《 side hachiman 》
茂野の依頼が解決したところでその日の部活はお開きとなった。茂野にキャッチボールに誘われたので俺は茂野と一緒に河川公園まで行くことになった。
八幡「そう言えば俺のことをだれかから聞いたって言ってたな。誰に聞いたんだ?」
存在感の無さに定評のある俺のことを知っているなんてよっぽどの変わり者か海堂のスカウトくらいなもんだろう。
吾郎「寿也って奴に聞いたんだよ」
八幡「寿也?寿也って言ったら······、そいつは佐藤寿也か?」
吾郎「ご名答。あいつがお前のことをべた褒めしてたぞ、スターいなかった僕たちの代は彼のおかげで全国に行けたってな」
八幡「まぁ、スターが少なかったのは事実だな。だけどいなかった訳じゃない。というか佐藤がスターだったけどな」
吾郎「寿也らしいな」
話しているうちに河川公園に着いた。ここは野球場やサッカーコート、多目的広場やテニスコートなどがあり、今もリトルと思われる野球少年が日が暮れかけてる中、一生懸命に白球を追いかけていた。
吾郎「おっ、懐かしいな。ドルフィンズじゃねーか」
八幡「お前もしかして旧姓本田?」
吾郎「ああ、なんで知ってる?」
八幡「お前のおかげでリトルの練習がしんどくなったからな。樫本監督なんて『去年、本田たちドルフィンズの試合で学んだことを忘れたのか』を呪文のように唱えてたからな」
吾郎「へへ、そりゃ悪かったな。監督っていったらあのグラサンか。というかお前はあの試合見てなかったのか?」
八幡「俺は大会直前にリトルの見学に行ったからな、帯同するわけないさ」
吾郎「なるほど」
会話をしながら、俺たちはグローブを取り出した。今日は部室で磨こうと思って持ってきたのだった。初めはオイル特有の臭いが嫌だろうと思って、気を使ってしていなかったのだ。しかし2人に一度嗅いでみたいと言われ、持っていったら意外と癖になる臭いのようでそれからは時々こうして持って行って磨いている。それに昼休みに戸塚や材木座なんかともキャッチボール出来るしな。
茂野は何となく分かっていたが投手用のグローブだった。しかし意外なことにそれは左投げのようだった。
八幡「お前左なのな。てっきり右投げかと思った」
吾郎「投げるのだけな。他は打つのも蹴るのも箸を持つのも右だよ」
八幡「そうか」
吾郎「お前のそれは······二塁手用か?」
八幡「一応な、色々やったが結局セカンドが1番楽しいわ」
吾郎「そうか、なんかこう······お前らしいな」
正反対のようだった俺たち2人は野球に関しては共感出来る部分か多かった。だから会って間もないがこの俺でもスムーズに話すことが出来ているのだと思う。
吾郎「行くぞー」
そういってキャッチボールは始まった。上手く捕ると、ぱちんっと小気味の良い音が広がる。やっぱり良いもんだよな。
八幡「お前最高何km?」
吾郎「あー確か155か6だったような」
八幡「はぁ?マジで言ってんのか、変化球は?」
吾郎「へっ、俺はストレートだけって決めてんだよ」
コイツの球はとにかく伸びが凄い。実際に球が上がっている訳では無いが、そう見える。恐らく初速と終速の差が少ないんだろう。それにこの球の回転は······
八幡「そんでもってお前、もしかしてジャイロボーラー?」
吾郎「らしいな。いつの間にかなってたんだわ」
八幡「そんな簡単なもんでもないだろうに······」
コイツとキャッチボールしてて思った。コイツが居れば海堂を倒すってのは案外夢物語じゃねーかもな。
吾郎「比企谷、誰か野球部に入りそうなやつはいないか?」
そうだな、いないことも無い。やるかどうかはしらんけど。
八幡「俺の知る限り、この学年には経験者は割といる。そん中でお前とやってもついていけそうな奴は3人だ」
八幡「1人は同じクラスの戸塚、2人めは隣のクラスの材木座、3人めはクラスは知らんが田代ってキャッチャーだ」
八幡「恐らくだが、田代であればお前の球も捕れるだろうな」
吾郎「なるほど」
その後も他愛の無いことを言い合いながら、キャッチボールは続いた。ふと時計を見たら既に1時間近くもキャッチボールをしていた。これ以上は今更だが、怪我も怖いし辞めとくか。それに······
八幡「おっと、おうこんな時間だ。そろそろ家に帰らなきゃな」
吾郎「何かあんのか?」
八幡「俺の可愛い妹が寂しく待ってんだよ」
吾郎「ならそろそろ止めるか」
軽く使ったところだけトンボをかけた。
吾郎「じゃあまた、明日な」
八幡「おう、じゃあな」
明日が楽しみだ。
――― ――― ―――
八幡「ただいま」
小町「おかえり!お兄ちゃん!今日はいつもより帰り遅かったね。奉仕部の依頼でもあったの?」
家に帰ると愛しのlittle sisterが出迎えてくれた。こればっかりは兄冥利に尽きるってもんだ。
八幡「依頼はまぁ······あったちゃあったな」
小町「ん?その引っかかるような言い方は気になるなぁ。もしかしてデートだったりした?」
悪戯っぽくそういう小町。あーもうほんとに可愛いな。
八幡「なわけねーだろ。色々あったんだよ」
小町「ふーん······」
八幡「実はな、小町」
小町「何?お兄ちゃん」
八幡「俺野球部に入ろうと思うんだ」
それから俺は今日あったことを小町に話した。茂野という野球馬鹿が転校してきて、野球部を作ろうとしていること。俺が誘われて、了承したこと。一応雪ノ下や由比ヶ浜がマネージャーになることなんかをだ。
一通り聞き終えた小町は、嬉しそうにこう言った。
小町「小町はお兄ちゃんが決めたことなら文句は無いよ。多分それはお父さんやお母さんも一緒だと思う。実はお兄ちゃんが野球を続けなかったことを1番悲しんでたのはお父さんなんだよ?それに······」
そこで小町は話を区切り、こう繋げた。
小町「お兄ちゃんが嬉しいなら、小町も嬉しいもんだよ!あっ、今の小町的にポイント高い!」
最後のが無ければ八幡的にもめちゃくちゃポイント高いんだけどなぁ。という言葉は胸にしまいこみ、今日はこの兄想いのできた妹にどうやってご褒美をあげるか考えることにした。
次回の投稿は12月22日(木)00:00です
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