そんなこんなで旅行当日。俺たちはセラと合流するために空港に行こうとしていた。なんでも「形から入りたい」からとのこと。転移ならすぐなのにな。現に空港までは転移で行くんだし。
それぞれの荷物を持った俺たちは、転移室で荷物の最終確認をしていた。
「準備完了っと。そっちは?」
「大丈夫です。あ、でも念のためもう一度……」
「大丈夫!」
俺、ロセ、リリスの順で確認を済ませると、リアスが言った。
「お兄様、お気をつけて。ロスヴァイセもリリスもよ」
「シドウ様。お姉様をお願いします」
リアスとその一言のために来たであろうソーナが言ってくれた。まぁ、相当ヤバイことでもない限り大丈夫だと思うけどな。
「任せろ。土産も適当に買ってくるさ」
「ふふ、お兄様のことですから忘れていそうですけどね」
俺が言ったことにリアスが返してきたのだが、俺ってなにか忘れたことあったっけ?
リアスの言葉に首をかしげていると、ロセが頷いた。
「よく約束を破って死にかけるヒトですからね。けれど、安心してください。シドウさんが忘れても、私が買ってきますから」
「生きて帰る」っていう約束を毎回破りかけてるってことか。それは否定できない。てか否定しない。
まぁ、ロセはそういうとこ真面目だから大丈夫だとは思ってたよ。
「おまえらいいよなぁ。仕事サボって旅行だもんなぁ」
教師の仕事ついでに見送りに来ていたアザゼルがぼやいていた。「仕事サボって」と言われても、時々死神狩りに行っているんだからたまには休ませろ。休んでいる時間のほうが多いけど、休ませろ。
俺の心中を知らないロセが言った。
「アザゼル先生だってよくサボっているじゃないですか」
「俺はサボっているんじゃなくて、自分の趣味に没頭しているだけだ」
ロセの指摘に開き直って返すアザゼル。二人はいつも通りのようだ。
「さて、そんじゃ行くか。リリス、準備は?」
「大丈夫!」
リリスはオーフィスと一度ハグするとこちらに戻ってきた。その勢いのまま俺に飛び付いてくる。
そう来るとは分かりきっていたので、リリスを受け止めてゆっくり床に降ろす。そして転移魔方陣を起動する。
「そんじゃ、またな」
「行ってきます」
「行ってきまーす」
『行ってらっしゃい』
そのやり取りを済ませたところで転移魔方陣の光が強くなっていき、俺たち3人を包み込んだ。
光が晴れると、そこには、
「3人とも、待ってたわよ☆」
いつもと変わらないテンションのセラが待っていた。手には荷物が詰まっていると思われるピンク色のキャリーバッグを持っている。
俺たちがいるのは空港にある、異形関係者が使う場所だ。駒王町にも似たような場所がいくつかあるから、そんなような場所だ。
「おう、待たせたな。飛行機に乗るのは久しぶりだ」
「リリスは初めて!」
「私も久しぶりですね」
「私も転移のほうが多いかしらね」
何てことを言いつつ、乗り場に向かう。向こうでやりたいことなどを話しているうちに到着し、飛行機(いわゆるプライベートジェット)に乗り込む。リリスを窓際に座らせ、俺はその隣に座ったはいいが、
「シドウの隣は譲れないわ!」
「それはこちらのセリフです!」
セラとロセが喧嘩していた。行きはどっちで帰りはどっちとかにすればいいんじゃないかな?
俺は何てことを考えたのだが、2人もその考えに至ったようで、とりあえずセラが隣に座ることになったようだ。
さて北海道か。リリスと前に行ったが、また面倒事に巻き込まれないようにしたいね。
俺は何てことを思いながら、離陸の瞬間にはしゃぐリリスと一緒に窓の外の景色を眺めていた。
はい到着。いくら北海道と言えど夏は暑いな!駒王町ほどではないけど!
若干興奮しながら何てことを思っていた。
すると、セラが言う。
「さて、早速旅のルールを確認するわよ☆」
『ルール?』
セラの言葉に俺たち3人は首をかしげた。普通に4人で回って行くのかと思っていたんだが……。
「そう、ルールよ☆」
セラは頷くと紙を取り出した。俺はその紙をマジマジと見ると驚愕した!
なるほど、そうくるのか……!
俺が黙りこんでいると、ロセが不敵に笑った。リリスはよく分からずに首をかしげているがな。
俺たちの反応を見たセラが自慢げに言う。
「シドウも3人を同時に相手は出来ないと思うから、じゃんけんしてその日誰と回るのかを決めるのよ☆」
確かに3人を同時に相手は出来ないかな。ホント、セラって俺のことわかってるな。
「2日連続にならないように勝ったヒトは次のじゃんけんは不参加ね。2日連続で負けたヒトは3日目は優先よ☆」
そこんところも考えてあるようだ。まぁ、セラ本人が負け続けたら大変だろうからやったんだろう。
「パパ、どういうこと?」
若干困惑しているリリスが、俺の服の袖を引っ張りながら訊いてきた。俺は片ヒザをついてリリスに視線を合わせる。
「リリスとロセとセラとじゃんけんして、勝ったら1日俺とのんびりできるってことだな」
俺がそう言うと、リリスは首を左右にひねって考えていた。多分、何を出すか考えているんだろう。
俺はセラに確認する。
「で、負けた2人はどうするんだ?」
ある意味一番大事なことだ。俺的にはリリスが心配なんだがな。
俺の質問にセラが頷く。
「その2人で1日観光してもらうわ☆それで、尾行はなしよ!いい、尾行はなしだからね!」
セラは念を押すようにロセに言った。いや、俺はセラが一番やりそうだと思うんだけどな!
それを言ってしまうと後々うるさいのでその言葉は飲み込む。
「それじゃあ早速。行くわよ!」
「はい!」
「うん!」
急に戦闘モードになった3人が構えた。もうどうにでもなれ。
『じゃーんけん!』
数秒後。
「勝ちました!」
「勝負運がないわ!?」
「ぶー!」
勝ったのはロセのようだ。セラとリリスは拗ねるように頬を膨らませている。
俺は後ろからその2人の頭を撫でながら言う。
「ま、次がんばれよ」
『うん!』
頷きながらも睨みあう両者。まだまだ元気そうだ。
「シドウさん!行きましょう!」
「ハイっと。2人とも、楽しんでこい!」
「ええ!リリスちゃん、行きましょう!こうなったらあっちが嫉妬するぐらい楽しんでやるんだから!」
「うん!セラママ!」
こうして、俺たちの旅行は始まったのだった。
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