トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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お疲れ様です。

今回は副長達をメインにかいてみました。

それではどうぞ


副長達の宴

   + + +

 

 

ここはスキズブラズニルでも特に異質な場所。

 

その場所とは……

 

 

 

「せーのっ!お疲れ~!」

 

 

 

普段の緊迫した雰囲気から解放され、のびのびとした声が飛び交う。

 

 

 

スキズブラズニルの憩いの酒場【クヴァシル】

 

 

 

 

国を追われたウィルキア共和国軍は、事実上ドック艦スキズブラズニルが活動の拠点であった。

 

 

 

最初こそ軍の士気は高かったものの、いつ終わるかも解らない帝国との戦争に兵士の精神は徐々にボロボロになって行き、艦内でのいざこざや、遠征地での酒類の窃盗未遂等々、モラルが著しく低下した。

 

 

 

勿論ウィルキアの看板を提げている以上、他国に恥を晒すわけにはいかず取り締まりを強化する事となった。

 

 

 

だが、その事がかえって兵士達のストレスを助長、並びに士気の更なる低下を生む結果となり、実戦における負傷者や戦死者を多数出しかねないような致命的なミスを連発するようになったのだ。

 

 

事態を重く見たシュルツは、ガルトナーと相談し、食事等のメニューの一新と、月に二回程度酒を飲んだり息抜きをする機会を設け、その為に限られた財源を使いスキズブラズニルの一画を改装した。

 

 

 

結果、普段訓練や前線で中々言いづらい問題点等も酒を通したコミュニケーションで改善したり士気が向上したことで負傷者や戦死者が減少し、超兵器討伐に一役買うことになった訳だ。

 

 

 

 

だが、ここで忘れてはならないのがその財源である。

 

 

 

 

彼等には本来、補給や給与を支払うべき雇い主、即ち¨国家¨が無く、また戦争を引き起こした戦犯国としての立場上、補給や財源の確保は急務であった。

 

しかし皮肉な事に、帝国による超兵器の運用が、世界各国で国家内の親帝国派と反帝国派の内部分裂を生み、奇しくも国を追われたシュルツ達と同様の構図が作り出されたのである。

 

 

それによってウィルキア解放軍は、各地の反帝国派から支援や補給を受けることに成功し、更には各国の輸送船団や艦隊の護衛、通商破壊部隊の撃滅など危険度や難易度の高い作戦を進んで引き受けることで信頼を勝ち得たのであった。

 

 

それは現世界でも変わらず、横須賀での超兵器襲撃の際のシュルツや蒼き鋼の行動は、日本政府からの早急な支援に繋がった事は言うまでもない。

 

 

そしてそれが今日のクヴァシルでの息抜きに繋がっていく。

 

 

 

 

戦争経験の薄い現世界の人間と戦争続きだった異世界の面々の精神は、予想以上に疲弊しており、欧州での戦いに向けて一度頭を整理する上でも必要になるとシュルツは以前から思っていた。

故に、硫黄島での演習の際に日本政府から、資材や弾薬のみならず、食料品や酒類も運搬するように要請していたのであった。

 

 

 

 

 

そんな苦労の結晶とも言える酒場のカウンター席には、女性が座っていた。

テーブルの上には飲み干したカクテルのグラスがあり、女性はその中にあるチェリーを指でつつきながら虚空を眺めていた。少しトーンを落とした照明と時折吹き込んでくる潮風がなんとも心地がいい。

女性は少し瞼を閉じる。

すると彼女の思い人の顔が一瞬浮かび、直ぐに目を開いた。

 

 

「はぁ……」

 

 

「どうしたの宗谷さん?」

 

「ん?ああ……何でもない」

 

 

 

 

宗谷真白は溜め息をつき、バーテン姿の藤田優衣は首をかしげた。

 

 

 

 

「しかし、藤田さんも大変だな。こんなときまで仕事なんて……」

 

 

「そんなこと無いよ。私の事はいいから今は少しでも仕事の事は忘れて心を休めて行って」

 

 

「ああ、済まないな」

 

真白は優衣に笑顔を向けた。

 

 

 

 

すると……

 

 

 

 

 

 

「宗谷副長?」

 

 

 

 

突然声を掛けられ、振り向いた先には……

 

 

 

「ヴェルナー副長……お出でになられていたのですか?」

 

 

 

「はい。夜は非番になりまして……良かったら隣宜しいですか?」

 

 

「も、勿論です〃〃」

 

 

 

 

慣れない外国人、しかも男性であり、甘いマスクと優しい性格でウィルキアの女性士官からも人気が高いヴェルナーがいきなり現れ、真白は少し動揺した。優衣もヴェルナーの顔をみて少し頬を赤らめている。

 

 

 

「ウィスキーを一つ」

 

 

「か、かしこまりました〃〃」

 

 

 

 

ヴェルナーはウィスキーを注文すると、真白の隣に座るそして目の前に置かれたウィスキーを口に運びフゥと息を吐き、それからその外国人特有の蒼い瞳で真白を見つめ、笑顔で語りかけてきた。

 

 

 

 

 

「改めまして、初めての超兵器戦の勝利、おめでとうございます。」

 

 

「そ、そんな私達は何も……はれかぜだってあなた方の艦を借りているだけですし、横須賀の時や対空戦闘のノウハウを教えて頂いたのもあなた方ですから」

 

 

「ご謙遜を……貸したから直ぐ使える訳でも、教えたから直ぐ出来る訳でもない。あれはあなた方の実力だと思っていますよ」

 

 

 

 

「い、いえ…それは艦長がとても素晴らしい人で………」

 

 

 

 

それを聞くとヴェルナーは、少し寂しそうな顔をしてもう一口ウィスキーを口に運んだ。

 

 

 

 

「艦長ですか……あなた方の艦長はどのような方なのですか?私はシュルツ艦長と違ってあまり話す機会が無いものですから」

 

 

 

真白は明乃の事を想像した。

 

 

 

 

 

「艦長とは学生時代からの付き合いで……で、でも、昔から艦を放り出して救助に向かったり、規則は無視するし、皆や私の事を役職じゃなくてあだ名で呼ぶし……いつも尻拭いをする私の身にもなって欲しい!って思って、私の方が艦長に相応しいのに何で?って思ってました。でも、肝心な時の判断は凄く的確で、個人を生かす指示ができて、そんな艦長に皆がついていって、落ちこぼれって馬鹿にされた私達が武蔵を鎮圧出来る迄に成長させてくれたんです。嫉妬していたんたんですね……だって艦長は、私の目指したかったブルーマーメイドそのものだったんですから」

 

 

「ふふっ!好きなんですね……艦長が」

 

 

「ち、ちが。私は…その〃〃」

 

 

「私もそうですよ」

 

 

「え?」

 

 

「私と艦長は、士官学生時代の先輩後輩でしてね。他のエリートの方々とは違い、艦長はとても周りに細かい気配りの出来る方でした。それに実技、学科、体力と全てに置いて抜きん出た成績を残されていましたよ」

 

 

「そんなに凄い方なのですね……」

 

 

「ええ、故に憧れました。私もいつか先輩の様にと思っていました。でもいつしか私は、いつまで追いかけても追い付けない彼に劣等感を感じ卑屈になっていった」

 

 

「解ります……私も似たような感情を艦長に抱きました」

 

 

「そして、あの男の口車に乗ってしまったんです……」

 

 

 

「あの男?」

 

 

「私の父であり、超兵器で世界を蹂躙した帝国トップですよ。私はあの男に、解放軍の動きを密告するよう指示され、そしてそれに従った」

 

 

「なっ……!」

 

 

「多くの仲間が私の裏切りで……でも後悔はなかったんです。ウィルキア軍人として国に栄光をもたらす働きが出来る、私も先輩の様になれると信じて疑わなかった」

 

 

「そんなの間違っている!」

 

 

 

「その通りです。解放軍が快進撃を続けたことにより、各地の反帝国派が勢いづきました。その勢いを削ぐためにあの男は、超兵器を民衆の虐殺の為に使い始めたのです……」

 

 

「そ、そんな……」

 

 

「私は各地で超兵器の起こす惨劇を目の当たりにし、父の考えに疑問を抱くようになった。しかし、父を裏切る事は出来ない…でも先輩を裏切る事も出来なかった。そして私は、先輩を呼び出し、全てを打ち明けて自害する道を選んだ」

 

 

「え……」

 

 

「だが死ねなかった。先輩が身を呈して私のピストルを奪い、銃弾は私の頭を掠めただけだったんです。本当はその場で射殺しても良かったし、司令部に突き出しても良かったのに……あの人は自分の裏切りを他の者に隠して任務を続けた」

 

 

「シュルツ艦長が……」

 

 

「今でもあの人の言葉を忘れる事は出来ません。【生きろ!生きて償え!生きてお前が奪った命の分だけ人を救え!】って……それで私は父と決別する道を選んだんです。本当にあの人には敵わない……」

 

 

「ヴェルナー副長……」

 

「すみません……暗い話になってしまって……」

 

 

「い、いえ。私も……」

 

 

 

「あれ?ヴェルナー副長じゃないですか!それに宗谷副長も。何を話されているんですか?私達も交ぜて下さいよぅ!」

 

 

 

 

二人が振り向くと、ナギとブラウン博士、そして筑波が立っていた。

 

 

 

 

「ナギ少尉?それに皆さんも……そうですね折角なのでご一緒しましょう!」

 

 

真白が言うと三人は席についた。

 

 

注文は筑波が日本酒

 

博士がワイン(赤)

 

ナギがビールとなった。

 

 

 

其々が、酒を口に運び至福の溜め息を吐く。

 

 

 

 

 

「そうだ宗谷副長。ヴェルナー副長と何を話されていたんですか?」

 

 

「うっ、それは……そ、そう艦長、互いの艦長について話していたんです」

 

 

 

 

興味津々に語りかけてくるナギに対し、話の内容が内容だけに、真白はかいつまんで答えた。

 

 

 

 

「艦長について…ですか。はれかぜの岬艦長はどのような方なのですか?」

 

 

 

 

「ははっ!たった今、ヴェルナー副長に話したばかりなので私は……それよりも皆さんから見たシュルツ艦長はどのような方なのですか?」

 

 

「ええ?ヴェルナー副長ズルイですぅ……でもそうですね。私にとっての艦長は、優しくて頼りになって……そう、それは私がまだ中等部の学生の時――」

 

 

「それでは儂から参りましょうかな」

 

 

「え゛!?筑波大尉、今私が――」

 

 

 

 

「シュルツ艦長は儂が教官を勤めていた学生時代からとても優秀だった。厳しい訓練にも顔色一つ変えずに良く付いてきたと思ったものです。そして、国を背負う立派な若者に成長された。」

 

 

(うっ!筑波大尉の訓練……)

 

 

 

 

真白は硫黄島での筑波の演習を思いだし、思わず顔をしかめるが、筑波はそれに構わず話を続けた。

 

 

 

 

 

「儂は我らの世界での超兵器戦で親友と敵対し、そして失いました…。艦長にとっても馴染みのある人物でしたが」

 

 

「そんなことが……」

 

 

「艦長は最後まで奴と……天城と戦うことに抵抗を持たれていた。まぁ殴って説得したのですがね」

 

 

「殴っ……」

 

 

「当然でありましょう。奴とて軍人。本気で我らと戦う所存であったことは確かでしょうし、そこで我らに迷いがあれば、間違いなく戦死者が出る。だから上官への無礼を招致でお諌めいたしたのです」

 

 

 

 

「筑波大尉はそれで平気だったのですか?」

 

 

「そうですなぁ……軍人としては割りきっておったつもりでした。しかし、艦長に拳をあげて起きながら儂も甘かったのやもしれません。敵の旗艦である超兵器に乗艦していた天城に何度も戦いを止めるよう投げ掛けた。奴がそれでも止まらない事を知りながら……」

 

 

「それで……」

 

 

「結局、我らは超兵器を撃沈しました。儂らは炎上する超兵器から退艦するよう何度も叫びました。だが奴は、艦長として超兵器と運命を共にした……親友とは言え敵です本来は手厚く葬られる事は無いでしょう。ですが、シュルツ艦長は我が友に敬礼を送り、沈んだ超兵器の中から奴の遺体を収容してた。そして、日本を牛耳っていた親帝国派を討伐後、横須賀で奴の遺体を家族に引き渡したのです。その際奴がいかに立派な軍人であった事と、そして奴に¨自分が止めを刺した¨事を家族に伝えた」

 

 

「そんな……なにもそこまでシュルツ艦長が背負わずとも――」

 

 

「あの方にとっては敵味方を問わず、犠牲を払ってしまったことに恥じ入る気持ちを持たれているのでしょう。勿論儂からも気に病む必要は無いと申し上げました。ですが、艦長は仰られたのです」

 

 

「な、何を……」

 

 

「【大尉殿の方こそ気に病む必要は有りません。私が殺したのです。そしてその罪を背負わずして、超兵器やウィルキアの犯した罪を償う術は無い】と……儂は軍人です。命令とあればいつでもこの身を国の為に捧げる覚悟は有った。だが、シュルツ艦長の言葉を聞き、この様な若者に戦争の重荷を背負わせた儂ら老獪の行いを改めて自覚し、そして後悔した」

 

 

 

「………」

 

 

「それに、この世界に来ても艦長はこんな私に配慮してくださった」

 

 

「どのような?」

 

 

「超兵器との戦闘です。あの中にかつて天城が乗艦していた超兵器があった。そう、【荒覇吐】です」

 

 

「な、なんですって!?」

 

 

「恐らく、天城の事で後悔していた儂への配慮でしょう。それに躊躇すれば犠牲を払いかねない。現状に置いては極めて合理的な判断だったと思います」

 

 

「シュルツ艦長はそこまで……」

 

 

「立派になられました。しかし、背負いすぎればいつかは潰れてしまう。故にこの老獪の勤めは、少しでも兵を鍛え、練度を高めて戦死者を少なくすることしかないのです」

 

 

「信頼されているのですね。自分達の艦長を……」

 

 

「はい」

 

ウィルキアの士官達は揃って酒を口に運んぶ。

 

 

 

グラスを置くと今度は博士が口を開いた。

 

 

「次は私の番でしょうか」

 

 

「あっ、ちょっと博士!次は私の番――」

 

 

「私はドイツで、科学者として新型の兵器の開発や研究をしていました。ウィルキアの侵攻の際、私は帝国の使者から更なる強大な兵器の開発を強要され、そして超兵器のニュースを知ってドイツから抜け出したのです」

 

 

「そうだったんですか」

 

 

 

 

「しかし、研究者として超兵器技術に魅力を感じなかったと言えば嘘になります。何せ超兵器は当時の技術を遥かに凌駕していましたから。ですが艦長に保護され、超兵器と戦ううちにその異常性と惨劇に打ちのめされ、未知の技術に出会えたことに、少しばかり浮かれた気持ちになっていた自分を恥じました」

 

 

「………」

 

 

 

「ですが、艦長はそんな私を軽蔑したりはしなかった。むしろ科学者だからこそ、人間の犯した過ちを正し、そして超兵器の無力化も可能だとそう説いていただいたのです」

 

 

 

 

「何となく解ってきた気がします。皆さんがシュルツ艦長を慕う理由が……」

 

 

 

 

「そうですね。あの方は普段何も仰いませんが、本当に困った時は抱き絞めてでも私の心を治めてくれましたから」

 

 

「そうですね……え?抱き絞め?」

 

 

「えっ!?ちょっと待ってください!今の話を詳しく!抱き絞めてってどういう事なんですか!まさか博士と艦長はもう――」

 

 

ナギが博士に詰め寄ろうとした。

 

 

博士はしまった…とでも言いたげな表情になり、周りを見渡して、言い訳の材料を探す。

 

 

 

すると……

 

 

 

 

「あ、あれは!」

 

「博士!誤魔化さないで――」

 

「織部副長!」

 

 

 

 

博士は大きな声で僧を呼んだ。

 

 

 

偶然近くを通りかかったらしい僧は、手に資料を持っており、こちらを向いては要るがやはり未成年と言うこともあり躊躇しているようだった。

 

 

 

だが、話を誤魔化したい博士は席を立ち、僧を引っ張って連れてくると、ナギの隣に座らせた。

 

 

 

「な、何を!私は今、レポートを艦長にみて頂こうと――」

 

 

「そんなこと言わずに!今、お互いの艦長について語り合っていたんです。千早艦長についても少しお話を聞かせて頂けませんか?」

 

 

「そう言えば、メンタルモデルの方とは、少しばかり話しましたが、千早艦長や織部副長とは話す機会が少なかった様に思います。是非聞かせてください!」

 

 

 

 

真白もこれ以上ゴタゴタする前に博士の提案に乗った。

 

 

 

僧は溜め息をつき、語り始める

 

 

 

 

「私と艦長は幼馴染みでして、昔は良く笑う普通の子供だったんです。しかし、霧の艦隊が現れ、軍で艦長を務めていた群像の父さんは、国を守るために出撃し、そして戻らなかった。群像の母さんはそれを悲観し自殺しました」

 

 

「……」

 

 

「その頃からでしょうか、群像が笑わなくなったのは。学院に入学してからも、まるで何かに取り憑かれた様に勉学に打ち込み、学院始まって以来の天才と称されていた。しかし教員からの評価の反面、あまりの優秀さによる周りからの妬みや人付き合いの悪さから、周囲から孤立していた。話すのは私や、明るい性格のいおりや杏平、位のものでしたから」

 

 

「そうだったんですか……」

 

 

「そんな群像を変えたのはやはりイオナでしょう」

 

 

「そう言えば、千早艦長とイオナさんの出合いについては詳しく知りませんでしたね……」

 

 

「私も群像から聞いた話ですので詳細まで合っているのかは解りませんが……」

 

 

「お願いします。聞かせてください」

 

 

 

 

「解りました。まずイオナですが、群像がまだ幼い頃…そうですね、丁度群像の父さんが殉職したであろう頃に突如横須賀に現れ、政府に拿捕された。政府は401を調査し、霧の艦隊への反攻の糸口を探った。しかし何も解らずただただ保管されることになったのですが…そして、群像が学院に在籍していたとき、将来士官として霧の艦隊と戦う事を運命付けられている成績上位者達に、401が公開かれた。その時でした。17年以上も起動することがなかった401が起動した。騒ぎはすぐに収まったものの、直後学院に謎の転校生が現れる事になる」

 

 

「それがイオナさん…と言うわけですね?」

 

 

「お察しの通りです。彼女の容姿は目立ちますからね、群像に話しかけて来たときは驚きました。それもわざわざ私達ですら触れない様にしていた群像の父親……千早翔像の名前まで出して」

 

 

「千早艦長のお父様の事が何故に禁句なのです?」

 

 

「群像が妬まれる理由の一つに、成績が優秀なのは、【軍の英雄だった父親のお陰で贔屓されている】と言うのがありましてね」

 

 

「酷い……」

 

 

「だからこそ最初は、イオナが自分をからかいに来たと思い、かなり不機嫌な顔をしていました。ですが、彼女の目的は違かった。その日埠頭に群像を呼び出したイオナは、起動させた401の船体を群像に見せ、自分の正体を明かした。そして千早翔像の息子である群像に従い、行動することが命令されていると語ったのです」

 

 

「何故亡くなったお父様の事が関係してるんです?それに霧は千早艦長のお父様の仇ですよね…言葉は悪いですが、もし私なら家族の仇と共になど歩みたくも無くなくなってしまうと思うんですが……」

 

 

「解りません。それを含めて調査の必要性が有るでしょう。しかし、群像の目的が仇敵の殲滅ではなく和平を望んでいる事は確かでしょう。推測ですが、きっと無謀な戦い挑み命を無駄に犠牲にするのであれば、対話により彼女達と交渉し和平を得た方が良いと考えたのかも知れません。群像と翔像さんの様な別れを皆に経験させない為にも……」

 

 

「千早艦長……なんだか大人ですね。私はそうも割りきる事は出来ない」

 

 

「それほど迄に、相手が強大な力を有していると言うことですよ。あなた方も見た筈だ、先の超兵器戦での彼女達の戦いを……参考までに申しますと、我々の国の艦船のレベルは航空戦力を差し引いてもあなた方より上です。それでも、霧の魚雷艇すら沈めることは出来なかった。それに霧は、駆逐艦 軽巡 重巡 大戦艦 海域強襲制圧艦 超戦艦とクラスが別れ先の超兵器戦後にヒュウガに聞いてみたところ、今回の超兵器クラスなら、海域強襲制圧艦クラスなら2隻で数十分、超戦艦クラスなら数分でケリが着くとの事でした。余談ですが、超重力砲は全人類との総力戦において一度も使用されておらず、そもそも使用する必要すら無かったとヒュウガから聞いています」

 

 

 

「そんな……あの超兵器を数分で!?まさか、何かの誇張でしょう?」

 

 

「残念ながら、艦隊旗艦を務めた経験もあるヒュウガのデータにあった情報より算出した結果ですから間違いないかと。現世界に転移している我々が超戦艦クラスと戦ったとしても、超戦艦クラスの25%の力にも及ばない事は初期の段階から解っていた。故に群像はここ数年、急にメンタルモデルを持ち、コミュニケーション能力を身に付けた彼女達と対話することにしたのです」

 

 

 

「え?元々メンタルモデルが有ったわけではなかったのですか?」

 

 

「そうですね。タカオによれば、人間の【戦略】を体得するために、人間とコミュニケーションを取ったり、人間の体を模する事で人間の思考を得ようとした結果として、メンタルモデルの形成に至ったようです」

 

 

「そうだったんですか……話が聞けて良かったです。千早艦長はあまり多くを語られない人ではありますが、敵であった霧とも、対話の道を選らび、そして現に共存を実現している方だ。同じ海の平和を守る者として、とても尊敬します!」

 

 

「そう言って頂けるのであれば幸いです」

 

 

 

様々な世界の事情に触れるこことが出来た。

 

 

 

それは今まで、苦境というものをあまり経験することが無かった真白にとって大きな財産になったことは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

「ところで皆さん。グラスが空になってしまいましたね。この辺で一度も乾杯しませんか?偶然ですが、ここにいる全員が副長経験者な訳ですし」

 

 

 

「そうですね。丁度喉も渇いてきた所ですし……あっ、織部副長は未成年でしたね。何がソフトドリンクでも飲まれますか?」

 

 

「いえ、私は水で結構です。私の世界では水は貴重品ですし、艦内の水は海水を濾過したものですから、出来れば天然の水を頂ければ」

 

 

「解りました。ご用意します!」

 

 

 

ナギの提案に全員が納得した。

 

 

 

優衣がそれぞれにグラスを渡し、代表として現世界在住の真白が音頭をとった。

 

 

 

 

 

「それでは乾杯します。3つの世界の平和に!」

 

 

「「3つの世界の平和に!」」

 

 

 

 

カチーン!とグラスを合わせ、副長達は互いの世界の平和を祈った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

酒宴は続き、酔いが脳を支配する頃……

 

 

「ヒッ!やっぱりぃ~♪かぁんちょうってぇ~チョ~格好いいですよねぇ~♪ヒック!」

 

 

1位通過で泥酔モードのナギが奇声を発するのを真白がジト目で横を見た。

 

 

 

 

(うわ~ナギ少尉って結構絡み酒だな……織部副長は論外としても、他のお三方は比較的まともそうだが……)

 

 

 

真白はナギに絡まれまいと視線をそらし、他の3人に視線を向けた。

 

 

一見顔色は変わらないようだが……

 

 

 

 

「そうですね。あの方は他の男の方には内容な魅力があります。だから皆が付いていくんで¨チョ¨」

 

 

(ん?……でチョ?)

 

 

 

2位通過エルネスティーネ・ブラウン

 

 

 

 

「納得ですね。あの方の伴侶となられる¨男性¨が羨ましい……(出来れば僕が先輩の――)」

 

 

(は?)

 

 

 

 

3位通過クラウス・ヴェルナー

 

 

 

 

「何を仰る!なんと破廉恥な!いいですかな?物事には順序と言うものが有ります!両親に挨拶も無く交際だなんて¨父さん¨は許しません!許しませんぞぉ!」

 

 

(………)

 

 

 

4位通過筑波貴繁

 

 

 

 

四人は完全に泥酔し、意味不明な言動に終始し

 

 

ている。真白は何やら嫌な予感を感じた。恐らく僧も同じだったのだろう。急に席を立ち、魔窟からの脱出を図ろうとした。

 

 

 

 

 

「それでは私はレポートの提出があるのでこの辺でぇぇぇえ?」

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

僧の肩を真白が掴む。

 

 

 

 

(織部副長!なに逃げようとしてるんですか!?私一人でこんなところに取り残されたら――)

 

 

 

 

今僧が居なくなれば、間違いなく一人で魔窟に取り残されるであろう真白は、懇願の目で僧を引き留めようとしていた。

 

 

しかし、僧も一歩も引かない。断固としてその場を立ち去ろうとする。

 

 

 

 

「で、では皆さん、お疲れ様でした」

 

 

 

(ぐっ!逃げないで織部副長!に、逃げるなぁぁぁ!)

 

 

 

 

必死ですがる真白を見捨てて逃走を図った僧だったが……

 

 

 

 

バフッ!

 

 

 

 

直後にナギにホールドされ完全に脱出の機会を逸する。

 

 

 

「あ~ん☆織部副長~まだ帰っちゃダメですよぅ~!あっ、10代の男の子手ってスベスベェ~♪それにココもカ・タ・イ・ですね!」

 

 

 

 

「え、ええ……マスクですからね」

 

 

 

 

ナギに手とマスクを被った顔を撫で回される僧からは、悲壮感が漂っている。

 

 

 

そのままナギに腕を固められ座席まで連行、着席…もとい拘束された僧は完全に項垂れていた。

 

 

 

そんな僧に構わず、ナギは手を上げた。

 

 

 

 

「はい!はぁ~い!突然ですがぁ~みんな大好き艦長様を¨でぇいと¨に誘うなら何処がいいですか!」

 

 

「!!!?」

 

 

 

 

明乃と自分が仲良くデートしている光景を真白は想像してしまい、急に酔いが回りだして顔が熱くなるのがわかる。

 

 

 

そんな真白を余所にナギは順番に聴いていく。

 

 

「はい!それじゃ筑波大尉から!」

 

 

「そぉさのぅ~まずは横須賀の工厰を見学して頂きます。昼食はやはりカレーですかな!それから戦艦三笠を見学して頂いて――」

 

 

 

 

「大尉、それはデートじゃなくて¨視察¨ですぅ!じゃぁ次はヴェルナー副長!」

 

 

 

 

 

「ぼ、僕は、将来二人で住む部屋のインテリアを二人で見て回りたいです。それから夜は二人で航空機に乗って綺麗な夜景を見――」

 

 

「なんか気持ち悪いです……じゃぁ宗谷副長!」

 

 

「わ、私は……しょ、しょのぅ……艦長はイルカが…しゅ、好きだから!一緒に水族館に行ってイルカショーを……見たいなぁって…は、恥ゅかしい〃〃」

 

 

 

「ベタですね……」

 

 

「………」

 

 

「それでは次は織部副長!」

 

 

「そもそも群像と私の男同士で交際と言う前提に疑問は有りますが……まぁそうですね、強いて一緒に向かうとすれば、図書館でしょうか。海洋が封鎖されている今、外国の知識は本でしか得られませんからね」

 

 

「つまらない……」

 

 

「………」

 

 

「むぅ!では最後ブラウン博士!」

 

 

「そうですね。まずは二人きりで超兵器の無力化についてじっくり話し合った後、この間のように艦長の自室で激しく――」

 

 

「ちょっと待ったぁぁぁ!なんですかそれ!何で博士が艦長と激しく……この間っていつですか!?」

 

 

「超兵器を撃沈した晩にです。あぁ……まだあのときの艦長のベッドの香りが頭から離れなくてもぅ……」

 

 

「きぃぃぃぃ!許さない!絶対許さないですぅ!」

 

 

 

「う、嘘だ!そんな筈はない!だって先輩はあの日、僕のベッドで寝たんだ!だから博士とはあり得ない!だって……んふぅ…あの臭いは間違いなく先輩の……あぁ!」

 

 

「いや、あの日の夜は艦長と儂で江田を蒼き鋼に受け入れて貰えるよう、千早艦長に頼みにいっていたのだ。故に真に二人きりなのはこの儂だ!そうでしょう?織部副長!」

 

 

「ま、まぁ、現場に私も居ましたし……」

 

 

「そんな……じゃぁ私の会った艦長は偽者?」

 

 

「まさか……僕は筑波大尉との後に――」

 

 

「きぃぃぃぃ!皆さん許せません!抜け駆けなんて酷いですよぅ!」

 

 

「ギャハハハハ!」

 

 

 

 

 

僧は、全く意味不明なウィルキアの副長達の会話とそれに爆笑する真白を見て溜め息をついた。

 

 

(ああ…逃げ出したい!)

 

 

 

 

 

しかし、そんな僧に更なる災難が襲いかかる。

 

 

 

 

 

「そう言えばぁ~織部副長の素顔ってどうなってるんです?」

 

 

 

「!!!?」

 

 

 

 

 

ナギの疑問に僧は驚愕した。

 

 

 

 

「私も気になっていました。これを機会に是非素顔を見せていただければ……」

 

 

 

 

「いや、これはアレルギー防止の為のマスクですから取り外す訳には……」

 

 

「皆自分をさらけ出したんです!織部副長だけズルいですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

僧は固辞するが、先程まで比較的まともだった真白も今や泥酔組に呑み込まれ、最早逃げ道は無く、僧は観念したかの様に溜め息をついた。

 

 

 

 

 

「はぁ…解りました。ただ少しだけですよ?でないと発作が起きてしまいますので……」

 

 

「わぁ~!!流石織部副長!」

 

 

「でもその前にちょっと待って下さいね。藤田優衣さん…でしたか?」

 

 

「は、はぁ――」

 

 

「少し向こうを向いていて下さい。決して振り向かないように。すぐ終わります。」

 

 

「わ、解りました」

 

 

 

 

 

バーデンをしていた優衣は、僧に背を向ける。

 

 

「それではいきますよ」

 

 

 

 

副長達のギラギラした視線が、僧に向けられる。

そして……

 

 

カパッ!

 

 

 

 

僧の素顔が露になる。

途端に副長達の顔が真っ赤になって行き、

 

 

「ひっ……ひぎゃぁぁぁぁぁ!」

 

 

フロアに悲鳴が轟いたのであった。

 

 

   + + +

 

 

僧の素顔を見たことですっかり酔いが覚めた僧を除く5人は屋外を歩いている。

何故か全員が頬を赤らめ、内股か前屈みになっており極めて歩きにくそうだった。

 

 

 

 

「ま、まさか織部副長があ、あんな……んっ…ふぁあぁ!」

 

 

「は、反則ですよあんなの…ひ、ひん!!」

 

 

「織部副長への認識を改めなければなりま……うっ?あぁっ!!」

 

 

 

 

 

女性陣はモゾモゾしている。

一方男性陣も……

 

 

 

 

 

 

「ま、まさかあんな若僧に……むっ…ぐぉ!!」

 

 

「あんな奇襲攻撃…た、堪えられませんよ…は……はぐっ!?ハァハァ――」

 

 

 

 

 

筑波とヴェルナーも荒い息をついていた。

頬を赤らめながらもゲッソリしている真白は、副長達提案する。

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ――あ、あの、織部副長の事は…ハァ…忘れましょう。これは夢…そう、酒に見せられた幻覚……と言うことにぃ…んっ!ふぅぁ!?」

 

 

「さ、賛成です……んっ!見ただけでコレじゃ、業務に差し障りがあります……から、幻覚と言うことで処理した方が良さそうです…ね……くぅあ!」

 

 

全員が身悶えながらも、真白の意見に賛同し、各々がフラフラと自分の部屋へと戻っていった。

 

 

 

   + + +

 

 

ヴェルナーはまだ完全に酔いが覚めていなかった。

 

 

「くぅ……まだフラフラする。少し屋上で風に当たった方がいいのかもしれない」

 

 

 

 

 

そう言うとスキズブラズニル司令塔の屋上へと、ゆっくり上がっていった。

 

屋上の扉を開けると、心地よい風が頬を撫でていく。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

ヴェルナーは騰がってしまった呼吸を整え、屋上の手摺付近のベンチを目指した。

 

するとそこに人影を見つける。

 

 

 

人影は手摺に腕をのせて海を見ているようだった。

 

 

 

 

ヴェルナーはそれを見て、一目でシュルツであると気付く。

声をかけようとしたが、その前にシュルツが振り向いた。

 

 

「ん?あぁヴェルナーか。どうした?顔が真っ赤じゃないか。あまり飲みすぎるなよ」

 

 

「も、申し訳有りません。そんなに飲まなかったのですが、何故か今日は酔ってしまって……以後気を付けます」

 

 

「まぁいい。確かにこうして意思疏通が可能であれば、それほどでは無かったんだろう」

 

 

「は、はぁ……それより艦長は何故ここに?確か当直だったでは?」

 

 

「今後について少し頭を整理したくてな。それでだなヴェルナー、お前に言っておきたい事があるんだ。まず、お前に聞いて欲しくてな、後で部屋に寄るつもりだったが手間が省けてしまった」

 

 

「え…それって〃〃」

 

 

 

 

少し頬を赤らめるヴェルナーに、シュルツはとても真剣な表情でヴェルナーに近付き、そして自分の気持ちを伝えた。

 

 

 

「察している通りだと思う。よく聞いてくれヴェルナー」

 

 

「は、はい!」

 

 

 

 

直後ヴェルナーはシュルツの口から衝撃的な言葉を聞くことになる。

 

 

 

「ヴェルナー……別れよう!」

 

 

「………え?」

 

 

 

二人の間に、潮風が吹き抜けていった。

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。

次回は第二章ですが
その前にキャラ紹介も入れます。

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