トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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お疲れ様です。

新年度一発目です。なかなか執筆にとれる時間が無くなってきてはいますが、何とか頑張っていきます。


それではどうぞ


血の盟約      …Unidentified ship

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デンマーク カテガット海峡

 

 

インディペンデンス級戦闘艦【ノイッシュバーン】

 

 

 

 

そこにはかつて、明乃達と一時的に行動を共にした仲間がいた。

 

 

 

その内の一人、金色の髪の女性、ヴィルヘルミーナが言葉を切り出す。

 

 

 

 

「艦長、超兵器は今……」

 

 

 

 

ヴィルヘルミーナに艦長と呼ばれた小柄で銀色の髪の女性テア・クロイツェルが答える。

 

 

 

 

「恐らくバルト海にいるんだろう。キールに対して特別攻めてくる訳でもなく、かと言って接近した艦艇は撃沈する。あの近辺で、船舶が消息を絶つのはそれが原因だろう」

 

 

「欧州の各国も、最初の襲撃でかなりの被害を受けました。この間立ち寄った港だって、あんなに滅茶苦茶に……。艦長、私たちは一体どうすれば――」

 

 

「余計な事を考えるなミーナ。私達はブルーマーメイドだ。海や港湾施設を侵略者から防衛し、民間人の被害を食い止める。今はその事に集中するんだ」

 

 

「解りました……次の寄港地は何処ですか?」

 

 

「ヴィルヘルムスハーフェンだ。その後オランダのアムステルダム、そしてイギリスのプリマスのブルーマーメイド合同艦隊と合流し、北海に接近する超兵器を牽制、その後異世界艦隊と合流し、キールにて体制を立て直してバルト海に居る超兵器を撃破、欧州の制海圏と安全を確保する。あそこを新たに侵入してくる超兵器に抑えられれば、事実上ドイツは、バルト海に展開する超兵器と挟み撃ちにされ、キールに本部をおく国際ブルーマーメイド連合は壊滅、指揮系統の麻痺した世界は滅亡へと向かう。これ以上の犠牲は御免だ」

 

 

「いよいよ来るんですね?明乃達が……」

 

 

「6年前も今も、明乃達ばかりに辛い戦いを強いる訳にはいかない。我々もドイツの誇りを、超兵器達に見せ付けてやろう」

 

 

テアはミーナに微笑みかけ、彼女もそれに笑顔で答える。

 

 

正直笑顔など見せる余裕はミーナには無かった――いや、テアを含めた全員が不安を胸の内に秘めていることは明らかだ。

しかし、それを艦長であるテアが見せれば不安は全ての人員に伝播する。

 

故に彼女は常に自分を殺す。

 

 

 

 

ミーナにはそれがわかっていた。

そして、その彼女なりの不器用な優しさが何より好きであったのだ。

 

 

 

(昔から変わらないなテアは……)

 

 

ミーナは努めて明るい顔で海を見つめ、この海が続く彼方に、いるであろう明乃に思いを寄せる。

 

 

 

それは最早、祈りに近しいものであった。

 

 

 

(明乃…はれかぜ……。お願いだ。欧州を……皆を――テアを救ってくれ!テアはああ言ったが、恐らく私達だけでは………)

 

ミーナはそこから先の事を考えるのを止めた。

これ以上考えたら、最悪の結末を想像してしまいそうだからである。

 

 

 

 

でもそれが頭をよぎってしまうくらい、既に欧州には屍の山が積み重なっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

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南シナ海

 

二手に別れた異世界艦隊の西進組は、スエズ運河に向かって航行している。

 

 

真冬は、空母メアリースチュアートにてヴェルナーから今後の予定の説明を受けていた。

 

廊下を歩く真冬は、少し不機嫌そうに足早に歩く。

 

 

 

 

「いつまで拗ねてるんですか?」

 

 

「て、テメェ平賀!俺は別に拗ねてねぇ!ただ……ちょっとだな!折角あいつ等と合流したってのにあんま話す時間とかがなかったから…それでっ!」

 

 

「真白さんに根性注入出来なかったのが悔しいんですね……。でも、過剰なスキンシップはかえって敬遠されますよ?」

 

 

「だ、たから違ぇって!」

 

 

ガヤガヤと話ながら歩くうちに、 二人は艦橋にたどり着く。

扉を開けた先にはヴェルナーともえかが待っていた。

 

 

「お疲れ様です。真冬艦長、平賀副長」

 

 

「おう!で?何で急に艦隊を二つに分けやがったんだ?」

 

 

「超兵器は間違いなく、現状で最高戦力を持つ我々を狙っている。そして、おびき寄せる方法は簡単だ」

 

 

真冬の表情が険しくなった。

 

 

 

「成る程……民衆を人質するって訳だ」

 

 

「その通りです。超兵器は黒海とバルト海に展開している可能性が高い。しかし、国際ブルーマーメイド連合の本部があるキールは、非常に重要な地点になる。だが全員でキールに向かえば……」

 

 

「黒海に展開する超兵器が、ボスポラス海峡を越え、地中海からスエズ経由でアジアに侵攻。新たな人質をつくっちまうってか?チッ……いけ好かねぇ野郎だぜ!」

 

 

「故に我々は、懸念事項である、黒海の超兵器を足止めないし撃沈することで後の憂いを取り除かねばなりません。乏しい補給しかない中で恐縮なのですが――」

 

 

ガシッ!

 

 

 

突然真冬がヴェルナーの胸ぐらに掴みかかり、そして自分に引寄せるとドスの利いた声で叫んだ。

 

 

「湿気た面で腑抜けた事言ってんじゃねぇ!やらなくちゃならねぇ事は必ずやり遂げる!そうじゃなきゃ横須賀で……世界で死んでった連中に顔向けが出来ねぇんだよ!あんた等は、¨救える力¨を持ってんだろ?だったらもっと自信持って使命を全うしろよ!」

 

 

もえかは目を見開いた。

 

 

真冬は目に涙を滲ませていたからだ。

 

 

 

日本だけでなく世界を行き来する敏腕の艦長である彼女には知り合いも多い。きっと亡くなった人の中にも彼女の知り合いだって多くいた筈だ。

きっと悔しい思いをずっと胸に秘めていたのだろう。

 

 

 

思えば宗谷真冬は、異色の艦長と言える。

シュルツや群像の様に、己の心を殺して冷静を装い、どんな状況にも動じない姿勢で仲間を引っ張るタイプでもないし、明乃の様に、仲間との距離が近すぎる訳でもない。

 

 

 

出来る者には任せ、劣っている者には力を貸す。

 

 

 

豪快なようで緻密な判断、攻めていても状況に応じて引き際も誤らない冷静さ、なのにとても話しやすく、どんな相談にも乗ってくれる優しさ。

 

 

シュルツや群像を艦の父、明乃を母とするなら、真冬は正に兄や姉の様な存在であった。

 

そんな真冬が涙を浮かべるこの状況が、世の危機的状況を物語っているようにもえかは思えた。

 

 

 

対するヴェルナーは少し動揺した表情を見せたが、直ぐに表情を戻して真冬の目を真っ直ぐ見つめる。

 

 

 

 

「申し訳ありませんでした。そうですね……我々が弱気になってはいけない。世界にはもっと苦しく不安に怯える方が沢山いると言うのに……」

 

 

「チッ…解りゃいいんだよ」

 

 

 

 

真冬はヴェルナーから手を離す。

 

ヴェルナーは乱れた服装を整えると、改めて今後の予定を伝えた。

 

 

「では、改めて今後の予定を話しておきます。我々の目的地は、スエズを突破した先に有りますが、正直このまま進むには部隊の練度が不十分であると判断します」

 

 

「まぁ新装備の事にしろ、対航空機戦にしろまだまだってのは認めるがよぅ。早く地中海に出た方がいいんじゃねぇのか?」

 

 

「それは違うと思います」

 

「知名?」

 

 

「私は今まで生きていて超兵器との戦闘の時程、死を身近に感じたことは有りません。生半可な練度で挑めば、必ず誰かが死ぬ。それだけはハッキリ言えます。ブルーマーメイドの通常任務だって、きちんとした訓練と準備があって初めて現場に向かえます。急ぎたい気持ちは私も同じです。しかしこのまま進めば皆が……」

 

 

 

 

 

もえかの言葉を聞き、真冬は自身が焦っていたことを自覚した。

 

 

 

 

 

「すまねぇな……俺としたことが後輩に叱られてちゃ世話ねぇぜ。解ったよ、しっかり準備して超兵器のケツに一発かましてやらぁ!」

 

 

 

 

ばつが悪そうに頭を掻く真冬にヴェルナーが続ける。

 

 

 

 

「ご理解頂けて幸いです。我々はインド洋に入り次第速度を落とし、習熟訓練に入ります。弁天の方には、此方から相談役を出しますので、何かあればそちらを通じて連絡を頂ければ対応致します」

 

 

「そうか……解った。宜しく頼むぜ」

 

 

「こちらこそ」

 

 

 

 

 

打合せが終了し、ブルーマーメイドの3人は廊下を歩く。

 

 

 

真冬がもえかに話しかけた。

 

 

 

 

「なぁ知名。超兵器と戦ってどうだった?」

 

 

「凄まじいとしか言い様が有りません。攻撃 防御 速度 どれをとっても現代兵器の枠を逸脱していました」

 

 

「怖かったか?」

 

 

「は、はい……死を覚悟しました。もう笑ったり、美味しい物を食べたり、大切な人と過ごしたり出来ないのかと思うと、怖くて寂しくてそれで――」

 

 

ガバッ!

 

 

「……あ」

 

 

 

急に真冬がもえかを抱き締めた。

 

 

彼女は突然の事で抵抗できないもえかに真冬は言葉をかけた。

 

 

「もういい……すまなかった。辛いことを聞いちまったな。本当にすまねぇ……お前らにばっかり辛い戦いを強いちまって。さっきからお前の顔があんまり不安そうだったからついな」

 

 

「すみません、気を使わせてしまって……」

 

 

「気にすんな!こんな時くらい先輩面させてくれよ。頼りたい時は何時でも頼れ。吐き出したい事があれば何時でも吐き出せ。何か他に不安が有るんだろう?」

 

 

「真冬艦長……」

 

 

「ここじゃなんだな。自分の艦に戻る前に弁天によってけよ。話を聞くぜ」

 

 

真冬はそう言うとニッと笑う。

 

その笑顔にもえかは安心感を覚えた。

 

 

 

兄弟がいないもえかにとって真冬の自分への対応はとてもありがたかったのだ。

 

 

 

もえかは頷き、3人は弁天へと歩いていった。

 

 

 

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異世界艦隊 東進組

 

スキズブラズニル  研究ラボ

 

 

 

博士 美波 ヒュウガ 蒔絵は、それぞれの研究の話し合いをしていた。

 

 

 

 

「それでは互いに研究の途中経過を発表しましょうか」

 

 

 

博士が切り出し、美波が初めに前に進み出る。

 

 

 

 

「超兵器による思考汚染に関する内容だが……まずは¨超兵器ノイズとはどの様なものなのか¨という所から説明の必要があるな。それについては――」

 

 

 

 

「私がお答えするわね」

 

 

 

大戦艦ヒュウガが声をあげる。

 

 

 

 

「あのノイズは時空の歪みによって生み出されている可能性があることが解ったわ。正確に言うなら、レーダー波が時空の歪みの干渉を受けた結果、正確な探知が出来ず、ノイズという形を取っているか、若しくは時空の歪みの発生と同時に、レーダー波に影響を及ぼす、別の波形を発しているか……ね」

 

 

「そんな……時空に干渉する程の何かが存在すると言うのですか!?」

 

 

 

 

驚愕を隠せない博士に対し、美波とヒュウガは頷く。

 

 

 

 

「これもヒュウガの調査で判明したんだが、超兵器機関はどうやら¨反物質¨で形勢されていることが判明した」

 

 

「なんですって!?あり得ません!だって私は、元の世界で超兵器機関の一部を調べたんですよ?反物質で有るなら、あらゆる物質と対消滅反応を起こして消滅してしまう筈では!?」

 

 

「それはヒュウガでも特定することは叶わなかった……だがこれだけは言える。超兵器機関はある種の有機的な反物質によって形成されており、何らかの超技術によって対消滅反応を押さえている。尚且つ、機関の一部を限定的に対消滅させ、その莫大な熱エネルギーを、超兵器の動力エネルギーに置換して動かしていると言うことだ」

 

 

 

 

博士が少しの間考え込み、口を開いた。

 

 

 

「成る程……これで確証を得ることが出来ました」

 

「確証?」

 

 

「はい。現在存在する超兵器は、形状だけで言うなら現代兵器の拡大版の様なものです。規模さえ少し押さえて破滅的な威力を誇る特殊兵装を装備しなければ、我々の機関でも運用は可能でしょう。故に今まで、不自然に思っていました。何故暴走し、自壊してしまうリスクを負っても超兵器機関を設置する必要があるのかと……」

 

 

「………」

 

 

「それはあの機関が、本来は¨超兵器に搭載される筈のない代物¨であり、それを無理矢理現代兵器と言う枠に押し込めた物だったとしたら……」

 

 

「本来、アレを搭載するべき¨別の兵器¨が存在する……と?」

 

 

「はい。我々は以前より超兵器機関が本来搭載されるべきであった。兵器を¨マスターシップ¨と呼んでいました。つまり、現在、世界に散らばる超兵器群は、マスターシップの試験段階の片割れなのではないかと推測します」

 

 

「北極海にいる超兵器がそうなのか?」

 

 

「解りません……とてもその様な余裕は有りませんでしたから。でもそれが最も近いのではないかと」

 

 

「だとすれば、艦長への思考汚染の元凶もソレとみて間違いないだろうな……。話を元に戻そう。先程も言ったが、あのノイズは、レーダー波に干渉する別の波形を発しているのではないかという説だ。私はこちらをの説を推奨したい。理由としては、艦長の脳波にノイズが現れた事に起因する。彼女は、マスターシップまたはマスターシップを製造した何者かの意思の干渉を受け、凶暴化したと見るべきだろう」

 

 

「ちょっと待って!」

 

 

蒔絵が美波の言葉を遮った。

 

 

「美波お姉ちゃんの言うことには一理あるけど、どうして明乃お姉ちゃんなの?それに影響が出る人と出ない人がいるのもおかしいよね?イオナには、影響があったって聞いたよ?」

 

 

 

 

蒔絵の言葉に博士も続く。

 

 

 

 

「シュルツ艦長にもです。艦長は超兵器の声のようなものが聞こえると仰っていました。私には聞こえないのに何故……」

 

 

「ここからは推測でしかないが、恐らくはそれが¨超兵器との絆¨なんだろうな……」

 

 

「絆……ですか?」

 

 

「ああ。播磨撃沈後の宗谷室長からの報告で知っての通り、艦長は異世界人であり、そして彼女がこの世界に転移する原因となったフェリーの事故――それは超兵器が起こした可能性が高い。それを裏付けるかのように、彼女は超兵器との戦闘中に意識を失い、その最中に事故当時の一部始終を何らかの意思によって追体験させられたと証言した。そしてその後超兵器の意思なる存在と接触したようだ」

 

 

「超兵器の……意思!?そんな馬鹿な!兵器が意思なんて――」

 

 

「ないと言い切れるのかしら。だって私も兵器ですもの」

 

 

 

ヒュウガの言うことに反論出来ず、博士は引き下がるのを見届けた美波は咳払いをして話を続ける。

 

 

 

 

「コホン……話を続けるぞ。超兵器の意思によれば、超兵器は多数の世界に現れ、自らを使用するに足る人物や国家を選定し、¨使用¨されることで世界を滅亡させてきたらしい。そして艦長はその候補として選ばれた。飽くまで超兵器の意思の言うことが本当ならの話だがな……」

 

 

 

 

「成る程……これで納得しました。超兵器が異世界から転移してきた可能性は、以前から考慮していました。でも何故ウィルキアだったかが謎だったんです。ウィルキア帝国の国家元首ヴァイセンベルガーは正に超兵器が自らを使用するに足る人物でしたから……。ですが何故艦長たちやイオナさんにしか声や干渉が行われないのでしょうか?」

 

 

「特定の人物のみに干渉する原因は、さほど難しくない。超兵器の発する波形を仮に【超兵器波動】と呼称するとして、ある意味電波と同じ作用を施すと仮定する。するとほら、携帯端末と同じだろ?特定の登録された人物(端末)に接触(電話)するようなものだ。登録とはつまり、超兵器との接点によるものだが、その中でも特にカリスマ性を有する人物が登録の対象になっているんだろう」

 

 

 

 

「でも群像艦長ではなくイオナ姉さまが選ばれたのは何故かしら?」

 

 

「そうだな……私はそちらの事情には詳しくないが、イオナさんには何かカリスマ性をようする何かがあるんじゃないか?」

 

 

ヒュウガは珍しく、真剣な表情で考え込んでいる。

 

 

 

そして――

 

 

 

「もしかして……だけど。イオナ姉さまは霧の艦隊を出奔する前には、超戦艦率いる総旗艦艦隊の直衛部隊に所属していたの」

 

 

「超戦艦と言うのは、君達が束になっても敵わないという例の?」

 

 

「そうよ。そして超戦艦は私たちへの指揮命令権を持っている。イオナ姉さまは、自分は千早群像に従うよう¨命令¨されたと言っていたわ。もしそこに総旗艦の意思が有るとしたらイオナ姉さまは……」

 

 

「ふむ。カリスマ性のある霧のトップの意思を受けた艦艇……ということか?」

 

 

「それなら、群像艦長でなくイオナ姉さまに超兵器が接触してきた理由としては妥当だと思うわ」

 

 

「漸くあらゆるピースが繋がってきましたね。問題は思考汚染への対策ですが……」

 

 

「方法は無い事はないのだが、如何せんデータが少なすぎる。もう少しだけ時間を貰えないか?」

 

 

「解りました。次に我が艦隊の新兵装についてですが……」

 

 

 

「じゃぁ私の番だね!」

 

 

 

蒔絵が元気よく声をあげる。

 

 

 

 

「防御の面は、ヒュウガが開発してくれた。特殊なユニオンコアを搭載することでクラインフィールドを発生させ、今まで、防御重力場でカバー出来なかった喫水下の防御も賄えるようにしたよ!メアリーと弁天には既に搭載済み。ただ、少しだけ制限があって、一定の距離にそのコアを制御するメンタルモデルがいないと発生させられない事と、やっぱり、本体と違って飽和しやすいから、飽くまで緊急時の為って考えた方がいいかも……」

 

 

「いえ。それだけでも有り難いです!しかし、コアは小さいですから、他国に奪取される危険があるのでは?」

 

 

博士の疑問にヒュウガが答える。

 

 

「心配はご無用よ。特定の艦船から一定以上離れると自動的に不活性状態になるようプログラムしておいたわ」

 

 

「解りました。ありがとうございます。後は私からですね。先日の超兵器戦に於いて、光子榴弾砲が、暴走した超兵器に致命的打撃を与えられなかった件を考慮して、光子兵器を砲弾ではなく魚雷にて発射する案に変更致しました。此ならば、防壁のない喫水下へ直接攻撃が出来ます。あともうひとつ、はれかぜの強化についてですが、今まで解明できなかった、超兵器シュトゥルムヴィントが装備していた謎の推進装置と舵装置の解明がヒュウガさんのスキャニングによって成されたことを受けて、パナマ突破までに製造取り付けを行いたいと思います」

 

 

「更に……だけどイオナ姉さまの艦首についている指向性スラスターも私が再現して取り付けてあげるわ。そうなれば旋回性が更に上がるしね」

 

 

「うむ、感謝極まりない。我々は飽くまでブルーマーメイドだからな。素早さと小回りがきけば、救助の面でこれ程心強い物は無いだろう」

 

 

 

「それでは、今の重要案件を含めた内容を報告書に纏めて、シュルツ艦長や宗谷室長に提出します。その他、報告が有れば随時ご連絡下さい」

 

 

一同は頷きを返す。博士もそれを確認すると、報告書を纏めるため、自分の机へと戻って行った。

 

 

 

   + + +

 

 

スキズブラズニル 屋外

 

 

 

明乃はタブレット端末にあるウィルキアが提供した超兵器リストを神妙な面持ちで見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「【フォーゲルシュメーラ】日本語で【鵺】……か。災害、病気、そして戦の触れとして現れる凶獣。私のお父さんと、お母さんの………仇」

 

 

「岬艦長?」

 

「うわぁぁ!」

 

 

 

 

突然後ろから話しかけられ、明乃が慌てて

振り向いた先には――

 

 

 

 

「し、シュルツ艦長!?それに、千早艦長も……」

 

 

「ええ、少し打合せがありまして……それよりこんなところで何をされていたんですか?」

 

 

明乃は慌てて端末を後ろに隠す。

 

 

それを見てシュルツの表情が険しくなった。

 

 

 

 

「フォーゲルシュメーラ…あなたの両親の仇」

 

 

 

 

そのシュルツの言葉に全てを察した群像も、表情が硬くなる。

 

 

明乃は、気まずくなって二人から目をそらす。

 

 

「最近の大戦艦ヒュウガの造った、新型兵器の試乗テストを勝手出ているらしいですね」

 

 

「我が艦隊からも、建一さんがあなたの指導にあたっているとか……」

 

 

「………」

 

 

「岬艦長。お気持ちはお察しします。ですが復讐は――」

 

 

「解ってます!こんなの意味が無いことだって……虚しいだけだって!確かに、アレに対して何も思うところが無いと言えば嘘になるかもしれない。でもそれだけじゃない。解るんです、きっとアレは私達を……はれかぜを狙ってくる。そして、私の目の前で多くの仲間を殺す。あの時みたいに………お父さんとお母さんを殺したあの時みたいに!」

 

 

 

「岬艦長……」

 

 

「シロちゃ……いや、宗谷副長から聞きました。千早艦長のご両親の事……私は、千早艦長のように自分の両親を奪った者と手を取り合っていける程大人じゃないし、シュルツ艦長のようにいつも冷静ではいられない」

 

 

「………」

「………」

 

 

「でも、これ以上は失いたくない!もう、あんな悲しい別れは嫌なんですだから!」

 

 

「一人で決着をつける……と?」

 

 

「そう思っていました。つい最近までは……でもここ数日、ウィルキアや蒼き鋼の皆さんと交流して思ったんです。皆、笑顔でとても良い表情をしていました。きっとそれぞれの艦長が皆を思いやっている結果なんだろうなって。そして、その仲間を死なせない為にも、敢えてその仲間を頼って生かしている。今まで私は、自分一人で全ての物事を解決しようとしていました。でも私は人間で、神様でも悪魔でも、ましてや超兵器でもない。一人で出来ることには限りがある。だから、こんな私から言うのは差し出がましいのかもしれませんが、どうか私の仲間を助けるのを手伝って頂けないでしょうか?」

 

 

 

 

明乃は唇をギュッと結んで頭を深々と下げた。

 

暫し沈黙が流れ――

 

 

 

「それは¨あなたを含めた全員¨が超兵器を打倒し生還したい……と言う解釈で間違いありませんか?」

 

 

「……はい!」

 

 

「解りました……こちらとしても最大限のバックアップはさせて頂きます。ですから必ず……死なないで下さい。無理だと思ったら直ぐに退避をしてください。解りましたね?」

 

 

 

「…はい。はい!ありがとうございます。では、私はこれで」

 

 

 

 

明乃は走り去っていく、途中何度も振り返り頭を下げながら……

 

 

二人はその姿が見えなくなるまで見送った。

 

 

「まさか岬艦長が他人を頼られるようになるとは思いもしませんでした」

 

 

「嫌ですか?」

 

 

「いや、そう言う意味では無いのですが、なんと言うか……¨成長されたな¨と」

 

 

「同感です。海洋技術学校でも、真に優秀な指揮官は仲間の心を背負い、仕事を仲間に任せ、または任せることの出来る人材を育てる事が出来る人物だと教わりました」

 

 

「やはり千早艦長はとても聡明な方ですね……必ず彼女を生かしましょう。その為には先ずは、最初の寄港地であるハワイを乗りきらねば……」

 

 

「やはりアメリカが?」

 

 

「日本政府に圧力をかけてきたと考えるのが自然でしょう。我々の技術の盗用だけは阻止せねばなりません」

 

 

「俺に出来ることがあれば何時でも伺います。内通者の件も有りますし……」

 

 

「お気遣い感謝します」

 

 

二人は海を見つめる。

 

 

楽園と唱われるハワイに向かっていると言うのに、二人の表情はあまり優れたものではなかった。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

ハワイ オワフ島 真珠湾

 

 

 

 

先日の超兵器播磨率いる艦隊に壊滅的攻撃を受けたハワイの港には、破損船隊の引き揚げ作業や、復旧作業を進めるため、本国から、ブルーマーメイドと、アメリカ軍太平洋艦隊、計20隻余りが増援に訪れていた。

 

 

アメリカ海軍司令官アンドリュー・ジョーンズは、自艦の艦橋にて復旧作業を眺めている。

 

 

 

中年の副長が気まずそうにジョーンズに話し掛けた。

 

 

「司令官……復旧作業にもっと人員を割いた方が宜しいのでは?」

 

 

「フンッ!そんなもの人魚にでもやらせておけ!全く……あいつ等さえいなければ、今頃は我々にもっと予算が割かれ、戦力や活動の幅も広がったと言うのに!」

 

 

 

 

ジョーンズは近くで活動するブルーマーメイドの艦を睨み付けた。

 

 

彼の大柄の態度に副長は溜め息を付く。

 

 

「司令官。レーダーの監視は……」

 

 

「適当にやっておけ!どうせ奴等もやってる。私達の仕事は、異世界の連中が来るまでここで復旧作業を¨監督¨し、奴等が到着したら、あの人魚共を追っ払って本国から来る連中が到着するまでの間、奴等をここに留めて置くことだ!」

 

 

「…はっ!了解しました」

 

 

 

ジョーンズは未だ不機嫌そうな顔でブルーマーメイドを見ていた。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

ハワイの東およそ100海里

 

そこに佇む1隻の巨大艦――

 

 

その姿は、異様であった。

 

 

まるで巨大で図太い魚雷が海面に浮いているようにも見え、更にその上部は空母の様に平らな甲板になっており、プロペラのついた艦載機が並んでいる。

 

 

その艦載機の七割が機体の下部に爆弾や魚雷を抱いており、先日の奇襲攻撃で疲弊したハワイを蹂躙するには十分だった。

すると巨大艦の甲板部分のみが急に回転しだし、攻撃目標であるハワイを向く。

 

 

 

 

そして、艦載機は一斉にエンジンを点火して先頭の艦載機が飛び立ち、次の機体もそれに続く。

巨大艦の周りの空はあっという間に航空機で埋め尽くされた。

 

 

 

最後の一機が飛び立ち、編隊に加わると、

艦載機達は一斉にハワイのオワフ島へ向かっていった。

 

 

   + + +

 

一方の増援ブルーマーメイドの旗艦 インディペンデンス級 【トーマス・ワグナー】艦長カトリーナ・スミスも、不機嫌な表情を隠すことなく、アメリカ海軍の艦船を睨み付けていた。

 

 

 

「一体どういうつもりなの!?自国の仲間が沢山死んでいると言うのに、ろくに作業を手伝いもしない。市街地だってある程度被害を受けた。民間人だって、まだ多くが瓦礫の下に埋まっている。ブルマーと軍の違いこそあれ、同じアメリカ人だと言うのに……」

 

 

スミスは、米軍の態度に怒り心頭の様子だった。

 

 

その頃

 

 

トーマス・ワグナーのレーダーには複数の点が写し出されていた。

 

電測員の一人が異変に気付く。

 

 

「ねぇ!ちょっと来て!何かレーダーが変なの!」

 

 

「何かあったの!?」

 

 

同僚が駆け寄りレーダーを見つめる。

 

 

「この反応は航空機?オワフ島の西と北側から来ているわね。ん?ちょっと待って?東側に急に超兵器のノイズが!しかも……2つ!?」

 

 

「でも話に聞いていたノイズよりもかなり小さいわね。日本から提供された情報によれば、超兵器級が発するノイズならもっと巨大な筈よ。航空機を搭載している超兵器空母級である可能性は低いんじゃないかしら」

 

 

「だとすれば、西側と北側に写っている反応は、異世界艦隊からの増援?」

 

 

「確証はないけど多分……それにたとえ敵の航空機だとしても、水深が浅いから、日本の横須賀の様に雷撃は無いと思うの。この間の襲撃だって爆撃のみで雷撃は無かったらしいし、今回だってきっと爆撃機と護衛の航空機が中心の部隊よ。攻撃の目的が解っていれば、予測して迎撃するのはわけないわ」

 

 

「一応艦長に報告しとく?」

 

 

「そうねぇ……念の為報告しておくわ。あなたは引き続き監視を継続して頂戴」

 

「解ったわ」

 

 

   + + +

 

隊員の予想は外れていた。

 

 

巨大艦から出撃した航空機は、途中で2手に別れ、オワフ島の西側と北側に回り込み、山脈を越えるルートを選んでいた。

 

 

 

更に、巨大艦はレーダーに捕らえられるタイミングで超兵器機関を停止し、無音でオワフ島に接近していた別の2隻の¨超兵器潜水艦¨を再始動。それらのノイズを発生させる事により、今回の攻撃を飽くまで東側から行い、逆方向から接近する航空機を異世界艦隊からの増援と錯覚させたのだ。

 

 

航空機達は住宅の屋根スレスレの超低空で真珠湾へと向かう。

 

 

 

 

この段階で、彼等の存在に気付いたのはまだ一部の住民だけであった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「なぜもっと早く報告をあげなかったの!」

 

 

スミスは部下に激怒した。

 

 

 

「そ、それは……この航空機であろう反応が異世界艦隊の増援かと――」

 

 

「そんなことあるわけ無いでしょう!なら何故わざわざ2手に別れて島に来る必要があるの!?西側は我々を、北側は市街地、そして2隻の超兵器は、湾内から逃げようとする艦船を狙っている。いい!?私達は既に¨囲まれて¨いるのよ!」

 

 

「そ、そんな……」

 

 

スミスの鬼気迫る表情に、部下の顔から血の気が引いていく。

 

 

「早く!全員を戦闘配置につかせて!勿論メンバーの中に入っている¨学生¨にもよ!」

 

 

「しかし彼等は正規の隊員ではありません。怪我をしないよう、どこかに避難させないと、後から我々が処分の対象になります」

 

 

「あなた……航空機が相手でこれからそんなことする暇があると思うの!?それに奴等を撃墜しない限り、何処へ逃げても必ず皆殺しになる。責任は私が取ります!命令よ!今すぐ全員を戦闘配置につかせなさい!」

 

 

「は、はっ!」

 

 

 

部下は敬礼を返し伝令に向かう。

 

スミスは苛立ちながら、アメリカ海軍の艦船に視線を向けた。

 

 

(くっ!どうせ監視も私達任せなんでしょうね……全くこの非常事態にっ!)

 

 

彼女は歯噛みしつつも近くにいた別の部下に指示を飛ばした。

 

 

 

「誰か!あの¨怠け者¨共に敵が来たと伝えて頂戴!」

 

 

「はっ!」

 

 

部下はすかさずアメリカ海軍に通信を行った。

 

 

 

 

(よし。これで体制は整っ……何!?)

 

 

スミスは遥か向こうから接近する敵の姿を視認する。

 

 

 

しかし、先日戦ったブルーマーメイドからの情報と明らかに異なる点がある。

 

 

 

余りにも¨低空¨で接近してきたからである。

 

 

 

そして、その下部には、

 

 

「魚雷!?馬鹿なっ!真珠湾の深度では、航空機からの雷撃は不可能な筈……」

 

 

 

 

スミスの声が艦橋に虚しく響いた。

 

 

 

ブルーマーメイド艦隊の誰もが、敵は遥か上空より飛来すると思っている為に、機銃も意識も未だ上方に向いており、ろくな迎撃体制もとれていなかった。

 

 

 

 

その隙に、雷撃機はおよそ10mという超低空で真珠湾内部に侵入し、個々の狙いを定める。

 

 

 

そして――

 

 

ガチャン!

 

 

航空機から切り離された魚雷は水面へと着水し、海底に激突することなく一直線で獲物へとひた走る。

 

 

 

 

「くっ!各艦、魚雷迎撃用意!急げ!」

 

 

 

 

 

スミスが叫んだが、対応するには余りにも遅すぎた。

 

 

 

魚雷が向かっているブルーマーメイドの戦闘艦の甲板上にいた隊員の数名がかんぱんから海をを覗き込む。

 

 

 

 

 

そこで見たものは、何本もの魚雷が自分の方に向かって疾走する様子だった。

 

 

「え!?ちょっ……嘘でしょ!?」

 

 

 

 

次の瞬間――

 

 

ボォォォォン!

 

 

 

 

「あ゛っ!」

 

 

 

 

魚雷が艦側面に命中し炸裂し、覗き込んでいた隊員達の体を粉々に吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

「こんな事になるなんて……」

 

 

スミスは警報の鳴り響く艦橋で唖然とする。

 

無理もないものの数秒で、見渡す光景が楽園とは程遠い黒い煙が立ち上る地獄へと一変していたのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂き有り難うございます。

突如として始まって仕舞いました…。

果たして相手は……。


それではまたいつか。










とらふり!  1/144ちょうへいきふりいと



播磨

「おっ!始まった始まった!今度は誰が活躍するのかなぁ。私も行きたいなぁ…。」



荒覇吐
「私達は沈んじゃったから行けるわけないでしょ!我慢しなさい!」


播磨
「何さケチンボ!旗艦は私なの!そっちこそ言うこと聞きなさい!」


荒覇吐
「か、神に逆らうと言うわけね…。いいわ。あなたに神の鉄槌を下してあげる!」


シュトゥルムヴィント
「まままま、2隻共…落ちついて!」


播磨&荒覇吐
「うるさい!」

ボォォォン! フィィィン!ガリガリ!


シュトゥルムヴィント
「ぎゃぁぁぁぁ!」


近江
「また始まっちゃった…。いいわ。私だけでも彼女達を応援しましょう。ま、飽くまでこれは挨拶みたいなものなのだけれどね…」






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