後、追いかけ   作:RENAULT

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おひさ


第拾局

 

「ヒカル~! あかりちゃん来たわよ~!」

「あかりが?」

 

 ヒカルは階段を下りて玄関へ向かった。

 

「あっ! ヒカル、これ今日配られたプリントと宿題ね」

「ありがと」

「大会どうだったの?」

「決勝まで行った」

「スゴいじゃんヒカル!」

「ちげーよ! 後ろにいる平安貴族が馬鹿したんだよ!」

 

 ヒカルの後ろで佐為がずっと謝ってる。

 

「そうそうヒカル!」

「なんだよ急に大きい声だしてさ」

「私と対局して? 白川先生にだいぶ強くなったって言われたんだ!」

「嫌だよめんどくさい」

 

 あかりはええ~と少しショックそうにしてうつむく。

 

「小娘。我が打ってやろうか?」

「良いの? 虎次郎さん」

「構わん。指導碁を打って「私もします。私も!」

 

 食いぎみに佐為が入ってきた。

 

「部屋に行きましょうね? ヒカル! ヒカル!」

「あぁァァァァ! わがッづだよ!」

 

 ヒカルは渋々あかりを部屋へつれ、碁盤を渡す。

 

「虎次郎さん見ててよ~♪♪」

「早く打たんか」

「うん!」

 

 ベッドの上でさっき貰ったプリントを見ながらあかりと虎次郎の碁を眺める。

 

「うーーーん……」

 

 盤面はなかなかキレイだった。あかりが上手くなっている証拠と言えるだろう。

____パシッ!

 中盤の大切な生き死にの別れる所であかりが面白い手を打った。普通だったら左側からアテて、それに相手が乗っかればカケていくところをアテずにケイマで間をあけてきた。

____バシッ、スッ。

 虎次郎はそれにたいしてノビ、あかりに考えさせていく。そうして終局へ近付いたとき、

 

「ヒカル! 晩ごはん出来たわよ!」

「わかった!」

「あかりちゃんもよければ食べていってね」

「了解!今降りるよ」

 

 ヒカルは机にプリントを置く。

 

「あかり終了。今日はここまでだな」

「残念。最後まで打ちたかった」

「晩ごはん食べていく?」

「ごちそうになっても良いの?」

「母さんが言ってたから良いんじゃね?」

 

 ヒカルは適当だね、なんて言いながら晩ごはんを一緒に食べる。

 

「ヒカル。あかりちゃん送ってきてあげて」

 

 夕食を食べて少しした後母が言ってきた。

 

「わかった。帰るぞあかり」

「ありがとう」

「あかりちゃん。またきてね?」

「はい! 是非!」

「じゃ、送ってくる」

 

 ●○

 

 あかりを送った帰り道、虎次郎か話しかけてきた。

 

「あの小娘上手くなったの。ちゃんと考えて打ってたしな」

「あかりが?」

「もう少し強くなれば院生になれるかもしれん」

 

 夜の涼しい風のなか一人と二人の幽霊が薄暗い夜道をてくてく帰っていった

 ●○

 

「進藤くん? 進藤くん!」

「わぁあ!」

「わぁあ! じゃ、ありません。ちゃんと授業を聞いてください」

「すみません」

 

 ヒカル怒られてる~ww!などのざわめきが教室内に響く。

「はーい! 静かに! 進藤くん、教科書の28ページを開いて読んでって」

「はい」

 ヒカルは教科書を開いて立ち、読み始めた。

『西の対の姫君もたち出でたまへり。そこばく挑み尽くしたまへる人の御容貌、有様をみたまふに、帝の、赤色の御衣奉りて、うるはしう動きなき御かたはら目に、ならずひきこゆべき人なし。』

「はい。そこまでで良いです」

 

 その言葉を聞き、ヒカルは席に座る。

 

「これは、『源氏物語』の中のひとつの「行幸」という巻で、冷泉帝が大原野への行幸を玉鬘が見物に出かけたときの場面のところです」

 

(源氏物語ですか)

(佐為が生きてた時代だよね)

(ええ、毎日毎日紫式部殿と清少納言殿の喧嘩が怖くて教えに行くのが億劫でした)

(紫式部って?)

(わからんのか? 小僧)

(紫式部とは源氏物語を書いた作者ですよ。元々の名前はむらさきしきぶではなく、同じ漢字でもとうしきぶだったんですよ? 公任殿が名前を変えていましたが)

(へー、そうなんだ)

(全くもって聞く気がないな小僧)

 

 はぁと、虎次郎がため息を吐いた瞬間

 

 キーンコーンカーンコーン

      キーンコーンカーンコーン

 

「続きは明日ですね。予習復習しっかりしてきてくださいね」

「起立、礼」

「「「ありがとうございました」」」

「ねぇねぇヒカル」

「どうしたあかり」

 

 授業終わりに小走りに寄ってきた。

 

「知り合いのお兄さんが葉瀬中なんだけど囲碁部があるらしいの行かない?」

「オレが?」

「行ってみましょうよヒカル。面白そうじゃありませんか」

「佐為さんも言ってるんだから」

「わかったよ」

 

 ●○

 

「本当に強いなぁ、僕じゃ全然歯が立たないよ。藤崎から話は聞いていたけど」

「筒井さんはヨセは完璧なんだね。それ以外はてんでだめだけど」

 

 筒井の頭に矢が刺さってそこから血が出てるように見える。

 

「あかり。前から言おうと思ってたんだけど」

「えっ、ちょっとやめてよ、筒井さんがいるのに………」

「お前変なこと考えてるだろ。そうじゃあなくて、お前が院生になるならオレは手伝うよ。なるならだけど」

「院生に?」

「再来月に試験がある。推薦の棋士は白川先生か桑原のじーちゃんに頼めば良いからさ。昨日の対局見て思った」

 

 ●○

 

 考えさせてとあかりに言われて2日たった。学校ではいつもと同じように明るく過ごしている。

 

「白川先生もならないかって言ってたみたい」

「あの小娘もお前ほどではないが呑み込みが早いからな」

「でもどうするかはあかりさん次第ですよ。今日は研究会の日ですよ」

 

「新しい子でも誘うか」

 

 森下九段が急に言い始めた。

 

「お前ら、院生でもいいから新しい子誘ってこい」

 

 何か八つ当たりっぽい。

 

「一人院生にならないか? って聞いてるやつがいるんすよ」

 

 ほぅ、と森下先生が相づちを打ってくる。

 

「そいつが、考えさせてって言ってて未だ聞いてないんですけど」

「あかりさんじゃあないですよね」

「いや、あかりだよ。先生」

「白川、しってんのか?」

「僕の囲碁教室に通ってる子で、進藤くんの幼馴染みなんですよ。ぼくも院生にならないかと聞いてはいたんですけど」

「まぁいい。とりあえずその子を一度呼んでみてくれ」

 

 そうして今日も研究会が終わった。




10/2 中学生になった記述がないのになっていたので修正

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