「カーミラ側の和平協議について、か……」
『ッ!?』
俺の言葉に全員が驚いていたがこれはつまり……
「今日のこれは外交つまりあなた方は特使としてここに来たということですね」
俺の確認にエルメンヒルデは答える。
「はい、我らが女王カーミラ様は堕天使の総督様や教会の方々と長年にわたる争いの歴史を憂いて、休戦を提示したいと申しておりました」
むこうは冷静に言ってくるが横にいるアザゼルは額に青筋立てている。俺は何とか抑えるようにしているがそろそろ無理かも……
そんなアザゼルが言う。
「順番が逆だ、お嬢さん。普通は書面が先で話は後だろうが。これじゃまるで力を貸さなければ、和平に応じないと言っているようなもんだ」
「色々な勢力と和平を結んできた俺たちがこれに応じないと他の勢力への説得力が薄くなる。"相手を選んでやっているのか"、なんて思われても仕方ない。しかも停戦ではなく、休戦だからな。こっちの弱味をわかっていらっしゃる」
アザゼルに続いて俺も言った。
吸血鬼がここまで嫌な連中とは思わなかったよ!
これに応じないとリアスの今後や兄さん、セラの信用にまで影響が出ちまう!
リアスが怒りに打ち震えているがソーナが手を握りなだめていた。
エルメンヒルデは俺たちの様子を嬉しそうに見ていた。
「ご安心下さい。吸血鬼の問題は吸血鬼で解決いたしますわ。ギャスパー・ヴラディを貸していただければ、あとは何もいりませんわ。和平のテーブルにつくお約束とヴラディ家への橋渡しを私どもが行いましょう」
それを聞いてたまらずイッセーが口を開く。
「待てよ。仮に……』
「仮にギャスパーを貸したとして返してくれる保証は?戦力が足りていないなら俺たちが動くことも考えるが?仲介や加勢程度ならいけるぞ」
イッセーが何かを言おうとした瞬間に俺が割って入る。今イッセーに喋らせるわけにはいかない。余計に向こうのペースになっちまうかもしれない。
俺の発言にエルメンヒルデは首を横に振った。
「あくまで我々の決着は我々の手で行います。アドバイザーぐらいでしたら、いかようにも」
いちいちムカつく野郎だな……だが今の発言、逆に言えばアドバイザーとしてなら行けるかもってことだな?
最後にエルメンヒルデは俺たちを見渡してから立ち上がる。
「以上ですわ。今夜はお目通り出来て幸いでした。何よりも根城に招き入れて下さり感謝いたしますわ。リアス・グレモリー様」
エルメンヒルデのわざとらしい微笑にリアスは瞳に怒りをたぎらせていた。
「今日は貴重な会談が出来てよかったわ。あなたたちのことがよくわかったものね」
「それではごきげんよう。この地に従者を置いていきます。何かありましたらその者に………では、よいご報告をお待ちしております」
リアスの嫌味をものともせずに彼女たちは旧校舎を後にしたのだった。
それから十分程が経った頃。
ゼノヴィアがテーブルを叩いた。
「相変わらず、吸血鬼は好きになれない……」
ゼノヴィアの奴はよく我慢したよ。会談中敵意を出しまくってたからな。
グリゼルダが言う。
「昔のあなたなら斬りかかっていたところですね。よく我慢しました。成長しましたね」
グリゼルダに褒められてゼノヴィアは頬を赤く染めていた。
ホントに今後も吸血鬼は好きになれないかもな。ギャスパーは色々あるけどいい奴だし。
そんな中でソーナがリアスに言う。
「どうするのですか?協定を無視するわけにはいかないでしょう。ギャスパーくんを送り出すことになったら,最悪彼を失うかもしれません」
それを聞いたギャスパーは複雑極まりない顔をしていた。
それもそうだろう。彼一人で吸血鬼の半分が休戦協定のテーブルにつくのだ。
拒否したいが出来ない。一番嫌な状況だ。
そんな中、ギャスパーか震える口調で吐き出した。
「ぼ、僕、行きます」
……気弱なこいつがここまで決意に満ちた瞳を出来るとはな。
「吸血鬼の世界に戻る気はありませんし、ここが僕にとってのホームです。で、でも、ヴァレリーを助けたい!彼女のおかげで皆さんに会えて幸せになれました。それなのに彼女だけ辛い目に遭っていると思うと……きっと理不尽な扱いを受けていると思うんです!」
そのままギャスパーはリアスに告げる。
「僕、ヴァレリーを助けたいです!そして絶対に死にません!ヴァレリーを救ってここに戻ってきます!」
ギャスパー………ここまで男だとは思わなかったよ。格好は女だが、やっぱりイッセーの後輩だな。
ギャスパーの決意を聞いてリアスも立ち上がる。
「行くわ。私、今度こそヴラディ家とテーブルを囲むつもりよ。まずは私が行ってあちらの現状を確認してくるわ。ギャスパーの派遣はそれからでも遅くはないと思うの」
リアスの瞳にも決意の色が見えた。
自分の眷属にあそこまで言われたらそうなるよな。逆にならない方がおかしいと思うぜ。
「行くにしてもメンバーは最小限でだな。下手に向こうを刺激しかねないってことと、最悪の事態に備えての増援として待機も必要だ」
「ええ、兄様。祐斗を連れていくつもりです。いいわね、祐斗?」
「はい、お任せください」
木場と一緒なら安心だな。
それを聞いてアザゼルが言う。
「俺も行こう。俺はカーミラに会ってくる。んでもって何人かは向こうでも動けるように話をつける。土産も持って行くつもりだ。リアスはヴラディ家に直接行ったほうがいい。リアスがカーミラ側に顔を出したら、警戒が強くなるだろうからな」
流石はアザゼルだ。ただでは転ばないな。
こっち側の何人かが動ければギャスパーの危険回避とともにヴァレリーとかいう子も助けられる確率が上がる。
「妥当だな。天界関係者だと警戒されて話をさせてもらえないだろうし、アザゼルなら
「そういうわけだ。イリナ、シスター・グリゼルダ、このことはミカエルに伝えておいてくれ」
グリゼルダは頷く。
「わかりました。こちらもジョーカーを切るつもりだとミカエル様もおっしゃっておりますし、最悪の結果だけは避けたいものです」
今の言葉に俺とアザゼルは軽く驚いた。
「そんな簡単に切っていいのか?いやまぁ、今回は相手が相手だ」
「ああ、聖杯と吸血鬼。多分ろくでもないことになる。俺は最低限の犠牲で済むようにしたいんだがな」
「そうならないために暇人ジョーカーは存分に使えとのご意志です」
「ジョーカーは相変わらずおいしいもの巡りしてんのか」
「…………はい」
俺の質問にグリゼルダが答えてくれたが、そうか相変わらずなのか。
「アザゼル、一応言っておくが俺は残っておくぞ。念のためな」
「ああ、頼む。何かあれば連絡する」
そんなわけで、リアスと木場、アザゼルが吸血鬼のもとに、あとはこの町で待機ってわけだ。向こうで何かあれば合流すると。
何もなければいいが、こういう場合は何か起こるからな。
犠牲なしで解決出来ればいいんだが……
ま、俺たちが出来るのは降りかかる火の粉を払うだけだがな。
そんなわけで吸血鬼との会談は終了したのだった。
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