兄さん訪問から数日して夏休みに突入。俺たちは毎年恒例の里帰りで冥界に来ていた。リリスは兵藤宅でお留守番だ。たまに帰って来たやらないと寂しくて死んじゃうらしいので、たまに帰ってやらないと……。
「来て早速って、なかなかハードだな」
白い空の下、俺はそんなことを考えながら呟いた。
「まあまあ、あの後すぐに話し合いをしてね。そのまま話がまとまったんだ」
そんな俺の肩に手を置きながら笑みをうかべる兄さん。なぜ兄さんがここにいるかは別として、
「なんでレーティングゲームのフィールドなんだ?また島とか、撮影スタジオとかじゃないのか?」
そう、俺はレーティングゲームのフィールドに設置されたと思われるキャンプ場にいるのだ。だから空も白い。
「今回はシドウとイッセーくんが戦闘をするからね。下手に島やスタジオでやると、その一帯が吹き飛びかねない。そう結論が出たからアジュカに頼んで用意してもらったんだ」
なるほど、今回は敵役なんだな。まぁ、『ブラック』として出るって言ったのは俺なんだけどな!
「で、そのイッセーたちはどこに?」
俺はキョロキョロとイッセーたちを探しながら兄さんに訊いた。ここには転移で来たのだが、俺だけイッセーたちとは違う場所に連行されたのだ。
その俺を連行してきた兄さんが言う。
「シドウにはブラックに近づけないといけないからね。一応、お馴染みの染色剤を持ってきたのだが、どれをどう使うか悩んでいてね」
「そういうのはメイクスタッフがやるもんだろ……。俺は兄さんにメイクされるのか?」
俺が嘆息しながら言うと、兄さんは染色剤を持ち、余裕そうな笑みを浮かべながら俺を見てきた。
「何を言う。髪を染めるぐらい僕にもできるさ。僕にメイクはやられたくないのかい?」
「当たり前だ」
俺が即答で答えると、兄さんは笑顔のまま固まった。
「弟が反抗期か……。昔から無理をさせ過ぎたのかな?」
兄さんがそう漏らすが、俺はいつでも反抗期な気がするけどな。反論する時はいつでもやるぞ。基本的にすぐ納得するけど。
俺はため息を吐いてゆっくりと髪に右手を添える。
「ブラックの頃みたいにすればいいんだろ?だったら……」
右手に魔力を込め、そのまま髪をゆっくりと後ろに流す。それが終わると、次は右手を左目の前に持っていき、再び魔力を込める。
「………こんな感じか?」
そう言うと同時に手を離し、兄さんに見せる。
「おぉ……、もうこれはいらないのか」
兄さんは手に持っていた染色剤を置くと、感嘆しながら言った。
今の俺の髪は紅と黒が入り交じり、左の瞳が銀色になっていることだろう。兄さんの反応から見て成功したようだ。今まで何回も変装してきたせいなのか、はたまた魔力ぎ変質した影響なのか、こんな芸当が出来るようになっていた。
「けど、白いところはそのままなんだね」
「え?マジか……。そこもどうにかしようとしたんだがな……」
俺は左前髪を弄りながら言った。今のを応用すれば髪を紅一色に戻せると思っていたんだが、どうやら白いところは一生このままのようだ。
「まぁいいや。で、イッセーたちは?」
「あっちのテントで台本を確認ししているはずだよ。今から案内するからついてきてくれ」
「わかった」
俺は兄さんの先導される形でイッセーたちの元に向かった。
てなわけでテントに到着。兄さんは「休憩時間が終わりだ!それでは、期待しているよ!」と言い残して去っていった。あれから義姉さんにかなり絞られたようだ。
俺はテントに入り中を見ると、
「シドウさん!どこに行っていたんですか!?」
真っ先に気がついたロセが俺に詰め寄ってきた。会ったばかりの頃なら想像できないリアクションだ。
俺はロセに何か言ってやろうとしたが、その前にロセが続けた。
「って、その髪の色、どうしたんですか!?」
ロセはそう言いながら俺の髪に触る。カツラだったらとれてるぐらい引っ張ってくるんだけど!?
「痛い痛いッ!自毛だから!染めてるだけだから!」
「そうなんですか?では、左目は?」
ロセは俺の瞳を覗きこむようにして訊いてきた。
「そっちも染めてるだけだから……」
俺はそう答えて顔を背けた。ロセの顔がさっきから近い!リアスたちも見ているってのに!
俺が若干困り初めていることに気がついたのか、リアスが助け船を出すように話題を切り替えた。
「ロスヴァイセ、そろそろお兄様にも台本を渡してくれないかしら。確認が進まないわ」
若干の怒気を感じるのだが、さすがにベタベタしすぎたか?
「わかりました。シドウさん、台本です」
ロセは先程のことがなかったように俺に台本を差し出してきた。切り替えが早いと言いますか、メリハリがしっかりしていると言いますか。
俺はその台本を受け取り、パラパラと読み進めていく。
「あの、お兄様?席は空いていますので、お座りしたらどうですか?」
「あ?ああ。そうだったな」
俺は空いている席につき、その隣にロスヴァイセが座った。てか、狙ったように並んだ2席が空いていたんだが。
俺たちが席についたと同時に監督と思われる男性がテントに入ってきた。
「皆さんお揃いですね。では、会議を始めます」
こうして、俺の2度目となる映画出演が始まったのである。
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