(なんで俺、こんな所に居るんだろ・・・)
金髪金眼の美少女にひざ枕をされる少年とそれを見つめるおっさん。場違いな思いを感じながら、まだ日の昇らない空を眺めため息をついた。
数日前...
「アイズ・ヴァレンシュタインさんと特訓をすることになった?」
ベルとモモンはエイナのダンジョン講習の休憩時にベルから相談を持ちかけられた。モモンの脳裏にダンジョンでの二人のひざ枕を思い出したが、大人の対応をした。
「良かったじゃないか、アイズさんは上級冒険者ですし得られる経験も多いと思いますよ」
「いや、でも二人きりというのは少しというかかなり緊張するのですが・・・」
「今更、何を言っているんだ、ベル君。そう言うときこそ男性である君がリードしないと」
モモンことアインズ、いや鈴木悟としての経験を持ってしても知識のない内容だが、ユグドラシル時代の女性ギルドメンバーの会話の内容を思い出し出来る限りのアドバイスをする。
「リードするとか、逆に思いっきりリードされそうな気がしますよ。・・・そうだ!モモンさん。僕と一緒に特訓に付き合ってくれませんか?モモンさんが強いのは知ってますけどアイズさんが相手ならきっと為になりますよ」
モモンはベルとアイズがキャキャ、ウフフと仲良く稽古をしている横でポツンと立っている自分の姿を想像した。
「いやいや、おかしいだろ。付き合ってる君達二人の間に関係ない私が居たら彼女は怒るだろ。さすがにそれくらい私でも分かるぞ」
「え、いやいやいやいや、僕、アイズさんとお付き合いなんてしてないですよ。憧れているといかすごい綺麗な方だなって思いますけど・・・。付き合うなんて夢のまた夢ですよ」
「え、でもこの前ダンジョンでひざ枕されてなかった?」
モモンの質問に一瞬呆けたような顔をした後、一瞬にして顔を真っ赤にして慌て出した。
「な、な、なんでそれを知ってるんですか~~?」
「え~~~!ベル君、ヴァレンシュタイン氏からひざ枕してもらってたの!?なんでそれを私に報告しないの?」
横から入ってきたエイナが話に加わる。こうして講習をそっちのけでベルへの追及が始まった。
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特訓初日、ベルはアイズにモモンも特訓に参加してよいかお願いした。アイズからは断られるかとも思ったが思いの外、了承を得られた。特にベルに対して特別な感情が感じられずモモンはベルに少なからず同情をする。
特訓はアイズの不馴れな指導もあり、実践形式で行われた。モモンとベルの交代でアイズと対戦をしていく。
「ハッ!」
モモンがグレートソードを横一線に振るう。風が巻き起こり、当たれば只では済まない一撃だ。しかし、アイズはヒラリとかわす。
「あなたは凄い力がある。でも剣士としてはまだまだ未熟」
モモンは追撃をするがアイズの使うサーベルで軌道をそらされてしまう。
「それでは剣を振り回しているだけ。懐に入られると対処できない」
そういうとアイズはモモンの大振りの剣をかわし、モモンの懐に入る。すぐにサーベルがモモンの全身鎧の弱点であるスリットをめがけ直前で寸止めをした。
「・・・参りました。さすがですね」
アイズはサーベルを持った痺れの残る右手に目をやった。
圧倒的なスピードで成長していくベル、下級冒険者としての限界をはるかに越えているモモン、アイズは自らの成長のため二人の強さの秘密を知りたかった。
アイズは強さの秘密を考えながら特訓をしていると、グェッと潰れたカエルのような鳴き声をして石壁にぶつかるベルの姿があった。
「だ、大丈夫かい、ベル君!?」
慌ててかけよるモモンと呆然とするアイズ、ベルは最後の力を振り絞ってアイズに親指を立て大丈夫な事を知らせ力尽きた。モモンはベルの健気な行動に心のなかで涙を流した。
アイズはベルに駆け寄り、石畳の上で正座をしだした。
「アイズさん⁉何をされてるのですか?」
「リヴェリアが償いをするならこれをすればいいって」
「・・・そ、そうですね」
ベルが目覚めるまで暫く休憩することになった。
(やはり上級冒険者と対戦すると勉強になるな。ベル君は・・・幸せそうじゃないか。なんかやっぱり二人きりにしたほうがいいんじゃないか?)
その後、何度かの交代とベルの失神を繰り返し初日の特訓を終えた。
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(やはりもったいなかったかな。上級冒険者を直に観察できる機会だったからな。でもこれもベル君のためだ)
モモンは現在、ダンジョン探索を理由に朝の特訓を断っていた。最初、ベルに伝えたときは泣きそうな顔をしていたが、心を鬼にしベルの恋を応援することにした。その特訓も昨日で終わったらしく、ベルがどこまで色々な意味で成長できたか親戚のおじさんのような気持ちで見守っている。
モモンは現在、9階層までマッピングを進めていた。かなり驚異的なスピードで進出階層を進めているが、そもそもモンスターなど相手になるわけでもなく魔石が持ちきれずに換金しに戻る必要もないため順調に進めることができた。またエイナからの講習の効果もあり出現するレアモンスターやドロップアイテムの補足知識も追加しより完璧な地図ができているとモモンは満足していた。
「モモンさん、10数名の冒険者がこちらに近づいてきます」
「なに?シャルティア、大人しくするのだぞ」
シャルティア以外にユリ、ソリュシャンもいるが、シャルティアだけに注意をするのは日頃の行いだろう。
暫くするとソリュシャンの言う通りルームの入り口からアマゾネスの集団が現れた。アマゾネス達はモモン達をなめ回すように伺っている。鈴木悟であれば間違いなく顔を真っ赤にしていただろうその妖艶な出立ちは、草食系のモモンにとって苦手なタイプだった。
「アイシャ、なかなか良い男が居るじゃん。ちょっとだけ遊んでも良い?」
「やめとけ、相手は猛者だ。遊んでる余裕はない」
「そもそもあいつが中層でミノタウロスと遊んでるってホントかよ?」
「そんなの知るかよ。とりあえず本当だろうが嘘だろうが主神が行けって言うんだ。うちらはそれに従うだけだよ」
「ざーんねん、じゃあまたね、お兄さん。今度遊びに来てよ。たっぷり楽しませてあげるからさ」
モモンはトラウマを思いだし、身を震わす。そんなモモンの横をアマゾネス達は通りすぎていった。
「なんだあれは・・・」
「恐らくイシュタルファミリアの
「ほう、よく分かったなソリュシャン。所属を証明するようなものは無かったと思うが」
「以前、潜入捜査をしていた時に有力な上級冒険者はある程度覚えております」
「すごいでありんすね、妾には違いがさっぱり分かりんせん。まあ愉しそう者ではありんしたね」
シャルティアが想像していることが理解できたモモンはつとめて無視をした。
「シャルティア、あいつらが言っていた《猛者》とは誰のことだ」
「はい、モモンさん。《猛者》はオッタルというものの二つ名です。現在オラリオ最大の派閥、フレイヤファミリアの団長、唯一のLv.7の冒険者です」
「なに、そいつがこの辺りをうろついてるのか?気になるな。私たちもあいつらを追うぞ」
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(いったいあいつらは何やってるんだ?)
モモンはコソコソとアマゾネス達に気付かれないようについていき様子を見ていた。アマゾネス達は目的の相手オッタルを見つけると早速喧嘩を吹っ掛けていた。
数こそアマゾネス達は多いが個として圧倒的に強いオッタルには敵わない。しかし、オッタルは後ろにある大きなカーゴを守るように戦っており本来の力を発揮できていないよう見えた。
「何が入っているんだ?分かるかソリュシャン?」
「はい、少々お待ちください。・・・中には拘束されたモンスターがおります」
なぜ彼等が争うかも分からないモモンはモンスターを運んでいる状況に余計に混乱する。しばらく様子見をしているがどうやら状況は膠着しているらしい。
「一応、よくわからんが一対多では不利だろう。お前達はアマゾネスを対応してくれ。シャルティア、殺すんじゃないぞ」
アマゾネスの大戦斧がオッタルを襲う直前、モモンのグレートソードが間に入った。二人の視線がグレートソードの持ち主を見る。
「テメェ、邪魔すんじゃないよ!」
「なにをダンジョンで争っているんだ?少し落ちつきたまえ」
相変わらずアマゾネス達は攻撃を仕掛けようとするが、シャルティア、ユリ、ソリュシャンがそれを防ぐ。シャルティアはアマゾネス達が攻撃してくるのを寸前でかわし、アマゾネスの薄布を一枚一枚剥いでいった。アマゾネス達は明らかに遊ばれていることにさらに怒りを強め攻撃をしてくるが脱がすものが無くなると一撃で沈められていった。シャルティアは凄く爽やかな顔をしている。
その間もオッタルは無言でモモン達を見つめている。
「ところでその中に入っているミノタウロスはどうするつもりですか?」
モモンの質問に僅かにオッタルの眉間が動いた。
「オラリオには持ち込めない筈ですが・・・」
モモンがさらに問い詰めようとしたとき、オッタルの思い口が開いた。
「・・・悪いが邪魔をされる訳にはいかん」
そういうとオッタルはモモンに一瞬で近づきモモンの鎧の上から直接殴った。
モモンの巨体がダンジョンの壁にめり込む。しかし、アイズとの特訓のお陰かギリギリでグレートソードで防御できていた。
しかし、それを見ていた僕達は一瞬でオッタルに肉薄した。シャルティアは誰よりも早くオッタルに接近し、オッタルを殴り飛ばした。
「下等生物風情が、至高のお方であらせられるアインズ様に向かって」
「よせ、シャルティア。ユリ、ソリュシャンも控えよ」
「し、しかし!」
「私は下がれと言ったはずだ」
モモンの言葉にしぶしぶシャルティア達は下がった。
モモンは正直驚いていた。オッタルのパワーとスピードはモモンとして相手するには危険であると。そしてまた、オッタルもシャルティアと呼ばれた少女に驚いていた。傲っているつもりはないがオラリオで最強であるという誇りはあった。しかし、殴られるまで気付かないほどのスピードと今まで経験したことが無いほどの力を体験した。もはやオッタルの体はまともに動かない。しかし、
「あのお方の期待に応えねばならん」
小さく呟くと、後ろにあったカーゴの蓋を壊し、カーゴごと通路に放り投げた。そして即座にその通路の入り口を破壊し、通路の目の前に立ちふさがった。
「悪いが、ここを通すわけにはいかん」
モモンは正直、あのミノタウロスに興味はない。ただし目の前のオッタルには非常に興味が湧いた。見れば今にも倒れそうだ。まともに門番として動けないだろう。しかし、彼の目はまだ死んでいない。彼の突き動かす動機が知りたかった。そして、手元に引き入れたくなった。
「オッタル、私の下にこないか・・・」
「笑止、我が命はあのお方のためにある」
「そうか、非常に残念だ」
しばらくお互いを見つめあった後、アインズはポーションをオッタルに放り投げた。
「また会おう」
そう、言い残しモモン達は消えていった。
いったいどこに向かっているのか...
連載されてる皆さんはすごいです