超兵器と明乃達の意地と意地のぶつかり合いです。
どうか最後までお付き合いください。
それではどうぞ。
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小笠原沖海戦
シュトゥルムヴィントVSはれかぜ
「敵超兵器、更に速力低下、敵速50kt!更に旋回性能も低下、舵を損傷したと思われます!」
「艦長。攻撃が徐々に通り始めたよ!」
「…今なら…行ける!」
「超兵器機関に負担が掛かってるんだ…。メイちゃん、タマちゃん。攻撃の手を緩めないで!回復の機会を与えちゃダメ!」
「敵艦の速度も落ちて舵も損傷しているし、傾斜している状態では、主砲も使えない上雷撃精度も落ちる。確かに今攻めない手はありません。」
「うん、でもまだ光学兵器は生きてる。油断は出来ないよ!」
「ええ、体格差ではまだまだあちらが有利ですか」
速力と旋回性能を失ったシュトゥルムヴィントは、バランスを取るために注水していた。
だがそれが更なる速力の低下を生み、はれかぜとの力の差が埋まっていく。
この機会を明乃が逃さす筈がない。
「リンちゃん。敵艦の右舷に回り込んで!」
「よ、ようそろ~」
明乃の指示で、はれかぜはシュトゥルムヴィントの右舷に回り込んで砲雷撃を繰り返し、遂にはれかぜの攻撃を退け続きた防壁が消失した。
「敵艦に本艦の攻撃が着弾。重力場と電磁防壁が完全に消失しました!」
「タマちゃん今!甲板上の兵器を狙って!」
「うぃ!」
はれかぜからの砲撃が、次々とシュトゥルムヴィントに着弾。
甲板のいたる所で煙が立ち上った。
「艦長!敵超兵器の魚雷発射管及び右舷副砲を破壊に成功、更に一部主砲は砲身が変形使用不能!本艦の攻撃、効いています!!!」
「リンちゃん、艦尾に、回り込んで!後ろの大型光学兵器と主砲を使用不能にする!」
「わ、解った!」
はれかぜは、シュトゥルムヴィントの艦尾にある主砲と高威力のβレーザーを潰しにかかった。
シュトゥルムヴィントは、はれかぜの動きを察し回避運動をとろうとするが、舵を損傷していて上手く立ち回る事が出来ない。
はれかぜは、敵に砲弾の雨を降らせる。
シュトゥルムヴィントから上がる煙の本数は着実に増えていた。
「艦長、敵のスクリュー音が完全に停止しましたわ。」
「うん、これで相手の足を完全に奪っ……」
「報告!敵艦艦首の両脇から何か出てきました。あれは……。スラスターです!敵艦増速、敵速80ktに回復!更に注水で傾斜を回復、主砲が発射可能になった模様!」
「ここに来てかくし球とは…何てやつなんだ!」
マチコからの報告に真白は愕然とした。
シュトゥルムヴィントがスクリューを止めたのは、更なる浸水を止める為だった。
そして、艦尾のスラスターはスクリューを、艦首左右のスラスターは舵が破損した時のフェイルセーフとして存在していた。
更にはれかぜにとって、最悪の事態が発生する。
それは、
「敵超兵器、防壁を再展開、スクリューや失った兵装への動力供給をカットしたことで余力が生まれたと思われます! 」
「そんな…」
「ここまで来て…やっぱり私達やられちゃうのかな…」
幸子の報告に誰もが不安な表情を浮かべずには居られなかった。
ただ一人を除いては、
「メイちゃん、タマちゃん!砲雷撃、攻撃止め!これよりミサイルを中心とした攻撃に移る。リンちゃんとにかく動き回って回避に専念して。マロンちゃん、機関全速!」
「か、艦長?」
「ココちゃん、スラスターのみ時の旋回性能はどう?」
「え、ええ。舵損傷前よりは落ちているかと。まして全速を出しているなら尚更ですね」
「解った。皆聞いて!速度ではあちらが上、旋回はこちらが上、力はあちらが上、手数はこちらが上。戦力差は全くの互角。でも、相手には決定的に足りないものがある。それは、¨守るべき者¨それが心に有る限り、私達は負けない。ただ壊すだけの兵器には負けない!だって私達は……」
はれかぜの皆が口を揃えて一斉に叫んだ。
「「「「家族だから!!!」」」」
そして一同が、各々の役割をこなす。
はれかぜは急速加速で前進、シュトゥルムヴィントと距離を取った。
彼の艦は、はれかぜを追わんと全速で動き出す。
レーザーや主砲がはれかぜに向かった。
しかし、はれかぜは小さな体を生かして回避し、先程の攻撃で砲を破壊した敵の右舷側に回り込み攻撃の手数を相手に与えない。
更に隙を突いてミサイルを発射、敵の防壁に着実に負荷をかけていた。
シュトゥルムヴィントは、スラスターを使い転舵、兵装が破壊されていない左舷側からはれかぜに集中砲火を浴びせにかかる。
重力場が弱まっているはれかぜは、砲弾やレーザーを完全に相殺しきれず、次々と艦内の至る所で火災が発生する。
手の余った者は、素早くホースを繋ぎ消火作業にあたった。
激しい砲火と操舵に立っているのも精一杯の揺れである。
だが、誰も泣き言を言う者は居なかった。
転倒しても
火傷をしても
痛くても
怖くても
家族を失う痛みや恐怖に比べたら……
全然怖くない!
はれかぜは一つになっていた。
この世界の人類史上初、艦での高速戦闘をはれかぜはこなしていた。
「艦長!敵の防壁が減衰してきています!」
「やっぱり無茶をしてるんだ。スラスターにかなりのエネルギーを取られてる。皆、頑張って!もう少しだから!」
明乃が祈るように叫んだ。
一同は、歯を食い縛り、役割をこなしていった。
そして遂に、その瞬間は訪れる。
ドォォォォォン!
凄まじい爆発音がシュトゥルムヴィントから轟いた。
明乃達が目を見張ると、シュトゥルムヴィントの側面に大きな穴が開き、煙と炎が立ち上がる。
「な、何が起きたんだ?」
「弾薬庫の誘爆だよ。さっきの攻撃で起きた火災を利用したの。あの速度で進み続ければ酸素が大量に炎に供給され続け艦内温度が更に上昇して誘爆を引き起こせるんじゃないかって」
「そこまで、考えていたのですか……」
真白は、明乃の判断に溜め息をつくしかなかった。
そこへマチコからの報告が入る。
「敵艦炎上!弾薬庫に引火した模様。更に本艦の攻撃が通りました。敵の防壁が完全に消滅した模様です!」
「解った。もう逃がさない!メイちゃん、タマちゃん。砲撃及びミサイル発射用意!敵超兵器のスラスターを狙って!」
「了解!撃っちゃうよ~‼」
「…魂で…撃つ!」
ミサイルと砲弾が敵の前後のスラスターに殺到し爆煙を上げた。
シュトゥルムヴィントの速度が目に見えて落ちていく。
しかし、相手もただでは終わらない。
シュトゥルムは残った方のスクリューを再始動させ再び動き出した。
だが最早、方向を制御する舵とスラスターを失ったシュトゥルムヴィントは、クルクルと、同じところを回りだした。
マチコが敵の様子を伝える。
「敵艦、操舵性を失っています!敵速25ktまで低下、更に火災範囲が拡大中です!」
「今しかない!メイちゃん、タマちゃん。敵艦の兵器に一斉掃射!」
明乃の指示で、シュトゥルムヴィントの甲板にある残りの兵装に砲弾やミサイルが直撃
大型のレーザーや砲が次々と破壊されていく。
手も足も失い、火だるまになりながらも、シュトゥルムヴィントははれかぜを沈めようと、ぐにゃぐにゃに曲がった主砲をはれかぜに向けて発砲を試みる。
これがシュトゥルムヴィントの最後の攻撃となった。
次の瞬間、
ドォォォォォン!
砲弾が主砲の砲筒の中で炸裂、大爆発と大火を起こした。
紅蓮の炎は、艦内であらゆる弾薬に引火し更なる爆発を引き起こす。
爆発は、艦の至るところに穴を開け、大量の海水が流れ込んで艦がどんどん傾斜して行き、シュトゥルムヴィントは【暴風】の名に似つかわしくない程、ゆっくりとその体を海面に横たえて動かなくなった。
はれかぜの艦橋内は、静寂に包まれる。
その静寂を破ったのは、マチコからの報告であった。
「て、敵超兵器……撃破!」
放心状態の艦橋メンバーの中で真白が真っ先に我を取り戻し、明乃に近付く。
そして、明乃の両肩をギュッとつかんだ。
「艦長、やりました。やったんです!私達が…超兵器を……倒したんです!」
明乃は、まだ状況が理解出来ていない顔で真白を見つめ、彼女はコクリと頷く。
そして、
「「「やったー!!!」」」
それを見ていた、明乃以外の艦橋のメンバーが歓声を上げた。
その歓声は、瞬く間にはれかぜ全体に伝播する。
皆がそれぞれ抱き合って喜ぶ。涙を浮かべている者もいた。
しかし、明乃の安堵の表情も長くは続かない。
明乃は再び険しい表情をまだ戦いを終えていない仲間たちへと向ける。
(モカちゃん…無事でいて……)
明乃に勝利の喜びは微塵もなく、不安で心が雲っていくのであった。
+ + +
荒覇吐・近江VS蒼き艦隊・もえか
401は、作戦海域に到達していた。
群像は、最も超兵器の虚をつけるタイミングを見計らっている。
緊張に包まれるブリッジの中で杏平がゴクリと唾を飲んだ。
静寂を破るようにイオナが、叫ぶ。
「群像、今!」
「よし!イオナ、タカオとキリシマに通信を送れ!」
「解った」
「こちらもいくぞ。杏平、フルファイア!」
群像の合図で、401はあらゆる兵器が火を噴き、時を同じくしてタカオとキリシマも一斉射を行った。
荒覇吐と近江は迎撃態勢に入る。
しかし、放たれた数多の弾頭が、超兵器に殺到することは無かった。
弾頭は海面に着水して、ある一点を目指す。
そこは海底であった。
荒覇吐と近江は一瞬呆気にとられる。
蒼き艦隊はそれを見逃さなかった。
タカオとキリシマは急速に増速し超兵器から一気に距離を取り、その間弾頭は次々と海底を穿ち削っていく。
すると、海底から無数の泡が凄まじい勢いで噴き出し、泡は瞬く間に荒覇吐と近江のいる海域を埋め尽くした。
+ + +
突如、周りを埋め尽くした泡に、浮力を失った荒覇吐はバランスを崩して傾斜している。
反動の大きいガトリング砲が傾斜で使えない為なのか、荒覇吐はプラズマ砲や各種レーザー、多弾頭ミサイルに攻撃を切り替えて攻撃してくる。
しかし、足を取られているため、ドリルによる格闘戦はおろか、驚異的な旋回性能による攻撃の回避は不可能であった。
それをもえかが見逃す筈はなく、タカオとキリシマに指示を飛ばした。
「敵が罠にかかった!キリシマ、お願い!タカオ、キリシマは今、演算リソースを極限まで消費している。隙を突かれないように援護して!」
「あいよ!ハハ、大戦艦の本気ってやつを見せてやる!」
「了解!ちゃっちゃと終わらせるわよ!」
キリシマは超重力砲の発射態勢に入った。
「艦の姿勢制御完了。艦前方のクラインフィールド開放。エネルギーライフリング起動開始。目標、敵超巨大ドリル戦艦【荒覇吐】を固定。重力子圧縮、縮退域へ……」
キリシマのさ船体が上下に割れ、中には、円形状の重力子ユニットがずらりと並んでいる。
その数は、401やタカオの物を遥かに凌駕していた。
そして、超重力砲展開と同時に強力なロックビームが海を割るように荒覇吐に向かい、気泡からの脱出を試みようともがき、光学兵器を周囲に撒き散らし暴れ狂う荒覇吐を捕らえた。
だが、空間に固定されたことにより転覆の心配が無くなった荒覇吐は、反動の大きいガトリング砲が再び稼働させ、砲弾がキリシマに殺到する。
しかしもえかはそれを許さない。
タカオに指示を出し、迎撃する。
更にタカオは、あらかじめキリシマのクラインフィールド制御コードの一部を借り受けてキリシマの防御を補助していた。
迎撃しきれず、通過した砲弾は、キリシマにあたる直前に、タカオの制御したクラインフィールドに当たり本体へのダメージを無効化している。
圧倒的に此方が有利だった。それは間違いない。
だがもえかは足元が震えてすくむ、タカオやキリシマにしても、表情に余裕はない。
目の前で稲妻やレーザー、砲弾を撒き散らし暴れる荒覇吐は3人に威圧を与え続けていた。
「ひっ!」
もえかが思わず後ずさる。
距離があるタカオにまで聞こえてくる、ドリルとソーの轟音も、もえかの恐怖を更に煽っていた。
【アラハバキ】日本の古の神の名前
その荒ぶり様は、正に神であった
≪信心無き者に裁きを…。神の鉄槌を!≫
ドリルの轟音が、荒覇吐の言葉を表すように轟く。
『もえか、縮退限界!』
もえかは、キリシマの言葉で我に帰る。
荒覇吐は、あがき続けていた。
≪ 裁キヲ ≫
「私も、フィールドがそろそろ限界…。もえか!」
≪ 裁キヲ! ≫
『おい!何してんだ。早く発射指示を出せ!』
≪ 裁キヲ!! ≫
「あっ……あぁっ…!」
≪ 神ノ鉄槌ヲォオ! ≫
「もえかぁぁぁ!」
『もえかぁぁぁ!』
タカオとキリシマからの悲鳴にも似た叫びに、もえかは目をカッと見開き、一歩前へ踏み出して踏ん張った。
そして一回、深く肺に空気を送り込み一気に吐き出した。
「キリシマ、超重力砲撃てぇぇぇぇ!!!」
直後、眩い光がキリシマを包み、そして凄まじいエネルギーの奔流が荒覇吐に向かい、直撃する。
超重力砲は艦首と艦橋の間に直撃し、荒覇吐の象徴とも言えるドリルが艦首付近から、バリバリという不快な音を立てて折れた。
もえか達は、その様子を見守った。
超重力砲の発射が終わったキリシマや補助していたタカオは息が上がって両肩を上下に動かしている。
(くっ久しぶりとは言え、コアにかなりの負荷がかかった…タカオの補助がなければ差し込まれていたかもしれん……)
(なんて奴なの…。私達が、人類相手に一度も使われる事がなかった超重力砲を使わせるなんて…)
もえかも、目の前で起きた現実とは思えない光景に言葉を失っている。
(凄い…。これが、霧の本当の力なの?演習の時とは比べ物にならない…。あっ、そうだ超兵器は?)
荒覇吐に視線を移した彼女の目には、至るところから煙が上がって折れた艦首からは大量の海水が入り込み、艦橋付近は海に没しようとしている無惨な残骸が見えた。
彼の艦は最早動かず、ただその巨体が海底に沈むのを待つしか無かった。
(千早艦長…無事でいて下さい!)
もえかは未だ止まらぬ足の震えを何とか押さえながら、近江と401の勝負の行方を見守った。
+ + +
近江の巨大な船体が大きく傾く、自慢の旋回性能もこれでは発揮しようがなかった。
だが、双胴という特性を生かしてすかさず沈み混んでいるのとは反対側に注水、態勢を立て直しつつある。
しかし、それこそが群像の作戦だったのだ。
「かかったぞ!今だ、フルバースト!奴の腹の下をくぐり注水を行っている反対側に出る。その後、サイドキック面舵一杯。奴の土手っ腹にありったけの侵食魚雷を喰らわせてやれ!」
401のスラスターがフルで稼働し、潜水艦とは思えない加速で、一気に近江の下を潜り抜けて反転すると、侵食魚雷を注水している近江に向かってばら蒔いた。
次々と侵食魚雷が近江に殺到し、バランスを取ろうと注水していた側に侵食魚雷を何発も当てられた近江は、今度は浸水によって先程とは逆方向に傾き、発進を控えていた大量の航空機達が、急激な傾斜に耐えられず、ボチャボチャと海へ落ちていく。
大量の泡と傾斜により身動きが取れず、兵装も使用できず、航空機も発艦出来なくなった近江は、最早ただのデカイ的と化していた。
機関に負荷がかかり、ろくに防壁も展開できない近江に401が更に苛烈な追い討ちをかけ、次々と兵装や飛行甲板が破壊され煙が至るところで立ち上る。
「日本近海に点在するメタンハイドレートの鉱床…よくこの様な使い道を思い付きましたね!」
「なに、海洋技術学園で習ったことを思い出しただけだよ。まぁ近江が注水してくれるかどうかは正直賭けだったがな。」
「全く、博打打ちも大概にしてくれよ……」
群像の言葉に杏平が呆れている。
群像は、杏平に苦笑いで返すと表情を引き締め、近江に止めを刺す指示を出そうとした。
「よし、それじゃ仕上げにかかるぞ!」
「待ってください!」
「静、どうした?」
「タカオから緊急入電!近江後部の飛行甲板で何やら動きがあったようです!」
「なんだと!?この期に及んで一体何をするつもりだ…」
+ + +
「タカオ、あれは何?」
もえかが心配そうにタカオに尋ねた。
「あれは…ハッチ?いや、巨大なエレベーターみたいな……まさか!!」
直後、二人は信じられない光景を目にした。
傾いた近江のエレベーターから巨大な黒い円盤が出現し、フワフワと上昇していく。
円盤はある高さまで、上昇すると停止してクルクル回りながらその場に浮いていた。
よく見ると、円盤の下からケーブルの様なものが近江と繋がっており、円盤に向かってケーブルを伝い紫色の光がいくつも登っていく。
すると先程まで態勢を立て直そうともがいていた近江が急に動かなくなり、ケーブルが切り離されると、彼の艦はその巨体をゆっくりと海へと沈めて行った。
「一体何なの!?」
もえかは状況を理解できない。
すると円盤は急に動き出し、凄まじい速度でジグザグと不規則な動きで炎上して沈み始めている荒覇吐の真上に移動。
先程と同様にケーブルを垂らし荒覇吐と繋がってアノ紫色の光がいくつも円盤に吸い込まれかと思うと、荒覇吐の沈降速度が増し、あっという間に見えなくなってしまう。
ケーブルを切り離した円盤は、次に撃破されたシュトルムヴィントの真上に移動。
転覆し艦底を露にしているシュトルムヴィントに突如円盤からレーザーが放たれ、底に穴を開け、そこからケーブルを差し込むとまた、紫色の光が円盤に吸い込まれる。
そこにいた誰もが、起きていることの意味を正確に把握出来るものは居なかった。
シュトルムヴィントから光を吸い取り終った円盤は、ケーブルを切り離して播磨の元へ向かって行く。
+ + +
江田は、近江の航空機との空中戦を繰り広げていた。
江田の発射したミサイルが、敵の航空機に命中し、爆発し粉々になった航空機が海へと落ちていく。
(ふぅ…有難い。千早艦長が近江を潰してくれたお陰で、これ以上敵が増えなくてすむ。航空機はあらまし落としたし、一宮隊長やモーリス隊長の援護に戻…)
江田が、そう思ったとき。
近江を攻撃しに行っていた。モーリスからの通信が入った。
『近江攻撃隊から各機へ!近江は沈んだが、代わりに厄介な奴が出てきたようだ……』
江田が近江へ視線を向けると、底には巨大な黒い円盤が浮いていた。
(まさか!!)
江田は、焦りを隠しきれない。
すると今度は、出雲のシュルツから通信が入る。
『超巨大円盤型攻撃機【ヴリルオーディン】出現!! 攻撃隊は速やかに帰投せよ。繰り返す、攻撃隊は速やかに帰投せよ!!奴には航空機では太刀打ち出来ない!』
慌てて周りを見渡した江田の目には、モーリスの部隊が近江から引き返してくるのが見えた。
播磨を攻撃していた一宮も、進路を変えている。
しかし、近江の航空機はまだ完全に掃討できた訳ではない上に、着艦にもある程度の時間を要する。
江田は、戦闘機部隊を率いてペガサスへ引き返した。
その時、江田の視界にはれかぜを捉えた。
彼の脳裏に自分に死ぬなと言って涙を流した女性の顔が浮かぶ。
(西崎砲雷長……皆!俺が守りきる!絶対に死なせない!)
江田は、ペガサスに着艦する攻撃隊を守護する為にしんがりを務める覚悟を決めた。
一人でも犠牲を嫌う、人魚姫達の願いを叶える為に。
+ + +
「くそっ!近江の巨大なノイズは、ヴリルオーディンを中に格納していたからだったのか!なぜその事を考慮しなかった……」
シュルツが自分の判断の甘さに拳を握りしめ歯噛みした。
「艦長、ヴリルオーディンが何やら撃破された超兵器に次々と移動して何か工作を施している様です!」
「目の前に敵がいながら素通りとは…それほど奴にとって重要な事があるのか?それに奴の身体、以前まみえた時より一回りデカイ気がする…」
ひと通り撃破された超兵器で何やら動きを見せていたヴリルオーディンは、次に高速で播磨の直上に飛来し、ケーブルを伸ばした。
すると播磨の艦尾から何やら突起の様なものが出てきてケーブルと接続を開始、そしてヴリルオーディンから播磨に向かって紫色の光が¨入って¨いく。
「何を始める気か知らないが、させるわけにはいかない!総員、全照準をヴリルオーディンに向けろ!撃ち落とすんだ!」
出雲から大量の砲撃やミサイルがヴリルオーディンに殺到するが、強力な防御重力場により弾かれてしまう。
次にシュルツは、播磨に何かを供給しているであろうケーブルを狙う為、甲板の外側にずらりと配置されたパルスレーザーを発射する。
しかし、レーザーがケーブルに命中する直前に、ヴリルオーディンはケーブルを切り離し、離脱を図ろうと動き出した。
「艦長、ヴリルオーディン―逃走を図っている模様!」
「逃がすな、絶対に仕留めるんだ!」
シュルツは通信で各艦に連絡、その報を受けて大量のミサイルがヴリルオーディンを襲うが、ジグザグと不規則な動きをしている超兵器には上手く当たらない。
その時だった。
ドォォォォン!
轟音が轟き、艦に激震が襲う。
シュルツは撃ってきたであろう相手に顔を向け、そして表情が固まった。
「なんだと!!?」
+ + +
航空戦艦ペガサス
超兵器攻撃隊が、続々と着艦しつつあった。
しかし、江の残存勢力が味方の着艦を阻もうと襲いかかる。
そんな中、江田は少ない残弾で確実に敵機を撃ち落としていた。
ペガサス自身も、ミサイルで援護はしてはいるが、着艦作業の影響で転舵するわけにいかず、事実上戦闘機部隊が露払いをしなければならない。
「くっまだこんなにいたのか…もう少しなのにっ!」
江田は、追いかけていた目の前の敵機を航空バルカン砲で撃ち落としながら歯噛みする。
味方の戦闘機部隊もミサイルの弾切れや燃料の欠乏でギリギリの状態だ。
すると一宮から通信が入った。
『江田!生きてるか?』
「はい、何とか…」
『今、戦闘機で再発艦する。戦闘機部隊を着艦させろ。こちらで援護する!』
「有難いです。お願いします。」
一宮達の援護で戦闘機部隊が続々と着艦する。
江田も着艦体勢に入ろうという時、通信が入った。
『逃がすな。絶対に仕留めるんだ!』
シュルツの声がした。
見るとヴリルオーディンが、攻撃をかわしながら離脱を図ろうとしている。
江田は、着艦体勢から再上昇しヴリルオーディンへと機体を向けた。
『おい江田!どこへ行く気だ―戻れ!』
一宮からの怒声が響く。
「しかし隊長。あいつを放って置けば厄介なことになります。着艦作業だってまだ終わっていない。今狙われたら終わりです!」
『だとしても貴様一人でどうにかなる相手じゃ無いんだぞ!死にに行くようなもんだ!』
「確かに…でも今、時間を少しでも稼ぐことが出来れば、他の皆さんで奴の相手ができる。それにさっきから播磨の様子もおかしい。ここで自分が出れば出来るだけ犠牲を少なくすることが出来るんです!」
『バカ野郎!それでてめぇが死んだら意味が無いんだぞ!いいから戻れ!命令だ!』
「一宮隊長。私は孤独だった。両親もいない。誰も自分を大切に思う者等いない。だからせめて命を御国に捧げることが出来れば、このちっぽけな命も何かの役に立つんじゃないかと思い特攻に志願したんです。でも、死ねなかった……」
『江田…?』
「だけど死に場所を探していた俺に、筑波大尉と一宮隊長が生き甲斐を与えてくれた。いっぱいゲンコツを頂きましたね…でも、それ以上に自分が必要とされている実感も頂いたのです」
『おい…何を考えてる……』
「私は、そんな人達を守りたい。死なせたくないんです!」
『やめろ!』
江田は加速し、一直線にヴリルオーディンへ向かう。
その時だった。先程まで回避に徹していたヴリルオーディンが不意に動きを止めたのだ。
そして、円盤の上部の兵装が、発光し始める。
『いかん!¨リングレーザー¨だ!江田、引き返せ!真っ二つになるぞ!』
「一宮隊長…靖国で待っています!」
『!!!』
江田は残りのミサイルを全て発射、しかし重力場で防がれてしまう。
次にバルカン砲をヴリルオーディンに向かって打ち続けた。
「うぉぉぉぉぉ!」
ズガガガガガ!
『やめろ!やめろぉぉ!』
ズガガガガガ!
「うぉぉぉぉぉ!ぬぉぉぉぉぉ!」
バルカン砲を撃ちながら更に加速して突撃していく江田の脳裏には、今までの思い出が一瞬の内に写し出されていった。
両親がいない事を馬鹿にされ、虐められた
記憶
空腹に堪えかねて畑から食べ物を盗み、それがバレて半殺しになった記憶
日本軍時代のキツイ訓練の記憶
先に散って逝った特攻隊の戦友の記憶
超兵器や帝国との戦争の記憶
そして、一人の人魚を空に連れていった記憶
「!!?」
そこで江田は、我に帰った。
だがもう遅い…
ヴリルオーディンは、既にリング状のレーザーを発射していた。
次の瞬間、
スパッ!
江田の乗っていた機体が真っ二つになり、爆発し粉々になってしまう。
機体から江田の身体投げ出されて宙を舞う。
落下しながら彼は目を開いた。
よく見ると何かが一緒に落下している。
¨右腕¨だった……
爆発の衝撃か、それともレーザーに切断されたのか、いずれにしても腕が千切れたらしい事だけは理解できた。
江田は視線を空に向けた。
どこまでも澄んだ蒼
美しかった。
(ああ、ホント…馬鹿だなぁ俺は……)
江田の身体は、綺麗な空とは対照的な黒煙の立ち上る海へと落ちていった。
+ + +
シュルツは播磨を睨む。
すると播磨が紫色に光出した。
「この反応は…。まさか!」
シュルツが指示を出そうとした時、
「艦長!味方機が!」
ナギからの悲鳴で視線を向けると、味方の航空機が爆発しているのが見えた。
シュルツはギリッと歯噛みする。
「くそ!救助を!」
「駄目です!間に合いません!」
「何てことだ…なぜ海上援護を待てなかった!」
「あの距離と速力では航空機の方が妥当でした。艦長のせいではありません!あのまま放置すれば何をしでかすか解らなかったのですから……」
「畜生!」
壁を殴り付けるシュルツをブラウン博士が宥める。
「落ち着いてください艦長!今は、目の前の敵に集中しなくては!」
「黒いヴリルオーディン、動き出しました。急速に離脱していきます!」
ヴリルオーディンは、シュルツを嘲笑うかのように、その場でクルクルと回転すると、凄まじい速さで海の彼方へと飛び去り姿を消した。
シュルツは、悔しそうにヴリルオーディンの飛び去った方角を睨むが、直ぐに視線を播磨へ戻す。
「か、艦長!超兵器反応増大!まだ上がっていきます!計測機が……」
ボンッ!
「…完全に破損ました」
「ナギ少尉、急いで各艦に通達!¨暴走¨だ!超兵器播磨、暴走!」
「りょ、了解!」
ナギが、他の艦に通信を送っている。
すると今度は、播磨の様子を見ていたブラウン博士の顔がみるみる青ざめる。
「なにが起きているの?」
シュルツも自分の目を疑った。
超兵器播磨が変形していく。
艦首にある衝角が展開し、中から¨ドリル¨が現れ、艦尾の甲板から大型のスラスターが上がってきた。
だがそれだけではない。
艦尾側面がまるで鳥の翼のように展開し、小型の飛行甲板が現れ、甲板の後部ハッチから旋回式のガトリング砲のようなものが浮上。
極めつけは、艦中央の先端部のハッチが開き巨大な砲が姿を現した。
「…何なんだこれは。」
「他の超兵器の特徴を取り込んだ?それにあの正面の巨大な砲は……」
「間違いない、超巨大列車砲【ドーラ・ドルヒ】の160cm砲だ!」
すると播磨後方の飛行甲板から小型の円盤が次々と発艦する。
「あれは…円盤型航空機¨ハウニプー¨か?」
「12機いますね…我々を沈めるには少々役不足。となれば、恐らくあの超大型砲の弾道計算の観測の為に射出されたと考えるべきでしょう」
「艦長、敵超兵器再始動!は、速い!?敵速80kt!艦首のドリル及び大型主砲の起動を確認!」
シュルツが叫ぶ。
「各艦に通達!動き回れ!絶対に単調な動きはするな!一瞬でやられるぞ!」
シュルツは、拳を強く握りしめた。
(【東洋の魔神】【双角の鬼】よ、とうとう本性を現したか!)
これより、超兵器との真の戦いが始まる。
しのぎを削る超兵器戦はもう少し続きます。
次回まで今しばらくお待ちください。
それではまたいつか。
とらふり!
播磨
「見ヨ私ノ真ノ姿ヲ!」
荒覇吐
「チッ。コノ砲撃馬鹿ガ!」
播磨
「ナ、ナニオウ!」
疾風&近江
「皆合ワセレバ文句ナ~シ!」
播磨&荒覇吐
「ナ、成ル程…」