トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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お疲れ様です。

真珠湾 後編です


それではどうぞ


氷上の蜃気楼    vs 超兵器 …unknown flag ship

   + + +

 

『はれかぜ!はれかぜ!聞こえますか?此方ペガサス、緊急事態が発生!応答せよ!応答せよ!』

 

 

シュルツの切迫感を感じる声に、鶫はただならぬものを感じていた。

 

 

「こちらはれかぜ!どうされましたか?」

 

 

 

 

『そちらに巡航ミサイルが向かっている。至急迎撃されたし!可能性の話になるが、ミサイルの弾頭には周囲数㎞を吹き飛ばす能力が有るかもしれない!何としてでも撃ち落として頂きたい!』

 

 

 

「巡航ミサイル?周囲数㎞を……吹き飛ばす!?解りました!至急伝えます!」

 

 

 

 

鶫は顔から血の気が引くのを感じた。

 

 

 

しかし、躊躇している暇は最早はれかぜには無く、直ぐ様艦橋に状況を伝える。

 

 

 

それを聞いた真白は、間髪を入れずに順子に迎撃を指示した。

 

 

 

彼女の表情に厳しさが増したのを幸子は見逃さない。

 

 

 

 

「副長、艦長達に知らせなくて良いのですか?」

 

 

「知らせたところで、逃げられる筈もない。それならここで私達がミサイルを撃ち落とし、艦長達には救助に専念してもらった方が合理的だ」

 

 

 

 

 

そう言って俯く真白に、幸子は不思議そうに彼女を覗き込む。

 

 

「漸く解った気がする」

 

「どうしたんですか副長?」

 

 

「ミサイル迎撃システムの事だ。正直なところ、防御重力場があれば大概の攻撃は軽減される。後は対空迎撃システムさえあれば事は足る筈なんだ。なのにこのミサイル迎撃システムが存在する事が意図しているのは、ウィルキアが敵の使用する兵器について、私達に何かまだ話していない内容が有ること意味している気がしてならない。故にこれ程切迫感を感じさせる通信を送ってきたのだろう」

 

 

 

 

「大陸を消し飛ばす兵器、都市を丸ごと呑み込んでしまう兵器、そしてこの間ウィルキアが播磨に使用した光子兵器。それ以外にも何かあると?」

 

 

「ああ、通常の兵器では周囲数㎞を吹き飛ばす威力など有りはしない。精々大きな建物を破壊する程度だろうからな。この件はいずれ問い質す。今はソレを打ち落とす方が先だ。おい!準備はいいか?」

 

 

 

「いつでも撃てちゃうよ!」

 

 

 

 

芽衣の言葉に彼女は頷く。

 

 

 

「よし!迎撃ミサイル発射!」

 

 

真白の合図が発せられると甲板上にあったハッチが開き、轟音と共に迎撃ミサイルが高く舞い上がって迫り来る巡航ミサイルに向かって飛行を開始した。

 

 

 

 

(頼む!必ず打ち落としてくれ!出なければ皆が……艦長がっ!)

 

 

真白は祈るように迎撃ミサイルの動向を見守った。

 

 

 

 

レーダーに表示される巡航ミサイルに、はれかぜから発射された迎撃が向かっていく。

 

そして――

 

「よし!一発は落とした!」

 

 

 

レーダーからミサイルの点が消失する。

 

 

だが――

 

 

 

 

「もう一発は撃ち落とされて……いない!?まずい!」

 

 

レーダーに表示された巡航ミサイルと迎撃ミサイルの点が交差したように見えた。だが、巡航ミサイルの点は消失せずに此方に一直線に向かってきていた。

 

 

「さ、再迎撃用意!」

 

 

「ダメ!間に合わないよ!」

 

 

 

芽衣が絶望の表情で叫ぶ。

 

 

 

 

(ダメなのか……!)

 

 

 

 

真白の心が折れかけたその時だった。

 

 

 

 

『副長!蒼き鋼の江田さんから通信です。繋ぎます』

 

 

江田が通信してきていた。

 

 

 

彼は群像より、この世界にはないミサイルの迎撃に不馴れなはれかぜのサポートをするよう、連絡を受けていたのだ。

 

 

『此方江田。宗谷副長、巡航ミサイルは?』

 

 

「すみません……一発撃ち漏らしました。私、どうしたら――」

 

 

『私に任せてください!何とかしてみます』

 

 

「な、何とかって、もう時間が――」

 

 

『無いので急ぎます!それでは!』

 

 

 

 

そう言うと江田は通信を切ってしまう。

 

 

これから起こるかもしれない大惨事に、真白は体が硬直してしまう。

 

 

 

 

そんな彼女に芽衣が優しく声をかけた。

 

 

 

 

「大丈夫だよ副長。建一君なら必ずやり遂げてくれる。艦長達だってそうだよ。だから、私達は私達の出来ることをしようよ」

 

 

真白はその言葉に目を見開く。

 

 

 

艦橋を見渡すと、皆が真白の方を向いて頷いていた。

 

 

 

彼女達の覚悟は決まっていたのだ。

 

 

先の超兵器との戦いで、敵の凄まじさを目の当たりにし、怯えて逃げても明日は来ない事を、身をもって知ったからである。

 

 

 

 

艦橋を見渡した彼女は、最後に明乃から預かった艦長帽を自分の胸に抱き締め、目を閉じる。

 

 

 

目蓋の裏には、危険な現場で今も懸命に救助を続ける明乃の姿が映っていた。

 

 

(艦長も頑張っている。私ははれかぜをあの人から……託されたんだ!)

 

 

彼女は決意の表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

「すまない皆、少し弱気になっていたようだ。もう大丈夫!このミサイルは、蒼き鋼が何とかしてくれるが、まだ超兵器撃沈の報は入らない状況において、敵を一掃するまでは一切気を抜かず、何時でも対応出来るよう準備しておこう!」

 

 

「了解!」

 

 

艦内から一斉に返事が帰ってくる。

 

 

 

はれかぜの面々は、着実にブルーマーメイドとして成長していた。

 

 

一方の江田は、現在救助活動を手伝っているハルナに連絡をとっていた。

 

 

「ハルナさん!聞こえますか?」

 

 

切迫感溢れる江田の呼び掛けに対し、この状況に於いても全く冷静で、どこか機械的な印象を与える声が帰ってくる。

 

 

『通信は傍受していた。状況は理解している。これからミサイルの来る方向を伝える。お前はその方角に旋回して空対空侵食ミサイルを発射しろ。後は私が誘導する」

 

 

「わ、解りました!」

 

 

江田はハルナから伝えられた方角に旋回し、ミサイルを発射した。

 

 

その頃のハルナは、空中に¨立っていた¨。

 

 

 

 

クラインフィールドを足下に発生させ、足場を作り出したのだ。

 

 

そして彼女の左腕には、一人の女性が抱えられている。

 

 

 

トーマス・ワグナー艦長のカトリーナ・スミスだ。

 

 

 

彼女は、艦が爆発し沈没する寸前に、ハルナによって救助され現在に至り、そしてハルナの腕の中でじたばたしていた。

 

 

 

無理もない、端から見れば人間二人が空中に浮いているようにも見え、尚且つ人類に空中に静止した状態で留まる事の出来る者など皆無なのだから。

 

 

 

パニックに陥ったスミスに、少し苛立ったように表情のハルナは機械的な語調で彼女に言い放つ。

 

 

「少しじっとしていろ。それともお前を海に投棄し、自力で泳いで陸を目指して貰ってもいいのだが、お前の手足は少なくとも海を泳げる状態ではないと判断するが?」

 

 

 

「この状態は一体……お、お前は何者なの?敵――」

 

 

「本当に敵なら、あの艦の上にお前を放置した方が効率がいいが……そんなに放して欲しければ放そう。無理強いはしない」

 

 

「あっ、ちょっ…待っ――」

 

 

ハルナはスミスを足下のフィールドに置くと、体の回りにリングを発生させ、彼方の空を睨む。

 

 

 

 

視線の先には江田の操縦するセイランの蒼い機体が飛んでいた。

 

 

 

セイランは、巡航ミサイルの飛んでくる方向に、空対空侵食ミサイルを発射し、同時にハルナは手をかざして江田の放ったミサイルの誘導に入る。

 

 

 

一直線に飛行するミサイルが、ハルナの誘導によって急旋回し、巡航ミサイルへとひた走った。

 

 

 

 

 

「もしかして、あなたは異世界艦隊の!?」

 

 

ハルナの尋常ではない雰囲気に、動揺するスミスが何かを言っているが、ミサイルの誘導に集中しているハルナは返答せず、瞬き一つしないで彼方を睨み続ける。

 

 

(……捉えたぞ。逃がさん!)

 

 

ハルナは巡航ミサイルを捕捉し、最大限の演算をもって誘導に集中した。

空対空侵食ミサイルが一層複雑な軌道でひた走り、そして――

 

 

ビュォォ!

 

 

巡航ミサイルに見事命中した。

 

 

 

 

この働きをもってしても、ハルナの表情は依然として涼しい。

 

「撃墜……完了」

 

 

『やりましたねハルナさん!』

 

 

 

「時間がないぞ?次の行動に移る。空対空侵食ミサイルの残弾はあるか?」

 

 

『は、はい!』

 

 

「ミサイルの残弾と増設タンクに蓄えられたナノマテリアルを使って、セイランに¨フロート¨を構成する。お前はこのまま湾内に着水してセイランで一人でも多く人間を救出しろ。私も艦内にいる生存者の救出を継続する」

 

 

『はい!お願いします!』

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

ハルナが再び手をかざすと、セイランに取り付けられていた増設タンクとミサイルが銀色の粉に分解され、それが再び寄り集まってフロートに再構成される。

 

 

 

彼女はそれを見届けると、横で唖然としているスミスを再び軽々と抱き上げ、陸地へと一気に跳躍する。

 

 

「あァァァ!」

 

 

ジェットコースターにでも乗って要るような感覚に、目を閉じて悲鳴をあげるスミスだったが、突如感じた硬い地面の感触に気付いて目をそっと開く。

先程まで、あんなに離れていた陸地に既に到着していたのだ。

 

 

 

 

彼女を降ろし、次の目標に移動しようとするハルナに、スミスは慌てて彼女を呼び止めた。

 

「ま、待って!」

 

 

「時間がない。連れていけと言われても承服しかねるぞ?」

 

 

「違うの!あの、部下達を……いや、皆を助けてください!お願いします!」

 

 

「無論だ」

 

 

「それと……ありがとう」

 

 

ハルナはなにも言わずに、再び駆け出していく。

 

 

 

 

(【ありがとう】貴重で得難いものを得たときの感謝を伝える言葉……タグ添付…分類…記録。蒔絵が私に良く使う言葉だな。兵器である私が、蒔絵に得難いものを与え、そしてその謝意を返してくれた……か)

 

 

ハルナは一瞬だけ優しい笑顔を作る。

 

 

だが次の瞬間には表情を戻して風のように湾内を駆けていった。

 

 

   + + +

 

 

「艦長、巡航ミサイルの撃墜を確認しました!」

 

 

「ふぅ……何とか凌いだか。だが、まだだ!奴を沈めるまでは油断できん。何時でも迎撃出来る体勢を整えておくんだ!」

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

いつまた発射されるかも解らない凶器に、シュルツの表情は硬い。

 

 

 

それは隣にいる博士も同様だった。

 

 

「レムレースのミサイル発射機の搭載は予期していましたが、まさか巡航ミサイルとは……まだ何か隠し持っている可能性は否めませんね」

 

 

「同感です。奴は必ずここで撃沈して――」

 

 

「ちょ、超兵器ノイズ出現!機関を再始動した模様です!」

 

 

「位置の特定急げ!」

 

 

「り、了か……い!?」

 

 

「ナギ少尉、どうした?」

 

 

「あ、あの……ノイズの反応は一つだけです。もう一つは発見できません!」

 

 

「なんだと!?機関を停止して隠れているのか?それとも……まさか!千早艦長!」

 

 

『超兵器がハワイに向かったのですか?』

 

 

「可能性はあります!探せますか?」

 

 

『既に行っておりま……解りました。恐らく狙いはこれかと』

 

 

シュルツは、手元のタブレット端末に目を向けた。

 

 

「アメリカ艦隊!?馬鹿な!何故湾内留まっていないんだ!」

 

 

『敵は恐らく機関を切って、蓄電池での静音航行に入っているものと思われます。我々に追わせて頂けますか?』

 

 

「お願いします!此方は我々で引き受けますので」

 

 

『気を付けて……』

 

 

「千早艦長も」

 

 

 

 

シュルツは通信を終えると、直ぐ様クルーに指示を送る。

 

 

「総員、対潜戦闘を継続する。機関一杯!敵超兵器に接近せよ!」

 

 

 

 

ペガサスは速度を上げ、超兵器との距離を詰めていく。

 

 

「敵艦、魚雷発射!感2!あっ更に魚雷発射音感2追加です!」

 

 

「恐らく最初のは誘導魚雷だ。進路このまま!迂闊に転舵はするな、恐らく逃げた方に酸素魚雷が待っている。誘導魚雷を優先して迎撃!」

 

 

ペガサスは魚雷の迎撃に入る。シュルツの予想通り、最初の魚雷は誘導魚雷だった。だが、

 

 

キィィィン!

 

酸素魚雷だと思われた後の魚雷は、音響魚雷であった。

 

 

「艦長、ソナー感度低下!」

 

 

「また何か仕掛けてくるつもりだろうが……させん!新型対潜ロケット及び奮進爆雷砲を、魚雷の発射地点付近にありったけ叩き込め!」

 

 

ペガサスから、凄まじい勢いで対潜弾が飛んで行き、海面に次々と落下していく。

しばらくすると、海面にいくつもの対潜弾の爆発によるものと思われる気泡が浮かび上がってきた。

 

 

「浮遊物の確認を急げ!海中はどうなっている!?」

 

 

「まだ先程の攻撃の残響が――ん?これは……敵艦は顕在です!しかし、艦に異常をきたしているのか、異音が検出されてます」

 

 

 

「今だ!対潜ミサイルを叩き込め!」

 

 

ペガサスの艦首にあるハッチが開き、次々とミサイルが発射され、レムレースに殺到する。

先程の対潜攻撃で外殻にダメージを負った敵は、押し寄せるミサイルを振り払う事が出来なかった。そして、

 

ボォン!

 

海面に水柱が上がりプカプカと超兵器を構成していた部品が浮上してくる。

 

 

「海面に水柱を視認!浮遊物も確認しました。超兵器ノイズも消失、更に海中から破砕音を検知。敵超兵器、圧壊している模様です!」

 

 

「よし!敵超兵器を撃沈と判断する。念のため、暫くここで沈降中の超兵器の様子を注視し、再度完全なる撃沈を判断した場合は、我々も401を追う」

 

 

「はっ、了解しました!」

 

ナギは再び座席に就き、撃沈された超兵器の情報を収集する。

 

 

彼等に油断はなかった。

 

 

(千早艦長……後は頼みます!)

 

 

シュルツは自分が現場に赴けない事に歯痒さを感じながらも、群像を信じて彼に超兵器の相手を託した。

 

 

 

 

一方その頃、401は行方が解らない超兵器の捜索を続けていた。

 

 

「イオナ、どうだ?」

 

 

「微弱なスクリュー音を検知。速度変わらず。アメリカ艦隊と、もうすぐ接触する模様」

 

 

 

「やはりか……いおり、機関最大!」

 

 

「えぇ!?またぁ?無茶させ過ぎだよぅ……」

 

 

 

 

機関の酷使に抗議するいおりに構わず、群像は次の一手を思考する。

 

 

「艦長よぉ。なんでフルバーストを使わねぇんだ?あれなら少しは距離を詰められるぜ?」

 

「あれは、イオナにかなりの負担をかけるし、使用直後に負荷の反動で、機動や索敵に隙が出来やすい。相手が手の内を全て明かしていない以上、不用意な使用は避けるべきだ」

 

 

 

 

ふと湧いた疑問を問うてきた杏平に群像は至極冷静に坦々と答える。

 

 

 

確かに水上艦と違い、潜航していて直接兵装を視認出来ない潜水艦、特に超兵器潜水艦とあっては、まだ使用されていない兵装も隠し持っている事は十分考えられた。

 

 

 

また、アメリカ艦隊を攻撃すると見せ掛け、ペガサスと分断した401を誘き寄せて叩きにくる可能性すらあるのだ。

 

 

 

彼の頭の中で、少ない情報のピースが瞬時に組合わさっては分解していく。

 

 

今までもそうして最善の解を彼は導き出してきたのである。

そんな鋼の心の牙城を彼女の一言が崩してしまう。

 

 

「とても……とても嫌な¨予感¨がする」

 

 

イオナは深刻そうな表情で呟くと、群像から貰った時計を手の中で強く握り締めた。

 

その様子に群像を始めとしたクルー全体が、凍りついたように固まった。

同じメンタルモデルであるヒュウガですらも、驚愕の表情を浮かべている。

 

無理もない。何故なら彼女達霧の艦隊は、人間の姿を模していても、精神構造はむしろコンピューターに近いものがある。

高度に計算された戦況予測は、それが良い内容であれ悪い内容であれ、はっきりとした断定形で表現されることが通例だ。

特にイオナの場合は、他のメンタルモデルよりもより顕著にその傾向が見られる。

 

 

 

しかし今彼女の口にした言葉は、まるで根拠の無いうわ言に等しい内容だった。

 

 

 

だが、その事がかえって401のクルーの緊張を極限まで高めていく。

 

 

するとその直後だった。

 

 

 

 

 

「超兵器ノイズ発生!敵艦、機関を再始動した模様です!」

 

 

 

血の気の引いた顔で静が叫ぶ。

 

 

 

 

(何故今、機関を再始動させたんだ?ノイズを発生させなければ探知されにくい潜水艦は有利な筈なのに……)

 

 

群像は、隣にいるイオナに視線を向ける。彼女の表情は未だに曇ったままだ。

彼は、その表情に言い知れぬ不安を感じたのだった。

 

   + + +

 

 

アンドリュー・ジョーンズ率いるアメリカ艦隊11隻は真珠湾を脱出し、外洋を航行していた。

 

 

「全く……使えない人魚共だ!あれで我々よりも破格の待遇を受けていると思うと虫酸が走る!」

 

 

管を巻くジョーンズに、副長が気まずそうな顔で近寄ってきた。

 

 

「司令官、宜しいのですか?結果的に我々がハワイを見捨てた形になりましたが……」

 

 

「大統領命令だ!我々には従う以外の選択肢は存在しない!それにこの一件は、ブルーマーメイドよりも軍の有用性をアピールするのにうってつけだ。ハワイには本国の未来のため、尊い犠牲になって貰うと言うことだろう。それに私たちは、外洋にいる超兵器を¨追っていた¨だけだからな」

 

 

「は、はぁ」

 

 

副長は気の無い返事を返すしかない。

そこへ通信員が走り込んできた。

 

 

「お伝えします。異世界艦隊のウィルキア解放軍より、敵超兵器が我が艦隊に接近中、至急退避されたしと通達がありました。敵超兵器の名称はレムレース。潜水艦型超兵器です!」

 

 

「異世界艦隊から提供された敵超兵器の情報を見せろ!」

 

 

「は、はっ!全長350m兵装は、酸素魚雷と誘導魚雷、そして、対艦ミサイルです」

 

 

 

 

 

ジョーンズからの命令に副長が緊張した様子でデータを読み上げる。

 

 

「ミサイルと魚雷か……厄介ではあるが、そうと解っていれば何て事はないな」

 

 

「ま、まさか。司令官!異世界艦隊は退避せよと……接近は余りにも危険です!」

 

 

副長が必死で忠告をするが、ジョーンズは聞き入れなかった。

 

 

「何を言う!相手は図体だけの只の的だ。それに超兵器級でもかなり下位の分類に入る。だが、それでも超兵器だ。撃沈したとあれば我が軍の有用性が示されるではないか。異論は認めん!総員、対潜水艦戦闘準備だ。派手に出迎えてやれ!」

 

 

「司令官、しかし……」

 

 

「副長……これ以上は抗命と見なすぞ!」

 

 

「くっ……了解致しました!」

 

 

副長は悔しさと恐怖の入り交じった表情で渋々ジョーンズの指示に賛同する。

彼の表情に満足したのか、ジョーンズは眼下の海を見渡した。

 

 

 

何十年もの間、実戦から遠ざかっている軍が、矢面で活躍する。その先陣を切れることの興奮に彼は酔いしれていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「敵艦、進路と速度変わらず。真っ直ぐ此方に近づいている模様!」

 

 

「馬鹿め!二番艦、三番艦に通達。ヘッジホックを相手に見舞ってやれ。的が大きいなら有効だろう!四番艦、五番艦は対潜噴進魚雷の準備だ!」

 

 

『了解!』

 

 

艦隊は、レムレースを囲い込むような、陣形に移行し、何時でも攻撃を加えられる体勢を整えていく。

 

 

「準備はいいか?」

 

 

『用意よし!』

 

 

「よし!放て!」

 

レムレースを囲い込んだアメリカ艦隊は一斉に攻撃を開始する。

 

 

スボォォン!

 

 

 

 

ヘッジホックがレムレースに着弾し、装甲がひしゃげていく。

 

 

「海中での爆発音を確認。命中です!」

 

 

「よし!このまま止めを刺してやる。」

 

 

艦隊が発射した対潜噴進魚雷が、レムレースへ止めを刺すべく殺到していく。

 

 

 

 

しかしこの時既に、敵は最初にして¨最期の切り札¨を発射していた。

 

 

 

 

だがアメリカ艦隊は、海中の爆音と敵に止めを刺そうとするあまりそれに気づいてはいない。

最初に気づいたのは、ジョーンズの艦の見張り員であった。

 

 

「司令官!雷跡1此方に向かってきます!」

 

 

「な、何?急いで迎撃しろ!」

 

 

「駄目です。間に合いません!」

 

 

「総員、対衝撃防御!超兵器めっ……一撃見舞った位で、貴様の運命は変わら――」

 

 

ピキィィイン!

 

魚雷がジョーンズの艦に着弾し、炸裂した瞬間に凄まじい光が辺りを包み、それとほぼ同時に凄まじい熱波と衝撃波が、アメリカ艦隊に襲いかかった。

 

 

 

その場にいた全ての人間の身体が、あまりの熱量に瞬時に蒸発し、海中から伝わる衝撃波は艦の底を意図も簡単に変型させ、大量に侵入してきた海水によって数分にも満たないうちに、その海域にいた全てのアメリカの軍艦が海底にその体を没していった。

だが、その攻撃の余波は至近距離から攻撃を放った超兵器自身にも及び、魚雷が直後に発生した猛烈な衝撃波は、至近にいたレムレースに襲いかかって、先程のアメリカ艦隊による対潜攻撃で損傷を負った外郭を直撃し、水圧も相まって一気にその巨体を圧壊させた。

 

 

ギ…ギギ……ギギィィ………

 

 

 

 

レムレースは暗い海底へとゆっくり沈んでいく。

その不気味な軋み音は、まるで異世界艦隊を嘲笑っているようだった。

 

 

   + + +

 

「な、何が起こったんだ!アメリカ艦隊と超兵器の反応がレーダーから消えた!?」

 

 

 

 

 

群像は思わず、椅子からたちあがる。

 

 

「これは……」

 

 

「イオナ!一体あそこで何があったんだ!」

 

 

「それは……¨核¨が使われたんだと思う」

 

 

「!!!」

 

 

彼女の話した衝撃的な内容に、群像は驚愕した。

 

 

 

イオナは、珍しく深刻そうな表情で続けた。

 

 

「海中に放射線を確認……間違いない。超兵器は核を使用し、その爆発が原因で沈没した」

 

 

「何て事だ……」

 

 

群像は、力なく椅子に腰をかけた。

 

 

 

表情に絶望と悔しさが滲んでいる彼の顔を

イオナは心配そうに覗く。

 

 

 

 

「群像……今は――」

 

 

「解っている。救助を……救助を優先しよう。これより我々は、オワフ島の救助作業の補助に向かう」

 

 

「了解……ウィルキアの航空部隊からも、さっき戦闘終了の連絡が入った」

 

 

「イオナ……悪いが、ペガサスとはれかぜに超兵器の沈没を伝えてくれ。あとシュルツ艦長には、事の顛末を……」

 

 

「了解」

 

 

イオナは、通信を開始する。群像の表情は硬い。いや、401のクルー全員も、超兵器の沈没に喜びを表すものは一人もいなかった。

 

 

   + + +

 

 

「401より敵航空部隊と超兵器二隻の撃沈を確認したそうだ!我々はこれより、湾内の奥に進んで救助に当たるぞ!」

 

 

「了解!」

 

はれかぜは、障害物を避けつつ慎重に湾の奥へと進んでいった。

 

 

一方の明乃達は、懸命に救助を進めていた。

 

 

 

救命ボートをスキッパーで牽引することで、効率的に人員を陸へと送り届る

 

 

 

更に――

 

 

 

 

『此方はハルナ。船内から数十名を救助した。至急此方に救命ボートを回してくれ。あと、どうやら戦闘が終結したようだ。はれかぜが此方に向かってきている。私は重傷者をはれかぜに運ぶ』

 

 

「有り難うございます!今向かわせます!」

 

 

明乃は直ぐに聡子に連絡して、救命ボートを牽引させて現場に向かわせた。

 

 

 

 

(急いでこの人達を陸に上げて、私も戻らなきゃ……時間が迫ってる!)

 

 

時間が立つほど、救助者達の生存率は著しく低下する。

 

 

 

明乃は、焦る気持ちを圧し殺しつつも、救助を続行した。

 

 

その頃、陸を目指して泳いでいたリリーは、体力の限界を迎えていた。

 

 

「ハァ…ハァ…ガボァ?もう…限界……」

 

 

近くを泳いでいた人達は、皆力尽きたか航空機の銃撃で次々と死んでいった。孤独と恐怖に耐えながら泳いでいた彼女だったが、増援が現れたと言う安心感から集中力を欠き、精神的な疲労も相まって意識が一気に薄れていく。

 

 

 

リリーが全てを諦め、意識を手放そうとした時、目の前から航空機が¨水面¨を進んできた。

 

 

(何とかここまで逃げたのに……まだ私を殺そうとして――)

 

 

 

 

彼女は絶望した。だが航空機から銃撃はなく、変わりに操縦席から誰かが自分に向かって叫んできていた。

 

 

「大丈夫ですか!?今、助けます!じっとしていて!」

 

 

 

江田だった。

フロートを装着したセイランで湾内に着水した江田は、ブルーマーメイドが見逃している少人数の救助者を捜索していたのだ。

 

 

 

彼は機体からフロートへ降りると、リリーへ手を伸ばした。

 

 

「早く!こっちに来て私の手をつかんで!」

 

 

「〔い、嫌!来ないで!殺さないで!〕」

 

 

 

 

江田を敵だと勘違いしたリリーはパニックを起こし、じたばたと抵抗しようとした。そもそもリリーは日本語を理解できず、このままでは体力が尽きてしまう。そこで江田が気付いた。

 

 

(そ、そうか!言葉が通じないのか!)

 

 

 

江田は、もう一度リリーへ向かって叫ぶ。

 

 

 

 

 

「〔私は敵じゃありません。ブルーマーメイドの関係者です。あなた助けに来ました!手を伸ばしてください!〕」

 

 

「〔ブルーマーメイド?〕」

 

 

「〔はい!正確にはブルーマーメイドと行動を共にしている、異世界の超兵器討伐隊です!もう大丈夫です!武器も持っていませんよ、ほら!〕」

 

 

江田は上着を捲ってその場でクルリと回って見せた。

 

最初は半信半疑のリリーも、漸く納得して彼の近くへと泳いできて手を伸ばし、彼はその手をつかんで彼女を引っ張りあげ、セイランの後部座席に乗せる。

このやり取りで、江田の流暢な英語はウィルキア艦隊内での外国人との交流で身につけたものである。

 

 

全ての言語を網羅している訳では無いが、各国との確執が生じていたウィルキア解放軍にとっては、異国とのコミュニケーションを取るために、よりポピュラーな言語は話せる人員は多い。

 

 

「どこか怪我はありませんか?」

 

 

「いえ、特には……でも、グスッ……皆が…う、死ん……私だけ助かって…どうしたら……」

 

憔悴するリリーに、江田は穏やかな声で語りかけた。

 

「私も自分の世界で、多くの仲間を失いました……そしてつい最近まで、彼等への罪悪感から死を選ぶ事を常に考えていました。ですが私は今、大切な人が出来ました。護り通したい人が……それにはまず、自分が¨生きて¨いなければ意味がない。あなた今、生きている。笑うことも、泣くこともできる。亡くなった方が出来なかったことが出来るんです。この世界は、私達の住んでいた世界よりも自由だ……時間は掛かるかもしれませんが、いつかあなたが前を向いて生きていける様になる迄は、思いきり泣いていいんです。思いきり辛いと叫んで弱音を吐いても良いと私は思いますよ……」

 

 

その言葉を聞いた彼女は緊張した心がほどけ、感情が爆発していく。目から先程よりも多くの涙が零れ、顔はしわくちゃになっていた。

 

 

「パパ…ママ、怖かったよ……リタ、アリーごめん……私、助けてあげられなかったよぅ…うっ、ううっ……うわぁぁぁ!」

 

 

江田は、後ろで泣き叫ぶリリーの声を聞きながら、はれかぜにいる想い人の顔を思い浮かべた。

 

 

(俺もあの時逝っていれば、芽衣さんをこんな気持ちにしていたんだろうか……)

 

 

江田は複雑な表情のまま、セイランを起動させて、陸をめざした。

 

 

   + + +

 

 

はれかぜの甲板は、手当てを待っている救助者でごった返していた。

敵の脅威が無くなったことで、甲板での処置が可能になったのだ。

 

 

 

 

「患者の大まかな症状を報告しろ。それによってトリアージを判断する。軽微な者の応急処置は、ブルマーの研修で習っているな?悪いが手が足りん……そちらは頼む。くれぐれも不用意に水を飲ますなよ。場合によっては水が気道に詰まって命取りになる。私がいいと判断した者のみに少しづつ口に運ぶよう指示して飲ませろ!」

 

 

「りょ、了解!」

 

 

 

美波は、攻撃に回っていたはれかぜクルーに指示を出して、次々と患者の様子を見て回る。彼女の額には玉のような汗が滲んでいた。

 

 

 

そこに、甲板に着地したハルナが駆け寄って来る。

 

 

「重傷者だ……瓦礫が体に当たってダメージを受けたらしい」

 

 

見ると、ハルナに抱えられた女性とは意識が朦朧とし、引き付けを起こしたように体をビクビクと震わせていた。

 

 

 

「不味いな……脳や内臓が損傷しているかもしれん。至急医務室に運ばせる」

 

 

「私が運ぼうか?」

 

 

「いや、あなたは救助を継続してほしい。だがその前に頼みたいことがある」

 

 

「言ってみろ」

 

 

「出血が酷い患者がいるんだ。クラインフィールドで、傷口だけでも一時的に塞ぐ事は可能か?」

 

 

「やってみよう。ヒュウガが以前、横須賀でやっていた事を共有戦術ネットワークにアップロードしている。このエリア位の範囲なら、救助しながらでも可能だ。お前は心配せずに治療に専念しろ」

 

 

「感謝する」

 

 

ハルナは、女生徒を担架に乗せると怪我人達に向かっててをかざした。

 

 

 

クラインフィールドが大きな傷口を塞いで急激な出血を抑え、傷口を外気と遮断することで、感染症を引き起こすリスクを低減させるのだ。

 

 

 

彼女は、出血の停止を横目で確認すると再び救助へと戻っていった。

 

 

 

 

 

(見事だ…あの技術が医療にあれば……いや、今は無い物ねだりをしても意味がない……)

 

 

美波は、まゆみと果代子のに担架の運搬を頼むと、処置の準備の為医務室へと駆けていった。

 

 

   + + +

 

ブルーマーメイドを中心とした救助は日をまたぎ、翌日の夕方まで不眠不休で続けられ、救助者や遺体の殆どを陸に上げる作業の目処がたった。

遺体においては、破損が激しく回収が不可能な者もおり、異世界艦隊はあえなく捜索を断念せざるを得ない状況だった。

 

 

湾内を一望出来る港で、シュルツと群像が海を見ながらたっている。

 

 

 

美しかった湾内には、艦船の残骸が至る所に沈んでおり、当たりには焦げ臭い臭いが未だ漂う無惨な姿を晒していた。

 

 

 

 

「取敢えずは終わりましたね……」

 

 

「はい、余り喜べる状況ではありませんが……」

 

 

「……」

「………」

 

 

二人は、思わず押し黙る。

 

 

 

理由は犠牲が出たことだけではない。

 

 

 

 

超兵器が使用した核兵器の事だった。

 

 

「正直、千早艦長には助けられました。あのままだったらハワイが……本当にありがとうございます」

 

 

「いえ、ヒュウガが放射能除去技術を立案してくれなければ危なかった。俺の力では……」

 

 

ヒュウガは、侵食魚雷に使用されていたナノマテリアルを放射能の吸着させる物質に変化させて大気中に大量散布し、それを再び回収して、ナノマテリアルと分離させ、放射性物質のみを回収してカプセルに封じることで拡散を防いでいた。

 

 

 

 

しかし、使用された事実を消すことは出来ない。

 

 

 

二人の表情は硬かった。

 

 

 

 

「千早艦長は今回の一見をどう見ます?」

 

「隠し兵器の件ですか?」

 

「それもありますが、なんと言うか――」

 

 

 

「メッセージ性を感じた……ですね?」

 

 

「はい。〔早く来い来ないならば……〕と言うような挑発にもとれる様な雰囲気を感じました」

 

 

「俺も同感です。やはり、北極海にいる超兵器を起動させるための時間稼ぎ……でしょうか?」

 

 

「そう考えるのが自然でしょう。ですが不自然だ」

 

 

「どうされましたかシュルツ艦長?」

 

 

「何故超兵器達は、其ほどまでにヴォルケンクラッツァーにこだわるのでしょうか……自身が強化され艦隊を組んでいる以上、彼等には生命の滅亡の先駆けとしての人類の絶滅を成し遂げられそうな気がしますが……」

 

 

「異世界艦隊の事を勘定から抜いていますよシュルツ艦長。俺達を倒しうる者こそがヴォルケンクラッツァークラスしかいないならば、彼等の行動の意味も辻褄が合う」

 

 

「そう…なのでしょうか……」

 

シュルツは未だ納得のいかない顔をしているが、ここで考え込んでいても、結論が出るわけでもなかった。

 

 

「この話題は、暫く棚上げですね……博士やヒュウガからの新たな情報に期待するしかありません」

 

 

「その様ですね。では、明日の出航に向けて少し休んでおきましょう。千早艦長も、今日はゆっくり休んでください」

 

 

「ありがとうございます。それでは……」

 

 

群像が去ったあとも、シュルツはその場で暫く考え続けていた。

 

 

(ヴォルケンクラッツァー、お前は今何を思って眠っている……)

 

 

その問いに北の果てにいる超兵器が答える筈もなく、未だ不愉快な臭いが漂う真珠湾と肌寒さを感じたシュルツは、自身の艦へと戻っていった。

 

 

  

 

   + + +

 

 

 

 

はれかぜクルーは、ハワイのブルーマーメイドに業務を引き継ぎ艦へ戻って来ていた。

 

全員疲労困憊で、食事も風呂にも入らないまま殆どのクルーがベッドに倒れ、深い眠りに吸い込まれていく。

 

 

そんな中、真白は明乃の姿を探していた。

 

 

いつも無理をして、起きて仕事をしている明乃に休養をとるように促す為であるが、艦長室に彼女の姿が無かった為、心配になって探し回っていたと言う訳だ。

 

 

 

そして、見晴らしの良い艦橋から辺りを見渡すと、艦首辺りで湾内を見ている明乃を発見した。

 

 

 

直ぐに駆けていき甲板へと出た彼女は、キンと冷えた外の空気に包まれる。

 

 

 

 

(うぅっ寒い……ハワイとは言え、夜は冷えるな……)

 

 

 

 

彼女は軽装で出てきたことを後悔したが、明乃の事が気になってそのまま艦首へと駆けていく。

 

 

「か、艦長!」

 

 

「シロちゃん?」

 

 

 

 

振り向いた明乃の表情には、憔悴の色が感じ取れた。

 

 

 

勿論、肉体的疲労も有るのだろうが、其よりも犠牲を目の当たりにした精神的疲労の方が、彼女にとって大きい事は言うまでもない。

 

 

「こんな処にいたら風邪をひいてしまいますよ。自室に戻って休まれては如何がですか?」

 

 

 

「うん……」

 

 

無理をした様な笑顔でコクリと頷いた彼女の様子に、真白は更に不安な気持ちになる。

 

 

 

 

 

「気にされておられるのですね?」

 

「解るの?」

 

「はい……副長ですから。しかし我々は、神ではありません。たとえ超兵器を倒しうる力があったとしても、地球の裏まで瞬時に飛んでは行けない。全てを背負いすぎてはいけないと私は思います」

 

 

「……ん。そうだね」

 

 

 

 

明乃は力なく答え、再び湾内に視線を移す。

 

 

真白はもう見てはいられなかった。

 

 

 

 

「……あ」

 

 

 

明乃は少し驚いた表情を見せた。

真白が後ろから彼女を抱き締めてきたからだ。

 

 

「あ、あのシロちゃ――」

 

「無理しないで下さい!今は誰もいない。見られたくなかったんでしょう?皆に自分の弱いところを――でも私にはいいじゃないですか!たまには艦長も弱くなっていいと思います!」

 

 

 

 

真白のしっかりした口調に、明乃は目を見開き、そして肩を抱く真白の手に自身の手を重ねて身体を少し後ろに預けた。

 

 

「ありがとうシロちゃん。少し、少しだけ甘えさせて……」

 

 

 

 

二人は暫くの間、そのままの体勢で過ごした。

 

 

直接表情を見れずとも、体が小刻みに震える感触が伝わり、真白は彼女が泣いているのだろうと思った。

 

 

暫くして、震えが治まった明乃は真白から手を離し、彼女も明乃の肩から手を離す。

 

 

「ありがとうシロちゃん。少し楽になったよ」

 

 

「良かった……では戻りましょう。疲労を残しては良くない」

 

 

「解った……でも後数分だけここに居させて。そしたら戻るよ」

 

 

「そうですか……解りました。本当に数分だけてすよ?」

 

 

「うん、約束する」

 

 

 

 

明乃はそう言うと再び湾内に視線を向けた。

真白は、後ろ髪を引かれるような思いがあるも、そのまま艦内へと戻っていく。

 

 

 

 

そこでふと気付いた。

 

 

 

 

 

(あれ?寒くない。さっきはあれほど寒かったのに……考えてみればいくら夜でも、ハワイがそんなに寒い筈がない。まさか……艦長!?)

 

 

真白は振り返る。

 

 

先程よりも空が雲が出てきたせいか、艦首にいるであろう明乃の姿を視認する事は出来ない。

 

 

 

彼女は背筋に、先程とは別の寒気を感じるのだった。

 

 

 

   + + +

 

 

北極海

 

氷の海に佇む摩天楼を思わせる巨大艦は、変わらず静かに浮かび続けていた。

 

 

 

だが――

 

グウィイン!

 

巨大な主砲が突如回頭して遥か彼方を向いた先には、蒼白い光が輝いており、光が治まると同時に、そこには巨大な艦が一隻浮かんでいた。

 

その姿はまるで、氷上の摩天楼そのものであった。

 

 

 

だが現れた巨大艦は蜃気楼ではなく紛れもなく実体。

 

 

 

巨大艦は、そのまま何をする訳でもなく、氷上の摩天楼同様に動かず、まるで眠っているようだった。

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


蜃気楼登場です。

果たして地球は大丈夫なのか…

それではまたいつか
















とらふり!



タカオ
「はぁ…。」


もえか
「どうしたの?」

タカオ
「艦長ロスよ……気分が乗らないわ。ああ艦長に会いたい……今頃どうしているのかしら」


キリシマ
「401とイチャイチャだろ?彼奴らにお前の入り込む隙間など無いと思うが……そんなに気になるなら、通信で何時でも顔を見たり会話をしたりすればいいじゃないか」


タカオ
「嫌よ!艦長は生がいいの!新鮮じゃなきゃ嫌なのよ!」


もえか
「野菜じゃないんだから……」


タカオ
「何よ!毎日岬って艦長の写真を嘗め回すように見ているくせに!キリシマだって蒔絵が気になるんでしょう?私に言ったみたいに、頻繁に連絡すればいいじゃない!」


もえか
「な、嘗め回すようになんか見てないもん!ただ、見てないと落ち着かなくて……」

キリシマ
「顔を見ると帰りたくなる」


タカオ
「ほぉら見なさい!やっぱり大切な人は新鮮なうちに会うのが一番よ!」


もえか&キリシマ
「だから野菜じゃないって……」




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