後、追いかけ   作:RENAULT

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早めに投稿できたぜ!!
頑張ったぜww


第拾弐局

「佐為、あんなことになったけど良かったのかよ」

 

 研究会が終わって家であかりと虎次郎が打ってる横で聞いてみる。

 

「ええ、彼とは一度手合わせ願いたかった。雰囲気からして強者。どのみち私個人で打てますからね、ネット碁は」

 

 緒方との対局で勝ったらパソコンをもらうという約束を果たしてから少しネットで打っていた。

 

「ネット碁は面白いですよ。これから強くなる者や、さらに上へ行きたい者、始めたばかりで覚えたての者と十人十色で楽しいです」

「あぁ~! また負けたぁ」

 

 整えられた盤上を見て項垂れるあかりと、それを見て笑みを浮かべる虎次郎がいた。

 

「どんだけ足りなかったの?」

「石二つで二目半」

「まだまだだな」

 

 そういいながら笑っている虎次郎。

 そうなのだ。虎次郎はあかりのことを気に入っているのだ。理由はわからないがオレの時はかなりガチでやるのに、あかりの時は甘くなる。

 

「あかりさん。私としましょうか。石三つで」

「はい!」

 

 あかりも佐為たちが見えるからいつもの対局方式で向かい合う。

 

「オレ、今から森下先生電話してくるから居てね」

「わかりました」

「わかった」

「りょうかーい」

 

 ヒカルは電話を取り、森下の電話にかけた。

 

「おお進藤か、どうした?」

「先生。藤原さん大丈夫だそうです。明日の午後3時からで、和谷がいつもやってるサイトなので和谷に詳しい説明は聞いといてください」

「あぁ、わかった。藤原さんにありがとうって伝えといてくれ」

「はい」

「じゃあおやすみ進藤」

「おやすみなさい」

 

 電話を切り、部屋へ戻ろうとしたところで母親に呼び止められた。

 

「ヒカル。そろそろあかりちゃんを送ってあげて? もう良い時間帯だし」

「うん。わかった」

 

 バタバタと音をたてて階段を上り部屋に戻る。すると、まだ対局の途中だった。

 

「虎さん。今どういう状況?」

「先程な、娘が誤りをって左辺の死活をやっとる」

「もうちょっとかかりそうだ」

 

ーーパシッ

 

 佐為の動きが止まる。

 

「良いところに打った。」

「三の2に打つか四の3にハネるか悩む所だよね? 三の2の方が良いけど」

「ちゃんと読めていた様だな」

 

 二人であかりのヨミに感心していた。

 

ーーパシッ!

 

 かといって佐為が怯むわけではない。冷静に綺麗にただただ美しい一手を打っていく

 

「打ってる最中にごめん。あかり、この対局終わったら送るから」

 

 あかりは考えてるので頷いた。

 

 ●○

 

「今日どうだった?」

 

 あかりを送る最中ふと聞いてみた。

 

「三目足りなかった」

「佐為とのじゃなくて、研究会の方」

 

 ごめんごめんと謝りながら考えるあかり。

 

「えーと、白川先生ってちゃんと強いんだね。いつも教えてるのしか見たことなかったから新鮮だった」

「それで?」

「和谷君はさ、手加減してくれたのかな? 私勝てる

と思ってなかったからビックリした! 森下先生は佐為さんや虎次郎さんほどじゃないけど強かった思う」

「だってよ」

 

 ニヤニヤしながら後ろを向く。

 

「照れますね。ね? 虎次郎」

「…………」

 

 照れたからって黙り混む必要はない。

 

「院生試験そろそろだから。棋譜の書き方覚えないとな」

「棋譜って?」

「対局の記録。紙に書くんだよ」

「へぇー」

「はい。とーちゃく」

「ありがとう。……おやすみ! ヒカル」

「おやすみ、あかり」

 

 踵を返し、家へ帰ろうとしたら、

 

「そういえば小僧、お前は前の世界で五段と言っておったがそれまでの棋譜は覚えておるのか?」

「印象に残ったやつは全部覚えてるよ。本因坊に成ったときの全6戦とか塔矢名人と打ったy

「教えてください!」

「そうだな。教えろ」

「わかった! わかったって! 教えるから落ち着けって!」

 

 佐為の顔がヒカルの目の前まで迫っていた。

 

「小僧の言う通りだぞ佐為」

 

 うなだれながら後ろへ下がる佐為。

 

「家帰ったら塔矢名人と佐為が打ったやつ並べるから。」

 

 本当ですか!とキャピキャピしている佐為をほったらかして行く。

 

「待ってくださーい!ヒカル~!」

 

 少し早歩きで家まで帰った。

 

 ●○

 

ーいったい君は何者なんだ。サロンで打ったという父との碁は何故か怒っていた。緒方さんが近くに居たところを無理矢理つれて来て打ったらしいからそうなっても仕方ない………だが彼の手は普通の定石と違う。現代の手はこっちにハネるのを彼は下にノビた。コミがない時代の定石だ。彼は何故古い手を?今の撃ち方でも十二分に強い、プロのタイトルリーグに出れるほどの打ち手。何故だ進藤。何故そんなやつが僕たちの耳に入ってきて無かったんだ。ー

 

「あなた!アキラさん!ご飯ができましたよ」

 

 アキラは考えるのをやめ、リビングへ向かった。

 すると、両親は既に揃っていた。

 

「もうすぐプロ試験だな」

「もうそんな季節ですか」

 

 プロ試験は毎年夏休みに行われる。

 

「お前はどうする? 受けるのか?」

「受けます。勿論プロになってあいつに勝ちます」

「あいつって誰ですか?」

「進藤ヒカル。今は院生だそうだ」

「その子がどうしたんです?」

「アキラのライバルだよ。正直アキラより強い」

 

 お昼時の飯がどんどん重くなる。

 

「僕が一位で合格すれば良いだけの話です。すべて勝てれば」

 

 アキラは俯く。

 

「そうやって焦りすぎてもダメですよ。相手の子がどんなに強くてもいつも通りやれば良いんです。何事も」

「母さんの言う通りだ。落ち着いていつも通りにすれば良い」

「はい」

ー進藤も絶対に試験に出る。彼が本気でやれば僕は敵わないかもしれない。だが、君には絶対に勝つ。

 

 ●○

 

ーー♪♪♪~♪ 

 

「もしもし。塔矢です」

「あぁ、アキラか」

「どうしたんですか?緒方さん」

「森下九段は知ってるよな?」

「ええ、白川七段の師匠(せんせい)ですよね?」

「ああ、彼が今ネットで囲碁を打っているんだが面白くてね」

「わかりました。見てみます」

 

 緒方に流されるままパソコンを立ち上げ緒方が言っていたネット碁のサイトを開く。

 

ー森下森下森下

 

(あった!)

 

 観戦を押す。

 するとそこには、森下九段が何者かによって見事に捕らえられていた。

 中盤の一番盛り上がるタイミングなのに、相手の一手一手が綺麗なまでに受け流している。

 誘いにも乗らず相手を翻弄する。そして古風な打ち方。

 

《進藤か!》

 

 ●○

 

「進藤くんを育てている人かぁ……」

 

 白川は驚愕で言葉もでない状況だった。いや、森下九段の家で見ている門下生の全員が驚いていた。

 パソコンをずっと睨み続ける森下の表情はタイトル戦の表情そのもの。

 

「進藤くんが強い理由がわかりますね」

「白川さん。本当に進藤って何者なの?」

「いやー……囲碁を初めて一年ちょいと物凄い師匠がいるのは確かですよ、冴木くん」

 

 そして対局は大ヨセになる前で森下が投了した。

 

「いやーバケモンだぜありゃぁ。どこ打ち込んでも往なしやがる。全く、もうこんなやつは塔矢だけで充分だ。」

「先生。塔矢名人とどっちのほうが強いですか?」

「多分こいつだろうな。だが、発展途上のようだぜ。打ちながらそんな感じがした。」

 

 どういう意味かと冴木が質問する前に、

 

「今日は解散だ。お開きお開き。帰れ! 帰れ!」

「ここにいる皆で検討しないんですか?」

「しねぇよ! 一人で考えるわ!」

 

 先生のその言葉で森下家は静かになった。




10/2 修正

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