部屋に案内されてからしばらくすると、リアスとギャスパーはヴァレリーが面会したいとのことで連れていかれ、アザゼルはマリウスの息がかかった上役の吸血鬼についていった。
リアスとギャスパーは純粋に話し相手として、アザゼルは
まぁみんなそうなるとわかっていたようで返事をしていたが………形だけなのもわかっているのか全員があまり気にしていなかった。
で、部屋で待機していたそれ以外のメンバーはようやくギャスパーの父親との面会が許されたので移動中というわけだ。
この城のメイドの案内で、ギャスパーの父親がいるという地下室に向かうため階段を下りていく。
しばらく下ったあとで広い空間に出た。まるで留置場のように複数の扉がある。その空間の中でメイドは迷うことなく一つの扉の前に移動する。
「ここがヴラディ家当主様がおられる客室でございます」
客室というにはあまりにかけ離れた場所だがな……牢屋とかよりはマシか。
メイドはノックをして「お客様がお見えです」と中にいる報告し、施錠された扉を開き、中に入るように促してくる。
俺たちは頷きあい入室する。
部屋の中は外比べると随分と豪華で、天井にはシャンデリア、家具も全てが高級そうだ。
これは牢屋というよりは超高級ホテルの一室だな。
中のソファに座る人物が俺たちを確認すると立ち上がった。
金髪の三十代男性だ。父親らしくギャスパーに面影がある。
俺と朱乃が一歩前に出て挨拶をする。
「はじめまして、セラフォルー・レヴィアタン様の
「私はリアス・グレモリー様の
リアスがいないときは朱乃がリアス眷属のトップだ。朱乃は失礼のないように振る舞った。
男性は頷くとソファに座るように促してくれた。
「どうぞ、お座りください。……"アレ"いえ、ギャスパーについて話をしに来たのですね?」
こちらの用件がわかっているのは助かるな。
俺と朱乃がソファに座り、イッセーたちがその後ろに並ぶように立つ。
男性は純血の吸血鬼らしく生気を感じさせない肌の色をして、光に照らされても影が出ていなかった。
その男性が口を開く。
「すでにリアス様とは話をしましてね。お互いに"アレ"の情報を交換しあいました。今後"アレ"の処遇を巡ってグレモリーとヴラディでどうしたらいいのか話し合いを進めるなかで私がこの城に召喚されまして……情けない話ですが、ここに幽閉されたわけですよ。こんなにも静かにクーデターが起こっていたとは想像もしていなかったものでしてね。私が幽閉されたことで、マリウス殿下側が息子にリアス様をこの城に連れてくるよう命じたようです」
話の内容の割には落ち着いた口調で、今の状況にたいして動揺している様子もない。逆に受け入れているようにさえ見える。
それにしても
「アレ、ですか」
俺はこのヒトはさっきからギャスパーのことを"アレ"呼ばわりしているのが気になり訊いてみた。
「アレは……ギャスパーは悪魔として機能しているのですね。リアス様からそれを聞き、正直驚きました」
「ギャスパーの母親はやはり……」
「ええ、すでに亡くなっております。アレを産んだ直後に」
「難産だったと?」
俺の質問にギャスパーの父親は初めて表情を変えた。目元を細め、眉根を寄せた。
「……いえ、ショック死です」
ショック死したのか…出産の時に何かあったってことか?
俺の疑問に答えるようにギャスパーの父親は恐ろしげに話を続ける。
「彼女の腹から産まれたのは……禍々しいオーラに包まれた何か別のモノでした」
「何か……ですか?」
このヒトの言葉の意味がよく理解できてないが、一つだけ言えるのは……このヒトが知っているギャスパーと俺たちが知るギャスパーでは決定的な違いがある。それだけだ。
父親は絞り出すように続ける。
「………生まれたとき、恐ろしげなアレは……人の形をしていなかったのです。黒くうごめく不気味な物体が腹から出てきた。形容しがたい何かが母体より生まれ出た。何かもわからないものが自分に宿っていた。アレの母親はそれを目の当たりにして精神に異常をきたし、そのまま死に至ったのです」
黒くうごめく何か……最近覚醒したギャスパーの力も黒い闇だったな。
父親は続ける。
「その場に居合わせた産婆を含めた数人が数日のうちに次々と変死しました………おそらく呪殺、でしょうね」
「まさか産まれたてのギャスパーが呪いを?」
「ええ、無意識のうちに振り撒いた呪いなのでしょう。産まれて数時間ののちに通常の赤ん坊の姿に変化したのですが、もうそのときには母親はショック死した後でした」
「ギャスパーくんはそれを知っているのですか?」
ここまでの話を聞いて朱乃が訊くが、父親は首を横に振った。
「いえ、知らせてはいません。いたずらに刺激したら真の姿に戻ってしまうかもしれなかったので……このことを知らない者たちは時間停止の
父親はそこまで言うと口元を隠し、重々しく言葉を発した。
「……グレモリーの皆さん、我々はアレを吸血鬼としてもハーフとしても認識できないのですよ……。異物の存在としか、識別できないのです。アレをハーフとして扱ったことも正しかったかどうかさえ、わからないのです。そして正体もわからぬまま私たちはアレを外部に出してしまった……」
困惑の表情の父親に後ろにいたイッセーが言う。
「昔はあいつがどうだったのかわかりません。けど、今ギャスパーは悪魔です。俺の後輩です。たとえ、体が闇に塗れようとも……仲間ですから」
小猫もイッセーに続く。
「……ギャーくんは大事な友達です。初めて出来た、同い年のお友達なんです」
いつもギャスパーと一緒にいる小猫だからこその言葉だと思った。
父親が一言訊く。
「あなた方はアレの正体をご覧になられたのでしょう?」
俺たちは頷き、それを見た父親は苦笑していた。
「……やはり、リアス様の兄君とグレモリー眷属なのですな。リアス様にも同様のことを問い、同様のことを言われました」
『人間でもなく、吸血鬼でもないのなら、ギャスパーは悪魔です。何せ、私がこの手で悪魔に転生させたのですから。正体がなんであれ、あの子はグレモリー眷属の悪魔ですわ』
リアスはそう告げたという。
リアス……お前は自慢の妹だよ……。
父親は小さく笑みを作りながらこう漏らす。
「我々には理解しがたい感情ですが、なるほど。あの力を見た上でそうおっしゃられるのなら、アレはあなた方に救われたと思っていいのでしょうな」
それからもギャスパーの父親との会話は続いたのだが最終的にわかったのは、ヴラディ家はギャスパーを歓迎していないことだ。リアスとの会談もおそらくギャスパーをグレモリーに預けるためのものだろう。
つまり、ギャスパーの居場所はここじゃないということだ。
会談を終えて俺たちが地下室から出たところでメイドが会釈して報告を告げる。
「兵藤一誠様、塔城小猫様、ヴァレリー陛下がお呼びでございます」
今度はイッセーと小猫か……俺は相変わらず暇なのな。
そのまま俺たちは呼ばれた二人と別れ部屋に戻るのだった。
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