闇のフィールドが解け、室内がもとの祭儀場に戻った。
結果的にクーデターに荷担した吸血鬼は全員死んでしまった(まぁ一人は俺が
アザゼルは一通り状況を確認するとヴァレリーのもとに駆け寄り、小型の魔方陣を展開して彼女を調べ始めた。
「おい、どうした」
「………どうにもな、引っかかってな」
確かにさっきからアザゼルは術式の結果を怪しがってはいた。しばらく彼女の体を調べていたアザゼルが手を止めた。
「………なるほど、俺の疑問は解消できそうだ」
「と、言うと?」
俺がアザゼルに問うと、アザゼルはヴァレリーを指さした。
「この娘の聖杯、元々から亜種のようだぞ。本来一つのはずの聖杯が、まだ存在している。つまりこの娘の体にはもう一つの聖杯が残っている。おかしいと思ったんだ。
『………ッ!?』
アザゼルの発言に全員が驚いていた。
「通常一つしかない
「ああ、"シドウ"の言うとおりだ……まぁ詳しくは調べてみてからだがな。本当に今世の
『おおっ』
それを聞いた全員が安堵の息を漏らした。
……………あれ?
「アザゼル、何で俺を"シドウ"って呼んだんだ?」
「………………何となくだ」
「…………?まぁいい、とりあえずヴァレリーは無事なんだろ」
「そういうことだ。聖杯をこちらへ。とりあえず、それを戻す」
アザゼルが聖杯を戻す作業を始めた。
精神汚染が酷かったのは聖杯が二つあったからなのかもな。
そんなことを考えながら闇の魔物のままのギャスパーを見る。
ヴァレリーへ聖杯を戻す作業を見守っていた。
そんなギャスパー(?)に俺が訊く。
「………とりあえず。ギャスパー、戻らないのか……てかギャスパーでいいんだよな?」
『僕はギャスパーだよ。ただ、ギャスパーであり、ギャスパーでないとも言える。この少年が母体にいたときに宿ったのは、バロールの断片化された意識の一部』
「「な、何!?」」
それを聞いて俺とアザゼルは驚きの声をあげ、アザゼルに限っては顔を引きつらせていた。
「バロールってあのケルト神話の魔神か!?」
「……いや、確かにギャスパーの
俺は引き続き驚き、アザゼルは一人で分析を始めていた。
「あ、あの~。ギャスパーの
イッセーが訊いてくる。それにアザゼルは興奮気味に答えた。
「バロールは邪眼の持ち主として一番有名な神だ。あのクロウ・クルワッハを操った神としても知られている。そのバロールの眼にならってギャスパーの
『だから、バロールの意識の断片さ。神性はすでに失われて、魔の力だけが残った。本来バロールはすでに滅ぼされたからね。僕はバロールであって、バロールでない。ギャスパー・ヴラディさ。
「なるほど~」
アザゼルは今のを聞いて理解したようだ。俺は……とりあえずこいつがスゴいってことはわかったぜ!
そこで一つの疑問が生まれた。
「そう言えば、俺が旧魔王派にいたころにイッセーの
『あれは、彼と僕の視界が繋がったからなんだ』
ギャスパーがそう言うとイッセーが「おわっ!」と声を出した。
「イッセーどうした?」
「いえ、何か視線が急に高く……自分で自分を見ていたもので…」
「視線が繋がったってのはそういうことか」
『そういうことだよ』
にしてもギャスパーのこの姿にも慣れてきたな。
「ほ、本当にギャスパーなのか?」
「なんだか、おっきくなっちゃって………怖かったわ」
ゼノヴィアとイリナも慣れたのか、ギャスパーに近づいていった。
ギャスパーはそんな二人に反応せずにヴァレリーへ足を進める。
横たわる彼女の頬をギャスパーは変貌した手でやさしく撫でた。
『僕はなぜかこの少女を救わないといけないと感じた。強く、強くね。それはとう一人の僕が感じている恩義とは別の感情だ。……これは感謝?僕にはよくわからないけれど、おそらく、彼女は聖杯の力を覚醒する前に無意識のうちに使っていたのかもしれない。僕のもととなったバロールの意識の断片、それを聖杯の力で呼び出して……僕を作り上げた……?』
「このギャスパーを生み出したのは幼い頃のヴァレリーだと言うのか?リアスがギャスパーを眷属にできたのはバロールがすでに神性を失っていたからこそか………」
アザゼルがその後もぶつぶつと独り言を言っているが、ギャスパーは構わず続ける。
『この状態は
……自分で名付けんのか。まぁそれはいいが……
「アザゼル。これは
「ああ、そうなるだろうな。まぁ、詳しくはグリゴリに帰ってからだ」
アザゼルがそう言ったときだ。闇の獣になっていたギャスパーの闇が晴れ始める。
『もう限界みたいだ。あとは皆に任せて、僕は少し眠らせてもらうよ』
闇が晴れていき、少しずつもとのギャスパーに戻っていくなかでもう一人の……闇ギャスパーが笑みながら話を続けた。
『オカルト研究部の皆、僕は全てを闇に染める存在だ。けれど、あなたたちには絶対に危害を加えないと約束する。もう一人の僕を通して、ずっとみていたからね』
闇ギャスパーが俺たちを見渡す。
『リアス部長、朱乃さん、小猫ちゃん、裕斗先輩、アーシア先輩、ゼノヴィア先輩、イリナ先輩、レイヴェルさん、ロスヴァイセさん、アザゼル先生、シドウ先生、そして赤龍帝……イッセー先輩。僕の大事な仲間だから………』
それだけを伝えると完全に闇が消失し、ギャスパーはその場に崩れ落ち、気絶してしまった。
そのギャスパーをリアスが抱き締めた。リアスの目元には涙が……
「……わかっているわ。あなたが誰であろうとかまわない。あなたは私の眷属だもの。ねぇ、ギャスパー……」
それを聞いた全員が頷きながら、泣きそうになっていた。
「それで………終わったか?」
「今訊くのかよ。まぁいい、これで目を覚ますはずなんだが……」
アザゼルがそう言うとまばゆい閃光を放ちながら聖杯がヴァレリーのなかに戻っていった。
それからしばらく様子を見ていたが、彼女はいっこうに目を覚まさない。
アザゼルが再び彼女を調べ始める。
「……おかしいな。息はある。意識だけが戻らない……?何が足りないんだ?」
ヴァレリーがなぜ目を覚まさないのかアザゼルが考えを巡らせていると、室内に第三者の声が響き渡った。
「あー、もしかしたら、これも戻さなきゃ意識は戻らないかもねぇ」
そいつ登場にヴァーリは憤怒の表情を浮かべた。
「会いたかったぞ、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー!」
俺たちの前に姿を現したのは、リゼヴィムの野郎だった。
リゼヴィムのそばに聖杯らしき杯が一つ、宙に浮いていた。あれはまさか!
リゼヴィムは口元を笑まして話を続ける。
「ヴァレリーちゃんが持つ亜種の聖杯は……全部で三つだ。三つでワンセットっつー規格外の亜種
……三つでワンセットの
ゲラゲラと笑うリゼヴィムが改めてヴァーリに軽快にあいさつをし始める。
「んちゃ♪うっひょひょーっ!リゼヴィムおじいちゃんだよー?ここから愉快なお遊戯タイムになりまーす。良い子の皆はおじさんの話に注目してね☆」
リゼヴィムはそう宣言して醜悪な笑みを浮かべた。
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