「これが『竜の鱗』か」
アインズ達は村人達に案内され竜の鱗が保管されている小屋に来ていた。石造りの堅牢な小屋は食べ物が供えられ、村人達が竜の鱗を崇めていることが分かる。いや、竜の鱗が持つモンスターを避せつけない力にすがっているのだろうとアインズは考えた。
ここまで案内してくれた村長は語りかけるようにアインズに説明をした。
「モンスターに頼っているのはおかしな話なんですが、こうやって生かしてもらっているのも事実なんです」
「村長、もし仮の話だが黒竜が冒険者に倒されたらどうする?」
「───そうですね。それも運命なのだろう、そう考えたかもしれません」
死を受け入れる村長の話にアインズは黙って続きを聞く。
「元々、私はこの山に死ぬために来ました。それが死にきれず、何の因果か今では義子達を養い、この村の村長になりました。ですから村人達だけは村を棄てでも生き延びてもらいたいです」
村長の答えに満足したアインズはある提案を考えた。
「我々はこれから黒竜を倒しに行く。そうすればこれは何の価値も無くなるだろう」
「やはりそうでしたか。何となくですがあなた様が来られた時、そうではないかと感じました」
「ではどうする?この村を棄てるか?」
「そうですね、村人に伝え避難させます」
「お前はどうするのだ?」
「あなた様には失礼ですが、もしもの時があります。その時に手入れをしていない村に戻ってきた村人は暮らせません。私は残ろうかと思います」
アインズは村長の覚悟を聞き
「そうか、分かった。ではこの村を私の保護下に置こう。それであればわざわざ村人総出で逃げる必要もあるまい」
アインズの言葉に村長は驚いた顔をしている。
「もちろん私が討伐に失敗すれば手間も省けるしな」
笑いながら言うアインズに村長はアインズの実力が理解する。確実に黒竜を倒してくるだろうと。
「これから黒竜を探す。すまないが村長、しばらく外してくれないか。何、別に鱗をどうこうするつもりはない。企業秘密というやつだ」
戸惑う村長だが了承し小屋から出ていった。村長が出ていくと、側で話を聞いていたシャルティアがこの村を保護下にする必要性を聞いてきた。
アインズは適当に黒竜の情報を探すためと答えたが、自分自身答えが分からなかった。何となく村長の想いに惹かれたのか、それとも単純に黒竜を探す為だけの方便なのか。ふと、アインズは今までの出会いを思い出した。ベルやエイナなどに触れ人間としての感情を思い起こしていたことに。少なからず影響されたのかと何となく感じた。
「ではそろそろ居場所を見つけるぞ。相手はユグドラシルに関係している可能性が高い。充分に対策をするぞ」
アインズは幾つものスクロールを取りだした。
探知したときに反撃されないための対策や逆探知されたときに偽の情報を流す魔法、さらには探知の効果を高める魔法など出来る限りの対策を行った。これは至高の41人の一人、ぷにっと萌え考案の『誰でも楽々
「【
スクロールが燃え上がり、アインズに落とし主、今回でいう鱗の持ち主の距離と方角が浮かび上がった。どうやら相手は探知系の対策をしていないようだ。アインズはぷにっと萌えの言葉を思い出し、心の中で笑みを浮かべる。『勝負は始める前に終わっている』と。
充分な成果を得てアインズ達はナザリックヘ一度帰還した。
───────────────
「アルベド、ニグレドからの報告は来ているか?」
「はい、すでに居場所は確認できております。監視に気付いている様子もなく、今は大人しく巣穴で寝ております」
アインズは違和感を感じていた。なぜ情報を垂れ流すような真似をするのか、ユグドラシルのプレイヤーであれば情報は何よりも大切な武器になる。プレイヤーではなくNPCの可能性も考え守護者達に指示を出した。
「そうか、では諸君。相手が油断していようが必ず侮るな。ユグドラシルの関係者である以上、ワールドアイテムを使用する可能性もある。合図をしたら一気に叩け」
「「「はっ!」」」
アインズ達は全ての階層守護者を率い、人里離れた深い山奥に来ていた。標高も高いため木々は無くゴツゴツとした岩が転がっていた。各守護者達には
しかし、アインズは初めから敵対しないよう奇襲は行わなかった。相手を警戒させないように、最初に姿を見せるのはアインズとアルベドだけだ。
「お前はユグドラシルのプレイヤーか?私はモモン、ユグドラシルのプレイヤーだ」
あえて名前を偽ったのはアインズ・ウール・ゴウンの悪名が知れ渡っており、無用な争いを避けるためだ。
アインズの質問にゆっくりと起き上がった黒竜はアインズを認識すると咆哮をあげ、突然猛突進でアインズに突っ込んできた。咄嗟にアルベドがスキルを使用してアインズと黒竜の間に入った。
「大丈夫か、アルベド?───おいっ!ユグドラシルのプレイヤーだと言っているだろっ!」
「アインズ様、危険です。お下がりください」
なおもアインズの言葉に耳をかさず攻撃を加えてくる黒竜にアルベドはアインズの身の危険を考え進言する。控えていた守護者達も一斉に姿を現した。
(なんだこいつは、まるで獣だ。こんな奴がプレイヤーな訳がない、NPCにしてもお粗末すぎる)
アインズは仕方なく黒竜を捕まえ、情報を得るように切り替えた。
「守護者達よ、黒竜を殺してはいかん。捕まえ情報を得る」
アインズの言葉に守護者達は手加減の具合を悩みながらも思い思いの攻撃をしていく。
スポイトランスを装備したシャルティアは真っ直ぐ突っ込んでくる黒竜に【不浄衝撃盾】を使用し、黒竜を吹き飛ばした。さらに追撃にMPを使用した【清浄投擲槍】で攻撃を避けようとした黒竜に必中の攻撃を加える。
「ちょっ、シャルティア、あんた手加減って意味知ってるの?」
「相手もそれなりの強さでありんすから、これぐらい大丈夫でありんすよ」
アウラは反省していないシャルティアに呆れるが、黒竜も鼻息を荒くして突撃してくる。
「そうみたいね、じゃあ私も遠慮無く」
アウラはターゲティングで黒竜に狙いを定め、一射を空にめがけ放った。豪雨のように光り輝く矢が降り注ぎ黒竜を襲う。激しい攻撃の中、黒竜も灼熱の炎を吹いた。
「ヤバッ」
「ウ、【ウッドランド・ストライド】」
アウラはマーレの魔法により別の場所に転移し、黒竜の炎を避けた。ゴメンゴメンと手を合わせマーレに謝る。
鋭く巨大な爪を振り上げる黒竜にセバスは片腕で受け止め、逆にカウンターの掌底を黒竜の腹に打ち込む。黒竜の腹にセバスの手形が残るほど強く撃ち込まれた攻撃にたまらず黒竜はうずくまる。
「やれやれ殺すのではありませんよ、皆さん。【悪魔の諸相:豪魔の巨腕】」
デミウルゴスの腕が体と比較して明らかにバランスが悪くなるほど巨大化する。その腕でうずくまっている黒竜の頭を殴り飛ばす。
守護者達による一方的な攻撃が繰り返される中、一人の守護者が負けじと身を構えた。
「───三毒ヲ切リ払エ、倶利伽羅剣!【不動明王撃】!」
「い、いかん!」
守護者達が活躍するなか、自らもアインズの前で力を振るおうとコキュートスは本気で黒竜に斬りかかった。その威力に黒竜が死ぬ可能性があると判断したアインズは焦った。
バキッッ!!!
黒竜は倒れた。しかし、コキュートスの一撃を受けたからではない。アルベドが間に入り腕を犠牲にしたが黒竜が死ぬのを防いだ。黒竜は守護者達のダメージが蓄積し倒れたのだった。
「アルベド、大丈夫か?」
「はい、問題ありません。───コキュートス、アインズ様は殺すなと言われた筈よ。相手のダメージ量くらい把握できるでしょう。あなたがしたことは命令違反よ」
アルベドの言にコキュートスは頭を下げ、謝罪した。
「では黒竜を拘束せよ。ナザリックヘ連れていく」
ナザリックヘ連れていかれた黒竜は拘束されまともに動けないほど血を流しているにも係わらず、暴れ自らの血を飛び散らせていた。
「ブレインイーターのニューロリストに脳を吸わせますか?」
「いや、よい。こいつにまともな知能も無さそうだしな」
同じプレイヤーの可能性が殺すことを戸惑わせた。未だに暴れる黒竜に、いったいそこまでして何を求めているのか理解が出来ないアインズは【
そこにあったのは『無』だった。
ただだだ黒く、飲み込まれそうなほどの暗闇に呪いのような声だけが響いていた。
《────こ、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、全て殺す、皆殺し、───喰う、喰う、肉を喰う、人間を喰い尽くす、壊す、壊す、人を、村を、町を、何もかも、燃やし尽くす》
アインズは黒竜を記憶を探って悟った。こいつは堕ちたのだと。1000年以上もの長き間竜として生き、その強靭な肉体は死ぬことは無かった。しかし、この世界の人間を殺し、人の肉を喰い、竜としての本能に負け人間だった記憶すらも忘れたのだろうと。
アインズ自身も人間を別の生き物に感じることはオラリオでの生活を通して気付いていた。もし鈴木悟の残滓を忘れ、アンデットの本能のまま生者を憎み続ければ目の前の竜に自分がなっていたのだろうと感じた。
「もうよい、こいつには慈悲を与えてやる─────【
黒竜はアインズの魔法により眠るように死んだ。黒竜の体は次第に灰となり一際大きな魔石だけが残こされた。
この世界の人間は死んだ時、神の居る天界に送られるらしい。では異世界から来たアインズ達はどこに行くのだろうか、アインズは灰となった黒竜を見ながらそんなことを考えていた。
最初は
鱗→ロケート・オブジェクト→黒竜発見
って考えてたら魔法の効果が違ったorz
なので急遽、新しい魔法にしました。
それにしても「探知落主」、ネーミングセンスが無さすぎる・・・