グレモリー家の次男   作:EGO

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life05 あの野郎の正体だぜ

謁見を終わらされ、俺たちはあちらが用意したという部屋に案内されていた。

さっきのやり取りから全員が機嫌を悪そうにしている。

アザゼルが言う。

「……吸血鬼とは思えない異端の男だな」

それに俺とリアスが頷く。そしてリアスが言う。

「誇りや血筋より己の欲望を満たすために動いている吸血鬼なんてそういないわ」

「だからこそやりにくい。ああいう奴ってのは種族の掟とかを全力で無視してくるからな。クーデターもそこから始まったんだろう。それに乗ったのがあの部屋にいた連中ってわけだ。マリウスは自分の欲望のために、マリウスに乗った連中は聖杯による強化、現政府への不満解消の二つができた。そこにあの黒ずくめの男だ。マリウスは政府内部へのパイプと強力な武力の両方を持っていたわけだ。そりゃクーデターも成功するわな」

リアスと俺の意見にアザゼルが続く。

「リッパーの言うとおりだがそれらの切っ掛けは"奴"なんだろう……。鎖国している国だからこそ可能な腐った貴族とテロリストどもの宴だったわけだ」

鎖国中の国のお家騒動にテロリストが関わりそれに首を突っ込んだ俺たちか………面倒だな。

廊下を進みながらイッセーが訊いてくる。

「本来のツェペシュの当主……王様は今どこにいるんですか?」

俺も知らない情報だったため俺はアザゼルとリアスの方に視線を送る。

するとリアスが頷き答える。

「瀕死の重症を負い、現在はこの領土から退避しているそうよ」

瀕死の重症か……まぁあんな化け物ボディーガードがいればそうなるよな。俺でもあんな奴がいきなり来たら何かない限り逃走を第一に考えるぞ。

「ツェペシュの王側はカーミラ以外に助けを呼んでいないんですか?」

イッセーが再び訊く。今度はアザゼルが嘆くように息を吐いてから答える。

「ああ、呼んでいないだろう。禍の団(カオス・ブリゲード)が裏で関わっている以上、他の勢力も介入しようと根強く交渉しているようだが、今のところそれは叶っていない。俺たちはあくまで"特例"で迎え入れられたわけだ」

相変わらずバカな連中だな。ここまでなったらプライドもクソもないと思うのだが。

「ところでアザゼル。ヴァレリーのあの言葉はやっぱりあれか?」

俺の質問にアザゼルは目元を厳しくしながら答える。

「ああ、彼女はあの世の亡者どもと話しちまっていた」

「……やはりか」

俺が納得して返すとイッセーがアザゼルに訊く。

「亡者って地獄の……冥府とか冥界に行った人たちの魂ですか?」

今の会話だけだとそう思うだろうが少し違うんだったな。

アザゼルが続ける。

「人間のものもあれば、それ以外の異形のものも……混在し過ぎて元が何なのか、今がどういう状態なのか、それすらもわからない存在と話していたんだよ」

「よ、よくわからないんですけど……」

「そのよくわからないものと話していたと思えばいい。……聖杯を酷使したせいで相当な精神汚染が進んでいるな」

精神汚染か。表情と言動からして

「ヤバイってのは見ればわかるがな」

「私もすぐにわかったわ。ヴァレリー・ツェペシュは心、感情を曖昧なものにしている、と」

俺とリアスが言う。

「……ヴァレリーにいったい何が……」

ギャスパーも表情を曇らせていた。一番ショックを受けているのはギャスパーだろう。ヴァレリーを見たときからずっと泣きそうな顔をしていた。

泣くのを我慢出来るようになったあたり成長したんだな。会ったばかりの頃だったら泣いていただろう。

アザゼルが言う。

「……聖杯だ。生命の理に触れ、命とは、魂とはどういうものか、神器(セイクリッド・ギア)を使えばそれだけその"作り"を強制的に知ることになる。命の情報量ってのは果てしなく膨大だ。聖杯を使うたびにその情報を取り込んでしまうのさ。自身の心に、魂にな。……無数の他者の意識が流れ込み、浸食してきてみろ。……壊れて当然だ」

魂の浸食ってのはイッセーが覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使った時に聞こえた前任者の残留思念みたいなもんかな。その前任者の残留思念が力を暴走させて現所有者の命を削る的なことを前に聞いたぞ。

ヴァレリーはそれよりも強烈なものに強制的に何度も触れさせられてしまっているというわけか。

「アザゼル…今彼女は……」

「普通の状態じゃない。亡者が話しかけてくるのもその特性の一端だ。奴らと楽しげに話してしまっている時点で精神汚染は致命的な領域に突入している。マリウスはヴァレリーに相当無茶をさせたな。邪龍の復活なんて大規模で大胆かつ乱用も極まりない」

致命的な領域か……グレンデルとかを復活させるためにマリウスはヴァレリーに相当な無茶をさせたんだな。それで心が……。

「それで……助ける方法は?」

今回はそのヴァレリーを助けるためにここまで来たんだ。訊いておかなくてはいざというときに何も出来ない。

俺の質問にアザゼルは顎に手をやり思慮している様子だった。

「そうだな………まずは聖杯の活動自体を…………」

アザゼルはそこまで言うと口をつぐんだ。

前から歩いてくる誰かに気づいたからのようだ。

銀髪の年齢は四十代ほどの男性だ。そして兄さんと色だけが違う魔王の衣装をしていた。

「おはよ?こいつぁ、奇遇だな♪」

そいつもこちらに気づいて無邪気な笑みを浮かべながら話しかけてきた。

「………やっぱり、テメェなのか!」

アザゼルはそいつを睨みつけていたが、俺はそいつを見た瞬間に体に衝撃が走った!だってあいつは!

「んほほ!おっ久しぶり♪アザゼルのおっちゃん、それに紅髪の斬り裂き魔(クリムゾン・リッパー)ことシドウちゃん!二人とも戦争以来かな?」

俺は軽く固まっていたがリアスの一言で復活する。

「……兄様、誰なのですか?」

そうか、リアスは知らないんだったな。

「……リゼヴィムって言えばわかるな。いやグレモリーであれば知っていて当然のはずだ」

「ッ!!……ウソ………でしょ」

リアスはそれを聞いて声を震わせるほど驚いていた。俺とリアス、アザゼル以外は疑問符を浮かべている状態だ。

そこでアザゼルが紹介を始める。

「……こいつのクソッたれな顔は忘れられねぇよ。なぁ、リリン、いや、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー!」

『ッ!?』

全員が驚きリゼヴィムに視線を送っていた。

それに気づいてリゼヴィムは笑顔を崩さずに言う。

「そんな見つめないでよぉ、老けちゃうぞ♪」

リゼヴィムの言葉を気にせずにイッセーが訊いてくる。

「ル、ルシファーってまさか!」

「そのまさかだよ。正真正銘の前ルシファー様と俺たち悪魔にとって始まりの母たる"リリス"の間に生まれ、聖書にも刻まれた者……」

「……そしてヴァーリの実の祖父だ」

『ッ!?』

俺の言葉とそれに続いたアザゼルの言葉に再び全員が驚きの表情になる。まぁヴァーリの祖父がいきなり現れたら驚くよな。

改めて見ると何となく面影があるな。

俺がそう考えているとアザゼルが続ける。

「こいつが今の禍の団(カオス・ブリゲード)の首領だ。俺がここまでに言っていた"あの野郎"ってのがやつだ。」

『ッ!?』

アザゼルの一言が本日何度目かの驚愕が全員を襲った。

当たり前と言えばそうなのだがな、こいつがユーグリットが言っていた新たなボスってことか。

問題はこいつが憎悪で動いているかどうかなのだが……

「兄さんとアジュカ様に並ぶ悪魔……超越者の一人」

超越者ってのはかつての戦争で他の悪魔とは次元が違う強さの者の呼び名だ。その超越者が当時の兄さん、サーゼクス・グレモリーとアジュカ・アスタロト様、そして目の前の男、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーの三名だ。

アザゼルが忌々しそうに言う。

「こいつが姿をくらましてから、サーゼクスとアジュカが悪魔を引っ張ってきた。ま、こいつは前魔王一派の中心の一角だった。平和、種の存続を願うサーゼクスどもとは話が合う道理はねぇよ」

「悪魔の内戦中に姿を消した男が何故今頃になって……何をするつもりだ?」

俺の問いかけにリゼヴィムは愉快そうに笑った。

「うひゃひゃひゃ、ま、やりたいことができたから帰って来たっつーわけよ。元気にしてた?昔の君はもっとこう……イカれてた感じで好きだったのに」

イカれてたってところは血をかぶって笑ったせいなので否定しにくいがいちいちムカつく野郎だ。

「とにかくお兄ちゃんは元気かな?」

「………兄さんに何か用か?」

「ないわけじゃねーな。同じルシファー名乗ってんだしぃ。でも、どうでもいいっちゃーどうでもいいんだけどね。そのうち会うだろうからよろしく言っといてよ♪」

「「………ッ!」」

今の言葉で俺とリアスは眉間にシワを寄せた。

「ま、シャルバくんや他の前魔王の血族みたいに怨恨とかで動いているわけじゃねぇさ。悪魔の政治なんざ、サーゼクスくんたちで十分だろうし?俺は俺で別のやりたいことを、この組織を使って実行したいだけなんだよ?」

アザゼルはこめかみに血管を浮き出させながら憎々しげに言う。

「ここでおまえをぶん殴ってそれを邪魔をするってのもアリなんだが……ここは中立の国だからな。勝手に手を出すわけにはいかないか。どうせ表面上正体を偽ってVIP扱いを受けているんだろう?」

アザゼルの問いにリゼヴィムはいっそう不快な笑いを発す。

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。そうそう、その通り。俺はマリウスくんの研究と革命の出資者でね。今の暫定政権にとっては国賓扱いなのですよ。ここでやってもいいよ?もちろん負けるつもりもねぇけど?」

リゼヴィムの言葉を受けたからなのか、リゼヴィムの背後から黒いドレスを着た小さな女の子が現れた。

いつからリゼヴィムの後ろにいたんだ?

俺がそんな疑問を考えていると一つ気がついたことがある。

この少女はオーフィスに似ている。

俺がそれに気がついた瞬間、リゼヴィムが話始める。

「奪ったオーフィスの力を使って生み出した我が組織のマスコットガール……リリスちゃんだ。よろしくね~♪俺のママンの名前をつけてみたのよ。いいでしょー」

やはりそうか、あの少女が奪われたオーフィスの力……まさかあんな姿になっているとは。

「…………」

無言で無表情、見ているこっちが困るタイプの女の子だな。

「この子、ちっこいけど、腐ってもオーフィスちゃんなんでめっちゃ強いよ?僕ちゃんの専属ボディーガードでもあるの~。ユーグリットが留守の時はこの子が守ってくれます!おじさん、感激!」

少女から感じる圧倒的なプレッシャー。さっきの黒ずくめの男同様、戦いたくないタイプのプレッシャーだ。

この城……色々集まりすぎだろ。

「んじゃ、俺はマリウスくんに話があるのでこの辺で失礼させてもらうよ?ここでは平和に過ごしましょうね~。ここはヴァンパイアくんのお家なのですよ~」

リゼヴィムはそう言いながら俺たちの横を通り過ぎていく。

その中でアザゼルが言う。

「リゼヴィム、ヴァーリがおまえを狙っているぞ」

「そういやー、俺っちの孫息子くんをグリゴリが育ててくれたんだったな」

リゼヴィムが振り返り、アザゼルに訊く。

「強くなったん?まぁ、あいつの父親よりは強かったけどさ」

「いずれ、お前の首も取れるさ」

それを聞いてもリゼヴィムは笑みを崩さずむしろ余計に楽しそうな表情になっていた。

「わーお、おじいちゃんとしてはむせび泣きそうだわ」

そう言うと今度はイッセーに視線を移す。

「グレートレッドとオーフィスの力を有する唯一の存在……。ねぇ、うち来ない?」

「行くわけねぇだろ!」

リゼヴィムの言葉に即答で返すイッセー。それでもリゼヴィムは笑みを崩さない。

「あらら、そりゃ残念♪カーミラと結託してクーデター返しをするならいつでもいいぜぇ♪期待してっから」

最後までふざけた口調のリゼヴィム。

と、盛大な破砕音が廊下に響き渡る。

アザゼルが壁を拳で破壊していた。

「…………ヴァーリ、おまえの気持ちが理解できてしょうがないよ」

そんなことがあったが俺たちは用意された部屋に移動し、地下室にいるというギャスパーの父親に会いに行くことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




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