そんなこんなで旅行も5日目だ。今日は九州、福岡県に来ている。そして、今回のパートナーは、
「セラフォルーさんに申し訳なくなってきました」
ロセだ。セラってじゃんけん弱くね!?ま、まぁ、明日の行動がセラで確定したと思えばいいのか。うん、そうだ、そうしよう。
俺がたそがれているであろうセラの心配をしながらロセに言う。
「福岡でも食いまくるぞ!ここも旨いものが多いと聞いた!」
「シドウさん、楽しそうですね。私も頑張らないと!」
2人して意気込みつつ周囲の気配を探る。セラとリリスはいないようだ。今回は尾行しておないようだな。
俺が出発しようとするとロセが俺の手を掴んできた。俺がロセに視線を向けると、若干頬を赤くしながら言ってくる。
「シドウさんっ!太っても嫌いにならないでくださいね!」
なるほど、それか。大阪でもそんなこと言っていたな。だが、俺はその程度では揺るがんぞ。
俺は安心させるようにロセの頭を撫でながら言う。
「安心しろ。太ったのなら、一緒にダイエットするまでだ」
「はい!」
満面の笑みを浮かべるロセ。出会った頃から変わらず真面目だから、そこのところ気になったのかもしれないな。
俺は地酒を飲みたいな。俺の回りの悪魔、堕天使、神を含めても俺が一番酒に強い自信がある。毎度毎度、回りが酔って俺だけ正常なんてこともあるぐらいだからな。
「普段行けない土地の、普段食べられないものを食べる。これこそ旅行の醍醐味だな」
「そうですね。お店を探して街を散策すれば、一石二鳥です」
俺とロセの意見が一致したところで、改めて行動開始。
福岡名物の屋台エリアに足を運んだ。ここの屋台でハシゴをするって魂胆さ。
で、ついたのはいいんだが、何やら騒がしいな。
「屋台エリアが騒がしいですね」
「ああ、何かあったのかもしれん。見に行ってみるか」
と言っても、動かなくてもわかるんだかな。ラーメンの書かれている黒い屋台がエリアをぐるりと囲んでいるのだ。他の屋台の店主たちと黒い屋台の店員たちが押し問答をしているようだ。
俺とロセが首を傾げていると、ちょうどよく普通の屋台の店員と思われる男性が俺たちの横を通りすぎようとした。
俺はその男性の腕を掴んで止める。
「兄ちゃん、なんばいか?」
博多と思われる方言で訊いてきた男性に、俺は失礼ながら質問で返す。
「あー、何かあったのか?」
「ああ、向こうで変な男たちが暴れとるんだ。よくわからんが、面倒だって話しとった」
「変な男たち?」
「ああ、豚に似た、何かだって言っとった」
豚か、またあいつらか?まぁいい。
「ありがとうな。後であんたの店に行くよ」
「本当ばいか!それはありがたいばい!」
男性はそう言って走って行ってしまった。あのヒトの方言は分かりやすかったが、マジでわからない時があるからな、日本は油断ならん。
俺とロセはとりあえずその黒い屋台に近づいてみる。そして、そこにいたのは、
「あの男性が言っていた通りの豚の獣人ですね。問題にならないのでしょうか」
ロセの言うとおり、俺たちの視界にはラーメン屋の店員の格好をした豚の獣人がいる。そして回りには黒ずくめの集団。
………………はぁ。
俺は心のなかでため息をついた。だって、またあいつらなんだもん。行く先々に出現してきて、いい加減嫌にもなるさ。
「あそこまで堂々としていると、逆にコスプレだと思われるだろうさ。大丈夫だろ」
そう言って再び獣人に視線を向ける。黒ずくめの集団に指示を飛ばしているようだ。
「これも旅と街の平和のためか」
俺はここにいる普通の人たちのため、黒ずくめの集団のもとに向かっていった。
終わったらさっきのヒトの店に行きますかね~。
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その日の夜。シドウたちが宿泊しているホテルにて。
「シドウ、大丈夫?」
「しぇら~?なにが~?」
「ロスヴァイセ、これは、いったい………?」
ベッドに腰かけるセラフォルーは困惑していた。ロスヴァイセにじゃんけんで負け、今回はおとなしくリリスと観光していた。そして、ホテルに戻ってきたらシドウがフラフラなのである。顔も赤い、若干呂律も回っていない。
セラフォルーの隣に座るロスヴァイセが言う。
「その、また例の黒ずくめの集団に遭遇しまして……」
「まさか、何かの術を!?」
真剣な表情でシドウの心配をするセラフォルーだが、ロスヴァイセは嘆息した。
「いえ、それをあっさりと退けたんですけど、そのあとに飲んだお酒が強烈だったみたいです」
セラフォルーは呆れながらも少し驚いていた。シドウはかなり酒に強いほうだ。その彼が酔っているからには、相当強い酒なのかもしれない。
「りりす~」
「ふにゃ!?」
珍しくシドウの方から抱き締められて驚くリリス。だがすぐにシドウに頬擦りをしていた。そのリリスを羨ましそうに見るセラフォルーとロスヴァイセ。2人は酔ったシドウに抱きつかれたいと思っている。自分から行くことはあってもシドウからは滅多なことではないのだ。なので酔っていてもいいから抱きつかれたい。何てことを思っていた。
2人の心のうちを知ってか知らずか、シドウはリリスをぎゅっと抱きしめたままセラフォルーとロスヴァイセに視線を向けた。とろんとした無防備な目でいつもの冷静さは微塵も感じない。そのギャップに2人はキュンとしていた。
(シドウ、あんな顔も出来たのね!ああ、抱きつきたい、抱きつかれたい!)
(シドウさん、酔ったらかわいいんですね!)
何てことを思う2人。すると、シドウがリリスを2人が座るものとは別のベッドに降ろす。そして、リリスにシーツを被せた。
「ッ!?パパ、何するの!?」
慌てるリリスを他所に、シドウはセラフォルーたちの方に歩み寄る。
「しぇら」
「何かしら?」
シドウはセラフォルーの前に立ち、彼女と視線を合わせるように少し屈む。そして逃がさないと言わんばかりにガッツリとセラフォルーの頭を押さえると、
「あはっ!」
無邪気な笑みを浮かべてセラフォルーとキスをした。いつものシドウでも、キスを彼からすることはある。だが、ここまで大胆ではない。
「むっ!?」(待ってましたぁぁぁぁぁ!)
下心丸出しでここぞとばかりに舌を絡めるセラフォルー。
「ふっ………あっ………」
「ん、うっ…………」
2人は息を漏らしながらキスをしていたが、その横のロスヴァイセは、
「…………………」
2人に背を向けながら無言で右拳を握っていた。地味に強烈なオーラを出しているが、横の2人は気づく様子はない。
しばらくしてセラフォルーからシドウが離れると、
「し・あ・わ・せ」
セラフォルーがそう言い残してベッドに倒れた。
「?」
シドウは疑問符を浮かべたが次はロスヴァイセに視線を向けた。が、ロスヴァイセはいまだにシドウに背を向けている。
シドウはロスヴァイセの肩を叩いて気づかせる。
「何です……」
「いただきますっ!」
ロスヴァイセが言い切る前にシドウは彼女の唇を奪った!それだけでなく、勢いのままロスヴァイセをベッドに押し倒した!
「む!?」(シ、シドウさん!?大胆すぎます!けど、これはこれで………)
セラフォルー並かそれ以上に下心が出ているロスヴァイセ。シドウはいつもとは逆にガンガン攻めていく。
「ん!?」
ロスヴァイセはキスされながらも驚愕の声を漏らした。シドウの右手が彼女の胸に当たって、いや、確実にわざと触っているのだ。
(シドウさん、まさか、セラフォルーさんよりも私のことがぁぁぁっ!)
興奮するロスヴァイセを他所に服越しに胸を揉みしだくシドウ。かなりやらしい手つきだ。ロスヴァイセもピクピクと反応し始めている。
一旦ロスヴァイセの唇を解放するシドウ。ロスヴァイセは息を荒くしながらシドウにもっとしてほしいと言わんばかりの視線を送るが、急にシドウが力が抜けたように崩れ落ちた。下にいたロスヴァイセに覆い被さる形になるが、ロスヴァイセは気にせず抗議の視線を横に向けた。そこには先ほど倒れたセラフォルーが魔方陣を展開していた。
「セラフォルーさん!何するだ!」
「ロスヴァイセばっかりズルいじゃないの!私もやってほしいんだから!」
「そだったら!シドウさにやってもらえるようにしたらいいじゃないけ!?」
「何を!」
ロスヴァイセの方言が出始めるほど興奮しているが、落ち着きを取り戻したのか、その後無言で睨みあう両者。若干ながら、シドウの口の中に残っていたアルコール成分が移ったのかもしれない。
そんな2人の戦いに参戦するヒトがもう1人。
「ママたちばっかりズルい!リリスも!」
リリスだ。シーツをどかしてようやく復活したようだ。先ほど急に降ろされてしまったので彼女も不完全燃焼のようなものだった。
3人はこうなればとシドウに訊こうとしたが、
「すぅ………すぅ………」
シドウは規則正しい寝息をたてていた。彼の下にいるロスヴァイセは彼の寝顔をマジマジと網膜に焼き付けている。セラフォルーも近づいて同じように網膜に焼き付け、リリスは2人を真似して同じようにじっとシドウの寝顔を見る。
3人は頷きあい、ロスヴァイセがゆっくりと態勢を変え、シドウを横にずらす。セラフォルーも手伝い、シドウをロスヴァイセから離す。リリスがベッドに寝るシドウにシーツをかけた。
3人はそこまですると、音をたてないようにシドウから離れ、小声で話す。
「誰がシドウの横で寝るかよ。いいわね?」
「はい」
「うん」
セラフォルーが2人が頷いたのを見て手を前に出した。応じるように2人も手を前に出す。
「それじゃ、せーの」
『じゃんけん』
こうして、『シドウの横で誰が寝るかじゃんけん』が始まったのである。
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「…………………頭いてぇ」
俺、シドウは久しぶりに寝起きが悪かった。酒を飲んだのは覚えているが、それからの記憶がないな。酔っちまったのか。
案外酒に弱い事実を感じながら体を起こそうとするが、両腕が何かにがっしりと掴まれ、胸の上にも何かが乗っている。いや、まぁ、だれかは判るけどさ。
俺は首だけを動かして右腕を見る。
「くぅ…………ふぅ………」
寝ているのはロスヴァイセ。相変わらずの油断しきっている寝顔だ。
次に左腕を見る。
「ふにゃ……………にゅ~」
相変わらず謎の寝言(?)を言うセラ。てことは、胸の上はリリスか。時刻は午前4時。もう少し寝………。
寝ようとした俺はあることに気がついた。
まず第一に俺が裸のこと。酔った勢いで脱いだのかもしれない。
そして次に、セラたちも裸だということ。3人から服の感覚がなく、柔らかさと温かさしか感じない。
え、ちょ、待てよ?え、もしかして、俺……襲った?
俺は内心で結構焦っていた。恋人とはいえ、酒の勢いで女性を襲うのは、てか血が繋がってないにしろ娘を襲うのはヤバイって!
俺の焦りを知ってか知らずか、セラもロセもリリスも爆睡している。こうなったら、3人が起きたら全力で謝るしかないか…………。これで出来ていたら、責任取らないと……………。
数時間後、全く寝れなかった俺を他所に爆睡していた3人が起床。謝ろうとした矢先にセラから裸で寝たのは気分だと言われた。3人とも何かイタズラをやりきったような表情だったから、多分酔った俺へのイタズラだったということだろう。本当に襲っていたら、洒落にならん。
3人の強烈なイタズラでかなり大ダメージを受けたが、何だかんだでこいつららしいとも思った自分がいたのも事実だ。若干ロセが頬を赤くしていたんだが、それは何故だろうな。
旅行6日目はこうして始まったのだった。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。