ギャスパーの父親との話を終え、ヴァレリーに呼ばれたイッセーと小猫以外は割り当てられた部屋に戻り、それぞれの部屋でリラックスを心掛けていた。
それにしても……親か……。
俺は自分の部屋で昔のことを、正確には"前世"のことを思い出していた。
前世の俺は日系のアメリカ人だった。そして子供のころは今の立場とは真逆のいわゆる普通の子供だった。俺を育ててくれたのは母親だけだ。父親は物心ついたときからいなかった。母さんに訊くと
『お父さんは遠くに出掛けてしまったの』
と答えるばかりだった。そのうち俺も気にしなくなった。母さんは優しかった。基本的に俺のことは叱らずに諭すことのほうが多かった。そして母さんは心配性だった。そんなことを気にせずに友達とバカみたいなことをして遊び、バカみたいに怪我をして母さんに心配をさせる。幼少期はそんなことを繰り返しながら毎日を過ごしていた。
その後もよく怪我をする以外はなんの問題もなく育っていき、小学校、中学校、高校と問題なく進んでいき、時にはバイトをする。そして時には喧嘩をすることもあった。それで怪我をして帰ると母さんは俺を叱った。母さん曰く"人を傷つけることは相手以上に自分が傷つく"とのことだ。その言葉は今でも心に残っている。
そんな普通の生活を繰り返していくなかで時代は対テロリストの流れになっていた。よくわからん理由で人を殺し、利用して、また殺す。そんな連中との戦争の時代になったのだ。
ある意味で今の状況も同じようなものな気がする。
俺たちには理解不能の理由で同族を家族を利用し、自分たちに反抗的な奴を殺していく、似たようなもんだろ?
話がズレたな。
そんな対テロリスト時代の中でも俺の母さんは変わらなかった。今までどうり優しかった。今までどうり戦いにだけは否定的だった。
その影響で俺はいわゆる平和主義者"だった"。
あの時を境に俺は母さんの考えを心に持ちながら戦う覚悟を決めた。
簡単だ。母さんがテロリストに殺された。俺の誕生日だった。もうすぐ俺が独り立ちするとのことで豪華な料理を作ろうと買い物に行った時にテロに巻き込まれた。
それから俺は軍に志願した。復讐のために、そして母さんが産まれ育ったこの
軍の訓練はキツかったが俺は近接戦闘の訓練だけは好きだった。射撃訓練も
……俺は戦場にいるほうが落ち着く……。
俺には家族がいない、家には何もない、だったら戦場にいるほうが何倍もマシであり、意味がある。
それからも何度も戦場に送られ作戦を繰り返した。時には奇襲、時には防衛、全てが"楽しかった"。仲間に背中を預け、預かる。そして殺られる前に殺る。
そんななかで俺は上官にあることを言われた。
「カウンセラーの診断を受けろ」
ただそれだけだがこの言葉には重さがあった。その言葉を言われる前の作戦で俺は今にも降伏しそうな相手を撃ったからだ。下手すれば軍法会議ものだが相手がまだ武器を隠し持っていた、さらに自爆しようとしていたおかげである程度減刑されしばらくの基地待機となったのだが。だがその敵を撃った時その上官が俺のことを見ていた。
今思えばおそらく彼は俺が戦闘を楽しんでいることに気がつき始めていたんだと思う。何の慈悲も容赦もなく相手を殺した俺はおそらく笑っていたんだと思う。
最初のカウンセリングで俺は精神的にヤバイ(意訳)と診断され、その後もカウンセリングをされたがそれが直ることはなかった。
そして俺は軍を辞めさせられた。イカれてる奴に背中を預けたいバカなんていないからだ。
その後はフリーの傭兵として活動をしていた。
傭兵がたむろしているバーで
俺が死んだのは傭兵として反政府運動、いわゆるクーデターに参加していたときに戦場にいた親子を助けたからだ。きっと魔が差したんだろう、その親子が一瞬自分と被ってしまったんだ。理不尽な理由で幸せを奪われる。その親子を見て、奪われた側だった俺が今度は奪う側になっていた。そのことに気がついて咄嗟に親子を助けようとしちまった。
そして現在にいたる。
………読者さんはこいつ何言ってんだ?とか思っているかもしれないが俺も何で思い出したのかわからん。
にしても戦いを楽しむか……悪魔に生まれ変わってからそんなことを考える事もなかったな。それはセラや兄さんたちのおかげかもしれない。俺が前世で最後に助けようとした親子のせいかもしれない。
例の親子と、今世の家族と、前世にはいなかった
だが、もしも俺の心のどこかで戦いを楽しんでいるとしたらはそれを否定したい。でなければ俺は
敵を殺すためではなく。誰かを守るために、救うために戦う。それが今の俺だ。
「……ウさん?シドウさん!」
「ん?木場か。すまん、ボーっとしてた」
俺がそんなことを思い出していると木場が部屋に入ってきていた。
「イッセーくんたちの面会が終わりました。そのまま町に出るそうですがどうしますか?」
町に繰り出すか………
「いや、俺は一眠りさしてもらう」
「そうですか。では、何かあればすぐに」
「ああ、頼む」
俺の返答を聞いて木場は部屋を出ていった。
考えても仕方ないか……一眠りしよう。
俺はそうまとめるとベッドに大の字で寝転んだ。
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