グレモリー家の次男   作:EGO

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life04 謁見するぜ

重々しい音を響かせながら、扉が開かれた。

アザゼルが最初に入り、少し遅れて俺が、そのあとにリアスたちの順番で入室する。

広い室内。下に敷かれた絨毯は真っ赤で、扉のレリーフと同じ模様が金色に輝いていた。

絨毯の先……一段高いところに玉座が置かれていた。

その玉座に座っているのは若い女性。その玉座から少し離れた位置に見た目は若い男性も列席している。男性の方はまったく生気を感じない。つまりは純血の吸血鬼というわけだ。

この広い室内には今確認した二人以外にも兵士数名と中性の貴族を思わせる服を着た者も数名、つまり部屋の大きさに比べいる人数が少ない。

こういうときは色んなやつが集まって囲んで色々小言で言ってくると思ったんだがな。ここまで少ないと静かでいいわ。

と言ってもここにいるのはクーデターに参加して立場が約束された連中だろうがな。

禍の団(カオス・ブリゲード)の連中が協力したんだろうな。他の勢力と距離をおく吸血鬼の根城だからこそ出来たことなんだろう。

俺はそこまで考えると玉座の目の前についたので姿勢を正す。

玉座に座っているのは砂色の色合いが強いブロンドを一本に束ねた女性。シンプルなデザインのドレスに身を包み、やさしそうな微笑みを浮かべていた。

年はリアスと同じか少し上のように見える。彼女からは血の通った美しさを感じた。彼女がハーフだからこそなのだろう。いつもならここで終わっているのだが今回だけは少し切なくなった。

彼女の赤い瞳は虚ろで輝きを失っていたからだ。

ただそれだけのことなのに彼女から感じる儚さがそうさせたのだと思う。

そんな彼女が挨拶をくれる。

「ごきげんよう、皆様。私はヴァレリー・ツェペシュと申します」

ヴァレリーはそう言いながら微笑むが先程感じた儚さをより強くさせるだけだ。

「あ、えーと、一応ツェペシュの現当主……王様をすることになりました。以後お見知りおきを」

声音はとても軽やかなものだ。だが視線は朧気で俺たちの誰にも正確に捉えていない。ただ一人だけ、見知ったそのヒトにだけ視線を定めた。

「ギャスパー、大きくなったわね」

ギャスパーに話しかけるが当のギャスパーは悲壮な表情を浮かべていたが、無理矢理笑顔を作りヴァレリーに返す。

「ヴァレリー……。会いたかったよ」

「私もよ。とても会いたかったわ。もう少し近くに寄ってちょうだい」

ギャスパーはそう言われてヴァレリに近づいていく。それを兵士も側近も止めようとしなかった。

ヴァレリーはギャスパーを抱き寄せると一言漏らす。

「……元気そうで良かった」

「うん。悪魔になっちゃったけど……僕は元気だよ」

「ええ、そのことは聞いてるわ。あちらでは大変お世話になったそうね」

「うん。友達や先輩もできたんだ。もう一人じゃないよ」

ギャスパーの視線がイッセーたちの方に向けられる。ヴァレリーもイッセーたちを見て微笑んだ。

「まぁ……ギャスパーのお友達なのですね。……あら」

ヴァレリーは突然誰もいない方向を見る。

「-------。------」

すると聞いたこともない言語で誰かに話しかけていた。

悪魔の能力の一つである言語翻訳が機能しない………つまりどこの言葉でもない何かを彼女は話しているということだ。アザゼルが聖杯関係のことでそんなことを言っていたな。

俺がそんなことを考えていると突然ヴァレリーが顔を輝かせた。

「そう、そうよね。私もそう思うわ。え?………けれど、それはまだ………-------。------本当?そうよねぇ………-----」

誰もいない空間と話続けるヴァレリーにギャスパーは戸惑いの表情となっていた。

アザゼルが呟く。

「……お前たち、あれを真っ正面から捉えるな。聖杯に引っ張られる。教会出身のやつは視線を外しておけ」

それを即理解したアーシア、ゼノヴィア、イリナは視線を床に移していた。

俺がアザゼルに確認をとる。

「あれが例の副作用とか言うやつか?」

「そういうことだ。詳しくは後で説明する」

パンパンと手を鳴らされた。音の発生源はヴァレリーの近くにいた見た目は若い男性吸血鬼だ。

「ヴァレリーその方々とばかり話していては失礼ですよ?きちんと王として振る舞わなければなりません」

「そうでした」

ヴァレリーは笑顔で相づちを打ち続ける。

「うふふ、ごめんなさい、皆さん。でも、私が女王様である以上、平和な吸血鬼の社会が作れそうなの。楽しむよね。ギャスパーもここに住めるわ。誰もあなたや私を虐めることなんてしないもの」

今の発言はどう考えても本心からではなく、いいように騙されているとわかるものだった。

彼女は心も神器(セイクリッド・ギア)もクーデターに利用されたんだろう。

「………ヴァレリー……」

ギャスパーは彼女を見てただただ涙を流していた。

アザゼルが若い男性吸血鬼を睨んだ。

「よくもまぁここまで仕組んだものだ。それを俺たち堂々と見せるたぁ趣味が悪すぎだ。お前さん、この娘を使って何がしたい?見たところ今回の首謀者はお前さんなんだろう?」

それを聞いた男性吸血鬼は醜悪な笑みを浮かべた。

「首謀者といえば、そうなのでしょうね。おっとご挨拶がまだでした。私はツェペシュ王家、王位継承第五位マリウス・ツェペシュと申します。暫定政府の宰相兼神器(セイクリッド・ギア)研究最高顧問を任されております。どちらかというと後者のほうが本職なのですが……叔父上に頼まれましてね。一時的に宰相となっております。いちおう、ヴァレリーの兄でして、ツェペシュの将来を憂いたかわいい妹が王としてどう吸血鬼の世界を変えていくのか、そばで見守りたいのですよ」

こいつがヴァレリー・ツェペシュの兄ねぇ……今の発言は間違いなく嘘だろうから、本心は……本当の目的は何だ?やっぱり弱点のない完璧な生物になりたいのか?

「……こっちがカーミラ側と接触しているのは知ってるな?ここまで招き入れてよかったのか?」

俺の質問にマリウスは肩をすくめてから答える。

「新政府は相手が誰であろうと友好的に交渉をしていくというスローガンを………。半分冗談ですが。正直な話、私は政治など、興味はあまりありません。それはクーデターに乗った私の同士に任せるだけですので。ただ、今回はヴァレリー女王があなた方に会いたいとおっしゃったものですし、私もあなた方に興味があったのですよ。何せ協力者からよくお噂を伺っているものですから」

そこまで聞くと次はアザゼルが質問をする。

「それはこの際置いておく。主犯のお前さんに訊こう。なぜクーデターを起こした?あの野郎の立案か?」

核心に迫ろうとするアザゼルの発言に吸血鬼たちがどよめくが、マリウスだけは平然として答えた。

「私は聖杯が好き勝手できる環境を整えているだけです。ヴァレリーの聖杯は興味の尽きない代物でして、色々試させているのですよ。本当にそれだけでしてね。なので邪魔者には退陣してもらいました。あの野郎とは、あの方を指しているのでしょうが……今回の行動は我々が起こしたことです」

…………こんな野郎のために国の内部が滅茶苦茶になってるのか。

ヴァレリーはそれを聞いても笑顔を崩さなかった。彼女の心まで操ってんのかよ!

今の発言で貴族と思われる吸血鬼たちもざわついた。

「マリウス殿下、それは今ここで話すべきことではありませぬぞ!」

「こ、ここは仮にも謁見の間です!ざ、暫定の宰相といえど、それ以上のことは謹んでいただきたい!」

「相手はグリゴリの元総督と魔王の眷属、グレモリー家の次期当主なのですから、今の発言を総意と取られてしまうと我々の立場がありませぬ!」

回りの連中が慌ててたしなめようとしているが当のマリウスは

「これは失敬。早く宰相の任を解いてもらいたいぐらいです」

と言って苦笑いをすると共に皮肉を言っていた。

そんな態度の男一人に誰も強く言っていかない……この状況を見るにやはり主犯はあいつか。

イッセーたちも嫌悪の感情をマリウスに向けていた。

「……ヴァレリー・ツェペシュは解放できないというのね?」

リアスがそう訊くが、マリウスは

「当然です」

と返すだけだった。

「話し合いは無駄だよ、リアス部長」

今まで見たことのない程冷たい表情のゼノヴィアがデュランダルを取り出そうとしていた。

「ゼノヴィアやめろ。相手は"仮にも"宰相だ」

俺が止めようと発言すると共に若干の皮肉を挟んでおく。

マリウスはそんな俺たちを見て平然と笑みを浮かべるだけだった。「怖いですね。では、ボディーガードをご紹介到しましょうか。私が強気になれる要因のひとつをね」

マリウスはそう言うと指を鳴らす。その瞬間俺たちを悪寒が襲った!

………ッ!?

巨大な何かに、それこそ二天龍との戦いで感じたような圧倒的なまでのプレッシャーが放たれたのだ。

俺たち全員がそのプレッシャーを放つ存在に視線を向ける。

そこには黒いコートを着た長身の男性が一人、柱に背を預けていた。

金と黒が入り乱れた髪、右目は金で、左目が黒のオッドアイが特徴の男性だ。

その男は俺たちを一瞥したあと視線を床に落とした。

その瞬間、俺たちを襲ったプレッシャーを感じなくなる。

「明らかに一人だけ次元が違うな。感じて的には吸血鬼じゃないな、ドラゴンか何かだろあれ……」

俺の言葉に返すやつはいない。それほどまでに今のプレッシャーが強烈だったのだ。

俺たちが何も言うことが出来ないなかマリウスが再度パンパンと手を鳴らした。

「今日はここまでにしましょうか。お部屋をご用意しています。皆様もしばしご滞在ください。それとヴラディ家の当主様もこの城の地下室に滞在しておりますのでお会いになるとよろしいでしょう」

謁見はその言葉と共に終わりを迎え、俺たちは退室を余儀なくされた。

マリウス・ツェペシュ……あいつが今回の首謀者でヤバイ奴ってのはわかったぜ。

黒ずくめの男を視線に捉えつつ俺たちは退室を済ませるのだった。

 

 

 

 

 

 




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