雷光御伽草子   作:ふくつのこころ

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幼少期はちょっと駆け抜けて行きます
fate(運命)と金太郎が出会うまで駆け足に。
伝説にある偉業とか鬼ヶ島イベントで触れられたこともやりたいので


さかずきのちかい

 源頼光(みなもとのらいこう)

 それがカヅチがこれから仕えることとなるという、主君の名前だった。彼女は、アマメのような穏やかな口調でカヅチに話しかけてくれ、不思議とカヅチの心も落ち着いた。

 

 頼光の話は信じられなかった。

 アマメは、カヅチの姉は朝廷に対して反旗を翻した「まつろわぬ民」であり、土蜘蛛と呼ばれる者たちであると。そして、アマメの姿を見かけた都の者によって彼ら、怪異殺しの専門家たちが呼ばれ、この山にやってきたのだと言う。

 

 人外化生の類がカヅチのような幼い子供を拾い、育てていたと言うのは、頼光の部下が山姥を殺したところに居たという少年もそうだが、同じような境遇の二人の男児が1つの山に住まうとはなんたる偶然(、、)だろうか。

 

 神仏の巡り会わせにしては、性質が悪い。

 

「それで、これから、おれたちはどこに行くんだ?えーっと、」

「母、ですよ?金太郎」

「まだ慣れないなぁ。そうだろ、カヅチ?」

 

 頼光はカヅチと金太郎に“母”として振舞おうと決めていた。他の部下たちは、どうも気恥ずかしいのか、そのように呼ぶのをしないため、寂しい思いをしていたのだが、この二人はきっと呼んでくれると信じて。

 金太郎は性根が優しい少年のようで、殺されてしまった山姥を母として育ててくれたことに対しても感謝を抱いており、頼光がヒトとしての母なら、と承諾してくれた。

 

 対し、カヅチは姉をきちんと埋葬してくれるなら、と言ってはばからない。これには綱と顔を見合わせ、困ってしまったが、この山に子供がいると分かってしまった以上、一人にしておくわけにはいかない。それも、素質が十分ならばなおさらだ。

 埋葬する手伝いをしてくれたら、というカヅチの顔は真っ赤で今にも泣き出しそうだった。それでも堪えているのは、男の意地か親友の金太郎の存在か。

 

「そうだね。まだ慣れそうにない」

「おいおい、慣れていくのは大切だぜ?兄弟?だいたい慣れたら、どうにかなるってモンよ。大将のキツい扱きとかな!気ィつけろよ、カヅチに金太郎。大将は綺麗な顔はしてるが、鍛錬ン時は鬼神よ!あんまり戦ってるときと変わらんな!怯えんじゃねえぞ?」

 

 暗い様子で頷くカヅチに対し、綱は肩に腕を回し、にかっと笑う。

 そうだろ、大将!と威勢よく言えば、前を歩いていた頼光はくるりと振り返り、怒気が視認できそうな様子を見せる。

 

「ふふ、元気ですね、綱?帰ったら、早速、明朝まで休まずに稽古でもしましょうか。慣れたらどうにでもなるんでしょう?」

 

 静かな頼光の怒りにげえっ!?と声をあげる綱は情けなく映ったが、カヅチはあんなことをした自分に変わらず接してくれることを嬉しく思った。

 

『では、協力関係と言うことでどうですか?カヅチ』

『きょうりょくかんけい……?』

『そうです。貴方のその力は眠らせておくには惜しい。私たちは貴方に様々なことをお教えします。その代わりに、』

『――僕があんた達に力を貸す』

『そういうことです、理解が早くて何よりです』

 

 山を降りたがらないカヅチに対し、頼光が提案したのは、力の制御や武術、それに読み書きの伝授であった。姉を斬り捨てた連中に対し、カヅチからの好感度は地に落ちるほどに低かったが、しばらく考えた後、カヅチはその言葉を了承した。

 

『―――分かった。僕は、僕の夢の為にあんた達に協力する。それでいいだろ?』

 

 その場に金太郎がいれば、カヅチは殴り飛ばされていただろう。カヅチがしていることは、金太郎のいつも“したい”こととは正反対なのだから。その取引の場に金太郎がいなかったことにほっとしながら、今から少し前を思い出していた。

 

 都に向かうまでの間、頼光や綱、それにもう一人の弓使いの者と共に彼らが都で任されていることについてカヅチと金太郎は聞かされた。

 

 頼光たちは怪異に対する専門家であり、怪異にまつわる事件があれば、それの解決に向けて活動していること、山出身のカヅチと金太郎の二人にはいまいち実感がわかなかったが、帝からその活動に免じて禄とやらをもらったことがあるという(綱の補足では、「偉い人にも褒められたでいいぜ」と言い、金太郎は素直に驚いていた)。

 

「それと、貴方たち二人に名前をつける必要がありますね」

「名前?それなら既にあるよ」

 

 頼光の言葉にカヅチは首を傾げた。

 

「そういう名前ではありません。そうですね、大人になったときにつける名前と言った感じでしょうか」

 

 大人になったときにつける名前、と聞いて格好いいものを好む金太郎がうずうずしている様子を見せたので、頼光は微笑んだ。

 

「なぁ、綱兄ィ!それって、武士みんな持ってるのか!?」

「おうよ。俺の名前もそうだし、大将もあの弓使いの奴、貞光の野郎もそうだ!」

「……騒々しいな、渡辺。お前はこのような騒々しいのになるなよ、金太郎」

「騒々しいとは何事だ?威勢があっていいじゃねえか」

「そんなのだから奇襲に向かんのだ、貴様は」

 

 金太郎が目を輝かせ、綱に尋ねれば、威勢よく答えて後ろを歩いている弓使い、氷のような冷たい印象を抱かせる碓井貞光は鬱陶しそうにため息を吐く。騒々しいとはなにごとだ、と綱が食って掛かれば、貞光は肩を竦めて相手にしない。

 

 二人の関係は仲良しなんだろうな、と金太郎は思った。それから、髪を整えて結わえた(頼光によってされた)カヅチの元へ金太郎は駆け寄った。

 

「なあ、カヅチ!」

「どうしたんだ」

「立派な武士になろうぜ!」

 

 そういう金太郎の表情は明るく、まるで雲1つない晴れた日の太陽のよう。

 立派な武士とは、自分の姉を斬り捨てるような非情な人間のことを言うのだろうか?自分に対し、愛の言葉と感情を吐露して見せ、傍から見れば歪んでいるようにも見える感情であっても、アマメをカヅチは守りたかった。

 

 山の中で唯一の家族ともいえる存在、友人には金太郎に山に住まう多くの動物たちがいるが、家族と呼べるのはアマメくらいしかいまい。

 自分を拾い、育ててくれ、いつも帰りを待ってくれ、時には心配させることもあったけれど、大好きな人だった。

 だからこそ、カヅチは“長”になりたかった。集落の長ともなれば、食料を優先してもらえるし、なによりも自分と同様に血縁ある家族がいなくても育ててくれた姉に対して恩返しができると思ったから。

 

「……僕にも、なれるかな」

 

 気分が沈み、視線を地面へと落とすと、金太郎が頭を横から掴んで上へと向けようとしてくる。

 

「なれる!おれがなるんだ、カヅチもなれる。それで、たすけたいものをたすける!むずかしいことはおれはよくわかんないけど、おれとカヅチはきょうだいのさかずきをかわした。つまり、きょうだいなんだよ!」

 

 理由は無茶苦茶だが、それでも、曇っていたカヅチの心に光が差し込むくらいには頼もしいもの。

 無茶苦茶でよくわからない言葉だけど、金太郎自身がカヅチを元気付けようとしているのが伝わってくる。

 故郷の山を去っても、故郷で交わした兄弟の盃は変わらず二人を結びつけるものだから、心配するな。

 

 そんな風に意味を捉えることとし、カヅチは少し力の入っている金太郎の手を剥がした。

 

「よくわからないけど、ありがとう金太郎」

「なんだ、お前ら?その年で兄弟の杯を交わしてんのか?大した奴らだ!ますます気に入ったぜ!」

 

 礼をカヅチが述べれば、碓井との口論から面倒臭くなって抜け出してきた綱が二人の髪をくしゃくしゃにする。

 笑う綱は本当にカヅチ達にとっては兄のような安心感をもたらしてくれる。それから、碓井が突っ込んできたり、頼光に綱が叱られたりしながら、彼らは都を目指す。

 

 




原典との相違

・頼光が土蜘蛛の術に対し警戒し、山のほうに来ている
・碓井貞光が金太郎を見込んで連れて行っていない

本作のアレンジ
・渡辺綱は兄貴肌である
・碓井貞光と渡辺綱はライバルみたいなもの


本当、駆け足だったな、今回……。
山から降り、都を目指して、って感じで

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