祖なる龍の祝福を   作:今作ヒロインの欠点は胸がないこと

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龍もたまに驚くらしい

 さて、帰って来た。帰って来てしまった。

 耳に届いていた悲鳴が途絶えたので、戦闘も終わったのだろう。

 見るまでもなく、リアス・グレモリー側の敗北だったがな。最後はボロボロになりながらも転移して逃げたようだが……自分の居場所すら守れんのか。

「これが現魔王の妹とは。やっぱ実力までは期待できないか」

 しかしどうするかね? 自分たちの倒せなかった相手が朝になったら消滅してました、とかなったら警戒されるよな。俺はともかくとして、駒王学園に通うルリと木綿季はなにかしらの疑いがかけられても不思議じゃない。

 動かない方が状況がいいとは皮肉だな。

 三大勢力は、残念ながらいまのところ堕天使――それもアザゼルと数名の幹部のみとの交流しかない。天使や悪魔とは正規の場で会うこともないときた。ほとんどが今回のようなケースのみだ。

「それに、あの怪物を生み出したのは悪魔たちに他ならない。身内の不始末は身内でってのは当然のことだよな」

 でなけりゃ眷属なんて持たなければいい。持ってはならない。

 ああ、そういえばあれは誰だったんだろう? リアス・グレモリーとその眷属の戦闘において、途中から男の声がひとつ増えていた。リアス・グレモリーのことを部長と呼んでいたことから、待機させていた眷属だろう。

 一人増えたところで、といった感じですぐに吹き飛ばされていたが。全体的に眷属のレベルが低いのだろう。このままだと、格上相手には勝つどころか、戦うことさえままならない。

「拠点にする町、間違えたかねぇ」

「おや、珍しい。祖龍さまがそんなことを口にするとは」

 目を閉じていると、目の前になにかを置かれる音と共に声がかかる。

「ティアか」

「おや、さすが祖龍さま」

 楽しそうな笑みを浮かべながら、ティアが前の席に腰を下ろす。

「わからないはずがない。他の誰がわからないと言おうと、俺だけはな」

 祖龍というのはそういう存在だ。視界を塞がれていようと、音が聞こえまいと、龍の存在だけは間違えない。

「で、なにか用か?」

「いえ、特には。ああ、木綿季ですが、家に残っているメンバーに挨拶に行っていますよ」

「そうか……いまいる面子なら問題ないな」

 夜は基本オーフィスと黒歌しかいないし。今日は黒歌すらいないんだが。夜に行動する連中が多いし、外に出たまま帰ってこない問題児は更に多い。

 ここに残ってる奴の方が稀なのだ。一部はアザゼルが雇いたいとか言って連れてったし。もちろん、本人たちがやりたいと言うから了承しているが。

「まったくもってバカばかり」

「おやおや」

 ティアは随分マシな方だな。ティア――ティアマット。

 六代龍王の一角にして、『天魔の業龍』と呼ばれる蒼き龍。人の姿を模しているときこそ蒼髪の美女だが、龍のこいつも綺麗だよな。

 よく考えれば、ティアとの付き合いもかれこれ200年は経ったな。

「タンニーンとティアくらいのものだな、まともな龍王なんて」

 ティアと同じ、龍王の一角。あいつは他のドラゴンたちへの意識も強く、とある果実の育成、土地の管理のために俺に助けを求めてきたっけ。誇り高い龍が同じ龍とはいえ他者に頭を下げることは珍しい。あんときはなにも聞かずに了承したのを覚えている。

「あいつは優しい龍だろうさ。祖龍さまのあとを継げるかもしれんぞ?」

「ハハッ、だろうな。でも残念。あいつにその気はないし、後継者なら別のがいるさ。もっとも、俺が死ぬようなことがあればの話だが」

「それこそないか」

「ないなぁ」

 下手な龍殺しなんて出してきたところで無意味だ。

 魔獣も、悪魔も天使も堕天使も力だけなら俺には敵わない。神ですら、俺には届かなかっただろう。お互いに本気ではなかっつし、一度しか会うこともなかったがな。

 しかし、なんの因果かあいつの忘れ形見は俺が持っているという……呪いかな? 神よ、俺になんの恨みがあると言うのか。

「なあ、ティア。俺の部屋にあるアレ、やっぱり動いてんの?」

「ええ、もちろん」

 アレだけで伝わるとは……やっぱ異様だもんなぁ。しかも動くと来たもんだ。

 不気味な物体が俺の部屋に鎮座しているせいか、ルリやヴァーリすら自室には入ってこない。この場合、入れないが正しいのかもしれないが。

 あの謎の物体、どうにかしないとな。しかし手を加えていいものか……現状、誰も正体を知らない危険物。もちろん、俺ですらわからない。地味に怖い代物だ。

「祖龍さまも、アレだけは避けたがりますね」

「俺にも怖いものはある。特に、バカの忘れ形見なんて最悪以外の何物でもないだろ」

 そう。なんか動いてる謎過ぎる物体が神の忘れ形見。なのだが、寄越すならせめて危なくない物か便利な物にしてほしかった。

 天界に置いとけよ危険物……なくて困らないのか、天界。なあ、神よ。

 はあ……もう天界の奴らでもいいから引き取りに来いよ。ここまで来て、尚且つうちの奴らの相手をできるのならな! って、いかんいかん。これじゃ来んなと言っているようなものだ。

「さて、では祖龍さま。そろそろ寝るとするよ。おやすみ」

「おう、しっかり寝とけ。おやすみ」

 ティアはリビングから出て行き、姿を消した。

 上ではまだ騒がしくしているらしく、木綿季の紹介でもしているのだろうか。気配を探る限りオーフィスと一緒にいるみたいだが、あいつルリとヴァーリとはよく一緒にいるし、そのまま馴染んだのかもな。

 少女四人――一人は少女っていうか幼子なんだが、仲良くしていてくれればそれでいい。

「ふう……ただいま」

 おや、居なくなっていた黒歌が帰ってきたか。

「おかえり。どこ行ってたんだ?」

「訊くまでもないくせに……妹の様子を見に行ってただけよ」

「だろうな。で、おまえの妹は無事か?」

「そりゃね。遠くからだけど、支援してたわけだし」

 こちらを見ず、そっぽを向きながら話す黒歌。家族を助けに行っていただけのことだろうに、なぜ恥ずかしがるのか。うむ、俺にはわからん。

 そして、目下の問題のひとつがこれだ。

 グレモリー眷属の中に黒歌の妹がいること。

「すぐにってわけにはいかないしなぁ」

「こっちとしては、生きているだけでも満足なんだけど」

 俺の言葉に答える黒歌。もちろん、本音だろう。けれどできるなら、と思っていても不思議ではない。どうにかして妹もこちらに引き込みたいところだが、面倒も多いと来た。

「……悪いな」

「別に。、祖龍には世話になってるし、よくもしてもらってるから。気長に待つわよ」

「なら待ってろ。すぐにとはいかないが、どうにかしてみるからさ」

 不安気な彼女の頭を撫でる。

「んっ……」

 本当はすぐにでも会いに行きたいのだろう。その気持ちを押さえ込み、俺たちのためにも留まってくれているのを知っている。俺だけではない。みんながだ。

 うちは一人のために全員が協力すると言っても過言ではない。ティアとの会話で出てきたタンニーンの問題を解消するときだって、多くのドラゴンが、人が、妖怪すらも力を貸してくれた。秘密裏にアザゼルも協力をしてくれており、技術面ではだいぶ頼ったものだ。

「黒歌、抱え込むなよ。ここにはおまえ以外にも、多くの奴がいる。みんな、おまえの味方だからな」

「祖龍も?」

「ああ、もちろん」

 最初に黒歌をうちに招いたのは俺だ。俺が味方でなくてどうするか。

「そっか――ありがと」

 妹を見てきたせいでいつもより感情の歯止めが効かないのか、抱きついてくる黒歌を拒否することができない。いつまでたっても、こどものままだ。少なくとも、俺にとっては、だが。身長も高くはならなかったし、気分屋で甘えたがりで。

 はてさて、どうしたものか、この状況。

「ああ、そうだ。なあ、黒歌」

「ん〜?」

 実際に現場にいたのなら、訊きたいことがあったのだ。

「リアス・グレモリーとはぐれの戦闘さ、途中で一人男が入ってこなかったか? たぶん眷属だと思うんだが」

「いたわね、一人。なんにもできない、言葉だけは立派な兵士が」

「駒までわかったのか。そりゃ情報が早くて助かる」

 最近眷属にしたのだろうか? ルリの入学式もあって監視とかしてなかったしな。監視しなくてもいざってときはどうにでもできるという気持ちがなかったわけでもない。

「あれは危険視するだけムダ。先のことはわからないけど、いまはただの下級悪魔よ」

「おまえが言うならその通りなんだろうが、なんたってそんなのを眷属にしたんだかな」

「さあ? それよりも祖龍」

 密着したままの黒歌が下から見上げてきたかと思うと、俺の首に両腕を回してきやがった。

「っと、危ねえな!?」

 椅子に座ってるのに上体にばかり負担かけたら傾くだろうが。

 龍だって突然のことには弱いのだ。勘弁して欲しい。

「おい黒歌――」

 いつもうるさいはずの声が聞こえない。耳に届くのは、規則正しい寝息のみ。

「――いや、寝るの早すぎだろ。数瞬前まで起きてたじゃんおまえ…………」

 まあ、寝るのはいいけどさぁ。せめて人にしなだれかかって寝るのはどうよ? いい匂いはするし柔らかいし。いえ、癒されますけどね?

「たまにはいいか」

 肩に置かれた寝顔を見ると、なんとも安心しきった寝顔だ。拾ってきた頃から考えればあり得ない顔。

 うちに馴染んだ証拠だろうな。

「面倒だけど、かわいい奴だよ、おまえも」

 その後、黒歌をそのままにしながら撫でていると、廊下から何人かの足音が響く。

「祖龍さま! これ、どうですか!」

「お兄さん、どう?」

 ドアが開けられると同時に、二人の少女が入ってくるのだが。

「ルリ、木綿季、静かにしろ。で、どうした?」

「うん、メイド服を借りてきたんだよ、祖龍さま」

 メイド服? なんだったかとルリに視線をやると納得できた。給仕服のことだったか。いや、なぜ着てきた?

「とりあえず黒歌が寝てるから騒がないようにな」

「ん? 黒歌姉さま? どこに――あぁ!?」

 状況に気づいたのか、ルリが大きな声を上げる。これだからこいつは。

 木綿季はなぜか顔を赤く染めているが、どうかしたんだろうか? いまになってメイド服だかを着たことを恥じているってわけでもないだろうに。

「祖龍さま、それはひどいよ! 私という者がありながら!」

「はい?」

「もう、もうもうもう! 私も祖龍さまに抱きついたまま寝たい!」

「わけわからん」

「祖龍さまのばかぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 よくわからんやりとりをした後、ルリが部屋から出て行った。

「なんだったんだ?」

 仕方なく、木綿季に説明を求めるが、

「さ、さあ? あの、お兄さんは猫のお姉ちゃんと付き合ってたり?」

「いや、特には」

「……そっか。じゃ、じゃあボクもこれで」

 結局説明はされなかった。有耶無耶のまま木綿季も出て行こうとするので引き止め、

「木綿季、俺にはよくわからなかったが、その服、悪くないと思うぞ。あとルリにも言っといてくれ。かわいいが、その服着るなら家事もしろ、と」

「うん、ありがとね!」

 今度こそリビングを出て二階へと向かう木綿季。

 残されたのは俺と黒歌のみ。

「俺も寝たほうがいいんだろうが、まずは黒歌だな」

 起こさないよう、自室まで運んでやるとしますかねぇ。そう思った矢先。

「――チッ、まさか移動を始めるとはな。根城にしたんならそこにいればいいものを」

 例のはぐれが行動を起こしたのが伝わってきた。

「ったく、あいついいところで……」

 黒歌も察知したのか、腕の中で目を覚ます。

 同時、自室にいたはずのティアも下りてきて、なぜかオーフィスも連れてきていた。

「祖龍さま、どうします? なんならこちらで潰しに行ってもいいのですが」

 早々に提案をしてくれるが、ティアが戦うとなると周りへの被害も相応だ。それよりは、残ってるこどもたちを見ていてもらいたい。

「いい。たまには俺が出るさ。ルリたちを頼むな」

「そう、ですか? 祖龍さまがそう言うのであれば」

 動き出したのなら話は別だ。リアス・グレモリーに任せるつもりだったが、被害が出る前に潰さねえと。第一、この町の人間を殺されるのはよくない。

 明日も明後日も、おっちゃんたちの作ったもんを食いたいのだから。

 ルリやヴァーリも、だいぶ世話になってる人たちが多く暮らす町だしな。

「後々のことは終わってから考える。いまは、雑魚を倒すことだけを考えてもいいだろ」

 黒歌を下ろした直後。足元に魔法陣が浮かび、俺の視界は切り替わる。

 目の前には、先ほど会ったばかりのはぐれがこちらを睨んでいた。

「ハッ、いいタイミングでの転移だったぜ、黒歌」

 じゃあ久々に、暴れようか――。




次回は初の祖龍戦闘シーンになるのでは?
いや、というか名前出せよって方、すまない。既に祖龍で定着してそうだからいい気もするけどすまない。
感想なんかもらえると作者が喜びます。
では、また次回。

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