祖なる龍の祝福を   作:今作ヒロインの欠点は胸がないこと

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龍との共存は

 ふう、帰ってきたぜ。

 とか言ってみたものの、家から出て一時間と経っていなかった。

 だのに、はぐれとは予想外の戦闘になるわ、リアス・グレモリーにルリの正体がバレかけ、おまけに少女を一人保護する羽目になるとは……うん、これから外出は控えよう。

 穏やかな日々のためにはニート化も辞さない構えだ。

「祖龍さま、変なこと考えないでくださいよ」

「ルリこそ、不用意に人の心を読むんじゃない」

 にしても、あのはぐれ、頑丈だったな。 

 これまでの雑魚とは少し違う。ルリも紺野を助けるためにある程度は本気で殴っていたはず……となると、相当強い悪魔がはぐれになっちまったことになるんだが。

「ああ、そういやあいつの処理はグレモリーに擦りつけちまったかな? でもいいか。自分の入れちまったもんは、本来あいつが責任持って倒す相手だろう。俺らはアザゼルが危機に陥ったとかじゃなければ助けないぜ、リアス・グレモリー」

 任されてるなら、はぐれ一匹倒してくれよ。

 日夜狩ってる俺も、年中無休じゃやってられないんでね。

「で、おまえさんはいつから俺たちを見守っててくれたわけ?」

「にゃあ〜」

 肩に乗ったままの黒猫に話しかけるが、残念、鳴き声から情報を取れるほど他種族の言語には精通していないのです。

「すまん、できればドラゴンか人になって出直して来てもらえ――いてっ」

 適当なことを言っていると、黒猫の前足に頰を殴られた。

 やはりドラゴンでないこいつに俺を敬う精神はないらしい。並のドラゴンなら平伏していてもおかしくない存在なんだが、種族の差というのは面倒だ。

 もちろん、世界征服がしたいわけでもなければ、他の勢力を潰したいわけでもない。

 のんびりゆったり過ごせればそれで満足だ。

 血のたぎるような決戦も、胸踊る戦争も、総じてクソだ。そんな中に身を投じる日々は遥か昔に終わりを告げた。

「それでも、保護対象は多いんだよなぁ……」

 三大勢力の戦争も終わり、うちのバカ二体の喧嘩も二体とも叩き潰して決着をつけさせと、戦争の終わったあともあれやこれやと暗躍してきたが、それでも被害を受ける者は多い。

 今日もこうして、一人の――いや、死者も含めれば何人もの被害者がいたわけだからな。

 抱えたままの紺野を見ながら、そんなことを考えてしまう。

「おや? 帰ってきていたのか、祖龍さま。夜の散歩はどうだった?」

 リビングに入ってきたティアが話しかけてくる。

 こいつはよく俺が出かけるときや帰ってきたときなんかにあいさつに来るな。

「暇なのか?」

「いきなりなんだ? 祖龍さまはどういう意図があってその質問をしてきたのだ」

「あー……理解してないならいい」

 俺の中では暇人という枠にしておくだけだから。

「それより、ティアはもう風呂入ったか?」

「いや、まだだが」

 そりゃいい。

「なら、こいつら連れていってやってくれ。一戦やったのと、行った場所が場所だったんでな。話したいこともあるが、まずは風呂だろ」

「ふむ……わかった。二人ともついてこい」

 抱えるのをやめておろすと、ルリは「いいの?」と目だけで訊いてきた。

「いいから行ってこい。紺野もほら、服よく見てみろよ」

「へ?」

 指摘してやると、紺野の目線が下にいく。

「うわぁ……」

 自分の現状を見て、嫌そうな顔をしてみせる紺野。彼女の服には、いたるところに血がこびりついていた。

「人を殺してるようなはぐれだったからな。手にも血がついてるのは当然だわな。な? だから風呂に入ってきなさい」

「はーい。じゃあいってきます、祖龍さま!」

「遠慮なく借ります。えっと、祖龍さま?」

 ルリの影響か、紺野も早くも俺のことをそう呼び出した。

「あのさ、俺にはちゃんと名があるから、そっちで呼んでほしい。そう、俺こそが――」

「少し待っててくださいね、祖龍さま!」

 ドアを閉められ、女子三人は浴場へと行ってしまった。

「だから、どうして俺の名前を……」

 非情だ。

 世の中非情すぎるぜちくしょう。

「腹いせにはぐれでも狩ってこようかな」

「にゃー」

 ああ、黒猫よ。

 おまえも名では呼んでくれないもんな。元より、はじまりである俺に名はなかったのだが。

 それでも、名前をくれた奴がいたのだ。

 あいつのみ、呼んでくれた名が。

「で、おまえはいつまでそこに乗っているつもり?」

 訊くと、黒猫は床に降り、そして言葉を発した。

「いつまででもよかったんだけど、祖龍は嫌かにゃん?」

 直後、背後から腕を回される。

 細く、きめ細やかな肌。手入れを忘れたことのなさそうなその手が、俺の首元に回されていた。

「なんだ甘えたい盛りじゃあるまいし」

 黒猫――黒歌に話しかける。

「ん〜祖龍はいい匂いがするし、あったかいから、ついくっつきたくなるにゃー」

「ああ、そういう……猫は温かい場所好きだもんな」

「それで納得できるのはどうかしてると思うけど、引き剥がさないのがあなたのいいところよね」

「キャラ崩れてるぞ、猫娘」

 普段から語尾ににゃーだのにゃんだのつけてるくせに、簡単にキャラを捨てるからなこいつ。

 首だけで振り返ると、すぐ目の前に黒歌の顔があった。

 艶やかな黒髪に、妖しい笑み。

 着るもん間違えてないかと着崩された和服。というか肌色多すぎるぞ厚着しろこいつ。

「顔近い」

「近づけてるから当然にゃー」

 ええい、甘ったるい!

「艶やかなのはいいが露出は控えろ!」

「知らないにゃん。祖龍も力ある龍なら女に溺れることも覚えるべきにゃ〜。そして一緒にこどもを――」

「作らん」

「ここじゃ祖龍しかいないにゃん! 一人くらいいいでしょ!」

 くらいってなんだ、くらいって!

 こちとらただでさえ多くのドラゴンを束ねんといけない身で子育てなんぞしてられるか。

「面倒なら見なくていいから!」

「無責任にも程がある!」

 こどもがいるならしっかり面倒見るし相手もしたいわボケ。

 黒歌の子なら相当の美人だろうしな……ああ、悪くないかもしれん。

「でも却下な」

「ひどい!?」

「ひどくない、ひどくない。ったく、拾った黒猫がこうして盛るようになっちまうとわ……拾った頃は反抗期よろしかったけど、まだ可愛かったなぁ」

 いまよりほんの少し幼かった黒歌。

 当時ははぐれになっていたが、手を尽くして心を開き、こうしてうちに迎え入れた。

 まあ、その話はいまはいい。

「いまは綺麗よ?」

「うん、おまえの精神強すぎない? お兄さんびっくりよ……」

 確かに綺麗ですけどね。そこは間違いないし、美容関連の話はルリにも教えてやっているみたいで感謝してますよ。でも恥じらいは決定的に欠けてるよね。

「それはそうと、よくあの場に来てくれたよな」

「ん、それはもちろん。祖龍のいる場所なら大抵わかるにゃん」

「あっそ。とにかく助かったよ。おかげで、下手に正体を明かすことも、突っ込まれることも避けれた」

 リアス・グレモリー程度にバレる下手は打たないが、眷属や、特にあいつの兄に報告されようものならどうなるかは予想できない。

「そんなに危険?」

「危険だよ。現魔王さまの妹って肩書きの方はどうでもいいが、魔王は本物だ。心技体全てが高すぎる完成度でまとまってる。おまけに超越者だからな。本気を出せば世界のトップに手がかかるかもしれない程度には、危険だ」

「ふぅん……そのレベルなら、うちにも何人かいるように思うけど?」

「それはそれさ。なにより、うちは戦争屋でも、傭兵でもない。好んで争ってたら疲れるしキツいだけさ」

 悪魔と天使が攻めてくるならまだしも、こっちから戦う意思はない。

「そう。なら、一層のこと子育てとかどうかにゃん?」

「ブレないな、おまえも。却下だ」

「チッ」

「あからさまな舌打ちはやめなさい」

 それと密着してくるのも控えてもらいたいんだが、まあこれはもう習性なんだろうな。拾った頃はよく一緒にいたし、慣れてもらうためにもいろんなことをしたっけ。

 ああ、それはルリも同じだな。あとあいつもか。というか帰ってこねぇな、ヤンチャ娘の方も。

「黒歌、あいつからなにか聞いてない? 遅くなるって伝言しかなかったんだけど」

「さあ? あの子は自由だし、依存もしないからわかんな――あっ、昨日美味しそうなラーメン屋を見つけたとか言って行きたそうにしてたから、そこかもね」

「なるほど……」

 それだけで大体理解できた。

 よし、放置でいいか。

「あとは二人が戻ってきたら、紺野がどうしたいかと、ルリがどうするべきか。リアス・グレモリーの対処の三点か……あー、おのれリアス・グレモリー。やっぱりはぐれ擦りつけといてよかった」

 これは俺からの課題だとでも思え。

 あの程度が倒せないのであればダメだ。ルリを渡す気はさらさらないが、協力者にするのも不安だ。力不足でルリに頼られては困るのだ。

 悪魔なら、協力者にも無茶なことをさせかねない。

 そうして傷ついた奴らが、俺たちの施設には大勢いる。

 だからこそ、俺たちは慎重に見極めなくてはいけない。リアス・グレモリーとの――悪魔との関係を。


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