《 side hachiman 》
帝仁1年「ピッチャー遅せーぞw蔵座、ホームラン打ってこいよww」
吾郎「··················」
あー、やべーな。そろそろ茂野がプッツンしそう。どうしてこうなったか、これを読んでいる皆さんにお伝えしよう。いわゆる回想シーンてやつだ。それではいこう、ポワポワポワ〜。
――― ――― ―――
試合前、俺は茂野と田代にある事を話した。
八幡「悪いんだが茂野、今日お前は取り敢えず120キロぐらいで投げてくれ」
吾郎「はぁ!?なんでだよ」
田代「俺も賛成だな」
吾郎「お前もかよ!」
八幡「まぁ、待て。考えてもみろ、海堂の1軍を抑えたお前が本気で投げたら試合にならん。それにどんくらいこのチームは守れるのか見てみたいしな」
吾郎「······っち、しょーがねーな。分かったよ、打たせればいいんだろ?」
八幡「ああ」
そう、俺は茂野に遅く投げるように伝えた。理由はさっき言った通りであいつが本気で投げたら洒落になんねーからな。
吾郎「だけどな、俺の辞書に負けて良い試合なんて載ってねーんだよ」
八幡「それは奇遇だな。取り扱ってる店が少なくてな、あそこの辞書使いやすいよな」
そんで試合が始まると、まあ簡単に打たれましたね、はい。
先頭は2球見てからセンター前に運ばれたし、2番には簡単に送られた。さらに3番にはライト前に運ばれ1アウト1、3塁のピンチ。
そして迎えるバッターは海堂にも特待生で行けたであろう私の後輩、蔵座直哉君です。
はい、回想終了。
――― ――― ―――
打たれることを認めていたとはいえ、これじゃあ只のフリーバッティングと同じだ。いや、ランナーがいるからケースバッティングか?いや、どっちでもいいわ。
蔵座にこのままだと柵越されるから、もう少し速くても良いと、タイムを取り茂野に駆け寄る。気づいた田代もマウンドにやって来た。
八幡「お疲れ、茂野くん」
吾郎「おい!これじゃあ只のバッティング練習じゃねーか!」
田代「確かにな、これじゃあ守備練にもならねーだろ」
八幡「そうだな、次は135くらいで」
そういって俺はバックネットの裏にある球速が表示される液晶を見た。ちなみにさっきまでの最速は121です。
吾郎「まだ、抑えるのかよ」
八幡「ああ、我慢してくれ。最終回は思いっきり投げてくれかまわん」
長々話していると審判に注意されたので、そそくさとポジションに戻る。今は1点より、ゲッツーを狙う。いわゆる中間のポジショニングをしている。
そして、試合が再開される。茂野の「抑えるのも神経使うんだぞ······」という声が聞こえた。ごめんね、でも君に本気を出させると無双ゲーになっちゃうの。
そして茂野の指から放たれた、球は先ほどとは桁違いの速さでストライクコースのど真ん中を通過し、ミットに収まった。
あまりの速さにグラウンドの時が止まったのでは?と誰も勘違いしてしまうくらい、その場が静かになった。いや、なってしまった。
俺は恐る恐る球速の表示される液晶を見ると、そこには『152』の文字が。あのバカ······。
見ろよ、向こうのベンチのほかにもこっちの守備陣や、先生、雪ノ下達までお口あんぐりだ。ポーカーフェイスの蔵座までも目を見開いてんぞ。俺?まぁ、1回見たことあるし。なんか察してた部分あるし。
「お、おい······。スピードガン壊れたんじゃね······」
帝仁のベンチからそんな声が聞こえる。残念だったな。けど、そう思いたくなる気持ちも分からなくもないが
で、時の魔術師こと茂野はというと
吾郎「············(・ω<) テ、テヘペロ············」パッチーン
田代「··················」
············キャッチャー田代くん、振りかぶって······第1球投げました!
そして様々な意味を含められた、勢いのあるその球はそのまま茂野のグローブに収まった。
吾郎「いってぇーな!」
お前が悪い。
審判も唖然としていたがすぐにストライクとコールされた。
さすがに加減を知った茂野の次の球は外角低めに外れてボールだった。
そして、3球目。これまた外角にいったボールは今度はベースの上を通過する、するはずだった。
少し踏み込んで、振り切った蔵座の打球はセカンドベースの手前でワンバウンドし、二遊間を抜けようかという当たりだった。
まぁ、捕るんだけどね。
俺は頭から滑り込み、手を伸ばして打球を捌くと、大河が二塁に入るのが見えたので、寝たままグラブトスをした。
そして、トスを受けた大河は1歩踏み出し、一塁に送球した。
判定は一塁、二塁共にアウト。つまりはゲッツーで、チェンジとなった。
――― ――― ―――
戸塚「ナイスプレー!八幡!」
材木座「うぬ!さすが我が認めた男だ!」
大河「やっぱり比企谷先輩との守備は楽しいっスわ」
雪ノ下「やはり、野球だけは貴方を尊敬せざるをえないみたいね······」
ベンチに戻るとみんなが口々に俺のプレーを褒め称える。······雪ノ下はなんかくっ殺みたいな言い方だけども······。
吾郎「さすが八幡くん。君はやればできると信じてたよ」
八幡「うるせぇ。てかお前は後でお説教な」
なんでだよぉぉぉぉ、と茂野の叫びが聞こえるが気にしない。
平塚「さぁ、次はこちらの攻撃だ。しまっていけよ!」
平塚先生が気合十分にそういう。あの人、スポ根系も好きなのか······。1度ああいうの言ってみたかったんだろうな。
何はともあれ、反撃開始と行こうか。
――― ――― ―――
《 side zoza 》
完璧とは行かないまでも、それなりに捕らえ、センターに抜けようかという当たりをあの人は簡単に捕った。そしてその後も中学生とは思えないくらいのプレーを後輩の清水がした。やはりあの二遊間は頭を抜かないと厳しいな。
それにあの投手。1球だけ投げたあの球は······。
山田「蔵座くん。あれはしょうがない。向こうの守備が一枚上手でしたね。切り替えて守備も頼みますよ」
山田先生が声をかけて下さった。そうだな、と気持ちを切り替えることにした。一番は確か清水だったはず。最初から気が抜けないな。
俺は投球練習が終わるとマウンドに駆け寄った。
蔵座「一番は中学生だが、横浜リトル、シニアで5年間レギュラーだった奴だ。中学生だからって侮るなよ」
「はっ!俺の球が中坊ごときに打たれるわけないだろ?それにほかの奴らも抑えて完全試合してやるぜ」
こいつはさっきのプレーや向こうの投手のガタイを見ていないのだろうか。
しょうがないので俺はキャッチャーボックスに戻る。そして清水が左打席に入った。
大河「お久しぶりですね。蔵座先輩」
蔵座「そうだな、簡単には打たせないからな」
大河「アンタが簡単に打たせたことなんて見たことねーけどな······」
何か呟きながら清水は構えた。俺は初球、外角低めの変化球を要求した。しかしマウンドの上のやつは首を横に振る。要求してきたのはストレートだった。どうやら向こうのピッチャーのことは見てたらしい。対抗心丸出しだ。
仕方が無いのでやはり外角低めに構えた。そして放たれた1球は真ん中にいった。
清水は初球から振ってきた。ど真ん中の球は簡単にライト前に運ばれた。
俺は試合が始まったばかりだが既に胃が痛くなり始めてきた······。
次回の投稿は1月12日(木)00:00の予定です。
感想、評価お待ちしております。