雷光御伽草子   作:ふくつのこころ

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最終章、クリアしました。
うちは最初から最後までバーサーカーによる力押しで最後は課金して石を割り、ヘラクレスの射殺す百頭でトドメをさしました

宝具使用時のヘラクレスが目を閉じるモーションがこれまでの道のりを振り返っているように見え、感極まりましたね

ネタバレを避けますが、あの人がいなくなったショックがまだ心を占めています
けれど、余命僅かなあの子(諸バレ)が帰ってきてくれたのはとてもうれしかった
二部にも期待、そして雷光御伽草子もよろしくお願いします


ぎきょうだいのちかい

 金太郎とカヅチは集落から離れ、散策を続けている。背景にカヅチが姉から習った竹で作った笛を吹き、それに合わせて金太郎が滅茶苦茶な歌詞をつけて歌を歌っている。

白い衣を着た男児と着物の金髪の男児、二人が共に行動している光景は異様ではありながらも、ほほえましかった。

 

「あしがーらやまのー、きーんたろー♪きーんいろ、ばーりばーり、いかずーちー」

 

 このように、此れと言って韻を踏むのでもなく、ただ語呂の良さからだとかカッコよさから思いついたものを適当につけて歌うのが金太郎流。金色と金太郎がなんとなく音が似ていることに気づいたカヅチ、笛を吹きながらも周囲に目を凝らして進む。

 

 山の中を遊び場としている彼ら、歩いている途中に急に足場が悪くなることがある。

歩き辛い道に急になったときに足元をすくわれたとき、金太郎とカヅチは気づいた。

 

 あれ!?こけるのってのは、やまのかみさまとかがきをつけろっていってるんじゃね!?

 

 本当は自分たちの前方の不注意によるものだが、金太郎とカヅチの勝手な解釈によってそういうことになった。その話をカヅチが得意げに姉に話したところ、その場に金太郎が居合わせたのだが、姉は少し困っている様子だった。

 

集落の金太郎の“かあちゃん”ほどの年齢の女性が助け舟を出したことでカヅチが機嫌を損なうことはなかった、しかし、カヅチのあたまのねんれいとやらは金太郎より低いと本能的に気づくまでに時間はかからなかった。

 

その日から二人は足元を地面にすくわれることがあれば、大自然からのお叱りを受けているのだと解釈した。なので、より一層のこと自然に感謝するようになった反面、こうして毎日を楽しく過ごしている。

 

「しかし、カヅチ」

「なんだ、金太郎。せっかくの演奏を止めるのはよせ」

 

 金太郎が後ろを歩いているカヅチに呼びかけると、カヅチは笛の吹き口から口を離した。

 気持ちよく吹いていたのであろう、不服そうな様子のカヅチに金太郎は詫びを入れた。

 

「ぎきょうだいのちかい、ってしってるか?」

「なんだ、それは?きょうだいなら僕には既に姉上がいるぞ?なんどもいうようだが――」

「ちょうなんはおまえ、そうだろ?」

「うんうん、わかってくれているならいいんだ」

 

 また面倒なことになりそうだ、とカヅチを見ながら金太郎は制した。カヅチは先ほどのやり取りもあってか、満足そうである。

 

「で、そのぎきょうだいのちかいっていうのは?」

「ああ、おれとカヅチでまずぎきょうだいになる」

 

 金太郎は手ごろな棒を探す。

 手に収まり、ちょうどいい大きさの棒が拾うと、それを天へと掲げる。カヅチはそんな様子の金太郎の様子を見ていた。金太郎の髪の色は珍しく、この山では金太郎以外に見かけたことがない。

 

「それで?」

「ちかいをたてるんだよ。ないようは、おまえにまかせるわ。おれ、そういうのよくわかんないし。カヅチ、よく知ってるだろ?そういうのさ」

「そこまで金太郎が言うのであれば。じゃあ、やろうか。ぎきょうだいのちかい」

 

 金太郎はニカッと口端を上げて笑った。

 このカヅチという友人、なんだかんだ文句を言いながらも付き合ってくれるのがいいところで付き合いがいいというべきか。金太郎が持っているものとおおよそ同じサイズの木の棒を拾い、カヅチはその小さな腕を天に高く掲げ、金太郎もそれに倣った。

 

「「……」」

 

 互いに棒を天高く掲げ、そこから動作が停止する。金太郎のその眩いまでの金髪は照らされ、逆光もあってカヅチは眩しさのあまり、目を閉じてしまいそうになる。しばらくの間、沈黙の空気が流れた。

 

「なぁ、カヅチ」

「どうした、金太郎」

「いわないのか?」

 

 金太郎の言葉にカヅチはビクッと身体を震わせた。主にカヅチのアホ毛が揺れたというべきだろう、髪のちょうど、その部分だけがまるで他の生物のように震えたのである。

 こいつ、何も考えてなかったな、と金太郎はそんなカヅチの様子を見て思った。

 

「……ゴホン、我が名はカヅチ」

 

 咳払いをしたカヅチは畏まった様子で、先ほどと気持ちを切り替えて真剣な面持ちで木の枝の先端を見つめる。

 

「わが名は金太郎」

 

 金太郎もカヅチに倣って言葉を続ける。こういう難しいような言葉を使っているときのカヅチは口にはしないし本人も気づいていないことだが、賢いように思えた。

 

「生まれた時は違えど」

「うまれたときはちがえど」

「今、ここで兄弟の契りを結ぶ」

「きょうだいのちぎりをむすぶ」

 

 カヅチの言う言葉はあまり山では聞きなれないものだった。父親の顔を見たことがなく、“かあちゃん”と二人暮らしの金太郎には聞いたことがないと言ってもいい。二人暮らしをしている金太郎親子に対し、集落の中で人に囲まれているとはいえ、姉と暮らしているカヅチ。

 

 カヅチの家に遊びに行ったことが金太郎にはあるが、カヅチがこういったことについて記載されている書物を持っている様子はなかった。カヅチは掲げている木の枝を下ろし、金太郎の方へと向ける。

 

 普段ならば大人たちに木の枝を人に向けるのは危ないからやめなさい、と注意をされるところだが、ここにいるのは金太郎とカヅチだけ。そう言った注意をされる心配はないが、自然に恵まれているが、危険とは常に隣り合わせ。それがこの山だ。

 

 集落から離れれば、危険なことは自分たちで何とかしなくてはならない。そういったことを頭の隅に本能からおいてある為か、どれくらいの距離であれば、互いに目を突かないのかは測っていた。金太郎はこれもまたカヅチに倣い、互いに木の枝の先端をつける。

 

「我らの絆、いかなるものを以てしても断ち切れんことをここに誓う。見届けよ、大自然よ――!」

 

 最後にカヅチが〆の言葉を付け加えたところで、先にカヅチから木の枝を下した。

 

「……?なぁ、これでなにか変わるのか?」

「ばかだなぁ、金太郎は。こういうのはどういうものかわかるか?姉上曰く、“風情”というものだそうだ」

「フゼイ?それってあれか?花の種類か?」

 

 自分の手のひら、背中を忙しそうに身体を動かしながら確認する金太郎は物知りでプライドの高い親友に問う。今ので自分たちに何か変化は訪れたのか、というのが気になるところだ。

 カヅチ以外には動物たちが金太郎の友人であり、動物たちとは当然、このような契りを結ぶ行為をしたことがない。今、彼らが結んだ契りは重要なものであると気づくのは彼らが少年から青年、男へと成長してから気づくこととなるのだが。

 

 慕っている大好きな姉上から聞いた、“フゼイ”というものを親友は勘違いしているようだ。しかも、その勘違いの仕方はまるでなにひとつ掠っていないのだから驚きである。

やれやれ、と肩をすくめながら、カヅチは小さな器を二つ取り出した。

 

「フゼイとは、カッコいいってことだよ。金太郎、前に雷を母君と見てカッコいいって思ったんだって?」

「ん?イナズマのことか?ああ、たしかにカッコよかったぜ!こう、バリバリ―ッ!って大きく鳴るところとかさ。いかにも、“おれはここにいる。にげもかくれもしねえ!”って言ってるみたいで武士みたいじゃん?」

「それがフゼイだよ。いいもの、素晴らしいもの。姉上はそういう意味で僕に教えてくれたんだそうだ」

 

 金太郎は稲妻を表すのに身体をいっぱい使って、カヅチに対して表現した。そういえば、カヅチと稲妻はどこか名前の響きが似ている気がした。

雷鳴が天地に轟いていた、あの日。金太郎の母親は雷を見て目を輝かせている息子の頭を撫でながら、「お前は父ちゃんの子なんだねぇ」と漏らしていた。未だに顔を合わせたことのない父親、金太郎は寂しいと感じたことはないが、雷のような笑い声をする人であったという。

 

そんなことを思い出すも、すぐにカヅチが器を二つ用意し、そこに木の実を潰して入れ、近くの小川に水を器で掬おうとしたのを見逃さなかった。

 

「お、なんだ?さかずきをかわすのか?」

「せっかく、僕らは兄弟になったんだからと思ってな。流石に祭祀用の酒は使えないし、僕らには木の実の汁が精いっぱいだ」

「いいぜ、木の実の汁好きだしな。それにカヅチの作る木の実汁、うめぇし」

 

 食い意地が張る奴だ、とすりつぶした木の実の入った器からは甘酸っぱい匂いがする。そこに水を掬い、互いの器に満たして金太郎とカヅチは酒を酌み交わした。

 

「「ぷはぁーっ!うまい!」」

 

 ほんのごっこ遊びでしかないものの、今こうして“やる”ということがなによりも二人には重要だった。

 




義兄弟の誓いの契りの結び方は桃園の誓いっぽいものに。
カヅチと金太郎が酌み交わしたものの内容物は。果実を適当にすりつぶしたものに水をなみなみと注ぎこんだもの

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