トライアングル・フリート   作:アンギュラ

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お疲れ様です

第一章 完結 となりました。

ここまで読んでくださった皆様に感謝申し上げます。

最後に第二章の予告っぽいものを入れてみました。

本当にアレを使うかは未定ですが、それに沿ったストーリーには成る筈です。

それではどうぞ


焦土の欧州

   

 

 

 

   + + +

 

 

 

「はぁ…はぁ…あ、うわっ!」

 

 

 

401に向かっていた芽衣はふらついて倒れそうになるのを小柄な人物が支えた。

 

 

 

「た、タマ?」

 

 

「うぃ」

 

 

「どうして……」

 

 

「一応は…病み上がりだから…無理は…ダメ!」

 

 

「でも……」

 

「ダ~メ!入口までは支えるから…後はメイが…それにメイは昔からとても…臆病……私が背中を押さないと肝心な所で逃げちゃう…ちゃんと向き合わなきゃ…ダメ!」

 

 

「タマ……」

 

 

正反対の性格の志摩と芽衣は、学生時代からとても仲良しで、親友とも言える間柄だった。

 

 

故にお互いの事はお見通しであり、いざという時に尻込みしてしまう芽衣をいつも志摩が支えていた。

 

 

「ありがとうタマ。途中まではお願い。でも最後だけは……」

 

 

「うぃ。解ってる」

 

 

 

二人は401へと歩いていく。

 

 

 

401の医務室付近に着いた二人は、中から声がするのが聞こえて立ち止まった。

 

 

どうやら声の主は筑波と江田のようである。

 

 

 

 

「意識が戻ったようだな」

 

 

 

「はい……」

 

 

「私がここに来た理由も解るな?」

 

 

「存じております……」

 

 

「いい覚悟だ。では伝えよう」

 

 

「はい……」

 

 

「貴様を現時刻を以て、ウィルキア共和国解放軍及び、大日本帝国海軍の全ての軍籍を剥奪するものとする。理由は作戦行動中における坑命行為、並びに独断専行によって、多数の人員と指揮系統に重大な損害を与えかねない事象を発生させた事である。本来ならば軍法会議にて貴様の処遇を決定するものであるが、異世界と言う事情を鑑み、現状における軍の最高指揮官であるガルトナー司令の一存にて決定を下したものである。貴様はこれよりは一般人だ。許可無く武器弾薬や戦闘に加わる事は許されん。艦を降りこの世界の保護を受けるも、我々の保護の下元の世界に帰れるまで同行するも貴様の自由だ。最も、我が軍が無事に帰れる保証もないし、一般人を養う物資的余裕も無いがな」

 

 

 

筑波はどこまでも冷徹に言い放つ。

 

 

江田は拳を握り締め、悔しさを滲ませ耐えるように筑波の話を受け止めていた。

 

 

 

 

「慎んで…お受けいたします……」

 

 

「そうか……」

 

 

「……っ!」

 

 

 

そのまま部屋を立ち去ろうとする筑波に彼は叫んだ。

 

 

 

 

「お待ちください!最後に一言…軍人としてではなく、一人の人間として言わせてください!」

 

 

「………」

 

 

 

「私は軍人失格でした。【軍人は大衆の為にあれ】そう教わって来たのに、最後の最後に一人の顔を思い浮かべてしまいました……途端に死ぬのが怖くなって…そしておめおめと恥を承知で生き残ってしまいました…本当に、申し訳ありませんでした!」

 

 

 

筑波は暫く黙っていたが、少しだけ振り返った。

 

 

「馬鹿者が……だが、私もだ」

 

 

「……え?」

 

 

「軍人として在りたい理由と生きたいと思う理由は違う。故に生きる理由があり、結果として大衆の為の軍人となれるのだ。私もアレの為に死ぬ訳にはいかんと常に考えておる。それにな江田、儂も一人の人間として貴様に言わねばならん」

 

 

 

筑波は少し震えた声で江田に呟いた。

 

 

 

「よくぞ生きて戻った…本当に、良かった」

 

 

「大尉……殿」

 

 

目を丸くする江田を余所に、筑波は部屋を出ていく。

 

 

 

 

出会い頭に彼と視線が合った二人は立ち竦むが、筑波はなにも言わずに歩き出した。

 

 

そしてすれ違い様に芽衣に呟く。

 

 

「私はあいつの翼を折ってしまった…だからお願いします。あいつの¨翼¨になってやって下さい……」

 

 

筑波は足早に去り、残された芽衣は呆然と立ち尽くす。

 

 

 

(翼になれって……そんなこと私には……)

 

 

 

そこへ……

 

コツン!

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

 

志摩が額を芽衣の額に当て、諭すように口を開く。

 

 

 

「メイ…大丈夫、大丈夫。私は…いつでもメイの味方だよ…だから」

 

 

 

彼女はクルっと芽衣の背中にまわりそして、

 

 

 

「ファイ…トー!」

 

 

 

トンと背中を押した。

 

 

 

「あ、わぁ!」

 

 

 

 

芽衣はよろけながら扉の前に立つ。振り替えると志摩がうぃ~と笑顔を見せていた。

芽衣は親友に頷きで答えると部屋へと入っていった。

 

 

 

 

「がんばれ!メイ!」

 

 

 

志摩はその姿を見送ると401の廊下を戻っていった。

 

 

 

 

芽衣が扉を開けると、直ぐに江田と目があう。

 

 

 

 

「い、西崎砲雷長?」

 

「てへへ~き、きちゃ…た」

 

 

 

芽衣は何とか笑って誤魔化すものの、本人を目の前にやはり狼狽えてしまう。

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 

嫌な沈黙が流れる。

 

 

芽衣は江田の体を見て話題を切り出した。

 

 

「し、心配してたよりは軽傷みたいですね。ほ、ほら、墜落した~なんて聞いたからもっとひどい怪我かと……そ、それに美波さんも大袈裟に右胴体が吹っ飛んだ~なんて言うから…もう~ひどいですよね」

 

 

「本当です」

 

 

「へ?」

 

 

「俺の胴体の大半はあの時失われ、今はナノマテリアルで人体の一部を復元しているだけなのです。本当なら俺はあの場で死んでいました」

 

 

「そ、そんな…だってこんなにしっかりとした手が……あっ」

 

 

 

 

芽衣が江田の右手を触るととても不快なヒヤリとした感触が手に伝わる。

 

 

 

 

「俺の半身は今や人ならざるもので出来ています。それも、メンタルモデルが演算を解けば砂となって崩れ去り。俺はただの死体に戻る」

 

 

「そんな……」

 

 

 

「あの円盤が砲雷長の乗った艦に近付きそうだったので、いてもたってもいられず、隊長の命を無視してしまいました……でも良かった、あなたはこうして無事に……」

 

 

 

パァンッ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

芽衣が思いきり江田の頬を張った。

 

 

驚く彼を余所に、芽衣は瞳に涙を浮かべ、悲しみと怒りが入り交じった表情を浮かべる。

 

 

 

「何が良かったなの!?あんなに…【死なないで】って言ったのに……自分の命を捨てないでって言ったのに!!何であんなことしたのさ!!」

 

 

「そ、それは……」

 

 

 

 

「ああ、そう言えば最後に誰かの顔が浮かんだんだっけ?あっちの世界に残してきた彼女か何か知らないけど、その人があんたが死んでどんな顔をすると思ってんの!?私の顔を見なよ!こんな顔!こんな顔すんの!大切な人が…大好きな人が死んで、【お国の為に命を捧げた立派な人です】なんて本心で喜んで笑う人がいると思う!?いる訳ないじゃん! それに残された人はあんたが居なくなって一体誰が幸せにすんの!?どこかで別な男の人と出逢って幸せになるとか考えてんの!?馬鹿だよっ!無責任だよっ!そんな回りくどい事するなら自分で幸せにしてよっ!生き残る事を考えて自分自身で幸せにしてあげなよっ!そんな事も解らないなんて……ホント…馬鹿だよ…大馬鹿だよ!!」

 

 

芽衣は、江田の胸板を叩きながら大粒の涙を溢して自分の胸中を吐き出した。

 

 

 

江田は黙って芽衣の気持ちを受け止め、そして泣いて自分の胸にすがる彼女を優しく抱き締める。

 

 

「……あ」

 

 

「そうです。俺は馬鹿だった。あの時もっと早くその事に気付いていればと悔いています。でも遅かった……敵にやられ、海に落ちていくその瞬間まで俺に後悔はありませんでした。でも最後の最後にある人の顔と約束が頭に浮かんだんです。それは、砲雷長……あなたです」

 

 

「わ、たし?」

 

 

「はい。意識を失う直前にあなたの顔と【私をもう一度空に連れていって下さい】と言うあなたの声が頭に浮かんだ。途端に死ぬのが怖くなった。俺が死んだ後に超兵器からあなたを守れないのも、他の男とあなたが結ばれるのもたまらなく嫌だった。だって俺は…俺のために真剣になって怒ったり泣いたりしてくれるあなたが…西崎芽衣さんに惚れてたんですから!」

 

 

「……え」

 

 

 

芽衣は目を丸くした。

 

 

 

「言えなかった……いや、言うべきじゃないと思ったんです。職種も文化も、何より住んでいる世界すら違う。私達は本来なら決して交わる事の無い時間のを互いに生きている。仮にどちらかが片方の世界を捨て、もう片方の世界で過ごさなければならないとしたら。結ばれてもきっと幸せになれないと、そう思ったんです」

 

 

「………」

 

 

「でもそれと自分の気持ちを伝えないのとは違う。死に瀕して漸く解りました。きっと俺の言葉があなたの足枷になるかもしれない。過ごせる時間は僅かかもしれない。それでも残された時間をあなたと…芽衣さんと共にありたい!もう一度言います。西崎芽衣さん…好きです」

 

 

 

 

身体を引き剥がし、芽衣の目を真っ直ぐ見て江田は自分の気持ちを伝えた。

 

 

 

しかし……

 

 

芽衣は目をそらしてしまう。

 

 

 

それを見た江田は悲しそうな表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

芽衣は完全に及び腰なっていたのだ。

 

 

無理もない。

 

 

江田の思い人が自分であった事もそうだが、今まで女所帯の中で生活していた為、一人の男性に真剣に告白された経験など芽衣にある筈もなく、更に江田自身の境遇や余命も限られているという事実に完全に頭が真っ白になってしまったのだ。

 

 

 

 

「ズルいよ……こんな状況で告白なんて…頭グチャグチャで、どう答えて良いのかなんて……解んないよ」

 

 

 

こんな逃げ腰の言葉を絞り出すのが精一杯だった。

 

 

 

だが、そこで親友の言葉が芽衣の心を前へ動かす。

 

 

 

 

《メイならきっと大丈夫だから…ファイトー!》

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 

芽衣は目を見開いた。

 

 

 

 

(タマ…うん!私、江田さんに……!)

 

 

 

「返事は無理をしなくていいです…芽衣さんを困らせてしまって、本当に申し訳な……」

 

 

 

パンッ!

 

 

 

「ああああああ!」

 

「め、芽衣さん!?」

 

 

 

 

芽衣は叫び、自分の両頬を手の平で何度も叩き、決意したような真剣な目で江田を見つめる。

 

 

 

 

 

「江田さん!私もあなたに伝えないといけないことがあるの」

 

 

「な、なんでしょう?」

 

 

 

「世界とか寿命とか職種とか関係ない!あなたは私をあんなに綺麗な場所に連れていってくれた人なの!だからどんなに短くても、一瞬でもいい!私はそんなあなたと一緒に居たい!」

 

 

「!!!」

 

 

 

 

 

そして芽衣は江田に思いきり抱き付いた。

 

 

 

 

「江田さん…大好きです!」

 

 

 

「本当に?俺でいいんですか?一緒に居られる時間は刹那かもしれないのに……」

 

 

 

「報われる一瞬にする!大丈夫、私があなたの翼になるから!」

 

 

「芽衣さん……」

 

 

 

二人は固く抱き締めあい、お互い顔を見合せると、芽衣が静かに目を閉じ少し顔を上に上げ、それに答える様に江田も芽衣の顔に自身の顔を近付けていく。

 

 

 

二人の唇が重なろうとしていた。

 

 

 

 

シャー!

 

 

「!」

 

「!!?」

 

 

「盛り上がってるとこご免なさ~い♪」

 

 

 

突如、隣のベッドのカーテンが開き、軽薄な声が聞こえてきて二人は慌てて距離を取る。

 

 

 

 

姿を現した人物とは……

 

 

 

 

「ヒュウガさん!?いつからそこに……」

 

 

「あらあら~いちゃまずかったかしら?私は¨最初から¨ここにいたわよ」

 

 

 

「じゃ、じゃぁ私達の会話も…」

 

 

 

「ぜ~んぶ聞いてました~テヘェ♪」

 

 

「……」

 

 

 

 

 

二人は恥ずかしさのあまり真っ赤になってしまう。

 

 

 

 

 

 

「まぁまぁそんな顔しないで。これを造るためにここで頑張ってたんだからぁ☆

 

 

 

ヒュウガが差し出した小さな丸い物体を手に取った江田の手には、金属質の割にはやけに軽い不思議な物が乗っている。

 

 

 

「これは一体……」

 

 

 

「これ?これは私が造った特別製のユニオンコアよ。これをあなたの体のナノマテリアルで構成された部分に融合させれば、別に私達がいなくてもあなたの身体をそのまま維持出来るようになるわ」

 

 

 

 

「「!!!」」

 

 

 

二人は目を丸くする。

 

 

 

 

「それじゃ江田さんはこのまま生きられるんですか!?」

 

 

「そゆこと。でも勿論欠点は有るわ」

 

 

 

「欠点?」

 

 

「そう。このユニオンコアはあなたの脳の電気信号を受信して失った部位の活動を補っているの。だから脳が何らかの原因で機能が停止した場合。ユニオンコアも活動を停止してただの銀砂に戻ってしまうわ。同様の理由で脳に酸素を送っている心臓の停止もやはりコアの活動停止に繋がるから気を付けてね」

 

 

「どうしてそんな縛りをつけたんですか?」

 

 

 

「当たり前でしょう?人間はいつかは死ぬ。だからこそ¨生物¨なのよ。コアが心臓の変わりをしてしまえば、事実上永遠に死ななくなってしまう。それは最早生物というカテゴリーから逸脱しているのではなくて?」

 

 

 

「あ……」

 

 

 

「だからこのコアには、あなたの残った生身の部分の老化現象に合わせてきちんと¨老化¨を再現するよう設定させて貰ったわ。あなたが、本来の寿命を迎えたとき、コアも共に…ってね。要は普通の人間同様に気を付けて過ごしてって事。ああ、融合したあとは自分の意思で動かせるし体温も元に戻るだろうから違和感なく使えるわよ。心配しないでねん」

 

 

「そ、そんなことが……」

 

 

 

「あれ?あなたはともかく、芽衣ちゃんは知らなかったの?確か美波ちゃんに言った筈なんだけど」

 

 

 

「え?」

 

 

 

芽衣はその時、はれかぜの医務室で美波がニヒルな笑い顔を浮かべる姿を想像し、同時にそれを知らずにさっきまで言っていた自分の台詞を思い出して真っ赤になってしまう。

 

 

(美波さん敢えて言わなかったなぁ……)

 

 

 

 

「あっ、そうだあなたの今後の身の振り方なんだけど………」

 

 

 

「俺は軍を追われてしまいました……」

 

 

 

「そぅ!正にその件の事で話しておきたい事があるの。あなたたちが丁度チュ~っといく辺りに連絡したからそろそろ来るはずよ」

 

 

「くっ……!」

 

 

 

からかってくるヒュウガに抗議したいが、江田の命の恩人ともあってなにも言い返せない。

 

 

 

それを知ってかヒュウガもニヤニヤしていた。

 

 

 

そんな気恥ずかしいやり取りが成されている中、扉がノックされ一人の男性が中に入ってくる。

 

 

 

 

「あなたは…織部副長?」

 

 

 

「ええ、改めまして蒼き艦隊で副長を務めます織部僧です。よろしくお願いします。ヒュウガ、用件はすみましたか?」

 

 

「滞りなく」

 

 

 

 

僧は頷くと江田と向き合った。

 

 

 

 

「では、此方の用件に行きましょう。単刀直入に言いますと、江田建一さんあなたを蒼き鋼に迎えたいと思うのですが如何ですか?」

 

 

「お、俺がですか?」

 

 

「はい、事情は把握しています。あなたは大切な何かを守るために力を欲している…違いますか?」

 

 

 

江田は一度芽衣を見た。

 

 

そして……

 

 

 

「欲しいです!」

 

 

 

迷いの無い瞳ではっきりと答える彼を見て僧は頷く。

 

 

 

 

 

「よろしい。我々の艦隊は、そもそも国や組織から出奔した者達が集まった言わば傭兵集団のようなものです。まぁ目的はハッキリしているのですが……今はそれは置いておきましょう。それであなたを我が艦隊に迎えるに当り条件を提示させて頂きますがよろしいですか?」

 

 

 

「条件…とは?」

 

 

 

「あなたが我々と行動を共にするのは、飽くまで超兵器を打倒する迄です。我々の世界に帰れるとしても、あなたを同行させるつもりはない」

 

 

「なぜです?」

 

 

 

「我々の世界の抱える事情が余りにも異質だからです。私達とあなたの行動理念が余りにも違いすぎれば、いざ我々の世界に帰還して戦いに望むことになった時、その僅かな差違が重大な損害を生む可能性がある、としか言いようがありません」

 

 

「では何故私を迎えて頂けるのですか?」

 

 

 

「この世界で各国からの支援が事実上期待できない以上、現状において超兵器を知っている方が戦線に加わる意味は大きい。あなたにとってもメリットはある。プライベートな内容なので明言は避けますが、大切な者を守る力を得て、尚且つ蒼き鋼の看板があれば、スキズブラズニル内である程度自由に行動できる。悪い話では無いでしょう?」

 

 

 

 

「そうではありません……誘ってくるタイミングが余りにも良すぎる。条件もどちらかと言えば私にとても都合がいい内容なのも気になる。教えてください織部副長。他に理由が有るのではないですか?」

 

 

 

 

僧はハァと息を吐く

 

 

 

「私の口からは少々荷が重いのですが、実は我が艦長にシュルツ艦長と筑波大尉からあなたを受け入れて欲しいと訪ねてこられたのです」

 

 

「え……」

 

 

「本当にいい方々に囲まれていたのですね。軍人でもない私達に、あんなに深々と頭を下げられて《あいつに守る力を…明日生きる力を与えてやってください》と仰っていましたよ」

 

 

 

 

江田は横に座っている芽衣の顔を一度見て、そして下を向いて涙を流した。

 

 

 

 

「艦長…大尉殿……」

 

 

江田は、厳しくも優しい上官の思いを噛みしめ暫しの間泣き続けた。

 

 

 

 

   + + +

 

401のブリッジに蒼き鋼のメンバーが集まっており、そこへ扉が開く音がして僧とヒュウガが入ってくる。

 

 

 

 

 

「用件は澄んだか?」

 

「ええ、快諾して頂きました」

 

 

「彼は、どうしても今後の戦闘に無くてはならない人材だからな。よし!それでは、ここで現状の整理と今後の課題についてだが…タカオ、先ずは報告を頼む」

 

 

 

 

名指しされたタカオは頬を赤らめながら前へ進み出る。

 

 

 

 

「艦長からの指令は完遂したわ。弾薬を補給後、小笠原諸島に沈没した超兵器の残骸から必要な兵器データの採取、並びに破壊。これで日本を含めた各国は残骸から高威力の兵器を復元、製造することは不可能になる筈よ」

 

 

 

 

「うむ、良くやってくれた。この作戦はシュルツ艦長の意向ではあるが、勿論我々も賛同している。戦争を知らない世界にあの技術は余りにも甘美に写るだろうからな。それで?何か気になる事や使えそうな兵装はあったか?」

 

 

 

「私達に応用できそうな物は特に無かったわね。あるとすれば、アッチの艦隊とかでしょうけど…。あと本題だけど、ウィルキアの艦長の推測通り、超兵器機関はもぬけの空だったわ。これはもしかして……」

 

 

「ああ、あの円盤型の超兵器が播磨に何かしたときだろうな。イオナもあれ以降は播磨以外の超兵器から熱源が失われていくのを感知している。他の超兵器との戦闘でも起こりうる事案だけに警戒する必要がありそうだ。ありがとうタカオ、下がってくれ。次にヒュウガ、頼む」

 

 

 

 

タカオが下がり、代わりにヒュウガが前へ出る。

 

 

「現在の私達が元の世界に戻る算段はついてないわ。引き続きその件については調査を続けます。あと、超兵器打倒に必要な新たな兵器の開発等もブラウン博士や美波ちゃんと相談しながら進めて行くのでそのつもりで…さて、さしあたっての問題は、やはりイオナ姉さまに発生した謎の不調についてね……」

 

 

「そうだな……イオナ、あの不調は以前からのものなのか?」

 

 

「少なくとも元の世界に居たときには、感じたことの無いものであることは確か…」

 

 

「この世界に来てからはあるのか?」

 

 

「多分…だけど。この世界で硫黄島に向かう途中だとおもう」

 

 

「確かなのか?」

 

 

 

「確証はない。でもシステムチェックの後にとても言葉に表せない感情の奔流が私を包んだことは確か。それは、超兵器との戦闘中に感じた感覚と酷似していた」

 

 

「そんな前からか。少しも気付かなかった……」

 

 

「何度もシステムチェックのログを再確認したけど、特にエラーがあったわけじゃなかった。多分、今もそうだと思う」

 

 

 

 

「姉さまの言ってることは本当だと思うわ。戻ったあと簡易のチェックをさせて貰ったけど、不思議なくらい正常よ」

 

 

 

 

「報告であった岬艦長の精神異常と何か関係があると思うか?」

 

 

 

 

「断定ではないにしろ、姉さまに異常をきたした時刻とほぼ同時刻に発生していることから、某の関係は否定できないわね。岬艦長の意識が戻り次第、美波ちゃんにはヒアリングを行うよう伝えてあるわ」

 

 

「解ったありがとう。それではひとまず解散としよう。みんな良く休んでくれ」

 

 

 

 

401クルーがそれぞれ自分の部屋へと戻っていく。

 

 

 

 

「群像……」

 

 

 

 

イオナが群像を呼び止めた。慌てていたのか、群像の服の袖を摘まむ様な形になっめいる。

 

 

 

 

「どうしたんだ?お前が俺を呼び止めるなんて珍しいじゃないか」

 

 

「…うん」

 

 

 

 

イオナは俯いていた。

 

 

その様子を見た群像は努めて穏やかな声で語りかけた。

 

 

 

 

「イオナ、少しだけ俺の部屋で話すか」

 

 

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

彼の部屋へと入ったイオナの目には、ベッドと机だけという他のクルーと比べて閑散とした風景が目に入って来た。

 

 

 

 

群像は、イオナにベッドの端に座るよう促すとポットでお湯を沸かし始め、沸くまでの間にカップを二人分準備し中にココアの粉を入れる。

 

そしてお湯をカップに注ぎ、スプーンでかき混ぜると、イオナへと差し出した。

 

 

 

甘い香りと、暖かな湯気が彼女の鼻をくすぐる。

 

 

 

 

 

「ココアだ、甘いものを口にすると気分が落ち着く」

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

二人はココアを一口啜り、群像は机の椅子に腰かけるとカップを置いてイオナへと向き合った。

 

 

「久しぶりだな…こうして二人で話をするのは。最初はお前と二人きりだったが、今ではすっかり大所帯だ。賑やかでとても気に入っているが、イオナはどうだ?」

 

 

「色々な思考が入り乱れて処理に負担が掛かる…でも、悪い気はしない」

 

 

 

 

彼女の返答に群像から思わず笑みが溢れる。

 

 

 

 

 

「ふふっ。お前らしいな」

 

 

「いけなかった?」

 

 

「いや、それでいいと思うぞ。さて…お前の事だ。あの時の事を話したいんだろう?」

 

 

「…うん」

 

 

「どんな感じがした?」

 

 

「最初は特に何かがあった訳じゃない。でも突然はれかぜから、激しい怒りや悲しみの感情が私に伝わってきたの。そしたら私の中で何かが¨揺らい¨だ」

 

 

「揺らぐ?」

 

 

「うん。急に不安になったの。有りもしないのに群像や皆が…殺されてしまう様なイメージが私の頭の中で何度も再生されて…それに対して私のコアが最善の結論を導きだした。それは【全ての殲滅】」

 

 

 

 

 

群像の表情が一気に険しくなった。

 

 

 

だが彼は、イオナを問い詰めるでもなく静かに耳を傾けている。

 

 

 

 

「私達以外のこの世の全てを破壊すれば、イメージしたような懸念事項は消える、コアはそう判断した。でも出来なかった」

 

 

 

「何故なんだ?」

 

 

 

 

 

「感情が…今まで群像と共に過ごしてきた思い出が何故かそれを否定するの。メンタルモデルを持ったことで得た人間に近い思考と、コアが導きだす兵器としての最善解。その間で感情プログラムに過剰な負担が掛かったんだと思う。でもその時、声が聞こえたの。多分女の人の声」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「それと同時にその人の過去らしきイメージが流込んできた。氷の海…多数の霧の艦…彼女は囲まれて攻撃されていた。でも彼女は一切反撃せず、戦いを止めるよう説得していたの。でも、相手は聞き入れてくれなかった…そして彼女は沈められた。イメージはそこまで。彼女は私に話し掛けてきてこう言った。感情を…皆との絆を捨ててはいけないって。それから彼女は、演算の一部を肩代わりして私を助けてくれた。それと同時に、私の中に渦巻く不安も消えていったの」

 

 

「そうだったのか……」

 

 

 

 

「群像……私、どうしたらいいの?私はあなたの艦。今まで私は盲目的にそれに従ってきた。そうするよう¨命令¨されていたから…でも、それだけじゃダメな気がする。超兵器との戦いも、元の世界に戻った後も、命令に従うだけじゃきっと後悔することになる。行動には理由が必要。その理由が無ければ、私はまた揺らいでしまう……」

 

 

 

 

「大丈夫だよイオナ」

 

 

「群像?」

 

 

 

「君は霧の未来の縮図なんだ。霧と対話し和平を結ぶには、まず霧自身である彼女達が¨疑問¨を獲得しなければならない。ただ命令に従う兵器ではなく一つの生命体として…。今の君の様に命令に疑問を抱き、自立して思考するようになった時、初めて人と霧は和平への交渉が出来ると俺は思う。イオナは航海の理由が必要と言ったが、我々が海に出ることで君を含めた霧の思考に変化をもたらす事が、俺が海に出ようとした理由かな」

 

 

 

 

「でも必ずしも、皆の思考がプラスの方に向かうとは限らない。私だってそう。押し寄せてくる感情の奔流に流されてしまいそうになる……」

 

 

 

 

 

群像はココアを一口含み、暫し考えてから机の引き出しから有るものを取り出した。

 

 

 

 

「それはなに?」

 

 

 

「時計だよ。父さんが…昔俺に譲ってくれた物だ。イオナ、これを君に譲ろう」

 

 

 

 

 

群像は、古びた腕時計をイオナに差し出した。

 

 

 

 

「でもこれは群像にとって大切な物。どうして……?」

 

 

 

 

「大切な物だからさ。人間は君達霧の様に一度経験した事を永遠に記憶し続ける事が出来ないんだ。だから忘れたくない記憶や思い出を、それに関連した物を見たり触ったりする事で思い出すのさ。USBのような外部記憶装置と言えば分かりやすいか?この時計には、俺の家族との思い出や、俺が世界に風穴を開けてやりたいと思ったきっかけの記憶も詰まっているんだ。だからイオナも自分を失いそうになった時に、これを見て思い出して欲しい。いろんな経験や、イオナがこうありたいと強く思ったときの記憶をこれで思い出してくれれば、如何なる事でも揺らがず進んでいけると思う。それに思うんだ、人間と霧が共存しあう蒼き鋼が霧と接触すれば、きっと彼女達に良い影響をもたらす事が出来るとね」

 

 

「群像……」

 

 

「だから共に前に進もう。俺一人でも、君一人でも出来ない。共にあるからこそ実現できる未来を造っていこう。その為に俺達は、この世界で色々な人と関わりを持たなければならない。そんな気がするんだ。付いてきて欲しい」

 

 

 

 

 

真っ直ぐに自分を見つめる目を見て、イオナの心の懸念はいつしか無くなっていた。

 

 

そして、差し出された時計を受け取り、未だ群像の温もりが残るそれを、イオナは両手で包み込み、大切そうに自分の胸に当てた。

 

 

 

(今この瞬間の気持ちを…大切な気持ちを忘れたくない)

 

 

 

 

 

イオナは祈るように、群像から貰った時計をギュッと握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

超兵器との初戦闘を終えた異世界艦隊の夜は更けていく。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「ガルトナー司令に傾注!」

 

 

スキズブラズニルの屋外には、異世界艦隊のメンバーが勢揃いしている。

 

 

 

前へ進み出たガルトナーは敬礼を行い、傭兵の蒼き鋼以外のメンバーが返礼を返した。

 

 

 

 

「諸君、先ずは昨日の超兵器との戦闘、誠にご苦労だった。不測の事態があったにもかかわらず誰一人欠ける事が無かったことは評価に値する。また非公式ではあるが、宗谷室長を通じて日本政府から感謝の意を頂いている。さて……今後の我々の行動だが、昨日未明に欧州方面にて超兵器が活動し始めたとの連絡が入った。よって我々は今後、戦闘の場を欧州に移すことになる。状況は厳しさを増す事になるだろうが、各員一人一人が最善を尽くし、超兵器の脅威から罪無き民衆を守ってくれることを切に期待する 以上!」

 

 

 

「敬礼!」

 

 

 

 

 

 

一同が解散し、はれかぜに戻ろうとする、明乃ともえかに真霜が声をかけた。

 

 

 

 

「岬さん!」

 

「宗谷室長、どうされましたか?」

 

「実は今日、日本のブルーマーメイドから少しだけど増援が来ているの。今執務室に来ているから会って貰えないかしら」

 

 

 

「はい」

 

 

 

 

三人は執務室へと歩いていく。

 

執務室に着くと、中には複数の人物がいた。

 

 

 

 

 

「よぅ、久しぶりだなはれかぜ艦長!」

 

 

「真冬艦長!?それに……」

 

 

 

 

 

中には、真白の姉の宗谷真冬 平賀倫子 杉本珊瑚 藤田優衣の姿があった。

 

 

 

 

「まぁ50人位しか居ないが補給や修理、それに交代要因として召集されたんだ。まぁよろしく頼むぜ!たっぷり根性注入してやるからな!ハハハッ!」

 

 

 

(本当に大丈夫かな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「総員、聞いてくれ」

 

 

 

 

一同の視線ががシュルツに集中した。

 

 

 

 

 

 

「これより我々は、大平洋を横断し、パナマ運河を経て大西洋に抜ける。そうすれば間も無く欧州だ。恐らくこれまで以上に厳しい戦いになるが、どうか付いてきて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

彼の言葉に全員が敬礼で答えた。

シュルツは頷くと、息を深く吸い出航を告げる。

 

 

 

 

 

「超兵器討伐隊…出航!」

 

 

 

 

 

三世界艦隊は日本を離れ、いざ欧州へ向かう。

 

 

 

 

  + + +

 

 

《目標ノ移動ヲ確認。今後、該当海域ニ展開、対象ト接触スル艦隊ハДриветヲ行エ。モシ対象ガ我々ノ驚異ニナルト判断サレル場合ハ、До свиданияヲ許可スル。以上》

 

 

 

 

   + + +

 

欧州

ドイツ共和国

 

その大地に一人の女性が立っている。いや、立ち尽くしている。

 

金色の髪に海の様な蒼い瞳、黒の制服を身に纏った女性だった。

 

女性の周りには大量の瓦礫と………

 

 

 

 

 

死体  死体  死体

 

 

 

 

一欠片の希望もない地獄で彼女は呟いた。

それは流暢な日本語であったが、声色からは、まるで神に祈るかの様な切実さが含まれていた。

 

 

 

 

 

「はれかぜ…早く来てくれ…。儂らには今、ぬしらが必要なんじゃ…!」

 

 

 

 

 

第一章  完結

 

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

第二章  予告

 

 

 

「まさか…!」

 

 

「日本は我が国の従順なる消費者…」

 

 

【勇敢なる者】

 

 

「おいおい、一体何隻いやがんだ?」

 

 

 

【始祖鳥】

 

 

「サーモバリック爆弾ですって?」

 

 

 

「テアァァァァァァァァァ!」

 

 

「我々を誘い込んでいるのか?」

 

 

「儂も行きたいんじゃ!」

 

 

「いくぞ!セイラン射出!」

 

 

「海が凍った……」

 

 

「超兵器へ直接乗り込むしかない!」

 

 

「戦争兵器の枠を超えてますよ…」

 

 

【鵺】

 

 

 

「行かなきゃ!」

 

 

「行かないで岬さん!お願い行かないで!」

 

 

【暴君】

 

 

「あなたが、内通者!?」

 

 

【超音速ランデヴー】

 

 

「ここが…宇宙か」

 

 

【海龍】

 

 

「化け物め!!」

 

 

「大平洋に面する全ての地域に津波…」

 

 

「アメリカ合衆国は、自国の安全と国益を何よりも重視し――」

 

 

「超兵器が…人の手に!?」

 

 

「決着をつけよう…ムスペルヘイム…」

 

 

 

 

 

《主ヨ――御身カラ賜ッタ力ヲ下卑タル存在二使用スル我ガ愚行ヲ赦タマエ……》




お付き合い頂きありがとうございます。

第二章開始の前に2話ほど、ホンワカ回を設けましてから入って行きたいと思います。


それではまたいつか















とらふり!

ナギ

「久しぶりのお風呂…楽しみです!」


真冬

「グヒヒヒ…根性注入!」


ヒュウガ

「グヘヘ…イオナ姉さまぁん!」




「アヒヒ…おっぱいテイスティング!」


ナギ

「やっぱり入るの止めようかな……」

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