そんなこんなでロセと北海道を観光することになった。
「車が必要だな」
「あそこにレンタカーショップがあります。あそこで借りましょう」
「だな」
北海道の移動には必需品である車を確保する。北海道は広いからな、車がないとどうにもならない。
てなわけで車をレンタルして俺が運転席に座る。ロセに任せてもいいが、俺も免許は持っているからな。たまには運転したい。
「そんじゃ、乗れ。安心しろ、安全運転で行くからな」
「はい、お願いします」
ロセが助手席に乗り、シートベルトを締めたことを確認してギアを入れ、アクセルを踏み込む。制限速度を守って行かないとな。北海道の景色を眺めるのならゆっくりのほうがいい。
こうして、俺とロセは出発したのだった。
北海道特有の広い公道を走りながら、俺たちは談笑していた。
「いやはや、俺が助手席にセラ以外のヒトを乗せる日が来るとは思わなかった」
「ふふ、セラフォルーさんに負けていられませんから」
俺の言葉に不敵に返すロセ。前は「勝てるのかな?」って不安そうだったのに、前向きになったもんだ。
それにしても、ロセの笑顔が眩しいね。この状況を心の底から楽しんでいるんだろう。まぁ、永遠に出来ないかもしれなかったものが実現しているんだから当たり前か。
「ロセ、楽しそうだな」
俺がぼそりと漏らした言葉にロセが反応した。
「え?あ、はい。楽しいですよ。シドウさんと一緒なら、どこでも楽しいと思います!」
満面の笑みでそう返されると逆に反応に困るがな。俺が苦笑していると、ロセは「でも……」と続けた。
「もう冥府には行きたくないです!あんなところ、シドウさんに滅ぼされて当然です!」
何て物騒なことを言ってきた!ロセがこんなことを言うようになるとは、わからないもんだ。
「ま、俺の恋人と娘に手を出したあっちが悪いってことで。あれから兄さんに色々と面倒をかけさせたが、俺はお礼は言っても謝らない」
「あなたらしいです」
何てやり取りをしながら車を走らせていく。
「考えてみると、シドウさんと会ってもうすぐ1年なんですね……」
「ロセと会ったのは夏休み終わってちょっとしてだから、ホント、1年って早いな」
と言いながら右にハンドルを切る。
「シドウさんと初めて会ったときは、少し変わったヒトだなって思いましたよ」
「そうなのか?」
「はい。バラキエルさんに会って『誰だっけ』なんて言うヒト、そうはいません」
そういえば、そんな事もあったな。あの頃は滅びの魔力があって色々と出来ることもあった。
「今考えてみると、オーディンに感謝した方がいいのかもな」
「何でですか?」
不機嫌そうに返すロセ。まぁ、自分を置いていった上司の名前が出れば嫌でもそうなるだろう。構わず俺は続ける。
「オーディンが置いていかなかったら、おまえとこんな関係にはなってなかっただろ?てか、あそこで終わっていたはずだ。ただの戦闘を共にした仲間としてな」
俺の持論にロセはあごに手をやりながら漏らした。
「……確かに」
「な?」
俺が確認するように訊くと、ロセは微笑んで頷いた。
「そうですね。少しはオーディンのクソジジイの評価を変えたほうがいいかもしれません」
オーディンよ、少しだけフォローしておいたぞ。今後狙われる可能性が低くなったな。
俺が北欧にいる爺さんに若干の感謝と慈悲を与えていると、俺の耳に何かが届いた。
俺はゆっくりと減速して車を路肩に停める。
「シドウさん?」
「静かに……」
ロセに言いながら窓を開け、周囲の音を拾っていく。これは悲鳴か!何か起こっているようだ!
「今のは悲鳴でしょうか?一体どこから……」
「あのキャンプ場と見た。行ってみるか!」
「はい!」
俺はロセは頷きあうと、近くのキャンプ場に向けて車を走らせた。無視してもいいが、困っているヒトは見過ごせないんだよ!
大急ぎでキャンプ場に入っていった俺たちの目には、見覚えのある全身黒ずくめの連中と、鮭頭の男が映った。
ま た あ い つ ら か !
「はぁ…………」
俺が盛大に溜め息をつくとその鮭頭の男が哄笑をあげた。
「シャーケッケッケッ!今度こそ、このサーモン・キング二世様が、このキャンプ場を地獄に変えてくれるわ!」
鮭頭が叫ぶと、
『ヴォルテーックスッ!』
黒ずくめの集団も謎のポーズをしながら叫んだ。
「はぁ…………」
俺は再び盛大に溜め息をついた。
「あの、シドウさん?あのヒトたちは?」
「俺とリリスが旅の途中で倒したバカどもだ。あの鮭頭、確実に心臓を貫いたはずなんだがな………」
「よく生きてましたね。あのキング・サーモン二世、でしたっけ?」
ロセが小声で言うと、
「サーモン・キング二世だ!間違えるな!あの男を……」
キング・サーモン二世がロセを睨もうとしてこちらを見た瞬間、俺と目があった。その瞬間、キング・サーモン二世、いや、『キンサモ二世』が震えだした。
それもそのはず、俺は髪の色と左目の色を『ブラック』だった頃に戻しているのだ。
「お、おまえは!?」
「北海道で平和を謳歌しているヒトたちの笑顔を奪うなど、この俺が許さんっ!」
俺は怒気を込めながらそう言い放ち、キンサモ二世に近づいていく。
「キンサモ二世、そして
キンサモ二世に指を突き付ける。キンサモ二世はビクッと体を震わせていた。
回りの被害を考えると『真』じゃないほうがいいな。俺はそう判断して、真・斬魔刀をただの斬魔刀にしてから取り出す。久しぶりに見るブレードの形の斬魔刀だ。
「あ、あの、シドウさん?キャラ変わってません?」
「俺に……質問するな!」
「え~」
ロセの指摘に適当に返して、俺はキンサモ二世とその他戦闘員に向かって突撃した!
数時間後。俺とロセはホテルでセラたちと合流していた。宿泊する部屋でのんびり談笑中だ。
それにしても、いやー、楽しかった。チーズだのバターだのと色々と作っていたが、なかなか難しいもんだ。
何か鮭に会ったけど、二度と会わないように三枚におろさせていただいたぜ!
先にホテルに到着していたリリスが、椅子に座る俺のに抱きついてきた。俺の胸に顔を埋めて鼻をクンクンさせている。
「パパ、いいニオイする」
「うん?まぁ、色々とやってきたからな」
「確かに、鮭臭いわ」
セラにも言われてしまった。
どうやら三枚におろしているうちにニオイが移ってしまったようだ。そういえば、チーズ工場のヒトや隣のグループの子供たちにもそれは言われたな。
ペロッ!
「ヒッ!」
俺は情けない声を出してしまった!
「パパ、おいし……」
何て言いながら俺の首筋を舐めてくるリリス。一回ではなく、何回も舐めてきやがる!
「リ、リリス。ちょ、止め……」
ペロッ!ペロッ!
「ふふふ~♪」
逃げようにも俺は座っているし、リリスは俺の膝の上だ。逃げようがない。こうなったら!
「リリス、ロセを舐めろ!あっちのほうが(多分)おいしいから!」
「は~い」
「え!?リリスちゃん!?」
ロセは異常を察して素早く逃げようとするが、
「いただきまーす!」
リリスが素早く前に回り込んで飛び付く態勢に入っていた。あれは、もう無理だ。避けられない。
「キャァァァァァッ!」
リリスに飛び付かれたロセの断末魔を無視して、俺はセラに言う。
「で、夕食はどうするよ。北海道に来たからには、『あれ』が食べたい」
セラは分かっていたような表情を作ると頷いた。
「ふふ、あれね」
「そう、あれ……」
俺たちは頷くと、同時に口を開いた。
「「ジンギスカン!!」」
てなわけで、ジンギスカンを食べることにしたのだった。
「た、助けてくださーい………」
「ロセママ、おいし」
忘れていたが、ロセがリリスにペロペロされていた。
せっかくの旅行なんだからできないことをしないとな!
そんなこんなで旅行1日目を楽しんだ俺だった。
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