それでは23話どうぞ
《 side hachiman 》
樫本コーチと茂野コーチ(お前達の監督ではないからと、樫本かんと、コーチに言われたから。茂野さんもそれに連なり)が来てから、今まで以上に練習の濃さというか密度が濃くなった気がする。
それもそのはずだ。1人は小学生とはいえ、今でも全国常連のチームを率いている訳だし、もう1人は数年前に引退したとはいえ、当時の球界に、いや球史に名を残す投手だったのだから。
プレーの上手な選手が、指導も上手いとは一概には言えないというのが、一般的な意見だろうが、そういう選手はだいたいセンスだけでやってるだけで、プロまで行けばほとんどの人が頭を使っている。そういう訳で前述の理論には当てはまらないと言うことだ。まあ中には例外もいるだろうがな。
そんなこんなで、あっという間に野球シーズンは終わり、12月を迎えた────────
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八幡「で、君は受かったんだね?」
大河「ええ、ぶっちゃけ落ちる要素無かったですし」
八幡「そうかい。でもそれをうちの妹の前で言ったらぶん殴るからね」
大河「へーい」
年を越し、戦いの1年を迎えた我ら総武高校野球部に、清水大河君が合流した。
本来、新入生は3月の終わりからしか練習には参加出来ないが、特例ということで連盟から許可された。いったい誰のおかげ何でしょうかね?ねぇ、理事長?
何はともあれ、彼は一足先に推薦で合格を頂き、進学が決まった。まあ元々落ちる要素がほとんど無かったわけで、特に驚きもしなかったが、今度は小町が総武を受けるらしく、受けるといっても推薦なぞ貰えるわけもなく、その他大勢と一緒に受験する訳だが、なかなか厳しいらしい。
というのも、元々うちは県内有数の進学校なわけでそれなりに倍率も高い。それに加え、愛しのリトルシスターはお馬鹿さんである。しかし、そんな彼女が兄と同じ高校に行く為に努力しているのだから、兄冥利に尽きるといったものだろう。
そんな比企谷家の事情はさておき、野球部の方はどうかというと、順調に上達しているといって過言ではないだろう。
各自、コーチたちから指摘された欠点を修正しようと試みてきた。具体的な例を挙げるとすれば、戸塚のスローイングなんかがそうだ。
戸塚は体が小さい。だからという訳では無いが、肩もサードを任せるには少し物足りない。
そこで、捕ってからを早くできるように練習してきた。一回一回掴んでから投げていては遅くなるので、掴むのではなく、グラブに当ててそのまま投げるように練習していた。これは実際にプロもしている。
それに他の奴らもそれぞれの課題をクリアしていっている。
外野の1年も守備だけなら、申し分無い程にはなった。
何より、茂野が投手として、大きな武器を手に入れた事が大きい。自分で進めといてなんだけど、弱点があるとはいえ、あれはマジでチートすぎやしませんかねえ。初見で打てる奴が全国に何人いることやら。俺も大河も普通に空振りしたし。
こんな感じで、俺たちは春に向けて仕上げていった。その中で色んなことがあった。
――― ――― ―――
英樹「お前ら、春の大会には出ないのか?」
二月の初め、練習終わりに茂野さんがそう尋ねてきた。
八幡「そう······ですね。考えてなかったです」
そう言えば、ありましたね。といってもこの大会は一応関東大会まで勝ち進む事が出来るが、全国には繋がらない。
だから海堂なんかの全国を狙うような高校は、参加はするが、夏本番に比べるとやる気はない。
吾郎「海堂も本気じゃないだろうし、出なくてもいいだろ」
八幡「俺は出ておきたいな」
吾郎「なんで?」
茂野がそう問いかけてきた。それに伴うように、近くにいた部員もこっちを向いた。
八幡「俺たちは圧倒的に経験不足だからな。海堂だけじゃなく、どの高校と比べても。だから公式戦を経験しておくだけでも違うと思う」
田代「俺も比企谷に賛成だな」
大河「僕も」
他の奴らも、納得してくれたようで、うなづいている。
吾郎「そういう事か。なら出ねえ理由はねえな」
ということで春の大会に参加する意志があることを、後日平塚先生に伝えた。
特に参加に問題があるわけではなく、大会への参加は無事承認された。
それともうひとつ、この冬にある出来事があった。
それは、葉山隼人の入部である。
――― ――― ―――
葉山「比企谷、俺を野球部に入れてくれないか」
春の大会への参加が認められた次の日、平塚先生に入部希望者がいると呼び出された。
練習に遅れることを茂野に伝え、俺は呼び出された場所に向かう。
そこに行くと、平塚先生の姿はなく、そこには葉山の姿があった。
何故コイツが入部希望なのか、俺には心当たりがあるが·····
八幡「確かに助っ人は頼んだが、無理に部活に入ってくれなくてもいいんだぞ?それにお前はサッカー部に入ってたろ?」
あいつも入部理由について問われることは想定していたようで、すぐに言葉が帰ってくる。
葉山「練習もせず、試合だけ出て上手く行くほど野球は甘くないだろう?それにお前と話してからずっと考えてたんだ。俺が本当にしたいのはなんなのかって」
八幡「·····それでお前はサッカー部の仲間より、野球を選んだわけか」
自分で言っといて厳しいことを言っている自覚はある。だけどコイツは俺と仲良しになるためにここにいるわけじゃないし、第一、葉山隼人という人間は周りの和を乱す様なことを進んでする人間に思えなかった。
部長が別の部活に転部する。それもサッカーから野球という全く別のスポーツに。これだけの理由があってすんなり野球部に、とはならないはずだ。
葉山「やっぱりお前は性格が悪いな」
うるせえ。自覚はあるつってんだろ。
葉山「もちろんすぐには決めきれなかったさ。だけど最後に背中を押してくれたのはアイツらなんだよ」
八幡「そうか·····」
どうやら葉山も良い仲間に巡り会えたみたいだな。まあ俺の仲間も劣ることは絶対にないけどな。
葉山「特に戸部がな、誰よりも俺の転部を応援してくれたな」
戸部か·····。やっぱり良い奴ではあるんだな。材木座しかり、戸部しかり、一見ウザそうな奴も付き合ってみれば案外良い奴なのかもな。まあ俺はそんな博打を打ちたくはないが。
しかしひとつ疑問が浮かぶ。何故このタイミングなのか。コイツの話し方ではだいぶ前に転部を決めたようだが。
その事を伝えると、完全にブランクがある状態では参加したら迷惑になると思ったらしい。葉山らしい、周りを思ってのことだが、野球部員のほとんどが1年近くのブランクがあったことを伝えると、苦笑いしていた。
八幡「まあ、なんだ、これからは仲間だからな。よろしくやろうぜ」
そう言って、俺は手を差し出す。
それを見た葉山は何か良くないものを見たかのように、驚いていた。失礼なやつだな。俺だってチームメイトぐらいにはこれくらいする。逆に言えば、チームメイトでなかったら絶対にしない。絶対に。
葉山「お前はこういうことをしない人間だと思っていたんだけどな」
八幡「うるせえな。人は見かけによらないんだよ」
ソースは戸塚。あれば神様のミスだから。
葉山「そうか。なら改めてこれからよろしく」
八幡「ああ」
そういって俺と葉山は握手をする。
こうして総武高校に10人目の野球戦士が誕生した。
俺たちの戦いはこれからだ!
今後も不定期になるとは思いますが、続けられるよう頑張っていきます!