「吸血鬼の世界に何が起きた?」
アザゼルの問いにエルメンヒルデが答える。
「我々吸血鬼の世界でとある出来事が根底の価値観を崩すほどのものになってきているのです。ご存じかもしれませんけれど、
そういえばそんな事言われててたような……
とにかくそれが絡んで来るってことは、絶対に面倒事だな。
アザゼルが訊く。
「それでツェペシュ側の
「………
エルメンヒルデの答えにアザゼルは目元を厳しくしてい
それもそうだろう。その
「よりにもよって、
アザゼルが続ける。
「聖杯ってのは伝説が多い。だがその
「絶対に死なない身体。吸血鬼の持つ弱点を無くした"決して滅びない体"をツェペシュの者たちは得ているのです。いえ、正確には"滅びにくい体"でしょうか。聖杯の力はまだ不完全のようですから」
だったらまだいいか。まだ滅ぼせるつまり殺せるなら……
俺がそんな事を考えているとエルメンヒルデは続ける。
「何も弱点のない存在になろうとしているのです。誇りを捨てるだけならまだしも、あの者たちはこちら側を襲撃してきたのです。これらの行為を許すつもりはございません。同じ吸血鬼として粛清するつもりです」
エルメンヒルデの瞳は憎悪の色を強く帯びていた。
つまり
「カーミラ側の吸血鬼としての生き方を否定して、襲ってきたツェペシュ側のやり方が気に入らないってことですね。まぁ、お気持ちはわかりますが」
俺が言うとエルメンヒルデは頷く。
「はい、その通りです。そして私たちの目的は……」
エルメンヒルデはギャスパーに視線を向ける。
「そちらにいらっしゃるギャスパー・ヴラディの力を借りて、ツェペシュの暴挙を食い止めることです」
つまりギャスパーを抗争に使うから貸せと……
リアスは冷静に訊く。
「それは、ギャスパーがヴラディ家の……ツェペシュ側の吸血鬼であることに関係あるのかしら?」
いつも通りに言っているように感じるが、リアスは内心少しずつキレ始めてるな。
グレモリー家でも特に情愛の深いリアスの事だ。自分の眷属を突然貸せ。なんて言われたらキレるよな。
それでも怒りを抑えてあちらの真意を聞き出そうとしている。
リアス、見ないうちに成長したもんだなぁ。
リアスの問いにエルメンヒルデは意味深な笑みを見せた。
「それもあります、リアス・グレモリー様。けれど私どもが欲しているのは、ギャスパー・ヴラディの力です。眠っていた力が目覚めたと小耳に挟んだものですから」
こいつら、ここどこで知ったんだ?俺やイッセーは見たことがない、上位
エルメンヒルデは続ける。
「私どもは吸血鬼の争いを吸血鬼の力で解決しようと思っていますわ。そのためにギャスパー・ヴラディのお力をお借りしたいのです」
出来れば吸血鬼の問題には首を突っ込みたくないが、ここまで来たら無理かもな。
下手したらツェペシュ側からもギャスパーを貸せ。いや"返せ"と言ってくるかもしれない。
うん。これは首を突っ込むことになるな。
リアスは改めてエルメンヒルデに訊く。
「あの力は何?あなたたちはそれを知っているの?」
俺たち的にはそれが一番大事な事だったんだけどな。
今はそれどころじゃなくなり始めてるが……
「ごく稀に本来吸血鬼が持つ異能から逸脱した能力を有する者が生まれてくることがあります。今世においてはハーフの者に多く見られております。ギャスパー・ヴラディもその一人かと。くわしい資料は有しておりません。しかし、ツェペシュ側には手がかりがあるかもしれませんわ」
吸血鬼的にもギャスパーの力はよくわからんと。今しれっと、詳しく知りたければヴラディ家に行け、って言われてたよな。
エルメンヒルデは続ける。
「問題の聖杯について。所有者はもちろん忌み子、ハーフではありますが、名はヴァレリー・ツェペシュ。ツェペシュ家そのものから生まれたのです」
その名前を聞いてギャスパーは泣きそうな顔になっていた。
「ヴァレリーが?う、嘘です!ヴァレリーは僕みたいに
あの臆病なギャスパーがここまで熱くなるとは……ヴァレリー・ツェペシュか。ギャスパーにとって大事なヒトなのか?
エルメンヒルデは答える。
「何かの切っ掛けで力が発現する。これはあなたもご存じでしょう?ヴァレリー……彼女も近年覚醒したものと思われます」
イッセーも今年になって目覚めたらしいな。そういうのには個人差があるらしい。前にアザゼルに聞いた通りならそのはずだ。
アザゼルは腕を組みながら話始める。
「俺たちや天界が観測する前に隠蔽されたと思っていいだろうな。どうしようもないな。聖なる力を嫌う吸血鬼が
「私もそう思います」
アザゼルの言葉にエルメンヒルデも応じた。
エルメンヒルデは再びギャスパーに視線を向ける。ギャスパーは今度はしっかり視線を交わしていた。
「ギャスパー・ヴラディ、あなたは自分を追放したヴラディ家に……ツェペシュに恨みはないのかしら?今のあなたの力ならそれが可能ではないかと思うのだけれど」
「ぼ、僕はここにいられるだけで十分です。部長たちと一緒にいられれば………」
「………雑種」
ギャスパーの言葉を遮るようにエルメンヒルデは言った。それを聞いたギャスパーは徐々に表情が曇り始めた。それを確認したエルメンヒルデは続ける。
「混じりもの、忌み子、もどき、あなたがいかように呼ばれていたのかしら?感情を共有できたのはツェペシュ家のハーフ、ヴァレリーだけ、でしたわね?ツェペシュ側のハーフが一時的に集められて幽閉される城の中で助け合って生きていたと聞いておりますわ。ヴァレリーを止めたいとは思いませんか?」
言わせておけばこいつら!ギャスパーの傷ををえぐり返しやがって!
俺のイライラが溜まりまくっているなかで、黙していたグリゼルダが口を開く。
「あなた方はハーフの子たちを忌み嫌いますけれど、もともと人間に子を宿らせたのは吸血鬼の勝手な振る舞いでしょう?悔しい思いをしながらも憂いに対処してきたのは、我々教会です。出来れば、趣味で人間と交わらないでもらいたいものです」
やわらかい物腰ながらも言葉には毒たっぷりだ!
流石クイーン・オブ・ハート!俺が言えないようなことを平然と言ってのける!そこに痺れる憧れるぅぅぅぅ!
………ふざけてる場合じゃないな。イライラしすぎて少しおかしくなってたのかもしれん。
グリゼルダの発言にエルメンヒルデは小さく笑む。
「それは申し訳ございませんでしたわ。けれども人間を狩るのが吸血鬼の本質。悪魔や天使も同じだと思っておりますが?我々異形の者は形は違えど人間を糧にせねば生きられぬ"弱者"ではありませんか」
確かに俺たち悪魔は正義じゃない。理不尽な取り引で下僕にされる奴も多いのもまた事実だ。
俺は悪魔は悪魔、人間は人間って絶対的に線引きしているからな。あくまで等価交換のビジネスパートナーみたいな感じで。
だがエルメンヒルデの場合は完璧に狩りの対象として割り切ってる。
吸血鬼的にはこれが普通なのだ。
純血の吸血鬼にとってしてみれば世界にいるのは、純血の吸血鬼かそれ以外の二種類だけ。
これだから吸血鬼は嫌なんだよ。
エルメンヒルデは後ろのボディーガードの吸血鬼を呼び何かを取り出させた。
「手ぶらで来たわけではありませんわ。書面を用意しました」
その書面をアザゼルと俺に見えるように渡してくる。
こいつは……ふざけやがって!
俺はそんな内心を抑えるために一度息を吐く。
「カーミラ側の和平協議について、か……」
『………ッ!?』
俺の言葉にイッセーたちは驚いていた。
長くなってしまうのでここまでです。
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