

 

すると急に辺りが薄暗くなり、波が荒くなる。

 

 

キィィィン!グゥゥオオン!

 

 

「な、なんだこれは……う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

……

 

……………

 

……………………

 

 

 

超兵器からの攻撃の余波が収まり、静寂を取り戻した海にアメリカの艦隊の姿は¨消滅¨していた。

 

 

 

何一つ

 

 

 

 

残骸も、遺体一つすら残っていないのである。

 

 

 

 

   

 

 

 

   + + +

 

真珠湾

 

港にははれかぜとペガサス、401が停泊しており、三隻は出航準備を済ませて大西洋への玄関口であるパナマを目指す。

 

 

 

艦へと乗り込んでいくクルー達の中には、市街地の救助を行っていた真霜の姿もあった。

 

 

 

外洋に停泊しているスキズブラズニルに送迎してもらうため、タラップに向かっていた彼女に一人の女性が声をかけて来る。

 

 

 

「久しぶりね宗谷さん。今は宗谷室長とお呼びした方がいいかしら?」

 

 

 

「スミス艦長!お加減はいいのですか?」

 

 

「これが大丈夫に見えるかしら?」

 

 

 

 

スミスは頭と片腕を包帯に巻かれ、松葉杖という何とも痛々しい様子で立っていた。

 

 

「そう……ですね。それにしても、あの状況から良く無事に生還されましたね」

 

 

「メンタルモデル……で良かったかしら?彼女が助けてくれたのよ。でなければ今頃私は海の底ってわけ」

 

 

「本当に無事で何よりです。それと航空機の件もお願いしてしまってごめんなさい……」

 

 

「気にしなくてもいいわ。幸か不幸か、今軍はハワイにはいない。敵の残骸については責任をもって処分します。アレが世界に広まれば、間違いなく新たな戦争の火種になるわ。時間稼ぎにしかならないかもしれないけれど、ブルーマーメイドとして戦争回避の為に少しでも出来ることをしようと思うの。それに一人の母親としても、後世に戦争を憂いを遺したくはないから」

 

 

「その正義感の強さ、相変わらずですね。昔、海外研修で指導していただいた時の事を思い出しますわ。私達も、超兵器による虐殺を少しでも止められる様、死力を尽くします」

 

 

「頼もしい限りね。ねぇ宗谷さん……死なないで。そして、救ってくれてありがとう」

 

 

「スミス艦長……はい!必ず戻ってきます!」

 

 

 

「敬礼はいいわ。今は…今だけは……私はブルーマーメイドでも一人の母親でもなく、一人の人間としてここに立っているのだから。行ってきなさい!」

 

 

「はい!」

 

 

 

 

真霜は、敬礼の変わりにお辞儀を返すと、タラップを駆けていった。

 

 

ボォォォ!

 

汽笛が鳴り響き、はれかぜを始めとした異世界艦隊が出航していく。

 

生き残ったブルーマーメイドと女学生達は、その姿が見えなくなるまで見送りを続けた。

 

 

 

 

 

「さぁ皆!私達も彼女達に負けてはいられないわ。少しでも市民の皆さんの助けになるため、復旧作業を急ぎましょう!」

 

 

「了解!」

 

 

 

 

皆が一斉に敬礼を返す。

その中には女学生のリリーの姿もあり、彼女の表情には、疲労とそれにも増して前に進む決意の意思が目に現れている。

 

 

彼女は敬礼を終えると、本職の隊員達と共に破壊された市街地へと駆けていった。

 

 

   + + +

 

南アメリカ大陸ペルー沖

 

 

アメリカ艦隊を消滅させた超兵器は、ペルー沖を南下していた。

 

 

 

《此方、ドレッドノート。ソビエスキーソユーズ応答セヨ……》

 

 

 

《ソビエスキーソユーズ。敵艦隊ハ、ハワイヲ出発。パナマヲ目指シテ東進シテイル模様。 貴殿ハ、大西洋デノПриветニ備エヨ。アームドウィング、ノーチラスニハ既ニ通達済ミ》

 

 

《了解。今現在ニ於ケル¨彼ノ艦¨ノ様子ハドウカ?》

 

 

《貴殿ニ、知ル権限ヲ与エラレテイナイ。コノ情報ヲ知リ得ル場ハ、アノ3隻ト、ストレンジデルタノミ。ソレニワタシモ、彼ノ艦ヘノ不用意ナ接触ハ¨我ガ主¨ヨリ禁ジラレテイル。ネームシップタル所以カ、彼の艦ハ、我ガ主ニ於テモ完全ナ制御下ニ置ク事ガ出来ナイ……先日到着シタ二番艦デアル彼女ト、¨アノ艦¨ガ監視ヲ続ケルダロウ。現時点ニ於ケル全超兵器ノ艦隊旗艦ハ、アノ艦ダ。我々ハ時ガ来マデノ時間ヲ、我々ハ何トシテモ稼ガネバナラナイ》

 

 

《了解。ウィルキア艦隊ト蒼キ艦隊ノ処遇は以下ニ?》

 

 

《無論撃破セヨ。我ガ主モ干渉ヲ行イ、切リ崩シヲ試ミテハイルガ、一筋縄デハイカナイ…。彼等ヲコノ世界ニ招キ入レタノハ間違イナク彼ノ艦ノ仕業。イレギュラーナ存在ハ危険ダ。必ズ撃滅セヨ》

 

 

《了解……我ガ艦ハ全速ヲ維持。大西洋デノ戦闘迄ニ到着出来ル様善処スル》

 

 

《貴殿ノ健闘ヲ祈ル。通信終ワリ……》

 

 

謎の超兵器ソビエスキーソユーズとの通信を終えた、超巨大潜水空母ドレッドノートは、その巨大な体に見合う大きな音で海中を進む。

 

 

 

来るべき、大西洋での闘いに向けて――

 

 

   + + +

 

ヴィルヘルムスハーフェン港

 

テアの艦ノイッシュバーンを含めた艦隊15隻は、ブルーマーメイドの工厰にて、防御装置や対空迎撃システムの取り付けを行っていた。

作業を見守るテアにミーナが不安そうな顔で歩み寄る。

 

「艦長、システムや対空ミサイルについてですが……」

 

 

「解っている。生産が間に合わないんだろ?」

 

 

「はい……いかに図面が提供され、総動員体制で作業をしていようとも、やはり限界があります。精々約半数の艦船への配備が今のところ限界かと……」

 

 

「予期していた事態だ。問題ない。それにこの問題に関しては、どの国のブルーマーメイドも抱えているだろう」

 

 

 

「で、でもシステム無しでの出動は、あまりにも危険です!」

 

 

「そうだな。故に我々は、システムを搭載している艦のみで、いこうと思う。」

 

 

「な……!」

 

 

ミーナは驚きの表情を隠せない。

しかし、テアはいたって冷静な口調で続ける。

 

 

「言いたいことは解るが、システム無しでの出動は自殺行為にすぎない。イタズラな戦力の低下は避けるべきだ。故に、残りの艦はこのままヴィルヘルムスハーフェンにてシステム及び対空ミサイルの搭載作業を継続し、我々は予定通りアムステルダムの艦隊と合流する」

 

 

 

「テア!」

 

 

「何も言うな!……お願いだ」

 

 

「くっ……」

 

 

ミーナは悔しさを滲ませる。

 

 

無理もない。テアの言っていることは、ありてに言えば時間稼ぎの為に、自分達が犠牲になると言う事と同義なのだ。

すると、ミーナの気持ちを察したテアは、ポツリと呟く。

 

 

「済まない……済まないミーナ。私の独善にお前を巻き込んでしまって……」

 

 

その言葉を聞いたミーナは、最早我慢できなかった。

 

ガシッ!

 

「あっ、ま、待て!どうしたんだ急に!」

 

彼女はテアの腕を掴むと、艦内に向かって駆け出していく。

突然の事にテアは何も抵抗できず、成すがままに引っ張られていくしかない。

 

 

 

 

ミーナは彼女を自分の部屋まで連れてくると、ドアを閉めた。

テアから直接顔は見えないが、ミーナの肩は小刻みに震えている。

 

 

 

「怒っているのか?」

 

 

「……うん」

 

 

「危険な作戦を立案したからか?」

 

「違う」

 

 

「ではやはり私の我が儘に付き合わせてしまったから――」

 

 

「違う!…違う違う違う!違うんだ!そう言うことを言ってるんじゃない!私はテアの副長だ……でもそれ以前に友達じゃないか!友達が死地に赴くと決めたなら、絶対に死なせないように付いていくに決まっているだろ!そんな友達に付き合わせてゴメンなんて言われたら…まるで私が信用されていないみたいだ。勿論テアを死なせるつもりは無い。でもその可能性がある…最期になるかもしれないこの時に友人にかける言葉がそれなのか?嫌だ!そんなの嫌だ!」

 

 

「ミーナ私は――」

 

ガシッ!

 

彼女はテアを強く抱き締める。

 

 

 

 

 

そして――

 

コツッ!

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 

互いの額を合わせ、真剣な表情でテアを見つめた。

よほど感情が昂っているのだろう、潤んだ瞳と荒い息遣いが間近に迫り、テアを動揺させた。

一瞬、何もかもを忘れて彼女の体に身を任せたくなる。しかし、テアはその衝動を堪えた。

 

艦長である自分の感情が揺らぎ、不安を口にしてしまえば、それが艦全体に広がり、現場での活動に支障を来してしまうからだ。

 

 

 

故に彼女は、ミーナから顔を背ける。

 

「や、止めろ……今はこんな事をしている時では――」

 

 

「目を背けるな!」

 

 

「!」

 

 

その声にテアは思わず目を見開く。

 

 

「私を見てくれ……テアの心を隠さないでくれ。お願いだ……」

 

 

【お願いだ……】自分もよく使ってしまうが、とてもズルい言葉だとテアは感じてしまう。親友がこんなに真剣な顔で、しかもこんな状況でそんなことを言われてしまえば、彼女は従わざるを得ない。

だが、ミーナのその飾らない態度に微塵も疚しい所はなく、その真っ直ぐな所に時には惹かれ、時には救われてきた。

甘えなのかもしれない、心の奥底では、ミーナがこうやって自分を叱咤激励してくれることをどこかで望み、期待している自分がいる。

 

 

(ズルいな…私は……)

 

 

だが、先程まで死が確定した様な気持ちであったテアの心に、一筋の光がさした。

それと同時に、いつも自分に光を与えてくれる彼女を決して失いたくはないと強く思った。

 

 

(ミーナ……私はお前を絶対に死なせたりはしない!この命に代えてでも!)

 

 

ギュッ!

 

「…んっ!」

 

テアは彼女の背中に手をまわして力を込め、彼女は一瞬ビクッと体を震わせるも、再びテアを真っ直ぐ見つめる。

 

 

 

「ミーナ……今は、今だけは艦長ではなくお前の親友、テア・クロイツェルとしてお前に甘えてもいいか?ミーナ…私と共に来て欲しい。どこまでも!」

 

 

 

 

テアはそう言うと、ミーナに体を預ける。

彼女は一瞬目を見開くと、とても嬉しそうにテアの背中にまわした手に再び力を込めた。

 

 

「ああ。ああ!行く!何処までもテアと一緒に行く!」

 

 

二人は、まるでお互いが今生きていて、存在していることを確かめ会うようにきつく抱き締め合った。

 

そんな彼女達が、今こうして絆を育める時間は余りにも短く、熾烈な戦場に赴かなければならない時は刻一刻て近付いてくる。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

「いよいよだな……」

 

 

元の姿に戻ったキリシマが神妙な面持ちで呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「訓練を続けて、紅海に入りそして明日はスエズ……不安がないと言えば嘘になっちゃうけど、皆で力を合わせて頑張ろうよ!」

 

「あぁ、そうだな!」

 

 

 

 

互いに笑顔を浮かべるもえかとキリシマにタカオが苛立ったように唸る。

 

 

 

 

 

「なに二人だけで結論出してんのよ!大体ここは、私と艦長の部屋なの!あんた達の溜まり場じゃないわ!もえかは私の艦に居住スペース確保してあげたでしょ?キリシマも自分の艦が有るじゃない!早く自分の部屋に戻りなさいよ!」

 

 

「まぁそうカリカリしなくても良いじゃないか。ハルナも蒔絵も居ないし、話す相手がいないと暇なんだ」

 

 

「私も一人だと寂しいし、何だかんだで寝るときは一緒にいるの許してくれてるじゃない」

 

 

「許すも何も、あんたが勝手に潜り込んでくるんじゃない!キリシマも暇って何よ!暇って!ここは艦長と私の愛の巣なの!」

 

 

「え?これが?」

 

 

 

 

二人は部屋を見渡してから、半目でタカオを見つめる。

 

 

 

 

フリルのついたカーテンやベッド。ピンク色のブランコ。過剰な迄に格好良く脚色された群像の等身大抱き枕などが並ぶ妙にメルヘンチックな部屋に、こんな所で愛等育める筈がないと二人は思った。

 

 

 

しかし、二人の表情にタカオは納得がいかないらしい。

 

 

 

 

 

「な、何よ!どこがいけないの?この完璧にコーディネートした私の部屋を!」

 

 

「あのなタカオ……お前、本格的にヒュウガにコアをオーバーホールしてもらった方がいいぞ。実装している【乙女プラグイン】もここまで来ると最早故障だ……」

 

 

「くっ!ぐぬぬ……キリシマに言われるなんて、屈辱だわ」

 

 

「乙女プラグインって?」

 

 

「あぁ、我々が人間の感情体現するために編み出した感情シュミレーションの一種だな。その中でも、【恋する乙女の感情】とやらをシュミレーションして体現出来るプログラムが、乙女プラグインだ。最も、私はそれを実装しなくて本当に良かったと思っているがな」

 

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

 

 

 

二人のやり取りに最早タカオは我慢ならなかった。

 

 

 

 

「あ、あんた達だって人の事が言える立場じゃないでしょ?キリシマだって毎晩毎晩、蒔絵がどうしていたのか概念伝達でハルナにしつこく聞いていたじゃない。ハルナが親バカ母さんだとすればあんたは世話焼き母さんよ!」

 

 

「ち、違う!私は只蒔絵が……そう、蒔絵だ!侵食弾頭を作れるほどの人材を霧の艦隊に迎えるとコンゴウに約束しているからな!決して蒔絵が心配だからじゃないぞ〃〃〃」

 

 

 

 

タカオの言葉に、キリシマは明らかに狼狽えた。

 

 

 

 

 

「もえかだって、あのアケノって艦長の事をオカズにしてイヤラシイ事考えてるんでしょ!」

 

 

「ちょっ〃〃いい加減な事言わないで!」

 

 

 

 

もえかは顔を真っ赤にして反論するが、タカオは引き下がらない。

 

 

「ふふぅん……じゃあ私のベッドで毎晩『ミケちゃん顔を真っ赤にして恥ずかしがってて可愛い……ねぇ、今度はココも触っていい?』とか何とか言ってるのは――」

 

 

「うわぁぁぁぁ!聞こえない!聞こえない!」

 

 

もえかは、大声を出して否定の意思を表す。

 

 

 

 

気づけば、三人とも荒い息をついてた。

 

 

「くっま!さか超兵器との戦いを前にして、こんな所で精神を消耗するとはな……」

 

 

「うぅ…酷いよタカオ……」

 

 

「わ、私のせいなの!?…でも、お互い待っている人の為に戦わなくてはいけないのは同じって所ね……」

 

 

「そうだな。私も蒔絵とケーキを作る約束を果たさねばならん!」

 

 

「私も、ミケちゃんと会うまでは絶対に死ねないよ!」

 

 

 

 

 

三人はお互いを見つめ、そして頷き合う。

 

 

 

環境も相手も違うが、目的は一緒であり、

守りたい相手や生き残る理由がある。

 

 

 

今の彼女達にはそれで十分だった。

 

 

 

 

三人は決意を新たに明日のスエズ突破に備えて休息をとる。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「何だと!」

 

 

先程まで、大統領の椅子に深々と座っていたハワード・フィリップ・トランスは思わず立ち上がる。

表情は怒りでネジ曲がり、彼の叫び声はホワイトハウスの隅々まで届きそうなほど大きなものだった。

 

 

 

その剣幕に、エドガー・フェンス主席大統領補佐官は思わず後ずさる。

 

 

 

「大損だ!異世界艦隊の情報を得られなかった処か、我が国の軍艦迄……それもハワイを見捨てて迄退却を命じておいてだ!こんな間抜けな話はない!国防長官を呼べ!今すぐにだ!」

 

 

「は、はい!只今――」

 

 

「それには及びません。フェンス主席大統領補佐官」

 

 

ドアを開けて入ってきたのは、リチャード・べネックス国防長官だ。

 

 

 

 

御歳70の彼は、過去に海軍大将を勤め、海賊の討伐の際はブルーマーメイドの制止を無視して討伐を強行し、抗議しに来た隊員を拘束したり、《私はアメリカ人だ。故にアメリカに仇成す存在を殺すことはこの上なく愉しい》、《他の国々が殺し合いを始め、アメリカ人以外が何億人死のうとも、私の知ったことではない》、《軍人足る者は、例え両親に合う時でも殺す準備を怠るな》等と過激な発言で物議を醸し、軍内部から【人喰い鮫】の名で知られた人物だった。

 

 

 

しかしその反面、哲学書等や心理学書等を愛読し、実戦から遠ざかった世界が戦争に突入した場合、泥沼の戦いにより多くのアメリカ国民の死者が出ないよう。各国の重要ポストと頻繁に対談を行い。戦争回避に尽力した、強かで知識人の一面も兼ね揃えている。

 

 

 

そんなべネックスだからこそ、大統領であるトランスの信用を勝ち得、同時にヒステリックでもある彼の前でも至極冷静でいられるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「どうされましたか?大統領。顔色が優れないようですが」

 

 

「フンッ!わざとらしい挨拶は止めたまえべネックス君!私が何を言いたいのかは君が一番良く知っているのではないのかね?」

 

 

 

 

 

トランスは明らかに苛立った表情でべネックスを睨み付けるも、彼に動じる様子は微塵もない。

 

 

「成る程……派遣された艦隊が¨何の成果もなく¨沈められた件ですな?お言葉ですが大統領。今回の一件は全てあなたが大統領権限で下された命令です。これで軍があなたの命より私の命に従ったならば、あなたのお立場は地に墜ちていると言わざるを得ません。故に、軍があなたの¨無意味¨な命令に従い死んで逝ったのは、あなたが国のトップであるときちんと周知された結果であり、我が軍は至極正常に機能していることが証明されたと言えるでしょう」

 

 

 

 

トランスはいよいよ顔を真っ赤にして、余りの怒りで肩が震えている。

 

 

 

 

 

 

「べ、べべべネックス君!私が君にクビを宣言する前に言っておく事はあるかね!?」

 

 

「はい。此方をご覧ください」

 

 

 

 

 

べネックスがトランスに手渡した一枚の写真を見て彼の表情が一変する。

 

 

 

 

 

「これは……どこの写真だ!」

 

 

「サンディエゴです。異世界艦隊の情報の入手に失敗された大統領は、サンディエゴに艦隊を招き入れる予定だったのでは無いかと思い、急ぎ馳せ参じました。今これを見た後でも同じことが言えますか?」

 

 

「………」

 

 

トランスは、再びべネックスに視線を向けた。

 

 

「尚、軍がハワイを見捨てた件に関しても既にフェンス主席大統領補佐官と相談住みです。大統領、これはチャンスです。あなたの念願でもあり、公約でもあるアメリカ第一主義の確立。そして、それに立ちはだかるブルーマーメイドからの脱却。これはその双方を同時に成すことが出来る神器なのです」

 

 

「君は無神論者ではなかったのかね?」

 

 

 

 

 

 

トランスは先程とはうって変わって上機嫌な表情になる。べネックスは対照的に冷静で淡々と言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「その通りです。しかし私はこれを見たとき、天恵を得たような気がしたのです。まるで《世界を統一し、自国の発展と永遠の平和を享受せよ》と神が申されているが如く。」

 

 

トランスは目を見開き、声を大にして笑った。

 

 

「はっ、はっはっはっ!素晴らしい!素晴らしいよべネックス君!君のクビは帳消しだ!指揮は君に任せる、口出しもせん。だから大いに儲けさせてくれたまえよ!」

 

 

「了解しました。この国と世界に、自由の風が味方せん事を……」

 

 

 

 

 

べネックスは彼に敬礼をすると、部屋から去っていく。

 

 

トランスは窓の外を眺めて、不遜で獰猛な笑みをいつまでも浮かべていた。

 

 

   + + +

 

 

スキズブラズニルは、一路パナマに向けて太平洋を突き進んでいた。

 

 

廊下を歩く明乃に、一人の女性が話し掛ける。

 

 

 

 

「ミケ艦長……」

 

 

「あっ、美波さん!」

 

 

「その後、体の具合に変化はあったか?」

 

 

「ううん。特には…無いかも……ど、どうして?」

 

 

「副ちょ――いや、事が事なだけに気になってな……何もないならいい。それでは――」

 

 

「うん。心配してくれてありがとう!」

 

 

二人は別れ、歩いていく。その直後だった。

 

 

バタッ!

 

その音に気付いて明乃が振り向くと、美波が廊下に倒れていた。

 

 

「美波さん!」

 

 

慌てて駆け寄り、美波の体を揺するが、彼女は一向に目を覚まさなかった。

 

「美波さん!美波さん!どうしたの?しっかりして!美波さん!」

 

 

   + + +

 

スキズブラズニルの医務室

美波は早急に運び込まれ、明乃は医師の診断を椅子に座って待っていた。

すると診察を終えた医師が明乃へと近付いてくる。

 

「先生!美波さんは……」

 

 

「心配は要りません過労です。今は点滴を受けて眠っています」

 

 

「そうですか……あ、あの。美波さんに付き添っていても大丈夫ですか?少しだけにしますから」

 

 

 

 

医師は少し考え込んでから渋々了承してくれた。

 

病室に入り、眠っている美波ベッドの近くに椅子を持ってきて座り、彼女の顔を見た。

只でさえ細身な彼女の顔は、良く見ると更に痩せており、腕に備え付けられた点滴が何とも痛々しい。

 

 

「ごめんね美波さん…気付いてあげられなくて……横須賀からずっと研究と医療で働き続けてくれてたんだもんね。私、自分の事ばっかりで、本当にダメだね……」

 

 

 

 

 

明乃は涙を浮かべながら、美波に語りかけた。

 

 

 

 

「そんな事は……ないぞ」

 

 

「美波さん!?気がついたの?」

 

 

「あぁ。全く……医者が患者のベッドを占領するとは、情けない限りだ」

 

 

「そんな事ないよ!美波さんは何時だって私たちを助けてくれるもん。私こそ、そんな美波さんに甘えてばかりで……」

 

 

「いいや、忙しかったとは言え、体調管理も立派な仕事だ。況してや緊急性の高い案件を受持つ私達医者は特にな……だからあなたが気に病む必要はないんだ」

 

 

 

 

弱々しくも笑って見せる美波に、明乃は益々申し訳ない気持ちで一杯になるが、何時までも暗い顔をしていたらかえって美波の体に障るかもしれないと、明乃は良く休むよう彼女に言ってその場を立ち去ろうとした。

 

 

「待ってくれ……」

 

 

 

美波は明乃の手を掴んで引き留めた。

 

 

 

彼女がこの様に誰かにすがるのはとても珍しい事であり、彼女は驚いて美波に向き合った。

 

 

 

「どうしたの!?どこか悪いところでも――」

 

 

「違うんだ……少し、話を聞いてもらいたい。今こんな時だからこそなんだ」

 

 

「何か悩みでもあるの?」

 

 

「悩みとは少し違うが、以前大浴場に行った時、艦長は私に言ったな、《美波さん、随分蒔絵ちゃんと仲良くなったんだね》と」

 

 

「うん、でもそれがどうしたの?」

 

 

美波は少し間を開け、そして決意したかのように語りだした。

 

 

「うむ、蒔絵には少し思うところがあってな……艦長も蒔絵の生い立ちは聞いているな?実は私も蒔絵と似たような境遇なんだ」

 

 

「――え?」

 

美波の告白に、明乃は思わず体が硬直する。

 

 

「正確には違うんだがな……つまり私には父と母の血が受け継がれていないと言うことだ。勿論、私の¨元¨となった受精卵を胎内で育て、出産したのは母なのは間違いない。だがその卵子にも精子にも両親の遺伝子が含まれていなかったんだ」

 

 

「………」

 

 

「生まれてからずっと、英才教育を施された私は、十歳になる頃に大概の教育を全て熟知してしまうほどの知識を有していた。故に飛び級で大学に入学し、医学や人体の知識、特に遺伝子と脳の因果関係についての勉学に力を入れたんだ。両親にはとても愛情を注いでもらったし、飛び級での大学入学、特にブルーマーメイドお抱えの大学に入学したことをとても喜んでくれた。私も慣れない周りの人の中で孤独を感じつつも、両親の期待に応えようと必死に学んだ。そして、十二歳になる頃には、医術を一人前にこなせるまでになった。そんな時だ、真実を知ったのは」

 

 

 

 

ゴクリ……

 

明乃は知らぬ間に汗で湿った拳を強く握り締める。

 

 

 

 

「春休みの長期休みの帰省際に、私は父の書斎の資料に目が止まってそれを開いてしまったんだ。中身には、身体的若しくは知識的に優秀な遺伝子を含んだ精子と卵子を受精させた場合に産まれてくる子供が、如何なる成長を遂げていくのか……だ。父は遺伝子を専攻する科学者で、母は脳医学専門医者だった。実験だったんだよ。私のやること全てが彼等の実験の結果に過ぎなかった」

 

 

「でもそれって――」

 

 

「あぁ、勿論法にも倫理にも抵触する内容だ。だから多数の目がある大浴場では言うことが出来なかったんだ。だが、私はそれ以上に絶望した。今までの両親の行動が途端に嘘臭く感じて、まるで世界に只一人放り出されたかのような強烈な孤独感と、同時に虚無感に襲われた。そんな時だ、春休み前に届いていた海洋学院での海洋実習をいつ行うのか問うた書類の事を思い出した。私は両親に何も告げずに直ぐ電話をかけたよ。《今すぐに済ませておきたい》って。家出のつもりだった。正直、最初は晴風のメンバーの事もどうでも良かったし、Rats事件の際、晴風に反乱の容疑がかかり、撃沈命令が下された時はいっその事、このまま沈んでしまえば死ねるとさえ考えていた」

 

 

「………」

 

 

「あなたが良く口にする《海の仲間は家族》と言う言葉、正直嘘臭いって思っていた。だがあなたは、それを身を持って証明した。あの時、次々と降りかかる苦難を自分達で乗り越え、絆を深める艦長達を見て思ったんだ。私もあなたの言う家族の仲間に入りたい、家族の温もりを感じたいって……でもこんな私が、家族と言って貰えるのか解らなくてとても不安だった」

 

 

「そんな事ないよ!美波さんは最初から私達の――」

 

 

「ああ、あの時もあなたはそう言ってくれた。そして赤道祭で《我は海の子》を皆で歌った時、本当に家族になったような気がして嬉しかったよ」

 

 

「そう……だったんだ。あ、あのご両親とは――」

 

 

「あまり顔を合わせていない……怖いんだ。私を本当に愛していたのか、それとも実験だったのか、聞くのが怖くてな。だが、今はそんな事どうでも良くなってしまったよ」

 

 

「蒔絵ちゃんの事?」

 

 

「そうだ。蒔絵は、見た目は人間でも、根本的に産まれるまでの過程が人類とは異なる。だが、確かにこの世に産まれて存在し、意思を持って生きているんだ。そして多くの者と関わり成長を遂げている。両親のやったことは、確かに許されない事だ。だが、それ故に私はこの世に生きて多くの人を助けることが出来た。そして艦長、あなたにも逢うことが出来た。それはとても喜ばしい事だと私は思う」

 

 

「うん、私も美波さんと逢えてとっても嬉しいよ!あ、あの……話してくれてありがとう」

 

 

(話してくれてありがとう……か。《辛かったね》ではなくありがとう。本当に、あなたらしいな)

 

 

 

 

 

優しい笑顔で微笑みかける彼女に、美波も笑顔で答えた。

 

 

明乃の存在は、いつしか美波の人生に大きな影響を与えていたのだ。

 

 

だが、その大切な彼女を蝕む存在がいる。

 

 

美波にとっても確証があったわけではないが、超兵器の意思から彼女を守るにはこれしかないのではないかという確信が、美波のなかで出た結論だった。

 

 

「艦長……もう一つ聞いて欲しい。時間は限られている」

 

 

「ん?どうしたの?限られているって?」

 

 

「シュルツ艦長と千早艦長の事だ。超兵器との戦いに敗北するにせよ、勝利するにせよ、彼等とはいずれ必ず別れの時が来る。本当は出来るだけ早い方が望ましいが、それまでにあなたがこれから何のために生きて行くのかを彼等を見て、そして学んでおくべきだと思うんだ」

 

 

「学ぶ?今後の世界の救済についてや戦術の事かな」

 

 

「違うな。いいか?シュルツ艦長や千早艦長は、自分達の世界では救世主だ。言わば物語の主人公と言えば分かりやすいか。なら、彼等を主人公足らしめる理由は何だと思う?」

 

 

「それは……」

 

 

「彼等はある時までは只の一般人に過ぎなかった。だが、世界には人類を脅かすものが存在した。当たり前の日常が崩壊し、人々を恐怖や絶望、やりきれない怒りが支配する。彼等とて同様だったろう。だが、彼等は行動に移した。シュルツ艦長は戦況を有利に進めていた帝国に付けば楽だったろうし、千早艦長もイオナさんの誘いを蹴って、今だけは安全な所で過ごす選択肢もあった。だが、二人は恒久的に日常を過ごせる選択肢をとったんだ。主人公と一般人との差はたったそれしかない。そしてそれは艦長、あなたと彼等との決定的な違いでもある」

 

 

「違い?」

 

 

「そうだ。彼等の描く未来は飽くまで自分の見える範囲の平凡な日常を守ってきた積み重ねられた平和。そしてあなたの描く未来は、世界全体的の平和だ。だがな艦長…¨世界全員の幸福¨など不可能なんだ。全員が幸福なら、助け合う必要も支え合う必要もない。だからあなたは、まず自分にとっての日常を考えてみてもいいんじゃないか?」

 

 

「私の日常……」

 

 

「そうだ。今結論を出さなくてもいい。じっくり考えればいいんだ」

 

 

「その……美波さんにはあるの?そう言うこと」

 

 

 

美波は少し考え込むと、顔を赤らめる。

 

 

 

 

「実は私も考えている事はあってな……参考になるかは解らんが。私は¨家庭¨を持ちたいんだ」

 

 

「――え?」

 

 

普段の美波からは想像もつかないような答えに、明乃は一瞬動揺した。

 

 

 

 

「意外か?だが前から考えていたことだ。結婚して子供を作って、そして毎日どんな料理を作ろうか悩んで、一緒に笑って一緒に泣いて、そんな賑やかな家庭を築きたい。あまり大それたものではないが。私にとっては大切な夢だ。だから今、その日常を壊されないよう足掻いている。笑われるかもしれないが、たまに美甘から料理を習ったりしているんだぞ?」

 

 

「そ、そうだったんだ……私、何も知らなかったよ」

 

 

 

 

明乃は、美波の夢に内心動揺していた。

幼いときから現在まで、ブルーマーメイドになって多くの人を助けることを目標にしてきた彼女にとって、日常に何かを求めたこと等無かったからだ。

 

 

それは、彼女の過去が常人よりも過酷なものであった影響が大きい訳だが、それでも明乃は衝撃を受けた。

 

 

 

美波は、そんな明乃の手をそっと握って優しく語りかけた。

 

 

「仕事人間の艦長には、ちと難しかったか?まぁいい。あまり深くは考え過ぎるな。どうしても無理なら、仕事の中に何かを見いだしてもいいんだ。考えてみて欲しい」

 

 

「わ、解った……考えてみるよ。色々ありがとう美波さん」

 

 

「ああ。すまない、まだ少し疲れているみたいだ……もう少しだけ眠るよ。パナマ到着までには起きるから」

 

 

「うん。ゆっくり休んで」

 

 

美波はゆっくりと目蓋を閉じる。

 

 

よほど疲れていたのだろう。

 

 

直ぐに寝息が聞こえ、明乃は照明を少しだけ暗くすると部屋を後にした。

 

 

(私の日常……か。考えたことも無かった。シュルツ艦長や千早艦長はどんな日常を求めているのかな)

 

 

明乃は狭い廊下を歩いて行き、自室に戻るまで考えるも結論を出すことは出来なかった。

 

 

   + + +

 

 

ウィルキア外交官、エドワード・クランベルクは、スキズブラズニルの司令塔にある屋上で煙草を吹かしていた。

 

 

 

 

(おかしい…アメリカはてっきり、ハワイで異世界艦隊と接触し、技術の奪取を計ると思っていた。だがそれは超兵器の影響により失敗。だとすれば次は、アメリカの太平洋側で最大級の軍港であるサンディエゴに、補給の名目で立ち寄るよう圧力が掛かってきてもおかしくない。なのにパナマ付近に差し掛かっても何も言ってこないのはかえって不気味だ。なにか企んでいなければいいが……)

 

 

険しい表情で、煙草を携帯灰皿に入れるエドワードに何者かが近付いてくる。

 

 

 

 

「クランベルク外交官。此方にいたのですか」

 

 

 

 

彼が振り返った先には――

 

 

 

 

 

「宗谷室長?どうされましたか?わざわざこんな所――」

 

 

カチャ!

 

 

「!!?」

 

 

エドワードが言い終える前に、真霜は銃を取り出し、銃口を向けてきた。

 

 

 

その表情は、今まで見てきた真霜のそれとはまるで違うとても冷たく恐ろしい顔をしている。

 

 

彼は内心は動揺したが、外交官としての性なのだろう。動揺を悟られぬ様に無表情を咄嗟に演じていた。

 

 

「どういう事でしょうか、宗谷室――」

 

 

「動かないで!私の質問にだけ正直に答えなさい!」

 

 

真霜は、断固として構えを崩さず、これ以上の抵抗は危険と判断したエドワードは素直に頷きを返す。

 

 

 

それを確認した真霜は更に続けた。

 

 

「ウィルキアは――いや、もしかしたら蒼き鋼もかもしれないけど、私達に内緒で何を画策しているの?正直に答えなさい!」

 

 

二人は暫しのあいだ睨み合う。

 

 

銃口を向けられているせいか、エドワードは背中に嫌な汗が滲んでくるのを感じていた。

 

 

 




お付き合い頂き有り難うございます。

ラブラブミーテアと超兵器の会話をお送り致しました。

多忙にて執筆に時間が割けない日々がこれから続いては参りますが、コツコツと積み重ねて一話にして参ります。


それではまたいつか

















とらふり!



テア
「どこまでも一緒に行く…か。ああ…ミーナ。私はこれからお前と――」



ココ
「ちょっと待ったぁぁぁぁ!狡いですよテアさん!国が違う事を良いことに、ミーちゃんとラブラブなんて…羨ましいです。私も早くミーちゃんとキャッキャッウフフしたいのにぃ!」


テア
「むっ!な、なんだ!お前は作品上ではまだ我々と合流していないだろ?世界観を崩壊させかねない行動は控えるべきだ!それに私はこれからミーナと食事に行ってあ~んしてもらう予定だ。いいから早く自艦に帰れ!」


ココ
「嫌です!ミーちゃんは私と《仁義の無い戦い》の上映会するんです!」


テア
「あ~んだ!」

ココ
「上映会です!」



ミーナ
「テア、そろそろ食事に――ってココ!?何故こんなところにおるんじゃ?」


ココ
「ミーちゃんと上映会したくて抜けて来ちゃいました!私と久しぶりにどうですか?」

テア
「ミーナ!私との食事はどうなる!お前がいなかったら、一体私は誰に食べさせてもらえばいいんだ!」


ミーナ
「う~ん……」

テア&ココ
「じ~(凝視)」


ミーナ
「そうだ!3人で食事をして、それから皆で上映会をすればいい!これで万事解決だ!」


テア&ココ
「う、浮気者……」

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