イッセーside
シドウさんの放ったオーラがおさまり、俺たちは周辺を確認した。
シドウさんの攻撃の派手さの割に、この部屋はあまり傷ついていないように見える。
その一撃を放ったシドウさんは一度大きく息を吐いた。
アザゼル先生は障壁を解除し、シドウさんに怒鳴る。
「おい、リッパー!何を考えてる!上役の連中は生け捕りにしろとあれだけ!」
「……だから生かしてあるだろ?」
「何?」
俺たちはシドウさんに言われ改めて周囲を見渡した。
すると何人かは今の出来事を見せられ、シドウさんを畏怖している様子だ。
「…………大剣でやったら部屋ごといきかねぇからな、一点集中にしたさ……マリウスは知らんがな」
シドウさんは相変わらず低い声で続け、部屋のある一点を見た。
そこには聖杯だけが宙に浮いていた。
マリウスの体だけを消し飛ばしたってことなのか……これで終わった?
「それで………誇り高き純血の吸血鬼ども………どうする?……まだやるか?」
シドウさんの一言に震えながら一人の吸血鬼が口を開いた。
「な、なぜだ!?なぜ聖杯を持つマリウス殿が!?」
「グレンデルの一言でどうすればいいかわかっただけだ。魂が残っていれば体を新調できる……だったら………体と魂を同時に、完全に消し飛ばせばいいってな……」
「なぜ貴様はわからないだ!?我らと同じ純血の貴族であるならば理解できるはずだ!貴様らも我々も人間を糧に生きてきた!我々は人間を食料と考えている!家畜を支配するために力を求めて何が悪い!わかるはずだ!貴族とそれ以外の差が!」
吸血鬼の一言にシドウさんは息を吐いた。
「………テメェらと同じに考えてほしくはねぇんだがな……俺は貴族なんていいもんじゃないさ………この手を汚しまくってるだけの………ただの………」
シドウさんはそこで一旦言葉を切り、自分が持っているブレードを強く握り、見つめた。
「……そう……俺はただの
どこか切なく、虚しさを感じる声音だった。
イッセーside out
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シドウside
やりすぎたか?いや、あれでよかったはずだ……。
久しぶりに出したあれほどの殺気………それであることを思い出した。
……………そう、俺は
シドウside out
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イッセーside
「…………おまえらも斬り殺したいところだが……あとは任せる……」
シドウさんはそう言うと、全身から放っていたオーラが収まり、左目も元の白濁したものに戻り、その目である一点を見た。
俺たちはシドウさんの見つめる場所を見る。
そこにいたのは全身から黒いオーラを生み出しているギャスパーだった。
その黒いオーラは徐々に室内を覆おうとしている。
のろのろと立ち上がったギャスパーはこの世のものとは思えない危険な輝きを放つ双眸を吸血鬼の上役に向けていた。
その黒い何かは少しずつ人間の形を崩していき、獣のような形になっていった。
両腕は長く太くなり、鋭い爪が伸び、背中が隆起して、いくつもの羽が生え、足が逆関節となっていく。
頭部もドラゴンを思わせるように形成されていった。鋭い牙が生え、角が生え、真っ赤な双眸が怪しく輝く。
『コオオォォォォォォォォォォォォ!』
獣の咆哮が響き渡ると同時に室内を完全に闇が包み込んだ。
俺たちの目の前にいるのは闇のオーラを全身から放つ見たこともない、全長五メートルはある巨大な生物だった。
あれがギャスパーの真の姿なのか?
俺たちはただ震えて見ていることしかできない。
ヴァーリは腕を組み静観し、シドウさんもいつの間にか後ろに下がってきて同じく静観を決め込んでいた。
「………この現象は……」
アザゼル先生もこの有様に眉根を寄せていた。
「これは!」
「なんだというのだ!?」
吸血鬼の上役はシドウさんに続き、こんなものを見せられ、恐れおののいていた。
すると黙っていたシドウさんが口を開いた。
「どうした?ご自慢の純血の力でどうにかしないのか?」
「そ、そうだ!我々は聖杯で強化されている!ハーフごとき、次のステージに進んだ我々の敵では……」
バグンッと一人の吸血鬼が、足元の闇から生まれたワニのようなものに飲み込まれた。
『次のステージが……何だって?』
ギャスパーだったものがケラケラと笑いながら言う。
それを合図に部屋のあちこちから見たこともない生物が誕生していった。
その光景に身震いしていく吸血鬼たち。だが一人の男が怒りに顔を歪めて身体から虫や獣を生み出していく。
「その手の芸当は貴様だけのものではない!たかが、闇に包まれた………」
啖呵を切った男性を滑空してきた鳥形の魔物が連れ去られていく。
運ばれた先で魔物に囲まれて………。
「や、やめろぉおおおおおお!」
抵抗むなしく一方的に喰われていった。
なんだよ………これ。ギャスパーがやってるのか?
これがギャスパーの真の力、真の姿なのか。
全身の震えが止まらない俺だったが、闇の魔物はさらに増えていき、吸血鬼たちを追い詰めていく。
魔物は俺たちにもだけは危害を加える素振りだけは見せなかった。
「ひいぃぃいい!」
「そ、そんな!我らの力が!」
「な、なんなのだ!?」
「貴様はいったい、なんだというのだ!?」
吸血鬼たちは必死に抵抗するが、魔物が際限なく生まれて向かっていった。
『なぜ、うまく吸血鬼の能力が発動できないのかわかるか?おまえたちが聖杯で強化された力を停止させているからだ』
「能力の停止か………えげつねぇな」
シドウさんが呑気に呟いているが、まったく同感ですよ!能力の停止ってそんな凶悪なことまでできるのか!?
ついに吸血鬼たちは足を取られ、変化ができないように全身を闇にからめ捕られてしまった。
「くっ!卑しいもどきがぁぁぁ!」
「ち、近づくな!わ、私たちには高貴な血が……貴様には到底想像もつかない歴史と伝統を持って……」
『いいよ、喰らい尽くせ』
その合図と共に吸血鬼の上役は闇の魔物に食い尽くされていく。
あまりの光景にアーシアは目をつむり、耳を押さえていた。
「や、やめろぉぉぉぉ!やめてくれぇぇぇ!」
そんななか、闇の奥から最後の一人の断末魔が室内に響き渡った。
イッセーside out
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シドウside
俺の挑発に乗り、憐れにも今のギャスパーに戦いを挑んだ吸血鬼ご一行。
結果はご覧の通り……ざまぁねぇな。
人が人を思う力ってのは歴史だの伝統だのよりも大事で強いものってことだ。
吸血鬼の連中はただそれだけのことに気がつかずにバカにし続けた。結果的に今までの全てを無駄にした。
そういうことだな。
俺がそんなことを考えいるなかで闇のフィールドが解け始めた。
シドウside out
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