あれから車で二時間ほど移動し、今度はカーミラ側が用意してくれていたゴンドラでツェペシュ側に移動する。
そのゴンドラの中で最初はイリナとゼノヴィアが低レベルの口喧嘩をしていたがイッセーの一言で話題が変わった。
「シドウさん、シトリー出資の学校が建てられるって知ってました?」
「イッセー……逆に知らないと思うか?」
「それもそうですね……」
「そういえばロスヴァイセ。確か教師にならないかってオファーされてたろ。どうすんだ?」
「まだ考え中です。断る理由もなかったものですから。教員になって、ヒトにものを教えることが楽しいと思えているのも事実ですからね。今度、その学校が建ったら見学に行こうと思っています。そのためにも今回は穏便に済めばいいのですが」
俺も見学に行きたいけど今はなかなか面倒な立場だからな。行けるかは微妙なところだな。
「皆で無事に帰還できたら、今度その学校を見に行きましょうか」
イッセーがそう言うとロスヴァイセも笑顔で頷いていた。
こういう話題にすぐさま反応して来そうなアザゼルは
「なるほど、では冥府は……」
『まぁクソ親父とハーデスさまの考えてることなんざ……』
「……で、ルガールのほうもそちらの業界はどうなんだ?」
「今回の騒ぎは静観を決め込んだようだ」
「そうか。確かにお前さんの……」
話題はだいたいわかるが今入っていくと話が詰まりそうだからやめておこう。
その後もゴンドラ内で各々がリラックスを心掛けた。
もうすぐ到着というときにアザゼルが話しかけてくる。
「リッパー、いいか」
「何だ?」
「向こうに到着したらルガールとベンニーアには別行動をさせる」
アザゼルはそう言うとイッセーに目を向けた。
「わかった。イッセーには俺からそれとなく言っとく」
「ああ、頼んだ」
正直言うと別行動させるのは心配だがここは二人を信じるとしよう。
そんな話をしながらゴンドラに揺られること三十分程。
ついにツェペシュ側のゴンドラ乗り場に到着した。
到着早々俺たちの前に吸血鬼が数名現れた。俺たちを確認すると訊いてくる。
「アザゼル元総督とシドウ・グレモリー様、そしてグレモリー眷属の皆様ですね?我らはツェペシュ派の者です」
俺たちは無言で頷く。それを確認した吸血鬼は紳士的に招き入れる姿勢で述べた。
「こちらへどうぞ。リアス・グレモリー様はツェペシュ本城でお待ちです」
クーデター後なのに随分あっさり通してくれるんだな。
にしてもリアスたちはツェペシュ本城にいるのか……ヴラディ家から移されたんだろうな。
俺がそんなことを考えていると早速移動し始める。
ゴンドラ乗り場を出るとそこには豪華な装飾が施された馬車が止まっていた。これで城まで直行ってわけか。
するとイッセーがキョロキョロし始めた。
俺はすぐさまイッセーに近づいて小声で話す。
「ルガールとベンニーアは別行動だ。いざってときの脱出ルートの確保に行って貰ってる」
イッセーはそれを聞くと驚きながらも無言で小さく頷いた。
まぁ音もなく仲間二人が消えてたらキョロキョロするよな。
その事に吸血鬼たちも気が付いたようで戸惑いの声が上がり、上に報告していたが俺たちの方が優先されたようで渋々馬車に乗るように促してきた。
俺たちも頷き合い、馬車に乗り込んでいく。
ようやく目的地か。遠かったな……とりあえずリアスたちは無事だろうか?ルガールたちのことも心配だ。
俺はそんなことを考えながら馬車に揺られるのだった。
城までの道中窓から町の様子を見ていたが、クーデターがあったとは思えないほど静かで住民たちの様子も普通だった。
アザゼルが言う。
「おそらく、住民に知られないよう最低限の行動でクーデターを成功させたんだろう。となるとだ。謀反を起こした連中は内政の深くまで話をつけていたと見える。聖杯を餌にしたんだろうな」
住民に知られないようにクーデターを起こし、成功させたのか………。今回の戦いは今までとは違う意味で面倒そうだな。
俺がそんなことを考えているうちに馬車は町を抜けて城に入ろうとしていた。
巨大な正門の壁が上に上がり、馬車が入城を果たす。
城の大きさはグレモリーのものと同じぐらいにでかい。石造りの古めかしい感じであり、独特のオーラを城全体から醸し出していた。
馬車の降り口で下車し、俺たちは城の中を進んでいく。
そして明らかに玉座に続くという感じの両開きと思われる扉だ。そしてこういう扉のお約束のように見事なレリーフが刻まれている。
「ここでしばしお待ち下さい」
案内をしてくれた執事が告げる。
それから数分ほど扉の前で待つ俺たちの耳に懐かしく感じる声が聞こえてきた。
「イッセー!皆!」
その声に反応して全員がその声の主の方を見るとそこにはメイドに付き添われたリアスとその後方に木場がいた。
誰よりも先にイッセーが近づきいていった。
「リアス!無事でしたか?」
イッセーの質問にリアスは笑顔で頷いていた。
とりあえず何もなくてよかった……。
「なんとかね。……クーデターのことは察知したようね。アザゼル」
アザゼルは頷き、そして訊く。
「何か起こるだろうなと思ってこいつらを召喚して、ここまで連れてきた。文句はないだろ?」
「そうね。私もどうにかして呼ぼうと思っていたから。ただ、この城に軟禁されていて、動けない状況だったのよ。けど、王にお招きいただいた割に今の今まで謁見はなかったわ。そうこうしているうちに先程"お客様が来たからついてきてほしい"と言われて……ここに来たというわけ」
クーデター中もリアスたちに何かあったってわけか。
俺は木場に確認する。
「木場、何事もなかったみたいだな」
「はい。拍子抜けするほどでした。僕にも部長にも火の粉はかかりませんでしたよ。こちらに手を出すほど暇ではなかったのかもしれません。今までは、ですが」
木場はそう言うと扉の方を見る。
客分全員とまとめて謁見する気なのね。
扉の両脇にいた兵士が俺たちを確認すると言う。
「では、新たな王への謁見を……」
そう言うと彼らは扉を開けていく。重々しい音を響かせながら、扉が開かれた。
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