恋のリート   作:グローイング

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 今回のサブタイを『ノンナさんは“やさしい”』じゃなくて『ノンナさんは“やらしい”』と空見したエロいアナタはまず腹筋50回です(真顔)

 さて、ドラマCD4によるとプラウダには『カチューシャがお昼寝から起きるまで午後の授業は行わない』という、とんでもない暴君制度があるらしいですね。

「やっぱこの世界頭おかしいわ(褒め言葉)」と何でもありなガルパンワールドがますますが好きになりました。おすすめです(ステマ)


ノンナさんはやさしい

 カメラのフラッシュが数度、戦車道の執務室で瞬く。

 データの中には、きっとボクの赤くなった顔が何枚も記録されていることだろう。

 

「う~」

「ふふふ。とてもカワイイですよユーリ」

 

 撮影されるたび顔の火照りが増していくボクと違って、ノンナさんはとてもご機嫌だ。

 すごく生き生きとした顔でデジタルカメラを握っている。

 

「やはりユーリにはこういう服が似合いますね」

「ノ、ノンナさん」

 

 褒められたところで湧いてくる気持ちは嬉しさよりも羞恥心だ。

 ボクは身を縮こませる。そうしたところで、身に着けている服が隠れるわけじゃないが。

 

「ダメですよユーリ。腕で衣装を隠しては」

「だ、だって」

 

 ノンナさんが穏やかに注意をしてきても、ボクは素直に聞き入れられなかった。

 もしも透明人間になれるのなら、いますぐになりたいくらい恥ずかしいのだ。

 

「こんな、子どもっぽい服なんて……ボク、もう高校生なのに」

 

 いまボクが着ているのはプラウダの制服ではなく、白と黒を基調にしたゴシック衣装だ。

 良いとこのお坊ちゃんが着るような華美なデザインに(こしら)えられたコレは、ノンナさんのお手製である。

 その出来の良さには素直に感服する。さすがはノンナさんだ。けれど、こうして自分が纏うとなると一気に後ろめたいアイテムと様変わりする。

 

「ノンナさん、これ、ズボンの丈とか短すぎるよ」

「そういうコンセプトですから」

「ううぅ」

 

 膝よりも太ももの付け根に届きそうな半ズボンからは、ボクの素足が惜し気もなくさらされている。

 すね毛なんて一本も生えていない、男らしさとは程遠いコンプレックスのひとつ。

 男性フェロモンちゃんとあるのかって疑うくらいツルツルの素足を丸出しにするのは、しょうじき裸を見せるよりも抵抗を覚える。

 

(ううぅ。顔から火が出そうだよ)

 

 そんなボクの心情も関係なしに、容赦なくフラッシュを繰り返すカメラ。

 心なしかボクが恥じらえば恥じらうほど、シャッター音の間隔が短くなっている。

 

「うふふ。いまのユーリを見ていると小さい頃のユーリを思い出します」

「……そりゃ小さい頃から成長してないからね」

 

 いま撮っている写真とアルバムの写真を見比べてもきっと大差ないだろうなぁ。

 ……我ながら悲しくなってきたよ。

 

「むくれないでください。本当に天使のようにかわいらしいですよ?」

「男に『カワイイ』は誉め言葉じゃないもん!」

 

 男として生まれたなら当然『カッコイイ』と言われたいものだ。ボクだって例外じゃない。

 たとえば継続のライヤさんみたいにワイルドなかっこよさが欲しいし、聖グロで執事をやっているイアンさんみたいにハードボイルドなかっこよさにも憧れる。

 

 ……しかし、それがどうだろう。

 いまのボクはかっこよさとは真逆の衣服を身に着け、幼なじみのお姉さんにその姿を撮影されているではないか。

 

「うふふ。怒ったユーリも魅力的ですよ」

「ううぅ」

 

 そして、ついつい子どもっぽく頬を膨らませてしまう自分が恨めしい。

 これではとても『カッコイイ男』なんて言えない。

 ……カチューシャお姉ちゃんにふさわしい男になるという目標はどこに行ってしまったんだユーリ!

 

「ノンナさん、もうこの辺で……」

「あら? ユーリは約束を破る子だったんですか?」

「うっ」

 

 そう。ボクが恥を忍んでまで、こんなことをするのには理由がある。

 

「わ、わかってるよ。──()()()()()()したお詫びに、今日一日ノンナさんのお願いを聞くって言ったの、ボクなんだから」

 

 溜め息交じりに言うと、ノンナさんは華咲くようにほほ笑んだ。

 

「はい。たっぷりとお詫びをしてもらいますからねユーリ。うふふふ♪」

 

 いつもは見惚れてしまうノンナさんの笑顔だけど、今日に限っては何だか怖かった。

 

 

 誤解しないでほしいのだが、決してボクは狙って不祥事を起こしたわけじゃない。

 事故といえば事故で済むんだけど……それでもお詫びをしないと気が済まないことを、ノンナさん相手にしでかしてしまったわけである。

 

 時間は少し前に(さかのぼ)る。

 

* * *

 

 プラウダ高校にはお昼寝時間(シエスタ)制度というものがある。

 カチューシャお姉ちゃんがお昼寝から起きるまで午後の授業を行わないという、嘘のようで本当にある制度だ。

 これは戦車道隊長の希望をひとつ聞き入れるという学園側の意向らしい。

 

 農業系の学園であるプラウダは一時期、年々生徒数が減数していくせいで廃校も危ぶまれていた。

 朝早く起きて畑を見なければならないし、冬は寒く、設備もそんなに豊富に揃っているわけじゃない。直球に言ってしまえば、受験生を惹きつける魅力がなかった。

 刺激的な学園生活を求める若い子たちは、ほとんどが地元よりも別地方の学園艦に進学してしまうのだった。

 

 しかし、その問題は戦車道が盛んになったことで解決されている。

 もともとロシアと交流の深かったプラウダはT-34やIS-2といった強力な戦車を導入し、戦力を拡大。

 一躍、全国大会決勝戦の常連として昇りつめ、現在では黒森峰に迫る強豪校として注目を浴びている。

 近年では全国優勝という名誉ある結果を残したことで、入学希望数は稀に見る爆発的数値をたたき出した。

 機嫌をよくした学園長は、貢献者たるカチューシャお姉ちゃんの要望を校則に加えるという気のいいお爺ちゃんぶりを発揮したわけである。

 発揮しすぎだろ、と正直思う。

 

 とはいえ学園艦という特殊な環境は一種のコロニーというか島国みたいなものだから、ひとつやふたつ奇抜な風習が根付くのは珍しいことじゃない。

 これだけの無茶がまかり通ってしまうほど、カチューシャお姉ちゃんの影響力がすごいという証拠でもある。

 彼女の従姉弟であり、そして恋い慕う身としては、そのカリスマ性にはやはり憧れたりする。

 

「~♪」

 

 お昼休みが長引いてボクが得すると思うのは、読書の時間が増えることだ。

 予鈴も気にせず、図書室で借りた本をのんびりと日当たりのいい芝生の上で読むなんて、他の学園じゃできない。

 

(お昼休みが長引くほど帰りは遅くなるけど、そのぶん気持ちのいい午後をゆっくり過ごせるんだから最高だよね)

 

 こんな有意義な休み時間の使い方ができるというのだから、まさにカチューシャお姉ちゃん様サマである。

 

 その日、ボクは猛禽類の生態について書かれた学術書を読んでいた。

 けれど、

 

「……ふわぁ」

 

 ちょっとだけ小難しい内容のせいか、またはお日様があまりにも暖かいせいか、眠気が襲ってきた。

 

(ボクもちょっとだけお昼寝しようかな)

 

 カチューシャお姉ちゃんも今ごろ夢の中だろうし、ボクも今日はぐっすりとシエスタすることにした。

 心地いい眠気に逆らうことなく瞼を閉じると、瞬く間に意識が沈んでいった。

 

 

 

「……ん」

 

 とても柔らかなものがボクの頭を支えている。

 

 一度目が覚めたのに、あまりにも寝心地がいいその感触で、また眠ってしまいそうだった。

 半分眠った状態で、ボクはその正体を確認しようとする。身体を傾けて、頬でそのふんわりとした感触を味わう。

 

(なんだろう。すごくスベスベしてる……)

 

 手を伸ばして、ふにふにと揉んでみる。

 わ。病みつきになりそうなくらい手触りがいい。瑞々しくて、もちもちしていて、それでいて引き締まっている。

 こんな素晴らしい感触がこの世にあったとは。

 

「ん……もう、いたずらっ子ですねユーリ」

 

 色っぽい声で名前を呼ばれる。

 とても聞き覚えのある優しい声。

 引き寄せられるように視線を声の先へ。

 

(……山?)

 

 目の前にとても大きな山がおふたつ。

 まるでエルブルス山を連想させるような立派な隆起。

 はて何だろうと手を伸ばして鷲づかんでみる。

 

 むにゅうううん、と指が山の中に埋没した。

 

「あっ……」

「……え?」

 

 より色っぽさを増す艶声。

 掌に広がる豊満過ぎる感触。

 それらが強烈な刺激となって、ボクの意識を一気に呼び覚ます。

 鷲づかんだ山から、見慣れた美顔がボクに視線を注ぐ。

 その目はやたらとウットリしていた。

 

「ユーリったら、ヤンチャさんですね」

「ノンナ、さん?」

 

 覚醒したボクの脳は高速で処理を開始する。

 

 現在の状況。

 後頭部に当たる柔らかいものは、ノンナさんの膝枕。

 そしてボクの手が鷲づかんでいる大きな球体は、ノンナさんのおっぱ……

 

「ふ!」

 

 急速にその場を離脱。

 タカのように空中を旋回。

 姿勢を整え、芝生の上にいざ着陸。

 巻き上がる土煙。

 

 見事に決まった。

 ボクの渾身の……エクストリームDO・GE・ZAが。

 

「ごぉぉぉぉめぇぇぇぇんぅぅぅぅなぁぁぁぁさぁぁぁぁい!!!」

 

 ボクは謝った。全身全霊で謝った。

 自分を罰するようにグリグリと土に頭をこすりつける。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! わざとじゃないんだ! わざとじゃないけど……でもごめんなさい!」

 

 思いきり……思いきり揉んでしまったよ。ノンナさんのエルブルス山を!

 すごく柔らかった。すごく気持ちよかった。

 でも忘れろユーリ!

 いまだに掌に残っているたっぷりとした柔肉の感触を意識から切り離すのだ。

 煩悩退散とばかりにボクは地面に頭を打ち付けながら謝り倒す。

 

 普段からお世話になっている幼なじみ相手に、ボクはなんて破廉恥なことを!

 

「ユーリ。頭を上げてください。別に気にしていませんから」

 

 恐る恐る土で汚れているであろう顔を上げると、ノンナさんは本当に気にしていないという風にほほ笑んでいた。

 ああ、やっぱりノンナさんは優しいなぁ……って人の優しさに甘えるんじゃないユーリ! ボクは自分を叱咤する。

 

「ダメだよノンナさん! そんな簡単に許しちゃ!」

「寝ぼけていたのでしょう? なら仕方ありません」

「し、仕方ないじゃ済ませられないよ! だ、だって女の人の太ももとかおっぱ……む、胸とか触ったりしちゃったんだよ!? 恋人でもないのに!」

「ユーリなら構いませんよ?」

「ノンナさんは甘すぎるよ!」

 

 いくら仲のいい幼なじみ同士だからって、やって良いことと悪いことがある。

 ノンナさんは人より穏やかで懐が広いから、こんなことでも許してしまうのだろうが、普通ならここは怒るべき場面だろうに。

 なのにノンナさんときたら、ボクに向ける眼差しはどこまでも優しい。本気で怒っている様子が微塵もない。どういうことなの。

 女神か。本当に女神なのかこの人。

 

「本当に気にしないでください。他の男の人にされたら私も嫌ですが、ユーリは特別です」

 

 そう口にするノンナさんからは、女子高生とは思えない大人の余裕があった。

 それこそ、幼い子にエッチなイタズラをされても「あらあら」という具合に許してしまいそうな。

 ……これってもしかして、単にボクが男として認識されていないだけ?

 

「お昼寝をしているところを見かけたものですから、ついついカチューシャにするように膝枕をしてしまいました。私のほうこそ驚かせてすみませんユーリ」

 

 そしてなぜかノンナさんのほうが謝るという始末。

 その包容力で、ボクのやったことを揉み消そうとしている。

 なんて幼なじみ思いな、心優しい女性だろう。

 そのあまりの深い温情を前に、感謝を通り越して感激の涙を流してしまいそうである。

 

 ……だが、しかしだ。それでいいのか、ユーリ。

 あんなことしておいて、年上の女の人のご厚意に甘んじる情けない男として醜態をさらす気か?

 お前が目指す立派な男とは、そんなものなのか?

 否。

 断じて否。

 男ならここは……責任を取るべきだろう!

 

「ノンナさん! お詫びをさせて!」

「え?」

「これじゃボクの気が済まないんだ! よ、嫁入り前の女の人のカラダを勝手に触るなんて、イケナイことなんだから! 罰でもご奉仕でも何でもいいから、ボクにお詫びをさせて!」

 

 このまま何もお咎めなしじゃ、ボク自身がボクを許せない。

 なにより……カチューシャお姉ちゃんに合わす顔がない!

 心の中でボクは思い人の少女に詫びる。

 

(ごめんお姉ちゃん。そして誤解しないでくれお姉ちゃん。ボクは、決して大きな胸に惑わされたわけじゃないんだ。

 そりゃ男は大きな胸が好きな生き物さ。でも、女性の魅力は胸じゃない。大きければ良いってわけじゃない。もちろん、わかっているさ。

 だから信じて。ボクは決して大きな胸を前に喜ぶ単純な男じゃないということを。

 それにボクはお姉ちゃんがペッタンコでもぜんぜん気にしない。自信を持ってくれお姉ちゃん。胸を張って、その絶壁を誇ってくれ!)

 

 きっといまのボクは激しく混乱しているな。

 やっぱり罰しなければ。

 

「さあノンナさん! 何でも言って!」

「……何でも、ですか?」

 

 キラリとノンナさんの瞳が妖しく光った気がした。

 うっ、とボクは怯みそうになるけど、しかし宣言したことは曲げない。

 

「うん! 男に二言はないよ!」

「そうですか」

 

 ニコリ、とノンナさんは異様に明るい笑顔を浮かべる。

 それは本当にお日様みたいに眩しくて、顔が見えなくなっていくほどに上機嫌な笑顔だった。

 

「では、お言葉に甘えて。私のお願いを聞いてくださいますか?」

「う、うん! どんと来いだよ!」

 

 どんな無理強いでも乗り越えてみせる覚悟さ。

 ユーリ十五歳。男を見せるぜ!

 

* * *

 

(それが、どうしてこんなことに……)

 

 さて、おわかりの通り、ボクに課せられたお願いは男らしいものとは程遠いものだった。

 コスプレでなければ着ないような衣装に身を包み、恥ずかしいポーズを取らされ、そして要望どおりの表情を浮かべる。

 

「次は寝っ転がってくださいユーリ」

「ハイ……」

「そこで猫のポーズを」

「ハイ……」

「鳴き声も」

「ニャア……」

「甘えるような表情でもう一度」

「……ニャアン」

「ああっ。かわいいですよ、ユーリ。とても、とても……うふふふふふふ」

 

 ノンナさんはますますご機嫌になっていく。

 反してボクの目は死んでいることだろう。

 

 ノンナさんの隠れた趣味は写真撮影だ。特に人物を撮ることが好きらしい。

 それは承知の上だったから、お詫びの内容が写真のモデルになってくださいと言われたときは「そんなことでいいの?」と思ったが……

 まさかここまで心が磨り減る撮影会になろうとは。

 

「はぁ。とても素敵ですユーリ。なにをさせてもアナタは絵になりますね」

「ノンナサンガ、嬉シソウデ、何ヨリダヨ」

 

 心を空っぽにして、ボクは成すがまま彼女のモデルとなる。

 そうしないと、自分に対する情けなさからいまにも発狂してしまいそうだった。

 

「ユーリ。また表情が暗くなっていますよ? ほら、もっと嬉しそうに……にこり♪」

「……ニコリ♪」

 

 カシャカシャと連射されるシャッター音。

 ハハハ。もうどうにでもなれ。

 男としてのプライドがズタズタにされるという意味では、確かにコレはとんでもない罰だ。甘んじて受け入れよう。

 

「はぁ、ユーリ。あなたといい、そしてカチューシャといい、本当にお二人は、なんて魅力的なのでしょう」

 

 ……というか、これまで見たことがないほどにノンナさんのテンションが高い。

 はっきり言うと、怖い。

 時折なぜか身の危険を感じるのだけど……いや、気のせいだよね。ノンナさんに限って。

 きっと趣味に没頭しているせいで興奮気味なだけだ。それだけさ、きっと。うん。

 

「……食べてしまいたい」

 

 空耳だと思いたい。

 

* * *

 

 撮影会は無事終了した。なぜ無事という言葉を使いたくなるのか我ながら不思議だが、とにかく終わった。

 

「うふふ。ありがとうございますユーリ。とても充実した時間でした」

「それは、なによりです……」

 

 ボクは完全に燃え尽きていた。着替える気力もわかないほどに。

 シャッターの数だけ積み重なった精神的ダメージが回復するには、時間がかかりそうだった。

 それでも、ひとつだけ訪ねなければならないことがボクにはあった。

 

「ノンナさん。その写真どうするの?」

「もちろん現像しますが?」

「……ですよね」

 

 写真が趣味の人というのは現像まできっちりやるものだ。

 ボクは人の趣味にケチをつけるつもりはない。

 しかしそれでも、あの痴態が物理的な形となって誕生するのかと思うと、それだけで気が遠くなりそうだった。「おおぅ」と顔を覆って身悶えてしまう。

 そんなボクを見て、ノンナさんはクスクスと笑う。

 

「安心してくださいユーリ。写真に焼いても、誰にも見せびらかしたりしませんから」

「……ほんとぉ?」

「はい。ノンナだけの特別なアルバムに保存しますから。誰の目にも触れさせません」

 

 ボクは胸を撫でおろした。

 それなら安心だ。

 この姿を撮った写真が学園中に広まったら、過剰なからかいのネタになるのは間違いない。

 さすがのノンナさんも、そこはわかってくれているのだろう。

 

「心配いりませんよユーリ。絶対に、誰にも見せませんから。そう、誰にも……うふふ」

「……」

 

 心配の種は消えたのに、不吉なものを感じるのはなぜなのだろう。

 

「~♪」

 

 ノンナさんは鼻歌を奏でながら早速カメラの液晶画面を閲覧する。

 その姿はいつもの大人びた印象と異なり、歳相応に女子高生らしくウキウキしている。

 

「楽しそうだねノンナさん」

「そうですか?」

「うん。なんか、いつもよりルンルンしているというか」

「それはたぶん、久しぶりにユーリと二人きりだからでしょうね。子ども時代のように懐かしくて、つい舞い上がっているのかもしれません」

 

 確かに、ノンナさんと二人きりになるなんて何年ぶりだろう。

 一心同体とばかりにいつもカチューシャお姉ちゃんと一緒のノンナさん。必然的にボクらは三人で過ごすことが多かった。

 

「こんな風にユーリだけとゆっくりお話しできる機会は、そうありませんから」

「そうだね。いつもカチューシャお姉ちゃんに振り回されてるもんね、ボクたち」

 

 お互い望んで、そうしているわけだけど。

 その分、こうしてカチューシャお姉ちゃん抜きで話していることが逆に新鮮だ。

 自然と子どもの頃を思い出し、ノンナさんと同じように懐かしい気持ちになった。

 

「昔はしょっちゅうノンナさんのお家にお邪魔して、一緒に遊んでたっけ」

「そうでしたね」

 

 ノンナさんは柔らかくほほ笑む。

 

「学園でもこうしてユーリと一緒の時間を過ごせて、私は嬉しいです」

「そうなの?」

「ええ。最初は共学化に不安はありましたが、ユーリがいてくれるから気にならないんですよ?」

 

 もともと女子校だったプラウダ高校が、分校である男子校と統合したのは最近のことだ。

 戦車道履修を希望して入学する者が増えたことで、女子校側は廃校の危機を免れたが問題は男子校だった。戦車道が女子の嗜みである以上、いくら活発化したところで男子校にはなんの関係もない。

 

『女子がいない。ひたすら寒い。そんな学園で三年間畑耕すなんて青春もなんもねー』

 

 と、あたかも『俺ら東京さ行くだ』の学園艦verみたいな不満の声が上がり、女子よりも入学希望数が減っていった。

 まさに廃校コースまっしぐら。通称“絶対廃校するマン”こと役人さんが現れるのは時間の問題だったが、

 

「確か、分校でも廃校にできない理由があったんだっけ?」

「プラウダは代々ロシアの留学生を積極的に迎え入れてきた学園ですからね。男子校側がとつぜん廃校になられては先方の男子生徒たちにご迷惑がかかりますし、この際に共学化したほうが効率は良かったのでしょう」

 

 もともとプラウダ高校はロシア人の亡命を受け入れるための居住地として、そしてその子弟向けの学び舎として開校した学園艦だ。

 ロシア人の留学生が多いのはその名残で、友好関係を維持するためにも男子校の存続は必要だったのだ。

 

 同じような理由から男女別だった学園艦が統合することは珍しいケースじゃない。

 莫大な維持費がかかる学園艦は常に統廃合の対象として文科省に監視されているようなものだ。成果を出せていない学園は即消されてしまう。

 

 アンツィオ高校も最近はその辺の事情から、廃校の危機にあった男子校と統合したらしい。

 

「でも共学化した途端、男子生徒の入学数が増えるっていうんだから、男の子って単純だよね」

 

 カチューシャお姉ちゃんと同じ学園に通いたくて入学したボクが言えたことではないが。

 ボクの皮肉にノンナさんはクスクスと笑う。

 

「ですがおかげでユーリと毎日学園艦で会えるわけですからね。カチューシャもその点は喜んでいらっしゃいますし、結果的には統合して良かったのだと思いますよ」

 

 そう言われると一気に照れくさい気持ちになった。

 もちろん仲の良い従姉弟や幼なじみと楽しい学園生活を過ごせることで、喜んでいるのはボクも同じだ。

 理想的な学園生活を送れていると思う。

 ……女子のみんなからオモチャにされることに目を瞑れば、だけど。

 

「ところでユーリ」

「なに?」

「もうひとつお願いしたいことがあるのですが」

「え?」

 

 不意の質問にボクは驚く。

 ま、まさか。まだ何かボクにさせる気なのかノンナさん。

 そういえば回数制限は設けてなかったな……。

 

「カチューシャはまだお昼寝から起きないようですし、せっかくなのでもうひとつ、したいことがあるんです」

「え、えーと」

 

 正直に言えば最初のお願いだけで気力を使い果たしているのだけど。

 でも……

 

「……無理にとは、言いませんよ?」

「も、もちろんいいよ!」

 

 悲しげなノンナさんの瞳を見た瞬間、口が勝手に動いてしまった。

 わわ。何をやっているんだボク。

 

 けど冷静になってみれば、写真の撮影ぐらいで自分の失態を帳消しするというのは、虫が良すぎる話ではないだろうか。

 女の子の心の傷は、男のものよりもずっと深く残るものだ。

 ならば返答はひとつ。

 

「ノ、ノンナさんが納得するまで、いくらでも付き合うさ!」

「まあ。本当ですか?」

 

 ボクの大口を聞いて、ノンナさんはとても嬉しそうに手を合わせる。

 ……まさかあの悲しげな顔、演技じゃないだろうね?

 だが一度放った言葉は戻ってこない。

 

「ユーリは本当に優しいですね。ではお言葉に甘えて……」

 

 素敵な笑顔を浮かべて、ノンナさんが迫ってくる。

 くっ。こうなったら腹を括れユーリ。これも強い男になるための試練のひとつだと思うんだ。

 たとえどんなお願いが来ても絶対に動じたりはしな……

 

「──では、抱きしめさせてください」

「え?」

 

 とても芳醇な香りが、ボクの鼻腔をつく。

 豊満な感触がいっぱいに、ボクを包み込む。

 間近に、ノンナさんの美しい顔がある。

 我も忘れてしまうほどに吸い寄せられる。意中の人がいるのに、意識が目の前の女性だけのことで占められてしまうほどの美貌。

 

「あ、うう?」

 

 動揺したりしないと決めたけど……無理だ。

 だって、こんなにノンナさんと、密着してる。

 ノンナさんはまるで赤ん坊を抱くように、ボクの小さな身体をぎゅうっと引き寄せる。

 

「ユーリ。うふふ」

「ノノノノンナさん? か、顔が、顔が近いよ?」

 

 少しでも動けばキスができてしまいそうなほど、ノンナさんとの距離が近い。

 顔が沸騰したみたいに熱くなっていくのを感じる。

 そんなボクの顔をノンナさんは愛おしそうに撫でる。

 彼女のひんやりとした手がボクの熱を心地よく冷ますが、心臓の脈動は熱く滾り続ける。

 

「しばらく、こうしていてもいいですか?」

「う、うう」

 

 尋ねられたところで、ボクに拒否権はない。黙って赤くなった顔で頷くしかない。

 ノンナさんは多幸に満ちた表情で、さらに抱きしめてくる。

 心臓の音がうるさいくらいに響く。

 

「懐かしいです。昔もこうしてユーリを抱きしめてあげましたよね?」

 

 そ、そりゃそうだけど。昔と今やるのではぜんぜん意味合いが違ってくる。

 体格が変化していないボクと違って、ノンナさんはすっかり大人のカラダに育っているのだ。それも外人さんも顔負けするほどのグラマラスなカラダ。

 そんな彼女に思いきり抱きしめられて、昔みたいに無邪気にはしゃげるわけがない。

 いや、人によっては喜ぶんだろうけど、少なくともこういうことに耐性のないボクは冷静になれない。

 

「ノ、ノンナさん。ボク、恥ずかしいよ」

「ダメです。カチューシャが起きるまで、離しません」

「そ、そんな」

「うふふ♪」

 

 ヘタしたら一時間以上このままかもしれないってこと?

 そ、そんなの、耐えられないよ。ボクの、理性が……

 

「ユーリ。昔みたいに呼んでみてください」

「え?」

 

 ニコリと、ノンナさんはどこか魔性的な笑みを浮かべてボクに言う。

 

「いまだけ『ノンナさん』ではなく──『ノンちゃん』と呼んでください」

「あ、うぅ……」

 

 さらに突きつけられる試練。

 いまでも恥ずかしいのに、子どもの頃呼んでいたノンナさんの愛称を口にするだなんて、卒倒してしまいそうだ。

 でも約束をした以上、ボクは彼女に逆らえない。

 たどたどしく、懐かしい呼び名を紡ぐ。

 

「ノ、ノンちゃん……」

「はい。何ですかユーリ」

「ううぅ……」

 

 恥ずかしい。

 けどノンナさんはとても幸せそうな蕩け顔を浮かべて、さらにボクを抱きしめる。

 こうして間近で見ると、本当にノンナさんは綺麗だ。

 どんなに恋い慕う相手がいても、無条件で心が奪われてしまうほどに、その美貌は男を狂わす。

 視界には、もうノンナさんしか映らない。

 

「ノンちゃん、ボク……」

「うふふ。どうしましたか。お姉さんに、何でも言ってくださいね?」

 

 包み込むような撫で声と手つきに、ボクの意識はフワフワになっていく。

 どんどん、ノンナさんのことしか考えられなくなっていく。

 

「ほら、昔みたいに甘えてもいいんですよ? いっぱい、いっぱい、お姉さんに甘えてください。かわいいかわいいユーリ?」

 

 小さな肉体が、豊満過ぎる乳房に埋もれていく。人のカラダについているとは思えない、とても大きな肉房。この世のものとは思えない柔らかさ。

 甘いミルクのような香りが、理性をトロトロに溶かしていく。

 身体だけじゃなくて、心まで、幼くなっていく。

 どんどん昔の甘えん坊に戻っていく。

 その最中で、幼さとは真逆の、狂おしい激情がボクに芽生えようとしていた。

 

「ノ、ノンちゃぁん」

「はい、ユーリ」

「ボクね、変なの」

「何が変なんですか?」

「胸がすごくドキドキして、身体が熱くて、すごく……」

「すごく?」

「すごく……やらしい気持ちになってるの」

 

 身体も心も子どものくせに、好きな人がいるのに──目の前の美女に、どうしようもなく魅力を感じてしまっている。

 オスとしての感情を、制御できない。

 そんなボクを、ノンナさんはやはり笑顔で見つめる。

 

「お姉さんで、やらしい気持ちになっちゃったんですか?」

「うん……」

「男の子なら、普通ですよ?」

「ダメだよ、こんなの。ボク、好きな人がいるのに、こんな気持ちになっちゃ、ダメなのに。ひっく……」

 

 どろどろに溶け合った感情は、涙として出てくる。

 

「やだ。こんなボク、嫌いだぁ」

 

 カチューシャお姉ちゃんが好きなのに。ノンナさんは大切な幼なじみなのに。

 自分でも知らなかった、怖いほどまでにメスを求める情欲が、ボクという存在を壊していく。

 気づかなかった。目を逸らしていた。

 こんなボクでも、ちゃんと“男”なんだということを。

 

 もしこのまま、込み上がる感情に従ってしまったら、ボクは……

 

「いいんですよ?」

 

 甘い囁きをかけられる。震える身体をゆっくりと撫でられる。

 

「そういう気持ちになっても、ノンナはユーリを嫌ったりしません」

 

 ノンナさんはどこまでも優しく、穏やかに、受け入れようとする。熱く滾った感情すらも。

 

「落ち着いて。怖くないですよ」

 

 母性に満ちた声色が、心を落ち着かせる。

 思いやりの心がそのまま大きさとなったような胸に、顔が包まれる。

 言葉にできない柔らかさ。脳が蕩けてしまいそうなほどに心地いい香り。

 

「ノン、ちゃん。ダメ。こんなことしたら、ますますボク……」

「……触りたいですか?」

「え?」

「ユーリが触りたいなら、構いませんよ」

 

 衣擦れの音がする。顔に当たっている巨峰が大きく波打つ。

 

「ノンナさん、待って」

 

 彼女が何をする気なのか、本能で察したボクは咄嗟のひと言で静止させる。

 沈黙が降りる。

 何が起こっているのか理解が追い付かない。

 

「ノンナさん、どうして?」

 

 ただハッキリしていることは、

 

「どうしてそこまで、ボクのこと……」

 

 ノンナさんの行為が、尋常ではないということだ。

 

 いつもそうだ。ノンナさんは、ボクを怒らない。どんなときも親切で、ボクに優しくしてくれる。

 幼い頃からずっと。

 そしていま彼女は、とある境界線を越えようとしている。

 仲の良い幼なじみだから、という言葉は済ませられない境界線を。

 

「ユーリだから、ですよ?」

「え?」

「いくら仲の良い男の子相手でも、こうして簡単に身体を許すほど、私は安い女ではありません」

「……」

「ユーリだからこそ、ここまでしてもいいって、してあげたいって思うんですよ?」

「それは……」

 

 それはもはや、かわいい弟分だからとか、愛着ある存在だからとか、子どものように愛らしいからという理由では説明がつかない独白だった。

 ここまで言われて、ひとつの結論に至れないほど、ボクはマヌケじゃない。

 ただ、信じられないだけだ。

 

「嘘だ。ノンナさんみたいな綺麗な人が、ボクみたいな男に……」

「私は、ユーリの素敵なところをたくさん知ってますよ?」

「え?」

「ずっと、見てきましたから。あなたが、カチューシャに憧れて、その背中を追いかけて、ずっと努力してきた姿を」

「……」

「私も、同じでしたから。カチューシャにふさわしい存在になろうと日々努力を続けてきました。だから、わかるんです。あなたの凄さが」

 

 ボクは、自分を凄いなんて思ったことはない。

 いつだって情けなくて、弱虫で、泣いてばっかりだ。

 そんな自分を変えたいから、ただただ我武者羅(がむしゃら)にいろんなことに挑戦して、そして失敗を繰り返してきた。

 だからいつも、何でもこなせるノンナさんの器量の良さに憧れていた。

 

 ……でも、ノンナさんの言うとおり、ボクらがカチューシャお姉ちゃんの背中を追いかけてきた似た者同士なら、考えていることも、同じだったのだろうか。

 ノンナさんから見ればボクという人間は、こうしてカラダを許しても構わないと思える存在なのか。

 ……そんなの、未熟なボクには、

 

 身に余るどころの話じゃない。

 

「ノンナさん、ボクは……」

「ユーリの気持ちはわかっています。あなたを応援してあげたい感情に、嘘偽りはありません。報われたときには、素直に祝福してあげたいとも思っています」

「……」

「でも、もしも、本当に万が一、その気持ちが報われなかったときは……」

 

 顔を上げる。目と目が合う。ノンナさんの、曇りのない、どこまでも慈愛に満ちた瞳と。

 

「いつでも、あなたを受け入れる女性がいる──そのことを、思い出してください」

 

 そこには、どこまでも、誰かの幸せを願う美しい女性の姿があった。

 運命がどう転ぼうとも、誰も不幸にしたりしない。そんな決意の込もった強かさと、そして優しさを感じさせる表情だった。

 そんな女性を前に、ボクは……

 

「焦らなくても、いいんですよユーリ」

 

 言葉を探そうとするボクを、ノンナさんは穏やかに窘める。

 

「ゆっくり、あなたペースで、答えを見つけてください」

「ボクの、ペース……」

「はい。どんな答えでも、それがユーリの決めたことなら、私は受け入れますから」

「……」

「私は、いつでもそんなユーリの力になりますからね?」

 

 そう言ってノンナさんは、いつものように穏やかに微笑んだ。

 

 こういうとき、いつものボクなら動揺していたに違いない。

 けれどいまは、自分でも驚くほどに冷静だった。

 考えるよりも先に、心がすでに答えを決めていたからかもしれない。

 

 ボクのこの思いが報われるかはわからない。自分が理想とする人間として成長できるかもわからない。

 だがそれでも、せめて……

 

(ボクのことをここまで大切に思ってくれる、この女性(ヒト)に恥じない男になろう)

 

 それだけは、絶対に守る。

 そう心に誓った。

 

 

 

 まるで心地よい夢の中で過ごしているような、ノンナさんと二人きりの午後。

 もうしばらく続いてほしい、と少しでも考えている自分に驚いた。

 しかし、夢とは必ず終わりを迎えるものだ。

 

 

「ノンナ~? いるの~?」

「っ!?」

 

 聞き慣れた声と共に執務室の扉が開かれる。

 寝巻姿のカチューシャお姉ちゃんが眠たげな瞳をこすりながら現れた。

 お昼寝から目覚めたらしい……ってやばい!

 ボクが咄嗟にノンナさんから離れようとすると、彼女はどこか名残惜しそうに腕を解いてくれた。

 何事もなかったかのようにお互い距離を取る。

 

「カ、カチューシャお姉ちゃん! おはよう!」

「申し訳ございませんカチューシャ。起きていらしたんですね」

「もう~カチューシャが起きたらすぐにお目覚めの紅茶用意しときなさいよね~」

 

 ブツブツと文句を言うカチューシャお姉ちゃん。

 どうやらボクたちが抱き合っていたことには気づいていないみたいだ。

 ホッとひと安心するボク。

 ……なんか浮気を隠す悪い男になった気分だ。

 

「あら、ユーリもいたの? 二人だけでいったい何を……」

 

 ボクの存在に気づいたお姉ちゃんがこちらに視線を向ける。

 きょとん、とツリぎみのお目々が驚きに見開かれる。どうしたんだろう?

 

「ユーリ。あなたその格好……」

 

 格好?

 

「……ああっ!」

 

 すっかり忘れてた! ボク、ノンナさんお手製の衣装を着たままじゃないか!

 一番見られたくない姿を一番見られたくない相手に見られてしまった。

 

「お、お姉ちゃん! 違うんだ! これには事情が……」

 

 ボクが必死に説明しようとすると……

 

「……きゃああああああああ♪」

 

 甲高い声と共にカチューシャお姉ちゃんが飛びついてきた。

 

「ユーリかわいいいいいいいいいい♪」

「ええええ!?」

 

 まるでひと目で気に入ったヌイグルミにするように、カチューシャお姉ちゃんが思いきり頬ずりをしてくれる。

 

「なになにその服!? すっごい似合ってるじゃないの!」

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?」

「さてはカチューシャに可愛がられるためにわざわざオメカシしたんでしょ~? こ~の小悪魔さん! いいわ! 思いきり可愛がってあげるんだから~♪ むぎゅう~♪」

 

 てっきり笑われるかと思いきや、物凄い好評だった。

 そして物凄い勢いでスリスリされ、ハグハグされる。

 嬉しいけどなんだか複雑!

 

「あ~ん。ほんとうに可愛すぎよユーリ! さすがはカチューシャの従姉弟ね! 本物の天使みたいじゃなーい!」

「あ、いや、ボクとしては不本意なんだけど……」

「何言ってるの! そんなに似合ってるんだからもっと自慢しなさいよ! そうだ! この衣装そのままユーリ専用の制服にしちゃいなさいよ! カチューシャが学園長に言ってあげるわ!」

「ええ!? い、いやだよそんなの!」

 

 なんて恐ろしいことをナチュラルに言い出すんだお姉ちゃん!

 

「カチューシャが決めた以上もう決定事項よ!」

「そんな~!」

「名案ですカチューシャ。是非ともそうしましょう。いますぐそうしましょう」

「ノンナさんも便乗しないでよ! ていうか何またさり気なく写真撮ってるの!?」

「ベストショットなので」

 

 こんな恥ずかしい姿で憧れのカチューシャお姉ちゃんと抱き合ってるとこ撮らないでえ!

 でもお姉ちゃんは「イエーイ!」とノリノリでピースを決めている。そんなマイペースなお姉ちゃんも大好きです!

 

「ノンナ! その写真を新聞部に渡して学園中に掲載しましょう! 『偉大なるカチューシャの従姉弟はこんなにもカワイイ』って全校生徒に自慢してやるわ!」

「やめてお姉ちゃん! 本気でやめて!」

「本当は秘蔵にしたかったのですが、カチューシャがそうおっしゃるのなら仕方ありませんね」

「堪忍してけれ~!!」

 

 年上のお姉さんたちにオモチャにされるボクの悲鳴が執務室に響き渡る。

 

「うふふ♪ 本当にユーリと一緒の学園生活は毎日が楽しいです♪」

 

 ノンナさんはそう言って邪気のない素敵な笑顔を浮かべる。それが逆にサディスティックなものに感じるボクだった。

 そうだった。ノンナさんはこうしてお気に入りの相手ほど意地悪したくなる人だったんだ。

 

(まさか、さっきのやり取りもボクをからかっていただけなんじゃ……)

 

 真相を確認しようとしても、きっと今度は話題を逸らされてしまうことだろう。そんな光景が容易に浮かんだ。

 

 ノンナさんが告げたことは真実なのか。

 たぶん、それを明らかにできるかどうかは、ボクの今後の選択次第だ。

 ノンナさんもきっと、ボクが思い人に心を打ち明けるまでは、真相をいつまでも闇の中に仕舞うに違いない。

 優しいようで、一番大事なところで厳しいのが、ノンナさんという人だから。

 

 最も、その肝心な思い人は……

 

「ユーリ! 今度はフリフリな女の子の服も着てみなさいよ~! 絶対に似合うわ!」

「……ボク、男だもん。女の子の服なんて死んでも着るもんか……」

 

 いまでもボクを男としては見てくれないのだった。

 告白までの道のりは、はてしなく遠い。

 

「ううぅ……見てろお! 絶対に男らしい男になってやるんだからあ!!」

「うふふ。がんばってください、ユーリ♪」

 

 意地にまみれた決意表明をするボクを、ノンナさんは微笑ましそうに、そしてどこか期待を込めた眼差しで見つめるのだった。

 




 エルブルス山を画像検索してみてください。
 二つの峰を見ておっぱいを連想したエロいアナタは読後に背筋50回です(真顔)


 さて、話は変わりますが、一話分の文字数って何字が理想的なのでしょうね。
 個人的には5000字程度と思っているのですが、自分はこれがなかなかできない。
 今回なんか最長の14000字でしたよ。まとめるチカラがない証拠じゃないですかコンチクショウめ。
 読者の方々にはたくさんスクロールをさせてしまい申し訳ない。
 しかしプラスに考えてみよう。
 これによって指の筋肉も鍛えられたということではないでしょうか。
 この回を読むだけで腹筋、背筋、指筋(?)と三つも筋トレができるとは。
 なんて健全なSSなんだ()


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