後、追いかけ   作:RENAULT

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第捌局

 

 日本棋院大広間

 

「あのォ、内田って誰?」

「私だよ。場所はここでやるの」

「あ、ありがとう」

 

 スタスタと初老の男が入ってきた。

 

「おはようございます」

「「「「「おはようございます」」」」」

「今日から新しい子が入りました。進藤ヒカル君です。よろしくお願いします。では始めてください」

 

 全員が一斉に打ち始める。

 大広間には石が碁盤に当たる音と時計の秒針が動く音だけが鳴り響く。

 

「ありません」

 

(誰だよ)

(早くないか?)

 

 ゆっくりと内田が頭を下げた。

 

「えっ、投了? なんで?」

 

(進藤か)

(どこまで打ったんだ?)

 

「なんでって、もう手が無いんだけど。それより、勝った方が成績表に書くかららそれを教えるね」 

「あっ、ありがとう」

 成績表が置いてある机へ向かい教えてもらいながら白丸の判子を打つ。

 

「検討する? あそこだったらまだ打てる場所あったんだけど………」

「あるの? ほんとに?」

「とりあえず黒の碁笥渡して?」

 

 すんなりと渡してくる内田さん。

 

「初手から並べる?」

「そこまで戻らなくていいよ、五手くらい前で」

 それを聞いて石を動かした。

「ここで、こっちで、ここ打って投了だったけど、こっちの白のノビにアテて白がこっちで黒がハネたらここの場面は死にだな」

「だけど、こっちは?」

「こっちだと………」

 

(佐為、ここはこっちにノビだよな)

(えぇ、ですがこっちにハネて黒がここへ、その後に開けばいいでしょう)

 

 佐為が話したことを内田にも説明する。

 

「進藤君、強いね。先生は誰なの?」

「先生はいないよ。知り合いにめっちゃ強い人が二人いてその人たちと毎日打ってる」

「それじゃあ我流なの?」

「ある意味そうなるかな?」

 

 会話しながらドンドン手を進めていく。

 

「ここはここに打てばこの時点で3目半くらいは埋めれたよ」

「進藤君強いね」

「そこまで強くねぇよ」

 

 なんやかんや話していると周りも終局へ向かっていた。

 

(小僧、このわっぱの寄せ何目になる?)

(えぇ! 行きなりかよ)

(ヒカルは何目差になると思いますか?)

(4目かな?)

(いい見立てだが5目だろうな)

(いえ、和谷君でしたっけ、彼の4目半です)

(いや5目だろう)

(うるせぇ! 外したら当たった人の言うことを聞くってルールにするから外れたときに嘆け!)

(おう! 乗った!)

(残念です虎次郎。貴方が地面に這いつくばるのを見てしまうなんて……)

 

 こんな声は目の前で打ってる和谷には絶対に聞こえてない。

 

「あぁ~~ァ……4目半足りない」

 

 佐為が勝ち誇ったようにどや顔する。

 

「なぁ和谷、昼飯はどうすんの?」

「伊角さんは外で食べる? ワクドナルド?」

「進藤もそうしよう。基本みんな外のワクドナルドか弁当を頼むかで別れるし」

「じゃあ外いこうぜ」

 

 ●○

 

「なぁ進藤、この前聞いたんだけどさ、師匠がいないってホントなの?」

「そうだけどなんかあるの?」

 

 ポテトを摘まみながら伊角さんに返す。

 

「伊角さんは桜さんがいるだろ?」

「ああ、そういわれれば進藤、九星会にも来てないよな」

「院生つっても第2土曜と日曜日だけだろ? それ以外の毎日どう勉強するかで差がつくしな」

「和谷は森下九段の弟子だしな」

 

 なぜだか奈瀬が合流。

 

「いつもない日はどうしてるの?」

「教えてくれる人と毎日リーグ形式でやってる」

 

(ヒカルは弱いですから)

(まだまだだな!)

 

 後ろの二人が五月蝿い!

 

「教えてくれる人って前に言ってた秀策の研究してる人?」

「それと化けもん級に強い人。多分塔矢名人より強いと思う。体が弱くて家から出れないけど」

「お前の家でその二人と三人で?」

「そういうこと!」

 

 飲み終わったコーラをズズッと音をたてる。

 

「なぁ進藤、俺の師匠の研究会来てみるか?」

(行く~~! 行く行く! 行きましょうヒカル!)

 

 佐為の声で思わず倒れる。 

 

「和谷ァ~……行く……」

「大丈夫か進藤。お前路上で倒れるなよ、こっちが恥ずかしいから」

 

 ●○

 

「ヒカル早く研究会行きましょう!」

「そうだぞ小僧!」

「小僧って言うな!!」

 

 小僧小僧言われてさすがに怒る。

 

「お~い! 進藤!」

「和谷ァ~」

「ふぬけすぎだろお前! 早く入ろうぜ、もう始まってる筈だし」

 

 和谷を先頭にノソノソと動きいつもの広間の襖を開ける。

 

 ガラガラ~

 

「失礼します。ほら、入れよ」

 

 和谷に催促される。

 

「これは乱暴だよ! そりゃ打っとけばカタイけど」

「いや、違いますよ森下先生。ここはこっちに広がる方が良いと思いますよ?」

 聞こえてきた声に反応して盤に集まってる中の一人に目を向ける。

 

「あっ、先生」

「進藤くん? キ、キミがなぜここに……?」

「……お前……白川先生しってんの?」

 

 和谷の質問が入る。

 

「白川くん?」

「以前私の囲碁教室に通ってた子です。あかりさんに院生になったとは聞きましたが……」

「和谷、お前が連れてくるって言ってた院生ってその子か?」

「はい。そうです」

 

 森下先生と呼ばれていた人はいかにも碁打ちみたいな人だった。

 

「でもこうして目の前にいると……」

「意外なのか?」

「いえ、才能は感じてましたよ森下先生。打ちはじめて一年なんですよ? 彼」

「倉田さん見たいっすね」

 

 そうだとここにいる全員が言う。

 

「進藤ヒカルって言います! よろしくお願いします!」

「よろしく進藤君、とりあえずオレと打とう」

「森下先生?」

 

 白川先生が驚いたように聞き返す。

 

「面白そうだからな。それに白川くんには勝ったんだろ?」

「はい……敗けました」

「まじで?」

「ええ本当ですよ冴木君。彼の院生用の棋譜を書いたときに一つ置いて打ったら完敗しました」

「互い先で打つか?」

「いいんですか?」

「オレは構わんよ」

「それじゃあお願いします」

 

 ニギリ、ヒカルが黒に決まる。

 

「お願いします」

「お願いします」

 

 ●○

 

「おい! 和谷! 今日から一組だぜ!」

「一ヶ月半かよ!早すぎだろ!!」

「でも今日からお前の相手は一組だぜ?」

 

「「ようこそ、一組へ」」

 

「よ、よろしく」

 

 先生が新しい子をつれてきた。

 

「今日から新しい子が入ります。越智君です。よろしくお願いします。では始めてください」

 

 ●○

 

「カンタンだぜ? ネット囲碁」

「和谷、ネット碁の話してんの?」

 

 遠くから聞こえてきた和谷の話に乗っかってみる。

 

「進藤お前ネット碁してんの?」

「ううん、この前、緒方さんが勧めてくれた」

「緒方先生が?」

 

 怪しそうに顔をしかめられる。

 

「勝ったらパソコンほしいって言ってた約束をこの前ちゃんとパソコン持ってきてくれたんだ」

「「どんな関係だよ!!」」

「それより進藤。お前の順位って一組の十番じゃん」

「再来週の若獅子戦出れんじゃねぇの?」

「若獅子戦?」

 

 話し聴いとけよと和谷に怒られる。

 

「プロの五段までと、院生の16人ずつでする大会」

「そんなんあったんだ。全然気にしてないからわかんなかった」

「進藤。お前そろそろタイトルとか覚えろよ」

「プロに成ったら覚えるよ」

「はぁ………」

 

 和谷がため息をつく。

(全部わかってんだけどね……)

 

 ●○

 

「まだ来てない院生は?」

「進藤と磯部です」

「全くあの子は」

 

 はぁと、肺の中の空気をすべて出す先生。

 

「先生、進藤来ました」

「遅いぞ進藤!」

「ごめんごめん。トイレ埋まってたからさ」

 

(結構ガヤガヤしてんな)

(そうですね)

 

「うーん……どうしよう?」

「何が?」

「何もないよ! 奈瀬」

 

(二人とも、一人一回ずつ打つ?)

(一局ずつ交代ということですか?)

(そゆこと)

(いいな!久しぶりに人と打てる)

 

 コツコツ、マイクを手で叩く音が響く。

 

「えー、静かにしてください。ただ今より第8回若獅子戦を始めます。では順に席について下さい。えー……」

 

 呼ばれた順番にみんなが座り始める。

 

「互先ですが院生が黒を持ちます。良いですか?では始めてください」

「お願いします」

 

(一回戦はオレが打つからさ、二回戦は虎さんで、三回戦が佐為でやるから)

(わかりました)

(よいぞ)

 

 一回戦は楽に勝てた。

 煽りまくってたら勝手に自滅しただけだが……。

 

「進藤勝ったのか?」

「うん、和谷は?」

「オレも勝ったよ。奈瀬と本田さんは負けたけどな」

「じゃあ残ってるのは?」

「俺、お前、伊角さんと真柴の四人だけ」

「結構残ったね」

「えー、二回戦を始めますので皆さん座って下さい」

 

 話の途中でアナウンスが入った。

 

「和谷ァ、早く座れ!」

「すみません冴木さん。じゃあ頑張れよ」

「おう!絶対に勝つ」

 

(我の出番だな。本因坊の囲碁を見せてやろう)

(虎次郎楽しそうですね)

(人と打つのは久しぶりだからな)

(落ち着いて打てば勝てるよ、兄弟子なら)

(言ってくれるな。まぁ、見ておれ見ておれ!)

 

 現代によみがえった本因坊秀策の囲碁が始まる。

 




 新しいスプラトゥーンマジ欲しい

10/1 修正

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