後、追いかけ   作:RENAULT

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第弐局

 翌日、外は晴天でむしろ暑すぎて溶けそうな日曜日。 

 ヒカルは佐為、虎次郎、あかりを連れて近くの白川道夫七段が講師をしている囲碁教室に行った。

 

「君たちだね、見学したいって言ってた子達は」

 

 やっぱりこの頃の白川さん若いなぁ。

 

「よろしくお願いします」

 あかりが言ったのを聞いて慌てて、

 

「お、お願いします」

「よろしくね。今日は最初は序盤のことをみんなで勉強するから、まずは見ていてね」

 

 あかりをつれて一番端の所に座る。

 

(おい佐為! おろおろすんなって) 

(良いじゃないですか、早く打ちたいんですから。こんなに碁盤があるってことはいろんな人と戦えるのでしょ?)

 

 佐為は直ぐにでも打ちたくてソワソワしている。

 

(ここに来る人は初心者ばっかだよ。あかりよりちょっとだけ強い人達がいるところ)

 

 そんなことを佐為と虎次郎に説明していると、どんどん人が集まってきた。

 

「おはようございます」

「「「おはようございます」」」

 

 全員で挨拶をする。

 

「皆さん揃ったところで、今日は見学したい子達が来ていますので優しくしてあげてください。

 ではさっそく、一手目ここに黒、二手目ここに白が来たとします。では三手目はどこに来るでしょうか?

この形はいろんなところで出てきますよね」

「黒の左斜め下の所」

 

 あかりが答えたとたん周りの空気が凍った。

 

「どうしてここだと思ったんですか?えっと…」

「あかりです。理由はわからないんですけど、いつもヒカルがここに打ってるから」

 

 あかりのせいで巻き込まれた。

 

「ヒカル君、どうしてここなんですか?」

「それは、オレに囲碁のことを教えてくれた人がいて、その人が本因坊秀策のことを研究してたから」

「誰のことですか?」

 

 佐為が興味津々で聞いてくる。

 

(お前だよオレに囲碁のことを教えてくれたのは、お前の常套手段だろコスミは)

(佐為はほとんどコスミだからな)

(虎次郎まで、コスミ以外もちゃんと打てますよ)

 

 佐為がオレの後ろで顔を膨らましながら怒っている。

 

「昔の囲碁ではこれがよく打たれてましたが、今ではこの手を打つことはほとんど使われなくなりました。因みにこの手をコスミと言います」

 

 丁寧に説明している。

 

(坊主、今では打たなくなったとは本当か)

 

「今ではこっちに打つのがほとんどですね」

 

 白川先生が説明しているのを見て佐為と虎次郎は感心したようにうなずいている。

 

「では皆さん、二人一組になって打ちましょう」

 

 各自二人一組になって打ち始める。

 

「いやいや待たせてごめんね。二人ともホントに初心者なの?」

「あかりは初心者です」

「そしたら君は?」

「塔矢アキラ以上だと思う」

「アキラ君のこと知っているのかい?」

「会ったことはまだないけどこんど塔矢名人の囲碁サロンに行こうかなって」

「へぇ、そしたらあかり君に教えたら良いんだね?」

「そうだね。オレは適当に皆の打ち合いを見てるんで」

「わかった。ではあかり君にはまず適当に石を置いてもらおうか」

 

 白川さんがあかりに教え始めたのを見て席を立ち周りの打ち合いを見た。見ていると、一ヶ所でうるさいところがある。

 

「そんなところに打つからまた取られるんだ。ほらまたアタリだ」

 

 出た阿古田さんだ。懐かしい。

 

(ヒカル!)

(坊主!)

((相手が弱いと見ての無茶な攻め、攪乱させるだけの無意味な手))

 

 二人ともおんなじこと言うなよ、ステレオみたくなってるから。

 

「アッハッハ! ほらほら」

 

 なんて言いながら額についた汗をハンカチで拭き取る。ヒカルはその瞬間髪の毛がずれるのを見逃さなかった。

 

(変わりましょうヒカル、私が打ちます)

(いや坊主、俺に打たせろ二分で終わらせてやる)

 そんな二人の言葉を無視してヒカルは阿古田さんの後ろに立ち、白石を頭へぶちまける。

 

「いやすみません。手が滑っちゃって」

「気を付けろ小僧が!場面がぐしゃぐしゃになったじゃないか!」

 

 急に対戦相手が笑い出した。

 

「何を笑っているんだ!」

「あっ、あWたWまWがW」

「あ、た、ま?」

 

 一瞬阿古田さんの動きがフリーズする。一秒置いて。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!うぎぎゃぁぁぁぁぁ!!!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

 

 喚きながら外へ走っていった!

 

「進藤君!!!!!」

 

 そうして俺は白川さんにかなり強めに怒られたのであった。

 

 ●○

 

 時々囲碁教室に行きながらなんとなくで塔矢名人の囲碁サロンへ行った。

 

「いらっしゃい。あら、小学生の子?はじめてだよね。500円なんだけど囲碁打ってみる?」

 

 と、受付の市川さんに言われた。

 

「ごめん市川さん。お金無いや。それと、久しぶりに打つだけではじめてじゃないよ」

「どうして私の名前を?」

「名札つけてるじゃん」

「なるほど」

 

 すると佐為が。

 

(あそこにいる彼なんてどうですか?何か考量しているようですし)

(あの小僧面白そうだな)

 

 佐為と虎次郎は窓際に座っていた塔矢のことを話し出す。もとからそのつもりで来ているよ二人とも。

 

「そこに一人でやってるやつは?」

「あぁアキラ君ね、でもアキラ君じゃダメね、もうちょっとしたら芦原君が空くから彼とやればいいと思うわ」

 

 声が聞こえたのか塔矢がこっちに来る。

 

「僕でよければ打ちましょうか?」

「良いのか?」

「あぁ、僕でよければ全然」

「なら打とう。さっきまでただ考えていただけだから。片付けしたらやろうか」

 二人で石を碁笥に入れる。

 

「わかった。ならオレは黒でいい?」

「構わないよ。僕の名前は塔矢アキラ。君の名前は?」

「オレの名前は進藤ヒカル。桑原のじいちゃん引きずり落として本因坊になるのはオレだから」

「桑原本因坊のこと知ってるのかい?」

 

 少し警戒しているように尋ねる。

 

「知ってるよ、あのねちねちした碁は上手いけど嫌いだ。戦いづらそうだもん」

 

(戦ったんだけどな)

 

「君もそう思うんだね。父も同じようなことを言っていた。さぁ、準備が整ったから始めようか」

 

(佐為お前が打ってみて。今の俺と塔矢がどれくらいの差があるかわからないからさ)

(本当に良いのですか?)

 

 何て言いながら顔が明るい。

 

(坊主)

(わかってるよ。虎次郎は今日の夜三連続で打とう。決定な!)

(わっ、わかった)

 

「進藤くん君からだよ」

「わかってる。じゃあ始めるぞ!」

 

 こうして、ヒカルとアキラの長い戦いの第一局が始まる。




 佐為と虎次郎の括弧表記は人前では()で表記。
 ヒカルとあかりしかいない時では「」表記にしています。

 9/1 修正

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